
初代MR2であるAW型へのユーザー達からの要望。それは即ち、『スポーツカー』としてのMR2への期待そのものであった。
そして1986年、春。遂に新型MR2開発の企画がスタートした。AW型の開発主査である吉田明夫技師に替わり、新型の開発主査となったのは、AW型においてボディ設計を担当した有馬和俊技師であった。
※余談ですが、AW型のシャシー駆動系を担当し、AWをベースとしたWRCグループB仕様(※注・「CARトップ ニューカー速報No.74 NEWスープラ」内による記述。恐らく、グループSの間違い)の4WDマシン開発にも参加していた都築功技師は、SW型開発においては、企画立ち上がりまでは関わっていましたが、1989年2月から、A80型スープラの開発主査となりました。また、都築技師は、1993年の3月より、スープラに合わせてソアラも担当することになったそうです。あと、当備忘録内で、吉田技師の名前を今まで『昭夫』と表記していましたが、『明夫』が正しい表記です。失礼しました。
走りを楽しむ『Fun to Drive』のランナバウトであった『スポーティーカー』を目指したAW型とは打って変わり、新型となるSW型は、『スポーツカー』としての開発することが決定された。
『日本一速いスポーツカー』を目指す。それが有馬技師の決意であった。
※画像は、MR-S販売終了時。2007年3月20日~6月17日まで。お台場のMEGA WEB・ヒストリーガレージにて開催された『トヨタミッドシップスポーツヒストリー展』に展示されていたAW型MR2です。SW型じゃないのは高画質画像が無かったからです……。ていうか、ウィキペディアからの転載です。
~『スポーツカー』とは何か~
『スポーツカー』とは何なのか。これは、多くのアマチュアドライバーや自動車愛好家はもちろん。レーシングドライバーやモータースポーツジャーナリスト達が議論を交わし、そして自らの内で反問し続ける命題である。
トヨタはAE86型スプリンタートレノ/カローラレビン。AW型MR2に代表されるように、『スポーティカー』の開発においては大きな成功を収めて来た。これらを『スポーツカー』と呼ぶかは個人の自由だが、少なくともトヨタはこれらのクルマを『スポーツカー』とは呼んでいない。
しかし、SW型MR2は、『スポーティカー』を脱却し、『スポーツカー』として開発されることになった。では、トヨタ2000GT以来、長らく『スポーツカー』開発してこなかったトヨタは、『スポーツカー』をどのようなモノと定義し、SW型MR2をどういった存在として位置付けようとしたのだろうか。
※コラ。今、誰か『ヤマハ(笑)』って言ったでしょ!?
有馬技師が、SW型MR2の広報資料として雑誌に寄せた『私のスポーツカー論』というものがある。少し長いが、引用してみることにする。
『スポーツカーは、スペシャルティカーや高性能スポーツセダンの居住性をある程度犠牲にして、またレーシングカーに公道で走るのに必要な法律用件を与えて、スタイルと動力性能と操縦安定性能を特化させた車で、2座か2+αであり、高価なエクスクルーシブスポーツカーと量産スポーツカーに大きく分類される。
また量産スポーツカーは、ラグジュアリースポーツカーと、ミディアムスポーツカーとライトウエイトスポーツカーに分類できる。
今回の新MR2はミディアムスポーツカーのアフォーダブルな所に位置づけた。
スポーツカーは、気晴らし、楽しみのできる車、気分転換のやりやすい車(中略)つまり心の遊びができることが要求される。
また、スポーツカーはレーシングカーのようにサーキットを走れる必要がある。レーシングカーは運動神経の特別優れた、勘のよい、徹底的訓練を受けた、特定のドライバーに合わせてサスペンションがチューンされている。
しかしスポーツカーは、ある程度訓練をうけた、不特定多数の普通の人でもサーキットを安心して滑らかに走れる必要があり、プロのドライバーが自由自在に奥深く操縦できるようになっている必要がある。
自分の身体で地球と宇宙(ニュートンの運動法則)を感じとるような、非日常的な異次元空間感覚を楽しむ身体の遊びができることを要求される(以下略)』
これをどう解釈するかは人それぞれだろうが、要旨をまとめると、
スポーツカーとは『居住性をある程度犠牲』にして『スタイルと動力性能と操縦安定性能を特化』させ、『レーシングカーをベースとして、公道を走れる様に法的束縛を与えつつも、レーシングカーのようにサーキットを走れる』必要がある。しかし、『レーシングカーのように特別な人間にしか操縦出来ないのではなく、一般人でも安心してサーキットを走ることが出来る』、『非日常的な感覚を楽しむことが出来る』クルマである。
そして、スポーツカーには『エクスクルーシブスポーツカー(exclusive=排他的な・高級な・上流の・入手し難い)』と『量産スポーツカー』があり、『量産スポーツカー』は『ラグジュアリー』『ミディアム』『ライトウエイト』の3クラスに分類出来る。
SW型MR2は、『量産スポーツカー』の『ミディアムスポーツカー』。それも『アフォーダブル(afflrdable=手頃な・入手可能な)』な存在。
ということである。
※『エクスクルーシブスポーツカー』と、『ラグジュアリー』をどう区分けするかは意見が割れると思います。なお、1989年発行の雑誌『モーターファン別冊 ニューモデル速報 第78弾 新型MR2のすべて』において、『大排気量のスーパーカー』は『ラグジュアリー』に分類されると解釈しています。
それに従えば、『エクスクルーシブスポーツカー』には、『マクラ―レンF1』『ブガッティ・ヴェイロン』『フェラーリ・F40』『レクサスLF-A』などの様に、販売価格1000万円以上のスーパーカーの中でもさらにずば抜けて高価(※順に、1億円、1億6000万円、4650万円、3750万円)であり、生産台数も限定的で、極めて希少な存在(???台・300台・1311台・500台)なクルマが該当すると思われます。
『量産スポーツカー・ラグジュアリー』には、『ランボルギーニ・カウンタック』に代表されるスーパーカーがこの部類らしいです。日産・『GT-R(R35型)』や、ホンダ・『NSX』もこの部類に入れて良いと思われます。
『量産スポーツカー・ライトウエイト』には、ホンダ・『シビック』『CR-X』などの排気量2.0L未満の軽量スポーツカーや、マツダ・『ロードスター』やトヨタ『MR2(AW型)』『カローラレビン/スプリンタートレノ』などの『スポーティーカー』も含まれるようです。(エントリーカー的なスポーツカー、と解釈すれば良いでしょうか……)
そして、SW型MR2が含まれると言う、『量産スポーツカー・ミディアム』には、ホンダ・『インテグラ』、マツダ『RX-7』など、ライトウエイト+中排気量クラスの組み合わせであるクルマが含まれると思われます。日産・『シルビア・180SX』も恐らくここなのでしょう。また、日産・『フェアレディZ』や、トヨタ・『スープラ(A80型)』などの、大排気量の大馬力であり、内装、外装共に豪奢なスポーツカーも、恐らく『ややアフォーダブルではない』ミディアムと思われます。
スポーツカー論そのものや、各々のカテゴライズに関しては賛否両論があるであろうが、少なくとも、有馬技師は、上記のような持論の元、SW型MR2のコンセプトを構築した。
日本一の速さを目指しつつも、決して高価で特別な存在ではない『アフォーダブル』なクルマ。『スポーティカー』から脱却し『スポーツカー』を目指しつつも、SW型MR2は、決してランナバウトの精神を忘れてはいなかったのである。
こういった、矛盾し合う多数の要素を内包したコンセプトを根幹とし、SW型MR2開発の、試行錯誤が始まった。
(その4に続きます、たぶん……)
参考文献:
・「日本初ミッドシップ トヨタMR2とトヨタスポーツ」/岡崎宏司(新潮文庫)
・「CG CAR GRAFFIC」1983年12月号/二玄社
・「CARトップ ニューカー速報No.23 MR2」/交通タイムス社
・「CARトップ ニューカー速報No.74 NEWスープラ」/交通タイムス社
・「モーターファン別冊 ニューモデル速報 第78弾 新型MR2のすべて」/三栄書房
・「J's ネオ・ヒストリックArchives『TOYOTA MR2&MR-S』」/ネコ・パブリッシング
・「I LOVE A70&80 TOYOTA SUPRA」/ネコ・パブリッシング
・「ハイパーレブ Vol.21 トヨタMR2」/ニューズ出版
・「ハイパーレブ Vol.50 トヨタMR2 No.2」/ニューズ出版
・「タツミムック チューニングトヨタ MR2&MR-S VOL.1」/辰巳出版
・「タツミムック チューニングトヨタ MR2&MR-S VOL.2」/辰巳出版
・「タツミムック チューニングトヨタ MR2&MR-S VOL.3」/辰巳出版
・「MR2 AW10/11」前期型カタログ
・「MR2 AW10/11」後期型カタログ
・「MR2 SW20」Ⅰ型カタログ
・「MR2 SW20」Ⅱ型カタログ
・「MR2 SW20」Ⅲ型カタログ
・「MR2 SW20」Ⅳ型カタログ
・「MR2 SW20」Ⅴ型カタログ
参考サイト:
・「ウィキペディア」
http://ja.wikipedia.org/wiki/
・「TOYOTA MR2 CLUB JAPAN」
http://homepage3.nifty.com/midship/
・「MR2ちゃんねる」
http://mr2.jp/
・「ダイエーモータース」
http://www.daie-motors.com/
その他。MR2の歴史に関連する霧島のブログ:
・
備忘録 01 「SV-3」 ~トヨタ・プロトタイプMR2開発秘話~ その1
・
備忘録 02 「SV-3」 ~トヨタ・プロトタイプMR2開発秘話~ その2
・
備忘録 03 「SV-3」 ~トヨタ・プロトタイプMR2開発秘話~ その3
・
備忘録 04 「SV-3」 ~トヨタ・プロトタイプMR2開発秘話~ その4(最終回)
・
備忘録 05 「SW20」 ~2代目MR2の登場~ その1
・
備忘録 06 「SW20」 ~2代目MR2の登場~ その2
・
おめでとう! MR2(SW20)発売20周年!!