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2019年01月21日

豊田章男が愛したテストドライバー

豊田章男が愛したテストドライバー  久しぶりにハードカバーの本を買いました。2016年に小学館より刊行された「豊田章男が愛したテストドライバー」というタイトルで、著者はノンフィクションライターの稲泉連という方です。

 クルマ好きの方ならばタイトルでおおまかな内容を察する方も少なくないと思いますが、かつてトヨタのテストドライバーの中でも頂点となるマスタードライバーと呼ばれ、マイスター・オブ・ニュルブルクリンクの異名を持つ成瀬弘さんを取り上げた書籍です。

 「1000分の1単位でのGを感じ取れる」「全長20kmのニュルブルクリンク北コースにおいて、ストップウォッチを見ずに規定タイムに対して、プラスマイナス1秒以下の誤差で走ることができる」。そんな成瀬弘さんはセリカ、MR2、MR-S、スープラ、アルテッツァ、そしてレクサスLFA等においてテストドライバーを務め、クルマ作りにおける要となる「味付け」の部分に携わった方です。

 また、成瀬弘さんは現トヨタ自動車社長のドライビングの師となる方であり、ひいては現在のトヨタにおけるスポーツカー作りの礎を作った方であるとも言えます。

 成瀬弘さんは2010年6月23日にニュルブルクリンク近郊の一般道にて、レクサスLFAを運転中にBMWのテストカーと衝突事故を起こして帰らぬ人となりました。(※この時の事故原因については、いまだ明らかにされていません)

 ですが、2000年代に入ってからはメディアにも取り上げられることも増え、その名前や功績を知る方も多いかと思います。

 今回のこの本は、そんな成瀬弘さんの生い立ちからトヨタ入社、仕事に対する姿勢、父親としての姿、そして最期までを丹念に綴りあげた書籍となります。


 ……一言で言えば、この本は「凄い」の一言に尽きます。メディアにおいて成瀬弘という名が取り上げられることは多々ありましたが、これ程までに多くの関係者に取材し、そして書籍や雑誌の端々に掲載された小さな記事の一つ一つを拾い上げて一本のテキストに纏め上げたものはありませんでした。

 その中にあってはトヨタ社長の豊田章男さんは言うに及ばず、メディアには名前の登場したことのないようなトヨタのトップテストドライバー“トップガン”の方々。ニュルブルクリンクにおいて親交のあったスバルの辰己英治さんや日産の加藤博義さん、ブリヂストン・ホンダの黒澤元治さんといった他社のトップテストドライバーからの言葉を得ることにも成功しています。

 また、自動車雑誌において成瀬弘さんを最も積極的に取材し、取り上げてきたのは今はなき「Xa Car」誌だったのですが、その記事の断片も本当に丁寧に拾い上げられています。モーターファンやカートップ誌も、80スープラの頃によく取り上げていましたね。

 この本は、決して成瀬弘さんの伝記に終わるものではありません。60年代、鈴鹿サーキットの登場によって日本車が「高速化」されて磨かれて。70年代末から80年代初頭において、トヨタが、日産が、スバルが、ホンダが、ブリヂストンが、ヨーロッパにおいてアウトバーンやニュルブルクリンク・ノルドシュトライフェと出逢い、その痛烈なる洗礼を受け。それまでとは全く異なるような上質で高性能なクルマ造りへと邁進してゆくことになる、その過程すらもが綴られているのです。これは戦後における日本車の発展と進化の歴史そのものであるとも言えるでしょう。

 ……このような本が、かつて日本にあったでしょうか。否、ありませんでした。

 この書において取り上げられている面々や雑誌や書籍。どれもこれも物事の本質を的確に見抜いているチョイスとしか言いようがありません。そしてこのような素晴らしい書籍が、自動車メディアに本籍を置かない一介のノンフィクションライターの方によって世に送り出されたことには驚愕と賞賛の言葉を禁じ得ません。クルマ好きを自負する業界人ですらも、これを書ける人はいないでしょう。

 そして同時に悲しさや悔しさも覚えたのです。「なぜ、自動車メディアはこの本を作ることができなったのか――」と。

 ジャーナリズムを掲げるはずの自動車雑誌に自動車メディア……。この本は本来、それらが後世に書き残すべき本でした。しかし2019年の今なお、そういった書籍が発売された様子はありません。

 自動車メディアとは何なのか。今やただの新車カタログや懐古主義に堕しているだけではないのか……?メーカーから提供された広報資料をそのままコピー&ペーストしているような自動車雑誌の何と多いことか……!

 今から8年前、とある自動車メディアが廃刊となりました。それにあたり編集部から出されたコメントは「若者の車離れが原因」でした。……何と情けないことかと思いました。

 本来、若者に自動車の魅力と楽しさを真っ先に伝えねばならないはずの自動車メディアが何と言う事を言ってのけるのか。どの口でそのような言葉を述べるのか。彼らは若者たちに自動車の面白さを、楽しさを伝える努力をしていたのか。

 正直に言えば、いつも高尚で難解な言葉で読者を酔わせるような意識の高い自動車雑誌よりも、『ヤンキーめいた』『暴走族めいた』自動車メディアの方がよほどジャーナリズムとして純粋な面が多々あったとすら最近は思っています。


 そしてトヨタは。今のトヨタは迷走してはいないでしょうか? 86/BRZの登場に続き、レクサスにおける大排気量スポーツ。スープラ。WRCでの勝利、ル・マンでの優勝、カローラスポーツの投入、そしてMR2復活の噂まで……。トヨタにおけるスポーツカー、モータースポーツはかつてない程の盛り上がりを見せています。……ですがトヨタは、良くも悪くもかつてのトヨタではなくなってしまっているような気がします。

 はじめに違和感を覚えたのはZN6型86を試乗した時でした。少し動かしただけで「ああ、これはトヨタのクルマではない」と直感したのです。86/BRZがスバルとの共同開発であり、トヨタ製の部品とスバル製の部品が混在しているクルマだということは知っています。ですがあれは、従来ならトヨタのエンブレムを着けることを許されなかったのではないか――?とも思ったのです。

 かつてトヨタがスポーツカーと名乗ることを許した、ただ二つのクルマ。それはトヨタ2000GTとJZA80型スープラでした。特にスープラはトヨタのフラッグシップスポーツカーとして、トヨタの哲学が、トヨタならではのクルマづくりの思想が盛り込まれたクルマでもありました。

 「ポルシェでもない、フェラーリでもない。目指すのは我々の世界」として作られた80型スープラ。トヨタならではの頑強さと信頼性を兼ね備え、経年劣化を除けば「オイルさえ換えれば最後までもつ」と成瀬弘さんは述べていました。

 また、その乗り易さについても「免許取立ての女の子でも乗れる」とまで評される程に扱い易いものでもありました。

 トヨタのクルマには個性が無いとは古くから散々言われて来た言葉です。しかしトヨタには、他社を圧倒して寄せ付けない「壊れにくさ」「故障のしにくさ」があり。さらには「扱い易い味付け」を重視し、低速トルクの太さは決して譲らず、クルマへの乗り降りや、細かなスイッチ類の配置、内装の質感など、そのクルマを使う人間のことを常に重視してきた設計思想がありました。

 ……ですが、86/BRZは明らかにトヨタがそれまで培ってきたクルマ造りからは「ズレた」存在でありました。特にあの低速トルクの細さとクラッチ周りの味付けは……トヨタ車としてはありえないでしょう。事実、エンジンは元々スバルのものですし、ペダルもスバル。一方で、ドライバビリティに優れたステアリングはトヨタ製のものでした。

 それでも86/BRZの頃は違和感程度で済んでいました。ですが、先日、発表された90型スープラは……スープラは……

 コンポーネンツは完全にBMWのZ4のソレです。エンジンやサスペンションだけではありません。内装やスイッチ周りまでもです。

 「トヨタが味付けを担当したBMWのZ4」。ハッキリ言って、そんなクルマは楽しいに決まっています。面白いに決まっています。とてつもなく素晴らしいフィールに決まっています。おまけにそれが、この時代において400万円台から買えるなんて、ありえないことでしょう。バーゲンセールです。

 ですが、ですが。12ヶ月定期点検で10万円のコストが掛かるようなクルマが、日本車なのにウィンカーのスイッチが左側にあるようなクルマが、果たしてトヨタのクルマなのでしょうか……?かつてのトヨタの基準を満たしているのでしょうか……?かつてトヨタのフラッグシップネームであるスープラを名乗って良いのでしょうか……?

 時代は変わりました。このスポーツカー不遇の時代、今、もし仮に自社開発で直6エンジンFRレイアウトのパワートレーンのスポーツカーなんて作ろうものなら……800万円からのスタートだったのではないでしょうか。

 トヨタは変わろうとしています。かつて「一度、ギンギンのスポーツカーを作るべきだ」と何度も何度も言われてきたトヨタが「トンがった」スポーツカーを作ろうとしていることは。従来のトヨタから脱却し、耐久性を犠牲にしても、賞味期限が短くとも、上質で高性能なスポーツカーを作ろうとしていることはとても良く分かるのです。

 レクサスブランドの拡充によって、アリストやソアラ、アルテッツァがトヨタブランドではなくなったように。純粋なるトヨタ製のスポーツはレクサスブランドとなり、トヨタブランドへ回すリソースはなく。安価にスポーツカーを提供するならば、他社との協業に拠らなければならないことも。今や世界のトップ自動車メーカーとなったトヨタですらも、そうしなければならない程に世界経済が冷え込んでいることも。

 でも、でも!あのクルマがスープラを名乗ってしまったことは、とても残念に思うのです。90年代のトヨタ製スポーツカー、スポーティカーを知る身としては。

 ……そして最近、報じられているMR2復活の噂。この噂自体はかなり昔から海外筋ではよく流れていたものです。ほとんど信じてはいないですが、今度は……まぁロータスとの協業でしょうね、間違いなく。

 ロータス……のクルマをトヨタが仕上げたミッドシップ……。ありえません、絶対に楽しいヤツです。めっちゃ乗ってみたいです。ですが……MR2は庶民にも手の届くミニスーパーカーであり、例えMR2が復活したとしても、それは全くの別物でしょう。MR2を名乗られると複雑でもあります。


 ……でも、トヨタ党は、まだまだ恵まれた方だと思うのです。おそらく他社のスポーツカーに乗ってきた人は、もっともっと昔からこんな葛藤や悔しさがあったのだと思います。

 フェアレディも次期はメルセデス製になるという噂ですよね。日産党の人は複雑だと思います。現行のNSXですか……関係者一同悲しそうでしたね。ホンダはもともと、あまり名前に固執しないメーカーですが……インサイトとか。

 自分は昔から自動車の開発記が好きで、色々な車の開発秘話を調べてはまとめてきました。そしてその中ではいつも、エンジニアの方々の苦悩と葛藤、妥協と折衷があり、クルマ造りとはこんなにも難しく、面白く、そして熱いものなのかと心打たれたことが何度もありました。それは今回読んだ書籍においてもそうでした。

 でも近年のトヨタは、御題目は立派ではあるけれども、その実情は形骸化していないか……とも感じるのです。トヨタが公開したヴィッツWRCの開発記のムービーなんかは、ほとんどトミ・マキネンのチームに丸投げ外注したようにしか見えなかったですね……。まぁ、詳しい人からすれば、昔からそんなんだったのかもですが。特にモータースポーツなんて。

 今や世界中の自動車メーカーが苦境と逆境に喘いでいます。日産なんかは本当に今大変ですしね。そんな中でトヨタなんかはまだまだ堅調で堅実な部類だと思います。日産がルノーに完全統合されるような事態になったら、案外トヨタが救いの手を差し伸べるんじゃないかとまで思ってたりします。いやほんと。

 トヨタも色々と苦しくはあるとは思うのですが……なかなか世の中は難しいもので。トヨタはいつの時代も50年先までも見ているような企業です。トヨタの今のクルマ造りがどう将来に繋がってゆくのか……願わくば吉と出れば良いのですけれどね。
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Posted at 2019/01/21 23:24:28

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この記事へのコメント

2019年1月22日 16:52
この本買ってみようと思います。氏がそれ程に言うものなら自分としても読んでみたいと心から思います。

自分は初めて「トヨタ」の車に乗っていますが、ある意味今まで2台は世間的に見ては非常に尖った部類の車でした。 刺激にはある意味事欠かない車生活で初めての「トヨタ」でスペック的に見れば平凡な車。

でもその作り込みに本当に感心したと言うか驚愕した感じです。 ここまで真面目に作り込んでるとは思って見ませんでした。特にボディーと足回りのそれは正に「煮詰め尽くした」とすら言える感じで、この車の芯がしっかりしてるのがわかります。

そこに今現在で最新の安全装備が標準で付いており目から鱗、それでいてハイブリットとガソリン CVTにMT FFに4WD 様々な選択肢があり、本当によくできて素晴らしい車だと思っています。

正直今の時代は共同開発がスタンダードですよね。それだけ開発が大変になってきてるんだと思っています。 NSXの件は自分も行きつけの寿司屋の常連さんがその方と深い関わりを持っていたため色々聞かせていただきましたが、やはり残念がってましたが「年寄りが口出しして変えるのは良くない」的な感じなこと言ってましたね。

ともかくこれからのトヨタ、いや自動車業界はどう動くでしょうかね??
コメントへの返答
2019年1月22日 19:37
この本は現在の単純な読み物としてもそうなのですが、無数の資料を蒐集し、そこからエッセンスを抽出して筋道を立てて、一本のテキストに纏め上げている所も凄いのですよね。おそらく、ゆーさくさんなら、その点についてもよく分かって頂けると思います。

70年代、80年代、90年代とまだまだ日本車が、トヨタ車が未成熟であった時代を経て、現代があるわけですが。そこに至るまでの試行錯誤が道筋が、この本を読めば見えてくるかと思います。

ここ最近においては、カローラスポーツこそがある意味でトヨタ車におけるスポーティカー、スポーツカーの一つの完成形だとも思っています。間違いなく86やスープラ以上に……です。

トヨタもホンダも日産も、かつての名車の名前を名乗りつつも、昔とは全く別物のクルマを造らなければならなくなっている現状。それも他社との協業によって……です。

時代が時代とは言え、いささか寂しくもあり。これからの時代がどうなるか興味津々もありますね……

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