今日は、とても大切な日だった。
事故で大破させてしまったⅢ型との、最後の別れの日……
奈良市郊外に位置する賃貸駐車場の一角。
10月7日の事故から2ヶ月余り。お世話になっている車屋さんの厚意により、車屋さんが借りていたスペースの一角にⅢ型を置かせてもらい、各種部品取りを行っていた。
時刻は午前11時。その四肢はもちろん、駆動系、内装、外装を失った“がらんどう”となり、二度と走り出すことはおろか、エンジンに火の入ることのなくなったⅢ型は静かに、ただそこに居た。
ドアも失い、吹きさらしとなったキャビンに乗りこむ。シートは外され、内装やパネル類も外されてしまっているのにも関わらず。何故、ここはこんなにも温かく、そして落ち着くのであろうか。
思い起こせば、この2年と4カ月。本当に、本当に色々なことがあった――
このクルマに出逢ったのは、2008年の7月。大学生活最後の年だった。
運転免許を取得してから5ヶ月後のこと。兵庫県にて売られていた白のMR2について問い合わせるも既に商談中との回答に失望し、たまたま立ち寄った大学でgoo-netを見ていたら、“それ”が載っていた。
家まで飛んで帰ってショップに問い合わせ、翌日に実車確認。その場で即決した。
ローンを返す為、それまで以上に必死でバイトした。バイトを掛け持ちし、朝の5時から夜の10時まで働きづめ。家に帰って、また家を出るまでたった5時間。そんな生活を続けて、ローン分の9割を1ヶ月で稼いだ。
11月には、学生の身ながらも早々と就職。その仕事先で、一つの出会いを得る。
赤いNA6CE型ユーノスロードスターに乗る としぞぅ さん。自分に『みんカラ』を教えてくれた。
今の自分があるのは、間違いなくこのお方のおかげである。
初めはみんカラも、一人で細々と駄文を綴ってゆくのみであったが、持ち前の理屈っぽさを活かしてMR2の歴史をまとめたりする内に、徐々に多くの人々と出会うようになった。
EP3型シビックタイプRに乗り、今や時の人とも言えるtakerさん。
SW20型MR2と、NA6CE型ユーノスロードスターに乗る まめさん。
2台のSW20を乗り継いだと言う、エナペダルさん。
非常に独特のモディファイを施すSW20乗り、アルティマさん。
黒のⅤ型NAでジムカーナに取り組む まりさん。
自動車とミニカーの事ならば右に出る者はいない、カリーナGT乗りの高山の山さん……
少しずつ、少しずつではあるが、交流の輪も広がり、2009年の12月には、初めてオフ会と言うものにも参加した。
場所は浜松のフルーツパーク。寒風吹きすさぶ中、多くのMR2が集まった。
日本でも指折りの分かり易さを誇るであろうⅢ型GT乗りの霧人さん。
同じ京都府からやって来ていたと言う、Ⅴ型NA乗りのシロスケさん。
時々やりとりもさせて頂いている、黄色が好きなⅡ型乗りの黄色さん。
今もお世話になっている那央さんをお見かけしたのも、この時だった。
ここでも、多くの方々と出会い、多くの縁を得ることが出来た。
やがて、大学に入り、免許を取得した弟も自分のクルマを買う。
ホンダのEG2型CR-Xデルソル……聞いたことも見たことの無いクルマだった。
これの装備する電動トランストップ機能を初めて見た時は大笑いしたものだった。
しかし、それから1ヶ月も経たない内に、デルソルは全損してしまう……。そして、2台で走るはずだった2010年の鈴鹿サーキット・新春マイカーランでは、結局、SW20の1台で走ることとなった。
インターネットのサイト「愛と友情のデルソル」のオフにも参加する予定だったのであるが、何故かデルソル・S2000、MR2という謎のオフ会になる。
この時は、「VTEC、イイよぉ~!?」とひたすらススめられたものだ(笑)
弟も再びクルマを買った。EG2型CR-Xデルソルのサンバグリーンパール。
つまり、同じクルマである。偶然、京都府久御山町にある高級輸入スポーツカーばかりを取り扱う店に、何故か極上のデルソルが置かれているのを発見し、売って貰ったらしい。不思議な縁もあるものだ、そう思った。
その頃になると、これまでは目上の方とばかりの交流だったのであるが、自分よりも若い逸材とも出会うようになる。
同じ地元であり、クルマに対して深い造詣を持ついいこまさん。
平成生まれにして、Z16A型GTOに乗る、えるすさん……
だが、今度は自分が事故を起こす。
入院した父親の見舞いに向かう途中、追突事故を起こす。国道での追突事故。相手のセレナを全損させ、SW20も傷を負った。
大阪で初めてのオーナーを得て12年間、無傷だったMR2に、初めて事故の傷を付けた瞬間だった……。他人を巻き込んでの初めての事故。激しい自己嫌悪に陥った。
でも、多くの人々からお声をかけて頂き、温かい励ましのお言葉を頂いた。
九州は大分で、EP3型シビックタイプRに乗るYUSAKUさん。
北陸は新潟で、SW20Ⅴ型ターボに乗る幽祢さん。
東北は青森で、Z32型フェアレディZに乗るさんけさん……
他にも、多くの方々からお声をかけて頂いた。本当に、ありがたかった。
解体屋で見つけたMR2から、試行錯誤でバンパーを取り外し、それを使ってMR2を修理した。走行距離が90000kmを超えていたのでクラッチやウォーターポンプ、タイミングベルトも交換してもらった。
事故から2ヶ月後。遂に帰って来たMR2に乗って、弟の新たな愛車・スターレットと共に信貴生駒スカイラインを走った。修理から帰ったMR2は、驚くぐらいによく走り、よく止まり、よく曲がってくれた。
これがトヨタが作ったミッドシップ・ランナバウト。そしてFun to Driveなのか――! その時の感動は、今も忘れない。
またオフ会にも行った。富士スピードウェイまでの超長距離ドライブ。
310馬力のTRD2000GT改を駆る、んにょんさん。
親子でオフにやって来た、黄色のSW20乗り、鈴さん。
世にも稀なAW10に乗る、Jin_Regalさん……
ここでもまた、多くの人たちと出会い、多くのMR2と出会った。
生まれて初めてツーリングにも行った。5台のロードスターに、1台、MR2で混じって走った
としぞぅさん、ゆうきさん、お気楽どらちゃんさん、モンテゴンさん、虎太郎さん、ロド太郎さん……
……2リッターのMRなのに、お気楽どらちゃんさん1.6リッターのFRにぶっちぎられた。めっちゃ悔しかった……。なお、画像内でMR2の隣に停まっているのが、お気楽どらちゃんさんのユーノスロードスター。現在は、故郷の広島にて、大阪に帰るその日まで、走り続けているそうである。
それ以外にも、多くの人たちと出会い、多くのクルマと走りに行った。
“練習機”と、“戦闘機”。2台のミッドシップを駆る大山中佐さん。どこの馬の骨とも知れない自分などを、何度もサーキットへのお誘いを頂いた。
はるばる、遠く離れた愛媛からやって来た、まっけんじーさんと、Ⅲ型GT-S。
共に、柳生のワインディング、布目ダム、天理ダム、そして名阪国道を走った。
実は、まっけんじーさんの通っていた大学が、自分の家のすぐ近所だったという不思議……MR2乗りなら、誰もが憧れるダイエーモータースで購入したSWだそうである。
そして、同じくダイエーモータースさんでSW20を購入したと言う、さぼさん+さんと出会ったのもこの頃……とは言っても、それまでに互いに足跡をつけまくっていた気がするが(汗)
これまた、遠く離れた大分からやって来た、YUSAKUさんとEP3型シビックタイプR。
何故か、豊郷小学校へ“登校”した(笑) そして、わざわざ宇治川ラインまでおいで頂いて、短い時間ではあったが共に走った。EP3の性能の高さとシビックタイプRのあまりの速さに、FFコンプレックスに陥った……
もちろん、地元の方とも会った。
痛車なデミオに乗る、ヒコっちさん。地元と言う事で、時々上の写真のように偶然出くわしたりする(爆)
そもそも、初めての出会いが、互いに互いに前々からみんカラで見かけていて、ある日街中で互いの車を見かけて、二人とも相手が誰かが分かってしまったような感じだった……
バイクとも走った。
夏の終わりの日。海へ行った。これは、mixiでもお世話になっているBREWさんのお誘いである。
元々、レーサーを目指していたと言うBREWさん……まぁ豪快に危なげも無く、膝のプロテクターをアスファルトに擦ってゆくのなんの……(汗)
MR2乗りの聖地とも言える、大阪はダイエーモータースさんにも初めて行った。
オイル交換にかこつけて、色々とMR2に関する疑問質問をぶつけに行ったのである。
ダイエーモータースさんおススメのオイルは……まぁ恐ろしいぐらいに良かった。エンジンがレシプロからロータリーに変わったのかと言うぐらい。……ただ、お値段もなかなかのものだったが(汗)
9月には、愛知県は刈谷のハイウェイオアシスまで。オフ会に遠征……
2010年は、オフ会を何度も逃してしまっており、久々のオフ会は非常に楽しい一時だった。
これまた、互いにみんカラで足跡をつけまくっていたぱーる@さんやたく造さん。Yellow Challengeさんに実際にお会いしたのは、この時だった。そして、若くしてAW11に乗るしょっぺた緑さんと、EK9に乗るR乗りさんにお会いしたのも、この時であった。
多くの人たちと出会い、多くのクルマたちと走った。
その時間は本当に充実しており、本当に楽しかった――
……でも、少しずつ自分のドライブに暗雲が立ち込め始めていた。
家庭、仕事、友人――。あらゆる人間関係と、あらゆる生活環境が上手く回らなくなり、どんどんイライラが募っていった。
クルマを楽しむ、クルマと共に楽しむ。そして、難しいと言われるMR2を駆ることによって自らをさらなる高みへと導くこと。それが、自分のドライブのはずだった。
でも、いつしか自分のドライブは、ラフで攻撃的。他車と路面とクルマとに鬱憤をぶつけるようになっていった。
自分でも、いつ事故を起こすか分からなかった。でも、それを自覚していながらも、自分では沸き上がって来るドス黒い感情を、抑えきれなかった。
――そして、2010年10月7日。事故を起こした。
この写真を撮影した5分後のことだった。
お世話になっている車屋さんからの帰り道だった。
山奥の峠の下り道。急にタイヤがグリップを失い、スピンモードに突入。一度は姿勢を立て直すも、車体の動揺を抑えきれずにコントロールを失う。
MR2はスピンしながらフロントをコンクリートの壁に激突させ、さらにリアをぶつけて止まった。
幸か不幸か、自分は頭部からの軽い出血と、筋肉痛程度の鞭打ちで済んだ。でも、MR2は大破した――
フロントバンパーは跡形も無く砕け散り、リアも酷く歪んでしまった。
何とか直してやりたい、そう思った。
しかし、破損は酷く、あらゆる面において、自分の限界を超えてしまっていた……
自分は何と言うことをしてしまったのか。前のオーナーさんが12年間、大切に乗り続け、とても美しい状態で自分に旅の続きを託してくれたと言うのに。多くの人たちが励まし、心配し、助けてくれていたのに、自分は一体何をしているのか――!
ステア下の小さな物入れから、小さな御守りが出て来た。「交通安全」、そう書かれていた。
2年前。MR2に乗り始めた頃。父親がくれたものだった。思い出せば2年前、不安で一人でクルマに乗るのが怖く、楽しむどころでは無かった自分は、クルマに乗る時はいつも、その御守りを取り出して、無事故と安全を祈っていた――
でもいつしか自分は、奢り昂り、そして――
いくら悔やんでも悔やみきれなかった。いくら願っても祈っても。時間が戻るわけも、MR2が治るわけでもなかった。
悩み悩んだ末、結局、廃車を決断した。そして廃車を決めたその晩、泣いた――
ただ、MR2の部品は、全国各地のMR2とMR2乗りたちの元へと旅立ってゆくことになった。
千葉の鈴さん。神奈川のJin_Regalさん、長野の霧人さんと、その弟さん。愛知のred20さん、香川の如月蘭人さん――。部品は提供出来なかったけれども、地元のSW20乗り、ホンディーさんや、自分と同じくMR2を失った過去を持つA・Oさんとも縁を持つ事が出来た。
まだ、何処か遠くの地にてあのMR2の一部が走り続ける――。それだけが、唯一の救いだった。
そして、悲嘆に暮れる中、新たなパートナーに出逢う。
愛知県豊田市に居た、SW20型MR2、そのⅤ型NA……
この出逢いにおいては、多くの。本当に多くの方々が。
みん友さんはもちろんのこと、やりとりをしたことのある人。初めましての人。非常に多くの方々から祝福の言葉を頂いた。
本当に、本当にありがとうございました。
ほとんど部品を取りつくしたⅢ型は、そして、産業廃棄物回収業者に引き取られるまでしばしの間、屋外の駐車場の一角に停め置かれた。
暇を見つけては、何の用事も無いのにⅢ型に会いにった。
何度も、何度も、何度も……
でも、遂にこの日が……別れの日が訪れてしまった。
…
……
………
気が付けば、辺りは薄暗かった。時刻は16時30分過ぎ。
一台のユニックが、MR2の傍にやって来た……
エンジン、ミッション、ボンネット、エンジンフード、ドア、トランク、シート……
あらゆる部品を失い、すっかり軽くなってしまったMR2は、いとも簡単にクレーンに吊り上げられてしまった……
自分は、ただ。ただそれを見守るしか、見ていることしかできなかった――
そしてユニックはMR2を乗せたあと、もう1台のクルマを吊り上げてMR2の上に乗せたと思ったら、さっさと走り去って行ってしまった……
あっと言う間の出来事だった。
別れを言う暇も、ありがとうを言う時間すらも無かった……
ただただ、茫然としている他は無かった――
ふと傍をみれば、あれの面影を濃く残した、新たなパートナーが佇んでいた。
後に残されたリジッドラックと、タイヤ、サスを片付けて、車屋さんにお礼を言いその場を去った。
でも、しかし……一人になった途端、急に涙が零れ落ちて来て、泣いた――
Ⅴ型を走らせながら、泣き続けた。涙が止まらなかった……
どうしてあの時、まっすぐ走らなくともいいから。お金ならいくらでも払うから治してくれと、そう言わなかったのか、言えなかったのか……
結局。あのクルマを死なせたのは自分だ。
形だけでも治すことが出来た。でも治さなかった。治そうとしなかった。それだけなのだ。
あの時。コンクリートの壁に激突する瞬間――
自分の命が助かったのは。誰も巻き込まなかったのは単なる偶然なのだ――
でも、愚かな自分の身代わりとなって……
本当に。本当にごめんなさい。そしてありがとう……ありがとう……ありがとう……
さようなら――
……SW20のステアの右下には、小さな小物入れがある。
そこに入っているのは、「MR2」と「G-Limited」のエンブレム。
さぁ、行こう――