株や為替の世界では特にそうなのだが、経済の世界では「理由づけ」が大変重要になってくるものだ。
経済において急激な変動が発生した場合、その理由が「分かりません」では済まされないからだ。そして、その理由は後づけでもなんでもいい。間違っていようが正しかろうが、とにかくそれらしい理由をつけなければならないし、つけるものなのだ。
例えば東日本大震災において、外国為替は急激に円高方向へと向かった。通常ならば、災害が発生した国家の通貨は、景気の悪化に陥る危険性が高いため、リスク回避のために売られて通貨安方向へと向かうはずなのだ。ニュージランドでの地震の時もそうだった。
だが、昨年の3月から5月にかけて。円は歴史的な円高を記録することになる。その時の理由を、「各保険会社が、保険金の支払いに備えて海外資産を売却して円を確保したからだ」と、各証券会社や証券アナリストは分析・発表していた。
で、ぶっちゃけた話、これは完全なデマだった。保険会社が、円を還流させたなどという事実は結局存在しなかったのだ。でっちあげの、その場凌ぎのニュースだったのだ。
先ほど、こんなニューストピックを見つけた。
「“若者の車離れ”の原因は「トレンディードラマでデートに車が登場しないから」http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1700457.html
……もう、これを書いた奴はどんだけアホなんだと。まぁ上のページの抜粋は、多少悪意が見える編集が入ってるけどね。
つうか、この手の「若者のクルマ離れ」を語るひょーろんかのセンセー方のオナニー記事は、どうしてこうもズレまくったことしか書かれていないのか……
ホントに?ホントにクルマが売れない理由が分からないの!? だったら今時の若者の言葉を俺が代弁してやるわ。
「お金が無いから」
以上。
これ以上でもこれ以下でもない。これを上回る理由なんてあるわけがない。
考えてみても欲しい、現代の日本の経済状況を……。昨年の12月の段階で、4年制大学2012年卒の就職内定率が59パーセント台。そして、若者の3人に1人が非正規雇用に甘んじているという、この現実を……。たぶん、非正規雇用は実際にはもっと多いね。たぶん今時の20~30代の半分ぐらいは、無職、フリーター、契約社員、派遣社員だろうね。
今の時代、一度新卒採用を逃したら、普通の正社員の職につくなんてハッキリ言って絶対不可能。もう非正規雇用の手取り10万あるかないかで生きていくしかない。そこから、家賃や生活費を引いてみなよ。一体、どこに自動車のローンが組める余裕があるってんの?
もちろん派遣とか契約っていっても色々ある。それこそ自動車の組立工場なんかは、手取り20万とか25万とかいうのもある。でもさ、それに釣られて工場勤務して、派遣切り食らって泣いてる人がどれぐらいいると思ってんの? そんな不安定な仕事してて、クルマ買おうなんて気になれると思う?
つか、非正規に限らず正社員でも今時はそんなもんだ。今時はボーナス出ないなんて珍しくもないしね。ぶっちゃけフリーターとかやってた方が下手したら稼げるからね。霧島も、今よりも学生時代の方が断然稼いでたわ。
バブルだかなんだかで育ったダンカイノセダイの人たち(つまり霧島の親だ)は、こういうのですよ……。「大学さえ卒業すれば、文字通り山のように求人票を押し付けられて、面接に行けばケーキとお小遣いを出してもらえて、一度内定が出たら、他の企業にとられないようホテルに監禁される」……うんぬんかんぬん……。そんな話を高校生の時、二時間とか三時間とかずっと聞かされ続けた覚えがあるわ。
黙れカス。しね、氏ねじゃなくて死んでくれ。何の努力もナシに仕事と金を貰えて、そしてそれらが自分の功績だと勘違いしてる。そんなオッサンのタワゴトなんて聞き飽きたわい!
そしてもう一つ、こんなんもあったね。
徳大寺有恒氏「女にモテる車を作れば若者の車離れは止まる」
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1581010.html
霧島のブログ、自動車メディアの人たちが何人か読んでます。ベストカーやベストモータリング創刊責任者の正岡貞雄局長や、ホットバージョン編集長を勤めておられたベスモの田部さん。他にも、まさに徳大寺有恒さんの徳大寺自動車研究所の所長さんも読んでくれてます。
……だから、こういうことを書くと色々と問題が発生するかもしれない。でも、“まだ”今の自分の立場なら、こうして個別にトピックを取り上げることが許されると思う。将来的にはNGになる可能性も無いわけではない……だから今の内に書いておく。
先生……徳大寺先生…・・・ちがう、ちがうんですよ……。個性とかそんなのまったく関係ないんですよ……。まあ、あんなテキスト、半分以上はゴーストライターが創作して書いてるんだろうけどね。いずれにせよ、編集者の神経を疑うわ。
若い人のことは若い人に聞いてみればいい……。今時の若い人が欲しいと言うクルマ。それは、エスティマでありオデッセイでありアルファードでありヴェルファイアでありノアでありエルグランドでありステップワゴンであり……。そう、ミニバンなんですよ……。それらに個性が無いとはいわない。でも、二馬力みたいな個性あるクルマでは決して無いことも確か。
あと、受けるのはエコカーね、ひたすらにエコカー。霧島が世話になってる車屋さんに、ダイハツのディーラーに務めてる人がいて、その人はこれまで3台のインプレッサSTiを乗り継いできたという猛者です。
GC8→GDB丸目と来て、今は涙目のGDB型インプレッサWRX STiバージョンに乗っておられます。ちょうど30歳ぐらいの方ですが、話を聞いているとこんなこと言ってましたよ。
「飲み会とかに行っても、全然女の子には受けないねぇ……。男はみんな『おお~ッ!』ってなるんだけど。今はプリウス、これが一番ウケがいい」
「無知な女が日本車をダメにした」って言ってる人がいましたけど、本当ですな。
インプだぜ?インプ。しかもWRブルーで涙目とか、下手したら現行以上のマシンですよ。GC8が欲しかった霧島からしたら、うらやましくてしょうがない。インプなんて個性の塊みたいなクルマですよ。あ、欧州車のデザインがどーとかの話はイランですので。デザインなんて、あんなの、個人の感性の問題やん。つか欧州的デザインのクルマが日本で人気が出るとは全く思わんし。
メーカーからすれば、どんなクルマが売れるのかを見極めるのが一番大切な仕事なわけで……。そして、徹底的なマーケティングの結果が、今の日本車のラインナップでないの。そりゃ若者はミニバンを欲しているんだから、ミニバンばっか造ることになるよ。
90年代ぐらいのスポーツカー好きは、とにかくミニバンやプリウスを叩きたがるけど、それはそれでズレた行為なんだよ。それを言い出したら、街中のいたる所をスポーツカーが走り回ってるとか。峠へ行ったら昼間から何百台何千台というスポーツカーやバイクが集まってた80年代の方が明らかに異常だよ。
スポーツカーやスペシャリティカーみたいな「個性的な」クルマなんて今時は流行らんのですよ。これはどうやっても覆しようの無い事実。
……ケインズの予言というものがある。それは次のようなものだ。
『豊かであるがゆえにこそ停滞に陥る時代には、経済問題ではなく、「退屈」こそが最大の問題となるだろう。「退屈」の中で人々は規律を失い、倫理を失い、生の確かな手ごたえをもつことができず、ある人たちは神経症に陥り、ある人たちは退屈しのぎにゲームやギャンブルにうつつをぬかす』
そういうことなのですよ。金があれば時間が余る、時間が余れば退屈する。そこで金があるならば、刺激を求めて色々なモノを買い漁る。それが、バブルの時代における「スポーツカー」であり「スペシャリティカー」だったのですよ。今の金も時間もない若者が、クルマなんて買えると思って?
で。上の記事の中に、「トヨタの豊田章男社長はその理由を問われて『良く分からない』と述べている」とかいう一説がありますねぇ。豊田さん……ホント勘弁して下さい。あなたの師匠の故・成瀬弘さんが、どうしてアイゴベースの「FR Hot Hatch Concept」を造ろうとしていたのか……。86やMR-Sハイブリッドではなく、KP61スターレットの再来となるはずのFRホットハッチをどうして「本命」と呼んだのか……もう一度よく考えてみてください。
……たぶん豊田社長も本当は分かってると思う。でも、立場上、「若い人は金が無いから車が買えない」なんて言えないんだろうね。だって、そんなことを認めたら、トヨタは社員の給与をもっと上げて、非正規雇用を正規で雇用せんといかんくなるんだもん。そしてそれが、失笑モノの理論ばかりが横行する「若者のクルマ離れ」論の正体だと思う。うまいことはぐらかしてると思うわ。
ちなみに86&BRZの値段ですが、霧島は決して高いとは思わんですよ。社会の負け組街道を驀進中の霧島(26)でも、買おうと思ったら買えますから。ただそれは、学生時代に早朝から深夜までバイトしまくって必死で貯金しといた金銭があるからこそ、今になって買えるんであって。でも、バイトもしたことないようなゆとり社会人には辛いのは確かだとも思うけどね。26ぐらいだったら結婚する人も増えてくるし。
ここでもう一つ逸話を。自動車王・フォードの話です。
……ヘンリー=フォードが大衆車の量産化に成功し、フォード社がアメリカを代表する大企業になった頃のことである。ヘンリー=フォードは、一つの事に気がついた。それは、会社の絶好調ぶりに相反して、現場で働く工員たちに元気がないことであった。不思議がるヘンリーを諭したのは、息子のエドセルだった。
「どれだけ働いても彼らの日当はほんのわずか。彼らは自分たちが作っているクルマを、自分で買うことすら叶わないんだよ?」
この話の真偽は定かではない。しかし、これが全てだ。なお、ヘンリー=フォードが労働者への待遇に力を入れた(入れるようになった)のは有名である。
ハッキリ言う。今の若い人の半分は非正規雇用。非常に貧しい生活を強いられている。手取り10万、年収200万すらいかないのだから、結婚したり子供作ったり家庭を築くという「普通の」生活を送ることなんて絶対にムリ! ましてや自動車を買うことをや。
小泉政権が非正規雇用を緩和したのは、間違いだったとは言わない。それによって、一時的に景気が上を向いたのは確か。でも、その恩恵を受けた自動車メーカーは、その後も調子こいて非正規を増やすばかり。非正規雇用緩和によって収益を得たのだから、それは社会に還元すべきなのだよ。でも、それをやらないメーカーばかり。
とある日本の自動車メーカーの名経営者が次のように言い遺している。
「若さを信頼できなくなった企業は死ぬ」
聞いてるか?ホンダ! これは藤沢武夫さんの言葉だぞ! 昔は中卒から大卒まで、夢と情熱に燃える若者たちが集ったホンダ……。若者たちを魅せるそのクルマづくりに、トヨタが、日産が嫉妬したホンダ……。それが今はどうだ。社内は完全な学歴社会な上に、醜悪なスキャンダルまで報道されてサ……。なぁ……ホンダよぅ……あの不撓不屈のスピリットはどこへ消えたんだよ……オヤジさんが草場の陰で泣いてんぞ……?
「私は年寄りだから新しい開発からはもう手を引いているが、一応、今の若い連中が何をやっているか見せて貰っている。でも分からないんだな。だからこそ嬉しいんだ。この年寄りに分かるような事をやっているのなら、うちの若い連中はボンクラですよ」
――本田宗一郎
メーカーもメーカー。でも、もっと問題があるのは自動車メディア!
「ワカモノノクルマバナレデザッシガウレマセン」
「オモシロイクルマヲメーカーガーダシテクレマセン」
「ダカラオモシロイキジモカケマセン」
……そりゃ自動車雑誌も軒並み廃刊になるわ。今の自動車メディアは、メーカーからの広報資料を丸写しするばかり。クルマの楽しさや魅力を全く伝えようとしない。その努力すらも放棄してる。クルマは面白いものだ、楽しいものだ、嬉しいものだ、滾るものだ、熱いものだ。なぜそれを伝えようとしない!?
「夢のあるクルマと言うのは、高くなくても速くなくても、小さな幸せを運んでくれるクルマのことだ」
そんな最低限のことも分からずに、クルマを語ろうとする愚者のなんと多いことか。まぁクルマ好きなんて金持ちのボンボンが少なくないですからな。親の金を使いたい放題で、クルマ買ってクルマを走らせて、知識とテクを身につける。そーゆー人がメディアで文章を書くようになる。そりゃハートなんてどこにもないわ。
イギリスに「トップギア」と言う自動車番組がある。現代の若者、クルマ好きが自動車メディアを語る際には必ずといっていいほど登場する名前である。
なぜトップギアがこれほどまでにクルマ好きたちの支持を集めているのか――。どんなメーカーに対しても媚びない。レクサスLFAだろうがプリウスだろうが、ケチョンケチョンにいてこます歯に衣着せぬ言動……なるほど、それもあるだろう。だがそれはトップギアの本質では無い。
高いクルマでも安いクルマでも、クルマの楽しさ・クルマの魅力・クルマの可能性・クルマの潜在力を「命懸け」で伝えようとするその姿勢こそがトップギアの真髄なのだ。
ボリビアスペシャルを見たか? まともに動かぬ中古のSUVで南米のジャングルを掻き分け澱んだ大河を渡り、意識と命すらも奪わんとする3000メートルの高地を走る、あの生死を賭けた冒険を――
ハイラックスサーフの壮絶極まる耐久テストを見たか? 燃やし、爆破し、海中に沈め――原形をとどめなくなるほどボロボロとなった、それでも動き続けたあのハイラックスの勇姿を――
無論、トップギアはあくまで「皮肉」の文化を持つ英国だからこそ出来るスタイルの番組である。あんなのは日本では出来ないし、やる必要も無い。
高いとか安いとか。スポーツカーだとかミニバンだとかは関係無い。「クルマで走ることは楽しいことだ、ワクワクすることだ」、それを何よりも誰よりも大切にしている。それを一番に伝えようとしている。だからこそトップギアは面白いのだ。
トップギアを一度見てみろ。手に汗握るだろう? 胸が高鳴るだろう? 「クルマが欲しい」と思ってしまうだろう?
……そんな熱い熱い熱い想いが、魂が、信念が今のベストカーにあるか? 終盤のベストモータリングにあったか? 今のホットバージョンにあるか? カートップは? カーグラフィックは? レスポンスは?カービューは?クリッカーは?
「老人はゴミです」。こう言ってのけた映像監督が居た。
「最近の若い者は~」「あの頃は良かった~」「日本車なんて~」「最近のメーカーは~」
うるさい黙れ。いい加減に目を覚ませ、いつまでバブルが続いていると思っている。
自分たちの経営努力を棚に上げて、若者に責任押し付けてんじゃねぇぞ。
早く現実を見ろ。若者と向き合え、対話しろ。
「クルマが好き」だと自称するのならば。