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ひでエリのブログ一覧

2021年08月23日 イイね!

日本一周:オレのFZ750@another Side

日本一周:オレのFZ750@another Sideあらすじ:彼女、友人と渡り歩きつつ北海道に自走、基本、野宿で日本一周を目指すオレの徒然日記。今回は途中で出会ったショウゴさん視点の話。

俺は大学生のショウゴ、千葉に住んでいる。
愛車はFZ750だ。
いぜんはRZ250に乗っていたのだが、限定解除したことを機にFZ750に乗り換えた。2ストも気に入っていたのだが、世界最新と言われるこの5バルブジェネシスエンジンというヤマハの触れ込みに乗った感じである。
こいつを買うためにバイトをしまくった。
念願のナナハンを手に入れたときは本当に感無量だった。

千葉は山が少なく、面白い峠はなかなかない。関東のメッカはやはり神奈川になる。
何度か早起きしてヤビツや箱根に行ったが、高速を使うためには二人乗りができない(高速道の2人乗り解禁は2005年4月から)ので、彼女は連れていけない。
ひとりで遊びに行くとなると当然、彼女の評判は悪い。
「何でクルマを買わないのよ!中古の軽自動車よりも高いじゃない!クルマなら二人で出かけられるのに!」
まあ道理であるが、踏んでも走らない、エアコンがついても効かない、外装は走る棺桶、動くパイロンといっても過言でないそんな乗り物に乗るつもりはない。せめて学生の間は友人からの借り物でいい。

そんな中、夏休みの計画でまた彼女と衝突した。

「え?北海道?何言ってんの?バイクで行くって?この暑いのに?アタマおかしいんじゃないの?」

まあ一理あるが、バイク乗りとして聖地北海道に学生時代に行っておかなければ、社会人になってからではゆっくりと回ることはできないだろう。
いま行っておくしかないのだ。今ならバイト代の残りで何とか回れるだろう。

「じゃあ夏休み遊べないじゃん。え?タンデム?そのバイクに?冗談でしょ?暑い中、荷物背負って後ろに乗れっての?ぜったいムリ、日焼けだってするし私は行かないわよ。今だってそれしかないから後ろに乗ってるだけなのに。それより私の計画を聞かずに、北海道行きのフェリーの予約を入れた方が重罪だよ。どういうつもりなの?なんで私の予定を聞かないのよ!」

うむ、それも一理あるが、夏のバイク乗りにはやるべきことがあるのだ。

「ふーん、そういうつもりなんだ。じゃあ、北海道行ってる間、サークルの集まりで九十九里に行って勝手に男女仲間で盛り上がってくるから勝手にすれば!さよなら!」

今から映画を見ようと近くのGEOで借りてきた彼女の趣味で選んだビデオはどうするんだ...まあいいか、ここまで怒らせたら当分口をきいてくれないだろう。こういう時は時間を空けた方がいいのだ。経験上。

それより北海道行きである。初の本格的なソロツーリングになるので、準備をしなければならない。とりあえず彼女のことはおいておいて2週間の旅程と地元観光地スポットのリストアップをしなければならない。

脚本が微妙に甘ったるすぎる彼女が見たいという映画をみながらそんなことを考えていた。

===

さて結局彼女とは仲直りせず、そのまま北海道に到着した。主な旅程として岬めぐりを中心に各地の観光スポットを巡ることにした。
旅程もあまり長くはないので、道央道南は捨てて、道東と道北を中心に回ることにした。
一応野宿セットも持ってはいるが、非力なセットで一応雨風がしのげるという程度、できれば安宿を渡り歩きたいと思っているが、手持ちが心もとない。
まあ何とかなるだろう。

今回の相棒、ヤマハFZ750というバイクは本当によく走る。RZと比べればもちろん重いのだが、北海道のような直線レイアウトが多い道では本当にどっしりと楽だ。エンジンもともかく良く吹ける。45度前傾エンジンが良質な前後バランスを獲得したとカタログにあったが、ともすればピーキーなパワーの出方でフロントが浮き気味になるRZと比べると上り峠でのフロントの接地感が段違いである。
落ち着いて振り回せる感じがとてもいい。
ここ最近はどのメーカーも、猫も杓子もレーサーレプリカで高性能なエンジン、高いバックステップに窮屈な乗車姿勢、フルカウルでまんまレーサーを公道に持ってきました、というオンロードバイクが多い。
俺もレプリカに興味がないわけではないが、こういう流行りに迎合するようなバイクには乗りたくないと思っていた矢先に、まさにスポーツツアラーというデザインのFZ750が発売されたのだ。この手のバイクは耐久レーサーっぽくGSXの「オバQ」デザインに端を発する丸目二灯フルカウルがメジャーなのだが、こいつは違う。なんと角目二灯のハーフカウルである。こんなデザインのバイクは最近見たことがない。スズキカタナ以来の唯一無二である。
最新の機構をあえてレプリカではないデザインのこのバイクに載せてくれるヤマハ。このバイクを買ってよかった、こいつが北海道ツーリングの相棒で良かったと心から思った。

地球岬という室蘭の岬に着いた。
ゆっくりと駐車場に入ると、目立つ紅白のいでたちのオフロードバイク乗りがいる。熊本ナンバーか...随分と遠いところから来たものだ。敦賀からフェリーだろうか...と、彼が見つめるその視線の先には悪目立ちするド派手な関西弁の二人組がいた。

「おう、またがりたい奴はまたがってええで、特別や!」
「ハマちゃんは太っ腹やな!」
「まあな、はっはっは!」


またがってええで、っつー上から目線が既に気に入らねえ。
別に関西弁に悪いイメージもないが、こういう奴が関西弁をしゃべっているとどうして成金ボンボンが上から目線で喚いているという風に感じてしまうのだろう、不思議だ。

「なんだろな、あいつら、イラつくな」

思わずオレの口から出た言葉に振り返ったその紅白ライダーは、熊本県人とは思えないほど色が白く、歌舞伎役者のような面持ちのヤツだった。
「こんにちは、どちらからですか?」

にこやかに人懐っこく笑いながら話しかけるその表情にはヒトコロガシの匂いがプンプンするが、悪いやつではなさそうだ。若い。下手をすると高校生ではないかと思う。間違いなく俺よりも年下だろう。
「俺はショウゴ、千葉から来た。君は熊本からか?俺は習志野ナンバー。」
目を輝かせて熊本ナンバーが言う。
「習志野ナンバー!僕は習志野ナンバーが日本で一番カッコいいんじゃないかと思うんですよ、文字のデザイン的に!僕はHと言います、よろしくお願いします」

変わった奴だ...。
習志野ナンバーなんて関東ではチバラギ扱いされる田舎ナンバーなのに。
九州人だからそういう感覚もないのか。初見でみればカッコいいという人もいるのかな、と変なところに感心した。

その後、地球岬の先端までそのHと一緒にいくことにした。
地球岬という名前ほどの「地球」感はないが、広々とした海と空はいかにも「岬」という感じで解放感にあふれている。
まあこの手の岬では千葉が誇る銚子の犬吠埼も中々なのであるが、彼女とタンデムツーリングした思い出があるので今は思い出したくない。

「君はこの後どっちに向かうんだ?」
Hに聞いたところ、北上して道東、道北に岬をめぐりつつ向かうという。驚くほどに行動が似ている。少し話してしばらく同行することにした。まあソロでも問題はないが、仲間がいるに越したことはない。悪いやつでもなさそうだし。
が、Hは野宿派だったようで、今日の宿はどこのキャンプ場にするか聞いてきた。

「いや、とりあえず今日は近くのライダーズハウスに泊まるつもりで連絡をしてある。どうせごろ寝だから予約なしでもいけるはずだ。風呂もついている。一緒に行かないか。」
一瞬だけちょっと微妙な表情をしたHだったが、笑顔で一緒に行きますという。
道東知床方面に向かうので北に進むことになる。
HはXLR250BAJAというツーリング向きの大きな2灯ヘッドライトがついたオフローダーに乗ってついてきた。道はほとんど真っ直ぐではあるが下道でありそんなにスピードを出せるわけもなく、車格の違いは問題にはならなかった。

ほどなくして夕方になり、目的地のライダーズハウスに到着した。
ホッとしてライダーズハウスに入ると

「ナカジ!オレの着替え持ってこいや!」

という声...マジか...なんであいつ等がココにいるんだよ...。

====

2021年4月に主人公Hがライダーズハウスに到着して既に4か月w
ロードムービー展開にすると公言してから何にも書いてませんでしたが、最近ドラマを見て書く気が復活w
でも、そのまま主人公視点だと飽きるので、サブキャラを掘ることにしました。
ここ数回は主人公Hとショウゴの視点を入れ替えながら書いていこうと思います。
もう前回のお話を忘れた方のためにも関連URLに前回のお話貼ってありますので、?と思った方はどうぞ。というか自分自身も読み返さないと何書いたか覚えてないww
伏線張ったとか書いてるけど、どれが伏線なんだww?
自分自身を解析しながらノロノロ書いていきます。
Posted at 2021/08/23 20:51:13 | コメント(3) | トラックバック(0) | 野宿日本一周 | 日記
2021年05月14日 イイね!

京急油壷マリンバークの思い出

京急油壷マリンバークの思い出(あらすじ)
主人公がXLRで日本一周中に自転車で伊豆一周することになった中学時代の同級生同士3人21歳の話です。(今日、京急油壷マリンバークが閉鎖になると聞きました。フラッシュバックしたあの日のことを小説仕立てで残しておこうと思いました)
本編は既に北海道に入っていますが、あえて伊豆まで戻って回想します。
======
今日も一日走りっぱなしで汗びっしょりである。
いつものように野宿の準備の時間である。今日は風呂にも入りたいので、
1.水
2.広場
3.風呂近
4.スーパー至近
5.酒自販機至近

あたりを条件に地図を漁った。

どうやらこの辺りだと京急油壺マリンパークってのの駐車場が使えるならよさそうだ。ちょっと早めに駐車場にはいって、様子をうかがおう。

「ヤマ、どんな感じだ?いけそうか」
まあ水族館の駐車場に野営するってのは、都会なら考えられないし、お前ダレ?と守衛さんに突っ込まれるのは必至な訳だが、そういうのに耐えられそうか、すみっこなら許してもらえそうかとかいう、ユルユルな感覚で聞くカメである。
「わかんねえ、でも酒飲んでもう動けないので朝まですみませんって言えば、許してもらえるような気がする」
そりゃそうだろ。ちゅーか、いつも通りじゃねえか。こないだもそんなこと言って、目が覚めたらラジオ体操の小学生に取り囲まれていて、二度と校庭で野宿すんのやめようなという申し合わせをした気がする。

まあいいや、ぐだぐだ考えても仕方ねえ、途中にいい感じの銭湯もあったし、本日の野営地はここにすることにしよう、高らかに俺は宣言した。

そうと決まれば、まずはテント設営である。
とはいえ、毎日のことなので、手順も完全に確立済み、ものの数分で設営終了。まずは重い荷物をテントの中に全部ぶち込んで性善説を信じて、テントのチャックを閉め、銭湯に出発である。
夏の昼間に山道を自転車で駆ける二人もたいがいだが、ヘルメットをかぶって二人の荷物プラス自分の荷物も含め3人分の荷物を積んで走るライダーも結構汗だくなのである。
そんな汗だくの若者には銭湯はこたえられない贅沢なのだ。
「うぐゎー生き返る~」
もちろん3人とも銭湯グッズはもっているのだが、熊本から持ってきた俺の「健康タオル」が限界を迎えていた。ナイロン製のチクチクする泡立ちのよいアレである。
「もうそんなボロボロの無理でしょ、買い替えた方がいいよ」
当たり前のことをいうヤマに多少イラっとしつつ、いま気が付いたのに買い替えるとか...と思ったら番台の脇で売っている。
300円...なんかもっと安くて同じようなのがある気もするが、これも思い出になるかと思い、なしくずし的に購入した。
新しいものはいい!泡立ちがちがう!と感激しつつ快適に入浴を終えた。

そのあと買い出し班と居残り飯炊き班(というか一人)に別れた。
俺とカメは買い出し班、ヤマが飯盒でご飯を炊く係である。
「先に言っとくけど、今日は俺は魚肉ソーセージは食わないから!」
なぜそんなにヤマが魚肉ソーセージを嫌うのかがわからない。あんなに合理的で常温で保存できる美味い食べ物はないのに...そりゃ野宿なら毎日でてくるにきまってる。わかってねえな、ヤマ。

「俺、刺身くいたい!ピカピカの白身!あとウニ!」
カメはカメで一日の食費上限とかいう概念がない。一日1500円以内に収めようとしている食べ物=栄養摂取原と考えているオレとは価値観が合わない。

酒を減らすか、刺身を餃子にするかどっちがいいんだと詰め寄ったが、まったく引く気配をみせず、結局、地魚らしいアジ(青魚じゃん...)とちょびっとだけウニを買った。もちろんそれだけだと腹持ちしないので、ぶたこまと野菜ミックス的なパック入りの端切れ野菜の安いのを買って、野菜炒めで増量することでカメとは意見が一致した。
ビールの自販機はマリンバークの入り口付近にあるのは確認していたが、観光地価格だったので、スーパーで9本買っておいた。一人三本換算だが多分足りないだろう...。

戻るとヤマが酒を待っていた。
「おっせーんだよ、もうすぐ米が出来上がるじゃねえか、ビール来るまで水分も取らず椎名誠レベルで耐えていたオレの身にもなれ!」
しらん、と一喝し、つまみを広げ始める。

留守番ヤマはアジの刺身があることで、多少溜飲が下がったらしく、おとなしく3人で乾杯して宴会タイムへと突入した。
「かんぱーい!」
グダグダと話しながら飯盒はひっくり返して蒸らしタイム、すかさず折り畳み式フライパンを取り出して野菜炒めを作り始める俺。
肉ははさみで適当に切り落としつつ、塩コショウを振って下味をつけていく。
いつも思うのだが、塩コショウと醤油というのは悪魔的な調味料ではないのか。もはやこの二つがあれば、すべての料理がおいしくなると思う。
もちろん他にもあった方がいいんだろうと思うが、バイクで野宿旅をしていれば、自ずと限界の低い積載量に対して荷物は厳選されていく。そんな中、どうしても必要な調味料は?と問われれば、即答でこの二つを挙げるだろう、生涯変わることなくである。

「そういえば、お前彼女とはどうなったんだよ」
広島の彼女とは中学の同級生であるから、彼らとも知り合い、いや彼らとは小学校が一緒なので、実は俺より彼女のことを知っているのは彼らと言ってもいい。さらに面倒くさいことにカメは彼女のことが好きだと、我々には公言していた。
「てゆーか、お前が付き合うことになるとか、さがるわー、マジでさがるわー、ほんとカンベンして欲しい」
酔いも任せて勢いづいているカメである。
つか、おまえ彼女いるじゃん、かんけーねえじゃん。
こうなってくると、ついこないだ何となくいい感じになってきた女の子とダメっぽくなったヤマは面白くない。話題転換である。
「その話、まだ続くの?それよりこないだ観た新世紀エヴァンゲリオンっつーアニメが凄くてさあ、アレ?お前らまだ観てないの?マジで観た方がいいよ。ガンダムとかカリオストロとかジブリとか、今までいいとか言ってたの超越してるから。ホント観た方がいい」
なんだそのエヴァとかいうの、と思ってよくよく聞いたら、例のダイコンフィルム、巨神兵の庵野が監督したアニメらしい。Outとファンロードから遠ざかり一般人に戻って久しいオレには懐かしい名前であった。

気が付くとあっという間に3本のビールを飲み尽くし、じゃんけんで負けたやつが自販機でビールを3本買ってくるというルールになっていた。23時には自販機でビールが買えなくなるので、そこまでに何本飲めるか的な変な雰囲気になりつつある。さすが酔っ払いである。

「そろそろお前がじゃんけんめけるべきだぁ~ろ、お前がいちばんカネもってんじゃねえかぁよ」
金を持っているからおごれというのはもはや恐喝であるが、酔っ払いにそんな理性的なセリフは通用しない。
なだめすかしつつ、夜は更け、油壷マリンパークには全く入場せず、駐車場とその脇に設置されていたビールの自販機ばかりの思い出であった。

明日も頑張って走ろう!
====
落ちも何もない、ただの日記ですが、エヴァの記述の時代背景以外はほぼ事実の記述です。
30年以上前のことを今日のニュースでふわっと全部思い出しました。夏休み中だったはずですが、平日だったからかその日もほとんどクルマは停まっていませんでした。
もう二度と行くこともないと思いますが、無くなると聞くとちょっと寂しいですね...
Posted at 2021/05/14 23:13:44 | コメント(1) | トラックバック(0) | 野宿日本一周 | 日記
2021年04月07日 イイね!

日本一周:室蘭地球岬

日本一周:室蘭地球岬あらすじ:熊本から北海道を目指し北上、とうとう北海道入り、函館をあとに一路北の岬へ!

楽しかった函館を出発して、本格的に北海道を走る。基本はお上りさんなので、ひたすら国道を走る。延々と信号のない道がひたすら真っ直ぐ(いや実際には曲がっているけども)続いている。

テンション高めで道入りしたが、正直この何もない感は最初こそいいが単調すぎて頭がボーッとしてくる。それでもすれ違うライダーたちとピースサインを交わしながらトコトコと北上を続ける。

右手に見えるキラキラと光る海が美しい。
基本的に北海道では制限速度×時間で移動できる。普通は信号やカーブなど減速要因があるので平均速度は速めに走っても30~40km/hくらいになるが、ここではほぼ60km/hで移動できる。函館から室蘭までは約200kmなので休憩なしなら3.5時間程度で到着する距離だ。

ちらちらと見えるハスカップ、という看板が気になる。どうやら果物のようだが今まで聞いたことがない名前だ。どんな味なのだろう。看板に描いてある絵を見るにブルーベリーの様な実だが味は描けない。ジュースなどの加工品もあるようだ。

そんなことを考えながら室蘭入りをした。室蘭は北九州と同じく鉄の街で、新日鐵の大規模な製鉄所がある。
快適軽快に進んでいた旅程だが、街中に入ると一気に進みが鈍る。5ステップくらいずつしかマップが頭に入らない上、知らない地名それも読みにくいものばかりなので、目的の地球岬の案内が出てくるまで気が抜けない。

室蘭にある地球岬はなぜ「室蘭岬」ではないのだろう。ここから見る水平線は「地球が丸く見える」という推しであるらしい。
北海道でも室蘭でもなく、日本を飛ばして地球かよ!と思いながら走っていると、目的の「地球岬」の表示が出た。
地図を見なくてよくなった安心感から少しホッとしながら、岬に向かう道を下っていく。

駐車場に着くとなんだか人だかりができている。なんだ?
「こんな綺麗なダブワン、その辺にないっちゅーねん!やろ?ナカジ?」
「はい、その通りで!」

なんだ?こいつら?
威張ってるヤツのバイクだが、たしかにクランクケースが特徴的に美しいバイクである。カワサキW1というらしい、寡聞にして知らなかった。
「おう、またがりたい奴はまたがってええで、特別や!」
「ハマちゃんは太っ腹やな!」
「まあな、はっはっは!」

ん?なんだこいつら?
関西弁はいいとして、明らかに性格がねじ曲がってる感じの小金持ちの息子とヨイショの下僕という感じだ。見てるだけで腹が立つ。
なんでこんな風に育つのか、親の顔が見てみたい。

「なんだろな、あいつら、イラツくつな」
ん?と振り返ると背の高い白黒皮ツナギのライダーがいた。
「俺はショウゴ、千葉から来た。君は熊本からか?」
そうです、と応えてそちらを見ると、習志野ナンバーで最新GENESISエンジンのFZ750がある。大学4年生らしい。2歳ほど年上だ。
自分も簡単に自己紹介をした。つらつらとお互いの現況を話した後、
「地球岬の後はどっちに向かうんだい?俺は知床方面に走るつもりだが」
ショウゴさんは言った。オレは高速なしで北海道の海沿いを左回りに走り、岬をめぐるつもりです、知床まではほぼ同じコースかと、と応えると
「それはいいな」
とショウゴさんはシンプルに答えた。

そのまま二人で展望台に向かい「地球が丸く見える」という地球岬という名前の由来を体感しようとしたのだが、二人とも
「これが?」
という感じで終わってしまった。
まあそういうことも往々にしてあるとは思う、名物に旨い物なし、と同義かな。

ショウゴさんとは徒然はなして気が合う感じがしたので、向かう先も一緒だからしばらく二人で同行することにした。
夕方になり宿を探すことにしたが、夏の北海道にはライダーズハウスというものがある。格安で素泊まりができるという掘っ立て小屋のようなものである。
個人的には女性がそういうところで襲われたとかいう話も聞くし、知らない人と一緒に雑魚寝する、というのはトラブルの元になりそうなのだが、ショウゴさんが
「テントは体力が回復しねえだろ」
というので、まずはいうことを聞くことにした。まあ雨風はテントよりもしのげるのは間違いない。風呂もあったし。

ショウゴさんに先導してもらい、くだんのライダーズハウスに到着すると、聞いたことのある甲高い声が聞こえた。

「ナカジ!オレの着替え持ってこいや!」

ああ...嫌な予感がする...。

====
さて、2年ぶりくらいの日本一周スレです。初見の方向けに説明すると、虚実織り交ぜた日本一周記を小説風味でまとめたものです。既に23スレがありますので、読んでみたい方は、PCからカテゴリを選んで「野宿日本一周」で適当なところからお読みください。
前回のスレは関連urlに貼ってあります。
ここまでは読者さんの要望もあり、青春いんぐりもんぐり的な展開でしたが、ここからはロードムービー的な感じにしていきたいと思います。
まあ伏線も貼ってありますが。


(ちなみにタイトル画像は拾い物です、問題あれば削除します)
Posted at 2021/04/07 22:22:11 | コメント(2) | トラックバック(0) | 野宿日本一周 | 日記
2019年04月18日 イイね!

日本一周:函館にて(後編)

日本一周:函館にて(後編)あらすじ:ソロツーリング同士で出会った年上のお姉さん、チカさんと函館の浜辺でムムムな展開に…。

大きくて真っ黒な目は何も言わず、ジッと僕をみている。僕は身動きできず、かといって目をそらすことも出来ず互いに見つめ合う格好になった。
波の音、潮の香り、チカさんのムネの暖かい「やわん」とした感触に花のような香りと大きな黒目。
自らの経験値のなさを呪う。この後、どうすればいいのだ!
チカさんの左手がゆっくりと僕の顔の前に、そして「キツネ」の形に…?

「いてっ!」

チカさんはピシッと僕の額にデコピンをくらわせた。

「ふふふっ、悪口言った罰だよ。」

えええっ!?
ま、まあとりあえずこの硬直した状況が打開出来たのは良かったが、変わらず僕は立ち上がれない。だから、理由は聞かないで欲しい。

「ふふふ、埠頭で君に声をかけたのは、荷物にテントが積んであったのと、熊本ナンバーだったから。テントを持っているということは野宿ができる人、熊本から来るくらい気合いが入っているならきっとベテランライダーのはず、と思ったから。
ヘルメットをかぶっていたから顔は見えなかったけど、その赤白のめでたい出で立ちは、フェリーの中で目立っていたから、ああ、あの子か、と分かったの。電話ボックスから出てきたでしょ?船の電話なんてすごく高いのに、ちゃんと連絡する子なんだなと思ってみてたの。そしてその後何かノートを出して書いてたよね。マメな性格なんだろうな、と思ったよ。
君は私のこと見てなかったと思うけど、私はフェリーの中から君をみていたの。1人じゃ怖かったから、誰かと一緒に回らなきゃと思って、フェリーの中から探し始めてた。そしてこんなステキな夜になったんだから、私の目に狂いはなかったわ。」

そういって砂を払いつつ、チカさんは勢いよく僕の脇から立ちあがった。

「さっ、ランタンのところに戻ろう、ココは暗すぎるよ。」

ぼ、僕はもうちょっとココでタバコ吸ってます、といい火をつけた。生殺し状態からは解放されたが、もうちょっとあのまま続いていても良かったけどなぁ…。
うん、で、今は立てないしね、だから理由は聞かないで!

それにしても中々の観察眼だ、そして論理的である。今までそんな女性には会ったことがなかった。多分、仕事も出来る女性なのだろう。だから大きな仕事を任されたのだ。

チカさんはその後とてもスッキリした様子で、ノルマのビール4本を軽々と飲みあげ、僕の助けはいらなかった。
バイクの話、彼氏の話、仕事の話をとりとめなくたくさんして、夜もふけた23時頃に程よく酔って互いのテントに潜り込んだ。

翌朝は北海道らしい、爽やかな夏の朝だった。伊豆あたりのテントの中で熱死しそうになって目覚める凶暴な夏の朝ではなく、ヒンヤリとした空気と青い空、鉛色の水平線に北海道を実感した。

野宿では常にトイレが問題になる。女性なら尚のこと大変だが、ここは夏に海水浴場となるからか、質素ではあるが男女トイレが側にあった。小さな公園的なベンチもあって、そこに水道も付いていたので、水回りに困ることはなかった。

朝の日課となっているラジオ体操をしながら身体を伸ばしていると、チカさんもテントから這い出してきた。
おはようございます、よく眠れましたか?と近づこうとしたら、

「お姉さんの寝起きすっぴんを見るんじゃない!」

と怒られた。彼女はその足でトイレに行って顔を洗って直ぐにまたテントに潜ってしまった。

昨夜は冷凍うどんだったので、残り飯はない。1合だけご飯を炊いて、インスタント味噌汁を入れ、湯を沸かして味噌おじやを作っていると、チカさんが再登場した。

「おはよう!なかなかよく眠れたよ。傾斜の向きと頭の方向を揃えたり、砂地を先に平らにしておいたりしておくことを教えてもらったからかな、ありがと!
こういうこと、全然知らなかったから助かったよ!」

元気なチカさんで良かった。と、その瞬間、昨夜の「やわん」が左腕に「幻触」として蘇り、1人赤面していた。

「ご飯何作ってるの?あっ、美味しそう…」

もちろんチカさんの分もありますけど、こんなんでいいですか?と聞くと満面の笑みで

「ありがとう!やっぱ私の見る目は正しかったわ!」

と、大声で言った。いや、ここは見る目じゃなくて僕を褒めるとこなんじゃないのかなぁ…と思いつつも、2人で朝ごはんを食べるのはまんざらでもない。

魚肉ソーセージを出そうとしたら
「またぁ?」
というので、とっておきのタマゴを出して目玉焼きにすることにした。
「そうでなくっちゃ!」

ベンチがあったことを思い出し、2人で並んで出来立ての朝ごはんを食べることにした。

僕はこのあと左回りで室蘭方面に行くことを告げると

「えーー!そうなの?私は江差方面に友達がいてそっちに行くつもり。逆方向じゃないの!こっちに来なよ!」

なんだか後ろ髪を引かれたが、とりあえず「岬」を巡ろうと決めていたので、右回りなら、最初の北海道での岬は地球岬と決めていたのだ。

「私は1週間しか北海道を回れないし、仕方ないか…そうだよね…ココでお別れか〜」

少しだけ寂しそうにする彼女の表情に、こちらも少しだけ優越感に浸れる。何も生み出すことのない、どうでも良いはずの感情だが、相手から必要とされることで人は精神的に存在できるなら、他人から一緒にいたいと思われることそのものが、その人の存在価値を産むのではないかと思う。
お世辞にでも一緒にいたいと言ってくれる人は、言われた人にとってかけがえのない人になる可能性を秘めている。
現に広島ではそれそのものに悩まされ、北海道行きを断念しかかったくらいだ、自覚はある。

いつも通りの荷造りを終え、あっという間に出発時間がきた。
マップをみると、どうやら目の前の道を左右に分かれて走り出すことになる。中々にドラマチックではないか。

キック1発、目覚めたBAJAは砂地を蹴立てて道路に向かう。そこで1度互いにバイクを降りた。お揃いで買ったクマ出没注意の黄色い旗が互いの荷物にはためく。

「ありがとう、ホントにステキな夜だった。あんな夜は今まで経験したことがなかったわ。最後だから言うけど、キミのこと、ちょっとタイプだったから声をかけたの、彼氏にはナイショだよ。じゃ、元気でね!」

ギュッ!
いきなりハグされて驚いたが、最後の「やわん」を自らの身体に焼き付けた。
僕は握手で返す。

昨夜の論理的なチカさんのイメージはガラガラと崩れ落ちたが、逆に何だか自信がみなぎる一言をもらった。まあチカさんの彼氏に会うことは一生ないので気にしないことにする。

ありがとうチカさん、ありがとう函館!とても良い想い出ができた。この後の道中では黄色の旗を見るたびにチカさんを思い出すだろう。
互いに手を振って左右に分かれて走り出す。
チカさんのヤマハFZ250フェザーは特徴的な甲高いエグゾーストを響かせて江差方面に消えていった。

北海道の青空と地平線がライダーのココロを刺激する。きっと今日もいい一日になる。
さあ、本格的に北海道ライダーの仲間入りだ!
Posted at 2019/04/19 00:04:41 | コメント(3) | トラックバック(0) | 野宿日本一周
2019年04月18日 イイね!

野宿日本一周:函館にて(中編)

野宿日本一周:函館にて(中編)あらすじ:熊本を出発して早3週間近く、とうとう自走とフェリーで函館に到着。函館山の夜景はいかに。

目のやり場に困る夕飯を早々に切り上げ、昼間に下見しておいた函館山に向かう。函館山の夜景は日本三大夜景の1つ?と聞いている。貧乏な若者たちにとっては入場料もいらないイルミネーション施設の様なものか。熊本でも頻繁にあちこちの夜景スポットに出向いていた。
いや、正直に言おう。夜景、つまり夜、暗くて人の少ない場所は若者たちの煩悩の巣窟である。カップルだろうが男同士であろうが、所構わずたむろするものだ。若者たちはお金がなく、時間は余り、人恋しいのだ。

しかし!今回は結果的にカップル感が出ているが、同行するチカさんとは本日午前中に出会ったばかりで、それも年上、夜景を見ながらモニョモニョできるような間柄ではないのだ。
断じてその様な邪な想いを持って函館山に登るわけではない。いくらチカさんが巨乳だからといって、断じてそんなことはないっ…と、と思う…。

若い男ならではの妄想を全開にしながら、僕は函館山に到着した。既に沢山の人がいて見た感じ、今来たばかりではない様子から、夕日という選択肢もあったのか、しまった!と思ったが、夜は始まってしまっていた。

人混みから少しだけ離れた場所で、改めて函館の夜景を見た。
うむ…やはり写真などとは全く違う、本物の迫力がある。眼前には双方海にせめられて、くびれた地形をクッキリと浮かび上がらせる函館の人々の生活の光があった。
小さくクルマのライトが動いていく。
キラキラと輝く町の光と海の漆黒のコントラストが美しい。両脇が海なのは九州では見たことがない地形パターンで個人的にかなり気に入った。

「あ〜、あの1つ1つの光に誰かがいるんだねぇ…」

ぼんやりとタバコをくゆらせながら、チカさんが言う。

街灯なんかもあるので、全部に人はいないですよ、と思ったが黙っておく。ここは雰囲気重視のシーンである。

「チカさんは、なんで北海道に来たんですか?」

と、僕は聞いた。そう、ここならこのセリフをはいてよい。夜景には酒と同じ効果があるのだ。

「ん…そうねぇ、何だか色んなものに行き詰まっちゃって…仕事とか彼氏とか…」

やっぱ彼氏いた!…いやいやそこじゃなくて、昼間の語尾に全て「!」がつくチカさんとはうって変わったオトナの女性感、全開である。

夏の日本の生ぬるい風が吹く。気ダルい感じに美しい夜景が不釣り合いだ。こういう時のタバコはいい。間が持つ。

「何で良かれと思ってやったことが、そうならないのかなぁ…学生の時だと見なかったことにしたり、スルー出来てたことが社会人になると出来なくなることが増えるのよね…まだまだ若手だしさ。」

チカさんはニコッと笑って僕に笑いかけ、大きなムネを手すりに載せ、昼間の底抜けの明るさを垣間見せた。女性経験値ドラクエLv18程度の僕では、年上の女性のこの笑顔には太刀打ちできない。せいぜい今の僕ではメイジキメラを倒せるくらいである。
笑い返して目をそらした。

ヌルい風がどんよりとやんわりと吹く日本の夜に青々とした雑草が斜面にたなびく。寄りかかる鉄製の手すりは冷たく気持ちが良かった。美しくくびれた函館の夜景と、ザワザワと観光客で騒めく展望所の隅で僕たちはあてどなく黙って夜景を見ていた。

「さて!帰ってビールでも呑もうじゃないの!」

急に元気を取り戻したようなチカさんに促され、跳ね上がる様に姿勢を正した。バイクにまたがり、キックでXLRのエンジンをかける。何だか心がざわついているからか、リアタイヤがおちつかない。いつも重い荷物を載せているからか、アクセラレータを開ける右手がいつもと同じ開度だとリアが滑ってしまうようだ。エンデューロタイヤだとグリップが舗装路に対してプァなこともあると思うが、こんな風になったことはなかった。僕の中でいつもと何かが違うのかもしれない。フェザーについていく形で帰路につく。
帰り道にコンビニでビールを4本買おうとしたが、

「えーーーっ!少ないでしょそれ!お姉さんが出してあげるから8本買いなさい!」

も、もちろん僕はビール4本くらい飲めるし、お代はお姉さん持ちなら何も文句はないのだが、チカさんは4本も飲むのだろうか。まあ余ったら僕が飲めばいいので、ありがとうございますと言って買うことにした。

野営地に戻ると、チカさんは三つ編みを解いて長い髪を解放した。僕は少し目を奪われてしまい、夏の夜風にフワリと流れる長い髪に見とれてしまった。

「なによ?フフフ…」

くっ、またも見透かされている感じが悔しい。こういうところを見過ごさないのがオトナの女性なのか。

「かんぱーい!プシュっとな!」

明るく乾杯をしつつ、グビリと缶ビールを飲む。キリンのハートランドが好きなのだが、あまり売っていないのでラガーで我慢だ。
僕はフライパンで魚肉ソーセージをハサミで切って焼いている。もちろん味付けはダイショーの塩コショウだ。魚肉ソーセージは焼いただけでも充分美味いがビールのツマミにするなら、ほんの少し塩コショウをかけるといい。

「キミ〜甲斐甲斐しいよね〜料理得意なの?」

いや〜魚肉ソーセージハサミで切ってフライパンで炒めるレベルはドラクエLv18なので大したことありません、というと

「何それ意味わかんない!」

と言ってチカさんは楽しそうに笑った。そして函館山に行く前の問題は更に増幅し、解いた三つ編みロングヘアにジャケットなしのタンクトップ巨乳ということになってしまった。いったい彼女の何処を見ればいいのだ。

「あのね……こんなこと言っても仕方ないか…うーん、でも聞いてくれる人いないしな〜」

その前フリは聞いてくれ、フッてくれと言わんばかりである。

「何ですか?言ってくださいよ」

完全に聞き役に回るしかない、何と言っても僕はLv18なのだ。
ガスランタンの灯がチカさんの顔に長いまつ毛の影をつくる。大きな黒目にランタンの灯が映り込み光っている。何も言わずに2本目のビールを開け、少し考え込んでいるように見える。
こういう時は構った方がいいのか、黙ってた方がいいのか経験値の足りない僕には分からない。しかし構うにしても構い方が分からないので結果黙って見守ることになった。

とはいえジロジロと見るわけにもいかないので、非常食の魚肉ソーセージの2本目を出し、ケースをハサミで切って5mm厚に切りながらフライパンに落としていく。火が弱くなってきた気がしたので、1度フライパンを外してガソリンコンロに追加のポンピングをした。

カシュっ、カシュっ、カシュっ、
カシュっ、カシュっ、カシュっ!
シュゴー!!

燃料タンクが加圧され、気化したガソリンは勢いよく吹き出し、コンロは勢いを取り戻した。

「ねえ、それ何やってるの?」

僕はガソリンコンロの仕組みを説明した。ガソリンの吹き出しや燃焼によるガソリンの減少と共にタンク内が減圧してしまうので、たまに加圧をしてやらないとガソリンが吹き出さなくなってしまうのだと話した。

「ふーん…わたしにもそういう『やる気スイッチ』的なものがついてると良いんだけどなぁ」
伏し目がちにボソリと話す。

「充分元気で、ヤル気マンマンに見えましたよ、昼間は。夜は別人に見えますね。」

「ふふふ、昼はちょっと無理してたからね。」

「なぜ無理をしてるのですか?秋田で何かあったんです?」

「なんかあったから、こんなところに一人で来てるんでしょ、もー。いきなり知らない男の子に声かけて2人でキャンプしてるなんて、今までの私じゃ考えられないわよ。」
真っ黒な目をこちらに向けて、微笑みながらチカさんは言った。

「そしてビールを呑みながら、ランタンの灯にてらされて、魚肉ソーセージを食べているというわけですね…」

「そうね!昨日の夜まで、今夜こんな風に過ごすなんて思ってもみなかった。ステキな夜ね、ありがとう。」

チャーミングな笑顔とど直球な感謝の言葉にキュンときた。さすがに照れる。僕としてはコレが最近の毎日の暮らしになっているが、昨日まで普通にアパートで一人暮らしだった彼女からしてみれば、ここは全く非日常の世界なのだと瞬時に理解した。

風向きなのか、チカさんの方から流れてくる風は花のような香りがした。
ドキドキする内心が表に出ないよう、何も知らないフリをして、忙しくフライパンの中の魚肉ソーセージを炒める。

「魚肉ソーセージってこんなに美味しいのね!ビックリしたわ。」

食べて喜んでくれる人が目の前にいると、作り甲斐もあるというものだ。
ガスランタンのホヤの間にタバコを寄せ、火をつけ、ビールをあおる。

「あっ、カッコいい、私もやりたい!」

チカさんも少し元気が出てきたようだ。いや、酔っているのか…。
西湘バイパス下で焚き火の燃えさしで火をつけるのがカッコよく見えたので、僕はつい最近タバコを吸い始めたのだと話すと、

「わかる〜、今のカッコ良かったもん、焚き火あるともっといいね。」

まあカメの様に焚き火は得意ではないので、張り切り過ぎるのはやめておこう。

チカさんも同じ様にランタンを使ってタバコに火をつけ、ふうわりと白い煙が夜空に広がっていく。

少し遠くで波の音がした。
ココは海だったと思い出す。
タバコをくわえたまま、チカさんをテントサイトに残して、一人で暗い波打ち際に進んでみる。ランタンに慣れた目は遠くの街の光しかない暗い波打ち際を見ることができない。波の音を頼りに近づいてみる。素足に伝わる砂が締まってきた様な感触は波打ち際が近いことを教えてくれる。

「夜の波打ち際って、真っ暗なのね…」

全く気配がしないのに後ろから声がかかったので驚いた。チカさんが後ろにいたのだ。

「きゃっ!」

いきなり抱きつかれ、やわん、とした感触が僕の腕にギュっと押し付けられ反射的に身体が硬直してしまう。ムネっ!ムネが当たってますっ!

「あはは、波打ち際に寄り過ぎたか〜」

離れるのかと思いきや、そのまま後ろにグッと腕を引かれて、暗い砂浜に座らされる。僕の手は折り曲げられ、手は握られたママで、チカさんのムネのあたりに二の腕が押し付けられる。そしてチカさんは隣に座り込んだ。
想定していなかったシチュエーションに僕の心臓は早鐘を打つ。

「ほら〜新しいの持ってきた、ここで飲も!」

チカさんは僕の分もビールを開けてくれて、渡してくれる。てゆーか、マジで近い!

「あのね…」

は、はいっ!なんでしょう!
どうやらチカさんは胸にしまっていた話をするつもりになったらしい…。それにしても生殺しレベルのシチュエーションに僕は立てなくなった。理由は聞かないで欲しい。

「仕事のことなの。先回りしたつもりで色んな人に仕事をお願いして並行して上手くコトが運んでたと思ってたのね。そしたら元々私が渡したデータが間違ってたことが分かって、せっかくみんなに協力してやってもらったものが全部ダメになっちゃったの…。上司や皆んなにスゴく迷惑をかけて、皆んなが頑張ってもう一回最初からってことになったの。でも誰も私に文句を言わないんだよ。怒ったりしてくれた方が随分気が楽だったと思うんだけど、皆んな黙々とリカバリしてくれたの。
もう自分が情けなくて給湯室で1人で泣いてた。
まだ終わってはないけど、納期に間に合う目処はついたから夏休みはとれたのね。」

うむ、それはかなり痛い話だ。皆んなが何も言わないのが逆に怖い。自分が原因であることが明確なのだが、1人ではリカバリできないことも分かっているので皆んなに頼るしかない。
って、その時の僕は冷静になど分析できない心理状況である。
「やわん」状態は継続中、かつギュっと押しつけられ暖かく包まれる左腕、さっきかいだ花のような香りが至近距離にあって、もはや全く立てなくなった。いや、理由は聞かないで欲しい。

「そんなことがあったんだけど、心の支えは夏休みに彼氏とツーリングにいく約束をしてたこと。1ヶ月前から計画を立てて準備してたのに、出発前日に『得意先からゴルフのコンペの幹事を仰せつかってしまって行けなくなった…ゴメン…。』だったの。
1人で家でふてくされていても、気分が晴れないから、思い切ってソロツーリングにしたんだけど、正直野宿なんてやったことないし、1人で野原で寝るのは怖いしどうしたら良いのかな…と思っていたら、フェリー埠頭で君と会ったわけ。」

ん?
僕を見てオトコ的にアンパイ?と思ったのか?に疑問は残ったが、一旦スルーした。

「そうか…それで異常なハイテンションだった訳ですね、なんだか変なお姉さんかと思いました。」

「ヒドイこというのね!」

チカさんは両手でやさしく僕の頬を挟み、グッと自分の方に向けた。
暗闇の中、真っ黒で大きな瞳がこちらをみていた…。

(長くなりすぎたので、ここで「地獄引き」として、後編にします(笑))
Posted at 2019/04/18 09:36:17 | コメント(4) | トラックバック(0) | 野宿日本一周 | 日記

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