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ひでエリのブログ一覧

2016年12月24日 イイね!

日本一周5日目夜:天竜川支流野宿

日本一周5日目夜:天竜川支流野宿前回までのあらすじ
浜名湖の裏街道の上り峠を気持ちよく駆け上がるが、雨上がりの路面に流れる水にグリップを失い転倒。萎えた気持ちで野営地天竜川支流に向かった。
=====
野営地に決めた橋は二車線の県道下であり、堤防の脇から進入できた。
まだ日は高かったがドンヨリとした空には雨の予感もして、やはり橋の下での野営が必要だと思った。朝目が覚めて全てが濡れているというシチュエーションほど萎えるものもない。

荷物を解いてテントを設営し、テントの中に道具を入れる。身軽になったバイクで近所のスーパーに向かう。こんな時用に紐リュックを携帯している。買い出した食材を入れるためのものだ。
実は地元のスーパーに行くのは旅の楽しみの1つでもある。地元のオバさんたちの方言会話も楽しみだし、食材に珍しいものがあったりするのだ。ただし、珍しい食材があっても料理できないため、買うものは決まっている。

緊急食料の袋ラーメンを消費したので買い足すことと、今日の夕飯のおかずとビールを2本買う。
おかずは…ギョウザにした。値段的に豚バラ肉の細切れと悩んだが、野菜の切り売りがなく、毎日食べ切らなければならないこちらとしては一人だと野菜は買いにくい。ギョウザなら肉と野菜が一度にとれる上、何より好物だ。おまけに大好きな魚肉ソーセージを買った。

テントに戻ると、夕方の犬の散歩にきたおじさんが、珍しそうにテントを見ていた。

こんばんは。

「こんばんは、これはあなたの?」

マズい、こんな所にテントを張るなと怒られるのか?

「熊本から来たの?遠いところから来たんだね、どれくらいかかったの?」

どうやら単に興味があるだけのようだ。ひとしきり道中の話をして笑顔で別れた。
街中での野営については少し心配になった。
山の中など誰もいないところでは他人に気を使う必要はないが、このような橋の下では警察などが巡回してくれば、やはり何がしかの文句は言われる可能性も否定できない。
ビールを飲んだ後に立退けと言われると困るなぁ、運転できないし、そうなったら今晩一晩だけで明日朝に立退くからと懇願していさせてもらおう…などと考えながら、夕飯のルーティンに入る。

いつも通り飯盒でご飯を炊いてひっくり返して蒸らし工程に入ってから1本目のビールを開ける。
テフロン加工してある小型の折りたたみフライパンに薄く油をひいて温めてからギョウザを投入。蓋がないのが残念だが、このままだとフライパンに当たっていないところが全く焼けないので、最初の面に焦げ目がついたところで少し水を入れ、コロンコロンとひっくり返して、気持ち柔らかく仕上げた。

本日はさらに豪華に魚肉ソーセージ、そうギョニーを剥いてハサミでチョキンチョキンと適当に切って塩コショウで炒めた。
ビールのつまみに最高なのだ。
通常、台所でモノを切るには、まな板と包丁などという2つのグッズが必要だが、野宿調理では、鍋の上からハサミで適当に切り落とせば良いのである。
そもそも盛り付ける皿もない訳で、料理を綺麗に整える必要などないのだ。純粋に食えるレベルかどうか、美味いかどうかだけであり、見た目は割とどうでもいい。
ラジオのスイッチを入れ、ナイターを聴きながら、「豪華」な夕飯を食べビールを飲む。
ふむ、非常に充実している。

実は今夜は彼女に電話をする曜日なのだ。昼はフィールドワークだが、夜は部屋に帰ってくるので電話は出来る。
広島から神戸まで悩みながら走った時の気持ちに嘘はなかったはずだが、神戸を出てからは正直、走りや野宿のことに集中していて、彼女のことばかりを考えている訳ではなかった。

いまこんな気持ちであるということは、広島を出発したことはたぶん自分にとってよいことだったのだと理解はできた。
かたや、何だか自分だけがそんな想いだったのではないかと、少し悔しい想いもある。
広島を離れる自分に対して、彼女はどんな想いだったのだろう。そんなことは直接は聞けない。

ビールを2本飲みきり、ガスランタンを消した。いつものように100円玉数枚と10円玉をあるだけもって、土手の向こうにある公衆電話に向かった。

もしもし、こんばんは。いま大丈夫かい?

「こんばんは。今は何処にいるの?」

実はいま、病院にいるんだ。

とっさにウソがでた。

「えっ?どうしたの?」

実は浜名湖の裏街道でコケてしまって、腕を骨折してしまった…だから病院なんだ。

「…えっ…他は大丈夫なの?何処のなんていう病院?浜名湖ってことは静岡まで行ってるのね?大分には連絡できてるの?」

うん、親からはこっ酷く叱られて、退院次第、大分に強制送還だよ。

「明日行くから、病院の名前と電話番号を教えて!」

マズい、本気で心配され始めた…。

ええと、あの、その…ウソ、嘘ですゴメン!
元気に走ってます。入院はウソ。
でも峠でコケたことは本当で…

「……っ、なんてウソ言うのっ!本当に心配したじゃないっっ!コッチの気も知らないでっ!」

あっ、本当にゴメン!ゴメンなさい!!

マンガでいえば、彼女の背景に、ゴゴゴ…ッ、と描いてある感じだ。

「コケたのは本当なの?何処かに怪我はしてないの?」

えーと、ゴメンなさい…左肘をえぐってしまったけど、それ以外は軽い打ち身程度で何ともないです…。

「何で変なウソつくの!それで左肘は大丈夫なの?大体あなたは…っ…」

本気で怒られた…。立場が逆なら同じ反応のはずだ。とても申し訳ない気持ちになった。ウソをついた事自体というよりは、軽い気持ちでウソをつきたくなったその理由に対してだ。

申し訳ない気持ちは心から本当だったが、彼女からこっ酷く叱られながらも、少し嬉しかったのもまた本当だった。

(タイトル写真は天竜川。写真はwikiより拝借しました)
Posted at 2016/12/24 16:22:45 | コメント(1) | トラックバック(0) | 野宿日本一周
2016年12月18日 イイね!

日本一周5日目午後:浜名湖転倒

日本一周5日目午後:浜名湖転倒前回までのあらすじ
雨の神戸からスタートし、昼には晴れてきた。鬱憤を晴らす様に浜名湖の裏街道の上り峠を駆け上がる。しかし大きく傾けたバイクを待っていたのは乾いた舗装路に出来る川だった…。
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左コーナーを旋回するために傾いたバイクは、路面に流れる水であっという間にタイヤのグリップを失った。
ローサイド、つまりバイクを倒している側にそのまま転倒した。ハイサイド、つまり倒している方向と逆サイドへの転倒でなくて良かった。ハイサイドだと最悪、バイクが上から降ってくるのだ。そうなったらタダでは済まない。しかし車体下の左側のステップは路面に接触し火花を散らしている。

対して、バイクを投げ出す様に転倒した私は、ゴロゴロと路上を転がっていた。
愛車が火花を散らしながら滑っていくスローモーションの世界の中で、高校生の時、父親に反して自転車ツーリングをやって山の中で転んだ時のことを他人事の様に思い出していた。

あの時は友人たちと一緒だったので、すぐさま助けが来た。今の状況は完全にソロツーリングで助けは来ない。あの時は太ももを盛大に擦りむいただけで大怪我はなかった。今回はどうだろう。
バイクが壊れてしまったら旅は続けられない。次に身体、骨折でもしたら父親からそれ見たことかと激昂されて連れ戻されるだろう。面倒なことになったな、と思ったより冷静に考えていた。

バイクは反対車線の端まで滑って止まった。路側壁にぶつからなくて何よりだ。左コーナーだったのが幸いした。路面との接触距離が長かったため路上で止まってくれたのだろう。

自分の身体の回転も止まった。手足を拡げたりして無理に踏ん張らず、手足を縮めて勢いのままに転がったので良く回った。4回転ほどで止まり、すぐさま立ち上がった。手にも足にも力が入る。良かった、骨折などの致命的な怪我はなさそうだ。
勢いバイクに駆け寄る。転がっている間に確認したが、次のコーナーはこちらから見て右コーナーである。下り車線からはブラインドコーナーで、曲がったら目前にバイクが道の真ん中に倒れている状況だ。
2次事故は防ぎたいし、バイクを壊す訳にはいかない。重い荷物だがほどいている暇はないので、力任せに持ち上げ、なんとかバイクを立てた。サイドスタンドを立ててギョッとしたが、フタのない側溝まであと10センチしかない。側溝に落ちていたら引き上げるのに一苦労だし、多分絶対に何処かが壊れただろう。

ホッとするのもつかの間、上から軽トラックが下りてきて、ビックリした様子で避けていった。バイクを立てていなければ、バイクは軽トラックと接触していただろう、危なかった…。
歩いて対向車線の様子を見に行き、問題なさそうなことを確認して、元の車線までバイクを押して戻る。
問題なく車輪は回る。火花が出ていた左ステップも多少削れているが使用には全く問題はない。ハンドルの左グリップが少し削れたがハンドルそのものが曲がるようなことはなかったので、ぱっと見バイクは大丈夫そうだ。

続いて自分の身体だが、目立った外傷はないものの、最初の路面との接触の際に、左ヒジを路面に打ち付けた様だ。
ジャケットの左肘に穴が空き、ジャケットの肘から下がほつれている。
上着を脱いでヒジを見るとかなり深く抉れた傷跡だ。しかし血は滲む程度しか出ていない。切り口というか抉り口が白っぽいのだが、まさか骨じゃないだろう。良くはわからないが大判の絆創膏なら何とか隠せる大きさだ。ただ半日後には大きなアザができるだろう。打ち身は多分身体中にあるだろうが致命的なものは1つもなかった。
合羽を脱いだ時に面倒がらずに長袖のライダーズジャケットをちゃんと着た自分を褒めたい。長袖でなければ上半身はかすり傷だらけだったはずだ。

とりあえず持っていた水でヒジの傷を洗い、絆創膏を貼った。消毒は後で良いだろう。バイクの荷物も比較的軽傷で、防水の荷物カバーが擦れて穴が開いたくらいだ。裏からガムテープで補修すればしのげる程度である。
バイクのエンジンもキック3発で再始動した。少し走ったが特におかしいところはない。ダートでは何度も転がしたBAJAだが、舗装路で転がしたことは実はない。転倒した時のバイクのダメージはダートと舗装路では雲泥の差であるが、運良く今回はバイクもライダーもほぼ無傷であった。

林道を走ろうと寄り道で上がってきた浜名湖の裏街道だったが、すっかり気持ちが萎えてしまい、温順しく野営地予定の天竜川辺りを目指して下ることにした。

目標の天竜川には15時についた。ただ国道下は広いのだが、勝手に野宿ができる雰囲気ではない。
運良くこの辺は何本か川と橋がある。支流や国道の他も探ることにする。
30分ほどウロウロすると鄙びたいい感じの「橋の下」が見つかった。
実家の近くの風景に似た支流の下に野営をすることにした。

(タイトル写真は浜名湖の拾い物画像。山から見る浜名湖はこんな感じである)
Posted at 2016/12/19 08:18:07 | コメント(3) | トラックバック(0) | 野宿日本一周 | 日記
2016年12月18日 イイね!

日本一周5日目午前:神戸から浜名湖へ

日本一周5日目午前:神戸から浜名湖へ前回までのあらすじ
広島に住む彼女と別れ神戸まで。雨が降り始めビジネスホテルへ。シャワーを浴び部屋の電気ケトルでラーメンを食べ、泥のように眠った。
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夜半に一度目が覚めたが、朝までしっかり眠った。またも朝飯がないので、サッサと用意して出発することにする。
ただ天気予報通り、雨が降っている。量も結構なものだ。朝から合羽を着てスタートするのは嫌だが仕方がない。

相変わらずホテルのフロントの人をドン引きさせつつ、大荷物を荷台で運んでバイクに載せた。
どんよりとした雨空の下を走り出す。
今日こそは野宿にする。ただし雨の中の野宿になりそうなので、早めに準備、かつ野営地になりそうな時間に、余り都会でない地点、かつ雨でも問題のない場所にいなければならない。
よく考えるとかなり難度の高い話である。

国道は2号線から1号線に変わる。この道が日本橋に繋がっているのかと思うと、中々感慨深い。「東京 XXX km」にはモチベーションが上がる。が一方、一気に走り切れそうな気がして困る。早く着き過ぎても友人たちとの予定が合わないのだ。それこそ東京には野宿する場所はないだろう。

昼頃になると愛知県を経由して静岡に入る。空は引き続きどんよりとしているが、雨は止んだので、大嫌いな合羽を脱いだ。夏の高気温の中、いかに透湿素材とはいえ、合羽を着ていると風を通す量が格段に減るので、普通に走っていても暑いこの季節、蒸し蒸し感は相当不快だからだ。
合羽を脱いで普通に戻っただけなのに、その爽やかさにはため息が出た。
ロードサイドの小さな売店でバイクを停めた。パンと牛乳で昼飯にしつつ、地図とにらめっこしながら野営地決めである。

先ずは16時には野営地に着いておくことにする。テントを張る前後に夕飯の買い出しもあるので暗くなる前に余裕を持っておきたい。
そして本日に限っては雨の懸念があるのでコレをどうするかだ…。
屋根のあるところで野宿…脳裏に浮かんだのはホームレスの方々のお家である。つまりリアルに「橋の下」だ。ほどほどに人目につかず、雨に濡れず、平たい場所で目の前には川がある。
野宿するには天国の様な場所だと改めて気づいた。

つまり
1.今日は16時に野営地決定
2.場所は橋の下
と決めた。

あとは場所にアタリをつけねばならない。
地図を見るに浜名湖の向こう、天竜川辺りは川も大きく河川敷も広そう、かつ国道も通っているため広めの「橋の下」がありそうである。

であれば、少し時間が余りそうなので、浜名湖の裏あたりの山に寄ってみることにした。
毎日平坦でペースカーのいる下道ばかり走っていてはつまらない。やはり峠か林道を走らねば何故バイクに乗っているのか分からん、と意味のよく分からない決意を胸に浜名湖の裏山に向かった。

バイク乗りなら皆知っていることだが、バイクというのはクルマと違って、ハンドルを切って曲がるものではない。まあ確かに極低速ではハンドルを切って回頭するが、通常走っている時にはバイクを倒すことによって曲がる。接地感の問題を除けばハンドルに直結しているフロントタイヤが無くても、バイクが倒れることによって曲がることは出来る。GPライダーなどがフロントを浮かせつつ、バイクを切り返して見せたりするアレである。
そうなるとフロントタイヤは物理的な仕事をほとんどしなくなり、実質的なホイールベースはゼロ、クイックなコーナーリングが出来る。いわゆる「リア荷重ができている」「乗れている」状態に近くなる。

裏街道はペースカーもおらず走りやすい貸切状態だ。この辺は雨も上がって時間が経っているようで、路面も乾いている。上り峠を全開に近い出力で上がっていく。

今回のバイクのタイヤ仕様はターマックツーリングとオフロードライドの中間を狙っている。
フロントタイヤはエンデューロレースなどで使われるIRCの定番モノである。公道では余りブロックしそうにないが、ダートではデカいブロックがガッチリダート路面をグリップしてくれる。オフロードは比較的低速域であり、コーナーリング時のフロントタイヤの仕事は沢山ある。
リアタイヤのブロックは小さく平坦であり舗装路向けの純正。オフロード寄りとはいえ、泥をかくエンデューロ用のタイヤと比べれば比べものにならないほど舗装路面をガッチリグリップする。

今はリアには大きな荷物が載っていて特別なテクニックが無くても、勝手にリア荷重になるシチュエーションだ。その上、ここは上り坂、リア荷重はさらにかかりやすい。
自分でも驚くほど「乗れている」感覚である。バイクは非常に気持ちよくクイックに曲がり、峠を駆け上がる。

右、左、どんよりとした空の合間に青空が見える。気持ちいい。

続いて右に大きくバイクを倒した時に「カリカリッ」と音がした。信じられないことだがステップを擦ったようだ。
オフロードバイクはオフロード走行を旨とするゆえに地上からのクリアランスが大きい。伴って脚を置いておくステップも相当高い位置にある。オンロード車は比較して低い位置にステップが配置されており、バイクを倒し過ぎない様に、ステップにはバンクセンサーと呼ばれる突起が付いていてバイクの倒し過ぎを教えてくれる。が、オフロード車にはそんなものは付いていない。通常そんなに倒せるものではないからだ。

内心、初めての体験に焦っていた。オフロード車のこの高い位置のステップを擦るということは相当バイクを倒しているということ、フロントタイヤはこのシチュエーションだとほぼグリップはしていないとすると、リアタイヤだけでバイクを制御していることになる。リアタイヤの接地面とステップに延長線を引くとリアタイヤが接地している量はタイヤの端も端、もうグリップなど出来る余地はない。

マズい、倒し過ぎている。バイクを起こさなくては!

そう思いながらブラインドカーブを左に切り返した瞬間、路面に黒く長い影が見えた。
雨上がりの時に出来る川だった…。

(タイトル写真はフロントタイヤのブロック形状。最新のIRCのエンデューロタイヤだがイメージとしては同じである)
Posted at 2016/12/18 09:57:19 | コメント(4) | トラックバック(0) | 野宿日本一周 | 日記
2016年12月13日 イイね!

日本一周4日目:広島から神戸へ

日本一周4日目:広島から神戸へ前回までのあらすじ
彼女から出生の秘密を打ち明けられたが、何も出来ず。最後は彼女に1stキスを「奪われる」という体たらく。しかし満足、しかし…。
=====
いつもの様にテントの中が暑くて目が覚めた。昨夜の残り飯などないので、用意すべき朝食もない。準備が出来たら出発だ。昨日の朝の水場に行って顔を洗いヒゲを剃る。
次の目的地は東京である。中学時代からの友人2人が上京しているのだ。

しかし出発にモチベーションが上がらない。東京、北海道と走りつなぐことに不安になったのではない。彼女である。

こんなに楽しかった広島、不安げに泣く彼女、笑顔の彼女、優しい彼女の顔が頭から離れない。普通の彼氏というのはこのまま広島に留まって一緒に夏休みを過ごそう、となるのではないか。夏休み全てでなくても、2泊3日は幾ら何でも短いのではないか。彼女のフィールドワークは3日で終わると言っていた。
あと3日待っていれば、また昨日の様な楽しい日々が送れるのではないか…?

悶々と考えつつ、手は半ば自動的に出発の準備を整える。朝の洗い物などがなければ準備はせいぜい30分だ。大きなビニール製の防水カバーにボストンバックと寝袋を入れて濡れない様にしたのち、ゴム紐でぎゅうぎゅうに荷台に括り付ける。あっという間に支度はできてしまった。

まだ頭の中はまとまっていない。しかしどんな時でも腹は減るのだ。とりあえずコンビニに行って朝飯を調達しよう。これは出発じゃいからな…。
自分自身に言い訳をしながらBAJAの単気筒エンジンに火を入れる。今日も一発で始動、元気で何よりだ。

昨日の朝、彼女と待ち合わせたコンビニに停め、店の軒下の日陰を借りて、おにぎりを食べ、冷たいお茶を飲む。

もう彼女はフィールドワークに出たろうか。そもそも何処に行くのかも聞いていなかった。聞いていれば見にいけたのにな、と迷惑なことをバイクを眺めながら考える。

今回のツーリングの赤白のカラーリングは自分の服装だけではなく、バイクもである。シートは張り替えてコレも赤白になっている。
新車で買ったのでほぼ目立った傷はないが、そもそも山の砂利道を走るために買ったバイクなので、飛び石や多少の塗装ハゲは勲章である。フレームの下の方は白い塗装がところどころ剥げていた。これは「盆栽」ではなく、本当に山に入って攻めている証拠である。

ただ唯一気になっているのはガソリンタンクの左側のヘコミだ。バイクは安定させるために両足でニーグリップをするが、その時タンクは拠り所として非常に大事な役割を果たす。常に膝でタンクを抑えるため膝が常に当たるところにヘコミの反動で膨らんだ部分ができて塗装が剥げているのだ。
何故こんなところがヘコんでいるかというと、阿蘇のお勝手クローズドダートコースを走っている時に、ハイサイドを食らったのだが、それを左脚で押さえ込んだ。その時に自分の膝でへこませた。頑丈な鉄のタンクを生身の脚でヘコませるのだから、脚の方もタダでは済まなかった。1週間くらいはアザが消えないくらいひどい内出血だった。
その塗装ハゲを見つつ、おにぎりを頬張り、まだ、考えている。食べ終わっても考えた。お茶を飲んで考えた…が、答えは出ない。

いま広島を離れると決め、目標の日本一周を成し遂げようとする冷徹な自分と、彼女と一緒に広島でもっと過ごすと決める自分。

昨夜から延々数えて約3時間悩んだが答えは出ない…。こういう時は止まって考えていても答えは出ないと決め、答えが出て広島に留まりたい、であれば3日のうちに戻ればいいと答えを出した。とりあえず東へ向かう。

考えが決まりさえすればやることは単純だ。淡々と下道を走る。北九州では国道3号線だった番号は、2号となっている。国道2号をひたすら東へ走るのだ。苦手な都会を何度も抜ける。日本の太平洋ベルト地帯はほどほどの都会が続く構造で、道に迷いやすい。しかし慎重に走り気がついたら300キロを越え神戸に入った。

距離を稼ごうとするあまり、欲張って神戸まで来たは良いものの、またすっかり暗くなってしまった。
テントを張るタイミングを誤った…。
ならばと港の方に行ってみるが、宇品のような雰囲気ではなくテントなど張れなさそうだ。
グズグズしていたら雨が降ってきた…今夜は降参である。周りがよく見えない状態で雨の中、野営は厳しい。

実は港に来る途中、空きありと書いてあるビジネスホテルを見つけていたのだ。
ホテルの前までいって電話番号を控え、最寄りの電話ボックスで電話する。

あのぅ、今夜空いてますか?
素泊まりで良いのですが。
あと、バイクが置ける場所、ありますか?
洗濯機とかは?

「あ、大丈夫ですよ、バイクOK、洗濯機もあります。何時にチェックインできますか?」

あ、いま目の前なので直ぐ行きます。

全然野宿旅じゃねえなと思いながら、駐輪場で荷物をほどく。面倒だが置きっ放しというわけにはいくまい。
小雨で濡れた格好のままオフロードブーツをガコンガコン言わせながら行くと、あからさまにフロント担当は引いていた。台車を借りてリュックと巨大なウエストバックを載せ、もう一度バイクに戻る。大物のボストンバックと寝袋などを借りた台車に積み増してチェックインした。

狭い部屋だが数日ぶりにシャワーを浴びることができるし、洗濯も出来る。ありがたい。
小雨に濡れたジャケットとオフロードパンツをハンガーに干し、早速風呂に入って荷ほどきをして洗濯物をまとめ、小銭を持って洗濯機に向かった。洗濯機に洗濯物を突っ込んでからフロントに行き、最寄りの定食屋などをたずねようとして、慌ててコンビニを聞く。
数日間リミッター解除して豪遊したので倹約だ。

「この時間は近くの店は閉まっているし、コンビニまでは歩くと結構かかります。バイクでお越しになるなら…」

うーむ、もう風呂にも入ったし、外は結構な雨が降っている。カッパを着てバイクに乗って買い物…ブルル…あり得ない。外に出るのも面倒である。
教えてくれたお礼を言って部屋に戻ることにした。
手持ちの食べ物は、米、レトルトカレー、袋ラーメンと卵である。ストーブはあるが部屋で煮炊きをすれば火災報知器が作動するかもしれない。さてどうするか…。

部屋を見回すと電気ケトルがある。少し考えてこいつでラーメンを作ることにした。
朝、宇品港の公園の水道で満タンにした手持ちのタンクの水を使い、電気ケトルで沸騰させた。電気ケトルは沸騰するとスイッチが切れてしまうのでコンセントを抜き差ししながら湯を沸かし続ける必要がある。
それはまあ横についていれば大したことはないのだが、目下の問題はラーメンがケトルの口から入らないことである。
しかし、コレは野宿生活、心の師匠である寺崎氏から既に学んでいる。ラーメンを真っ二つに割れば良いのだ。麺が少し短くなるが大勢に問題はない。
パコッ。多少真ん中からズレたがもちろん問題ない。

電気ケトルの面倒を甲斐甲斐しくみつつ、数分で麺は茹で上がる。
丼代わりの大きめのコッヘルに粉末スープと生卵を落とし、ケトルで茹で上がった麺を投入する。
さすがに電気ケトルの中に粉末スープを入れるという暴挙には及ばない。洗うのが面倒だからだ。卵入りラーメンが出来上がった。コレで腹は満たせる。

速攻で完食し洗い物を済ませる。洗濯物を乾燥機に移しに行くついでに、ホテルの自販機でビールを買った。多少高いが仕方ない。
実家にも電話した。どうやら日本地図に宿営地を書いているらしい。向こうは向こうで楽しそうである。要は父親が心配しすぎなだけなのだ。

雨風がしのげる建物、便利な電化製品、電気ケトル、洗濯機、乾燥機、テレビ、全てがありがたい。
テレビをつけてビールを飲みながら天気予報を見ると、明日も雨だそうである。カッパを着て走るのは正直嫌だが仕方ない。
愛用のヘルメット、アライMX2はフルフェイスであるが、チンガード部分には雨を防ぐ機能がないため、鼻から下は雨が当たり放題である。

雨の中を走らねばならない憂鬱さを思いつつ、いつの間にか泥のように眠り込んでしまった。

(タイトル写真は愛車のシート。赤白でめでたい)
Posted at 2016/12/13 20:12:51 | コメント(2) | トラックバック(0) | 野宿日本一周 | 日記
2016年12月10日 イイね!

日本一周3日目:広島宮島

日本一周3日目:広島宮島前回までのあらすじ
広島ナタリーで楽しく彼女とデートしたが、その夜、宇品港で彼女の出生の悩みを打ち明けられる。泣かれてしまい、どうしたら良いのか分からなくなってしまった。
=====
よく眠れない夜だった。それでも朝はやってくる。うつらうつらとしただけのような気もするが、ここは広島で、短い彼女との時間を1秒たりとも無駄には出来ない。

とりあえず公園の様なところで水道を見つけ、顔を洗ってカミソリで髭を剃る。頭もちゃんとシャンプーで洗う。顔と頭を拭いたタオルをよく濡らして車内に持ち帰り、身体を拭く。本当は風呂やシャワーを浴びたいところだが、こんな朝早くからやっている銭湯はない。

ゴソゴソと着替えて近くのコンビニに向かう。適当に朝飯を買って車内で食べる。

起きてから、いや昨晩からずっと考えているが、分からない。実は家族と血縁のない養女であるということを彼女から打ち明けられた翌日、どんな顔をして会えばいいのか。
なかったことにはならない訳で、今日も1日彼女と一緒、それも広島滞在最終日なのだ。楽しい1日にしてあげたいし、したいのだ。

どうするべきかが決まらないまま、時間は問答無用に過ぎる。懸命に考えたが答えが出ないまま約束の時間、約束のコンビニに到着した。
駐車場に白いワンピースを着た彼女の後ろ姿が見える。ユックリと振り返ると、その顔は溢れんばかりの笑顔だった。
彼女の前に停めると助手席のドアが開く。

「ゴメンね〜昨日の夜は。あんな風になっちゃうなんて、自分でも驚いたわ〜。相当溜まってたんじゃね。あははは。」

わ、笑っている…。見た感じ笑顔にウソはないけれど、さすがに昨日の今日では私の方がぎこちない表情になってしまう。

「そんな顔しないでよ!今日はお弁当も作ってきたんじゃけん。さあ宮島にゴー!」

う、嬉しいが、この変わり身の早さというのか、切り替えの素晴らしさというか、は俺にはないものだ。
あ、アレか?女性特有の聞いてもらえればスッキリするというヤツなのか?
にしては、話が重すぎた。
でも無理をしているようにも見えない。
混乱しつつも残された彼女との時間を大切にし、楽しませたい、一緒に楽しみたい、という思いに集中することにした。

宮島はフェリーで渡るがクルマは持っていかない。本州側の駐車場にクルマを停め、歩いてフェリー乗り場に行って頻繁に往復している船に乗る。
ほんの少しの船旅を楽しんで、宮島に到着する。砂利を踏みしめながら有名な厳島神社への参道に並ぶ土産物屋や食べ物屋さんを横目に神社に向かう。

昨夜の重々しい雰囲気は全くない。昨夜のことを引きずっていない彼女と、楽しもうと決めた割には引きずりまくっている自分。
救いは楽しそうに話してくれる彼女だけだ。
恥ずかしがって写真を撮らせてくれなかったのだが、旅行中に持っていたいからと頼み込んで何枚か撮らせてもらった。
ファインダーから見える、木陰からチラリと顔をのぞかせ、ニッコリと笑う彼女はとてもチャーミングだった。

ベンチに座って彼女が作ってくれたお弁当を食べることにした。質実剛健なタッパーに可愛い細工をしたリンゴとかウインナー、卵焼きが入っている。鉄板すぎるくらい鉄板だが、まんまと嬉しい。
だいぶ気持ちも昨夜の出来事から解放されてきた。

と思ったら右の耳に生臭い息をかけられ、声をあげて飛び上がった。シカである。
高崎山のサルほどではないが、ここにもスキあらば観光客から食べ物をせしめようとする野生のシカがいるのだ。

そんな私を見て彼女は声をあげて笑った。
シカには大いに不満だったが、彼女を喜ばせることができたのでまあ良しとしよう。

お弁当を食べてお土産屋さんをまわり、ソフトクリームを食べたら、帰りのフェリーにちょうどいい時間になった。レンタカーは夕方には返さねばならないのだ。

まだ夜がある、と思っていたのだが、実はそんなに時間はなかった。渋滞にはまり数時間かけて広島市内に戻るとクルマを返し、荷物をバイクに戻さねばならなかった。
バイクになると一気に自由度が減る。ヘルメットも実は1つしかないので、タンデムも出来ないのだ。

2人とも徐々に口数が減ってくる。陽は落ち暗くなっても大学構内でウダウダしていた。バイクと荷物があるので、酒を飲むわけにもいかない。とりとめもなく話していたら、あっという間に21時になってしまった。

「明日のフィールドワーク、出発が朝5時なんよ…」

そうなんだ、じゃあ早く寝なきゃね…。
セブンティーンアイスの自販機の前でミントチョコを食べながら元気なく話す。
分かってはいるが別れたくはない。
ノロノロと彼女を送る準備をする。

ヘルメットをかぶりBAJAのエンジンをかける。いつも通り機嫌よく元気なエンジンだ。不必要に調子がいい。こんな時はキック一発でかかる必要などないのだ。
むしろ調子が悪くてエンジンがかからなかったりすると、彼女が心配して一晩だけ部屋に泊めてくれたり…なんてことはない。

彼女の自転車の後からBAJAの強力なダブルハロゲンライトで照らしながらノロノロと進む。
彼女のアパートにはあっという間に着いてしまう。アパートからは少しだけ離れたところで停まった。もう夜だし、例の男子禁制のアパートの住人や大家に見られたくないという配慮だろう。人通りも少ない道だ。
とうとうドラマティックな2泊3日の終わりである。元気なくうつむきながらモジモジしていると、彼女が言った。

「ありがとう、とっても楽しかったよ。昨夜はゴメンね。今日1日、スゴく気を遣わせちゃったね。でも嬉しかった。今まで誰にも言ったことはなかったのに初めて言えたの。本当よ。とっても楽になったの、あなたのおかげ。」

ニッコリと笑って彼女は言った。
またもや自分の矮小さに愛想が尽きる…単に別れるのが嫌だという子供っぽい感傷に浸ってしまい自分のことばかりである。
彼女を楽しませたい?口ばかりで自分のことばかりであったと白日に晒された気持ちだ。
彼女との別れの寂しさと自分自身への失望でガックリと肩を落とした。顔にも態度にも出ていただろう。もう隠しようがない。要は未熟な男なのだ。

どうしようもなく寂しい気持ちになって、サヨナラを言いたくない生き物の塊になっていた。ふと見ると、彼女が手招きをしている。



近寄っていくと、もっと近くと手招きをする。さらに近寄ると、頭を抑えられた。
彼女の背丈は私よりは15センチは低い。手を私の頭に伸ばそうとすると自ずと近寄らなけば手が届かない。近っ、と思った瞬間…

目の前に彼女の顔がきて柔らかいものが唇に触れた。

「じゃ、おやすみ。これからも気をつけてね。旅のところどころでハガキをくれると嬉しいな。じゃあね!」

踵を返し彼女が走っていく。運動神経がよくはないはずなのに、思ったよりも早く遠ざかっていく彼女の後ろ姿を呆然と見送った。遠くにカンカンカン…という彼女がアパートの階段を走って上がる音が聞こえた。

コレっていわゆるファーストキスってヤツか…?。余りに突然で何も準備していなかったため、「柔らかい」以外の印象がない。余りにももったいない…。
というか、俺がリードせずに彼女に頭を抑えつけられる、というシチュエーションってどうなんだ?と自問自答もする。
茫然自失で数分間そこに立っていただろうか。後ろからきたクルマのヘッドライトで、道が明るく照らされ我に返った。

今日は終わった。今からをどうするかだ。
とりあえずとやかく言われなさそうなのは、やはり実績のある宇品港だろうと思い、夜10時を過ぎていたが、バイクのヘッドライトを頼りにテントを張った。
下がコンクリートなのでペグは打てない。こういう時はテントのフレームに引っ掛けることにしている。外幕がめくれなければいいのだ。テント自体は寝ている時は当たり前だが、中に人間が入っているので飛ぶことはまずない。
いつも通り北枕だけを確認し、割と目立たなさそうな港の端っこにテントを張った。

最後の最後に今までの人生で最高の出来事があった。広島バンザイ…であったが、同時に私の胸には大きな葛藤が生まれつつあった…。

(タイトル写真は宮島。いつも通り拾い物です。著作権上で問題あれば写真はすぐ削除いたします。)
Posted at 2016/12/10 22:47:54 | コメント(2) | トラックバック(0) | 野宿日本一周 | 日記

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