数日前に,マツダの新型デミオ(1.3Lガソリン,6AT)をじっくりと拝見させていただく機会を得ました。ようやく設計段階からのフルSKYACTIVE仕様となり,発表前からあちこちで高い期待を得ていたモデルです。
1.5Lのディーゼルエンジンなモデルも年内に配車されるようですが,今回の実車はふつーの1.3L(13C)。まずコンパクトで3ドアにも見えるエクステリアのシルエットに目を惹かれます。
ガソリンモデルのエンジンルームには余裕があり,補機類の取り回しや配管,フレームの構造がよく理解できました。抑えたエンジンに対し電装系は出力に余裕がありそうで,ボディの強度や衝突安全性の確保も理にかなったものになっています。整備性も良さそうです。
足回りや下回りもこの価格帯の車とは思えないほど生真面目に造り込んであります。一昔前のコンパクトカーではあり得ないレベルです。
給油口は運転席足下のレバーで開けることができますが,給油口側のレバーにゴム状のカバーが付いていたり,キャップ置き場がカバー裏に設置されていたりします。とにかく細かいところまで配慮が行き届いています。
インテリアはユーザーインターフェースとデザインのトータルバランスが素晴らしかったです。高級ではない素材で安っぽく見えなく造っている点はスズキ以上で,コストや手間をかけるべきところを惜しんでいないのは非常に好感が持てます。
ボタンやスイッチ類の配置や造りは運転中の操作のしやすさにきめ細かく配慮されています。ナビは運転中に視線を大きく動かさないで済む位置に置かれます。多くの勘違いした,または大人の事情から抜け出せない日本車とは世界が違います。
特筆したいのがこのペダルポジションとオルガン式のアクセルペダル。十分に右側にオフセットされており,紛れもなく踏みやすく踏み間違いも起こしにくいものになっています。
フットレストとセンターコンソールは走行中の正しい姿勢を促しドライバーを支えやすくなっています。
リアシートも含めてドアノブ回りが肘掛けとしてまともに機能する形状になっているのは欧州流でしょうか。zoom-zoom路線以降のマツダ車に共通する美点です。
今回ご対応くださったディーラーマンはマツダ愛に溢れた方で,フォードとの関係もよく理解しており,フィエスタにもたいへんご関心をお示しになっていました。
短時間の平地・街中のみながら試乗もさせていただきました。もう昔のデミオとは違いますね。圧倒的に洗練されています。
特筆したいのはトルコンATの電子制御。CVTを捨て,DCTに走らずにトルコンATを持ってきたところにまず拍手を送りたいです。AT化とその多様化が進んだ現在でこそ,トルクコンバーター式の美点は見直されるべきだと思います。変速ショックは皆無に近く,ドライバーの意図通りのシフトアップとエンジンブレーキ。Sモードを選択すればエンジンレスポンスはシャープになり加速・出力重視の変速タイミングに変貌します。
欧州車的な設計と日本車的な気配りが見事に調和した気持ちの良い一台でした。
ところが,このデミオの購入をお薦めできるかと言えば,個人的には唸ってしまいます。非常に良い車であることには間違いありません。しかし,日常の足としてコンパクトカーを使いたい人にとって,このデザインと質感は無駄ではないでしょうか。
シートのサイドサポートは乗り降りの際に邪魔になります。絞られたリアウインドウは後方確認がしにくいです。室内は子供や犬がつける汚れや傷が似合うとは思えません。気軽に乗るならタイヤはもうすこし細く,軽くても良いでしょう。扱いやすさと実売価格の安さで選ぶなら(タイヤは大きいですが)スイフトの顔がチラついてきます。燃費の良さやサービスの洗練で薦めるならアクアやフィットが無難となってしまいます。
一方,いわゆる車好きにも食い足りないはず。頻繁なストップ&ゴーと省燃費を意識したパンチと伸びのないパワートレイン,薄いステアリングインフォメーションとフロントタイヤの接地感は,従来の日本のコンパクトカーそのものです。そこは後発のディーゼルモデルに期待したいところですが,車重の抑制に寄与した薄いボディや内装のパネル類が,あらゆるシーンで騒音や振動を十分に遮断してくれるのかは未知数です。個人的に気になったのは,純正状態ではオーディオのブーストアップには耐えられない薄さと組み付けでした。
風切り音やタイヤノイズの大きさも気になります。ツアラー的な使い方は想定しないのがBセグカーでは常識なのかもしれませんが,輸入車に目を向ければポロやルーテシアはベースグレードでもその辺はまともです。
私の中ではzoom-zoom路線を敷いたばかりの頃のマツダ車は「欧州車になりたい日本車」という印象でした。最近のマツダ車からは「日本車でいたい欧州車」という印象を受けています。ここまで欧州車的な基本設計を貫きながら,日本市場を無視できないところにマツダの悲哀を感じてしまいました。
ちなみにマツダのホームページでデミオのカスタマイズをしてみると,欲しいと思える(あるいはあってもいい)仕様とオプションを乗せていったら,現行フィエスタに手の届く価格帯になってしまいます(定価ベース)。そのとき,パワートレーンや足回り,そして快適性や実用性を総合的にイメージしてみると,デミオがフィエスタに匹敵するとは残念ながら思えませんでした。
Posted at 2014/10/08 21:51:16 | |
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