あ~あ、とうとうやっちゃいましたね・・・。
いつか誰かがやると思ってたけど。
ヒト受精卵のゲノム編集でHIV耐性の双子が誕生。
しかも悪びれること無く全世界に向けて堂々発表するとは。ビックリポン!です。
それにしても、この次期ノーベル賞候補と噂されているCRISPR/Cas9(クリスパーキャスナイン)というゲノム編集技術はすごい。あまりご存じない方のために軽く解説を。
出典:朝日新聞
ヒトを含め全ての生物は設計図(ゲノム)をもとに作られます
同じ個体であれば一個一個の細胞全てに、同じゲノムが収められてます。
設計図はA、T、G、Cという4種類のDNA(遺伝子)の配列によって描かれてます。
このDNAを特定の位置で切断したり、異なるDNA配列を組み込んだりすることで生命の設計図を書き換える技術がゲノム編集。
出典:特定非営利活動法人 国際健保協会
これまでも遺伝子を操作する技術にはいくつかありました。
たとえば遺伝子組み換え。農作物の品種改良に用いられてますね。ウイルスや病害虫に強くしたり、除草剤に耐性をもつようにしたり。
ただ従来の遺伝子組み換え技術は、ターゲットとなる遺伝子をピンポイントで組み替えることができず、偶然に頼るしかありませんでした。なので、狙った性質を持つ新品種を生み出すまでには膨大な労力と時間、コストが必要でした。
また、元からある重要な遺伝子を破壊する、今まで働いていなかった遺伝子を起動させる等のおそれもあり、安全性にも問題がありました。
出典:クマムシ博士のむしブロ
一方、今回用いられたクリスパーキャス9によるゲノム編集技術では、ターゲットとなる遺伝子を高い精度でピンポイントでチョキチョキ。精密爆撃みたいなもんです。
しかも簡単+短時間+低コスト。ヒトはクリスパーキャス9でとうとう神の手を得たといってもいいでしょう。
この神の手を使って人間はどんなことが可能なのか。
医療分野では、これまで根本的な治療法がないとされてきた病気の治療ができるようになります。これは医療費の削減や介護の負担の軽減につながると言えるでしょう。
たとえばエイズ治療。HIV(ヒトエイズウイルス)はヒトの免疫細胞に感染しますが、その際、細胞表面の特定のレセプター(受容体)に結合します。ゲノム編集によって、この受容体の作成に必要な遺伝子をチョキチョキして設計図から取り除くことができれば、HIVは細胞表面に結合できず感染できなくなります。
また、急性リンパ性白血病の赤ちゃんにゲノム編集で作ったT細胞を移植したらガン細胞が全て除去されたという事例もあります。
さらにゲノム編集は医療分野以外でも研究が進んでいます。
出典:webronza
農林水産分野ではすでにいろいろ研究されてますね。
○筋肉隆々のマダイ
○日持ちが良く、病気に強いトマト
○成長が速いサバ
○衝突しないおとなしいマグロ
○短時間で育つトラフグ
○肉付きが良くなる牛・豚
○卵アレルギーのヒトでも食べることができる卵
ゲノム編集で世界の食糧難を解決できるかもしれません。
また病害虫のコントロールにも応用が可能です。
例えばオスしか生まれなくなるようにゲノム編集した蚊を自然に放つ→その蚊が交尾した結果生まれる個体はすべてオス→いつかはメスの蚊がいなくなって蚊は全滅。
つまりゲノム編集で自然の生態系を変えること(遺伝子ドライブ)が可能ということです。
このように自然界に存在しない生物をゲノム編集で作り出すことは、場合によっては有益ですが、ある意味とても危険と言えるでしょう。
クリスパーキャス9は基礎的な遺伝子工学の知識・技術を持つ人であれば容易に遺伝子を変えることができる技術。いくら法律やガイドラインを整備して一定の制限を設けても、核兵器の作成よりもはるかにハードルが低いこの技術を悪用し、危険な生物をばらまくテロリストみたいな輩が必ず現れます。
さらに、たとえ明確な悪意はなくとも、ウケ狙いや軽いノリで作ってばらまいた生物が実はかなり危険で、それによって家畜や農作物、あるいはヒトが全滅。そんな可能性も無いとは言えません。
ゲノム編集は、ちょっとした歯車のかけちがいで地球が滅亡する危険性をはらんでいるのです。
さらに今回話題になったデザイナーベイビーについて。
理論的にはヒト受精卵のゲノムを編集することで、望みどおりの赤ちゃんを産ませることができます。しかしこれは倫理面から世界中でタブーとされてきました。
出典:日本経済新聞
しかし今回、中国の科学者はそれを行い、全世界に向けて発表したのです。これは驚くべきことです。
では実際にヒト受精卵のゲノム編集でどんなことが可能で何が問題なのでしょうか。
○遺伝子が関係する多くの病気などから生まれてくる子供を解放できる。
○子供の個性を両親の望み通りにできる。
容姿、スポーツや芸術といった才能、頭の良さ、長生き等
子供の両親にとってはいいことかもしれませんが、懸念される点もあります。
○子供の意思とは関係なくヒトの個性(将来)が決められてしまう。
○デザイナーベイビーとそうでない赤ちゃんとでは、成長してからの格差(遺伝格差)が拡大する。(ハイスペック・ヒューマンと普通の人間)
○ヒト以外の生物の遺伝子も取り入れることで、もはやヒトとは言えない何か(ネオ・ヒューマン)が誕生。(水かきを持つ水泳選手とか、リアル鳥人間とか。)
○ゲノム編集に失敗して別の場所の遺伝子を変異させることになったら、予測がつかないことが起こる可能性がある。
○大人や子供の体細胞のゲノム編集であれば、その人の遺伝子の一部を変えるだけで次世代にはその変更が受け継がれないが、受精卵などの単細胞ヒト胚にゲノム編集を施すと、子孫に影響が受け継がれる。
確かに最先端の研究をしてる科学者なら、このクリスパー・キャス9という素晴らしい技術をヒト受精卵に応用したくなってもおかしくありません。でもあくまでも夢想するだけで、実際にはやらないのが普通です。
正しく編集できた部分は素晴らしい効果をもたらすかもしれないけど、遺伝子の他の部分への影響は不明。そもそも常に100%完璧な精度で編集できるのか。失敗したらどんな赤ちゃんが生まれてくるか、その赤ちゃんはどのように育つか・・・。間違った編集をしたら後世・子孫にまで悪影響が及ぶ。
そんな不安定な状況でもやっちゃった中国の科学者・・・すごい。欲望を抑えきれなかったのでしょうか。普通の人なら怖くてできません。これは人体実験です。恐ろしい。
中国は倫理や法律に照らしてこの発表を認めず、今後研究への予算付けを認めないとのこと。この科学者はヒト受精卵での応用1番乗りという名声が欲しかったんでしょうが、今後科学者としては日の目を見ないかもね。
でも、時代とともに倫理や道徳の概念、法律は変化します。
今後、ゲノム編集技術に安全性が保証されるようになれば、子どものファッションを決めるくらいの感覚で、親が好みの遺伝子をセレクトして我が子の遺伝子に組み込む。そんな世の中が来るかも。
まさに今回のHIV耐性ベイビーの誕生は、ヒトがとうとう神の領域にズカズカと土足で踏み込んでしまった瞬間といえるでしょう。神からのしっぺ返しが無ければいいのですが。
Posted at 2018/12/02 16:13:21 | |
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