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2020年09月04日 イイね!

読了記『エラリー・クイーンの冒険』

読了記『エラリー・クイーンの冒険』『エラリー・クイーンの冒険』/エラリー・クイーン/中村 有希 訳/創元推理文庫

'20/9/4読了


今回は海外のミステリー作家、エラリー・クイーンの短編集『エラリー・クイーンの冒険』の読了記です。

エラリー・クイーンといえば、ミステリーファンならもちろん、そうでない人も名前くらいは聞いたことがあるだろうミステリー界の巨匠ですね。「海外推理小説家の名前を挙げよ」と言われたら、『シャーロック・ホームズ』シリーズのコナン・ドイル、『ポアロ』や『ミス・マープル』シリーズのアガサ・クリスティーと同じくらいに、頭を捻らなくても思い浮かべることができます。

さて、今回私の読んだ作品は創元推理文庫版(2018年7月20日初版)のもので、オリジナルの11の短編が総て翻訳収録されていて、更に初刊時の序文まで翻訳収録してくれている完全版です。


以下に、各話の簡単な内容を記します。ネタバレはなしですが、気にする人は読まない方がいいかも……。

序文は、J・Jという名探偵エラリー・クイーン氏の友人の前口上。クイーンから、過去の自身の事件を発表するから序文を書いてほしいとお願いされ、突然のことに戸惑い慌てるJ・J。本書がどいった経緯で作成されたのか知れる、ちょっとしたスパイスといった感じ。

『アフリカ旅商人の冒険』では、大学で応用犯罪学を教えるクイーン先生の選りすぐりの生徒に対する、推理講義形式で進む一風変わった物語。推理講義といってももちろんそこには殺人があり、死体があり、犯人がいる。生徒たちは各々、殺人現場を調べ、遺留品に目をつけ、そこから自身の推理を展開し、犯人と思しき人物を挙げてゆく。最後には、クイーン先生の素晴らしく秩序だち、抜け目のない論理で固められた推理を目の当たりにできる。名探偵エラリー・クイーンがどういった人物なのか、この話しを読むだけでも存分に分かるお話です。

『首つりアクロバットの冒険』では、ある興行集団において殺人事件が発生する。被害者はアクロバットをしている夫婦の妻で、自身の楽屋にて、首を吊った状態で発見された。特殊なロープの結び目から奇術師に疑いの目が向けられるがあまりにも出来すぎている状況。これはいったい何を意味しているのか……。

この世に2枚しかないという、貴重な1ペニーの黒切手の1枚が盗まれた!この切手を巡って起こる事件を書いた『一ペニー黒切手の冒険』。
事件後、なぜかどこにでもあるベストセラー本『混沌のヨーロッパ』ばかりが盗まれ、そこには髭もじゃの男が関係しているらしい。至って論理だって進んでゆく物語だけれど、最後には「そこにあったのか!」という驚きが待っているお話。

『ひげのある女の冒険』。遺産を巡ってショウ家で大変なことが起こっていると、J・Jから紹介を受けてクイーンのもとにやってきた弁護士。ショウ家の主治医が殺されてしまったのである。ショウ家にやってきた探偵クイーンは、なんとも奇妙なものを目にする。それは主治医の描いていた絵なのだが、なんと女性に髭が生えているのである!なぜ主治医は女の絵に髭を描き入れたのか。著者エラリー・クイーンお得意のダイイングメッセージもの。

クイーン警部補(エラリーのお父さん)から「こいつはお前の専門の事件らしいぞ」と言われ捜査を開始することになる『三人の足の悪い男の冒険』。雪交じりの風が吹き込む一室で、銀行家の男が消え、その男の愛人の女が猿轡で窒息死していた。部屋には踏み跡の残った絨毯がり、どうも三人分の足跡が残っているのだが、おかしなことに三人とも片足が悪いようなのだ。そんなことってあり得るのだろうか?女は誰に殺されたのだろうか?消えた銀行かは何処へ?
謎だらけの状況で、緩みない推理から事件を解明するお話。

『見えない恋人の冒険』。一人の男が死んだ。クイーンが一時的に言葉がきけなくなる程の美女を巡った恋の愛憎劇。自分は殺してないと主張する、拘留中の美女の幼馴染。しかし、証拠はすべて彼を指し示している。
本当に彼が犯人なのだろうか?確かめるべく、死んだ男の墓まで掘り返すクイーン探偵。物語の最後には「あぁ、お前だったのか!」となるお話。

最近連続して宝石が盗まれていると相談にやってきたアパートの管理人。警察に連絡しなさいと乗り気のないクイーン。そんな会話から始まる『チークのたばこ入れの冒険』。そこに父のクイーン警視から電話が入る。まさに今相談に来ている管理人のアパートで殺人が起きたのだ。
現場へ行くと、アパートの一室で男が絞殺されていた。だがこの男はここの住民ではなく、その兄であることがこの部屋の住人によって判明する。絞殺された兄から何か盗られたものがないか調べると、兄弟で一つずつ持っていたお揃いのチークのたばこ入れがなくなっていた。何故たばこ入れなんか盗ったのだろう?
そんな中、一瞬目を離した隙に、今度はこの部屋の住人まで殺害されてしまう。そして住人からは不思議なことに兄のたばこ入れが発見される。
宝石窃盗事件と殺人事件。名探偵クイーンの手によって解決に動く!

『双頭の犬の冒険』。車を走らせ、ある宿屋に泊ることになったクイーン。その宿のバンガローには幽霊が出るという。かつてそのバンガローには犬連れの宝石泥棒が泊まっていて、それを追ってきた刑事と一悶着あった末、犯人は取り逃がしたという。泥棒が連れていた犬は、宿の裏の森で死んでいるのが発見された。その後から怪奇現象が起き始めた。
今夜、その部屋に泊まることになった旅商人はそんなことは意に介さず、クイーンが部屋を代わろうというのも聞かずに件のバンガローで就寝。深夜、悲鳴を聞いたクイーンと宿の親父が旅商人の部屋へ行くと、無残に咽喉を掻っ切られた旅商人の姿が。
ホラー仕立ての超常現象チックな雰囲気に、あくまでロジカルに、推理と理詰めで解決してゆくお話。

左手には紫水晶を握りしめ、右手でガラスドームのついた時計を机から落っことした状態で老人が発見される『ガラスの丸天井付き時計の冒険』。
なんとこの被害者の老人は犯人に文鎮で殴られたあと、瀕死の状態で這い回り、ショーケースのガラスを割って紫水晶を取り出しこれを左手に握り、また這って今度は机の上にあったガラスのドームが付いた時計を落っことして息絶えたという。そこまでして残したこれらには、ダイイングメッセージとみていいだろう。
殺害された老人にはポーカー趣味の仲間がいて、つい先日は仲間の一人が誕生日だったので、みんなで贈り物を送り祝ったという。みんな仲が良く、殺すはずがないと口々に主張するが、ダイイングメッセージは一体誰を示しているのか……。

猫の大好きなおばあさん。猫の大っ嫌いな寝たきりおばあさん。この老姉妹と猫の謎を書いた『七匹の黒猫の冒険』。
この姉妹はお互いが共存しあって生活している状況なのだが、めっぽう中が悪かった。猫好きなおばあさんはお金に困っていて、姉の寝たきりおばあさんの世話をするかわりに居候させてもらう。逆に猫嫌いの寝たきりおばあさんは身の回りの世話をしてもらうかわりに妹に金銭面の援助をする。
ある日、猫好きおばあさんが近所のペットショップで猫を買っていった。緑色の瞳を持つ黒い雄猫だ。しかし猫嫌い寝たきりおばさんに猛反対され、妹は返品しようとペットショップに相談する。しかし返品には来なかった。
今度は姉の猫嫌いおばあさんからペットショップに連絡が入り、緑色の瞳を持つ黒い雄猫が欲しいという。それも立て続けに連絡があり、全部で6匹も購入していた。
そんな折、クイーンがこの話しをペットショップの娘から聞き、興味を持った。そして姉妹の部屋を訪ねたところ、二人の姿が見当たらない。妹はともかく、自分では動けない寝たきりの姉はどこに行ってしまったのか?更には都合7匹いる筈の猫の姿も見当たらない。
ちょっと不気味で、猫好きには少し辛いお話。

『いかれたお茶会の冒険』。
友人の“粋な”家に招待されたクイーン。翌日はこの家の主の息子の誕生日ということで、家のものは密かに、サプライズ出し物の練習をしていた。それは『不思議の国のアリス』の一場面“いかれたお茶会”だった。この家の主は“帽子屋”の恰好をしていた。
翌朝、クイーンは叩き起こされる。なんと“帽子屋”のこの家の主が失踪してしまったのだ。部屋には主の服が残されていたので、“帽子屋”の恰好のままいなくなってしまった。泣き崩れる主の妻。それを慰める母。酔っぱらってどっか行ってしまったんだ、時機に帰ってくるさというものもいるが、帰ってくることはなかった。
そんなか、不思議な物が届くようになる。失踪した主の靴一足、坊やのおもちゃの船二艘、中身の入っていない封蝋のされた封筒二通、籠に入ったキャベツが二つ、チェスのキングの駒が白と黒一つずつ。これらは何れもこの家にあったものだった。
いかれた世界観の中で理性を働かせ推理し、茶目っ気のあるクイーンが見られるお話。


以上11作品。
どれもこれも素晴らしいものばかり。
長編と違い無駄な部分はそぎ落とされているので、人間関係などはさっぱりしたものになっています。だからといってパズル的に読ませることはなく、ちゃんと人情味の感じられる作品に仕上がっています。また一話々々が40頁から長くても60頁程なので、隙間時間に読んでゆくのにちょうどいいと思いました。
ミステリーにかかわらず、翻訳ものは読みずらいものも多いですが、本書の翻訳は自然で、違和感なくすらすらと読むことができました。
素晴らしく濃密な一冊でした!





=おしまい=
Posted at 2020/09/04 18:04:31 | コメント(0) | トラックバック(0) | 読了記 | 趣味
2020年04月14日 イイね!

読了記『本陣殺人事件』

読了記『本陣殺人事件』『本陣殺人事件』/横溝 正史/角川文庫

'20/4/14読了


かの有名な「金田一耕介シリーズ」の記念すべき第一作目、『本陣殺人事件』を読み終えました。
これまで横溝氏の作品は『八つ墓村』『悪魔が来りて笛を吹く』『犬神家の一族』の三作品しか読んだことがなく、予てより他作品も読みたいと『本陣殺人事件』は手許で温めていたのですが、中々時間をとることができず……。昨今のコロナウィルスで迂闊に表へ出られないので、これを機会にと読むことができました。

私の手許にあるのは、「金田一耕介ファイル」と銘打たれた角川文庫版のもので、これはそのファイルの2番に当たるもののようです(1番は『八つ墓村』)。更にこの本には『本陣殺人事件』の他に二つの短編、即ち『車井戸はなぜ軋む』『黒猫亭事件』も収録されていて、とってもお得な仕様となっていました(笑)
なぜ金田一シリーズの第一作目がファイル2なのかは解せないけれど、いろいろ事情があるのでしょうね。


さて、各物語の感想の前に、まず簡単に、金田一シリーズがどいうものかについて私なりに書いてみようと思います。
金田一シリーズは第三者視点で書かれています。物語を書いている著者は、探偵である金田一耕介が活躍している世界と同じ世界に生きており、実際に起こった事件として、金田一耕介の活躍を小説にして発表しているという体を成しています。ですので、作品によっていは金田一耕介が直接著者に会いにくる場面もあります。

上記のように第三者的視点から書かれている為か、内容はけっこう説明的というか、論理的な構成になっていると思います。冒頭で事件の起こる家や地方についての謂れや、人物について経歴などの説明が一気になされて、それから物語が展開してゆくという形式も多くあります。慣れていないと、ちょっと読みにくいかもしれません。

次に、登場人物についてですが、人間関係が結構複雑です。登場人物がたくさんいるうえに、物語によっては腹違いの子だの愛人だの更にその子供だのといろいろ登場するので、注意深く読んでいないと誰が誰だか分からなくなります。この複雑さは、多分に時代背景的なところもあるのでしょう。個人的にはこの複雑な人間関係こそ、金田一シリーズの面白いところでもあると思っています。

時代背景繋がりで、これは慣れるしかないことなんですが、文章が読みにくく、イメージしにくいことがよくあります。
これは、文章が稚拙だとかそういうことではなくて、今の時代では使わないよな単語だったり言い回しがしばしば出てきます。場合によっては単語の読み方やその意味などを調べないとならないことがあります。普段あまり読書をしない人には、これが結構なハードルになると思います。


さて、前置きが長くなりましたが、いよいよ今回の物語について書いていきましょう。三作品収録されていましたが、今回はタイトルににもなっている『本陣殺人事件』について書いてゆきます(残りの二作品については、いずれ書くかもしれません)。

以下、がっつりネタバレなのでご注意ください。

―――――

記念すべき金田一耕介初登場作品。
岡山の江戸時代から続く本陣である、一柳(イチナヤギ)家という旧家を舞台に繰り広げられた、密室殺人事件ものです。
一柳家の長男・賢蔵と、女学校の教師であり、或る集会で講演をしていたところ賢蔵と出逢った久保 克子(カツコ)が結婚します。そして夫婦となったその夜。いわゆる初夜というやつですが、二人のいる離れの方から悲鳴が聞こえてきます。続けて琴の音も。ただならぬものを感じた一同は、急いで離れへ向かうのですが、果たして、そこには無残な姿に成り果てた賢蔵と克子の姿が。賢蔵が克子に覆いかぶさるようにして、血みどろになって斃れていました。現場には意味ありげな琴と、三本指の血の跡が残されていた。
誰がどう見ても殺人事件、つまり他殺だと思われるのですが、奇妙なことに、一同がこの離れに駆けつけてきたときには、窓は雨戸が閉まり、玄関には鍵がかかっていた。つまり密室だったのです。更に奇妙なのは、この夜は雪が降っていたのですが、離れの周りには犯人のものと思しき足跡すらありませんでした。
当然警察が呼ばれ、岡山県警ご一行は操作に乗り出します。そんな中、克子の育ての親であり、克子から見ると叔父である久保 林吉(リンキチ)は一柳家にキナ臭いものを感じ、金田一耕介へ捜査願いの電報を出します。そしてやってくる名探偵……。

あらすじは上記の通りです。
物語の結論から言うと(つまりネタバレすると)、これは、賢蔵による自作自演の犯行でした。
賢蔵というのは非道く潔癖な性格であり、自分にも他人にも厳しい人でした。今回の克子との結婚も周囲の反対を押し切って行ったものでした。
ですがいざ蓋を開けてみると、克子は処女ではなく、過去に不義あったのでした。潔癖である賢蔵は、そのことを許せなかったのです。そして克子を殺そうと画策します。ですが、周囲の反対を押し切って結婚してしまった以上、賢蔵自身の面子も立てておきたい。そう考えた時、自身も誰かに殺されたことにすれば良いと思いついたのです。二人とも何者かに殺されたことにすれば、あらぬ疑いを着せられることはない。死んでもなお潔癖であり続けたかったのですね。

そして密室に使われたトリック。これがかなり大仰です。
琴が鍵になってくるのですが、まさかこんな使われ方をしていたとは!
私は残念ながら一読してそのトリックを理解することができませんでした。YouTubeで検索して実写化された映像を見て、やっと理解できました(^^;
ただただ凄いの一言です(実写化したのも凄いけれど)。

このトリックに大きく関わるものに、「三本指の男」というのがいます。
冒頭、村の食堂に一柳家の場所を訊ねてくる、いかにも怪しい風貌をした男なのですが、警察はこの男こそ犯人なのではないかと捜索するも見つかりません。
最終的には見つかるには見つかるのですが、とんでもない所から見つかります。
物語を通して、その種明かしのときまで謎につつまれた「三本指の男」ですが、実はミスリードだったんです。
更に、この一大兇行にはミステリー小説の大ファンである、一柳家三男・三郎も大きく関与しており、私も読んでいて「こいつ、なんかあるんだろうな」とは思っていましたが、見破るには至りませんでした。

極めつけは、最後の最後に作者から叩き付けられる、読者への挑発とも取れる文言。
「言われてみればそうだよねぇ」と納得せざる終えません。
推理小説の読み方というものを、改めて教わったような気がします。


『本陣殺人事件』は長編でありながら200頁ほどの分量なので、難解な単語や難しい言い回しなどもありますが、さして時間もかからず読めると思います。
何か推理小説読んでみたいなぁという人があれば、是非読んでもらいたい一冊です。





=おしまい=
Posted at 2020/04/14 20:10:11 | コメント(1) | トラックバック(0) | 読了記 | 趣味
2020年04月06日 イイね!

読了記『迷路館の殺人』

読了記『迷路館の殺人』『迷路館の殺人<新装改訂版>』/綾辻 行人/講談社文庫

'20/4/4読了


私の大好きな推理小説家である、綾辻 行人氏による「館シリーズ」の第三段。
こちらはその新装改訂版として、多少の手直し等が行われた文庫本です。
以前、改定される前のものは読んでいましたが、新装改訂版ということで改めて読んでみました。

結論から言うと、綾辻氏の小説は何回読んでもやはり面白い!
一度は読破しているのでトリックも結末も分かっていましたが(とは言っても、大分以前に読んだので、ほとんど忘れていましたが)、またぞろ叙述トリックに引っかかりましたf^^;

あらすじは次のような感じ(ネタバレなし)。
※ただし推理小説の性質上、全くの先入観なしで読みたいという方は、ここより下は読まないことをお勧めします。
―――
推理小説家の老大家、宮垣 葉太郎(ミヤガキ ヨウタロウ)は、自身の還暦祝いのパーティーを催すとして、宮垣の弟子である推理小説作家4人と、宮垣の担当編集者とその妻、評論家1人、そしてミステリーマニア代表として1人を、自宅「迷路館」に招待する。各々この「迷路館」に集うのだが、どういうわけか、約束の時間になっても当の招待者本人である宮垣が一向に姿を現さない。
そのことを不審に思いながらも待ち続ける一同であったが、この後、宮垣の秘書である井野という男より衝撃の事実を知らされる。―――『宮垣先生が今朝、自殺されたのです』。
狼狽する一同に、更に追い打ちをかけるかの如く、井野より宮垣の残した衝撃の遺書が公開される。その内容というのが、ここ「迷路館」を舞台として、4人の小説家は推理小説を競作しなければならないというものであった。これを期日にまでに書き上げ、そしてここに集った担当編集者、評論家、ミステリーマニアに批評してもらい、最も優れた作品を作り上げた作家に、宮垣の莫大な遺産を相続するというものであった。更に、この“コンテスト”中、いかなる場合にも「迷路館」から出てはならないというお触れつきで。
特殊な状況下に置かれ動揺する一同であったが、多額の遺産がかかった宮垣の遺言ということで、甘んじて宮垣の遺言に従い、執筆に取り掛かるのだが……。
次々と起こる連続見立て殺人。図らずも「迷路館」に閉じ込められ、脱出はおろか外部との連絡の一切を絶たれた一同に襲い掛かる、巧妙に張り巡らされた罠。そして明かされる「真」と「偽」の“事実”―――。
―――


本書は、いわゆる「作中作」の形で書かれています。事件の当事者であった一人が後に、この事件を元に執筆したノンフィクション小説を、これまた事件の渦中にいた人物が読むという形式です(言葉にすると分かりにくいですね(^^;)。
作中作というと読みにくいというイメージを持っている人もいるかもしれませんがそんなことはなく、身を任せて自然に読むことができます。

本書の著者である綾辻氏の「館シリーズ」には毎回、魅力的で不思議な「館」が登場し、そこで惨劇が繰り広げられます。今回の舞台はその名の通り、館の中が迷路となっています。
モチーフはギリシャ神話のラビリンス(迷宮)が用いられていて、本書に出てくる各部屋には「アリアドネ」「ミノス」「テセウス」などのギリシャ神話の神々の名が使用されています。もちろんこれらは、犯罪の犯行性やその謎解きに於いて非常に重要になってきます。

そしてなんといっても、巧妙にして素晴らしい叙述トリック!
一旦は「あぁ、これで事件も解決。そういうことだったのね」と納得させておきながら、あの大どんでん返し!気持ちよく騙されること請負です(笑

「館シリーズ」としてシリーズものにはなっていますが、事件は各「館」ごとに完結・解決しているので、この本から読んでも問題なく読み進めることができます。

あなたも一緒に騙されてみませんか?(笑





=おしまい=
Posted at 2020/04/06 21:00:00 | コメント(0) | トラックバック(0) | 読了記 | 趣味
2020年04月05日 イイね!

読了記『幻想寝台車』

読了記『幻想寝台車』『幻想寝台車』/堀川 アサコ/講談社文庫

'20/4/5読了


いつだったか、本屋の店頭でふと目に留まり購入した文庫本。
EF66の描かれた、どこか懐かしい感じのカバー絵と題名を見て「面白うそう」と、ジャケ買いした本でした(もちろん裏表紙のあらすじは確認しています)。

いわゆるファンタジー小説で、専ら推理小説を読んでいる私にはあまり馴染みのないジャンルでしたが、食わず嫌いも良くないので一先ず読んでみることに。

最初に感じた印象は、文体が比較的フランクだということ。
普段私が読んでいる本の多くは、どちらかというと固い文体のものが多いので、少し戸惑いつつもとりあえず読んでゆく。


あらすじとしては以下のような感じ。あっ、ネタバレはなしです。
―――
主人公の篠原 多聞(シノハラ タモン)には七つ年上の兄、一宇(イチウ)がおり、両親は事故で、祖父母は病気にて失ってしまう。身寄りのない二人は、兄の一宇が自分を犠牲にしつつ弟の多聞を育ててきた。その為、兄弟でありながら歳もある程度離れている所為か、二人には親子のような感情もあった。
二人とも成人した或る日、多聞は恋人の実紗(ミサ)に振られたことに絶望し、半ば実紗への当て付けのように“自殺未遂”を謀る。多聞は本気で死ぬ気はなく、彼の元を去った彼女の気を引き、寄りを戻そうという魂胆だったのだが、どういうわけか、多聞は気が付いたらバスに揺られ見知らぬ田舎町へ来ていた。そこは「蘇利古(ソリコ)村」という、異次元にある死神の村であった。
訳の分からない多聞であったが、蘇利古村の村長、四方 貢(ヨモ ミツグ)から、多聞はまだ死んでおらず、手違いで蘇利古村に来てしまったことを聞かされる。
多聞は生き返るべく、蘇利古村の人々などの手を借りつつ、寝台特急「ひとだま」に乗って或る死神を探しに奔走する。
一方、多聞のこの「騒動」には、兄の一宇が関係していた……。
―――

本書には死神やら死霊、生霊、妖怪などなどが出てくるのだけれど、いわゆるおどろおどろしさは全くなく、軽いタッチで書かれた文体と相まってむしろ喜劇的な面白さが目立ちます。なんと作中、民族学者の柳田國男氏や妖怪学の井上円了氏なんかも“死霊”として出てきて、彼らと一緒に寝台特急「ひとだま」で旅をする場面もあり、「彼らが生きていたらこんな感じなのかな?」と面白く読むことができました。
また死神たちの生活も面白くて、彼らは実に良い人たちで、村には自販機もあれば自動車もあり、妙に俗的な部分が「死神」というイメージからあまりに乖離していて、「こんな村なら行ってみたいなぁ」と思わせてくれます。

寝台特急「ひとだま」には、売り子の「瓜子姫」が出てくるのですが、これは昔話「うりこひめとあまのじゃく」に出てくるあの瓜子姫です。なぜかメイドの服装をしています。
当初私は「これらの登場人物は必要なのか」なんて生意気にも思ったのですが、瓜子姫も天邪鬼もまさか重要人物だったとは……。
まんまとこの作品の雰囲気に騙されました(笑

読了後、堀川アサコという著者を調べてみると、なんと日本推理作家協会の会員でいらっしゃる。読み終わった今となっては、伏線の張り巡らせ方や回収の仕方など、こりゃあさもありなんという感じです。
その為、後半のクライマックスは、ある種推理小説的雰囲気で読むこともでき、個人的には楽しかったです。


一方、個人的には多聞の心情に完全に移入するこはできませんでした。特に後半、多聞、一宇、そして実紗との関係が徐々に明らかになればなるほど。
多聞の気持ちも、一宇、実紗の気持ちも分からなくはないのですが、どうもあっさりしているというか、すんなりしているというか……。
まぁあ、こういう部分は個人の考え方次第なわけですが(汗
そしてやっぱり私には喜劇感がちょっと強いかなぁf^^;


ファンタジー小説ということで「あっさり読んでやろう」なんて失礼なことを思っていましたがとんでもない!
どっぷりとこの世界に浸かって、この世のものならぬ者たちの生活を垣間見て、ともに旅をして、そして考えさせられる「生」について。
とても素敵な作品でした!





=おしまい=
Posted at 2020/04/06 00:06:23 | コメント(0) | トラックバック(0) | 読了記 | 趣味

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何シテル?   12/26 21:46
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