裏方

　関西のスポーツ紙｢デイリースポーツ｣が運営するニュースサイト｢DailySportsOnline｣の配信記事から『“山の神”改め“ＭＧ”に！？　柏原竜二さん、アメフトチームの裏方に転身』に注目。

　正月の箱根路を沸かせた東洋大「山の神」こと柏原の、競技引退後の消息。
　有能なアスリートが、大手マスコミ主催の「箱根駅伝」でスターに祀り上げられる一方、超長距離・急勾配のガラパゴス競技で消耗し尽くされ、大学卒業後は大した成果が見られぬままフェードアウトしてしまう……との批判は至る所で燻っており、柏原もその典型例として槍玉に挙げられ兼ねない立場に追い遣られている。



　低体温や脱水で苦しむ選手を大写しにして、選手生命が脅かされる危機的状況を「感動の激走」「魂の襷リレー」など美辞に置き換えるメディア、教育よりも莫大な金銭的価値に匹敵する宣伝効果へ力点を置いているとしか思えない大学当局の姿勢に、私も批判的な意見を具申せざるを得ない。

　ただし、柏原始め個々人のアスリートおよび若者の立場から状況を眺めれば、全国中継される最高の舞台を与えて貰い、早くから「山の神」なる称号を授けられて、語り草となったレースに参加した経験は、一生の宝となっているはずだ。
　マラソンなど国際的な種目での活躍を期待されても、本当に素質があったものか、もし箱根駅伝に出場していなければ世界的アスリートになれたのか、正確なところは誰も分からない。


　世界に伍して闘うことができる選手の育成・強化の体制拡充と、「箱根駅伝」始め伝統的な国内競技との両立は、競技団体や文部科学省に任せ、アスリート一人一人は悔いのない競技生活を送ってもらい、喜びや悔しさを観客およびファンと共有させてくれれば、それで十分だと考える。




　ところで、柏原が参画しているアメリカンフットボールチーム・富士通フロンティアーズのメンバーを眺めていたら、私の目に留まった方が3人いた。

　1人目は現役選手で、ランニングバックの高野橋”慶大”（たかのはし・けいた）。
　2人目はスタッフで、ヘッドトレーナーの”大隈重信”氏。

　アメフト競技でも鎬を削る早・慶の両校が、同じチームで名を連ねているようで笑ってしまった。
　ちなみに「慶大」選手は同志社大、大隈重信氏は大東文化大の出身で、ご両名とも早・慶とは直接の関係がない。

　大隈重信氏は大東文化大では陸上競技部に所属、有力選手として頭角を現し箱根駅伝にも出場している（第58回8区3位）。
　柏原のアメフトチーム参画も、このラインからだったのかもしれない。


　そして早・慶とくれば、3人目。フロンティアーズを支えるチアリーディングチーム「フロンティアレッツ」には、神宮球場で至福の時間を共有させてもらった明治大OG「まれの姉君」が所属している。
　柏原らスタッフが万全のサポートをする、小山のような肉体に勇気を漲らせた男たちの激突と、チアリーダーの溌剌とした可憐なダンスを愉しみにして、近いうちに観戦へ出向きたい。




　競技にも、人生にも、「裏方」なんて役目は本来存在しない。
　人ぞれぞれが、各々の立場で「主役」の務めを果たさねば、世の中は回っていかない。

　正月の箱根路で、輝かしくも儚い栄光を浴びた瞬間だけが「主役」で、そうでなければ「裏方」なんてことはないし、競技引退後の人生の方が遙かに長い。

　今後の活躍に、大いに期待するところである。