御前

　スキャンダル報道で世間を騒がせる「週刊文春」および保守系月刊誌「文藝春秋」の版元が運営する情報サイト「文春オンライン」の配信コラム”文春野球コラム ペナントレース2019”から『応援歌「お前」問題　ミュージシャンの視点で考えた歌詞の“二人称表現”について』に注目。

　ここ数日、前半戦を終えようとしているプロ野球界にさざ波を立てている話題。
　個人的には、余りに滑稽過ぎて真剣に評論を下す気にすらならない。

　「お前」なる歌詞が問題である、子どもの教育上よろしくない……とするなら、我が子を連れて週末昼間の神宮球場へ参上し、「慶應倒せ」「早稲田をぶっ潰せ」と叫ばせている私は、もしかしたら児童虐待の嫌疑を掛けられ、逮捕されるやも知れぬ。

　同様の問題は、九州のサッカーチームで「ぶちくらせ」が禁句とされた件でも露見した。
　東京六大学野球であれば、例えば九州のどこかでオールスターゲームを挙行した際に「法政ぶちくらせ」と叫んでも、何ら問題とならないであろう。
　むしろファンは地方色を存分に愉しみ、満足して帰るに違いない。


　このような枝葉末節の些末な問題を、あたかも世界がひっくり返る大事件かのように扱う一方で、本質をまるで見逃してしまっている拙劣な現実を目の当たりにするにつけ、プロ野球にしろプロサッカーにしろ、今なお未熟な運営、未熟な選手、そして未熟なファンに占拠されているのだなと思い知る。


　心すべきは、コラム最終盤の記述に尽きる。
　「野球が日本の文化であると同様に応援もまた文化である」

　日本最古の野球リーグにして、応援文化の先駆者たる東京六大学野球においては、全力で倒すべきライヴァル、完膚なきまでにぶっ潰すべき相手がいることに衷心からの感謝を奉げ、最大限の敬意を払ってフィールドとスタンドが一体となった闘いを繰り広げる。　

　天皇賜杯に象徴される高い格式、大正期から連綿と続く歴史の厚み、そして何より運営・選手・ファンの成熟度からして、他のスポーツを悉く圧倒して微塵も劣後する処が無い。


　下らない小事に拘って、大切な本質を見失っているプロスポーツの関係者・ファンは、まず週末昼間の神宮球場の門を叩き、我が国最古の野球リーグの神髄に触れて、真に心すべきは何かを獲ておくべきである。