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2016年09月18日

満州

満州  全国紙・産経新聞が運営するニュースサイト「産経ニュース」の連載コラム【満州文化物語】から、その第32回『特急「あじあ」の機関車設計者は「キング・オブ・ロコモ」と呼ばれた男だった…』に注目。

 少々年齢の進んだ鉄道ファンであれば誰しも、そして旧満鉄社員の子孫である私は尚更のこと、超特急「あじあ」の伝説的なスペックに憧れる。

 その流麗にしてパワフルな機関車を開発した鉄道技師・吉野信太郎について語った記事。
 敗戦と同時に喪失した植民地に遺された機関車と共に、彼の地で客死したと知り望郷の念いかばかりかと思い遣りつつ、技術者としては短くとも最高の人生だったのではないかと讃えたい。

 「あじあ」が伝説の超特急たる所以を、更に補強するエピソードと位置づけられよう。




 しかし、ロマンやノスタルジーだけで読み飛ばせない、深刻な問題を孕む記述も見られる。

 保守を自称する産経なれば、過去の日本が犯した拙劣な植民地経営を美化・正当化しようと試みるまでは、リベラルな私も「しょうがねぇなぁ」と大目に見よう。

 議論のある歴史認識の問題はさておき、技術的な解説に理解不足および決定的な誤認がある。



 記事の中段部分で、当時最先端だった満鉄の技術が、現在の新幹線にも活かされているかのように理解した読者がいるかもしれない。

 確かに戦前の「弾丸列車計画」は、軍部の横槍で完全電化が許されず、満鉄「あじあ」と同じく蒸気機関車牽引の列車が運行される予定とされており、もし順調に開業していれば日満連絡の花形姉妹列車となったことだろう。
 機関車開発やオペレーション全般で、満鉄の経験が大きな糧となることは想像に難くない。


 一方で現行の新幹線は、寧ろ在来線の延長に在るものと、私は考えている。
 標準軌(1435㎜:4フィート8インチ1/2)を採用する欧州並みの大きさの車輌を、日本では遙かに狭い軌道上(1067㎜:3フィート6インチ)で、戦前から高速走行させていた。

 その証拠に1988(昭和63)年、パリから遥々シベリア経由で走行してきた「オリエント急行」の車輌は、台車交換と僅かな手直しのみで青函トンネル・瀬戸大橋・関門トンネルを駆け抜け日本全国のJR線を走行している。

 日本の新幹線車輌は標準軌を採用しているとはいえ、車輌の横幅は欧州の車輌に比べて相当に大きく造られており、これは狭軌上で大柄な車輌を安定して走行させる、在来線の技術が活かされているものと見るべきだ。
 

 弾丸列車・新幹線に携わった国鉄の技師・島秀雄が、満鉄技師・吉野信太郎について詳しい記録を遺していない点を、コラムでは「プライドが邪魔をした」かのように書き記しているが、私はそもそもバックボーンもアプローチ手法も異なるのだから、先進性に敬意や羨望の念を抱きつつも、技術的には初めから参考にしていなかったのではないかと考えている。



 そして致命的なのは最後段の記述。
 給水ポイントが限られる過酷な区間での運用を目指した復水式(シリンダーで用いた蒸気を回収して水に戻し再利用する。給水インターバルを伸ばせる反面、復水器にエネルギーの2~3割を奪われ効率が悪い)蒸気機関車「ミカク」と並び紹介されている「ダブサ」が、ディーゼル併用となっている。

 全く仕組みが異なるディーゼルと蒸気機関の併用って、一体どんな機関車なのだろう。
 戦前に、かくも複雑な「ハイブリッド機関車」が開発されていたのなら、まさにトヨタ・プリウスも真っ青である。
 当然、そんな機関車が実在する筈はない(イギリスで試作した記録はあるが、失敗している)。


 満鉄「ダブサ」は、超特急「あじあ」の牽引機「パシナ」と通底する流線形のカヴァーが施されたタンク機関車(水・石炭を搭載した専用のトレーラーが無いタイプ。機関車トーマスなども同カテゴリ―)で、一見すると蒸気機関車には見えない斬新な形状をしている。
 外観だけでなくメカニズム面でも新機軸を採用。蒸気機関車が一般的に燃料とする石炭を用いずに重油専燃とし、オペレーターに重労働を強いる投炭作業を廃した。

 「蒸気機関車らしからぬ流麗なフォルム」「燃料は重油」という点を、惨軽執筆陣が軽率に読み違えたが為に、謎の機関車「ダブサ」を出現させてしまったのだろう。


 ちなみにドイツや日本国内でも、蒸気機関車を重油専燃に改造して運用していたし、現役で走行している蒸気機関車も補助燃料として重油を用いているが、それらは「重油を燃料にする蒸気機関車」であって、当然に「ディーゼル機関車」ではない。



 「自虐史観」とやらを妄想するのはともかく、歴史上も技術上も存在しなかった機関車をでっちあげてしまうのは、執筆記事の正確性が真っ先に問われるマスコミとして、在り得べからざる事態である。
 署名には「文化部編集委員 喜多由浩」とあるが、惨軽文化部ないしは喜多某にとって、高度に技術的な話題を取り扱うには荷が重かったようだ。


 相変わらず執筆記事が拙劣な惨軽新聞記者・編集陣の、心からの猛省を求める。


ブログ一覧 | 鉄道 | 日記
Posted at 2016/09/18 22:32:28

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