2022年11月24日(木)
お仕事で浜松へ向かう途中、新幹線の車窓から眺めた富士山。
『日本百名山』の著者、深田久弥氏は、同書の中で次のように述べている。
この日本一の山について今さら何を言う必要があろう。かつて私は『富士山』という本を編むために多くの文献を漁って、それが後から後から幾らでも出てくるのにサジを投げた。おそらくこれほど多く語られ、歌われ、描かれた山は、世界にもないだろう。
(中略)
全くこの小さな島国におどろくべきものが噴出したものである。富士を語ってやまなかった小島烏水氏の文章に「頂上奥社から海抜一万尺の等高線までは、かなりの急角度をしているとはいえ、そこから表口、大宮町までの間、無障碍の空をなだれ落ちる線の悠揚さ、そのスケールの大きさ、そののんびりとした屈託のない長さは、海の水平線を除けば、凡そ本邦において肉眼をもって見られ得べき限りの最大の線であろう」とある。
おそらく本邦だけではない。世界中探してもこんな線は見当たらないだろう。頂上は三七七六米、その等高差を少しのよどみもない一本の線で引いた例は、地球上に他にあるまい。
八面玲瓏という言葉は富士山から生まれた。東西南北どこから見ても、その美しい整った形は変わらない。どんな山にも一癖あって、それが個性的な魅力をなしているものだが、富士山はただ単純で大きい。それを私は「偉大なる通俗」と呼んでいる。(中略)
小細工を弄しない大きな単純である。それは万人向きである。何人をも拒否しない、しかし又何人をもその真諦をつかみあぐんでいる。幼童でも富士の絵は描くが、その真を現すために画壇の巨匠もてこずっている。(中略)
地面から噴き出した大きな土のかたまり、ただの円錐の大図体に過ぎぬ山に、どこにそんな神秘があり、そんな複雑があるのだろう。(後略)
この中で引用されている小島烏水の文章もすごいが、深田久弥の文章もすごい。
行きの新幹線で見た富士山で、深田久弥の文章を思い出し、浜松のお仕事もそこそこに帰ってすぐに『日本百名山』を読み返しました。
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2022/11/24 20:18:10