
第67弾
『キース・ジャレット・トリオ/チェンジズ』(1983年1月録音)
とても美しい演奏です。
キース・ジャレット(p)、ゲイリー・ピーコック(b)、ジャック・デジョネット(ds)のトリオは、1983年に『スタンダーズ(Vol.1)』、『同(Vol.2)』の2枚のアルバムをリリースし、60年代(リバーサイド時代)のビル・エヴァンス・トリオに比肩するピアノ・トリオの最高峰と賞されたものですが、実は2枚の『スタンダーズ』よりも先に、この『チェンジズ』が録音されていて、しばらくお蔵入りしていた後に、84年になってから発売されたという経緯があります。
先に発売された『スタンダーズ(Vol.1&2)』は、タイトルの通り、よく知られたスタンダード・ナンバーを3人が絶妙なインプロヴィゼーションで演奏していくという趣向だったため、馴染みやすいという面がありました。それに比べると、先行した『チェンジズ』は収録曲はすべてキース・ジャレットのオリジナルなので、とっつきにくい面があったかもしれません。
ですが、キースのイマジネーティヴなメロディラインの美しさは定評のあるところで、このレコードでは、それにベースとドラムスが絶妙に絡んでいきます。ときにはピアノが、ときにはベースが、またときにはドラムスが、それぞれメインになり、変転しながら互いに美しいものを紡ぎあげていくのです。
キース・ジャレット(1945.5.8~ )は白人のジャズ・ピアニストで、70年代にマイルス・デイビス(tp)のバンドに参加して注目されるとともに、『ソロ・コンサート』(73年)、『ケルン・コンサート』(75年)でクラッシック・ファンの心も鷲掴みにし、今日まで第一線で活躍し続けています。メロディーラインが美しいのに、興が乗ってくると演奏しながら唸り声をあげてしまうところが、クラッシック・ファンからは許されないようではありますが。
さて、このジャケットですが、ローズ・アン・コラヴィート(キースの奥様で、画家、写真家でもある)が撮影したというクレジットがあるのみで、場所とか意図とかの手掛かりはありません。しかしこの廃墟というか解体中のビルディングが、こんな風にむき出しのまま工事が行われている(それ自体、日本では考えられませんが!)様子と、その上に広がる青空、そして通りに駐車中のクルマや奥に見える工事車両、さらに手前に並んでいるバイクにあしらわれた赤が、なんとも不思議なコントラストになっていて、にぎやかさというか陽気さのようなものを醸し出しています。よく見るとこのコントラストは、目の前を丁度通り過ぎようとしている
ピックアップ・トラックのオレンジが勝った黄色があることで微妙なバランスを保っているようです。動いているものはこのトラックだけで、その他の物はすべて画面の中で静止しています。
古いもの(廃墟)と新しいもの(クルマやバイク)、静と動、青と赤という具合に、アンビバレンスな事物が混然一体となって一枚の写真に結実している、そこが猥雑な陽気さとして観る者を惹きつけるのでしょう。
このトラック、ぶれていて細部が確認できないのですが、ボンネットや前輪のオーバーフェンダーの形状から、次のどちらかではないかと思われます。

【左】1950年型シボレーC3100 【右】1953年型フォードF100
1940~50年代のアメ車のピックアップトラックは、それこそ百花繚乱のごとく、車種もメーカーも多種多様なので、こればかりとは限りませんが、たぶんこの時代のものだと思います。先ほどのアンビバレンスな対比からいうと、通りの向こう側に停まっている赤い車が1970年代後半のハッチバック車なのも、新旧の対比として意識されているのかもしれません。ついでに言うと、手前のバイクは左からスズキ、カワサキ、スズキ、スズキと並んでいて、これも西洋(欧米)に対する東洋(日本)の対比なのかも。
Posted at 2016/10/01 20:20:48 | |
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JAZZのLP | 日記