
第70弾
『ファーザー・トム・ヴォーン/モーター・シティ・ソウル』(1967年2月録音)
(Father) Tom Wade Vaughn(p)
1935年10月24日ケンタッキー州ベントンの生まれ。一家は10歳の時ミシガン州ポンティアックに移住。同地在住のハンク、サド、エルヴィンのジョーンズ3兄弟との近所付き合いが音楽界に入るきっかけとなった。デトロイトのミュージカル・アーツ音楽院に進み、さらにユーレカ・カレッジとエール大学で都合7年間神父になるための学業を積んだ。ジャズ・ピアノは趣味で弾いていたが、64年にデトロイトでジーン・クルーパと共演した際、同席したジョージ・ウェインに認められて66年ニューポート・ジャズ祭に出演、以来RCAと専属契約を結び数枚アルバムを残しているが、最近は聖職に専念している模様。ニューポートの実況版「ジャズ・イン・コンサート」(RCA)などがある。
1981年版スイングジャーナル「世界ジャズ人名辞典」には、こんな記載がありました。
(註)英語版Wikipediaにはトム・ヴォーンは2011年3月4日に死去したという記載があります。
名前にファーザーがついているということは、学業を積んだだけでなく、神父の資格を得たということ。カトリックの聖職者が演奏するジャズというと堅苦しいものを想像してしまいますが、もともと宗教と音楽には親和性があるからか、トム・ヴォーンの素質なのか、けっこうブルース臭さの強い演奏で楽しめます。
このアルバムは、トム・ヴォーンがRCAに残した4枚のアルバムのうち3作目にあたり、デトロイトのベーカーズ・キーボードラウンジというバーで録音されたピアノ・トリオによるライブ録音です。収録されている曲目は、スタンダードナンバーありボサノバありと器用にいろいろ弾きこなしていますが、4曲目がアルバムタイトルにもなっている自身のオリジナル曲です。
「モーター・シティ」とは、
このシリーズの第47弾でも触れたとおり、フォード、ゼネラルモーターズ、クライスラーのビッグ3がいずれも本社を置く、アメリカの自動車産業の一大拠点として発展したデトロイトの別名。
このアルバムが録音された翌年、1968年8月にデトロイトで43人が死亡し7000人以上が逮捕されるという大規模な黒人暴動が起こり、それがきっかけとなってデトロイトは危険な街のイメージを払拭できずに次第に衰退していく。
トム・ヴォーンも同時期にデトロイトを離れ、カリフォルニアの教会で聖職者としての活動に専念し、ジャズ・ピアニストとしての活動はぴたりと止めてしまったようです。
後年(1991年)、ロサンゼルスの新聞社のインタビューに対し、「ピアノを弾くことで満足したことはないが、聖職者であることは不断の努力を伴う。だから自分はピアニストであることよりも、聖職者であることの方を選んだのだ。」と答えたというトム・ヴォーン。アリとキリギリスの寓話みたいな話ですが、1967年までのわずか数年間にたった数枚のアルバムを残しただけで表舞台から消えてしまった彼を知ったきっかけは、このLPジャケットでした。
端正な顔をした紳士が赤いオープンカーのドアを開け、乗り込もうとしているところでしょうか。クルマ好きのよーのすけとしては、中古レコード店でこのジャケットをみたら、買わずにはいられませんでした。
このクルマは、
初代 シボレー・コルベット C1だと思われます。

左:54年式コルベット C1 右:58年式コルベット C1
コルベット C1は1953年から生産され、63年にC2(コルベット・スティングレイ)に引き継がれるまでの間に数度のモデルチェンジが行われています。2枚の写真はいずれもフェンダーからドアにかけて楕円形の窪みがデザインされていて、これがC1の特徴のようになっていますが、この窪みは53年の登場当初にはなかったもの。ヘッドライトは58年式から4灯になったもので、一口にC1と言ってもいろいろな形態のものがあるので特定しにくいのです。コルベットC1の歴史は
こちらのサイトに詳しく紹介されています。
ジャケットの写真のクルマにも楕円の窪みがあるので、C1は間違いないと思いますが、ヘッドライトが2灯か4灯かはわかりません。神父さんが乗るクルマとしては、どちらもあまり相応しくないような気がしますけど。
Posted at 2017/07/26 21:44:45 | |
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JAZZのLP | 日記