担任のF先生がマイクを持ち、語り出した。
「だいたい目つぶって想像してみればいいかもね。
時間にして12時40分ころかな?
あのね、男子の部屋にまずいってみたのね。
そしたら・・・やっぱ寝てないわけよ。
そこはー、ちょびっとつねったり、そんなことして、あの帰ってきたんだけれども。
男子の部屋の下が丁度女子の、あのー風呂場になってんの。
そこでー、A先生と二人で、そこにそーっと入ってみたの。
別段、意味ないですよ?
あのー、きっとウチの組の生徒がはいってるんじゃないかと、そんな予感がしたんで入ってみたらあ。
パンツが一枚、あのー置いてあったのね。
これー男物のパンツなんで、きっとウチの生徒がはいってるんだろなーと思って
そーっと、こう入っていったら。
物陰にパジャマとかランニングシャツとか固めて、置いてあったの。
あー、これは、いよいよ! と思って、風呂場の戸を開けたら。
Cとぉ、Hがぁ
キョトーーーンとした顔してこっち見てるの。
で、あのー、これからです。これから。
ふたりにね、快く上がってきてもらって、で、あの、男同士だからね。
恥ずかしいこと無いから、ぜーんぶそのまんまの姿で女子の方の部屋の方に一緒に行ったわけです」
半ばあきれた声でCが挟んできた。
「せんせ、それちがうっしょ」
「そしょかなーと、思ったんだけれども。
それじゃ可哀そうなんで、パンツだけ履かせて、廊下を歩かせたんです。
で、一組の女子が、それをみていたらしいですから。
あのー、明日あたりね。明後日か。
相当CとHは、物笑いになって歩けないじゃないかと思うんだけれど。
特にね、あのHがひょろーっと高い。
Cが中くらい。二人の裸の男がね、廊下をペタペタペタペタ・・・
ただ、それだけなんだけどね」
と、これはF先生側からの話なのだが、当の本人二人から詳細を聞いてみた。
元々は、幽霊もなかなか出てくれなかったのと、Iがもってきたマリン一号が中継地点にあったということもあって、マリン一号で遊んでみたくなったらしい。
ふたりでコソコソ相談した結果、一番近い風呂は女風呂ということで、年頃だった男二人の小さな冒険「女風呂に秘密で入ってみる」という魅力もあり、そ~っと抜け出して女風呂にむかった。
もちろん、マリン一号を持ってだ。
脱衣所についたやつらは、着ているものを隠したのだが焦っていたのでCが脱ぎ忘れて後から脱いだパンツだけ隠し忘れて風呂に入った。
バシャバシャやるとバレるので、まんま湯壷に入ってマリン一号のスイッチを入れて風呂に浮かべては「おお~っ!」
風呂に沈めて音をならしては「おお~っ!!!」とやっていて先生がきているのが全然分からなかったというわけだ。
風呂は、街灯の光が少しはいっていたので真っ暗闇ではなかったが、相当に暗く、温かいので寒気とかが分からなかったが、今朝の旅館の女将の話を聞いて;やめときゃよかった。幽霊が出なくて本当によかった;と思ったらしい。
いや、本当は幽霊は出ていたのかも知れない。
しかし、炭鉱夫の幽霊では、水中用ラジオ マリン一号の魅力には勝てなかったということか。。。
結局、ラジカセで幽霊を追いかけきることは出来なかったが、少なくとも俺のいたグループの奴らは、自分がラジカセを持っているということに対して、単なる音楽やラジオを聴くためのリスニングマシンじゃないという感覚が生まれたのだった。
それは、自分達が一番ラジカセをうまく使えるんだという自信にもなった。
修学旅行も終わって三カ月もたっただろうか、
俺達のラジカセプレイバリューをあざ笑うかのような機種がメーカーより次々と出され始めていたのを俺は知らなかった。
同級生でマンガが物凄くうまい、本名があの999の作家と同姓同名というMA君が「ラジカセ買ったんだよ。遊びにこない?」と誘ってくれた。
彼は、絵についての真の意味で天才であった。
彼とは小学校の時から同じクラスだったのだが、実は彼が小学6年の時に鉛筆で描いた絵を今、現在の俺はデジタルをもってしても越えられないでいる。
同じ女子を好きになったりと彼とはなんとなく気が合った。
その「気が合う=感覚が似ている部分がある」という嗜好がラジカセ好きの俺に悲劇をもたらしたのだ。
彼の家は俺の家からさほど遠くない、こじんまりとした二階建て一軒家であった。
二階の六畳の彼の部屋には週刊漫画本がギッシリで、それはもう天国のようだ。
しかし、その部屋にはどこのメーカーとも知れない黒い小さなチープなラジカセが一台あるきりだった。
「これを買ったの?」
「いや、今、持ってくるよ」
といって彼は下に降りていった。
もってくる間に漫画でも読んでいようと適当に物色してみた。
読む漫画の背表紙をみているうちに彼が上がってきた。
「これ、買ったんだ」
彼が持ってきたメカをみて俺は仰天してしまった!
買ってもらったラジカセに満足してエアチェックや生録に勤しんで新製品に疎くなっている数カ月の間に、日本はSFメカの国へと変貌していたことに全く気がついていなかったのだ!!
彼の手から降ろされたものは、既に従来のラジカセから逸脱したものだった。
ゴツい!!
凄い金属感!!
でっかいワイヤレスマイクは取り付け角度も可変出来た。
そして、なにより・・・
巨大なパラボラアンテナ?!
あまりにカッコ良すぎる!!!
最早、これは何をする機械なのかという疑問さえ生じかねない大迫力だ!!
俺は恐る恐る聞いてみた。
「こ、このパラボラアンテナ・・・・ま、回るの?」
つづく
解説・・・・・・
MA君が気にいってかってもらったのは、東芝 アクタスパラボラ RT-2800
モノラルラジカセのなかでも一際輝くスーパーメカだ。
目立つパラボラは、勿論アンテナ等ではなく生録用の集音器である。
本体の性能もすこぶる凄く、独立音質調整ボリューム、リピート選曲、3バンドラジオ、ワイヤレスマイクにミキシングボリュームと、考えうる全ての装備が詰まっていた。
俺にとっての最大の悲劇は、これが自分の持っていたラジカセと同じ東芝の製品であり、俺のアクタス560は、一気に遠い過去の製品に追いやられてしまったことである。
こんなメカに太刀打ちできるわけないじゃないか・・・(つд⊂)エーン