
先日の
長尾峠や
赤城山で、特に下り坂で減速Gの尺が合わず、ブレーキ踏み増しの矯正が目下の課題です。
坂道では斜面方向に生じる重力の分力が加速度に影響することを
過去のブログ記事にさらっと書きましたが、今回は事例を交えて詳しく。峠道でG-Bowlを試した方はよく御存知と思いますが、私と同様の課題を抱える人の参考になれば幸いです。
道路勾配によって生じる加速度
傾斜角度θの坂道を下る状況(図1)を想定します。

図1 傾斜角θの坂道を下る
この坂道の勾配は水平距離(L)と垂直距離(H)の比 H/L(= tanθ)です。
クルマの質量をM、重力加速度をg(= 9.8m/s^2)とすると、クルマに働く重力Wは斜面に沿う方向の力Fと垂直方向の力Nに分解でき、以下の関係にあります。
三角関数のsinは斜面距離(S)の比で sinθ= H/S です。
W = M・g F = W・sinθ = M・g・sinθ
斜面に沿う方向の力Fによって質量Mのクルマに生じる加速度はg・sinθとなります。
上の図は一例として θ=11.57° で描いたので sinθ=0.2 tanθ=0.205(≒ 20%)となり、坂道で重力によって生じる加速度は0.2Gです。θが小さい範囲では sinθ≒ tanθなので坂道の道路勾配(%表示)から重力によって生じる加速度が分かります。坂道の勾配が10%なら約0.1G、20%なら約0.2Gという具合に。*
ここまでが坂道の影響を考えるための下準備。ここから先が本題です。
坂道を走る時のG-Bowlグラフ
前提条件として平地でG-Bowlのキャリブレーションをしておきます。
まずは坂道で停車した場合です。坂道で停車すると、下り勾配10%なら減速G(青)=0.1G、登り勾配10%なら加速G(赤)=0.1Gのフラットなグラフになります。下の事例は赤城山の登り坂で一時停車してます。グラフの読みから加速G(赤)=0.09G、よってこの坂道の勾配は約9%です。

参照動画:
アテンザXD 赤城山でG-Bowl 登り 再生時間 3:35〜
では次に下り坂で停止からブレーキリリースして斜面に沿う力(F)で発進したら。停止状態は減速G(青)が一定Gのフラットなグラフです。そこからブレーキリリースして下り坂を”自由落下”したら。事例は下り坂の赤信号停止で減速G(青)=0.08Gフラットから、青信号でブレーキリリースして4秒ほど”自由落下”で空走します。のろのろと加速しますがアクセルオンするまで0Gを維持です。

参照動画:
アテンザXD G-Bowl練習(右回り)再生時間 7:28〜
「いや、ATのクリープでわずかに加速するだろう」と言われればその通り。でも下り坂発進でブレーキリリースして”自由落下”で進行中はグラフは0Gを維持します。例えば勾配20%の下り坂で、ギヤをニュートラルにしてブレーキリリースすれば、グラフは0G維持のまま車速は0.2G相当のペースで加速します。安全な坂道で試せば確かめられるでしょう。
坂道の”自由落下”で0Gを維持することは、実体験または理屈でもすぐ解るでしょう。重力場で自由落下すると速度は9.8m/s2で加速しながら無重力状態なのと同じです。これは下り坂の事例が解りやすいですが、登り坂でも同様です。勾配20%の登り坂を走行中にギヤをニュートラルにして空走すると、ブレーキを踏まなくても0.2G相当のペースで減速しますがグラフは0Gを維持します。ついには停止して後退し始めても。
坂道で重力(の分力F)が影響した際の停止状態と自然落下のグラフは解りやすい。では次に、坂道を定速走行する場合はどうでしょう? 物体の運動として捉えれば答えは簡単、停止状態と同じです。停止状態は速度0km/hの定速走行ですから。具体的には、勾配10%の登り坂を速度60km/hで定速走行すれば、グラフは加速G(赤)=0.1Gのフラットです。速度が0km/hでも40km/hであっても同じこと。
勾配10%の下り坂を速度60km/hで定速走行すれば、グラフは減速G(青)=0.1Gのフラットです。以下の事例がまさにこのケース。長い下り坂を延々と減速G(青)=0.1Gで60km/hの定速走行です。

参照動画:
長尾峠の帰り道 乙女P〜御殿場IC 再生時間 2:28〜
この事例は再生時間 2:33に左手のパドル操作で3速へシフトダウンしてエンジンブレーキを利用してます。グラフの読みから減速G(青)=0.1G、つまり勾配10%の下り坂です。ちなみにフットブレーキを踏み始めるのが再生時間 2:54 で、ここから減速Gを積み増しますが尺が足りず、辻褄合わせで微妙にブレーキを踏み増してます。
坂道で加速中または減速中のグラフはもう解りますね。勾配10%の登り坂なら0.1Gの”重力ブレーキ”が働くので、加速中は”重力ブレーキ”を打ち消すように加速G(赤)は0.1G大きく、減速中は”重力ブレーキ”に助けられて減速G(青)が0.1G小さくなります。同様に勾配10%の下り坂なら”重力アクセル”が働くので、加速中は”重力アクセル”に助けられて加速G(赤)は0.1G小さく、減速中は”重力アクセル”を打ち消すように減速G(青)が0.1G大きくなります。
さて、ここからが核心です。
では勾配20%の下り坂で速度50km/hまで加速して、ヘアピンコーナーへ向かう状況はどうでしょう。ちょうど図1で V = 50km/h の状況です。
まず”重力アクセル”を打ち消すため減速G(青)=0.2Gのブレーキが必要。フットブレーキにエンジンブレーキを併用でも良い。しかし減速G(青)=0.2Gでは速度50km/hの定速走行です。さらにコーナリング速度(例えば30km/h)まで減速するには減速Gを積み増します。
ここでGコントロールのリミット=0.3G だとしたら。”重力アクセル”の加速を抑えるだけで0.2Gを要し、50km/hから30km/hまで減速するのに積み増せる残り枠は
あと0.1Gしかありません。平地と比べて減速に使えるGが小さく抑えられて、減速距離の尺が伸びます。これが下り坂では尺が合い難い、補正が必要な理由です。平地で減速0.3Gと減速0.1Gでは、かなり尺が違うのは皆さんご存知ですね。
以下の事例はブレーキタイミングが遅れ、リミット=0.3Gオーバーの減速G(青)ですが、コーナー入り口から勾配が緩く変化して、思ったほど横G(緑)が立ち上がらず、Gの不揃いが残念な失敗例です。

参照動画:
アテンザXD 赤城山でG-Bowl 下り 再生時間 1:33〜
勾配20%の下り坂でリミット=0.2Gだとしたら、”重力アクセル”を抑えるだけで精一杯。確実にリミットオーバーですね。急な下り坂をリミットキープで走ることの難しさを相模原の急峻な
チャレンジコースで実感しました。
勾配20%の登り坂ではどうでしょう。ブレーキを踏まなくても減速0.2Gの”重力ブレーキ”が働くので、フットブレーキを踏んでグラフは減速G(青)=0.1Gでも、平地の減速G(青)=0.3G相当の減速効果です。急坂で登りの場合は尺が余ると言うより、減速Gが目標Gに届かなくて減速Gで得点し難くなります。得点アップを狙うと、目標Gに見合う減速G(青)が立ち上げられるようにコーナー手前直線で加速したり。その直線も不足するとコーナー手前だけ鋭く減速G(青)を立ち上げたり。Gコントロール練習の一環ではありますが、登り坂を速度維持しながらスムーズに走るのとはちょっと違う気がします。なので今は得点狙いではなく、減速Gはタイミングが合えばあえて旋回Gに揃わなくても良いと自己判断します。
以下の事例は間合いが詰まった連続ヘアピンコーナーで、右コーナー脱出から左コーナー進入は登り坂で速度維持して右から左へ振り返しです。進入の減速G(青)は無しでも速度は適正で横G(緑)には突出や偏りが無く、OKと自己判断です。

参照動画:
アテンザXD 赤城山でG-Bowl 登り 再生時間 1:10〜
ここまで坂道とグラフの関係を長々書いた内容をさらっとコンパクトにまとめたのが
過去記事に載せた冒頭タイトルの図でした。今改めて記事を振り返ると「ん? ここはちょっと違うなー」と思う点があります。誤りではなく捉え方、認識が変わりました。ここに書くにはもう長いので、続きはまたの機会に。
【捕捉】
勾配30%(tanθ= 0.3)は θ= 16.7° sinθ= 0.287 なので0.3に近いが、
勾配50%(tanθ= 0.5)は θ= 26.6° sinθ= 0.447 なので0.5とはズレが大きい。
「g」は重力加速度を意味します。値は9.8m/s^2
「G」は加速度のスケール、つまり目盛りです。加速度を9.8m/s^2で割った値。
加速度 1.98m/s^2と書くと味気ないが、0.2Gと書くと見当が付きますね。
元は重力(Gravity)に由来するのに加速度を「G」と呼んでごっちゃにしてます。