早いもので、この「○月の読書」シリーズも
続けて1年 になりました。
海外小説オンリーという、
これまたワタクシの性格を反映したような、需要の低そうなニッチな市場に特化して突き進んで参りました。
が…
…別に今後も改める気は御座いません♪(°∀°)
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ジョン・ル・カレ 『寒い国から帰ってきたスパイ』 (1963)
原題『THE SPY WHO CAME IN FROM THE COLD 』
著者は、なんか「おフランス」みたいな名前ですが、
これはペンネームで、実際はバリバリのイギリス人。
スパイ小説の巨匠と称されるが、実際にイギリス情報部に勤務経歴有りで冷戦下の西ドイツへの赴任も含む。
…という、“本職” の方なのでそりゃ納得。
故に、背景設定や細かい動作の表現が非常にリアル。
が、逆に言えばなんだか「読みにくい」という印象も抱く。
いや、読みにくいというより「難解でわからない」。「何がわからないのかわからない」という息苦しい感覚。
今「8月」用に、“同じ著者で訳者が違う作品” を読んでいますが、やっぱり同じ感じで難解なので、ジョン・ル・カレという作家の作風が “そう” なんだと思います。
本作は大雑把に言えば
“二重スパイ” の話なのですが、
そのつもりで読んでいる読者すらも「え?この人今 “どっち” なん?あれ?」と混乱してくる程、偽装工作の描写が込み入ってる。
今目の前に並んでいる文章がミクロとして在り、常にマクロに俯瞰で引いた全体像も意識しながら読んでいかないと迷子になる。
東ドイツに送り込まれる主人公は、既に一線を退いた引退間近の諜報員。
が、作戦内容は部分的にしか説明されず、管理官すらも作戦の全容を知らない。
自分が作戦の歯車のどの部分なのか解らないまま、自分に与えられた役割をこなすしかない、という理不尽さや、
味方すらも欺く偽装工作は、味方の中の誰が敵か解らないという疑心暗鬼。
誰が囮で、誰が味方で、餌は誰? 敵軍の味方は本当に味方? 作戦の目的はどこにある?
作戦の “知らされていない部分” に翻弄され、仕掛ける側から尋問される側になり、敵と味方が入れ替わる…
これにはドンパチ銃撃戦も派手な戦闘アクションもありません。
頭脳プレイの騙し合い探り合い謀り合い。地味で難解。
まさに純なスパイ小説。エンターテインメント性という意味ではキャッチー度はかなり低い。
でも、つまらないワケではない。面白い。でも難しい。
もう…頭のなかゴッチャゴチャになりますww
良いトレーニングにはなるかも。
読み終えた時に残る
ものっそいやるせなさ 。
組織の目的の為に潰されていく個人の人間性。
誰かを守る為に味方を騙す。誰かを守る為に味方を見捨てる。そして自分も当て馬だったと気付く。
が…、冷戦下の諜報合戦って、実際こういうものだったんだろうなぁ…という。
フィクションなんだけど、甘くない、
ブラック無糖の現実 がそこにある。
フィリップ・K・ディック 『ヴァルカンの鉄槌』 (1960)
原題『VULCAN'S HAMMER』
毎度お馴染みのディックです。
ハッキリ言おう。本作のノリは正真正銘「B級映画」。ケチの付けようのない完璧な「B級映画」。
真面目に読んでたら途中でガックリと力が抜けるww
一回読んだらもうポイする系ww
世界観設定とかも、まぁ、ありきたりと言えばありきたりな
「核戦争で荒廃した後、巨大コンピューターが政府に成り代わり世界を管理するディストピア」という厨二病なアレ。
P・K・ディックという作家は完全に職業作家なので、
食っていく為に=原稿料の為だけに=あまり中身を練り込んでいない作品を大量生産していた時期、というのがあるようで。
本作は正にその大量生産品のうちの一つwww
で、これまでディックの著作を幾つか読んでみて、毎回何となく感じていた事がありまして。
このディックという人物。既に、とうの昔に故人ですが。
たぶん、何らかの精神疾患があったんではないのか?と。強迫神経症とか、そういう系の。
今まで読んだ作品全てで、なんとなく病的なニホヒが感じ取れる。
他人や社会への不信感であったり、宗教・呪術的な影響であったり。
常に何かしらが引っ掛かる感じ。
それなりに面白いし(ストーリーの先は気になる)、それなりに読み応えもあるんですけど、
「コレめっちゃオモロい!おすすめ!」にはならないのよね〜…
スティーヴン・ハンター 『我が名は切り裂きジャック』 (2015)
原題『I, RIPPER』
一転、この著者の本はめっちゃオモロい!! 構成力抜群!
ストーリーの展開も「先が気になって」グイグイ読めるタイプだし、
終盤でさりげなくネタバレさせる「このキャラが実は実在のあの偉人」というネタの仕込み方(及び、それを違和感無くストンと嵌め込む周到な設定)等、
上手い! の一言。
人類史上最大の未解決事件
『Jack the Ripper』 。
未解決= “正解が無い” ゆえ、創作のネタとして普遍的な人気を誇るテーマ。
1年前にも『Jack the Ripper』がテーマの本を読みましたが…
本作はあの幼稚な作品 とは雲泥の差。
(てぇかアレについては…処女作でいきなりJack the Ripperを扱うのは無謀だろ…)
本作の特徴は、
『切り裂きジャック』を快楽殺人者ではなく、
数々の凶行は「社会への強烈なアンチテーゼの道義的メッセージ」であり、犯人は教養の有る知識人である。と位置づけている点。
つまり、その犯行には一貫した “信念” があり、全ては緻密な計画に基づいている。
ほら、猟奇殺人事件が陰謀ミステリーに変わった(笑)。
Jackの連続殺人は “目的” ではなく “手段” だとしたら?
ある意味、
本作の成した一番の偉業は「“Jackという神格” を、神でも悪魔でもないただの人間にした」 事かもしれない。
…まぁ、本作での “Jackの正体” については、意外性という点では「あーね…」という感じですが、
そこは大して重要ではない、と思えるくらい物語そのものが半端無く面白い!
この著者の本をもっと読みたくなった。
前述の、「ある登場人物が実はあの偉人」というのも一つのハイライトですが、
『Jack the Ripper』 の名付けの言語学的考察や、当時のイギリス・ロンドンの生活文化の分析等、
非常にハイレベルに作り込まれているな、という印象。
コレが史実の真実である、と言われても充分な説得力がある物語。
ただし、18禁。グロ表現注意(爆)。
Posted at 2016/07/28 22:00:19 | |
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