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2013年05月21日

彼女がつけたブラックマーク 第2章 【セリカ編】 その7

口の悪い知人から散々なじられようとも、皆様の暖かい声援に支えられ、なんとかこのシリーズを続けております、FlyingVでございます。
ほぼ全文を書き上げてはいるものの、何が時間が掛かるかと言ったら、前半で大幅に割愛したサイドストーリーやサブキャラが、ちょいちょい顔を出しながら、後半のストーリーを建て付けているため、その部分の整合性をとる作業がとても複雑になってしまっているのです(泣)

この辺りの至らぬところは、今後の課題とさせていただくとして、黒髪のスレンダーOL、ナオちゃんも登場し、いよいよ人間関係がもつれだした続編、どうぞご一読下さい。

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ナオちゃんのお陰で、随分と気が楽になった僕は、次の日、掃除を終えると、出社してきた彼女を駐車場でつかまえた。
「すいません。昨日は大人げありませんでした。一日でも早く、学生気分を抜いて、会社の為に頑張ります。」とは、昨晩考えに考え抜いた、一番無難なセンテンスだ。
すると、彼女は、トレードマークとなっているエルメスのケリーバッグを、やれやれと言わんばかりに掛けなおし、メイクしたてのはっきりとしたアイラインを横目に流して、
「別にいいわよ。」と実にさばさばした態度で、ビルの中へと入っていってしまった。
(なんだ、こんなもんか。)
あれだけのことがあったのに、たったこれっぽっちで手仕舞いだなんて、もう少し、お互いの感情のぶつかり合いというか、ドラマチックな展開を期待していたのに、少々肩透かしに終わってしまった。

その後、業務上のやり取り以外、特に口を利くことはなく、午前中の仕事が淡々と終わろうとしていた時のこと。
早めのお昼に行くとおばちゃんたちが連れ立って出て行き、部長連中もそれぞれがどこかへ出ていったことで、彼女と僕は2人きりになっていた。
隣の彼女のデスクでは、キーボードを叩くリズミカルな音が続いている。
一応、謝罪はしたものの、昨日の今日だけに、僕は、話しかけるタイミングを完全に逸していた。
なにか話しかけなければと思えば思うほど、重苦しい空気が纏わりつき、カタカタと機械的であるはずのキーボードの打音ですら僕を責めているように聞こえる。

あまりの息苦しさに耐え切れなくなって席を立とうとすると、隣のデスクから白くて細い手が伸び、僕のマウスパッドの横に、小さな紙片をポトリと落としたのだ。
見ると、エンターキーが隠れる程度の大きさに折りたたまれた三角形のメモ。
(なんだ、これ?)
拾い上げて、隣を見ると、早くポケットにしまえという仕草をする彼女。
(ん?ん?ん?)
要領を得ないまま、言われたとおりに、ポケットに入れて、なぜか僕はトイレへと向かった。

トイレへと続く廊下で、たった3センチ程度の紙片が、上着の中でその存在感をどんどんと増していき、やがて鼓動となって胸を打ち始めた。
個室に入り、深く息を吸い込んで、心臓バイパス手術の外科医よりも慎重に、かつ、繊細な手つきで、メモを開くと、彼女のコロンがほのかに立ち上る。
そこには、『昨日は、私のほうこそ、あんな態度を取ってしまってごめんなさい。きちんと話そうとしていたのに、どうしても恥ずかしくて、先にV君から言い出してくれて嬉しかった。手紙にしたのは、社内のメールがチェックされているからなんだけど、ところで、ナオちゃんと昨日、お茶したんだって?今日の夕方、よければ私がご馳走するけど、どう?』
と、大振りだけど丁寧な字で書かれていた。

僕は、もう一度読み返した。
ナオちゃんとツーカーなのは若干気にはなるところだが、確実に許してはくれている。
そして一番肝心なことと言えば、そう、今日の夕方、僕はお茶に誘われたのだ!
おまけに、この乙女チックな文面と来たら、会社では仕事以外関心を持たないクールでキャリア志向だとばかり思っていた彼女は、なんでもない、僕と同い年の、等身大の女の子だった。

学生時代、夢にまで見た女子との秘密の手紙のやり取りが、こんな形で実現するとは思いも寄らなかった僕は、丁寧に畳んで長財布にしまい、舞い上がったまま席に戻ると、
すかさず、『お茶、OKです。』と書いた小さなメモをデスクの下から彼女に渡した。
「誰もいないし、一言だったら、別に手紙じゃなくてもいいのに。」
彼女は、仕事では見せたことのない、少しはにかんだ表情を僕に向け、
「じゃあ、18:30にバチカンね。」と言い残して、昼休みへと出て行った。

午後も、午前中とは全く違った意味で浮ついてばかりの僕は、ただ時計を気にするだけで、ほとんど仕事に身が入らないまま、定時を迎えた。

タイムカードを押して、先に向かっていた彼女を追いかけるようにバチカンに着くと、知ってか知らずか、昨日、ナオちゃんが座っていた同じ席に彼女は腰掛け、僕が来たのを気にするでもなく、ファッション誌に視線を落としていた。
「すいません、お待たせしました。」
緊張と期待から、変にかしこまってソファに座ろうとする僕に、
「昨日はなに飲んだの?」と、雑誌をめくりながら、尚もこちらを見ようとしない、そっけない彼女。
(あれ、なんか雰囲気おかしいぞ。もしかして、説教する為に呼んだのか?)
まさか手紙は僕を嵌める為の撒き餌で、彼女とナオちゃんはグルだったのではとの恐ろしい予感が一瞬頭をよぎり、
「あの、えと、、、」とキョどる僕に、
「ふふ、カプチーノでしょ。」
そう言って、ようやく顔を上げた彼女は、グロスの効いた唇をニコリとさせると、僕から疑念と緊張を奪い去ったかわりに、甘く切ない痛みをくれたのだった。
「はい、それです。」
「美味しいよね。私、カプチにするけど、V君は?」
「じゃあ、同じもので。」
ほっとした僕は、水滴がたわわに付着したグラスの一つを手に取って一口含むと、氷が涼しげな音を立てて崩れた。

桑原和男似のマスターは、今日も動きは良かった。
彼女もナオちゃんも貴重な常連であり、店内の雰囲気とは残念なぐらい不釣合いな女の子達が、2日連続で連れてきた得体の知れない若造が気になって仕方がない様子だ。

「お待たせしました。」うやうやしく飲み物を運んできたマスターは、昨日よりもゆっくりとカップを置き、使いもしない灰皿を持ってきたり、いちいちメニューを直したりと、明らかに僕を観察している。
とは言っても、悲しいかな、所詮、上司と部下の間柄だ。
こうなったら、マスターの勘繰りを逆手にとって、思い切りヤキモキさせてやろうとの意地悪な気持ちが、芽生えていた。

「テキストとか気を遣ってもらったみたいで、ありがとうございます。本当に生意気でした。」
一応、相手は上司。研修で習ったとおり、頭を軽く下げて紋切り型の挨拶をすると、
彼女は意外なことから切り出してきたのだ。
「昨日、ナオちゃんと、何の話してたの?」
「え、いや、別に仕事の話とかです。」
「ふ~ん、そうなんだ。私のこと、なにか言ってた?」
「何もないですけど、強いて言えば、昨日、自分が考えるよりもずっと怒らせてしまったことと、それに対するアドバイスでしょうか。どうしてですか?」
その理由は後で分かることになる。
「初めてよ、あんなにキレたの。」
「・・・・すいません。」
「もういいの。私も忘れるから、V君も忘れて。」
「はい。あ、そう言えば、ナオちゃんとここ、よく来るんですよね。」
飲み物が来てからと言うもの、一向に弾まない会話に、無理に話題を変えようとしたのがいけなかった。
「来るけど。」と言うなり横を向いて、ふうと一つ息をついた後、
「私、結婚するの聞いてるよね。」
その唐突な一言に、胸が杭で穿れたようにズキンと痛んだ。

(続く)
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Posted at 2013/05/21 01:10:07

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この記事へのコメント

2013年5月21日 22:20
お久しぶりですが、しっかり拝読させてもらってま~す♪

最近楽しいと思えることが少ない毎日だったもんでVさんのブログは楽しみにしてました^^

今後の展開を期待してます!!

なんなら超長編でもいいぐらい♪
コメントへの返答
2013年5月22日 1:18
tetsuさん、ご無沙汰しております!!
大変、痛ましい記事、拝見しておりまして、あまりのことに言葉がございませんでした。
さぞかし心痛のこととお察しいたします。

それにも関わらず、逆にこちらが励まされてしまうようなコメント、ありがとうございますm(__)m

超長編になりそうな気配、バリバリですので、このまま載せ切ってみますね。
この後の、生々しい描写が目下の課題なんです(汗)

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