
若い男性にとって、
初デートの場所をどこにするのかという問題は
熟慮を要する。
35年も前の私事で恐縮だが、小生の場合は東京タワーにした。理由は、
①お相手の方が九州から出てきて間もなくで、東京の名所をあまり知らなかった
②高いところが好きそう
ということで、比較的すんなりと決定したのだった。
小さい声で言うのだが、下宿のオバサンは埼玉出身なので当然
別人の話である。
そして勿論初デートだったから、東京タワー周辺の
実地踏査は当時の愛車である初代シビック号で念入りに行った。
さて、これも
どうでもいいことなのだが、
2回目のデートは自宅。
3回目は相模湖。
4回目は大洗海岸。
5回目は新宿三井ビルのスカイレストラン(たぶん今はもうないはず)。
だったのである。
しかし今思えば、5回目のデートは何としても
美術館にすべきだった。
「博物館は哲学研究の工場であり、その所蔵品は原料に過ぎないのです」
こう述べたのは、フランス国立ギメ博物館にその名を残す、エミール・エチエンヌ・ギメである。
仮に博物館を美術館と言い換えることができるとしよう。
即ちあの日あの時、
恋愛を哲学するために
(もっと下世話に言えば、スカイレストランでいきなり直球勝負なんかせず、美術館という非日常的な空間で敢えてボール球を投げ、相手の出方を窺うという戦術上の意味も含め)、三井ビルに行かず
何処ぞの美術館に行っていたとしたら、小生の人生も180度変わっていたかもしれないと考える今日この頃なのである。
そこで本日のリハビリテーションは、
世田谷美術館に決定する。
日本の伝統文化をこよなく愛し、広くフランス国内に紹介してくれたギメにちなむかのような、
「華麗なるジャポニスム展」が開催されているのだ。
何でも、ボストン美術館が誇る絵画をはじめとする名品150点が展示されているらしい。
土曜日に大嫌いなシャンプーとカットが待ち構えているとは知る由もないタロウが、上機嫌で見送ってくれる。
朝食を済ませ、9時15分自宅を出発。
スズキアルト ラパンの背後に迫る不気味な影・・・。
10時55分、
トウ~
チャコ!(マンネリゆえパターンを変えてみた)

2台分の身障者用駐車スペースは満員御礼の垂れ幕が下がっていたため、業務用の専用スペースに止めさせて頂いた。ご配慮感謝申し上げます。
正面玄関を目指しリハビリ開始。
入り口に辿り着く。
予想通り混んでいるようだ。
ところで、フランス語のjaponismeという言葉は、日本という国名を表すjaponにismeをくっ付けた
造語らしい。
名詞の後ろにismeを付け新語を造るのは、どうやら
フランス人の得意技のようである。
例えば
毛沢東を表すMaoにismeを付け、maoismeという新語を造っている。
当然毛沢東主義という意味である。
浅田真央と一緒に3回転してみたい・・・という意味では決してない。
このjaponismeは、
日本趣味と訳されるらしいが、具体的には
日本の美術品に対する愛好という意味だそうである。
そんなうんちく話を頭の片隅に置きつつ、1階の展示場内に入ってみる。
場内は思ったより暗く涼しい。
絵に光と暑さは禁物ということなのだろう。
歌麿や北斎の
浮世絵と対比する形で、印象派の巨匠たちの名画が並ぶ。
それにしても、極端に陰影を付け
遠近法で描いてきた伝統ある技法を敢えて捨て去り、極東に位置する神秘のベールに包まれた国の、しかもどこの馬の骨だかよくわからない浮世絵師の手法を取り入れるとは、随分と
思い切ったことをするものだ。
素人の小生にわかるはずもないが、その
背景にどういった意味が隠されているのか実に興味深い。
さて、1階場内には絵画の他にも、皿、漆器、着物等が展示されていたのだが、その奥のブースに、
本企画展の目玉であるモネの大作
「ラ・ジャポネーズ」が飾られていた。
考えていたよりずっと大きい・・・が
第一印象である。
10分程じっと観賞してみる。
モデルは
モネの妻であるカミーユ。
15本のうちわをバックに、金糸の刺繍をあしらった
ド派手な赤い着物をまとっている。
和服と言うより、
どてらに近いようにも見える。
にっこりした
見返り美人さながらのポーズに、こちらも思わず知らず微笑みを返したくなるが、実はカミーユからみて左側に
花魁のうちわがあり、さながら
日仏美女対決の様相を呈しているのである。
というのも、カミーユが持っている扇は赤白青とまさに
三色旗の配合。
モネが扇を持たせたに違いないから、即ち国の威信をかけた美人コンテストを
裏モチーフとしたのではないか・・・あの世でモネに会ったら一度聞いてみたいものだ。
そんな妄想はともかく、近くに女性の学芸員の方がいらしたので
図々しく尋ねてみた。
「随分と大きいですが、
何号ですか?」
学芸員の方曰く、
「この絵は
継ぎはぎ(註:表現は正確ではないかもしれないが、多分そういう意味だと思う・・・)なので、何号とは言いません。強いて言えば
エム155ですね(と聞こえた・・・)」
小生余計にわからなくなったので、どなたか詳しい方ご教示頂ければ幸いである・・・。
閑話休題。
エレベーターで2階にあがってみる。
風景をテーマとした絵画・版画・写真が主であり、地味ながら落ち着いた趣きがある作品が多かった。
あっという間に13時が過ぎ、空腹感に襲われたので、1階のフランチレストランである
ル・ジャルダンに行くが、
1時間半待ちと言われ退散。
地下の
SeTaBi Cafe(セタビカフェ)に行く。
10分ほど並んで、ランチにありつく。
腹の虫も落ち着いたので、外に出てみる。
夏休みで子供も多いが、砧公園には楽しそうな
カップルも数組いた。
そういえば、展示場内にも外国人をはじめ、明らかに
恋人同士とわかる若者たちが熱心に絵を観ていた。
海も山も映画も、そしてディズニーランドもデートの場所には悪くはないが、
恋愛を哲学するならやはり美術館に限ると小生は本日
再認識した。
14時ちょうど世田谷美術館を出発。
首都高は渋滞もなく、15時5分帰宅する。
さて若人よ。
ル・ジャルダンにこそ行けなかったが、君たちに代わって
実地踏査は済ませてある。
この夏こそ彼女を連れ、胸を張って
世田谷美術館に行くべし!
Posted at 2014/07/29 23:47:53 | |
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