
2か月程前に試乗したヴァンキッシュについてです。
今までのアストンのモデルはどれも格好良かったですが、ヴァンキッシュはちょっと格が違う素敵過ぎる見た目です。
ここまで勇ましさと色気が融合している車を見たことがありません。
フロントからリアへのラインの流れが美し過ぎで、特にリアウイングの造型はオールカーボンボディだから為し得たものだそうです。
至る所に使われているむき出しのカーボンがまた良きアクセントになっています。
内装はアストンですから素晴らしいのは当たり前ですが、ヴァンキッシュを見た後にDB9を見ると途端に古臭く感じるほどの出来栄え。
DB9はスイッチが多くてゴチャゴチャした雰囲気なのですが、ヴァンキッシュはパネルをタッチして操作するので、とてもスッキリしているのです。
アストンはシートやダッシュを豊富な種類の革から選んで組み合わせ、自分だけの1台を作ることが出来ますが、試乗車は赤黒を基調としており、センスが良いものでした。
ただし、ポップアップ式のナビはヨーロッパでシェアNo.1のメーカーの物だそうですが、日本製のナビとは比べ物にならない貧弱な画面です。
オシャレな内装がナビのせいでかなり損なわれています。
アストンにしろフェラーリにしろ、純正ナビをもう少しどうにかして欲しい。
後部座席は豪華な荷物置き程度のスペースしかありませんが、こういうスポーツカーの割りにはトランクは広いです。
ゴルフバッグが2つ入る大きさとのことでした。
全長が4728mmもあるのですから、当たり前とも言えますが。
ガラス細工のようなキーを奥まで押し込むとエンジン始動です。
甲高いエンジン音が響きました。
サイドサポートが張り出しているバケットシートなのに、ラグジュアリーセダンに乗っているかのような優しい座り心地です。
この包まれ感は癖になりそう。
ステアリングホイールはオプションで、ONE-77と同じ形状でした。
上下ではなく左右がフラットになっている珍しいタイプのものです。
見た目は面白いですが結構回しづらく、奇をてらった感が否めません。
また、この形状に因るのか、パドルが遠く、平均的な日本人の手には大き過ぎるステアリングホイールだとも思います。
実際に走り出すと、思いの外に静かでマッタリとしていて驚きます。
停止状態からの加速はとても500馬力オーバーの車とは思えません。
足回りもソフトで、スポーツカーに乗っている感覚を感じさせないものでした。
ヴァンキッシュはエンジン特性を2段階、足回りを3段階に調整できます。
エンジンをノーマルからスポーツに変えますと、別物の姿を現しました。
アイドリング時のエンジン音からして違っています。
0-100km/h加速が4.1秒のスーパースポーツに相応しい鋭い加速感を見せてくれます。
かと言ってE63 M6のMモードのようなピーキーな加速ではありません。
アクセルの踏み代と加速がマッチした、質の高い大排気量NAに見られる素直なものです。
しかし、スポーツモードでより素晴らしいのはエンジン音です。
3000回転を超えると明らかに音質が変わり、アストンのV12独特の高い音色を奏でます。
フェラーリのV12よりも澄んだ美しい音は、心まで奪われてしまいそう。
個人的には今までに乗ったどの車よりも素敵なエギゾーストです。
車幅が1912mmでリアが一番膨らんでいると言う独特の形状の割りには、見切りも良く、街乗りでも使い勝手は悪く無さそうです。
足回りを一番固い「レース」モードにしても決して不快な固さではありません。
ロードインフォメーションをより適切に伝える質の高い固さと言えます。
アストンは500psを超えるモデルにはカーボンセラミックブレーキを標準採用しているそうで、ヴァンキッシュのブレーキもとても効きが良くて感動します。
しかし、ミッションは昔ながらのトルコン式6速ATで、パドルを使っての変速も決して速いとは言えません。
勿論、変速ショックなどは無く、洗練されてはいますが、ダイレクト感に乏しい。
ミッションに関してはフェラーリの圧勝です。
とても長い時間を試乗させてもらえ、かなり特性を掴むことが出来ました。
ワインディングに結構な速度で進入したのですが、自分の意図したラインを綺麗に駆け抜けることができ、気持ちが良くなりました。
ステアフィールが私に合っているのでしょう。
オールカーボンボディのお蔭で1739kgとこのクラスにしては軽量なこともあって、軽やかな身のこなしを見せてくれました。
試乗でここまで人馬一体感が味わえたのも久し振りです。
フェラーリのV12モデルはFFのようなGTカーでさえも、もっとアクセルを踏むように急かされている感じがします。
しかし、ヴァンキッシュはただ流しているだけで気持ちが良い。
素晴らしきエンジン音を聴きたいがためにアクセルを踏み込むことはあるかもしれませんが、どんな時でも常に優雅さを失いません。
BMWのMモデルの延長線上にあるのがフェラーリだとすると、アルピナの延長線上にあるのがアストンとでも言えるでしょうか。
ランボルギーニもマクラーレンも目指す方向はフェラーリと同じですが、アストンはフェラーリの対極に位置している数少ないメーカーだと思います。
ちょっと本気でヴァンキッシュが欲しくなりました。
ただし、アストンの常でオプション価格がバカ高い。
内装にちょっとカーボンを使用するだけで20万円です。
ヴァンキッシュも300万円以上のオプションを盛り込むのは当たり前で、平均的な乗り出し価格は3600万円近いとのことでした。
いや~、高いですね。
近頃、高級車に乗る機会が多く、かなり感覚が麻痺して来た私ですが、3600万円を高いと思える理性はまだ持ち合わせているようです。