
また棚から出てきたカタログを話題にします。
ミラ ターボの話となると、次世代以降のL70やL200が話題になることはあっても、初代となるL55はあまり話題になることもないようなので、ここで話題にしてみるのもいいかと思いまして。
早速、本編に行く前に、前代史を少し書いてみます。
ミラ ターボが登場するまでは、軽自動車の馬力トップは長い間、1970年(昭和45年)に登場したフェローMAXのSSとSでした。
40ps/7200rpm 4.1kg・m/6500rpmというスペックは、まだ360cc時代の2気筒2ストロークで達成した数字であり、当時でリッターあたり100馬力越えということからも、また発生回転数からも判る通り、かなりピーキーな性能の代償として達成したものでありました。
余談ではありますが、父はフェローMAXのカスタムに乗っていて(この話のリンクは
こちら)、知人関係にもデラックス、ハイカスタム、パーソナル、さらにハードトップまで5台近くの紹介を入れていますが、その中に40馬力のモデルは1台もありませんでした。どうやらセールス氏から話を聞いていたのか、一般的にお勧めできるグレードではないことを知っていた様子。さらにこの話が影響したのか、父のツインキャブ嫌いは後年まで続くことになります。
余談はさておき、事実、この馬力の数値は瞬間最大風速的なものでありまして、これ以降軽自動車は馬力を競わない経済車の性格を強めていくこととなります。
初代アルト以降始まった第二次軽自動車ブームからしばらく経ってからも、やや毛色の違うスズキ セルボを除けば、その風潮は変わらずでした。
ダイハツも、1982年(昭和57年)5月のマイナーチェンジでクオーレの3ドアにスポーティ色の強いMGXグレードを追加していますが、ブレーキやタイヤは強化されたものの、エンジンはノーマルグレードと変わることはありませんでした。
2015/10/09 ミラSの画像を追加すると共に一部追記をしました。
1983年(昭和58年)5月には、ミラにもMGXに準じたSが追加されています。こちらは、ショルダーフリーのシートはオプションでした。
その風向きが変わる契機となったのは、1983年2月に三菱 ミニカに追加されたターボ仕様の登場に違いないと思います。
当時はそもそも経済車である軽自動車にもターボが必要なのかという議論があり、認可に至るまでかなり難航したようですが、いずれにせよ、ミニカで軽自動車にもターボ付きが登場する流れは確立されたのです。
ミニカ ターボの、39ps/5500rpm 5.5kg・m/3500rpmというスペックは、30ps&4.0kg・m前後で均衡していた軽自動車界で頭抜けた位置にありました。
という前代史はここまでで、ここから、1983年10月に発行された本カタログを紹介していきます。
ミラ ターボは軽自動車のターボの第2弾となります。
宣伝フレーズは、「ペパーミント・ターボ」でした。
ダイハツは、同時期にシャレードにもターボを追加していて、「猫科のターボ」と宣伝していたのですが、こちらとフレーズ上の関連性を持たせることはしませんでした。
エンジンスペックの詳細は後で記載しますが、ついにフェローMAXの40馬力を超えた41馬力を掲げています。
外装もそうですが、内装も次世代のTR-XXと比較すると、だいぶノンターボ仕様に近い装いです。お役所をあまり刺激しないという配慮があったのかなというのは推測。
ナルディタイプのステアリングは初代シャレードからの、ガングリップ・シフトノブは2代目シャレードからの流用ですね。
ターボのエンジンスペックは、41ps/6000rpm 5.7kg・m/2500rpm。ノンターボの30ps/6000rpm 4.2kg・m/3500rpmからすると、30%以上のパワーアップでした。
この中で最大トルクの発生回転がノンターボよりも低い回転で発生していることは特筆すべき事項です。これはライバル車との比較でも同様でしたね。
足回りは、フロントディスクブレーキとラジアルタイヤが標準装備となりましたが、そのサイズは145SR10。現在のタイヤサイズからすれば、隔世の感があります。
元々5ナンバーのクオーレのリヤサスはセミトレの4輪独立懸架で、4ナンバーのミラはリヤサスがリーフリジッドという違いがありました。ターボ車もリヤリジッドの足回りは変更なしでした。
裏表紙は主要装備一覧と主要諸元表となります。
グレードは、上級グレードのタイプR(東京地区標準価格:725千円)とベースグレードのタイプT(同:642千円)の2つでした。タイプTに近い装備のノンターボのタイプAは、512千円でしたから、ターボ単体の価格は100千円を切っていた計算となります。
上級のシャレードは5ドアにもターボ車を設定しましたが、こちらは4ナンバーのミラのみ。乗用車よりも商業車の台数が多かったとはいえ、この辺りは割り切った設定でしたね。
ということでいかがだったでしょうか。
ミニカターボ以降、本当に堰を切ったかのようにミラ以外にもターボ仕様が追加されていきます。
年月順に列記していきますと・・・
・1983年11月 スズキ セルボ 40ps/6000rpm 5.5kg・m/4000rpm
・1983年12月 スバル レックス コンビ 41ps/6000rpm 5.9kg・m/3500rpm
・1984年2月 三菱 ミニカ 42ps/6000rpm 5.8kg・m/3500rpm (僅か1年でFF化された新型が登場しています)
スペックでもお解りのとおり、ここまではターボ車であってもノンターボと同様、ほぼ肩を並べた状態だったのです。
その縛りから抜け出したのは、初代ミラ ターボの登場から2年の年月を経た、このモデルですね。
ミラ ターボ TR-XX
エンジンスペックは、52ps/6500rpm 7.1kg・m/4000rpm
少し前に他所でも書いたのですが、1985年の軽自動車界の最大の話題は、久方ぶりに復帰したホンダが放ったトゥディとこれだった言えます。
初代ミラ ターボから僅か2年でここまでの進化を遂げるのですから、当時の軽自動車界が現在同様、かなり激しい競争の中にあったのは、間違いありません。
これ以降、主にダイハツとスズキを主役とした馬力競争はさらに熾烈を極め、ついには現在に続く64馬力規制が導入されるに至ります。
おそらく、ダイハツは初代ミラ ターボでここに金脈があることが解ったのでしょう。実際、このTR-XXは大人気を博することとなります。
最後に話を元に戻しますと、この初代ミラターボは、フェローMAX SSを超えたモデルであると同時にベビーギャング復活の狼煙となったクルマだったのです。