
CMやスクープ記事に寄り道をしていましたが、そろそろ本道に戻します。130コロナ以来の複数回にわたる特集。今回は、初代アリストでやってみます。
登場は、1991年(平成3年)10月ですから、ちょうど干支2回り前となります。ハチマル世代との対比で、近代車のように思えていましたが、四半世紀近くの時間が経過しています。そろそろ旧車の仲間入りと言ってイイと思いますね。
今回の引用は、登場時の簡易カタログ。こちらはウィンダムと違って、本カタログも普通のサイズなのですが、高級車らしく頁数も多いため、凝縮された簡易カタログの方がブログとしては扱い易いのです(笑)
そんなこんなで、ニュースリリース(リンクは
こちら)を引用しつつで、以下紹介していきます。
最初の見開きは、森林の中を疾走してくる3.0Vです。
登場当初は、このフロントマスクが高性能車らしい獰猛さに思えましたが、最近のオラオラ系が台頭する中では、むしろ上品なぐらいに映りますね(笑)。
基本コンセプトは「新しい高級車のアイデンティティ」。
ハイパフォーマンス4ドアセダンに新しい高級車像を求めたわけです。
アリストの3つの特徴の一つに、
「心昻まる」、斬新で動感あふれるソリッドフォルム
が掲げられています。
カタログでこそ書かれていませんが、G.ジウジアーロ氏が主宰するイタルデザイン社のプロトモデルをベースとしたことが、ニュースリリースには書かれています。
これまた登場当初は、今までになかったロングルーフとハイ&ショートデッキから構成されるデザインが馴染めませんでしたが、世の趨勢がロングキャビンタイプになる中で段々見慣れていきました。ジウジアーロ氏の作らしく、時間の経過に耐えるデザインであり、あまり色褪せた感はありませんね。現在視点でも、もう少しホイールベースを伸ばして後輪を後ろに置きたい感があるぐらいでしょうか。
2つ目の特徴としては、
「走る楽しさ」を味わえる、力強くかつ滑らかな走行性能
が掲げられています。
その象徴となったのが、今でも名機の誉れ高い、新開発の直列6気筒3.0Lエンジンでした。
一つは、3.0Qが搭載する、2.5Lの1JZをベースにストロークアップされたノンターボの2JZ-GE。もう一つは、3.0Vが搭載する、2JZ-GEをベースにツインターボ化された2JZ-GTE。ノンターボはクラウンとの共用でしたが、ツインターボはこの時点ではアリスト専用。スープラ・ソアラは共に2.5Lのツインターボでしたから、トヨタ最強でもあったわけです。
このツインターボは、2.5Lとは異なり、低速時はターボを片方のみ作動させて中高速域では両方を作動させるタイプでした。この作動方式は、他社ではシーケンシャルツインターボという呼び方をされていましたが、トヨタは2ウェイツインターボという呼び方をしていました。
ハイパワーを支えて、楽しい走りを実現する足回りには、クラウンマジェスタと共用する、新開発の4輪ダブルウィッシュボーンを採用。
マジェスタはエアサスを採用しましたが、こちらはバネサスに、3.0VのみピエゾTEMSが組み合わされています。
ブレーキは、ツインピストンキャリパーとハイドロブースターで強化されています。まだ45扁平未満のタイヤサイズが認められていなかったため、ローターサイズが16インチに留まるのが時代ですね。
16インチといえば、3.0Vには、オプションで245/50R16サイズのタイヤが設定されました。今では特筆することもないサイズですが、当時は225サイズがほぼ最大でしたから、8.5Jというアルミのサイズと共にそのワイドさに驚いたものです。
安全性がアピールされる時代に突入しましたが、まだこの時点では全車標準はABSとサイドインパクトビームくらいに留まります。
エアバッグは、運転席のみ3.0Vに標準。3.0Qでは、それもオプション設定となります。
その一方で、今ではオミットされてしまった、フルエリアワイピングシステム、油膜取りウォッシャー、超音波雨滴除去装置付きドアミラーは全車標準装備でした。
3つ目の特徴は、
時代のテーマである、「やさしさ」を追求した、居住性、安全性、環境への配慮
が掲げられています。
外装はイタルデザインでしたが、内装はミニセルシオ風にまとめられています。このデザインは、兄弟車のクラウンマジェスタとも全く異なるものでした。
オプティトロンメーター、マルチアジャスタブルパワーシート、マイコンプリセットステアリングの組合せは、だいぶ現代的になりますね。
快適な空間の演出には不可欠なオーディオとエアコンにも工夫が凝らされていました。
オーディオは、後に簡素化されていきますが、この時点では全車8スピーカーのスーパーライブサウンドシステムを装備。フロントドアに4つとリヤドアの2つまでは他車の採用多数ですが、インパネ上のセンタースピーカーとリヤトレイの30cm(!)スーパーウーハーは特徴的と言ってイイと思います。
さらに、注文装備のCDオートチェンジャー仕様ではDSPも付加されていました。
エアコンは、フロントのみのマイコンオートでしたが、トヨタ初の代替フロン「R134a」を採用。これはクラウンには採用されず、アリストのみの採用でした。
木々をバックにする、3.0V。
当初は、ホワイトが設定されなかったこともあり、このスーパーシルバーIII(176)がイメージカラーでした。シルバーカラーのブームが訪れるより前の提案でしたが、そのソリッドなフォルムに似合うカラーだと思います。
アリストを紹介する時には、この画像が用いられることが多かった印象があります。キャビンの大きさを印象付けつつ、ちょっと気になる部分は隠れる、一番写真映えする角度ですね。
左頁には、同じく3.0Vの内装。(本革はオプション)
センターコンソールに、ディスプレイが入れば、現在車とも見間違えそうなデザインですね。
右頁には、主要諸元表と内外装色一覧。
全長4,865mm × 全幅1,795mmのサイズは、現行クラウンアスリートにかなり近いサイズです。日本で使う際に、駐車場で困ることの無い上限だと思います。この辺りも、現在車に近いのです。
外装色は前述のとおり、ホワイトを除いた6色で、内装色はグレーとアイボリーに加えて、針葉樹をイメージしたスプルースの3色から選択可能になっていました。内装色に合わせてガラスの色が各々設定されていたというのが、当時らしいと言えます。
グレードは、3.0V(東京地区価格:4,740千円)、3.0Q(同:3,800千円)の2つでした。
主要装備一覧と照らし合わせてみて、1,000千円近い差をどう見るかは、見解が分かれるかもしれませんね。
自分的には、3.0Qにお買い得を見出しますが、ツインターボに軍配を上げる理由も解ります。
この時代のトヨタの4ドアだと、クラウンマジェスタ3.0Bタイプ(4,660千円)、同4.0CタイプのVパッケージレス(5,070千円)、セルシオAタイプ(4,550千円)辺りが、3.0Vを選ぶ際の比較対象として浮上します。
これ、なかなか悩ましい選択に思えますね(笑)
おまけで、裏表紙も掲載。
こうして登場したアリストは、月販目標販売台数に3,500台(!)を掲げてオート店とビスタ店から送り出されます。カローラ店にはウィンダムを追加して不満を抑えつつ、チェイサーとクレスタからの上級移行希望組を他店に移行させまいとする仕訳は、トヨタならではですね。
もっとも、この目標は、バブル末期の時代ならではの台数でありましたが、登場直後に景気後退が顕著となって、お買い得モデルの追加を迫られることとなるのです。
以下、続編もあるので考察は軽く。
クラウンは、8代目となる130時代にそれまでの集大成的モデルを作り上げることに成功しますが、その一方でY31セドリック/グロリア、シーマが提示した新たなる高級車像や、台頭する輸入車への対応を迫られることとなります。さらに、クラウンの上級として、当初予定の無かったセルシオが国内導入されるという、何よりも大きい変化も起こりました。
マジェスタで従来路線を踏襲しつつ、新たなるクラウン像を模索し始める一方、マジェスタと多くのコンポーネンツを共用しながらも、クラウンから離れたモデルとしてアリストが誕生したのは、そんな背景からでした。だからこそ、トヨタの主流となるセダン像からは離れられた印象が強いですね。
またスポーツセダンを謳いながらも、ミニセルシオ風でもあるという戦略は正しかったようであり、当初は国内専売の予定だったアリストは、レクサスLS400が円安を理由とした値上げを余儀なくされたポジションを埋める役として、レクサスGS300・GS400の名で輸出が開始されることになります。
スポーツセダンであるアリストとレクサスのミドルサイズセダンであるGS、という2役を同一車種に背負わせることは難しかったようで、やがてはアリストの廃止という結論となるのですが、そんな未来を想定もしていない初期型は、そのピュアなコンセプトやキャラクターが魅力的に映ります。
90世代が浮上前の現在は、まだまだ注目されているとは言い難い状況ですが、このアリストは、やがて間違いなく注目されるようになると思っているのです。