
今回は1992年のミラTR-XXを取り上げてみます。
形式名は、L200。当時結構売れたモデルで、近所の同級生もこのマイナーチェンジ前のモデルに一時期乗っていたりしました。
おそらく単体では既に取り上げられている方もいるのではと思いますので、ここらしく歴代とのあるいはコンパクトカーとの比較をしつつで、起こしてみることにします。
少し前に、初代ミラターボを取り上げていて(リンクは
こちら)、そちらの登場が1983年。その時には最後に1985年登場のTR-XXについても触れていて、僅か2年でここまで進化したと書いています。今回のカタログでは、それから7年の間にも進化が続いていたことが実感してもらえるかと思います。
参考までに再掲載。1985年10月登場のTR-XXです。
形式名は、L70。当時の価格は、855千円でした(当初はMTのみ)。
L200ミラは、L70の後を受ける形で1990年3月に登場。ちょうどこの時に軽自動車の規格が拡大されていまして、新規格に合わせた形での発表となっています。
現在同様、軽自動車間の競争が激しい時代、さらにこの種のスポーティモデルはメーカーの利益を生んでもいましたので、モデルチェンジ以降も短期間でモデルへのテコ入れが頻繁に行われています。(短期間のテコ入れの詳細は後述)
今回紹介するカタログは、そんな変遷を経た後、1992年8月にマイナーチェンジされた際のもの。
このマイナーチェンジでは、レンズ類やバンパー形状等の変更が行われると共に、度重なるテコ入れで複雑化したグレード名称が一旦整理されてもいます。
夕暮れに佇む、中心グレードとなるTR-XX AVANZATO
その右には、XX(ダブルエックス)名が強調されています。
ターボのスポーティグレードは、名称整理により、それまでのTRから全てTR-XXとされたことで可能となったコピーですね。
ダブルエックスという名称からは、セリカを連想する向きもありそうでして、どちらを連想するかで世代が分かれたりするのかもしれません。
TR-XX AVANZATOの室内です。
上に掲載したL70が好評だったことから、イメージは継承されていますが、操作性や質感等には改善の跡が見受けられます。
インパネトレイとオーディオの2段構成を両立させるため、空調レバーを横一線に配しています。
TR-XXは、L70まで4ナンバーのバンのみの設定。L200になって、バンと5ナンバーのセダンが並立の設定となり、このマイナーチェンジでセダンのみに整理されています。4ナンバーと5ナンバーの大きな違いはリヤシートにあり、4ナンバーは法令の関係で荷室スペースの確保を求められたことからオケージョナルシートの範疇にありましたが、セダンでは十分なスペースが確保されています。(画像もその辺りを考慮したアングルになっていますね)
メカニズムは見所の一つなので、大きめの掲載(笑)
エンジンは、3気筒のワンカム4バルブにEFIターボの組合せ。
最高出力は64ps/7500rpm(ネット値)、最大トルクは9.4kg・m/4000rpmというスペックを誇っていました。
この数値を、初代ミラターボ(L55)の41ps/6000rpm&5.7kg・m/2500rpm、L70の52ps/6500rpm&7.1kg・m/4000rpm(共にグロス値)と比較すると、550cc→660ccという排気量アップも要因ながら、かなりパワーが上がっているのがご理解いただけると思います。
もっとも既に64馬力規制が導入されていましたので、最大トルクを発生して以降はトルクが抑え込まれています。ここから導き出されるエンジン性能曲線図は、やや低速トルクの弱いダウンサイジングターボ的でもありますね。
この時期のミラのパワートレーンの目玉は、4速ATにありました。
ライバル他車は5速MTのみが殆どで一部3速ATという設定だった時代です。4速ATが初めて導入されたクラウンの優位を彷彿させる設定ですが、同じように1速のローギヤード化に伴うスタートダッシュと、何より高速走行時の静粛性と燃費に効果があったのです。これ以降、軽自動車のATでも、高速道路で不自由は感じさせなくなります。
これも、L55はMTのみ、L70でATが2速→3速になった時代を経た、技術の進歩と言えますね。
ブレーキは、AVANZATO-Rに、大径とありますので、おそらく13インチ対応のベンチレーテッド式を採用。
タイヤは、AVANZATOが155/60R13サイズのピレリP700Zで、AVANZATO-Rには同サイズのハイグリップタイプとなります。文献からすると、どうやらポテンザRE71だったようです。
この辺りも、L55は145R10が標準で、L70でようやく145/70R12が標準となったことからすれば、隔世の感があります。パワーアップに対応するためには当然という見方も出来ますが。
サスペンションは、フロント:ストラット、リヤ:トレーリングアームの4輪独立懸架となります。これはフェローMAX由来の形式となりますが、L55がリヤ:リーフ式であること、L700以降はリヤ:車軸式になったことからすると、贅沢な方式と言えるかもしれません。
引き続き、その他メカニズムの紹介です。
安全性が注目されつつある時代ということもあって、当時の話題だったサイドインパクトビームは、モデルチェンジ直後から採用されていました。
このマイナーチェンジでは、SRSエアバッグが新たに選択可能となり、ABSもリヤのみ制御(「アンチスピンブレーキ」と呼ばれていましたね)から4輪制御に進化しました。
もっとも、エアバッグ・ABSという今では当然の装備がオプションあるいは一部標準のみに留まるのは当時だからこそではあります。
先に取り上げたシートですが、フロント・リヤ共にバケットタイプを採用。その代償として、リヤは形状から推測できるとおり、非可倒の固定式となります。ユーティリティを特徴とするハッチバックタイプとしては珍しい設定ですが、走り重視の主張としては、アリだと思います。
ここからはグレードの紹介ですが、先述のとおり、モデルチェンジ直後からの変遷も補足してみます。
ちなみに、モデルチェンジ直後の(TR系の)グレード構成は、TR-XXとTR-XXリミテッド。この2グレードがバンとセダンの両方に設定(セダンのみEFI)。その他に4WSのTR-4がセダンのみにあって、計5グレードの構成でした。
○TR-XX AVANZATO
当時の東京地区の標準価格(以下同)はMT/ATの順で、
1,138千円/1,218千円
1991年5月に追加:
TR-XXをベースに専用塗装アルミホイール+155/60R13ピレリP700Zタイヤ、エアコン、電動パワーステアリング、パワードアロック、パワーウィンドー等を追加装備しています。この時にセダンのみATを4速化。
快適系の装備を標準にすることで、中心的なグレードとなりました。
○TR-XX AVANZATO-R
1,198千円/1,278千円
1991年5月:
TR-XX LIMITEDをセダンのみとすると共に仕様変更。リアスタビライザー、強化サスペンション、155/60R13ポテンザRE71orアドバンA022タイヤ、13インチ大径ベンチレーテッドフロントディスクブレーキが採用されています。
1991年9月:
AVANZATOをベースに専用塗装アルミホイール+155/60R13ポテンザRE71タイヤ、アンチスピンブレーキ、パフォーマンスロッド、等を追加装備した特別仕様として、AVANZATO-Rが設定。この設定によりLIMITEDはラインナップから落とされています。
元々のLIMITEDは、上級グレードの設定だったのですが、仕様変更の過程でスポーティ色が強くなっていきます。この時点ではRのみの(主にスポーティ系の)装備がある一方で、AVANZATOにあるパワードアロックやパワーウィンドーは、こちらでは標準から落とされています。
ここから過去に遡れば、セリカ GT/GTV、スカイライン type X/type S等でも見られたグレード設定ですね。
○TR-XX X4
1,180千円/1,260千円
1990年11月:X4を追加(MTのみ)
1991年9月:AT仕様を追加
1992年8月:TR-XX X4に名称変更
XX系唯一のフルタイム4WDグレードとなります。
当初はXX系の意匠を持ちながらX4という名称だったのですが、この時点でTR-XX系に組み込まれることとなりました。(Xだらけ・笑)
アルトワークスの4WDは2WD並みにスポーティ色の強いグレードでしたが、こちらはタイヤサイズが155/70R12となったりと、やや毛色の違うグレードとされています。
右下は、モータースポーツ用途が想定されていたX4-Rが掲載されています。外観はエアスクープ以外、何らミラの標準タイプと変わるところはありませんが、中身は本気仕様です。専用パンフは持っていないため、中身については割愛します。
X4-R:1,350千円
1991年1月:追加
○TR-XX AVANZATO 4WS
1,250千円/1,330千円
1991年9月:TR-4からTR-XX 4WSに仕様変更
1992年8月:TR-XX AVANZATO 4WSに名称変更
こちらはXX系唯一のカム式の4WSを採用したグレードとなります。
当初はエアロパーツ無だったのですが、変遷の中でXX系に近づけられています。3代目プレリュードが口火を切って流行となった4WSはミラでも無視できなかったということでしょう。
ステアリング機構を通す関係なのか、2WDながら4WDに近く、リヤサスは4WD共通の5リンク式に変更されています。
最小回転半径4.0mという数値は、逆位相を持つ4WSならではですね。
左頁は、オーディオとビジュアル系のオプションです。
当時の軽自動車でカーTV?と思うなかれ。インパネ格納式カーTVシステムを世界初で装備したのは、実はこのミラのグラン リミテッドだったのです。ただし、グラン リミテッドに装備されたものとは仕様が異なります。
オーディオはカロッツェリアとの共同開発品だけではなく、市販品と共通のものも設定されていました。ここまでオーディオに拘ったにも関わらず、1DIN+1DINは可能としながらも2DINサイズを不可としたのは、惜しまれる点かもしれません。リヤトレイボードを厚くしてスピーカーボード機能を持たせられたのは、固定式リヤシートを採用することで、取り外しを考慮しなくて済むからこそですね。
右頁は、その他のオプション類です。
エアバッグが標準装備となる前ですので、ステアリングには、momoコブラII、NARDI CLASSIC ウッドという当時の名品が並びます。
AVANZATOとAVANZATO-Rの装備差である、パワーウィンド&パワードアロック、ハードサスペンションは用品設定がありましたので、その差を詰めることが可能でした。
主要装備一覧表です。
同じTR-XXであっても、本文で触れた以外にも、微妙に装備差があったことがお解りになると思います。AVANZATOのみフロアカーペットの材質が異なる設定という辺りが、コストをかけることが可能だった当時らしいですね。
この装備一覧では、初代当時よりもはるかに豪華になったことも明確となります。
最後に主要諸元表です。
初代ミラターボとの比較では、ボディサイズこそ、100mm長く35mm高いのみとなりますが、車両重量は初代の550kgに対して、約700kgと150kg近く重くなっているのが印象的です。
それを補って余りあるパワーアップと、その割に変わらない燃費ということが技術の進歩そのものですね。
半ば余談ですが、現在のアルトRSの重量は2WDで670kgですから、さらに長く・広く・高くなってのこの数値には、軽量化技術の真髄を見る思いがします。
右下には、このマイナーチェンジで追加されたRV-4が掲載されています。
当時は、なんだこれ?と理解に悩むグレードでしたが、SUV全盛の今視点で振り返ると、その先進性に驚かされます。乗用車ベースという意味では、ここが根源だと思います。
RV-4:1,345千円/1,435千円 ・・・ ややお値段は強気ですね。
ということで、いかがだったでしょうか。
初代ミラで蕾をもった、軽のスポーティグレードブームは、L70のTR-XXで開花して、さらに速く・豪華にの方向でライバル共々進化し続けることとなります。
結果、お値段もどんどん上昇して、この時点ではコンパクトカーとほぼクロスするような価格となっていました。
(参考)
カローラII 1300スーパーウィンディ : 860千円(4速)/926千円(3速)
カローラII 1500SR : 1,199千円/1,274千円 (共にA/C付)
マーチ 1000i・z-f : 880千円/955千円 (共にA/C付)
マーチ 1300A# : 1,180千円/1,278千円 (共にA/C・P/W付)
この価格上昇を以って、軽自動車の先行きを危惧する声も一部にはあったのですが、不思議と両者の需要はクロスせず、双方両立していました。
ところが、軽自動車市場は、コンパクトカーとの競合ではなく、この後ワゴンRとムーヴというハイトワゴンが登場することで大きく変容していきます。その結果、次世代以降では、この種のロールーフ&スポーティグレードは売れ筋の中から外れていき、主に走りのためにコストをかけるという流れは徐々に枯れていくこととなるのです。
そういう観点からすると、この時期がこの種では一つの究極にあったと言っても、然程間違いではないと思います。
ここから20年以上の時間が経過した現在、ミラのライバル車であるアルトには、ターボRSの追加、さらには往年のライバルであるワークスの復活という形で、スポーティグレードが再び芽吹きつつあります。
TR-XXという金脈を持っていたダイハツがこの流れに対して、どういう対応を取るのか、昔を知る身としては期待をせずにはいられないのです。