
今回は初代スタンザの登場時のカタログを取り上げてみます。
少し前に取り上げた安全コロナが好評でしたので、1970年代の第2弾ということで。
このクルマ、少し前に個人的に興味があって、調べたことがあったりしまして、その復習も兼ねていたりします。
総体的に書くと、意は結構高くて、商売的にも巧みなはずの取り組み、ところが途中から進むべき方向を見失って、結果はずっこけたということになりますかね。この辺り、この時期の日産らしいなぁという感じはあります。
そんなスタンザの紹介に入る前に、先ずは登場の背景から。
2代目の途中で追加されたサニー エクセレントが前身となります。
先行したカローラに追随する形で、510ブルーバードで使われていたL14を搭載するために、サニーのホイールベースを40mm、ノーズを170mm伸ばしたのがそもそもの発端。3代目では、サニーのホイールベースが伸ばされ、エクセレントのシャシーに統一される形となり、ノーズのみ95mm延長された関係となります。
ここまでは、サニーは1200(A12)、エクセレントは1400(L14)で続いてきましたが、排ガス規制の強化に伴い、サニーに1400(A14)が追加されて、エクセレントは1600に拡大(L16)されています。
この関係のまま続けるのは厳しいということで、サニーのモデルチェンジに合わせる形で、エクセレントが発展したのがこのスタンザとなるわけです。それまでは、サニーとの関係で続いてきましたが、今回ベースとなったのは、モデルチェンジされたばかりの2代目バイオレット。バイオレットはモデルチェンジに際して、もう一つの販売チャンネルだったチェリー店向けにオースター(最初はバイオレット オースター名でしたね)を新たに加えていましたから、3兄弟の関係となりました。
双子車までは存在していたものの、3兄弟となると記憶する限り、日本車初だと思います。
ただ、バイオレットとオースターの関係が極めて近いものだったのに対して、このスタンザは幾分離れたところに存在していたのです。
・・・どうも、この手の話を書き出すと、脱線しつつで長くなるので前史はここまで。
以下、登場時のカタログを紹介していきます。
ちなみに、発表は1977年8月8日。発売は8月25日(以上、自動車ガイドブックより引用)となります。
この発表日、実は5代目スカイライン(通称:ジャパン)の発表日と同一というのは、余談です。
最初は表表紙と裏表紙から。
トップグレードのマキシマGT-Eのフロントマスクが大写しとされています。
フェンダーマーカー、スクエアワイドヘッドランプ、フォグランプ(標準装備)によって、特徴的なマスクが構成されています。
センターが強調されたボンネット・グリルも含めて、セドリック/グロリアのハードトップ系のイメージを求めたのは、間違いないと思います。
このクラスとしては明らかに上級車を志向した造形だったわけです。
見開き3ページを使った、マキシマGT-Eの全体です。
スタイリングの全体の造形は、直線基調の3ボックス。やや背伸びをした感のあるフロントマスクを除けば、素直なセダンの造形です。
ベースとなったバイオレット同様、エクセレントからすれば510ブルーバードへの回帰と言えるかもしれません。サイドのウィンカーには、エクセレントのデザインからの引き継ぎが見受けられますね。
右下には、宣伝コピー「男と女とバラとスタンザ」が書かれています。当時の「
間違いだらけのクルマ選び」において、「最近の傑作」、「もうお手上げ」と書かれたコピーで、結構話題にもなったようです。
マキシマGT-Eのリヤビューです。
リヤクォーターパネルやバックパネルも、バイオレット&オースターとは異なる部品が起こされています。
こうしてみると、ドア4枚をはじめとするキャビン周りぐらいしか共通部品はなかったり(全長は70mmのプラス)。それだけの差異がありながら、全体のイメージはさほど変わらずに映っていたのは勿体ない感があります。
GT-EとマキシマGT-Eには、リヤワイパーが標準とされています。スカイラインのTypeS、あるいはマークIIのグランデぐらいしか他に標準のセダンはなかったはずですから、珍しい設定と言えますね。
こちらはカスタム系のトップグレードとなるマキシマ
ブルーバード マキシマを経てマキシマという独立車名に至った名称の始祖はここにありました。
フォグランプとアルミホイールが外れるだけで、だいぶ大人しいイメージとなりますね。
右はマキシマGT-E、左はマキシマのインパネです。
これまた、バイオレット&オースターと内部構造は共通ながら、造形は結構違うインパネです。兄弟2車はメーター埋め込みタイプでしたが、こちらは透過照明のためもあってか、メーター一体パネルを採用。これだけでもだいぶモダンな雰囲気となります。
その透過照明(クリアライトメーターと呼ばれていますね)がプレジデントに続いての採用ということで大きく取り上げられています。その後、普及した装備をいち早く採用した形です。
マキシマGT-Eのインテリアです。
この時期の日産上級車は、ヘッドレストを埋め込み式にしたシートが採用されていましたが、スタンザには流用が難しかったのか、それに近いシート形状が起こされています。この形状は、記憶では他車に流用されることはなかったはずです。リヤシートには、ヘッドレストとセンターアームレストも装備されています。
そのシート地には、ターボテックスと呼ばれる起毛地が使われていて、豪華さを盛り上げています。トヨタのエクストラインテリアとかアコードのEX-L等と共に、この時期のインテリアの高級感の先端に存在していました。
メカニズムの紹介です。
エンジンは、当初1600のみの設定で、インジェクションとキャブレターの2タイプが存在していました。この時期、日産はL型の53年規制適合が遅れていたため、共に51年規制適合での登場となりました。このエンジンは1年足らずで2プラグのZ型エンジンに換装されて、53年規制に適合することとなります。
サスペンションは、フロント:ストラット、リヤ:4リンクリジッドとなります。スポーティ系はリヤスタビライザーも装備。
先代バイオレットSSSにあった、4輪独立懸架をこちらに流用していれば、それこそ小さな高級車になっていたはずですが、さすがにやり過ぎという判断があったのでしょうね。それでも、エクセレント時代のリヤリーフリジッドからすれば、時流に沿った改良と言える変更ではあるのですが。
使い勝手に関する部分の紹介です。
視界はオーソドックスな3ボックスデザインに回帰したこともあって、良好でした。この時期、視界の良さを謳うクルマが多かったですね。
サイドデフロスター、ランバーサポート、多項目の警告灯等はこの時期セールスポイントとなった装備です。
ライトとワイパーはステアリングコラムにセットされていましたが、前者は現在復活しつつあるレーンチャージャー機能付、後者は回転式というのが珍しいですね。後年では、機能無・上下式に変更されています。
左頁にもっともスポーティなGT-Eを掲載しつつ、右頁で特徴的な装備を紹介しています。
先に取り上げたクリアライトメーターを再掲載。
全車標準装備ということもあって、アピールしたかったということなのでしょう。
水晶発振式のデジタル時計は、上級車の上級グレードで採用が始まったばかりの時期でしたから、このクラスでの採用は英断に近かったと思います。
さらに標準のカセットステレオ以外に、カーコンポも用意。
クラリオン製のようですが、当時としては豪華なスペックです。
アクセサリーの部分は、本当に力が入っているんですよね。
続いても豊富な装備類の紹介です。
使い勝手に直結する装備もあれば、アクセサリーに類される装備もあります。後者であっても、後年になって採用が進んだものも多いですから、判断が難しいんですけれどね。
ここからはバリエーションの紹介です。
こちらは、豪華さが主体のカスタムシリーズ。
最廉価版の名称ですら「ラグジュアリー」です。
実際、バイオレットの中級&中心となるGLに匹敵する装備でしたから、名前ばかりとは言えません。これをベースに装備を積み重ねていくのですから、いかに豪華版かという設定でもあるんですけれどね。
中間グレードのエクストラのみ、インジェクション仕様が設定されていました。
ちなみに当時のお値段を1977年発行の自動車ガイドブック(以下、同)から引用すると、
・マキシマ(3速オートマ) : 1,128千円
・エクストラ-E(5速マニュアル) : 1,087千円
・ラグジュアリー : 946千円
となります。
こちらはスポーティシリーズです。
スタンザ=豪華版という印象が強いのですが、当初はオースターに近いスポーティグレードも設定されていたのです。
エクセレントの時には、スポーティなGXの設定がありましたから、後継車としては外せなかったのでしょう。もっとも、TS系はカスタムシリーズとクロスする価格設定でもありましたから、売り辛かったでしょうね。
こちらのお値段は、
・TS(4速マニュアル) : 1,002千円
・マキシマGT-E(5速マニュアル) : 1,202千円
でした。
主要装備一覧と主要諸元表です。
カスタムシリーズとスポーティシリーズで複数曲線を描いていって、最上級のマキシマGT-Eに至るシリーズ構成がご理解いただけるかと。
ちなみに、このバリエーション間の装備差をバイオレット&オースター含めて暗記できたら、かなりの強者だと思います(笑)
かくして登場したスタンザですが、装備を奢った分、お値段もかなりのものとなりました。マキシマGT-Eと同価格帯の日産の同級他車を抽出してみると、
・ブルーバード セダン 1800 SSS-E(5速マニュアル) : 1,209千円
・スカイライン セダン 1800 TI-EL(4速マニュアル) : 1,243千円
あたりが浮上してきます。中級グレードでもあまり状況変わらずでしたから、価格比較の点では不利な存在だったと言えます。
その後の変遷も合わせて記載してみます。
●1978年5月8日(即日発売)
・53年排出ガス規制に適合
・大型バンパー、助手席アシストグリップ、マフラーカッターを採用
バンパーが大型化されたことで、全長が125mm伸ばされています。
この変更、大型バンパーが持て囃された時代背景もありますが、全長が車格を決めていた風潮への対応の面が大きいと推測しています。小さな高級車的な存在でスタートしたものの、他車の動向は見逃せなかったのでしょうね。
さらにこれでも足りず・・・
●1978年10月6日(即日発売)
・1800シリーズを追加
・エクストラE、TS、TS-Eを廃止
車格を気にしてか1600のままでいることはできず、3兄弟でいち早く1800が追加されています。同時にラインナップを整理。
以下、同カタログからの抜粋です。
1800は、エクストラ、マキシマ、マキシマGT-Eの3グレードとなります。
TS系は廃止されましたし、唯一残った1600GT-Eも翌年のマイナーチェンジで廃止されますので、スタンザ=豪華版の位置付けはここで潮流が決まりました。
同じく主要装備一覧と主要諸元表です。
それにしても、1600のインジェクションと1800のキャブレターをどう売り分けたのか・・・。この両立は末期まで続きますから、後から追加した影響とも言いきれず、何となく不鮮明なシリーズ像は最後まで続くこととなります。さらに翌年には、やや若年層向けの仕様とした5ドアのリゾートを追加してみたりもして。
最初から1600と1800の2本立ての予定なら、ブルーバードの兄弟車にしてしまう方法もアリだったと思うんですよね。サニー店的には、その方が売り易かったはず。あるいはこのままで、モーター店にも並行して投入していれば、小さな高級車像をさらに強固にすることも可能だったかと。まあ、結果論と言われそうな仮定話ではありますが。
さらにもう少し書きます。
おそらくスタンザの狙ったところは、オイルショック後のダウンサイジング層に向けての提案だったはずです。それはちょうどアコード サルーンに近いところでありまして、ほぼ同時期にデビューし1600と1800を行き来する関係は同じながらも、イメージ形成の段階で大きな差が付いてしまいました。その差は、商売の上手さの差がそのまま表れたと言えるのではないでしょうか。使えるコンポーネンツは遥かに多数持ちながらも、何とも惜しい話ではありました。
まあ、そこが当時の日産らしいと思えますし、今更ながらに再検証してみたくなる理由でもあるんですけれどね。