前回の「美しいクルマ」話において、
営業部長さんから寄せられたコメントに、とても共感しましたので、ブログネタに取り上げてみることにします。
美しいとなると、どうしてもハードトップやクーペの流麗なスタイリングを思い浮かべるということで、私選5傑としてみたのですが、その一方でセダン、特にベーシックな方にもいいデザインはあると思っています。
セダンである以上、機能を犠牲にしてはならないですし、ある程度の量販も課せられる。ある種、スタイリングに特化したモデル以上に難しいのが、セダンのデザインだとも言えるわけです。
長い歴史であるとか、数多く売れたとかで、埋没しがちではあるのですが、そんな中にもきらりと光るデザインは、確実に存在します。同じ理由から、こういう切り口ではあまり取り上げられることもないのも事実でありまして、であれば、ここでやってみるのも意義があるかなと。
そんな観点から、私の好きなセダンのデザインを順不同で挙げてみます
○5代目コロナ
形式名の”100コロナ”よりも”安全コロナ”の方が有名かな。
営業部長さんは「ザ・セダン」、私は「小型セダンのお手本」という言葉で高く評価しているデザインです。
70年代初頭のデザイン傾向は、豊かになった時代を反映して、曲線主体となるのですが、だんだんと機能の犠牲や装飾過剰の部分も見受けられるようになっていきます。
そんなデザイン達に異議を唱えるかのようなこのデザインは、一種の清涼剤的に映ったものです。サイズ自体は、同級他車とほぼ横並びながらも、どこにも破たんのないバランスのとられ方は、ひとえにデザインの勝利だと言えます。
そのデザインに目を奪われがちですが、汚れ防止の観点からリヤテールの下側を奥に入れてみたり、エンブレムやホイールキャップから角を排除する等、ディテールも実は意欲的だったりします。
このデザインの意味合いについては、ひとりのデザイナーの手記として、登場時のカタログの最初の見開きに掲載されたものが、ほぼ言い表していますので引用してみます。
以下引用。
「新型コロナは、意味をもたない流行的なものは意識的に排除し、真のクルマの魅力とは何かを追求することによって、本質的な美しさに迫ることを試みたクルマである。それは、わざとらしさや、鬼面人をおどろかすといった作為をとりのぞき、クルマの魅力をほり下げること、および、デザイナーの造型的モラル、能力の高さで達成されるべきものだと思う。新型コロナのデザイン作業をほぼ完了した現在、このクルマが『カッコ良いとか悪いとか』いう皮相的な基準でなく、『なにが良いか、なにが悪いか』という、より本質的な基準とデザインをすすめたことに対する満足感と、さわやかさを感じている。このクルマが、良識ある多くの人びとに認められ、使命を全うすることを心から願っている。」
このデザインは、実際に多くの人びとに認められて、ベストセラーを長く続ける要因となりました。それにしても、この手記は、このデザインだけに留まらず、クルマのデザインとはというもっと大きく重い部分をも意味しているように感じてなりません。
○8代目コロナ
形式名を取って”150コロナ”と呼ばれる世代です。
FF化にあたって、先代より全長を150mm縮める等、思い切ったパッケージングの再構築がされています。
それを包むデザインも、決して大きく見せようとはしていないものの、ミドルサルーンらしい落ち着きが感じられます。この時代のセダンらしく、パッケージングを重要視しながらも、他車では見られがちだった不自然さを感じさせない点も高く評価したいところ。
豪華さが一気に進んだ時代の中では目立たなかったものの、このデザインも本質的なものだったと思います。
この世代の5ドアは、コロナ歴代で見ても珍しい、4ドアから離れたデザインがされています。他の世代は、どうしても販売の中心は4ドアということで、4ドアとの近似性を感じることが多かったのですが、この世代は5ドアが先に登場したということもあって、このような関係だったのだろうというのは、推測。
故徳大寺氏は、4ドアはアウディ80からの、5ドアは(リヤエンドコーナーに)ポルシェ928からの影響を指摘しつつも、このデザインを「最もアップトゥデイトでヨーロッパ的」と評されていましたね。
○9代目コロナ
またコロナかと言われそうですが(笑)
こちらは”170コロナ”となります。
先代の特徴的だった部分はやや戻されて、当時のトヨタ金太郎飴群に組み込まれた感もありますが、決して威張らないディテールはやはりコロナならでは。
空力とトランク容量のアップを狙ってリヤハイデッキも取り入れられていたりするのですが、あえてそうは見せないデザインというのも実に巧み。
この世代、過去からのオマージュが各所に見受けられまして、サイドストライプは4代目から、ホイールキャップは5代目からかなぁと。
この後世代からは、プリメーラからの影響もあってか、和風味は薄れましたので、準和風セダンとしては、最後の世代と言えると思います。
○2代目カリーナ
5代目コロナの成功で自信をもったのか、その方向性の後続となったのが、この2代目カリーナです。形式名だと”40カリーナ”となります。
初代はセミファストバック&縦型テールランプを採用していましたが、一転してノッチバック&ほぼスクエアのテールランプとされています。
「機能をつきつめて行くと、シンプルな世界にたどり着く」というのは、これもカタログからですが、この明確なスタイリングを見ていると、頷けるものがあります。
衒いのないという形容詞が似合いそうなデザインですが、フロントのコーナーを面取りして、取り回しに配慮する等、意欲的な部分も見受けられます。
登場以降、ウレタンバンパーの採用や、スラントノーズ&角目化等の手が入ることとなりますが、個人的評価では、この初期型に一票を投じます。(後期のスラントノーズは、ウレタンバンパー&セリカカムリでのリヤクウォーター大幅変更との組合せでは、ウエッジ基調が新たに強調されることとなって、これはこれでよいと思いますが)
○4代目カローラ
コロナ・カリーナと続いた、明確なノッチバックのデザインはこの”70カローラ”にも受け継がれます。
この前の130コロナまでは、サイドビュー等に緩やかな面が見受けられましたが、これ以降、直線&シャープな面構成がトヨタの主流となっていくことからすると、ここが転換点という見方もできますね。
量産車らしく、スプリンターを含めると、様々なボディ形状が存在しますが、一番出来がいいのはカローラセダンというのは、個人的主観。
大衆車として定義された枠内のサイズの割に、ウェッジを基調とするバランスの取れたデザインは、イタル作という噂がありまして、なるほどと頷けるものがあります。
初代から3代目までのデザインから飛躍したことで、ユーザー受けを危惧する声もあったようですが、このデザインはライバル車のFF化が進む中で、FRのままでの戦いを強いられたカローラの強力な武器ともなりました。
ここで提案型のデザインに自信を持った設計陣は、次世代でさらなる提案を行ったものの、こちらは飛び過ぎという評を受けることとなります。
○6代目ブルーバード
形式名の”910”で有名な世代です。
70カローラを大衆車クラスの傑作デザインとするなら、同時期の小型車クラスの傑作デザインは、これを迷わず挙げます。数少ないFRとなりながらも、そのデザインが販売の武器となったのもカローラ同様。
610・810と続いた曲線基調のデザインからの一大転換は、510の再来と評されましたが、510により近いA10バイオレット3兄弟と比較してみると、このデザインの新しさがより解り易いかと。
外国人デザイナーの起用はアナウンスされていないのですが、この前に出たプジョー604に通ずる部分がありまして、何となくピニンファリーナを連想させます。もっともリヤウィンドーを曲げてみせることで、キャビン大きさとピラーの細さによる軽快さを両立させてみたり、まだまだ少なかった異形角形ヘッドライトの採用等、新時代の息吹も積極的に取り入れられていたりします。
営業部長さんは、標準バンパーを推されていまして、引き締まったデザインの切れ味の点では共感するものの、こちらの大型バンパーもいいよなぁと思ったりします。
ここまで挙げてきたコロナ・カリーナ・カローラは、大なり小なり小型バンパー派なのですが、これは本当に悩みます。当時、このグレーツートンのセダンに惹かれまして、私的贔屓目が入っているのも大いに影響していますけれども(笑)
○8代目ブルーバード
ブルーバードでもう一世代挙げてみます。形式名の”U12”で呼ばれることが多いですね。
この先代となる”U11”は、長くベストセラーを続けた910の呪縛を感じずにいられませんでしたから、そこからの飛躍には、新時代の到来を感じたものです。
4ドアハードトップが一世を風靡していた時代でしたから、このブルーバードも4ドアハードトップの比率が高かったのですが、私的にはセダンの方を高く評価していました。
上で挙げた170コロナと僅か数ヶ月違いの登場。近似性が認められるスタイリングだけでなく、メルセデス190の影響を受けたインパネデザインというのも同じでしたが、やはりこちらも好きだったのです。
ブルーバードのセダンは、次世代で北米を志向することとなりますから、やはり和風様式はここで一旦終結と言えそうです。(U14も和風味が戻ってはいるのですが、それでもP11風味の方が強いように感じます)
といったところで、いかがだったでしょうか。
セダンは、上で書いたとおり、長い歴史の中で数多く登場しましたから、異論はあるでしょうし、それを否定もできません。まぁ、前回の実的感覚と合わせつつで、私の好みを感じ取っていただけると、とても嬉しいところです。
これらのデザインは、視界の良さや四隅の把握のし易さ、後席の開放感等、機能要件を積み重ねていくと、きっと帰結する形だと思うわけで、美の中でも機能美という言葉が相応なのでしょうね。
もう一つ、取り上げた車種は、そのデザインが寄与することでベストセラーカーとなったクルマが多くて、その多さ故にかえって突出した評価とはなりにくいと言えます。しかしながら、その多さが気にならなかったということは、やはりデザインの質が高かったのだろうと思うのです。
それにしても、今回の収穫は、安全コロナで引用した一文であります。
2代目ソアラを取り上げた時に引用した「質の高いデザインと質の悪いデザインがある」という言葉も印象深かったのですが、今回の引用文も、かなり強い印象として残りました。やはりデザイナーという専門家の発する言葉には、重みを感じずにはいられません。
安全コロナの登場から、40年以上の時間が過ぎましたが、今という時代だからこそ、むしろ考えさせられるものがあったというのが、心境に近いところでしょうか。