
古の設計者の想い、第三回です。
自由にやれるというのは、繋がりを意識せずに済んで気楽な反面、さて何をやろうか悩ましくあったりもして(笑)
まだまだ候補も多い中、今回は初代フォード フェスティバの回からキャンバストップに関する部分でやってみることにします。
個人的に結構好きなクルマでありまして、以前にカタログを紹介しつつで取り上げたことがありますね。(リンクは
こちら)
今回も、事前知識的な話から。
このフェスティバ、このクラスへの参入としては、一番後となった形ですが、それには理由があります。改めて対談記事を読み返して知ったのですが、マツダにはフェスティバの前に開発の途中段階まで進めながら中止としたプロジェクトがあったようなのです。
何でも、シャレードと同じ3気筒1000ccを搭載する想定だったとか。
中止の理由は不明なのですが、このプロジェクトの再構築による時間の経過というのが、フェスティバにコンセプトに大きく影響しているようです。
このセグメントの最初はシャレードで、後からマーチ、カルタス、ジャスティが参入した形でした。1000ccを搭載する経済性を優先したファミリーカーがコンセプトの中核ですね。FR時代のスターレットとシティはサイズこそ近いのですが、パーソナル寄りということで、この一群からは離して考えるべきでしょう。
こうして段々と大きくなったこのセグメントなんですけれど、ガソリン事情が安定に向かったこともあって、ユーザー側の志向がだんだんと高級寄りになる中でズレが生じ始めていました。
このクラスの中でも、経済性より上級感やパーソナル感が求められるようになってきたのです。その流れを決定付けたのは、FFに転換したスターレットだったようです。
サイズこそ、他車と大きく違うことはありませんでしたが、4気筒1300を搭載したことで、一クラス上級に映るという構図ですね。また、サイズで価格が決まっていた日本車では、このクラスも付加価値を求めないと苦しくなるという台所事情への一つの回答ともなりました。
このスターレット、下級グレードでは他車と十分競合できる価格付けをする一方、上級グレードは付加価値を付けることで、お値段の理由を説得するという設定がされていたのです。
当時の開発インタビューを読み返すと1300を搭載した狙いとは微妙にズレが生じている感もあるのですが、ここではいい方向に作用した形です。
実際、今回のフェスティバはもちろん、スターレット登場直後にマイナーチェンジを行ったシャレードでもスターレットを意識していたことが語られていたりします。
フェスティバでも、1100と1300というグレード構成とすることで1000ccの他車よりは上級に見せていますし、上級グレードには付加価値を求めていますね。
その付加価値の一つというのが、今回ご紹介するキャンバストップとなるわけです。(こうして、ようやく話が本筋に辿り着きました(笑))
今回、高原 誠(川島 茂夫)氏と対談されているのは、当時、マツダの商品主査室 主査 参事の職にあった 井上 寿雄氏となります。
高原 一番気になるのがやはりキャンバストップだと思うんです。これは、初めからずーっと置いといて、つくるときポッと出した?
井上 どこのタイミングをスタートと考えるかにもよりますけれども、案は、こういうものをやってみたいなあというのはいろんなものがございますね。その中に一つはこれがあったわけです。その中からいろんなものが消えていって、大体絞られてでき上ってくるというのが一般の形だと思います。その中にもあったから、そういう意味では当初からあったとも言えますが、実際にこれのアプローチを私が強く展開し始めたのはかなり遅れた段階からでございます。
高原 今までですとみんなガラスか鋼板のスライディングが多かったわけです。ああいうものは頑丈ですし、力強い感じがするんですけど、幌っていうとどうしても経年変化とか耐候性みたいなものがとても気になるわけです。
井上 それは私どもの気にした点でございますし、逆に世の中にそういうものが受け入れられる素地があるかどうかということになろうかと思います。これにつきましては、オープン形式というのがいわゆるカブリオレ形式で世の中には受け入れられているわけでございますね。
これはヨーロッパだけでもございませんし、日本でも当然そういうものがあります。アメリカにだってある。世界中にそういうのは受け入れられている。それと同じ材質を持ってくればいいんではないか。と同時に、カブリオレとかそういう形になりますと、どうしても機構がそれなりに大きくなりまして高くなる。どうしてもお客さんに買っていただくのにそれなりの合理的な価格を出していただく。
ところがこのクラスのクルマに高い金を出すといったら、それはコンセプトが間違いだというふうに私は考えまして最適なものは何だろうと。それに対する価格と耐用年数とオープン形式の使い勝手、これを絡めての私から世の中に対する新しい提案という形でこれを持ってきたんです。ですからカブリオレに使っているヨーロッパのメーカーの幌を持ってきまして同じにしております。
---------------------------------------------------------------引用ここまで
話は続いているんですけれど、ここで一旦区切ります。
直接の言及こそありませんが、おそらく井上氏がフェスティバのキャンバストップを作る上で、このクルマは意識していただろうと思われます。

シティ カブリオレ
(引用元=FavCars.com)
ただ、シティがカブリオレ形状としたがために高くなってしまった点がキャンバストップという新たな選択となったことを伺わせます。
もっとも、”このクラス”というのがポイントでもありまして、マツダは時期を前後してこちらを発表しています。

ファミリア ターボ カブリオレ
(引用元=FavCars.com)
マツダの中には、オープンモータリングを求める声に応えたいという思いがきっとあって、その回答が2つに分かれたと見るのが妥当なのでしょうね。
幌部分はカブリオレと共用することで目処が立ったという見方もできると思います。
ここで寄り道からインタビューに戻ります。
高原 具体的に、例えば屋根付きじゃないような駐車場を使ってまして、どのくらい補修なしでいけるもんですか。
井上 まあそれは使い方によって多少変わってくるだろうと思いますが、5年程度は大丈夫だというふうに見ております。
高原 そのくらいは補修なしでいけると。
井上 ええ。ハード的なメカの要素、機械的なメカニズムの要素に関しては、クルマのライフサイクルと申しましょうか、開け閉めを毎日繰り返し4、5回やって10年以上の保証はできるだけのものは持たせております。もちろん布だけの交換という形ができるようにしておりますから、万が一非常に劣化が出た場合にはそれだけの交換で済む。雪国のディーラーさん、特に北海道とか北陸とか、ああいった非常に雪の多い地方の販売店の方は、初めはこれは要らんと言うとったんですね。私も要らん言われるならしょうがないなあと思っていたんです。しかし、せっかく出すからには少々雪が積もったぐらいで問題が起こるようなことになってはいかんからといって、こんな・・・何マルぐらいですか・・・パイプを横に5本通しておりますね。ですから、シャーベット状みたいな雪が50~60cm上の積もりましてもどうもない。それをのければすぐもとへ戻る。鉄板のクルマですとそういう雪が50~60cm積もりますと多少後にデコボコが残るんですよ。
そういう意味ではこっちのほうがいいよという話をしましたら、急に雪国の販売店の方が、こりゃいい、買う。現実に、関東地区ほどは全体に占めるパーセントは出ておりませんが、それでも北海道とか北陸のほうでも構成の中で30%ぐらいこれが出ます。
私が非常に意を強くいたしましたのが、うちのテスト走行班からのファックスを受けたときなんです。それはこの冬にテスト走行でキャンバストップを持ちまして、北陸、東北、北海道と確認の最終仕上げのテストに行ったときのテストマンのレポートがございます。それはどういうことを言ってきたかといいますと、雪国の中、雪がいっぱい積もっている所を、下のほうにちょっとヒーターをきかせて、目いっぱいあける。それで太陽が輝いている。もちろん気温はマイナスとかそういう状況の中で、目いっぱい開けて走ったら、もうこれは最高ですわと。
高原 最後に、設計した者としてアピールなさりたいところを一言お願いします。
井上 それはお客さまの生活を充実させることがねらいでございましたし、それを私はこのクルマで実現できたというふうに考えます。
---------------------------------------------------------------引用ここまで
クラウンワゴン同様、新しい提案というのは売る方からすると慎重になるというのが、インタビュー記事から読み取ることができます。それを乗り越えて、設定してよかったのだということを実感させる締めとなっています。
そんなエピソードを経ながらも、関東ほどではないという構成が30%ぐらいなのですから、このキャンバストップという提案が、新たなる参入となるフェスティバにとって、大きく貢献した装備であることは間違いないと言えそうです。
このキャンバストップ、フェスティバへの貢献はもちろん、一種のブームともなりまして、他車にも採用例が出てくるようになりました。
最初はいすゞ。ジェミニに”ユーロルーフ”の名称でキャンバストップが追加されています。
(画像は適当なものが見つからず)
続いては日産。Be-1も含めるといすゞと順番が逆転するのですが、限定車ではない市販車なら、この順番。

マーチ キャンバストップ
(引用元=FavCars.com)
もちろん流行の臭覚には鋭いトヨタも参戦します。

スターレット キャンバストップ Si
(引用元=FavCars.com)

カローラII ウィンディ キャンバストップ
(引用元=FavCars.com)
こうして、キャンバストップが一つの商圏を形成することとなります。
その商圏もだんだんと数が絞られていって、1990年代の半ばには、ほぼ消えてしまう形となってしまいます。登場が1986年ですから、これもまたバブル期の装備の一つという見方ができるかもしれません。
また、これらとは別に次のような車種での採用がありました。

Be-1 キャンバストップ
(引用元=FavCars.com)

パオ キャンバストップ
(引用元=FavCars.com)

フィガロ
(引用元=FavCars.com)

WiLL Vi
(引用元=FavCars.com)
この他には、アルトラパンにもありましたね。
元々が古式由来の装備ということで、これらとの方が親和性は高かったという見方ができるかもしれません。
その間、パイオニアであるマツダは次のような展開がされていました。

オートザム キャロル

オートザム レビュー
これらオートザム系の車種で採用された後、2代目フェスティバでも引き続きの採用となりますが、その後はしばらくの間、マツダからも途絶えることとなります。
しばらくの時を隔てて、復活となったのはこちら。

2代目デミオ コージー
(引用元=FavCars.com)
フェスティバで初採用以降の動きと、デミオで再び採用するにあたってという話は、たまたまみつけた開発レポートにお任せすることにします。(リンクは
こちら)
この時以降、設定はまた止まっていますが、そろそろ復活してきてもいい気はします。
この装備が似合いそうなクルマがいくつか思い当たることが一つ、あとはこれもモータリングの楽しみに違いないからというのがもう一つです。
それはさておき、今、間違いなく言えるのは、フェスティバでの採用がなければ、あの時代の流行は決して起こらなかったはずであり、もしかすると歴史も違った方向に動いていたかもしれないということですね。