今年も残り一週間を切りました。前々回ぐらいから、そろそろ今年のまとめを意識し始めているのですが、今回は少し前から始めて結構好評な設計者の想いかなと。
これは元ネタの数が多いのでどれをやるかは難しいところなのですが、過去のPV総数を眺めてみると、好評なものの一つにY31グランツーリスモ(当該Blogは
こちら)がありまして、それなら日頃の感謝も込にして、Y31を選抜するとちょうどいいかなと思った次第です。
何回か書いているとおり、私も好きなクルマでありまして、かなり長くなるのですが、最後まで楽しんでいただければ幸いです。
ということで、古の設計者の想い第8回、前段から入っていきます。
今回、高原 誠(川島 茂夫)氏がインタビューされているのは、当時日産の商品開発室 主管の職にあられた三坂 泰彦氏となります。
三坂氏は、当時日産(日本のメーカー?)初の文科系の開発リーダーということで話題となりました。前代から大きく変わったY31の成り立ちを紹介していくうえで、市場調査や広報はもちろん、販売の最前線も経験されている三坂氏の想いというのは少なからず影響していると言えるのです。
といったところで、以下、紹介していきます。
引用ここから----------------------------------------------------------
高原 まず、先代から新型車に変わるにあたって、そのコンセプトの継承分と変更分などを・・・。
三坂 今回のつくる側の考え方は、できたかできないかは別なんですけどね、継承分とプラス分とを両立させようというようなのがあって、要はバリアブル技術というか可変技術、だから走りと音とか、走りと乗り心地とか、それから音振性能と出力・馬力とか、そういう相反する要素がありますね。そういうものをトレードオフでこっちをやったからこっちを捨てるとか、それで我慢しろとかいうような感じではないつもりなんですよね。ですから、乗り心地については従来の乗り心地。従来と全く同じではないんですけれども、後ろに乗った人についても別に不満にならないというか、進化させて、それにプラス走り分を追加する。そうするとどうしても走りを追加した分だけ乗り心地が悪くなる。でもそれを両立させようというのが一つのねらいになるんですよ。そういう意味で言うと、従来から変えた部分というのは、いわゆる風格だとか豪華とか、そういう部分の言われ方、それ自体にあんまり意味がないようなもんですね。そういうものについては少し削除してあるんですね。それ以外は、やっぱり基本の走りというのが昔あったかどうかは別ですけども、それにプラスして更にそれを進化させたいという部分がプラスに・・・。
表現でいうと、私どもは走りと品質と安全性、そういう部分がベースにありまして、そのほかに、今までのY30はその時代の要請でしたんですけども、風格だとか豪華だとかステータス性だとか、そういうものの味つけでつくっていたわけですね。今度はその風格だとか豪華というのは・・・風格は必要だと思うんですね。で、豪華というものの色合いが多少、変ってきたというんですかね。じゃ豪華というのは何が豪華か。走りがいいというのも豪華の一つだろうと。見栄えだけじゃなくてね。そういう豪華をつけると。それで、400万円ぐらいする、安いものでも300万円すると、そういうクルマに乗ってて、200万円のクルマに走りで負けるというのは許されないんじゃないかというつもりがありましたんで、ある意味ではそういうものには、よーいドンで完全に勝つかどうかは別として、不満になる、むこうより悪いっていうか、完全に不満になるような水準にはしたくなかったというのが今回の出発でしてね。
高原 当然、このクラスのオピニオンリーダーというか、メインになるユーザーの世代交替とか、質の変化みたいなものがあったと思うんですよね。このへんはどういうふうにとらえていますか。
三坂 今回、クルマとしてはそういうことでしたけどね、流れとしては先代からずっとそういう流れがありまして、ユーザーの質という言い方がいいか悪いか分からない・・・ユーザーの違いですね。それはもう先代から一般にセドリック・グロリアというショーファードリブンの後ろに乗る人メインのクルマで、後ろに乗る人が5割も6割もいるんではないかというようなイメージでとらえていましたけれども、実際にはそういう人はいないんですよね。まあ1割。調査データですから振れがあるんですけども、まあ1割が2割になることは絶対ない。ですから、その部分はまあ1割とか1割5分ぐらいあるんですね。タクシーは別としてね。そういう人以外の8割とか8割5分の人たちが何を求めているかということだったんですよ。簡単に図式化すると5割ぐらいがショーファードリブン的だと思うんですね。
あと3割とか4割ぐらいは、俺はこんなにカネを出したのにあれより負けるのはけしからんとほんとに思う人ですね。そういう人が3、4割いるかなと思っています。その人たちのためにはもちろんそういう必要があったんですけれども、それ以外にはその5割が仕事を考えながら乗ってても危なくない、そういう性能コンセプトが必要だという感じが僕は前からの調査等でもしていましたね。それに合うようなクルマというのが必要じゃないかな。
高原 まずグランツーリスモを見て、あのあたりがひとつ試験というか、このクラスのユーザーの対象がどこまで変わったか、これで試してみようかというようなね。
三坂 いや、そんなに人が悪いわけじゃないんだけども。やっぱり同じブランドで同モデルですわね。その中でいわゆる多様化と言われてますでしょう、そういう層を確保しようとしたらどういう方法があるかということを出発にして考えたわけです。そうするとブロアムの3L、これはやっぱり従来に近い路線で要るだろう。この中でブロアムの2Lは、これは新しいエンジンを積んでいますけども、これもやっぱり、今回も量はいちばん多いですし、そういう量の多い部分というのはあまり変えられない部分。で、グランツーリスモ。ほんとはもっと2ドアとかオープンカーとか、リムジンをつくってみましたけど、ああいうやつで車種をレッスンしてその中でバリエーションを増やしていくというか、そういう方法でしか対応できないなというふうに私は考えたわけです。だからグランツーリスモだけをセドリックだと言って売ることの危険さを回避して、ブロアムのブロアム、昔のイメージを踏襲していく、そういうところは皆さま方から見ると、なんか中途半端だとか物足りないとかいうところはあると思いますね。
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Y31の登場した1987年(早くも来年で30周年・汗)は、セドリック(1960年登場)とグロリア(1959年登場)が登場して四半世紀が過ぎた時点となります。方向性が定まった感の強い両車の統合(1971年)からでも15年という短くない時間が過ぎていました。その中で、蓄積されていた伝統は少なからずありましたし、この種のクルマって、ある意味、日産車の双六のゴールみたいなところがありますから、なかなか変えたくても変えられない位置にありました。
その一方で、このクラスにはクラウンという王道を歩むかなり強いライバルがいて、この2車というのはクラウンと付かず離れずの関係が続いていました。ただ総体的にみると、だんだん寄り切られつつあったのです。さらには、円高を見据えてホンダレジェンド、マツダルーチェ、三菱デボネアといった他メーカーもこのクラスに参入するに至っては、そろそろ変わらないと衰退を余儀なくされる状況でありました。
そんな厳しい状況の中で、登場したのがこのY31となります。
先ずは、ユーザー層の分析が興味深いところです。
このクラスとなると、当時は公用車や社用車を連想させる「リヤシートに乗せてもらう車」をイメージしたものですが、意外とその数は少なかったという話です。
また、残りのユーザーの中で、あれより負けるのはけしからんとほんとに思う人の数が意外と多い印象もあり。430ぐらいから、ハイソカーブームの盛り上がりを反映して、この2台を若者が買うという構図が出来上がりつつあった関係もあるのでしょうね。この時期だと、ローレルよりは平均年齢層が若いというのが話題となった頃でもありますし。
インタビューの中では、ライバル車との関係は殆ど語られてはいませんが、変えられない部分と新たに加えた部分というのは語られています。
簡単に分類してしまうと、変えられないのはブロアムで、新たに加えたのはグランツーリスモとなるようです。ブロアムも技術の進化を反映させて、従前の領域は守りつつ性能を向上させたとなるのですが。
車種のレッスンの一つとして語られている「ロイヤルリムジン」。
オーテックを活用することで、ワンオフやショーモデルに留まらない国産初の本格的なリムジンとして誕生しました。ストレッチ長は、センター部450mm+リヤドアの延長150mmの計600mm。
少量生産故の高価格もあって大きな成果とはなりませんでしたが、リヤドアのみ延長したモデルは”L”として長く生産され、他車にも同様のモデルを生むきっかけとなりました。
多様化の一つとして語られているのはこちら。
多様化への対応というだけでなく、このグランツーリスモは、セドリック/グロリアが新世代に入ったことも象徴する一台でした。
エアロパーツを纏いメッキパーツを減らした外観デザイン、やや深めのバケットシートやスカイラインと共用する3本スポークステアリング等を備えるインテリアは、従来この種に見向きもしなかった層を新たに憧れさせることとなっていきます。
開発の狙いが語られたことで、各概要に入っていきます。
最初はスタイリングから。
引用ここから----------------------------------------------------------
高原 今回は従来に比べるとセダンと4ドアハードトップのスタイリングがだいぶセグメントされているという感じがしたんですけど、やっぱりそういうのも・・・。
三坂 そう。セダンの上にハードトップがあるというのが従来型なんですよ。まあ形が似ていたということがあってね。要するに縦に長かったでしょう。そうじゃないというのがあって。ただセダンはあんまり受けてないんでね。やっぱりセダンという目でご覧になるのか分かりませんけども。まあスタイリングが悪いのかもしれません。そういう意味では別の役割分担をやらせたいというのがあったんですね。
----------------------------------------------------------引用ここまで
Y31とY30(本当は後期としたかったのですが、画像の都合で前期)をハードトップ・セダンの順で並べてみます。
〇Y31
〇Y30
ベースは共に5枠にあるため、この4台、サイズはほぼ変わりません。デザイン代が限られる中で、如何に表現するかというのが見せどころの一つでもありました。
Y30の時点でフロントは低く、リヤは高くというウエッジシェイプの傾向が取り入れられていますが、Y31ではそれをさらに進めた形となります。
フロントを低くするのは顔を小さくすることと同義であり、車格落ちを懸念してなかなか思い切れないところですが、ついに踏み切ったと言えます。クラウンも120のハードトップを作る際に相当苦労したと語られている部分です。
ハードトップとセダンの対比では、従来よりも両車の専用部品を増やすことで、大幅に印象を変えることに成功しています。
この初期セダンって、「間違いだらけ~」でも評価が高くて、私的にも評価しているデザインなのですが、この時代はあくまでもハードトップが主流でセダンはオーナー層には難しかったですね。
ただ、これはY31セダンのデザインが悪かったのが原因とは思えません。クラウンは120の時にハードトップとセダンを分けたものの、ハードトップに人気が集中したため、130ではセダンをハードトップに近づけるという策を採るのですが、ハードトップ集中の傾向は変わることがありませんでした。
引用ここから----------------------------------------------------------
高原 ところでエンジンを、上2つを、新設計というと何ですけど、一つは完全新設計で一つはだいぶ改良を加えたと。ターボが2つありますよね。それとノンターボ。このあたりの選定と改良点を・・・。
三坂 まず一番下からいくと、あのクラスで特別スポーティに走るというのがあって、痛痒を感じずに走れるレベルということでね。あれもいわゆる吸入管を少しバリアブルでやっているんですけどね。そういう必要最低限にしたいというのがあったんですね。ですから、あれは普通にお乗りになる方は非常にいいエンジンだと私は思っているんですね。ただのアスピレーションの2Lのやつですね。3Lと2Lのあそこのところでブロアムは、やっぱり3Lが欲しくても買えない・・・カネの面じゃなくていろんな制約があるでしょう?
高原 ええ。
三坂 ああいう人たちの動力性能的に不満を感じさせるのは申し訳ないなという意味で、2Lの排気量の中では、最大出力、最大トルクをねらえという指示なんですよね。何をやってもいいということだったんです。まあエンジンルームのスペースだとか何とかでインタクーラーが入らなかったけどね(笑)。なくてもあれは相当なレベルはいっていると思うんです。5ナンバーといえどもそういう使われ方をしているわけですから、精いっぱい頑張ったわけですよ。それでエンジンが出てきたんですね。
それから3Lについては、私どももいろいろあったんだけども、一つ燃費の問題もありましてね。燃費を気にする人ではないんですけれども、リッター5kmを切るととたんにクレームが出る。これはターボが悪いとか何とかじゃなくて、基本のエンジンはあれですから、ターボの性能というか、燃費性能という意味ではやっぱり今までのやつに無理があったのかもしれません。ですから、今回の燃費はかなりよくなったと思うんです。それでいて走りが悪くなったとか、そういうことはないと僕は思っているんですよ。むしろよくなっている。
----------------------------------------------------------引用ここまで
続いてはエンジンの解説です。
バリエーションとしては、基本的には先代からの継承なのですが、2LターボがSOHCからDOHCに変更されているのがトピックでした。
この指示がスゴイですね。「何をやってもいいから、最大出力、最大トルクをねらえ」とは(笑)
このVG20DET、実際はツインターボを備えた1G-GTにスペックでは若干劣っていたのですが、スペックに表れないフィーリング等の部分含めて、高く評価されていました。
また、インタビュー中にあるインタークーラーは後期で備えられることとなります。
3Lの方は、翌年にシーマに搭載されるVG30DETの開発が進んでいたはずですが、こちらは従来のVG30ETの改良型となります。
VG30ETは、燃費の改善が言われています。Y30まではフェアレディZやレパードも含めて、トルコン容量の関係で電子制御フルロックアップが使えなかったのが大きかったようです。
Y31ではようやくこちらにも新世代ATが載せられたことで、改善に成功します。VG30ETは画像がありましたので、スペックを掲載しつつで、燃費数値の改善を表してみます。
エンジン型式:VG30ET
総排気量:2960cc
最高出力(ネット):195PS/5,200rpm
最大トルク:30.0kg・m/3,200rpm
10モード燃費:7.5→7.9km/L
定地走行燃費:15.2→16.6km/L
ガソリンエンジンについては、この後もエピソードを交えつつでフィーリング面の話が続くのですが、ここでは省略します。
エンジンの話の最後はディーゼルです。
引用ここから----------------------------------------------------------
高原 もう一つ、ディーゼルなんですけど、あれはそろそろターボが付いてもいいんじゃないかと思っていたんですけどね。
三坂 ええ。これは僕もそう思ってる(笑)。ところがやっぱり、開発コスト・・・優先順位の問題もあるんですけど、なかなか・・・。いろんな人に言われてるんですけど、答えようがないんでね。僕もそう思うから(笑)。やっぱりディーゼルのRD28ですけども、これにターボを付けて、ベンツの300Dのターボに拮抗するか上回るようなものをつくりたいと思っているんですよ。静かさを含めてね。今度のやつはアイドリングの音をものすごく静かにしたつもりなんです。
----------------------------------------------------------引用ここまで
元々ガソリンエンジンをベースとした日産の6気筒ディーゼルは、LD28の時代から高く評価されていました。
Y30の後期でLD28がRD28に代わって、こちらも静粛性やスムーズさ等、さらに高く評価されたのですが、ガソリンの方がどんどんパワフルになる中では、そろそろもう一段のモアパワーが求められてもいました。
Y31では、シーマの途中追加もあってか、リソースの制約が各所に見受けられます。最大はワゴンとバンの世代交代を見送ったことですが、ディーゼルのターボ化見送りもそこに含めてもよさそうです。
結局RD28Tは、ここから5年以上を経てから、サファリスピリットに搭載されることとなります。ディーゼルがあまり注目を集めなかった時代ですので、それでも販売的な影響は然程なかったはずですが、惜しい感もありますね。
引用ここから----------------------------------------------------------
高原 エンジンの次というといよいよ足回り。今回いきなり全車4輪独立懸架。かなり思い切って・・・。
三坂 ええ。クラウンは上のやつだけでしょう、DOHCとですね。さっき言ったように普通のエンジンのセドリックというのがいちばんセドリックらしいかもしれないんですね、まあ従来から言うと。らしいというのは変だけどもね。そういう人が乗ってて足に不安を覚えるようなものがあるとすればね。リジッドだってよく知っておりますけども、そういうことについて許されないんじゃないかという気がするんですね。やっぱり今度いうクラシックSV、クラシックだって280万とか、250万以上するわけでしょう。そういうときにやっぱり走りで不安を感じて運転してて要らない気をつかう。疲労のもとにもなるし、そういうものについてはやっぱり避けたいというわけですね。
高原 全車に採用しているということは重要なコンセプトというか、ねらいですね。
三坂 そうです。だからブロアムだけに付いているとか、そういうようなものはよくないんじゃないかなというふうに考えているんですね。
高原 その中でいろいろと車種によって味付けされたんでしょう?
三坂 そう、味はね。味というのは、先ほどのグランツーリスモとは違っているように、役割分担はそれぞれあるんだけども、味の違いはそれなりにあっても、売れ数として落ちるとはあんまり言えないんだけど、1ランク下の足は使いたくなかったんですね。
----------------------------------------------------------引用ここまで
走るの次は曲がるの話です。
クラウンが120でフレームを一新してロイヤルサルーンに4輪独立懸架を採用したのに対して、Y30は全車リヤリジッドに留まっていましたから、商品力の点で大きなビハインドとなっていました。
当然、4輪独立懸架を採用してくるのは読めたのですが、営業車を切り離して乗用車系全車に採用というのはインパクト大でした。デザインが変わったのはもちろんですが、この点も新世代を実感させるものがあったのです。読み違えていたのは私だけではなく、そこにはクラウン陣営も含まれていました。こちらは130で4輪独立懸架をハードトップの一部に拡大するものの、Y31の乗用車系全車採用の前には完全に後手の感が否めず。結局マイナーチェンジでY31系とほぼ同様の採用率に引き上げることとなります。
ここでは語られてはいませんが、販売の最前線を経験されていたことで、何がイメージ構成や商品力として効くのか敏感に捉えていたのだろうと推測するところです。
三坂氏が「セドリックらしいかもしれない」と語る、クラシックSV。
Y30時代まではSGL名で比較的売れ筋のグレードでした。語られているとおり、大事に考えられたグレードですが、Y31以降、上級指向が顕著となる中で販売比率は下がっていくこととなります。
引用ここから----------------------------------------------------------
高原 エアサス仕様とグランツーリスモ系と標準仕様と3タイプの足を設定されたんですけど、これの各々の特徴を軽く・・・。
三坂 まずエアサスはさっきの何とかと何とかの両立というやつでありますけど、やっぱりバネ定数が変えられるというのは一つプラスですわね。そういうことでエアサスを付けようというのはそういう意味なんですよね。やっぱりいちばん苦労したというか気にしたのは、差ですよね。スポーティの足とノーマルの足の差。あの足の差をどれくらいにするかというのがひとつ気にしたところですね。これはいわゆる材料を一つ増やしたんだから、一つのクルマで二つの足というか、そういうことですね。
それからノーマルというかブロアムのメカサスのほう、あれについてはいろいろ実験の連中とも乗りながらやったんですが、固さというか、それについてはやっぱりセドリックの分というか、そんなものがあるような気がしてね。僕はもっと固くできるかなと思ったんですけども、やっぱりテストコースで走るのと一般路とではぜんぜん違うわけですね。テストコースだとノーマルなやつを、グランツーリスモじゃないやつはやっぱりやわらかいんですよ。ところが街へ出ると固いんですよ。まあ固いといってあの程度なんですね。これはやわらかいと思っていたんですけど、実験の連中は、こんなに平らな高速で走れる公道なんかないんだから、一般路を走ってみたらすぐ分かりますよといって、夜中に外へ出てみたんだけど、やっぱり一般公道というのはかなり悪いですね。でこぼこもあるしね。そういう意味ではあの程度が分というか、セドリッククラスだと。
グランツーリスモはもっと固くするとかいう話はあったんですけども、今までアーバンとかアーバンXとかありましたけども、あのクルマの後継なんですけど、やっぱり昔のアーバン系というのはほとんど売れなかったんですね。
高原 あ、そうなんですか。
三坂 あれは2%ぐらいしか売れてないんですね。今度のやつはグロリア系で2割ぐらい売れてて、セドリック系で1割ぐらい売れてて、トータルで14%ぐらい売れているんですね。だから、市民権というと変だけど、セドリックの中にこういうバージョンがあって、それを一つのテコにしてセドリックの方向というものを出そうとしたときには、売れなきゃやっぱり話題にもならんし、そんなセドリックあるの?という話になっちゃうし、それじゃ設定した意味がない。そういう制約を考えていくと、あんまりガッチガチにできなかったということがあるんですね。だからそういう制約をなしに、もう一つつくれというんなら、まあできるということ。10%以上の構成を取ろうとすると、それもあの程度・・・。あと少し固くするかやわらかくするかではあるんだけれども、その差というのはあの程度だなと言っておりますがね。
----------------------------------------------------------引用ここまで
その4輪独立懸架ですが、味付けの話を細かく語られています。
従来あったスーパーソニックの進化版の意もある最上級のエアサス。これは完全に別物ですね。
あとはメカサスですけれど、グランツーリスモ系とそれ以外のセッティングをどこに置くのか。サスペンションの変更で操安がよくなるのは当然として、乗り心地をどうするかというのは、選択される際の重要ポイントだけに本当に難しかったようです。
グランツーリスモ系の販売比率は、以前に引用した部分でもありますが、再掲。これまた以前に掲載していますが、アーバン系を遡ると、SGLFに行き当たります。ブロアムとは違ったお洒落感を求めたシリーズですね(この話に関するBlogは
こちら)。もっともあくまでも主流はブロアムにあったのも事実。ユーザー層の傾向からするとシリーズの柱がもう一本必要と判断されたときに、新たに出てきたのがグランツーリスモです。
このシリーズは従来とは一転して大成功を収めることとなります。言われている比率は初動のものであって、この後はどんどんグランツーリスモ系の比率が上がっていくこととなるのです。
今でもY31というとグランツーリスモを想像される方は多いのではないでしょうか。セドリック/グロリアの変化の象徴を重ねられる存在ですね。
ほとんど売れなかったと語られているアーバン系。
スポーティ&ファッショナブルを求めて、主に内装部分を変えていますが、外装部分はほぼノーマルのままだったこともあり、知名度の低さも相まって、差別化に苦労していた印象があります。
引用ここから----------------------------------------------------------
高原 ちょっとお聞きしたかったのは、今までのセドリックユーザーというものの操縦性と乗り心地の評価というのはどういうふうに変わってきているか・・・。
三坂 乗り心地、操縦性の評価というのはあんまり返ってないんですよ。というのは、あんまりそういうふうに乗っておられなかったんだと思うんですね。あの中型クラスのクルマというのはそういうもんだというふうだったんだろうと思うんですよ。だからこれは操安が悪いとか、そういう話は余り聞かなかったわけです。もちろんジャーナリストの方にはいろいろ言われました。こんなものクルマじゃない、というようなこともありましたけども、一方、お客さんからはあんまりそういうふうに言われなかったんですね。でもいいものはいいだろうと。言わなかった人でもね。よくすることについては反対はないはずなんで、そういう分類をしたんですけども。今までの2Lについて操安性が悪いというようなものはそうはなかったですね。
高原 スーパーソニックサスの廃止というのもなんかもったいないなという・・・。
三坂 そうですね。初めそんなのもあったらどうかなって言ってたんですけども、スーパーソニックサスは5リンクと組み合わせてやっているでしょう。今回、エアサスを最上級の足として使っているでしょう。アーバンXに付いて、ですけども、そういう意味で、エアサスのセンサーって11基あるんだけども、ああいうやつで今までのスーパーソニックサスペンションを上回るものができたということで、スーパーソニックサスペンションを止めたんですよ。先ほどのあれと同じように、1番上があって、スーパーソニックサスがあって、普通のサスがあってもいいじゃないかという話はありますがね。ああいうのは車種をつくるのは大変なんですよ。前のができればいいってもんじゃなくて、足も変わっちゃったしね。
高原 そうそう簡単にはつくれない。
三坂 そうはできないですね。
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操安に関して、ユーザーの反応とジャーナリストの反応の違いというのが面白いところです。Y30まで採用されていたルースクッションシート等と絡めつつで、こんなものクルマじゃないという評論も確かに存在していました。高価格という点もあって、強い批判にさらされていたのですが、ユーザーの方はむしろ達観していたと言えるのかもしれません。
こういった結果からすると、ジャーナリストの反応を無視するというのも選択肢の一つだったはずですが、そうなることはありませんでした。
他誌ではありますが、Y30後期のインプレに対する開発者の回答として、「やれるだけのことは現モデルで手を打ちました。まだ十分でないこともあり、次のモデルに盛り込んでいきたいと考えています」というのがあったのですが、それが盛り込まれたのがY31ということなのです。
スーパーソニックサスに関して、足が変わったというのを理由に挙げられていますが、リヤセミトレとの組合せはレパードが先に出ていますので、出そうと思えば出せた気はします。これもまたリソースの制約ということなのでしょう。その後の結果からすると、この選択は正しかった気がします。
引用ここから----------------------------------------------------------
高原 最後にまとめとして、全体像とセールスポイントを。
三坂 今回、要するに全体像としてはやはりユーザー層を見直してみると。それに合うような形にクルマ自体をしようとしたということなんですね。それに尽きると思うんです。そういう意味ではユーザー層が急に変わったわけじゃなくて、従来変わってて我慢しておられた方がいるんじゃなかろうかと。そういう我慢をしていただいている方に我慢しなくて済むようなものにしたいというのがありましたね。それが今回のコンセプトの初期の基本の考え方ですね。
それに伴ってセリングポイントが出てくるんですけど、やっぱりいま売れるポイントの最大はスタイルですよ。
先ほどのスタイルとの関係もありますけども、塗装なんかも今回はずいぶん気を使いました。工場の設備を含めてずいぶん変えたんですよ。欧州のトップレベルの塗装とそう見劣りのしないレベルにつくったと思っています。エンジンがあって、足があって、屋根があって、ということでいくと、400万円と100万円とどこが違う?という話がありますが、それぞれが違う。それがやっぱり高級車としてのセリングポイントだと思っているんですね。そういう部分を今回は最大限やってみようということでございます。
----------------------------------------------------------引用ここまで
まとめとして、挙げられているのは、ユーザー層が変わっているのに車の方が変わっていなかったということなのでしょう。歴史を振り返ると、やはり330から430の時に大きく変わって、その後のY30で進化はしたものの、変化はしなかったというのが大きい気がします。その分、Y31は大きく変わったと言えるかもしれませんね。
で、思想の部分が変わっているのに、売れる最大のポイントにスタイリングを挙げるというのが意外です。もっとも三坂氏らしい気はします。
この回の三坂氏の話は私の好きな回の一つなのですが、その中でも、最後の部分は印象に残っています。
この頃既に、高級車とは何かという論がありましたが、何か突出したものではなく、トータルのパッケージとしての高級車というのは説得力があります。
高級車とは何かというのは、今も続くというか、今だからこそやりたくなるお題でもありますけれどね。
といったところで、いかがだったでしょうか。
セドリック/グロリアの長い歴史の中で、エポックメイキングの一つとして、確実に挙げたくなるのが、このY31です。
何がエポックなのかというと、技術的な部分よりもむしろ思想的な部分だと思っています。
グランツーリスモの時にもかなり書いていますので、詳しく書くことは避けますが、クラウンの存在抜きには語ることが難しかった両車が、独自の世界を確立したというのは、それぐらい大きなことなのです。そして、その世界観というのは、クラウンへも影響しただけでなく、今でも上級セダンの価値観として通用するものを持っているのですから。
三坂氏は、この両車を成功させ、さらにシーマを「現象」とまで呼ばれる更なるヒットに導いています。その後は、開発部門の統括に上がられ、以降はあまり印象としては残っていないのですが、トヨタがプログレを開発する際に、製品化を急いだ理由として、三坂氏が同じことを考えているはずだから、というのがあったくらいですから、ユーザーの求める製品への勘というのは変わらず優れたものだったことを想像させます。
私の中では、スカイラインを語る時に桜井真一郎氏の存在が欠かせないように、Y31を語る時には欠かすことができない方なのです。
名車の背景には必ず優れた開発者がいる、ということで今年分の設計者の想いを締めたいと思います。
長文になり易いこのシリーズへのお付き合いをありがとうございました。
また、引き続き来年以降もよろしくお願いいたします。
(データの参考・引用:斜字・下線部)
・自動車ガイドブック
(画像の引用元)
・FavCars.com