
自分の好きな年代ということで自然と1980年代の話が多いかなと思っているのですが、たまには年代を変えてみましょうということで。今回は1990年代から一台を取り上げてみます。
今回の主役はタイトルの通り、A32セフィーロ。セフィーロとしては2代目となります。
通算3代続いたセフィーロですが、自動車雑誌等で取り上げられるのは初代が多いという印象を持っております。皆さまご存じのとおり、2代目でそれまでの直6FRからV6FFへと一大転換をしていまして、どうも2代目以降は話の主役にはならないような。
初代は、爆発的に売れていたマークII3兄弟に果敢に挑んだクルマ。ニューネームで登場するにあたり、キャッチーなコピーやCMを掲げ、フリーチョイスを導入する等、アッパーミドルサルーンの新たな価値観を示しました。
登場時は大きな話題となり、販売台数も伸びたものの、やがて台数は降下。後続となったC33ローレルやR32スカイラインに話題が移ったこと、根強い支えとなるはずの歴代ユーザーを抱えていなかったことがその理由と思っています。
そんな経緯から、ローレルとスカイラインと袂を分かち、新たにマキシマと関係を結ぶに至った結果が今回の2代目となります。
初代は後年になり、ドリフトブームが沸騰する時代背景の中、改造のベースとして再びの脚光を浴び、最後の一華を咲かせながら消費されていくこととなるのですが、ここではあまり触れずということで。
何かと話題となった初代から比べると、2代目は地味な印象となるのかもしれません。しかしながら、私個人としてはセフィーロは、初代のキャラクターに賛同はするものの、その真髄は2代目にあると思っていまして。90年代のミドルサルーンという枠でも高評価の筆頭格。理由は後述。
前置きが長くなりました。
それでは、A32セフィーロ、その中から特別仕様車2種を紹介していきます。
【デュアルセレクションII】
(発売日)
・1996/5/22
(ボディカラー)
・ディープブルーパール
・プラチナシルバー
・ダークグレーパール
・プラチナホワイトパール
(ベースグレード)
・25エクシモ E-AT
・20エクシモ E-AT/5MT
(特別装備)
・本革巻ステアリング&シフトノブ
・マルチリモートエントリーシステム
・電磁式トランク&フューエルフィラーリッドオープナー
・セフィーロスーパーサウンドシステムCDセレクション(25のみ)
・専用ブラウン内装色
・エレガントツィード地シート(25は標準、20のみ特別装備)
・ゴールドグレードエンブレム
・助手席SRSエアバッグシステム
・ABS
キャビン部分をマキシマと共用しつつ、フロント&リヤセクションを別に仕立てるというのがセフィーロの成り立ちでした。
あっさりとした印象が先行するマキシマに対して、国内ユーザーを主と想定したセフィーロは、このクラスに求められる豪華さを意識した造形となっています。

参考:1995 MAXIMA
ボディサイズは、全長4,760mm×全幅1,770mm×全高1,410mm。
5ナンバーの制約を超えたサイズは、当時とても大きく感じたものです。その分、デザインで大きく見せようとしてはしていませんでした。
当時のアッパーミドルサルーンのサイズも、今ではDセグメントとCセグメントの中間くらい。日本で使い勝手の制約を受けない最大限と個人的に思うサイズはこの辺りだったりもします。
この画像の両者は、共にオプションのシルバーポリッシュアルミ&205/65R15タイヤを装着しています(標準はスチール&195/65R15タイヤ)。標準仕様のフルキャップは、あまり豪華さを感じさせないデザインでしたが、この仕様だと華やいだ印象に一変。当時からこのホイールはいいなと思っていました。
デュアルセレクションIIの特徴にブラウン色のインテリアがありました。標準仕様のインテリアカラーは、グレーとオフブラックの2色。共にモノトーンの設定の中でこの特別色は、インテリアの印象を大きく変える効果がありました。
80年代だとこれにブロンズガラスの採用となるのでしょうが、既にこの時期にはグリーンガラスへの統一が進んでいたため、変更はされていません。
このサイズのFFサルーンですから、キャビンサイズはゆとりあるものでした。幅方向は5ナンバーミドルサルーンより明らかに広いですし、同世代のハードトップにありがちな後席の頭上空間に皺寄せなんてこともありません。
この時期の特徴にコストダウンの嵐が吹き荒れていたことが挙げられます。このセフィーロも影響は受けている筈ですが、アッパーミドルサルーンという成り立ちもあってか、見た目から明らかに、という類とはなっていないように思います。
確かにバブル期の豪華絢爛さは見受けられませんが、飾り立て過ぎない素の良さが伝わってくるような。シート地もツィードながら柄を目立たせてもいませんし。
リヤトランクはバンパーレベルから開き、トランクスペースももちろん広大。正しく真っ当なセダンの成り立ち。でも、当時はその真っ当なセダンが本当に少なかったのです。
左頁には特別装備として2つの安全装備の追加が謳われています。
一つはABSで、もう一つは助手席エアバッグです。
標準車は、運転席エアバッグのみ標準にして登場しました。それでもライバル車に先行しての標準であり、商品力としては大きなアドバンテージがありました。マークII3兄弟はセフィーロに影響され、急遽運転席エアバッグを加えた特別仕様車を登場させたりもしています。
運転席エアバッグの普及が進んだ次の段階がこれらの装備でした。
ただ、助手席エアバッグは、ステアリング内蔵と出来る運転席とは異なり、当初から想定が無いとインパネの大改造が必須となるため、簡単には採用できず。セフィーロはこの種の装備が先行して求められた北米輸出があったため、幸いした形でした。
右頁上段はその他特別装備の紹介です。
セフィーロは当初、CDをチェンジャーで対応させる仕様だったため、デッキ組込のCDはオプションとされていました。
デジタル表示のエアコンやマルチリモートエントリーは、当時流の新時代を感じさせる装備でした。この辺りがあると旧車よりも近代車の感が強くなる気もします。
右頁下段はメカニズムの紹介です。
セフィーロが好評だった要因の一つにVQエンジンの良さが認められたことがあると認識しています。VQは、マルチシリンダーならではのスムーズさ、音の良さを体感できる名機だったと思うのです。VQ20DEが出たことで、それまでの1G-FEはもう一段のパワーアップを主とした更なる進化を迫られることになります。また、この後に出るトヨタのV6、MZ・GRは共にVQを意識したエンジンじゃないのかなとも。
リヤサスは、この時期日産が盛んに宣伝したマルチリンクビーム式を採用していました。

表紙と裏表紙の諸元表等です。
表紙は当時CMに登場されていた方々。四半世紀前ですからお若いですよね。
スペックは表のとおりですが、今視点だと想像以上の軽量さに驚かされます。2.5でも1350kgですからね。81はもちろん、90マークIIよりもさらに軽い車重です。FFの利点の一つに、作り方次第でFRよりも軽量にできることが挙げられますが、その利点を生かしていたのですね。
続いてはマイナーチェンジを挟んだ末期に登場したブラウンセレクションです。
【ブラウンセレクション】
(発売日)
・1998/1/21
(ボディカラー)
・プラチナシルバー
・プラチナホワイトパール
・ホワイトパールツートーン
(ベースグレード)
・25エクシモ E-AT
・20エクシモ E-AT
(特別装備)
・本革巻ステアリング&シフトノブ
・ファインビジョンメーター(25は標準、20のみ特別装備)
・専用ブラウン内装色
・運転席パワーシート(ヒーター付)(25のみ)
・専用グリル
・シルバーポリッシュアルミロードホイール&205/65R15タイヤ
デュアルセレクションIIの売りだった安全装備は、時代が進み標準化されましたので、仕様は近いながらもブラウン内装をアピールしています。
25エクシモ ブラウンセレクション(ホワイトパールツートーン)
マイナーチェンジに伴い、マルチリフレクターヘッドランプの採用やバンパー形状が手直しされたことで豪華を増す方向に進みました。
私感ですがマイナーチェンジとしては成功していると思います。前期のシンプルさも、後期の豪華さも共にいいと言えるような。
標準車は、マイナー後も形状自体は変えつつも横基調のフロントグリルを継続しましたが、この特別仕様では一転して縦基調のフロントグリルを採用。特別色のホワイトツートーン共々特別感の演出に役立てています。
このグリル、セフィーロがインフィニティI30として輸出される際のデザインの流用(ただしエンブレムはインフィニティマークからニッサンマークに変更)ではあったり。

参考:1998(?) infinity I30t
内装も、木目調パネルやドアトリムの布部分が増やされたことで、マイナー前よりも豪華な印象となっています。
ファインビジョンメーターの採用、ステアリングやカップホルダーの変更も意外と効いています。
華美というか派手になったというかのシート地だけは、マイナー前の方がいいかも、ですけれど。
20エクシモ ブラウンセレクション(プラチナシルバー)
リヤもテールレンズやガーニッシュが変更されています。マイナー前は車格の割にスッキリかな、でしたが、車格相応になったような。
ホイールカバーもデザイン変更。一見アルミ風に見えるデザインですが、やはりポリッシュ仕立ての純正アルミに一票です。
デュアルセレクションIIでは、20のシート地を25のシート地に合わせる特別仕様が含まれていましたが、ブラウンセレクションではシート地は標準車に準じて分けられています。
実物を見ると印象も変わるかもですが、画像で見る限りでは20のシート地のシンプル風味に一票だったりです。
諸元表等です。
ブラウンセレクションでは、20もATのみとされています。
上で取り上げた車重は、20kgの増加。安全装備の追加あるいはボディ補強辺りが要因でしょうか。
ボディカラーはホワイトorシルバー系のみとされていました。この内装色なら、デュアルセレクションIIでは選べたダークブルーや標準車では選べたブラックも
似合っていたのではと思えるのですけれどね。
といったところでいかがだったでしょうか。
それでは、いつもの私的考察を。
最初にセフィーロとマキシマの融合が発表された時、私は違和感の方が強くありました。共通項といえば、登場時期が近かった同じ販売系列(セフィーロのみサニー店の扱いもあり)のセダンというぐらいで、コンセプト・メカニズム・セグメント・ターゲットユーザー等、異なる点の方が圧倒的に多い関係だったからです。
しかしながら、いざ融合させてみると、この判断はいい結果をもたらしたのではないかと思うようになりました。
メカニズムの元は初代マキシマで、ワールドワイドを想定した極めて真っ当な成り立ちながらも、それが故に日本市場では受け入れられたとは言い難いクルマ。
そこにセフィーロのマーケティング・セグメントが入り込むことで、解り易さ・親しみ易さが加わることに。
この兄弟関係は、キャビン部分を共用していると先に書きました。
そのことは恐らく、日産の経営が傾きつつあったことが影響しているのだろうと推測しています。当時の日本市場を考慮すれば、ハードトップに作り変えてしまう、という判断があっても不思議ではなかったからです。その方が売り易くもあったはずであり。
一方でプラットフォームはキャリーオーバーしつつも、エンジンはVQを新開発して、リヤサスも変更。
こうして出来上がったのは、このセグメントとして納得できる、極めて真っ当なセダンでした。私が高く評価する最大の理由です。
当時の日本のセダンがどうなっていたかを書いてしまうと。
80年代に輝いて映った、ミドルサイズ以下のセダンは、時代なりの進化もあるものの、主眼はコストダウンにありました。モデルチェンジの度に、この装備が無くなった、この仕様が落とされたと落胆し、前の方が良かったと思わされたクルマ達。
アッパーミドル以上のセダンは、3ナンバーサイズという新たな訴求力を得たものの、スタイリング優先のハードトップばかりが乱立し、本流であるはずのセダンは隅に追いやられるか、クルマによっては廃止されていて。
セダンというボディ形状自体、ワゴン・ミニバン・SUV(当時はまとめてRVで括られていましたね)に主役の座を追われつつもありました。
そういった時代の中で登場したセフィーロの真っ当さ、上品さというのは、高く評価しなければいけなかったと思うのです。こうした点を見抜いた人は相当数いたようで、傾く一方だった当時の日産を地味ながらも支える一台ではありました。市場の評価も結構高かったですし。
私はこのクルマが登場した時期には、まだ81に夢中で、このクルマの真価は見抜けず見過ごしていました。後年になって、みん友さんが数台買われ、その内の何台かに乗る度、このクルマは良かったんだなと思うようになったというのが、実態ではあります。
そこから、さらに10年以上の時を経て。
今の日本のセダン市場は、当時よりもはるかに冷え込んだ状態となりました。
それでも、やっていることは当時とあまり変わらないんですね。
この国での使い勝手を無視したとしか思えない巨大なサイズのセダン。スポーティをお題目にスタイリングを優先し、後席はおまけとしか思えないようなセダン。そんなセダンばかりが続いていて。真っ当なセダンで思い浮かぶのは何台あるのやら…。それでも、残ればいい方でモデル廃止に追い込まれたクルマが幾重にも連なっていて。当の日産も、セフィーロの末裔であるティアナを後継車無しに廃止するという判断を下したばかりです。
今回改めてこのセフィーロを振り返って見て、懐かしさを感じると共に、現代流の解釈で再来を望む、そんな思いを抱かずにはいられませんでした。
当時、売れたクルマであり、憧れた方も多かったのかな、なんて想像しています。冒頭に書いたとおり、このクルマもその出来栄えや意義の割に、注目される機会は少ないように感じます。このブログで懐かしく感じていただければ幸いです。
【MAXIMA及びinfinity I30tの画像の引用元】
・FavCars.com