
前回に続いて、クラウンディーゼルのお話です。
メインとなる110系の話に入る前に、当時の世相の話を少し。
前回、ディーゼル乗用車が開発された背景にはオイルショックがあったと書いています。実は1979年(昭和54年)にもオイルショックは起こり、ガソリンの価格は更なる高騰化をしています。
それなら、尚更ディーゼル乗用車への追い風になったのかというと、実は真逆でこのオイルショックにより、一番影響を受けたのがディーゼル乗用車でした。
軽油の供給量が減らされたことから、産業用での利用が優先ということとなり、ディーゼル乗用車への給油については、給油を断る・給油量を制限するというスタンドが続出したのです。
この傾向が一番顕著だったのが、同年の夏頃。
前回書いた、クラウンとセドリックの比較試乗は、まさにその時期で、レポートの最後にそんな実状が書かれていました。おぼろげな記憶では、ガス欠の恐怖におびえつつで何とかなったor予備タンクを積んでいった、という内容だったかと思います。
そんな状況は長く続いたわけではなく、再現がそうそうあるとも思えないのですが、関係しそうな方はそんなことがあったという話は頭の片隅に置いておいてもいいかなとは思うところです。
それでは、本題に入っていきます。
○1979年9月18日 モデルチェンジ
途中に排ガス規制を挟んだこともあり、当時の主流よりも長い4年11か月ぶりにモデルチェンジが行われました。
ガソリン仕様では、それまでの2600に替わって設定された2800が話題となります。ディーゼルはL型が継続採用されています。このモデルチェンジではディーゼル乗用車への逆風に影響されることはなく、従前のセダンに加えて新たに4ドアハードトップとワゴンにも設定されることになりました。
セダンのバリエーションです。
スーパーデラックス、デラックス、デラックスA、スタンダードという構成は不変。
肝となるフレームは、3代目の50系で一新されたものが継続使用されていますし、スタリングも先代の好評を受けて、デザイン基調は先代のイメージを強く残しています。先代における中期から後期へのマイナーチェンジは、ヘッドライトの脇に配されたクリアランスランプやテールランプの配置等、上手くこのデザインに繋げた印象を受けます。
ハードトップでは先代の末期に追加された、カスタムエディションにディーゼルを追加。ディーゼル=実用といったそれまでの既成概念から外れ、新たな魅力を訴求しています。
この代以降、ハードトップはセダンとはデザインを変えることでオーナー&パーソナルユースに浸透していきますから、ハードトップにもディーゼルが必要と判断されたのでしょう。
フロアシフトのみ独自のインパネを持っていたハードトップも、この代ではインパネをセダンと共用。ガソリン仕様はタコメーターを備えることで差別化が図られていますが、ディーゼルはタコメーターを備えないため、セダンと共通のメーターとなります。
このカスタムエディション ディーゼル、実車はあまり見かけた記憶がありませんが、ワインレッドの広報車が「太陽にほえろ!」で何回か登場しています。(同一車がこれまた月刊自家用車誌への掲載もあり)
ディーゼルはワゴンにも搭載されることになりました。
というか、110の登場時点ではワゴンは、このディーゼルのみ。
当時のワゴンは個人事業主が買われるケースが多かったそうで、走行距離を伸ばされる=経済性が重要という判断だったのだろうと推測。この前年には、メルセデスが123のワゴンを5気筒ディーゼルのみで導入していますから、その影響も受けているのかなとは。
もっとも軽油の供給状況への配慮もあってか、ワゴンのガソリン仕様が1980年(昭和55年)1月に追加されています。
主要装備一覧と諸元表です。
ミッションは、デラックスからコラムMTが落とされ、新たにコラムATが選択可能となりました。ワゴンにもコラムATがあっても良かったように思いますが、ハードトップ共々、フロアシフトに限られていました。
クラウンは、このモデルチェンジ以降、殆どがATで選ばれるようになり、話題となりますが、ディーゼルの設定もそれに寄与した形ですね。
こうして選択肢を広げたクラウンディーゼルは、セドリックディーゼルを圧倒するかと思いきや、翌月に登場した新型ディーゼルにクラウンは、一転して不利な戦いを強いられることになります。
○1979年10月31日 セドリック/グロリア 6気筒ディーゼルを新発売
こちらは一気に掲載してしまいます。
セダンの画像は登場時、中段左はMT追加時、中段右はマイナー後
下段左はマイナー後のスペック表、下段右はLD28の紹介部分の抜粋となります。
(LD28のみセドリック、その他はグロリアのカタログから)
日産は、ガソリンのL型をベースにした日本初の6気筒ディーゼルを開発し、セドリック/グロリアに搭載します。新たに開発されたLD28型は、クラウンディーゼル同様にSOHC機構やコッグドベルト駆動等を採用。ここまでは同じですが、クラウンの4気筒2200に対して、こちらは6気筒2800。スペックにしても、最高出力は91ps/4600rpm、最大トルクは17.3kg-m/2400rpmですから、いくら経済性重視のディーゼルと言えども、結果は明白。クラウンのみの4速ATを以てしても、覆すには至らずだったと言えます。
このエンジンをクラウンと足並みを揃えるかのように、セダンに加えてハードトップとワゴンにも設定。新たにVシリーズと名付けられ、クラウンと激突することになります。
当初は同時に発表されたターボとは対照的に、フロアATのみの設定でしたが翌年2月にはMTも追加され、クラウン以上のバリエーション展開となります。
このVシリーズ、軽油の供給状況の好転も重なってか、結構見かけたように記憶しています。先に書いたそろばん塾の旦那様の他にも、中学校の体育の先生が前期セダンのVL-6 フロアATに乗られていたことを思い出します。
このVL-6、磨かれたワインレッドのボディカラーに非常時用の青色回転灯をリヤのパーセルトレイに乗せた姿は、どうしても当時の刑事ドラマを連想させずにはいられない装い。ご当人は職業柄、とてもがっしりとした風体でありまして、できれば近づきたくないオーラが漂っておりました。
電車通勤には不便な地ということで、遠距離通勤の先生はディーゼルを選択される方も多かったのです。
さて話をクラウンに戻します。
ターボ追加時にディーゼルも一部改良を受けていますが、掲載しても間違い探しの域となりますので、ここでは略とします。
○1981年8月20日 マイナーチェンジ
2年という当時の平均的なインターバルでマイナーチェンジが行われました。
ガソリン車は、2800ツインカム6の5M-GEU、2000の1G-EUが新たに搭載されて話題となりますが、ディーゼルはまだL型の継続でした。
この代でクラウンの販売のメインは、セダンから4ドアハードトップに転移。
掲載順もそれに合わせた形ですね。
4ドアハードトップは従前のカスタムエディションに加えて、新たにスーパーエディションが追加。セダンではスーパーデラックス相当となるグレードです。
ハードトップは、ディーゼルでもタコメーターが付くようになりました。
セダンも更なる上級グレード、スーパーサルーンが追加されています。
デラックスが最上級で、スーパーデラックス・スーパーサルーン順で上位が追加される形は、ガソリン仕様と重なるものがあります。
フォーマルを意識させられる装いながらも、この時点では唯一、4輪ディスクブレーキを備える仕様でもありました。
セダンとハードトップは上位のバリエーションが増えましたが、ワゴンは従前どおり、デラックス相当のカスタムのみとなります。ガソリンにはスーパーカスタムが追加されていますので、ディーゼルに加えてもよかったのかもしれません。もっとも、後年と違い、ワゴンは販売台数がはるかに少なかったですから、バリエーション拡充には慎重だったのでしょうね。
その他のバリエーションです。
本カタログに掲載されたガソリン仕様の画像と比較すると、カスタムエディションはタイヤの関係でホイールキャップが異なり、スーパーデラックスとデラックスはミッションの関係で別の画像が掲載されています。
何故かタクシー需要が多そうなデラックスAが落とされていますね。
主要装備一覧と諸元表です。
今回見返して気付いたのですが、スーパーエディションとスーパーサルーンはATのみだったのですね。ATが殆どで売れていたとはいえ、ガソリンはMTの設定もあっただけに意外な発見でした。
○1982年8月20日 ターボディーゼルを追加
LD28への対抗は諦めたのかなと半ば思っていたところ、マークII3兄弟のマイナーチェンジに合わせる形で大きな進化がありました。
5Mベースの6気筒ディーゼルかなという事前予想もしたのですが、トヨタの回答はL型をベースに2400への排気量アップとターボを加えるというものでした。ガソリン車ではターボに消極的な印象でしたので、その選択は意外でもあり。
2400への排気量アップは、LD28への対抗に加えて、2年先行していた三菱のディーゼルターボ、4D55型への対抗も意識していたのだろうと推測。
クラウンに限れば三菱はライバル関係にないとなりますが、マークII、ワンボックスワゴン、商業車と搭載車の範囲を拡げれば、競合関係となることは確実だったのです。
2L-T型の最高出力は96ps/4000rpm、最大トルクは19.5kg-m/2400rpm。4D55は同95ps/4200rpm、18.5kg-m/3000rpmですから、スペック上はライバル車に勝る数値を手に入れたことになります。
久方ぶりの新エンジンとなりますので、メカニズムの頁も掲載してみます。
M型のターボは、ギャレット・エアリサーチ製でしたが、2L型ではトヨタ内製としています。
またAT車限定となりますが、エンジン制御に入り込み始めていた電子制御を取り入れ、世界初の電子制御ディーゼルを謳っています。世界初はセラミックファイバー合金の採用も。セラミックは、この頃聞き始めた言葉であり、その採用で夢が広がる素材でもありました。
4輪ディスクの説明で”セダン スーパーサルーンには・・・”とあります。ターボディーゼルの追加に伴う更新を失念した記載ですね。
前年の画像の修正を推測させる構図ですが、新たな最上級となる、ターボディーゼル 4ドアハードトップ スーパーサルーン・エクストラの画像となります。それにしても何とも長い名前で(笑)
当時の5ナンバーの最上級ということで、名実共にディーゼルがガソリンに追い付いたと言えるかと思います。セドリック/グロリアは、VシリーズでSGLエクストラ相当のVX-6が設定されていましたから、そちらにも追い付いたと言えます。
この白のハードトップは、同じ仕様が「太陽にほえろ!」でそれまでの前期スーパーサルーンターボに替わる形で登場。「え、ディーゼルターボなの」と驚かされたものです。”白いクラウン”という意向が働いているのだろうという推測が確信に変わったのもこの登場から。
ノンターボのスーパーサルーンと入れ替わる形で、セダンにもスーパーサルーン・エクストラが設定されました。ターボディーゼルでは、セダンにもタコメーターが標準となりました。
ガソリンターボも同様の設定(ただし、後期ハードトップのみデジタルメーター)でしたので、そちらと同じと見るか、前期のディーゼルと逆と見るか、どちらにせよ興味深い点かと思います。
ワゴンにはターボディーゼルの追加は見送られています。
カスタムだと、バンディーゼル デラックスとはあまり大きな違いとはなりませんでしたので、ターボディーゼル スーパーカスタムは戦略としてアリだった気もします。
ワゴンに力が入るのは、それまでの”カスタム”に替わって”ステーション ワゴン"を謳った次世代からで、これは明らかに今泉主査の思いの反映ですね。(クラウンワゴンに関する話は
こちら)
その他のバリエーション一覧です。
先述の通り、スーパーサルーンとスーパーエディションのノンターボが落とされています。スーパーデラックスの画像は、ターボディーゼルに替えられたため、フロアATのものとなっています。こちらもタコメーター付。
主要装備一覧と諸元表です。
前年度の上級グレードがATのみ、またガソリンターボもATのみでしたので、ターボディーゼルも踏襲と思いきや、MTの設定もあったのです。ほぼ同時期に追加されたマークII/チェイサーではATのみだったことからしても、意外な設定ではありました。これまた、私の中の不思議の一つです。
これを以て、クラウンディーゼルはほぼ完成形。
以降は両車とも、このバリエーションを基本形にしつつで、モデルチェンジを重ねることになります。120のディーゼルのカタログも初期型のみあるのですが、発掘に時間がかかりそうなことと、ワゴンのターボディーゼルが増えるくらいですので、今回は略といたします。
このディーゼルターボ、ハードトップの特別仕様車エクレールに一度乗せて貰ったことがあります。ディーゼルの音は、以前に乗ったタクシーとあまり変わらずの印象でしたが、ATにも関わらず、タービンノイズを伴って軽快に加速する点は、ノンターボとは大きく違っていました。
もっとも、一番印象に残ったのは、柔らかいとしか言いようがない、とてもふんわりとした乗り心地ですけれど。車重の重さも作用した柔らかな乗り味は、カローラはもちろんマークIIとも異なる、クラウンならではの感覚ではありました。
また、セドリック/グロリアとの関係もこれで一段落。
6気筒の静粛性vsターボディーゼルのパワーをお互いに主張する形が最後まで続くことになります。ガソリンは結構ガチな対決が続きましたので、ディーゼルのこの構図は対照的でもありました。
惜しむらくは、LD28あるいはRD28にターボの設定がされなかったことで、検討はされていただけに、何とも惜しく感じます。もし実現していたら、クラウンが2L-Tのままだったとは考えにくく、その点でも残念に思えてなりません。2JZベースのディーゼルターボとか、つい想像してしまいます。
視点を少し広げると、乗用車用のRD28を持ちつつ、RVや商業車ではTDシリーズも持たざるを得なかった日産に対して、L型とその発展形のみで両者に対抗したトヨタは強かだった感もあります。(後年はKZも並行していますけれどね)
そのことが、ディーゼルの展望への疑問に基づいたものだとしたら、尚更で。結局ディーゼル規制により、発展を拒まれる形となっていますからね。
またまた視点を変えてみます。
近年のトヨタのハイブリッドは、ガソリン車との関係において、高価だが燃費がいいという点から、ディーゼル的位置付けであることを感じています。
減税等による後押しも大きいのですけれど、ハイブリッドがガソリン車に替わって主流になりつつあることは、ディーゼルが中々比率を伸ばせなかったことからすれば、隔世の感を感じずにはいられません。最近見かけた雑誌には、クラウンは販売台数の少ないターボのバリエーションを限定するという記事がありまして、ついに逆転かという思いも抱きました。
2回に渡って書いたクラウンディーゼルの創成期の歴史は、改めて見返すことでいろいろ感じられることがありました。クラウンの世界観の中で何とか定着させようという努力がその最大です。その努力が、長い時間をかけてクラウンハイブリッドに結実したというのは、考え過ぎでしょうか。
そして、その考えが見当外れでないと仮定するなら、ひたすらスポーティを求める今のクラウンの姿は、やはり道を誤ってはいないか、そんな疑念も改めて持ったのが、今回の特集となります。