
前回、パジェロの初期型を取り上げた際に、「ミリタリタイプの4駆の「乗用車化」はピックアップ系が最初」というコメントをいただきまして、それならそのピックアップ系の創成期を纏めつつで取り上げてみようと思い立ちました。
このピックアップ系、当時のムーヴメントの中心、そして近年再販されたということからしても、取り上げるべきはハイラックス4WDだろうということで。
もっとも、日本におけるピックアップ系の4WDの歴史を遡ると、始祖は意外やいすゞだったりします。
北米におけるライトトラック市場というのは、日本車の輸出初期から開拓されたものであり、1970年代半ばにおいては乗用車以上に台数が捌けるドル箱となっていました。当時、トヨタ・日産・マツダと共にいすゞもフローリアンと前半分を共用したファスターを送り込み、また兄弟車としてシボレーLUV名でも輸出していました。
このLUVに4WDが設定されたのが1979年。輸出仕様と言えども、その売れ方共々、当時結構な話題だった筈で、日本の自動車雑誌にもこの4WDが誌面に登場していたりします。
輸出はガソリン仕様だったものの、ディーゼル仕様への変更もあり、国内仕様の登場には時間を要しています。加えてファスターはモデル末期だった(翌1980年に次世代モデルが登場)ということで、結局いすゞは先行者の利益を少なくとも国内では得られることはできませんでした。
もちろん、他社がその売れ行きを傍観するはずもなくて、直ぐに追随。
2番手はトヨタで前年に登場したハイラックスのショートボディに、2000ガソリン(18R-J)を搭載した4WDを1979年10月に追加しています。
3番手は日産でダットサンのロングボディ、こちらはシングルキャブとダブルキャブに1800ガソリン(L18)を搭載した4WDを1980年4月に追加。1980年10月には三菱がフォルテに2000ガソリン(4G52)を搭載した4WDを追加しています。このフォルテがパジェロ・デリカに発展したというのは、前回のコメントでいただいた内容ですね。
こうして俄かに活気づいた、ピックアップ4WD。もちろんその多くを売るのは海外、特に北米となりますが、国内でも作業用に留まらずレジャー用としても売れるようになります。ワンボックスワゴン・クロカン4駆と共に第一次のRVブームを形成するわけです。
国内にも商機があるとみたトヨタは、ハイラックス4WDを他車よりもいち早くマイナーチェンジしバリエーションを一気に拡大。以降、ピックアップ4WDの中心的存在となるのです。
ということで、今回はハイラックス4WDの最初のマイナーチェンジモデルを話の主役にしてみます。取り上げるカタログは、マイナーチェンジ当初となる1981年10月に発行されたものとなります。
登場時点では、左側のガソリンのショートボディのみでしたが、このマイナーチェンジを機にディーゼルの3ボディ(ショート・ロング・ダブルキャブ)を追加しています。
同時に丸目2灯から角目2灯に変更。この種の変更は、角目になって精悍になったというのがアピールのお約束でもありました。もっとも私の今視点だと、丸目の方が似合っているように思います。
同時にイメージカラーもオレンジからイエローに変更。ブラックアウトされたディテール各所とのマッチングはこちらの方が良いかもしれませんね。
日本車は、前年のターボブームやこの年の初めに登場したソアラを契機として、出力競争の道を再び走り始めます。そんな状況にも関わらず、スピードという魔力から離れ、クルマを使って遊ぶことを提唱している点は興味深いところです。絶対的な速さを追わない点では、むしろ現在的と言えるかもしれません。
レジャーユースが前面という点では、同時期のワンボックスワゴンにも通ずるものがありますね。もちろんレジャーだけではなくワーキングビークルとして使われることも多かった筈ですけれど。
新たに追加となったダブルキャブです。
キャブ部分を共用していた一クラス上のスタウトには先に設定があって、ハイラックスに転用された形です。
追加されたリヤドアは、フロントドアのオープニングラインと合っていませんが、これは恐らく左右でパネルを共用したため。次世代以降は、改善される部分です。
スタウト関連でもう少し書くと、ハイラックスを名乗っていますが、シャシーはどうやらスタウトの系譜が近かったりします。ハイラックス4WDのみ、フロントリーフあるいは2WD比で横方向にも広がっている理由はその辺りかと。他車も2WDをベースに地上高を稼ぐため車高を上げる変更は行っていますが、横方向はほぼ変わらずだったりするのと対照的です。
ライバル車よりも、リフトアップ量が多く大径のタイヤを履いていたハイラックスですが、当時としてはかなりワイドな215サイズのタイヤを得たことで、下半身の安定感は随一となりました。このサイズが収められたのも、スタウト由来のワイドフェンダーが功を奏した形です。
続いては当初からあるショートボディ。
もっとも排ガス規制の関係からか、形式名はRN36からRN39に変更されています。エンジンの形式名は、18R-Jで変わらず。
ガソリンの2000は、スタウトやダイナ等にはOHVの5R、乗用車系には21Rが搭載されていましたが、ハイエース共々18Rが選択されています。ハイラックスと18Rの組合せは、この前の代にも2WDのハイウェイシリーズがありました。
ショートボディは、ロングボディよりもホイールベースは215mm、リヤデッキは385mm短くなります。全長の-350mmと合わないため調べてみたところ、ショートボディの4WDのみ、フロントバンパーにフィラーを追加して前出ししていたようです。
この世代のシングルキャブは、荷室長の確保を優先したショートキャビンとシート後方の空間を少し増やしたキャビンの両方があり、2WDではスーパーデラックスのみ後者が設定されていました。4WDはデッキ長に関係なく後者となっています。
キャビンと言えば、シングルとダブルの中間にあたるエクストラキャブは、当時ダットサンに設定があったものの、ハイラックスへの設定は90年代末まで見送られています。使い勝手の良さそうな仕様なのですが、現行もダブルキャブということで、あまり需要はなかったのでしょうね。
マイナーチェンジでは、サイドステップの標準化と共に、SRパッケージのみが選択可能な215Rタイヤ&ホワイトスポーツホイールとリヤステップバンパーのオプション設定が追加されています。
前者はランクルに続いての設定となりますが、これらを付けることで一気に働く車感が減りますね。
水辺に乗り入れた画像は、機動力の訴求も兼ねてのものと見受けますが、環境問題が厳しくなった現在では使われなくなりました。
新たに搭載されたディーゼルエンジンは、少し前にクラウンで取り上げた2.2LのL型です。2WDには一足早く1979年12月に搭載車が追加されていました。ランクルが3.2Lの2B型を搭載していたことからすると、3LのB型を積む選択もアリだった気がするのですけれど、静粛性等を優先したのかなと推測。積載も含めるとパワー不足は否めなかったようで、次世代では2.4Lの2L型に、その次の世代では2.8Lの3L型へと拡大されていきます。
トランスファーは、前回のパジェロ同様、Nを挟んで、L4とH4・H2が振り分けられていました。ミッションは、ガソリンが4速で、ディーゼルは5速。
サスペンションは、先に書いた通りフロント・リヤ共にリーフリジッドを採用。独立式より乗り心地やハンドルの切れ角では不利になりますが、悪路の走破性や堅牢性では勝ります。ハイラックスの特徴として受け入れられた面はあったのでしょう。サーフは比較的早期にフロント独立式に転じますが、ピックアップはこのレイアウトが長く続いています。
まだこの時代には、パワーステアリングの設定はありませんでした。
特にノーマルの7インチ幅(≒175mm)より40mm幅が広がった215Rタイヤでは、据え切り等では相応の腕力を必要としたでしょうね。
当時の4WDのカタログではお約束だったアンダーボディの画像。前回のパジェロと比べてみると、配置の違いも含めて興味深い点がありそうです。
マイナーチェンジ前のメーター配置は、インパネクラスター内にスピードと燃料&水温で、SRパッケージは時計をインパネに、シフトレバーの前には油圧計と電流計という配置でした。
タコメーターがSRパッケージに追加されたことに伴い、電流計が電圧計に替わり、油圧計に替わって時計がシフトレバーの前に配されることになりました。
ガソリンとディーゼルでクラスター内の配置が異なるのも興味深い所。輸出仕様の18Rにはハンドル位置に関係なく、ディーゼルの配置もあったようです。
ブラウンのインテリアカラーは、ベージュのボディカラーのみの組合せで、イエローとホワイトのボディカラーには、ブラックのインテリアカラーが設定されていました。
後年と比べるとはるかにシンプルなインパネ。エアコンは助手席足元の吊り下げではなく組込み式となるものの、温度調節は独立。オーディオもDINサイズ以前の規格ということで、この辺りは時代を感じさせる部分ですね。
フリーホイールハブの設定はあったものの、マニュアルのみでした。
左頁はバリエーションの紹介です。
ダブルキャブとロングボディのインテリアがSRパッケージ付きで、ショートボディが標準仕様。レジャービークルとワーキングビークルの境目と見ていいと思います。ランクル40には、Lパッケージ以上に布張りシートが設定されるようになっていましたが、こちらはSRパッケージでもビニールレザーのままでした。この種だと使い方次第で、どちらがいいとは簡単に言えない部分ですが。
右頁にはオプション品の紹介、装備一覧表、主要諸元が並んでいます。
レタードテールゲートは、特に海外でTOYOTAの知名度を上げた装備になります。あまりに印象に残るそのデザインは、台数の多さと相まって海の向こうのトヨタがトラックメーカーと誤認されることにも繋がってしまいました。高級車を展開するにあたり、レクサスブランドを新たに立ち上げた要因の一つですね。
4ナンバーの枠内ということで、ロングでも全長4,690mm、全幅1,690mmに収まっています。現行ハイラックスは、全長5,340mm、全幅1,855mmですから、そのサイズ差には隔世の感があります。
ところが、ダブルキャブ同士で荷台のサイズを比べると、現行の1,520mm×1,535mmに対して、当時は1,535mm×1,430mmと、あまり違いはなかったりします。最大積載量も500kgで変わりませんし。
純粋なスペース以外の部分で、ボディサイズが膨らんでいる。今に至る傾向は、ここにも表れているということでしょうね。
4WDのディーゼルということで重量級かなと思ったら、ダブルキャブでも1,450kgと意外とクラウン並みの軽量でした。装備もシンプルですからね。現行型は2,100kg前後ということで、1.5倍の重さに増えています。
裏表紙には、第3回パリ=ダカールラリーの完走とアメリカでインポート・4WD・オブ・ザ・イヤーを受賞したことが書かれています。
前者は、バブル期辺りから知名度が上がり、メーカーが本腰を入れて参戦するようになりますが、当時はまだ初期で、ワークスではなくプライベーターじゃないのかなと推測。砂漠の10,000kmに及ぶラリーですから完走だけでも立派なものではあります。この次の回では、登場直後の3代目カリーナ1500が2WDながらも完走して同じくカタログを飾ることになります。
後者はランクル共々の受賞のようですね。
といったところでいかがだったでしょうか。
2WDの時には、どうしても働く車としてだけ認知されがちだったこの種のトラックも、4WDの機動力と組み合わされることで、注目を集めることとなりました。自家用としても認知されるようになっていくのです。
もっとも、雨大国の日本においてむき出しのリヤデッキというのは、利便性の反面、どうしても積載可能なものが限られる面があって、初期にはキャノピーの積載が見られ、やがてはバン形状に変更されたサーフが、販売の多数を占めるようになっていきます。
それでも、この種のボディを必要とされる方は少なからず存在するのでしょう。サーフと並行してピックアップは21世紀初頭まで展開されますし、一時期は国内での販売が途絶えるものの、2017年にタイからの輸入車として復活を果たしています。
当時の新車価格は、最安のショートボディで約110万円、ダブルキャブが約140万円でした。SRパッケージを加えても、パジェロよりはお安めの設定だったのです。商業車ということで税金も安く、人気を集めた理由の一つですね。
そこからすると、現行の350万円スタートというのは、先に書いたボディサイズ共々だいぶ手が届きにくくなった感は否めません。もちろん、当時よりはるかに豪華で安全、環境にも配慮となるのですが。お値段だけなら、1ナンバーですし、ガソリン2.7Lの2TR-FEを搭載すれば、もう少しお安くなる気もするのですが、今の台数だとそんな望みは酷なのでしょうね。
安全や環境等の法規制の影響もあって、登場後は濃厚長大の一辺倒で、いい意味でのお手軽さは段々失われていったと言えると思います。
それでもハイラックスというのは、時代を超えて若者にとって新鮮な存在に映るらしく、現行型も想定以上に若者が買っているようです。その点は当時と変わらないという見方もできるかと思います。
40年という決して短くはない時間を隔てた両者は、何が変わり、そして共通するものは何なのか、改めて見出す機会となれれば幸いです。