
11月も10日となり、数えてみると今年も残り50日少々となりました。このままだと、あっと言う間に年末年始を迎えることになりそうな。
スタッドレス等の備えを持っていないこともあり、降雪が見込まれる年末までに行きたいところはいくつか思い浮かぶのです。ところが、つい最近までちょっと足を伸ばしてのドライブは控えていたこともあり、いざ行けるとなってもつい中・長距離に身構えてしまう。ありがちな話かと思うところです。
手前話は早々に切り上げて、今回のお題へと入っていくことにします。
前々回にB14サニーを取り上げた際、ローレルスピリットというワードを頂戴しまして。小さな高級車を好むと公言する以上、避けては通れない話題と受け取った次第です。
一般的にはマイナー車の範疇に属しながらも、車好き界隈では結構話題に上る車種ではありまして、どの角度から取り上げるかは悩ましくはあるのですが、少し珍しいと思われる資料から入ってみようかと。
今回先ず取り上げるのは、”フレグランス メッセージ”と銘打たれた登場時のイメージカタログとなります。2代目の登場早々に本カタログ共々、もらったものですね。
記憶が確かなら、アムラックスを経て今はサンシャインシティアネックスビルとなっている地(トヨタの手を離れ三菱地所とサンシャインシティが取得したのですね)にかつて存在した東京トヨペットの池袋営業所で、同年5月に登場した3代目コルサのカタログをもらい、その足で近くにあった西武日産の池袋営業所にも入っただったような。
まだ入社早々と思われるお姉さんが生意気な高校生相手にも関わらず、丁寧に対応してくれたというのは比較的鮮明な記憶です。
最初の見開きから8頁は、フレグランス=香るをキーワードにしてのエッセイやお姉さまたちの画像等。
セドリックやローレルをお持ちのご家族の奥様やお嬢様を意識した内容なのかな、というのは推測。ローレルスピリットがターゲットと想定したユーザー層もその辺りだったのでしょうね。
10頁目でようやく主役となるローレルスピリットが登場。
外観ではサニーから一番大きく変えられたフロントマスクを見せつつ、電動格納式ミラー、リヤーピラーフィニッシャー、ブロンズガラスと当時のラグジュアリーな装備を見せています。
電動格納式ミラーの世界初採用は、当時5代目だったローレルで、このクラスの初採用はサニー スーパーサルーンと記憶しています。
外観上はグレード差が少ないのも特徴で、フードマスコットは全車標準ですし、サニーではスーパーサルーンのみ標準だったカラードバンパーもこちらは全車標準でした。
内装は、サニーのベージュと替わるマルーンの内装色が独自性を主張。同時期のマークII3兄弟・ローレル・スカイライン等でも主に売れた当時の流行カラーですね。
シート地のベロア調起毛トリコットも、サニーのモケットとは異なる独自の仕様でした(ただしLFのツィード調起毛トリコットはサニーと共通)。若干惜しく映るのは、生地自体は高級感を感じさせながらも、ヘッドレストやシートサイドの一部にビニール部分が残る点。シート縫製共々サニーと共用したことによる制約ですね。リヤセンターアームレストが備わらず、トランクスルーが備わるのも同じ理由です。
既にこのクラスでもパワステが常識となりつつありましたが、オート機構を備えたパワーウインドウスイッチが集中ドアロックのスイッチ共々、アームレストと一体で備わるのは、クラスを超えた豪華さがありました。
大型バンパーの採用もあって、全長はサニーより130mm長くなっていました。同時期のU11ブルーバードが4,415mm、T150コロナが4,370mm(共に標準バンパー)でしたから、ちょうど中間位のサイズとなります。
グレードはLF、XJ、グランドリミテッドの3グレードで構成。サニーではGL、SGL、スーパーサルーンに相当となります。先代は、LT(GL)、LT-G(GL-L)、LF(SGL)、XJ(SGLエクストラ)という構成でしたから、LFとXJは少し位置づけが下がった形でした。サニーはSGLエクストラが転じたスーパーサルーンが想定以上に売れていましたから、XJではなくグランドリミテッドを新たに設けることで高級感の訴求を行った形ですね。
サニーは、ローレルスピリットの登場に合わせる形で、SGX-Eに替わるスーパーサルーンE(同時にATは3速→4速に変更)と新たなグレードとなるスーパーサルーン ツインカムを追加しています。サニーのツインカムは、同じスーパーサルーン名ながらもシート形状や内装の仕立て等、スポーツ指向を強めた設定でしたので、シングルカムと同様の仕様となるローレルスピリットのツインカムは一番独自性が強かったという見方が出来ます。最上級が一番独自というのは、前回のチェイサーに繋がる話でもありますね。
ボディカラーはクリスタルホワイト以外、サニーとの共通色はありませんでした。ホワイトツートンも、こちらはベージュでサニーはグレー。同じグレーにレッドを組み合わせたサニーに対して、こちらはシルバーを組み合わせているという具合。
画像の13インチキャップは、スタンザが少し先に初採用して共用したものとなりますが、メッキ加飾含めて14インチよりも似合うというのは私感。14インチキャップはブルーバードからの流用ですが、ローレルから流用するのもありだったのでは、などと。
記憶を裏付ける、今は亡き西武日産販売・池袋営業所のステッカーが貼られています。西武日産販売はモーター店の車種を扱っていました。ストリートビューで見ると、営業所が入っていたビル自体は当時と同じと見受けるのですけれど。ちなみに今もある隣のホンダは当時ベルノ店でした。
価格表です。
各グレードともサニーに約10万円が上乗せされた設定でした。当然1.5lクラスでは高価になるわけで、お姉さん曰く「ライバル車はコロナ」というのも価格を意識しての説明だったのでしょう。150コロナのGX、セレクトサルーン辺りは、1.8lよりも1.5lの方が多かったくらいですしね。
価格競争の点では、他社よりもむしろ身内の方が手強かったかもしれません。U11ブルーバードの1.6SLX-Gは144.0万円、同1.8SLX-Gは159.2円で、それぞれグランドリミテッドとグランドリミテッドEに近い価格設定となっていました。
小さい高級車という主張を受け入れられないと、サニー・ブルーバードという2大巨頭と比べての価格競争力は厳しかったかなとは。
当初はE15EとCA16DEのみ4ATで、E15SとCD17は3ATでした。この4ATはブルーバード等でも使っていたもので、サニークラスで使うには大きい・重い・高いという認識だったようです。トヨタと比べるとこのクラスでも4ATの展開が遅れた理由ですね。ATの比率が旧上昇する中では、結構なビハインド。日本車の歴史という視点で見ても、全般的な4ATの展開の遅れはトヨタと日産の運命を決した大きな要因にも思えたりします。
AT同様に展開が遅れがちだったオートエアコンは全車で選択可能。エアコンをまだディーラーで装着していた最後の時代ですね。付属品がAセットとBセットと2つあるのは珍しいかと。Aセットの半カバーはメーカー純正で、Bセットのロベルタ仕様シートカバー&クッションは販社独自かなと。
ホワイト以外のドアミラーも西武オリジナルでカラードにできたようで、数ある販社の中でも独自性は強かったようです。
当初版資料はこのくらいで。
その後、ローレルスピリットはサニーと歩みを共にする形で、翌1987年9月に主力となる1.5LガソリンエンジンをE15型からGA15型に換装し、新たにフルオートフルタイム4WD仕様を2グレード追加。この時、グランドリミテッドのみ3AT→4ATとなり、1.7LディーゼルエンジンのCD17搭載グレードはXJ-DからグランドリミテッドDに変更されています。
さらに翌年には一部意匠変更と合わせて、主にグランドリミテッド系の仕様向上が行われています。パール塗装に本革シートを採用したある種の極み、ロイヤルグランドリミテッドEが限定販売されたのがこの時となります。
wikiによるとその後も一部変更が行われているようですが、最後に最終型の中から特別仕様車スーパーグランドリミテッドのリーフレットを掲載してみます。
豪華を極めたロイヤルグランドリミテッドEとは異なり、こちらは販売の主力となるグランドリミテッドに特別装備を追加しつつ、お買い得価格としたものとなります。特別装備は、オートエアコン、カセットデッキ、専用エンブレム、マッドガードの4点。発表は1989年5月24日となるようです。
半ば余談ですが、ラングレーにはセレクト、リベルタビラにはエクセルという名称で同様の特別仕様車がこのもう少し後に投入されていたりもします。
末期型の特別仕様車らしい充実ぶりで、前年実施の一部改良の際に採用されたパワーアンテナ、リヤセンターアームレスト、シート布地部分の拡大と合わせて、初期型で物足りないと感じた部分は、ほぼ解消されているように感じます。
強いて書くなら、カセットデッキがメカニカルタイプらしきで商品性で少し見劣りする気はします。既に市販品はもちろん、純正品もディーラーオプション含めてロジックコントロールタイプが大半だった時期ですからね。日産も1dinサイズのチューナーデッキを備える車が多かったことからすると、こちらにも採用できなかったのかなとは。
ボディカラーはクリスタルホワイト以外の全色が変更されていたことが判ります。シート地もベロア調起毛トリコットの名称は同じですが、生地自体は変更されているようです。
といったところで、ローレルスピリットとしては2代目となるB12型を取り上げてみました。
ローレルスピリットについては、サニーとの関係性で終始悩みつつで作られたことを感じずにはいられません。そもそも当初は、サニーのバッジエンジニアリングからスタートして、徐々に高級志向に向かう=独立性を強めたという経緯があります。モーター店もこのクラスに初参入するにあたり、サニーの高級版を歓迎したものの、完全な独立車種となることまでは望んでいなかったことを感じます。
そんな環境下では、作り手も小さな高級車をどこまで実現するか、悩ましかっただろうと推測するのです。
ローレルスピリット単体での訴求力だけで少し考えてみると。
例えば、サニーの1.6ツインカム追加に合わせる形で登場したため、最上級グレードは1.6ツインカムを搭載していました。先に書いた通り、ATの比率が急上昇していた時代、むしろ1.5ターボの方が合っていたように感じますし、モーター店の車種構成だけで考えるなら、独自に1.8を搭載するもありだったのかもしれません。CA16DEが積めるなら、CA18iも搭載可能だったのではないかなと。
結局1.6ツインカムは、価格競争力もあって主流となることはなく、末期のスーパーグランドリミテッドは1.5、ロイヤルグランドリミテッドEも1.5のインジェクションで登場していますから、ミスマッチ感は拭えずで。
小さな高級車、その狙いは間違いはなく、その後の時代の推移からしても、むしろ正しかったと感じます。キャラクターこそ多少異なりますが、ある部分では翌年に登場した90カローラの先駆けだったのではないか。そんなことを感じるのです。何より勿体ないのは、90カローラより先に生まれながらも、そのアドバンテージを生かせなかったことなんですけれどね。
一部改良がもう少し早かったら、そんな感もあるのですけれど、それもサニーとの関係がある中では難しかったのでしょうね。既に単独で成立する台数で売れてもいなかったですし。
それでもローレルスピリットでの成果は、B13サニーに反映されていると思っていますし、後継となるプレセアがはるかに明確な形で生まれたのはローレルスピリットでの試行錯誤の経緯も踏まえてとも思えます。
小さな高級車という枠組みの中で類別すると、ユーノス500やプログレと同種とは言えません。コンセプトからして”本格的な”とか”一から構築した”という形容詞は付け難いですし。それでも量産車の少し高級というのは、メインストリームとなることはなくとも絶滅はしていないジャンルと言えそうではありまして。
車名等から、とかくパロディ的な文脈で書かれがちな存在ではあるのですが、単体のみではなく、もう少し俯瞰的な目線で分析してみると、もう少し違う論調も生まれ得る、そんな存在に思えて仕方ないのです。