
初代カルタスのマイナーチェンジ話、後編です。
いただいたコメントの印象からすると、(特に前期型は)やはり地味な印象が強いといったところでしょうか。
キリのいい部分がなかなか見つからなかったこともあって、前編の最後に少し載せたのですが、この初代カルタスというクルマ、GMの意向がかなり強く反映されていたようです。というか、むしろ設計の主導権はGMにあったぐらいが実情のようです。
GMの最大の要望である燃費だけでなく、内外装のデザイン等についてもGMからの言及があったことがI型のインタビューで語られています。
そうした背景が、どうしても国内におけるカルタスの存在感の点に影響したことは間違いありません。先ずはその辺りの話が続きます。
高原 つくっていらっしゃる方も、これでいいと思っていないな、どうしてもGMがこうしろ、こうしろっていうんで仕方なくやっているっていうのがとっても印象に残ったんで、その反動が一気にきたなと・・・(笑)。
石川 設計のほうにしてみればさんざん言われてひどい目にあっていましたから、GTをつくらせてもらえるなら、この際、目いっぱい行けと、これはもう反動で確かに言えると思いますね。しかしGMは、スプリントというのは今でもバックオーダーを抱えておりまして・・・。6万台ぐらい枠を持っているんですけども、実際、足りなくて、アメリカ市場ではバックオーダーを抱えているということで、GMの考えているコンセプトというのは間違ってはいなかったんですし、先程も言ったように、グローバルな考え方でいうならば、14万台出たというクルマは、私は失敗作じゃないと思っていたんです。ただ、先程言ったように国内の場合はそんなことじゃ現在は満足しないということで・・・。
高原 ちょっと苛烈ですかね。
石川 国内の場合は、ヨーロッパとアメリカからのミックスチュアになっているんですね。外観的にもかなり苛酷なホットロッド的なやつだとか、またはかなり強烈なイメージというのはアメリカからも受け継いでいる人もいますし、基本的にはクルマの歴史はヨーロッパから来ているということで、日本の国内でミックスされている中で、かなり高性能に仕上がってきているんです。そういう中で、下駄だなんていうのは日本じゃコンセプトとしないわけですね。下駄っていうのはアルトで結構なんですね。だけどやっぱりリッターカー、1300ccクラスで下駄だなんていうのは実際にはあり得ないんで、またうちでも変わらなければならないと思ったのは、去年のモーターショウの、先程言ったRS-1、これで一気にスズキらしいっていうふうに印象付けられましたから、むしろ外から答えを出してもらえましたもんですから、我々にしてみても非常にやりやすい。
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前回あった、若者のクルマ感がその最大だと思うのですが、それ以外の国内ユーザー層もまだまだクルマに対して厳しい目があった時代です。全方向で「いいクルマ」を欲しがっていたという言い方でもイイと思います。
セカンドカー需要が増えつつあった軽自動車においても、いいクルマを求める声に対して、各社地道な努力を重ねていたくらいですから、これがリッターカー、1300ccクラスともなると、より一層声が強くなるのは自然ではありました。
あとは、引用元にあるスズキの小型車像の点ですよね。
I型はそこからして暗中模索だったことを伺わせます。
続いては、このビッグチェンジのもう一つの目玉であるリヤサスペンション変更に関する話です。
高原 リヤサスペンションのことで、試乗会のときも、GMのほうはこういうふうにしたいといっても余り評価してくれないというふうなことで・・・。
石川 私は反対されました。
高原 ですけど、明らかに質感が上がっているんですけどね。
石川 結局、アメリカのクルマというのは、つい10年前まではあのフルサイズのクルマだってリジッドでやっていた国ですから、とにかく基本的にはでかくてフワフワしてりゃいいというのがクルマだというふうに、GMの人も言っていましたよ。クッションがよくて、でかい人間がゆったり座れて、とにかくどうあれカーブきったらどうしゃがもうが、どう傾こうがそれは構わないんだ、とにかく心臓に負担がかからないように乗れることが一番いいんだって。(後略)そうするとボワーっと乗っているのが一番いい・・・。
ただ、今度のビッグチェンジで足を変えたいということで、一体なぜ変えたいんだという質問を受けまして、国内も含めて性能を上げていくために、または全世界的に考えた場合は、とにかく我々、変えなきゃならない。そういう評価も受けているし、リーフじゃ駄目だという評価も受けた。変えたい、重量上がります、コスト上がりますということで、変えたいけれども何とか見てくれないかという考え方でむこうへ出したら断られたわけです。じゃ、サスだけで変更する場合、フロアから何から10億ぐらいかかるわけです。
高原 かなり高いものだった。
石川 じゃ、リヤサスのところだけとにかくスズキでぜんぶ持ってやったら、償却から考えれば7万台から8万台出れば、一応、償却できるという考え方で計算をしたわけです。うちで責任をとります、だから変えたものにまず乗ってくれということで乗せたんですよ。そしたらやっぱり評価がよくて、こんなにいいものか、こんなによくなるのかとGMで言うわけです。だからGMのテストのデパートメントの人たちはものすごい評価をしてくれたわけです。しかし、GMのもとのトップも、とにかく変えて重量が上がる、コストもかかる、しかし、それに見合っただけの性能が上がっているということで、むこうも許容してクルマを買ってくれる。ただしそのときにはやはり燃費ナンバーワンということが旗頭にありましたから、これはとにかく守ってもらわんと困る。重量は重くなりました、燃費は落ちましたじゃ・・・。
高原 それは困る。
石川 これはもうスプリントとしての最大のメリットがなくなるからということで、重くなろうが何しようが、いわゆるEPAの燃費ナンバーワンは取ってくれ、という要求でしたから、とにかくやりまして、燃費ナンバーワン取れて、結果的にはサスペンションもむこうが許容してくれて買ってくれるということです。むこうでも気に入ってくれまして、買うに値するクルマであるという、むしろ最大の評価を受けまして、いま出しているわけです。
従いまして、初めの計画の時点から足は何としてでも変えたい、ほかは何もしなくてもいいから足だけでも変えたいというような・・・。マイナーチェンジではないか、足まで変えるようなマイナーチェンジというのはあり得ないぞ、ということで社内でもいろいろありましたけれども・・・。
高原 そこまでやるんだったらフルチェンジしちゃったほうが早い。
石川 そうそう。いってみればメインフロアまでで、あともう全変えですもんね。リヤフロアも全部、フロアまで変えちゃうなんていうのは、本当はマイナーチェンジじゃあり得ないんであって、コンセプト自体が変っちゃうということですから・・・ビッグチェンジ。ビッグチェンジというのはマイナーチェンジじゃ私自身もちょっと情けないと思いましてね。
高原 実際マイナーじゃないですからね。
石川 悲しいですからね。随分カネもかけまして、情けないんで、せめてビッグチェンジというふうに言っているんですけれども、変えられたこと自体、私は今にしてみれば、足を変えずしてGTをつくっても評価はどうであったかと思うと、空恐ろしいもんで・・・(笑)
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I型のリヤサスは、登場時点でも国内では時流から外れつつあったリーフ式が採用されていました。それまで主流だったリーフ式は、70年代初頭ぐらいにコイルへの移行が始まって、70年代末には商業車を除けば、ほぼ採用されることはなくなっていたものですから、カルタスのネガとして指摘される点となりました。
この採用、ここもどうやらGMの「燃費とコスト」という要望が優先されたようです。リーフのメリットとしては、軽くできたために下のランクで(適合)できた点と安全関係がうまくパスできた点が語られています。あくまでもアメリカ優先の話ですね。
ちなみに、スズキ側の設計は当初から全く違うクルマだったそうです。これは推測ですが、マイナーチェンジに際して、このスズキ側設計が再浮上したのかもしれません。
仮に推測どおりだとしても、億単位でコストのかかる話ですから、相当に大変な変更であることは想像に難しくありません。おそらく語られているのは、大変だった中の極一部のはずです。言い方を変えれば、それほどまでしても、変えたかったのがこのリヤサスだったのでしょうね。
最後に内外装の話となります。
高原 ちょっと話は変わっちゃうんですけど、いちばん難しいのは外観とか内装だったと思います。外観はテールゲートと・・・。
石川 バックドアを変えまして、あとフェンダーのヘッドランプを変えましたんで、フェンダーの前の部分を変えましたけれども・・・。
高原 内装は・・・。
石川 内装も基本的には変えませんで、中のイメージ全部変えました。メータークラスターなんかも変えました。スズキのデザインデパートメントでやった仕事なんです。1型のときというのは、GMのデザイナー、チャック・ジョーダンなんか来てやりましてむこうの意見もかなり入れましたけど、今回のビッグチェンジのデザインっていうのは基本的にはうちが全部やっちゃったんです。
高原 インパネの変更っていうのもかなりおカネが大きいでしょうね。
石川 全部やっちゃうんですけどね。それこそあれで簡単に鉄筋の家が3、4軒建っちゃうんですね、ほんとに・・・。
高原 外観やインテリアのお客さんからの反応はどうですか。
石川 いいですね。いろいろ評価していただけるわけなんですけども、外観、内装評価、まだ今までの評価っていうのはどちらかといいますと、メインはGT-ターボがメインでありましたので、一般車のほうの評価というのはわりあい少ないんですけども、しかし外観は変わりませんものですから、かなり評価はいいんじゃないかなと思っております。
高原 できれば幅あたりはもう少し広げたかったんじゃないですか。
石川 本当はね。
高原 でもほかのクルマと比較しても・・・。
石川 幅を変えたいといえばタイヤを大きくしたいというのが基本的にあったんです。幅方向を変えたらマイナーチェンジにならなくて、恐らくフルモデルチェンジになっちゃうでしょうね。基本的にはディメンションを変えませんでしたから、バンパーを変えた分だけちょっと変わりましたけども、マイナーチェンジで通りました。
基本的に車体構成寸法を変えちゃったら、これはマイナーじゃなくなっちゃうもんですから、そういう意味で基本的には、私にしてみれば今回のビッグチェンジっていうのは我々スズキ自動車が世に、今までの下駄をつくっているメーカーからひとつ脱皮して、今後、とにかくスズキ自動車らしいものをやりますという第一声だというふうに思っていまして、基本的にはむしろこれからのほうが・・・。
だから去年のモーターショウでRS-1を展示いたしまして評価を得た、じゃ次に何をやるかといったら、来年のモーターショウがまたありますわね、そうしますと、一体スズキらしさをどういうふうに具体化しようという、大きなテーマが一つあるんですよね。
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リヤサスの変更という大きなものからすると、意外と内外装の意匠は大きく変更しなかったといえると思います。コスト配分の影響かなと推測しつつ、ユーザーのメリットの点からすれば、リヤサスに大きくお金を掛けたという判断は間違いなかったと言えそうです。
I型もスタイリングは比較評価が高かったようで、やれる範囲でより日本人の好みに近づけたというところなのかもしれませんね。
といったところで、いかがだったでしょうか。
I型の時のインタビューにおいて、「輸出規制が緩むだろうという見通しやGMとの契約が一定台数確保できたことから、最初はアメリカ市場にコンセプトを絞った。ところが、輸出規制が続いたり、工場の新設もあって国内とかヨーロッパにも出す必要が生じた。」という旨が語られています。さらには「米国からこういう話がなければ、軽を中心にしていた我が社が、他の一流メーカーがひしめく小型車は手がけなかったかもしれない」とも。
こうした成り立ちが、I型の成り立ちに大きく影響していたことは間違いありません。
アメリカでは最小のサイズであっても、国内では下に軽自動車が存在する上級車となってしまうのです。ユーザーは、この点を厳しく見抜きもしますし。
そうした差を埋めるのに苦心した成果がこのマイナーチェンジに結実しているのだと思います。
今視点で強く共感するのは、当時は国外向けで考えていたものでも、何とか国内に向けたものとして売りたいという真摯な姿勢ですね。当時のスズキは、軽自動車で成功していましたから、カルタスを輸出に絞ってしまうという選択肢もあり得たはずですが、そうはせず、何とか地盤を確保しようという強い想いを感じずにはいられません。
今も、国外と国内の需要のアンマッチが時折語られるのですが、その一方でアンマッチを埋めるとか縮める方に進まない(ように映る)のが何とも残念だったりします。クルマの開発の規模・経費・要件は、はるかに大きくかつ複雑になっていることは理解するのですが、それでもこういう開発者の想いが形として結実する的な部分がなかなか表に見えてはこないように思います。
一方でユーザーの要望も推移が早くなって、実態として見え辛いというのも影響しているのかもしれません。いろいろ30年という時間の差を実感する次第なのです。
(参考文献)
・月刊自家用車誌 車種別総合研究
Posted at 2016/11/13 22:02:26 | |
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