
やや日数が空きましたが、メルセデス先代Cクラスのセールスマニュアル、今回は後編となります。
再構成の上での前編ではマイナーチェンジでの変更点をお送りしました。今回は前回の続きでグレード別の紹介とそのグレードをどういうマーケティング戦略で売るのかという話となります。私同様、後段の話をお好きな方も多いことでしょう(笑)
早速本編・・・へ進む前に、今回も話の理解の一助ということで、前篇同様、参考情報へのリンクを貼っておきます。
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後期のモデル変遷を書いたもの
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後期のボディカラーの変遷を書いたもの
それでは、本編へご案内。
最初は、グレード構成とその主な差異になります。
この時点のグレードは、スタンダードモデルを基本として、上級グレードにはスポーティ志向のアバンギャルドとラグジュアリー志向のエレガンスを設定。さらなるスポーティを求める向きにはよりダイナミックなAMGスポーツパッケージが選択可能という構成でした。ほぼ、全方向に対応可能な構成でバランスも良いように思います。
ところが、この構成は長く続きません。プレスリリースにある変遷の結果、グレード縮小に伴うエレガンスの廃止や選択仕様だったAMGスポーツパッケージの標準化が進んだことで、全体的にスポーティ方向に振られたグレード構成となっていきます。
現行では再び、エレガンス以外はこの構成に戻っています。エレガンスの名前替わりとなるエクスクルーシブも限定で導入されたものの、人気は芳しくなかったようで、その後の拡大や再導入はされていません。
余談ではありますが、スタンダードのステアリングは、エレガンス用のクローム付きが流用されるようになるというのが、このページでの発見(笑)
オプションの一覧です。
それまでは独立したグレード設定だったエレガンスがパッケージオプションの扱いとなる一方で、スタンダードモデルでもAMGスポーツパッケージが選択可能となったのは、大きな変更と言えます。自分的には魅力的に思えるエレガンスパッケージですが、1年後の年次改良の際に選択不可となってしまいます。また、AMGスポーツパッケージも、アバンギャルドでは標準化が進み、スタンダードモデルでは選択不可となる変遷となっています。
書かれているように、当初に比べてだいぶオプションのパッケージ化が進んでいます。それでも現行よりは、はるかに選択の自由度が高い設定でした。こういった設定は、抱き合わせで不要なものまで購入しないで済む反面、仕様はネズミ算的に増えていきますから、ユーザーの混乱や管理の手間も無視できません。現在は、車種も増える一方ですから、同一車種内の仕様を絞ることで管理コストを下げ、メリットの一部を還元するという考え方となっています。
そこには、輸入車である以上、在庫以外の仕様は長期納車が必至ですから、結局自分も含めて在庫にある仕様の選択が殆どという実状も影響しているでしょうね。
左頁は、カラーバリエーションが掲載されています。
これもボディカラー変遷との対比が解り易いと思います。定番の無彩色系(白・銀・黒)は、ホワイトがカルサイトからポーラーに変更されているぐらいで、世代が進んだ今もほぼ変わりません。その他の有彩色系は、結構入れ替わりが行われています。こちらで新鮮味を訴える戦略ですね。これも有彩色系は在庫が少ない、という実状があるようです。
この時点では内装色は豊富に揃っていますが、その後内装色も選択範囲縮小の対象となってしまいました。この部分は、運転している時には外観よりもはるかに目にする部分だけに、オプション以上に納期を待ってでも・・・と思えるのですけれどね。その思考の下地には、だいぶ昔の「間違いだらけのクルマ選び」に書かれていた、「メルセデスのようなクルマを選ぶ場合、多少待ってでも気に入った内外装色を選ぶこと。そして、それを最低10年は乗ること」というのが影響していたりです。
右頁は、発表に先立つ形で実施された販売関係者による内覧会の結果です。
このモデルは、2011年5月30日の発表ですから、4ヵ月前と意外と早めに行われています。リコール等で登場時期より前のクルマも対象に含まれている理由は、こうしたところにあるのでしょうね。
ある意味、評論家やユーザー以上に厳しい目を持つのが販売最前線。高評価を基調としつつ、ユーザー目線で見ても鋭い評価が目立ちます。
といったところまでが、浅瀬の領域で(?)、ここからが深海となります(笑)
いいモデルはできた。では、それをどう売り込むかという話です。
最初は、ここまでの分析です。
左頁では、絶好のライバル関係にある、BMW3シリーズとアウディA4との対比がされていて、実に興味深いところです。
元々3シリーズが強かったところに対して、CクラスがW204で、A4がB8で切り崩しにかかった構図となっています。また、全世界を揺るがしたリーマンショックの影響が見て取れたりもします。2009年・2010年と約25,000台で推移した3車販売台数ですが、近年は30,000台を超える台数となり、総量としては増えていますので、その分は他車からの移行ということなのでしょう。時期はずれますが、Cクラスに関して、現行はボディの大型化が起因したのか、クラウンとの競合が増えたという記事を見たことがあります。
(販売台数の参考文献:JAIAの
統計情報)
価格帯・販売実績と顧客プロフィールの比較も興味深く。
Cクラスは3シリーズとA4よりも、価格帯がやや上ということで、その対策として追加されたのが、C200や同ライトということなのですね。
平均年齢も、3シリーズとA4がほぼ同等で、Cクラスはやや上。この当時は、本国も同様だったと記憶しています。もっとも、数字を持たずのため断言こそできませんが、やや年齢の高いCクラスでも日本車のセダンよりは年齢が低い気はします。スポーティに寄せる戦略も、その対策ということなのでしょう。こうした数字、この後の推移が大いに気になるところです。
グレード別の販売比率では、中心にC200アバンギャルドがあったことが判ります。W204の導入当初は、おそらくエレガンスとアバンギャルドの比率は、ほぼ同等の想定だったのでしょうが、明らかにアバンギャルドの方が売れたようです。その影響がグレード設定に影響しています。
現状の分析はここまでで、ここからはモデルコンセプトとなります。
大まかに分けると、スタンダードモデルは新規顧客の獲得が役割という想定だったようです。上級となるアバンギャルドは既納顧客対応モデルで、C200アバンギャルドがその中心。更なる上級のC250やC350は上級志向のユーザーを押えつつ、ダウンサイジング志向も満足させるとなるようです。
ここからはモデル別の更なる販売戦略となります。
先ずは、C200ライト。
C200ライトは、価格訴求モデルとして2010年8月に追加されました。C200の装備を厳選することで40万円以上安い設定はお買い得感の高いものでしたが、受注生産ということで、実際はライトで引き寄せてC200を売るという状況だったようです。
ところが、比較的好評だったことや新規顧客の獲得を目的として、受注生産から標準販売への変更、色設定の拡大、装備やオプションの充実といった変更がされています。(それにしても、国産上級セダンからの代替想定の40%はかなり高いような)
こうした変更はユーザーに歓迎された反面、収益に影響したのか、わずか半年足らずでライトは落とされ、C180に変更されることとなります。このC180、本国では翌2012年に1800から1600に変更されるのと入れ替わる形での導入というあたりに、大人の事情がありそうです。
C180自体は好評で、C200に替わってスタンダードモデルの中心に成長していきます。その後、C180は末期で受注生産となり、現行初期で一旦標準販売となるものの、今は再び受注生産とされています。分析と照らし合わせると、他車からの移行が少なくなったのか、あるいは移行でも上級が好まれるようになったのか、知りたいところではあります。
続いては、C200です。
こちらも前期の途中となる2008年4月から設定された、価格重視のグレードです。そんな出自ながらも全く不足は感じることはありませんが。
AMGスポーツパッケージが新たに設定されて、スポーティ志向にも対応可能となりました。この新設定、今よりはるかに減税額の大きかったエコカー減税へ対応させるためという側面もありそうです。減税幅でオプション金額の半分が賄える形ですから、適合を意識しないはずはありません。こうしたあたり、この制度の効能は認める反面、制度が粗かった故、仕様を歪めてしまったことを指摘しないわけにはいきません。
C200は、後から追加されたC180の好調の余波を受ける形で、エレガンス仕様共々、C180アバンギャルドにその位置を譲ることとなります。エレガンス好きとしては、C180の選択仕様として残してほしかったところです。
ターゲットユーザーは、ライトと同じ大手企業勤務ながら、年齢と年収が上がっているのが密かなポイントです(笑)。ターゲットにある国産は、ほぼエコカー減税に非適合でしたから、エコカー適合というのは、意外とポイント高いのでありました。
右頁には、基幹モデルとなるC200アバンギャルド。
前期では約半数を占めて最多量販だったグレードです。グリルスターを採用したセダンという記念碑的存在ですし、それが成功したことで、その後の流れを変えたとも思います。ここまで上がると、新規顧客の獲得よりも既存ユーザー(特に前期モデル)の代替が主と想定されていたようです。
この後は250・350に先んじてオプション設定だったAMGスポーツパッケージを標準にしてスポーティ色を強めることとなります。現行ではAMGラインと名を変えつつ再びの選択制となり、元の位置に収まっていますね。
続いては、左頁にC250アバンギャルド。
W204の登場時点ではV6搭載ということで200とは差別化が図られていましたが、シリーズ最初のCGI(直噴ガソリン)を採用する際に4気筒化。後に200がスーパーチャージャーからCGI化されることで、200の高出力版に位置づけられることとなりました。高出力が主での差別化は容易ではなく、この後は少量が販売された後、現行では装備面でも差別化が図られることとなります。
サブターゲットの世帯年収は、さらにアップ(笑)
意外とこの辺りの方はスポーティなものを希望されているということが読み取れもします。
最後は、C350アバンギャルド。
250が4気筒化されたことで、唯一の6気筒となりました。Eクラスの進化に合わせる形で前期の300から350にハイパワー化されています。搭載エンジンからしても、既納顧客を守る一方でEクラスからのダウンサイザーも求めるのは自然な形です。さすがにその高価格ゆえ、250以上に見かけることは稀なクルマだと思います。現行では、C450を経た後C43という形でAMGに近い位置づけとされています。
といったところでいかがだったでしょうか。
変更点ぐらいは、カタログの見比べでも可能ですが、この手の分析や戦略は通常、表に出ることはあまりないため、貴重な情報が多数あると感じます。
タイムリーネタだとさすがに逡巡するところがあるのですが、5年以上前ということで、ご笑覧いただければと思います。
Cクラスは、このマイナーチェンジ以降、モデルチェンジ末期となった2013年を除いて、念願だった3シリーズを上回る販売台数を売るクルマに成長します。そういう点からすると、この変更は大きな進化というだけではなく、一つの契機でもありました。その実績の裏には、その後も年次改良は手を緩めることなく行われてきたということも挙げなければなりません。
クルマとしては後年ほど仕様が充実(特にレーダーセーフティの追加は大きいですね)かつお買得になっていますので、最新型=最良であることは疑いようもない事実なのです。しかしながら、それと並行して販売台数の縮小に合わせる形で仕様統合も行われていますから、この時点が設定としては一番バランスがいいという考え方はあるかもしれません。ここ最近は、数をやや追い過ぎなのではないかとも思いますし。
メルセデスは、この後、往年の「The best or Nothing(最善か無か)」を再び掲げますが、その名に恥じないくらい力が入っているように映るのは、決してオーナーの贔屓目だけではないと思います。そこにはコストダウン一辺倒とは明らかに違う視点が確実に存在しています。技術的な差は少ないのだとしても、それを商品というパッケージとして成立させる手腕は一朝一夕で身につくものではありません。
往年との対比でいろいろ言われることのあるメーカーですが、知れば知るほどその奥深さに感心させられるメーカーでもあります。きっと、そうした蓄積がメーカーへの信頼に繋がっているということなのでしょうね。