
先ず最初に、連日の豪雨により、被害にあわれた方にお見舞い申し上げます。
特に国道41号線は、飛騨地方を訪れる際、何度も通った道でありまして、見覚えのある景色の変わり果てた姿に心を痛めております。
また、そんな報道も冷めやらぬうちに、コロナ禍は特に東京で再び新規患者数が急上昇。共通して何より大切なのは、命を守る行動なのだろうな、とは。
さて、冒頭から重く暗い話題となってしまいましたが、本題に入っていきます。
今回は1975年のカローラのカタログが話題の中心となります。
歴代カローラの中では3代目・6代目・9代目を高く評価している、と以前に書いていますが、ちょうどその3代目、大きく分けて前期・中期・後期の内、前期の後半の時期に当たります。
3代目カローラの乗用車系カタログは、前期はセダンとハードトップが別冊、ボディが増えた中期以降は、セダンとハードトップ、クーペとリフトバックの組み合わせが基本となるのですが、今回ご紹介するのは前期でありながら珍しくセダンとハードトップが一緒に紹介されているものとなります。
それだけでなく、後で取り上げる色々な事情が重なっていることから、希少なカタログとしていいような気もしますけれど。
前段はこのぐらいで、カタログの紹介に。
ちなみに今回は思い入れもあって長くなりそうなので、前編と後編に分割。
最初の見開きでは、左頁にサイドシルエットで各ボディ形状を並べています。
この時点のボディ形状は、バンを別にすると、2ドアセダン、4ドアセダン、ハードトップの3タイプがありました。
今視点からすると、2ドアセダンとハードトップが併存していることが奇異に映るかもしれませんね。この点について解説すると、元々このクラスというのは2ドアセダンから始まったクルマが多くて、カローラもその一台でありました。
あまり時間を置かずで、4ドアセダンが追加されているのですが、2ドアセダンにも根強い人気があったのです。まだこの時期には、チャイルドプルーフの装備はなく、子供が小さい内はリヤドアがない方が安全とされていたのも理由ですね。もっとも、セダンは昭和50年代に入ると、急速に4ドアに収束していきます。
さらにこのクラスは、カーライフのエントリーモデルとして若いユーザー層も多く。カローラからスタートして、コロナを経由しクラウンに至る、所謂「いつかはクラウン」の構図ですね。
そんな若者からするとセダンでは飽き足らない、そんな需要が無視できない様相となって、カローラ・サニーと時をほぼ同じくしてクーペモデルが追加されます。当初はカローラのクーペ版だったスプリンターも、販売店の都合から2代目の中期でカローラとは別ボディのセダンが追加されて独立。カローラと兄弟車の関係になります。
3代目では、スプリンタークーペにセリカ風味を加味した背の低いボディを与える一方、カローラには新たにハードトップを加えています。ハードトップは元々もっと上のクラスから始まったボディ形状であり、ホンダZやフェローMAX等の事例はあったものの、このクラスで展開するのは新鮮ではありました。
ここで余談。
カローラとスプリンターのセダンは、一見前後のデザインを変えただけでドアは共通のように映りますが、実は屋根の高さが違っています。スプリンターセダンのAピラーや屋根の高さはカローラハードトップと共通とされていて、カローラセダンよりも低い構造。その点では、セミファストバックを採用した2代目マークIIセダン共々、スタイリング重視のセダンの始祖と言えるかもしれません。
ご近所界隈で見かけるのは、やはり4ドアセダンが多かったですが、2ドアセダンやハードトップも見かける機会は多かったように記憶しています。
右頁ではサイドビューと並べる形でフロントとリヤの画像を掲載。
この代のカローラは、最大のライバル車であるサニーがエクセレントを追加したことに影響されてか、1200(1300)と1400・1600でフロントマスク&リヤテールの形状を別にしています。大雑把な分けだと、サニー同様、シンプルな1200と格調を感じさせる1400・1600となるかと思います。
本来は1200を並べて、違いを見せたかったのでしょうけれど、このカタログでは実現されず。
スプリンターの方は排気量による差異は設けずでしたけれど、この時点ではクーペの方は1400以上のみの設定。こうした細かい作り分けというのは、知れば知るほどに感心させられます。
顔写真は、個人的にミスターカローラとお呼びしたい方のお一人、ジェリー藤尾氏。この代のカローラのイメージキャラクターを務められた後、2代目タウンエースに転じられます。CMはファミリー揃ってのご出演が多くて、家族と車の関係を解り易く見せてもいますね。
販売の中心だったのは、このハイデラックス。
ここでは4ドアセダンとハードトップが並べて掲載されています。
3,995mmという全長の制約もあってか、セダン系はセミノッチ、ハードトップはファストバックのデザインとなっています。しかしながら、2代目マークIIの反省もあってか、後方視界や居住性への配慮もあったであろうことを感じさせます。
ハードトップは、これだけの開口を確保しながらも、ウィンドゥはフルオープンですから、デザインは相当大変だったはず、とも。
この時期では、安全コロナのセダンが機能とデザインを両立させた秀逸なデザインと思っていますが、このカローラも特にセダンの方はデザインのための犠牲が少なく、オーソドックスながらもバランスのいいデザインと言っていいかと思います。
ハイデラックスのインテリアです。
ここでは当時珍しかった、ブラウン系の配色を見せていますが、実際見かける機会が多かったのは、もう一つの内装色であるブラックの方でした。ブラウンの方が解放感もあり、かつ豪華に映るかな、というのは私感。
ステアリングは3本スポークながら黒一色。センターコンソールは備えるものの、前側のみでシフトブーツも簡素。シートはセミファブリック。
何れも一クラス上となるコロナ等だとGL級ではなくデラックス級の装いとなるのですが、そのどれもがこのクラスではデラックス級との違い、というか一クラス上の高級を感じさせる装備でありました。
後編で掲載するグレード別画像で比べるとより明確となりますが、当時望まれた高級感がここにあったと言っても決して過言とはなりません。
計器盤は埋込式で、センターの空調吹出口は下側ということで、インパネ形状等は70年代様式を感じさせるものです。灰皿と両立させるためか、ラジオの横幅を狭くした形状が珍しく感じます。中期以降は配置が変更されるため、前期のみの特徴ですね。
インテリアやサスペンションの解説頁です。
インパネ形状は70年代様式としましたけれど、運転席に沿ってのラウンド形状がその中でも当時の流行モードでありました。リーチ量の低減や囲まれることによる安心感への回答です。
今でも続くライトとワイパーの一体スイッチは、コロナに続く早期の採用でした。
「室内は、らくらく5人乗り」とありますが、全長4mのFR3ボックスですから、実態はお察し。前席にご夫妻で後席に子供なら、空間は成立していたと言えそうで。今と違って、チャイルド&ジュニアシートの義務化もありませんし。
トランクも今基準とは大違い。シートを倒すこともできませんでしたから、大荷物となる場合は、ルーフキャリアを活用するか、トランクの蓋を少し浮かして容量を稼ぐ、そんな工夫が必要でした。今となっては想像できない方も多そうですが、帰省シーズンの高速道路では、そんな光景が風物詩の一つでもあったのです。
サスペンションは、フロント:ストラット、リヤ:半楕円リーフ、ということで当時の標準。この後は、リヤにコイルスプリング&リンク式のリジットが採用されることが増え、急速に旧態化が進むことになります。
厳しい評価が続きましたので、ここで少し擁護すると、当時の標準がこのあたりにあったとは言えそうであり、購買層からの不満もあまり聞こえてくることはありませんでした。
自動車評論や日本の自動車に一石を投じて話題となった「間違いだらけのクルマ選び」の初刊が刊行されるのは、この翌年となります。
安全や当時の最大の課題であった排出ガス対策の解説頁が続きます。
今に続く連続ウェビング式の3点ベルトの初採用は、実はこのカローラです。残念ながらハードトップはピラーレスとの両立が難しく、それまでの分離式に留まります。この時期には、2名分かつ2点式ながらも後席のシートベルトが法制化もあって標準になっていますね。
ブレーキは、1400デラックスにドラム式が残るものの、後はディスク式を採用。1200の掲載はないため、全車ブースター標準が謳われています。
それでは前編の最後に排出ガス規制の話を少し詳しく。
当時、当面のゴールとなる規制、所謂53年規制の前段階として、通称50年規制への適合が必須となっていました。
そもそも53年規制の数値は、マスキー法の値。それはとてもじゃないが厳しすぎるということで時限措置の希望が自動車メーカーが出され、50年・51年規制が生まれたという経緯があります。その過程では、メーカーと規制省庁のみならず、国会を巻き込んでの大論争となっていたりもして。それぐらいの一大騒動だったわけです。
そんな経緯で生まれた50年規制の適用開始時期は、新規生産車が50年4月1日からで、継続生産車も50年12月1日からとされていました。
トヨタは生産車種が多かったことから、50年規制では後手に回っています。ツインキャブ等、継続生産を諦めた仕様も多数。このカローラも、シングルキャブのみに仕様が絞られていて。
それにも関わらず、50年規制適合車の発表は、1600が同年10月24日で1400に至っては11月28日ですからね。本当にギリギリ。
その裏では、トヨタはカローラに限らずですが、48年規制車を駆け込み生産で大量に販売していることが発覚して、批判されていたりもします。
適合方法は、当時の対策手法の一つだった酸化触媒の追加。酸化の名の通り、空気の供給が必須ということでエンジンで駆動するエアインジェクションの追加もセットでありました。
こうして何とか成立させた排出ガス対策、ご存じの方も多いと思いますが性能としては最低の水準まで低下しています。
エンジンのスペックとしては、1600が100ps→90ps、1400が86ps→78psということで、エアインジェクションの追加に伴い48年対策比で1割減というところですが、当時はグロス値。触媒の追加でさらに1割から2割ぐらいは出力低下していたのが実態と言えます。加えて、点火時期の制御が入ってエンジンの回転落ちは悪い、後付装置で重量も嵩んで燃費も低下という具合ですからね。
さらに、近年になって知ったのですが、後付装置の追加に伴う価格上昇を抑えるために、各車種、バリューエンジニアリング(=コストダウン)が入っていたりもします。判り易いところだと、ハイデラックス系からのドアフレームモールディングの廃止、ドアインサイドハンドルの黒樹脂化等があり、その他にも細かく仕様の見直しがされていたり。
以上を加味すれば、48年規制車を駆け込みで販売したのも、評価こそできないものの心情としては理解できるものがありまして。
書き始めたら、次々書きたいことが浮かんで、とても一回の量では収まらずとなってしまいました。。。
他グレードの紹介等は後編で取り上げることにいたします。