チョコ父のブログ一覧

帰りの電車を降りると深く垂れ込めた雨雲が近づいてきている。
家路を急ぐ気持ちとは裏腹に足取りは重い。
ゆっくりと坂道を登っているとポツポツと雨が降り始めた。
傘はない。
雨は徐々に激しくなってきた。
「仕方が無いか、、、。雨宿りなんてハードボイルドには似合わない。」と呟く。
後ろから人の気配がする。ハイヒールの靴音。
ふと傘を差しかけられた。柄は細く明らかに女物の赤い傘だ。
微かに香水の匂いが鼻をくすぐる。
香水はこれ位が良い。
時はスローモーションで流れる。
傘を叩く雨音。
見ればハッキリとした意思を表した瞳を持つ女性だ。
あまりの事に心臓が高鳴るのを感じた。
「どこのどなたかは存じませんが」と言う間もなく赤い傘は通り過ぎた。
言わなくて良かった。
追い越されただけだった。
時は早送りに流れだした。
チョコ父は相変わらず、ノソノソと歩いて家に向かう。
「ずぶ濡れで歩くのも悪くない。」と呟く。
ハードボイルドを気取るが、先ほどの勘違いが恥ずかしくて仕方が無くなり、家まで息を切らして走った。