1.はじめに
本稿では、スバルが公式には明言していない、今後の電動化戦略について一つの可能性を考察するものである。
ここで述べる内容はスバルの計画を示すものではない。公開されている情報を組み合わせた結果、どのような選択肢が考えられるのかを推測するものである。そのため、事実として確認できること、そこから導ける推論、さらにその先の仮説を分けて考えていきたい。
2.事象一覧
① 自社EVの後ろ倒しと投資再配分
スバルは2026年5月、自社開発EVの投入を後ろ倒しし、電動化投資をHEVを含むICE側にも再配分する方針を示した。
当初スバルはトヨタとのアライアンスモデルと自社開発モデルで計8車種のBEVをラインナップする計画であった。このうち、アライアンスモデルは予定通り発表され、日本ではソルテラとトレイルシーカーが発売されている。なお、アライアンスモデルの残り2車種のアンチャーテッド(小型車)は日本導入が噂されるものの動向がまだ不明であり、大型のゲッタウェイは北米で売られる予定となっている。
さて、ここで気になるのが、大泉に計画されている電池工場である。
パナソニックエナジーとの共同事業として、車載用の「次世代円筒形リチウムイオン電池」を生産する計画があり、2030年末には年16GWhの生産能力を想定している。国の助成も認定されており、環境アセスメントも行われており、単なる構想段階の話ではない。現地で建物はまだ建っていないが、用地の整備が進んでいるのは私自身で目撃した。ただし、これは26年5月の時点で大崎社長のコメントとして検討している最中というものがある。
当初、この電池の主な用途として想定されていたのはスバルの自社BEVだった。ところが、その自社BEVの投入時期が後ろ倒しになった。もちろん、将来的に自社BEVが投入されれば電池の用途は成立する。しかし、電池工場の立ち上がり時期と自社BEVの投入時期にずれが生じれば、中短期的には「生産される電池を何に使うのか」という問題が出てくる。もちろん、外販ルートの開拓やライン立ち上げのスケジュール調整もあるだろうから、いつどれくらい余る予定ともいえない。大崎社長のコメントとして新工場計画について「検討している最中だ」と説明したという報道もある。
スバル、リチウム電池工場新設不透明 ニュースイッチ
https://newswitch.jp/p/49219
なお、この大泉電池工場で生産される電池は、「次世代円筒形リチウムイオン電池」である。パナソニックエナジーが同時期に4680の量産化を進めていることから、これが示している物は、4680である可能性は高いと考えられるものの、確定的な情報はまだないため、本稿では必ずしも4680であることを前提にはしない。
重要なのは、**BEV向けとして計画された大規模な次世代円筒形電池の生産能力が工場の建設が進んでいる形で存在する一方、その当初の主要な受け皿であった自社BEVの投入時期が不透明になった**ということである。
② S:HEVの展開が一巡
スバルはTHSをベースにした自社のストロングハイブリッドであるS:HEVをクロストレック、フォレスター、レイバックへと順次展開してきた。
この順序を見ると、現行S:HEVはSUV系車両への適合を重視して開発された可能性がある。
特に興味深いのがVN型レイバックである。レヴォーグと同じVN系の車体を持つレイバックにはS:HEVが投入された一方、レヴォーグ本体には設定されていない。これに関しては過去にレイバックS:HEVの分析記事で取り扱っている。これは私の
過去記事を参照願いたい。
少なくとも現行S:HEVがそのまま全車種に展開できるシステムではないことは分かる。なぜなら、VN型の主体であるはずのレヴォーグに入れずにレイバックを経由しているからだ。
今後、レヴォーグやWRX S4などにハイブリッドを搭載するとすれば、次期型での対応になる可能性が高い。インプレッサについては現時点では不明であり、BRZはトヨタとの共同開発車であるため別に考える必要がある。
結果として、クロストレック(GU型)、フォレスター(SL型)、レイバック(VN型)という主力SUV系への展開が一巡した。現行世代のS:HEVについては、**主要SUVへの展開が一段落した**と見ることができる。
③ トヨタの第6世代THS
もう一つ注目したいのが、トヨタのハイブリッド技術である。
トヨタは第6世代THSとして、新型RAV4にPHEVを、レクサスESにHEVを投入した。
ここで大きく変更されたのは、必ずしもエンジンそのものではない。
トランスアクスル、モーター、PCU、DC-DCコンバーターなどの電動化側を統合し、小型・軽量化を進めている。RAV4 PHEVではSiCを採用し、バッテリー容量も従来の18kWh級から約22.7kWhへ拡大、EV走行換算距離は151kmに達している。
つまり、第6世代THSの方向性を見ると、**エンジンを大きく変えるというより、電動化側を強化することでHEV・PHEVの性能を引き上げる方向**と見ることができる。このキモとなるSiCは、スバルもアライアンスBEVで取り入れており、一定の知見は持っていて、アライアンスを通じて共用できる立場にいると言えよう。
3.考察
①技術的連続性
トヨタのPHEVとは、ものすごく単純化して言えば、HEVであるTHSをベースに、大型バッテリー(13~22kwh級)と外部充電機能を追加したものである。これによりバッテリー残量があるときはEVとして走行することができ、バッテリーが減ってくればHEVとして走ることができる。このHEVとPHEVもどちらも遊星歯車を用いた動力分割機構を取り入れたシリーズパラレル方式である。
もちろん実際のPHEVは、単純に「HEVへ大きな電池と充電器を追加しただけ」ではない。電池容量の増加に合わせて、モーター、PCU、冷却系、制御系、充電系などを強化する必要がある。しかし、少なくともパワートレーンの基本原理そのものを新規に開発するような存在ではなく、技術的延長線上にあるものである。
スバルのS:HEVも、THSの技術をスバルの水平対向エンジンと縦置きレイアウトに適合させたものである。遊星歯車を用いた動力分割機構をスバル流に組みなおしたものといえる。さらに、四輪駆動方式は、E-Fourではなくプロペラシャフトを用いた機械式AWDとしている。
ならば、このような図式が描ける。
S:HEV←THS→トヨタ式PHEV
要するに技術的連続性があるということである。
スバルの過去を見ると、かつてPHEVを限定的ながら発売したことがある。それがカリフォルニア州で発売されたクロストレックハイブリッドである。これは、現在のS:HEVの前段階となるTH2AというTHSの原理を取り入れたトランスアクスルを用いたPHEVである。現在のS:HEVに使用されているトランスアクスルのTH2Bと比べるとまだ技術的に甘く、PCUを荷室側においていたりしたが、スバルはかつてTHS系技術を取り入れたPHEVを実際に販売していたのである。そのうえで、現在はより発展形のハイブリッド車としてS:HEVを完成させて量販している。こちらは限定販売ではなく、日本や北米などで広く売られているものになっている。
②今ある手札を組み合わせる
ここまでの事象を並べると、一つの構図が見えてくる。
スバルには、
**① BEV用として計画された大規模な次世代電池生産能力**がある。
一方で、
**② その主要な受け皿となるはずだった自社BEVは後ろ倒しになった。**
そして、
**③ THS系の技術を取り入れたS:HEVは既に量産されている。**
さらに、
**④ BEVの後ろ倒しによって、従来想定していた電動化による燃費改善効果も遅れることになる。**
ここから、次のような問いが生まれる。
「用途が不透明な次世代円筒形電池(*生産済みというわけではない)」と「THSを完全に自分のものにしたS:HEV」があるとき、スバルの次なる一手として浮かび上がる合理的選択肢は何か?
私はここに、PHEVという選択肢があるのではないかと考える。
4.CAFE対策という観点
スバルはもともと燃費性能でトヨタなどに対して有利なメーカーではなく、BEVによって企業平均の燃費・排出量を改善することが重要だった。そのため、自社BEVの後ろ倒しは、単純に「BEVの発売が遅れる」というだけではなく、電動化によって企業平均を改善するという戦略にも影響する。
もちろんアライアンスBEVを増やすという方法はある。比較的小型のアンチャーテッドを導入することもその一つだ。しかし、BEVだけでなくベースとなるICE側の燃費を改善するために、HEVを増やすことも必要になる。
実際、S:HEVは主力車種であるクロストレック、フォレスター、レイバックへと展開された。
それでも、車両重量の大きい車種ほど、HEV化だけで燃費を大きく改善するには限界がある。
そこでPHEVを考える。
PHEVはHEVより大きな電池を搭載し、外部から充電することで、日常走行のかなりの部分を電気で走行できる。したがって、1台あたりの燃費改善効果を大きくすることができる。
日本の燃費基準においてもPHEVは通常のHEVとは異なる方法で燃費を算定するため、少ない販売台数でも企業平均への寄与を大きくできる可能性がある。
ただし、実際のCAFEへの寄与は車両重量、燃費、EV走行換算距離、販売台数などによって決まるため、「PHEV一台でHEV何台分」と単純化することはできない。とはいえ、HEV以上の燃費換算効果を出すことができるとは言えよう。
なお、電池工場の生産予定の電池として最大年16GWh分とあるが、これをすべて代行する必要はないと考える。工場のライン立ち上げスケジュールの調整や外販ルートの調整などがあるため、初めから全力で生産するわけでもないと考えられるからである。そのため、生産予定の電池の使い道の一定数をカバーできれば良いと考える。スバルが自社BEVを作れるようになればそちらに振り向けることもできるからである。
5.アウトバックPHEVという選択肢
では、PHEVを作るとしたら、どの車種が考えやすいか。そこで浮かぶのがアウトバックである。
レガシィセダンが廃止され、唯一残されたアウトバックは、もともと持っていたツーリングワゴンの側面とSUVの側面のうち、SUVの側面を強めたBU型が現在アメリカなどで販売されている。
最近はテストカーが日本国内で目撃されたり、イベントでアウトバックのウィルダネス仕様が展示されるなど、国内復活の噂が流れている。現行の米国仕様ではFA24ターボとFB25自然吸気が設定されているが、これをそのまま日本へ復活させるのは、現在のスバルの燃費戦略を考えると難しい。最低でもS:HEV化は必要であろう。
しかし、アウトバックはフォレスターより大きい。同じS:HEVを搭載したとしても、フォレスターほどの燃費性能を期待することは難しい。そこで、「大きな車体を利用して大容量電池を搭載し、PHEVとして電動化率をさらに高める」という考え方が出てくる。
アウトバックなら、
* 車体が大きく電池搭載スペースを確保しやすい上に、スペースに余裕があるのでスバル独自のAWDやパッケージングを試す車種として使える
* 最上位車種として高価格帯でも成立させやすい
* PHEVを入れるにあたってフォレスターと差別化できる
* 成功すれば将来的にフォレスターなどへ展開できる
という条件がある。
すなわち、PHEV化によるスペース確保と高価格化、Cafe規制対策を同時に成立させられる土台があると言えよう。
6.大容量電池を機械式AWDにどう搭載するか
もちろん問題もある。S:HEVはプロペラシャフトを用いた機械式AWDであるため、車体中央部にセンタートンネルが存在する。大容量バッテリーを床下に敷き詰めるBEVとは、パッケージングが異なる。
しかし、スバルは過去の特許で、プロペラシャフトを維持しながら車体中央部や床下にバッテリーを配置する構造を検討している。
US9096117B2/JP5483293B2、US9085226B2/JP5483756B2、US20100307848A1、US10399425B2 / JP6475270B2、US12347881B2などがその例である。
もちろん、特許が存在することは、その構造が実際のPHEVに採用されることを意味しない。しかし、「機械式AWDだから大容量PHEV電池は搭載できない」と単純に考える必要もない。クロストレックハイブリッドでは荷室部分に8.8kwhのバッテリーを積んでいたが、PCUと合わせてスペースを占有したため、荷室の使い勝手を大幅に損なっていた。これを解決する知財的なベースがあるといえる。
仮に搭載可能なバッテリー量が少なかったとしても、SiCが効いてくる。要するにバッテリーにためた電気を仕事量に変換するインバーターを効率化し、同じ仕事量ならより少ない電力で実行できるようにできる。
7.電池の性質はどうか
ここで、大泉電池工場の「次世代円筒形」という言葉が出てくる。
この電池が4680なのか、それとも別のセルなのかは現時点では確定していない。ただし、今回の仮説ではそこは本質ではない。
重要なのは、**BEV向けとして計画された次世代の大容量電池を、大規模に生産する能力がある工場を建てているのに、そのメインの使い道のスバル自社EVが後ろ倒しになった**ということだ。
HEV用バッテリーは、頻繁な充放電に対応する高出力特性が重要になる。一方、PHEVやBEVでは、より大きなエネルギー容量を確保することが重要になる。
すなわち、出力型(HEV)と容量型(BEV)で求められるバッテリー特性が違うということである。そのため、この生産予定の大泉電池工場のバッテリーは、BEV向けならば大容量・高エネルギー密度を狙った設計と考えられるため、HEV向けとしては見合わない。
しかしPHEVなら、大容量電池の利点を活かしながら、エンジンとハイブリッドシステムを残すことができる。もちろんPHEVは中間特性が求められるために単純ではないが、BEV用のバッテリーセルの流用先を考えるのにHEVよりは適しているといえるだろう。
8.販売ポートフォリオとして
サイズ・車格の面では、事実上の国内におけるアウトバックの後継車はBEVであるトレイルシーカーとなっている。日本の多くの世帯が集合住宅に住んでいて充電環境がないことや、雪国におけるBEVへの不信感もある中で、PHEVという選択肢は、駆動用バッテリーの残量が低下してもHEVとして走行することができるという点で一定の顧客訴求力を持つ。もちろん充電環境がないユーザーにとっては燃料費低減につながるかという点ではHEVに劣る部分もあるだろう。しかし、BEVでないという点が大きいと考える。充電という一つのソースに頼らないということ。日本にいまだ多くくすぶるBEVに対する疑念に対して、一つの回答となるのではないだろうか。集合住宅の層には訴求しにくいが、戸建て比率が高く冬の不安も大きい地方では、充電できてBEVより安心な選択肢になりうるだろう。ましてスバルは全領域性のイメージが強くあるメーカーである。燃料でも走れるし、充電すればモーターでも走れるという点は、そのメーカーの色とも合致しやすいのではないだろうか?
9.まとめ
ここまでの事象を整理すると、
1. スバルは次世代円筒形電池を大規模に生産する計画があり、大泉町に電池工場の建設が進められている。
2. 当初、その主要な用途として自社BEVが想定されていた。
3. しかし、自社BEVの投入時期は後ろ倒しになった。
4. 大泉電池工場で生産予定のバッテリーの使い道が不透明となっている。
5. 一方で、S:HEVはすでに量産され、THS系のハイブリッドシステムをスバルの水平対向エンジンと機械式AWDに適合させる技術基盤が存在する。
6. トヨタでは、同じTHS系の基本原理を使ってHEVからPHEVへ発展させている。
7. 自社BEVの後ろ倒しによって、電動化による企業平均燃費の改善という面でも新しい手が必要になる。
ここから、
**生産予定の大容量電池の受け皿**
**S:HEVの次の展開**
**BEV後退分の電動化**
という三つを同時に満たす選択肢として、PHEVが浮かび上がる。
そして、
**大容量電池を搭載できる車体**
**高価格を許容できる商品性**
**比較的少ない販売台数**
**AWDとの親和性**
**将来的な他車種への展開**
という条件を考えると、アウトバックが適するのではないかと考察できる。
もちろん、これはスバルがPHEVを開発していることを示すものではない。
電池工場の計画が変更される可能性もあるし、ライン立ち上げのスケジュール等もあるだろう。BEVの投入時期が再び前倒しされる可能性もある。次世代HEVの開発やアライアンスBEVの拡大など、電動化には別の解も存在する。
それでも、上記に上げた事象を並べたとき、PHEVという選択肢が浮かび上がるのは不自然ではないのではないだろうか?
スバルが実際にこの道を選ぶかどうかは、公式情報がないので分からない。
本稿は、現在のスバルを取り巻く状況から企業分析を行ったものである。
何なら私の妄想とも言ってもよい。
スバルの将来像はいずれ公式発表があるであろうが、現在の状況から見た私の考察を一つの読み物として楽しんでいただけたら幸いである。