2021年07月04日
「パパ上~」
「ちょーっと面貸してちょうだい」
能天気なその声と共に、首根っこ掴まれた俺は、ずるずると引き摺られていった。
連れ出したのは、例によって朝倉真琴と日野結衣の二人だった。
「なんだってんだよもう・・・」
「まーまー」
「すみ姉には、ちゃんと許可取ってるから」
「なんだ、その許可って! 俺は虹口さんの所有物か!」
「似たようなもんでしょ」
あんたこそ何言ってんの?
朝倉の目はそう言っていた。
「むぅ・・・」
それに対し、ある程度自覚のある俺は、何も言い返せなかった。
「さてと、ここまで来れば十分か」
連れていかれたのは、大学横を流れる女鳥羽川の河川敷だった。
「ったく何の用事だ? こんなカツアゲみたいなことしやがって」
「んなことするわけないでしょーが。すみ姉のことよ」
ビシッと真琴が指をさす。
「なんでまた虹口さんの?」
「パパ上さ、来月がすみ姉の誕生日だって知ってる?」
「誕生日?」
とっさに俺は愛用のタブレットを持ち出して、連絡先を探した。
記憶力が悪いと自覚している俺は、友達どころか家族の誕生日もマトモに覚えていない。それ故、連絡先に誕生日情報を合わせてまとめている。
「9月12日・・・もうすぐじゃねーか」
「なんだ、知ってたの?」
「いや、この反応、聞くだけ聞いて、忘れてたオチでしょ」
「うむ。完璧に忘れていた」
「忘れていた、じゃないのよ」
あきれている真琴。
「ここで聞いたからには、ちゃんとしてもらわないとね」
「何をだ?」
首を傾げる俺に対し、結衣があきれ半分怒り半分といった表情で指摘した。
「あのねー、彼女の誕生日だって言ったらプレゼントの一つや二つ用意するもんでしょ」
「いや、彼女じゃないんだが」
「そういう答えは聞いてない! でも実際、パパ上すみ姉のことどう思ってんの?」
「どうって、そりゃまあ好意はあるけどさ」
「好意は良いんだけど、それで満足してるわけ?」
「満足?」
怒り気味の結衣に対し、真琴が諭した。
「あのね。あんたたちの今の関係は、友達以上恋人未満ってやつなの。男側としちゃ気が楽なんだろうけど、女側はそうじゃないのよ」
「要するに、いい加減関係性をはっきりさせて、すみ姉を楽にさせてあげなさい、ってことよ」
「関係性をはっきりさせる・・・」
「そ。友達以上恋人未満、とはよく言うけど、それって女の子にとってはとっても不安になるものなの。自分と彼との関係は何なのか。それって結構悩むものよ。すみ姉は、ああいった性格だから、自分から何かを求めるってことをあまりしないでしょ? でも、それって自分の中に色々溜め込んじゃうのと同じことなのよ」
「友達なのか、彼女なのか。それが分からないから、どこまで甘えて良いか分からない。それは、すみ姉からのSOSみたいなもの。パパ上、それ気付いてた?」
「・・・全く気付いてなかった」
「でしょうね。パパ上、自分の好きなことは主張するけど、相手の感情に踏み込んでこないタイプだもんね」
「この際ハッキリ聞かせてほしいんだけど、パパ上はすみ姉のことどう思ってる? 本気で好きなら、今のままの生温い関係じゃダメ。いつかすみ姉どっか行っちゃうよ」
「付き合うってことは、相手を自分に結び付けておくってことでもある。すみ姉のこと本気なら、ちゃんと掴んでおかなきゃ」
二人からの怒涛の指摘にハッと気づく。
言われてみれば、確かにその通りなのだ。
彼女のやさしさに甘えて、今のような関係になっていた。
ご飯作ってもらったり、掃除してもらったり。
しかし、そのままではいけない。
二人の言う通り、ちゃんと繋ぎ留めておく証が必要なのだ。
「・・・そうだな」
「理解したみたいだね」
「ああ。ありがとな、二人とも」
自分のやるべきこと。それがハッキリと分かった。
指摘されなければ気付けなかったのは情けないことだが、言われたからには行動するしかない。
「お礼はご飯でいいよ?」
「あんたすみ姉にも同じこと言ってたじゃない」
遙乃に対して同じことを言っていた真琴に呆れる結衣。
「どんだけ腹減ってんだw」
俺も突っ込み返さざるを得ない。
「まあでも、すみ姉を頼んだよ」
「分かったよ。9月12日か、まだ何とかなるな・・・」
いろいろと決意した俺は、一路家を目指した。
続く
Posted at 2021/07/04 19:17:17 | |
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