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屋根野郎のブログ一覧

2022年04月29日 イイね!

艦隊これくしょん -艦これ- 〜佐伯泊地の日々〜 提督の帰郷編♯1

艦隊これくしょん -艦これ- 〜佐伯泊地の日々〜 提督の帰郷編♯1皆さん、おはこんばんちは!
Σ∠(`・ω・´)

そして、同業の皆様、本日もお疲れ様です!

尚、過去作は下記のURLで開いていただければ、このみんカラ内のブログとして掲載されている物が閲覧できますので、もし宜しければどうぞ〜(_ _)


プロローグ ♯1 午前編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44104145/

♯梅雨の日編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44223073/

♯夏の黄昏編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44271814/

♯夏休暇 初夜編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44785551/

♯夏休暇 1日目♯1
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44889139/

♯夏休暇 1日目♯2
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45141124/

♯夏休暇 2日目
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45185889/

♯夏休暇 3日目
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45796679/

♯冬編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45826901/

♯提督の誕生日編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/46027975/

♯提督の覚悟編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/46028128/


毎度ながらの超長文となりますが、気長にお付き合いくださいませ…。

今回のお話は
2022年冬〜初春に開催されたイベント
”発令!「捷三号作戦警戒」”
が終わり、怪我で入院した提督がその日に泊地に舞い戻り、暫くしてからのお話となります。

前回同様、グレー・連想させる表現を用いますので、ダメな方は読まないでね(笑)


基本この泊地の艦娘は、提督好き好き設定でヨロシクです!

尚、この作品は 艦隊これくしょん - 艦これ - の二次創作であります。

キャラクターの人物像も公式を参考にして、著者が独自解釈したものです。

これらを踏まえた上で、お読みになってくださいませ…。


〜今回のメイン登場人物一覧〜

☆提督 
人間 男 20代後半 海上自衛隊出身
任官直前の適性テストの末 艦娘を指揮する提督に着任。(妖精判断なので、基準は不明)

機械弄りと工作が密かな趣味。
多少の事なら自分で治してしまう。

隠れオタク。たまにその片鱗の顔を覗かせる。

多趣味。
守備範囲の広さに驚かれる事もしばしばだが、本人曰く
「何事も興味からの実行の結果。本物から見ればただの器用貧乏」
と苦笑する。

ごく偶にキレると制止してくる艦娘すら引き摺る火事場の馬鹿力持ち。

初の嫁艦は榛名。


☆金剛型 戦艦 3番艦 榛名(改二)
艦娘 嫁艦(練度151) 帰郷に同行

出会って0.1秒で提督の好みにぶっ刺さった健気な強者。
※ちなみに練度も泊地最強。

普段は遠慮しまくりだが、実はそれが姉妹であっても、目の前で提督と仲良くされるのは面白くない、独占欲は強めな娘。
※だが反応が可愛いのがわかっているので、周りも程々で止めてくれる。

もう隠すことなく料理の修行を積んでいる(鳳翔談)

先の一件で、提督に対しての感情を隠すのを辞めた(2人きりの時限定)
誰にも手が付けられない程の溺愛具合。


☆阿賀野型 軽巡洋艦 矢矧(改二乙)
艦娘 嫁艦(練度141) 帰郷に同行

能代同様改二に改装後、覚醒した重巡級スペック軽巡洋艦。
※色んな意味で。

…実はさり気なく提督の好みにぶっ刺さってた娘。

普段は礼儀正しくも強者感漂う風格を滲ませるが、いざ戦闘から離れると、意外とおっちょこちょいな1面を見せる。
※最新鋭の姉成分は絶賛継承。

今現在、提督が釣り好きなのを知っている泊地内唯一の艦娘である。

提督の事を想っており、先の一件以降素直になり、公私がはっきりして、周囲からは優しくなったとよく言われる。
※ただし訓練時は鬼の二水戦仕込の厳しさ。


☆金剛型 戦艦 2番艦 比叡(改二)
艦娘 嫁艦(練度121) 帰郷に同行 

初めて提督の元に着任した金剛型故に、付き合いも長い。

高速戦艦の手返し良さと高火力で他の姉妹同様に、各海域で活躍してくれる頼れる金剛型の元気っ娘枠。

本当は金剛型四姉妹の中で1番料理が得意な娘。
※だって御召艦だもの。

メシマズに傾倒したのは、応用の下手さ故。
相当提督に矯正された模様。

提督の事は金剛と同じ位、大好き。
提督も異性と認めているが、比叡からのアプローチが自然の和み系なので、実は提督の中ではオアシス的な存在。


☆特Ⅰ型(吹雪型)駆逐艦 1番艦 吹雪(改二)
艦娘 嫁艦(練度107) 帰郷に同行 

提督の良き理解者の1人。
多くの駆逐艦だけに留まらず、持ち前の前向きな姿勢で、引っ張る精神的な土台となる娘。

駆逐艦勢で初めての指輪を贈られた。

真面目、常識人。

何かと提督の事を気に掛ける為、よく小ごとを引き受けたり、秘書艦代理をする割となんでも屋のような立ち位置だが、基本遠征や小型艦編成限定海域で旗艦かその補佐に回る。

最近夢中になってる事は、古鷹に分けてもらったメダカでメダカの飼育と繁殖。

提督の事は尊敬・敬愛の対象。


☆大和型 戦艦 2番艦 武蔵(改二)
艦娘 嫁艦(練度111) 今週の秘書艦

下縁角メガネ・褐色肌・銀髪・イケメン武人・高身長・ナイスバディ、1つの個体に属性てんこ盛りの最強戦艦の1人。

以前、執務中は筆書き派だったが「達筆過ぎるのも考えもの」と大和に言われて、妥協で万年筆を使っている。
※尚、ボールペンは書き心地が性に合わないらしい。

基本攻め達磨なので、その圧倒的な存在感で相手を組み伏せるが、優位だと思っていた相手に逆に攻められると、守りに慣れていない分すぐにボロが出てしまう。

提督の事は爆撃事件以前は弟のように思っていたが、先の一件で提督が覚悟を決めた時から異性として見るようになった。



その他の人物も登場しますが、大筋の登場キャラはこちらになります。


それでは始まります。
「艦隊これくしょん-艦これ- 〜佐伯泊地の日々〜 提督の帰郷編」

……………
…………
………
……


2022.4.12 佐伯泊地

爆撃被害からちょうど1ヶ月程経った佐伯泊地。

窓ガラスが片っ端から割れた建屋と、爆撃で開いた大穴はキレイに直され、あの時の風景とは見違えるようになっていた。

提督の怪我の治癒も順調で、本調子ではないものの、執務も少しづつこなすようになってきた。

…その中でも変化があった。

………
……


佐伯泊地 局地戦闘機練習飛行隊飛行場


提督「…」ジー


…さて、我、絶賛、暇ナリ。


執務室を有志の嫁艦達に追い出された(仕事を横取りされてさせてもらえない)提督は、怪我で動けなかったリハビリがてらに、泊地内を散策していた。


武蔵「…これより、高高度爆撃機に対する訓練を開始する、妖精の各員、後がないと死ぬ気でやってもらいたい!…総員!配置につけ!」

局地戦闘機付妖精パイロット
「「「「「応ッ!!!」」」」」


…提督が基地内に作った局地戦闘機用の滑走路の有効利用として、当分の間、ここを局地戦訓練飛行隊基地としての運用が決まったのだ。

今回の不意打ちに対して、大本営は重く受け止め、局地戦闘機付妖精パイロット達の育成を先行して進め、他の泊地に飛行隊を配備するべきだと言うことで、佐伯泊地の”自前飛行場”が取り上げられたのだ。

…が、提督曰く…。


提督『…え?基地設営隊が1個余ってたから、遊ばしてるくらいならって思って、基地内に作っただけなんですが…』


…とか


提督『…後ろには身近に応援してくれている佐伯市の皆さんも居ます…自分は泊地を護ると同時に佐伯市の皆さんを守る義務がありますので…』


…と言ったそうだが、それは後者の理由以外はオフレコードとなっているのは、完全な余談である。

………
……


武蔵「私が放った対空砲火が止んだ隙に、目標を撃破せよ!撃墜判定までの時間は早ければ早いほど良い!…撃墜までの時間が遅かった者は覚悟しておけ!…ん?」

提督「…お、バレた」


武蔵に見付かったので、手を上げた。

…すると武蔵は目線の高さまで右手を上げて会釈してくれた。

…まったく会釈1つとっても、いちいちイケメンな艦娘である。

…武蔵が対空砲火役を買って出てくれて助かるな…。

いつもの頭部艤装に変わってヘッドホンマイクを装着している。

…前の防空戦で屠龍との連携が取れなくて苛ついていたのもあるのかもな。
身の入れようが違う。

役を買ってくれた時に、武蔵に聞いたことがある。


提督『餅は餅屋、対空の得意な娘に任せてもいいんじゃないかい?』

武蔵『…確かに摩耶や秋月達程の防空の才能も技量も、今の私にはない。…だが手を拱いて居られる程我慢もできんタチでな。私には人の身体を得た故に、自らの力で練度を高められるし、貴様が整えてくれた環境もある。…やらない手はないだろう?』


…声を掛けたいところだが本人がやる気満々な上に、他所の飛行隊も訓練も来てるから、しゃしゃり出るのも気が引けるな…。

他も見て回るか…。


提督「…」スタスタ

武蔵「…ふふ…いらぬ気を遣いおって…また後で…な?」

………
……


佐伯泊地 A海岸 航空母艦艦載機離着艦訓練水域


加賀「秋月と照月は敵の攻撃に見立てて、五航戦の2人の発艦の妨害を…五航戦は妨害を受けながら、あのゲートにめがけて艦載機を射なさい…いいわね?」

秋月・照月「「了解!」」

翔鶴・瑞鶴「「了解!」」

加賀「制限時間は30秒…始め!」

秋月「撃ち方始めっ!」


ダンダンダンダンッ!

秋月型2人の長10cm連装高角砲から、早い連射レートで、訓練弾が放たれる。

翔鶴と瑞鶴は、水面を滑走しながらジグザクに躱す。


翔鶴「…フッ!!」ザザッ!

瑞鶴「派手にやってくれるじゃないっ!」キリキリ…

照月「させません!」


ダンダンダンッ!

ヒュン!ヒュン!ビスッ!


瑞鶴「いったっ!」

翔鶴「っ!瑞鶴!秋月ちゃんにも気を付け…きゃっ!」


ビスビスッ!


瑞鶴「いったぁーっ?!」


………
……


ピピーッ!


加賀「…30秒よ」

瑞鶴「ゼェゼェ…ちょっと!邪魔するだけじゃないじゃんっ!秋月達めっちゃ当ててくるんですけど!」

加賀「貴方はいつも装甲に甘えて回避が甘い…現に翔鶴は被弾してないじゃない…それに敵だって当てに来るのだから、撃つ側の秋月達も当てに来て当たり前よ」

瑞鶴「…うぎぎぎぎぃ〜!」

提督「…」ジー


…ま、普通の空母はダメージが中破相当になると、甲板が潰れて、攻撃出来なくなるしな。

運用上、基本回避が前提だから、加賀の方針が正論。

装甲至上主義による思考の雑化は命取りだ。


瑞鶴「〜っ!や、やりゃいいんでしょ!やりゃっ!」

加賀「…という訳だから、秋月、照月、容赦なく当てに行きなさい」

秋月・照月「「り、了解しました!」」

提督「…」ジー


…瑞鶴のヤツ…アザだらけにならなきゃいいけど…。

…秋月砲こと長10cm連装高角砲の改修☆MAXはめっちゃ当たるからな…。

正規空母時代の慎重さを思い出すのには、少し時間がかかりそうだな。


瑞鶴「痛ったぁーっ?!」

翔鶴「瑞鶴落ち着いっ!いたっ!」

加賀「…はぁ……あ」

提督「…おお、また見付かっちった」


今度は加賀に見付かったので、手を挙げる。

加賀はちゃんとこちらに身体を向けて、お辞儀をしてきた。

………
……


瑞鶴「…よしっ!今回は時間内にゲート通過!」

加賀「…被弾したからやり直し」

瑞鶴「えぇーっ?!」

加賀「そんな1、2回で終わるとは言ってないわ…応用と反復練習よ」

瑞鶴「…っ!…やってやるわよっ!」

翔鶴「瑞鶴、もっと連携を意識しましょう!」

提督「…」


2人共…頑張れよ。


提督「…」スタスタ

加賀「…(声を掛けてくれても良かったのに…)」ジー

瑞鶴「ほらっ!早く笛鳴らしてよ!」


………
……



佐伯泊地 B海岸 戦艦・重巡・軽巡・駆逐 射撃演習水域


提督「…」


…ドォォォォォン………

岸壁から結構距離は離れているが、砲声はここまで轟いている。

今は戦艦勢の射撃訓練中のようだ。

………
……


榛名「…右舷敵艦見ゆ!反行戦!合戦用意!」

比叡「こっちも視認!目標6!単縦陣で敵旗艦速力25ノット!」

長門『それでは10本目…これで最後だ。最大戦速でパイロンの7個目までに砲撃せよ!回避運動と同時照準訓練開始!』


訓練には戦艦達がペアになって、海上で待機しており、榛名と比叡の訓練の様子を見ていた。

その一団から少し離れた海上に長門が、大きめのタブレット端末を左手に持って、指示やリザルト報告をする審判役をしていた。

…もちろんこんな弾薬を湯水の如く使う訓練を毎日やってるわけではないが、保管期間の切れそうな弾薬の消化も兼ねているので、定期的にやっている。

…そんな事を考えていたら、榛名と比叡がパイロン群に突入していく。


榛名「…っ!」

ランダム配置のパイロン群「プカプカ…」


ザバッ!ザザッ!ザバッ!


比叡「敵艦より砲撃!回避しつつ最大戦速を維持!照準を続けます!」

ザババッ!ザバッ!ザバッ!


最大戦速で突き進む榛名と比叡の進路上に配置された等身大サイズのパイロンを、アルペンスキーのように躱しながら、照準を合わせていく。

…もちろんその躱すパイロンも定点じゃなく、微妙に動いているが、榛名も比叡も身体を目一杯倒して切り替えしてを繰り返し、接触ギリギリを交わしていく。

…7つ目のパイロンまであと3つ…。


榛名「…もう少し…!」ギラッ

比叡「…捉えた…!」ギラッ


…7つ目のパイロンまであと2つ…。


榛名「…主砲斉射よーいっ!」ガコン…

比叡「…っ!榛名、前っ!」

動くパイロン「スゥ~…」

榛名「…っ!」


ザバンッ!

…そのまま進めばパイロンと衝突コースだった榛名は、次の瞬間水面を蹴って飛んで、パイロンを飛び越えた。


比叡「ナイス榛名!」


…7つ目のパイロンまであと1つ…。


榛名・比叡「「…全門…斉射!!」」


ダダァァァァァンッ!!

榛名はそのまま空中で、比叡は榛名が飛んで躱したパイロンを高機動で躱しながら全門斉射。


榛名「…くっ!」ブンッ!


榛名は撃った反動で身体ごとふっ飛ばされる。


榛名「…ふっ!」シュパパッ!


…が、体操選手の床競技のように姿勢をコントロールして、手足を張り出して身体を側転やバク転を駆使して水面を跳ねながら、反動を相殺して体制を整えてから着水。

そのまま最大戦速を出しながら目一杯身体を倒して舵を切って規定のコースに榛名は戻って行く。


比叡「…弾着まで10秒…」


ザバッ!ザザッ!ザバッ!

着弾までひたすらパイロンを交わし続ける2人。

…パイロン群から抜けた…が、最大戦速は維持している。


榛名「…弾着まで5秒…4…3…2…1…」

榛名・比叡「「…弾着、今!」」


ドッパァァァァァァァン………ッ!

放たれた砲弾は、吸い込めれるように単縦陣で進む敵艦隊を模した的の周囲に大きな水柱を作り、その水しぶきは的の姿をかき消した。

………
……


長門「…目標6に対して、命中3!」

比叡「はぁぁぁ〜っ!このコース厳しーっ!」ハァ…ハァ…

榛名「はぁ…はぁ…ふぅ…」

長門『…命中率は通し10回の全体で65%だ』

榛名「…70は行きたいですね」

比叡「だねぇ〜…まだまだ修正がいるなぁ…」

長門『2人共お疲れ様、小休止にしてくれ…映像と詳細は後でそちらの端末に送るので、確認しておいてくれ…では次、サウスダコタとワシントンだ…配置に付いてくれ』

サウスダコタ「…ヒュー…普通あんなに当たんねぇって…コンゴークラスの命中率は皆イカれてやがるな…足引っ張んなよマイティー」

ワシントン「…誰に口を聞いているのかしら?貴方こそ足を引っ張らないでよね、ダコタ」

長門『…準備はいいな?これより10本連続で同様の訓練を行う!…状況開始!』

提督「…」ジー


…まさかここまで無茶苦茶な訓練に化けていたとは…。

…元々、俺が普通の砲撃訓練より、もうちょっと実戦寄りにしてみたらどうかとか、口を挟んだらいつの間にやらこうなり、あれが足りないこれが足りないで今の形になった。

…これだけ派手に動いてあれだけ当てられるって、相当すごいんじゃ…。


榛名「…あっ…提督!」ビシッ!

比叡「お疲れ様です!司令!」ビシッ!

提督「今日はよく見付かるなぁ…お疲れ様」ビシッ!


小休止に入っていた榛名と比叡が、いつの間にやら提督が立っている岸壁まで戻ってきていた。


比叡「…司令、こんなところで何やってるんですか?執務はどうされたんです?」

提督「…執務室を追い出される基地司令官ってどう思うよ…?」

比叡「あ、あはは…」

榛名「提督はすぐに無茶をなさるので、皆さんと話し合った結果です…当分は大人しく榛名達にお任せください」ペコリ

提督「…という訳で、もうちょいゆっくりさせて貰うよ…」


…まあ、それが約束だったしな…。


提督「…しかし、2人共、あんな高機動で動きながらよく当てられるなぁ…」

榛名「あぅ…お恥ずかしいです…全弾命中には程遠いので…」


…うむ、少し褒めてあげるといつもの調子。

謙遜して照れるのは榛名のデフォルトである。

…シレッと言ってることはすごいけど。


提督「…いや、普通に考えても全弾命中て無理だろ…」

比叡「でもこんなメチャクチャな設定の訓練のお陰で、実戦でも活きてますから、強ち間違った訓練じゃないですよ〜」

提督「…現場の君達が効果を実感しているなら良いんだけど…」

比叡「…?…あっ!この訓練に口出ししたのって司令だったんですかぁ?!」

提督「確かに最初は俺だけど、こんな変態仕様になってるなんて知らなかったよ…」

榛名「ふふ…変態…そういうことですね」

提督「…この頭おかしい難易度にした犯人は明石か夕張じゃね?」

比叡「…あぁー…(察し)」


…何故かそこに居る3人共が、同一人物の顔が頭に浮かんで、同じ方角の空にドヤ顔でサムズアップする、明石と夕張が見えたような気がした。

…取り敢えず2人して農家さんの『私が作りました』みたいな顔すんのヤメロ…。

………
……


同時刻 佐伯泊地 工廠

明石・夕張「「…ふぇっくしゅーんっっ!」」

………
……


佐伯泊地 C海岸 水雷戦隊訓練水域


提督「…」ジー


…ここは水雷戦隊専用の区画…主に僚艦との連携や陣形を確認や、もちろん射撃や雷撃も実施する。

主砲の射程もそこまで長くないので、他の区画よりは狭いが、軽巡や駆逐艦の機動性を確認するためには、十分過ぎる区画を設けていた。


矢矧「…そこっ!動きがまだ甘いっ!もっと反応を早めてっ!」

浜風「…っ!了解っ!」ザッ!

冬月「…くっ!…うわっ!」グラッ

矢矧「…違うっ!やり直しっ!」

磯風「はぁ…はぁ…まだ足りない…」

吹雪「は、はひぃ〜…」

神通「…矢矧」

矢矧「…!はいっ!何でしょうか?」

神通「…手本を見せてあげて」ニコッ

矢矧「…承知しました」スゥ…

浜風・磯風・吹雪・冬月「「「「ひ、ひぇ…」」」」

提督「…ふむ」


…あの一件以来、矢矧の容態も安定している。

今日も切磋琢磨を怠らず指導と自らの鍛錬も怠ってたない。

周りの仲間のお陰だな…この様子なら大丈夫だろう。

………
……


矢矧「…全員小休止!20分後また再開します!」

神通「…矢矧、小休止の間に1つ手合わせをお願いできる?」

矢矧「承りました…全力でいきます」

神通「…いい心構えよ…勝負は時間一杯でいい?」

矢矧「もちろんです」

神通「…楽しみましょう?」スゥ…

矢矧「…望むところです」スゥ…

提督「…!」ゾクッ


…凄いな…あの2人の放つ空気感。

まるで剣客の果たし合いを見ているようだ。

開始早々から動きも、走るわ飛ぶわ跳ねるわ体術と砲撃に雷撃を織り交ぜるわで、もはや動きが人間業ではない。

先程の戦艦の高機動とは、また違った変則的な動きだ。

お互いの放った訓練弾が、周囲に水柱を次々と作る。


神通・矢矧「「…ふふ…ふふふ…」」ニィ…

提督「…」ブルッ


…しかも手合わせ中、何か物騒な感じに顔がニヤけていて、怖い…。

…こりゃたぶん時間内に勝負つかんぞ…。

真剣勝負の邪魔しちゃ悪いし、退散するか…。


ダァンッ!!


神通「くっ!」ヒュッ!(至近距離 砲弾スレスレ回避)

矢矧「……あっ!」(撃った砲弾が神通の避けた先にいる提督めがけ一直線)


…ヒュゥゥゥゥ…

…ビスゥッ!!


提督「ア”イ”タァ”ーーーーーッ!!」
ア”ーッ!ァ”ーッ!…ァ”ーッ!…ッ!…!

神通・矢矧「「っ?!」」ビクッ!!

浜風・磯風・吹雪・冬月「「「「…っ!!」」」」ビクッ!


踵を返して立ち去ろうとした途端、提督のおしりの右寄りに、矢矧の放った訓練弾が吸い込まれるように命中した。

そして、提督は右手で被弾した右お尻を押さえ、左手を空にかざして、背中を仰け反らせ”撃たれましたポーズ”を取って両膝を地面に付いた。

………
……


ご…

ゴム弾…地味に…いてぇ…

…バタリ…

気が遠くなりそうな痛みを感じながら提督は、そのまま堤防に倒れ込むのであった。


提督「お”、お”ぉ”…お”か”ぁ”〜さ”ぁ”〜ん”…」ジンジン…


…何となしに痛みにビク付きながら、出た第一声が何故かそれな提督であった。


倒れる寸前に右お尻をチラ見したが、血は出てなさそうなので、せいぜい腫れてるくらいだろう…。

…あぁ…もう…絶対後で矢矧が気にするやつじゃん…。

…去年の盆休みの時と言い、俺と矢矧って相性悪いのかなぁ…。


………
……


神通・矢矧「「申し訳ありませんでしたっ!」」

提督「…こちらこそ、勝負の腰折っちゃってごめん」


提督が倒れ込んで10数秒後、バタバタと陸に上がってきた教官2人と駆逐艦達が駆け寄ってきたが、到達前に提督はスクっと立ち上がってみせた。

「いやー痛かったわー」と軽い感じで受け答えをして矢矧が気にしないようにするが、中々引き下がらない。


…しっかし距離あってかなり威力が減衰してて助かったぁ…。

…地味にまだひりひりする…。

訓練用のゴム弾とはいえ、砲は実戦で使う艤装だしな…。


矢矧「…ほ、本当にごめんなさいぃ…」

提督「穴開いてないからオッケーオッケー、蜂に刺されたようなもんだ」

矢矧「…うぅ…」


…やっぱりまだ「納得いかない」みたいな顔してるな…。

ホントに気にしなくていいんだけど…。


提督「…ていっ」


…ビスッ!


矢矧「あいたっ!」


…取り敢えずデコピン入れとくことにした。


提督「はい、これでおあいこ。…それでは引き続き訓練の方を宜しくお願いします」

矢矧「…は、はい」

神通「…ありがとうございます!」

浜風・磯風・吹雪・冬月
「「「「ありがとうございますっ!」」」」

矢矧「…」(おでこさすり)

神通「(流れ弾とはいえ、当ててしまった事がショックだったのね…フォローしてあげないと…)」

………
……


1250時 佐伯泊地 司令部棟 執務室


武蔵「はっはっはっ!それ災難だったなぁ!相棒よ!」

提督「…災難っちゃ災難だけど、皆あれを受けてるんだなって実感もあったし、あれはあれで経験としては良かったのかも…」


昼食後、執務室に戻っていた提督と今週の秘書艦を務めている武蔵に、午前中の出来事は運が悪かったと笑われてしまったところてある。


武蔵「まぁ、あの2人なら勝敗は紙一重だろう…相棒は蜂に刺されたようなものだ。…おお
そういえば提督よ…先程、便箋が届いたぞ、確認してくれ、佐世保からだ」

提督「…ん、来たか」

武蔵「…?何か打診していたのか?」

提督「…いや、色々決めたことが最近あったし、両親に報告がてら身辺整理も兼ねて、久し振りに里帰りの出来そうな期間はどこかを中将閣下に打診してたんだ」

武蔵「…なに?泊地を留守にするのか?」

提督「ん〜、そうなるね」

武蔵「…私は昨日から秘書艦なんだが…?」

提督「留守にする日から一週間分ずらす方向で調整してるよ」

武蔵「…つまり私は同行する者ではないということか…」

提督「…ごめん、もう里帰りを考えた時点で、誰を連れて行くかは決めてたんだ」

武蔵「…そうか、相棒がちゃんと考えていたのならいいさ…ここでゴネては大和型の沽券に関わるからな…ただし…」

提督「…?」


武蔵は提督に対して、両手で提督の両頬を包み込んで、キスでもするのかという距離まで顔を近付けた。


武蔵「…貴様が帰ってきた週…埋め合わせをしっかりしてもらうぞ…当然…相棒は私を可愛がってくれるんだろう?」

提督「…もちろん」

武蔵「…いい面構えだ…もっとも、私が貴様を可愛がってやるがな…くくく…」

提督「…武蔵…」


主導権を握るのは私だと言わんばかりの接し方をしてきた武蔵に対して、提督は武蔵の両頬を両手で包んだ。


武蔵「…む…?」

提督「埋め合わせ以上に武蔵を満足させてあげられるように頑張るよ」

武蔵「…んなっ!///」


…榛名や矢矧から噂は聞いていたが…。

相棒のこの目は…この私を持ってしても…抗えん…!


分が悪いと判断した武蔵は素早く提督から離れて顔を逸らした。


武蔵「…き、貴様も言うようになったな…期待しておくぞ…///」メガネクイッ

提督「…うん…期待してて。…で、本題に戻るけど、早速里帰りに連れて行く娘を招集を頼みたいんだけど、いいかな?」

武蔵「…あぁ、お安い御用だ…連れて行くのは誰だ?」

提督「同行するのはー…」

……………
…………
………
……


2022.4.22 am0900
JR博多駅 


提督「里帰りは4年…いや、5年振りか…皆、これから新幹線に乗るけど、大丈夫?」

私服姿の提督が同行する艦娘達に声を掛ける。

…もちろん全員マスク装備だ。


榛名「はいっ!準備は万全です!」

比叡「久し振りの外出がまさかの〇〇さんの実家だなんて…」

矢矧「こっちも大丈夫よ」

吹雪「私も大丈夫です!トリプルチェック済みです!」

提督「…よし、じゃあ行くか」


プァーーーーン…

………
……


『次はー、岡山ー、岡山ー…』


車内の乗車率は思っていた以上に低かった。

なので指定席を取るのは安易だった。

3列席を前後2列確保して、皆で向い合せになって座った。

提督は進行方向向きの窓際で、1つ席を飛ばして榛名が通路側に座り、提督の反対側の正面に矢矧で中央席に吹雪、通路側に比叡といった感じだ。

…ちなみに外出時は提督も本名を予め同行する艦娘達に教えて、艦娘達にも偽名を使ってもらう。

…そして出来るだけ名前を出して喋らないようにした。

…このご時世ということもあって、皆、静かに席に座って、見慣れない新幹線の車内をまじまじと見たり、時速280km程で運行する新幹線の窓からの風景を見ていた。

しかし、彼女達は内心浮足立っていた。

…誰にも聞かれることのない直進波形での無線交信だ。

比叡『うっわ〜…すっごい早いなぁ〜これでえこのみー席?って安い席なんだよね?黙っててもそこまで行っちゃうなんて、快適すぎるぅ〜』

吹雪『うっわぁ…278km/h?!海の上では信じられない速度ですよね!景色の流れ方が違います!』

榛名『…矢矧どうしたの?』

矢矧『…あ、いや…』

榛名『…何か心配事?』

矢矧『…ねぇ皆…』

比叡『ん?なに?矢矧』

吹雪『何でしょうか?矢矧さん』

矢矧『…何で…提督…元気無いのかな…?』

提督「…」


彼女達の目線の先には、ぼんやりと右手で頬杖を付きながら、窓を見つめる提督の姿があったが。

その表情からは何を考えているか、彼女達には想像できない。


榛名「…」


…ちょんちょん


提督「…?」


榛名「…」トントン


榛名は提督の右肩を突っつくと顔を見合わせながら、右手で右耳を軽く叩く。


提督「(…直進波形無線か…)」


榛名からのそのサインを見た提督は、上着のポケットから小箱に入った、インカムを取り出し、それを右耳に装着した。


提督『…聞こえる?』

比叡『聞こえます!』

榛名『…提督どうしたんですか?考え事ですか?』

吹雪『…司令官、遠慮しないで私達に話してください!』

矢矧『…もし何か心配事があるのなら言っておいて欲しい…』

提督『…いやね、両親にみんなをどう紹介するのが一番いい形か考えてたんだ』

提督『…間違いなくどう言ってもオヤジは開口一番に”お前は石油王か!”みたいなことを言うだろうし、お袋はお袋で根掘り葉掘り皆のことを聞いてくるだろう…あ、そうそう、両親の前では偽名は使わなくていい…俺の方から他言無用で釘を刺しておくから』

吹雪『わかりました!』

比叡『…提督の御両親ってどんな方ですか?』

提督『”この親あってこの子あり”…すぐに打ち解けることができるよ』

榛名『…上手くお話できるといいですけれど…』

矢矧『…』


…わからない。

榛名さんは、泊地で一番に指輪を贈られた艦娘。

比叡さんは、帰る故郷に因んで選ばれた艦娘。

吹雪は提督に仕えた初めての艦娘。

…じゃあ私は?

なんで私は今回の同行のメンバーに選ばれたんだろう?

…わからない。

………
……


明石『提督的には矢矧さんは、性格容姿共にどストライクですよ!』ドヤァ

………
……


矢矧「っ!///」


…あの時の明石さんの発言が頭を過ぎった。

…あれから提督の好みについての本人からの確認はしてない。

…恥ずかしいから聞ける訳もないけど…。


榛名『…矢矧?』

比叡『ん〜?顔赤いぞ〜?どうしたの矢矧〜?』

吹雪『…まさか具合が悪いとかですかっ?!』

矢矧『だ、大丈夫!大丈夫だから落ち着いて、吹雪』

比叡『…さてはエッチな事でも考えてたとか?』

矢矧「んぐっ!ゲホッ!ゲホッ!」

比叡『…あ、そうだったんだ…』

矢矧『ひ、比叡さんっ?!』

吹雪「…(矢矧さん…少し雰囲気が変わったなぁ…凄く優しくなったと思う…お仕事時は神通さん譲りの鬼具合だけど…)」

提督「(…賑やかだな)」


プツ…


何となくこの乙女トークチックなやつは聞いちゃいけない気がして、提督は無線のモードを直通に切り替えて、拾う電波を最小限にした。


榛名『…?』


グループ無線に居た榛名は提督の反応が、繋がってないと思った。

プツ…


榛名『…提督?』


榛名は、気になって提督との直接交信に切り替えた。


提督『…ん?』

榛名『あ、あの…ご迷惑でしたか?騒がしくしてしまって』

提督『…あ、悪い…なんか俺はあんまり聞いちゃいけない気がして、そっと抜けてただけだよ』

榛名『そ、それはいいんです…ただ…少しお元気がないような気がして…心配しているんです』

榛名『…私達では…頼りになりませんか?』

提督『…頼りにさせてもらってると思うけど…違うの?』

榛名『その提督の言う”頼り”は艦娘としての頼りです。…榛名が言っているのは、嫁艦として…恋人や妻のような間柄の頼りです』

提督『…』

榛名『提督が榛名達にそうしてくれたように…榛名も…皆も貴方に寄り添いたいんです…駄目なんですか?』

提督『…ありがとう…本当にぼんやりしてるだけなんだ…気に掛けてくれてありがとう』

榛名『…はい』


…何でだろう?

…提督は地元に帰郷する目的は、御両親への報告と、身辺整理と言っていた。

…また彼は、自分の何かを捨てようとしているような気がしてならなかった。

…胸がざわつく。

…そんな事をもうさせたくない。

…これ以上、提督に自分を捨てて欲しくない。

…私はありのままの提督…いや…〇〇さんを受け入れたい。

…なのになんで…。

…心を開ききってくれないんですか?

………
……


またぼんやりと窓の外を見つめる提督に対して、その提督の姿を見つめる榛名は、複雑な心境だった。

………
……



同日 1200時 京都駅 七条口

比叡「ん〜っ!着いたぁ〜!」

吹雪「ここが…京都…」

提督「変わんねぇなぁ…ま、4・5年じゃ早々変わりようもないか」

矢矧「これからどうするの?丁度お昼時間だけど…」

提督「地元に帰ったら行きたい店があるからそこで食べようと思ってる。やってるといいけどな…それまでは皆、これで空きっ腹をなだめておいて」


つ 志津屋 ペッパーカルネ


比叡「わっ!〇〇さんいつの間にそんな物を…」

提督「こっちに来たら、これを食べておきたかったんだ……もう来ていると思うけど…」

榛名「???」


チカチカッ!


一行が駅前でペッパーカルネを食べている最中、提督は少し離れて何かを探していたら、1台の車がハイビームでウインクしてきた。


提督「…あぁ…居た居た…皆、ちょっと付いてきて」

比叡「むぐっ!いひまふー!」

吹雪「〇〇さん、今行きまーす!」

榛名「あっ、〇〇さんちょっと待って下さい〜」

矢矧「…あれ?」


…提督…やけに足取りが軽いな。


………
……


???「おう、〇〇。時間通りやな…元気そうで何よりやわ」

提督「おやっさん、お世話になってます。コイツの面倒見てもらって、ありがとうございます」

おやっさん「いーっていーって、維持走行を兼ねて定期的に乗っておいたし、消耗品も定期的に換えといたで」

提督「何から何まですみません」

おやっさん「…なぁ〇〇」

提督「?なんっスカ?」

おやっさん「…コイツ、ホンマに手放すんか?」

提督「…えぇ、勤め先が車持ちには適さない職場で…この際って思って」

おやっさん「…そっかぁ…お前さんがいいならいいけどよ…」

一行「…???」


提督と少し年配のつなぎを着た男性が、喋っているのを少し離れた距離で見ていた同行組一行。

少し騒がしい屋外ということもあって、会話は聞き取れなかった。

…が、1人だけ断片的に聞き取れていた娘が居た。

………
……


比叡「…手放す…?」

………
……


おやっさん「…おい、〇〇」

提督「…なんすか?」

おやっさん「…なんなんだよ、オメーな連れてきたこの美人集団…」

提督「何って…俺の職場の部下」


…まあ強ち間違ってないからオッケオッケ(笑)


嫁艦's「「「「お世話になっております」」」」ペコリ

おやっさん「…お、おぉ、こりゃまたご丁寧に…」ペコリ

提督「おやっさん、それじゃあぼちぼち行くわ…さ、皆後ろに荷物載っけてくれ。コイツで実家まで行くから」

比叡「了解です、ほい…ほいっと…」

吹雪「これもお願いします〜」

矢矧「…こうすれば…載ったわ」

榛名「助手席は誰が座りますか?」


ピタッ…

積み込み作業をしていた娘達が止まった。


比叡「…公平にジャンケン!」

吹雪「その勝負乗りましたぁ!」

矢矧「どうせやるなら…キッチリ決めないとね」

榛名「…勝手はっ!許しませんっ!」


じゃーんけーんぽんっ!
あーいこーでしょっ!
あーいこーでしょっ!

………
……


おやっさん「…おらぁあんまり深く考えないようしてるんだがな…」

提督「…」

おやっさん「…この娘等、ぜってぇただの部下じゃねぇだろ?」ジトー

提督「…部下っす」シレッ

………
……


キューキュキュキュ!ブォォォン…

…うん、久しぶりだな…。

エンジンも調子いいな。

休日の度にコイツに乗ってた頃の感覚が、蘇ってくる。


提督「…」

吹雪「隣、失礼します!…司令官?」


ジャンケンで勝った吹雪が、助手席に乗り込んできたところ、提督の表情を見て不思議がっていた。


吹雪「…凄く嬉しそうにされてるような…?」

提督「…ん?…あぁ…実際嬉しいな…前の仕事クビになる直前から、自衛官を目指してた頃の約5年の間、コイツに乗ってたからね…旧友との再会みたいなもんかな…」

吹雪「へぇ…そうだったんですね…」

提督「…あぁ…ほんと懐かしい…」シミジミ

吹雪「…?」


…その表情はとても穏やかで…大切な物を見つめるような表情だった。

…しかし吹雪には同時にそれは寂しそうな表情にも見えた。


………
……


1240時 提督の実家前


提督「さ、着いたよ〜」


峠道を走り、その合間に突如現れる住宅地に入って少々走った先で、車を止めた提督の一言で、一行はぞろぞろと車を降りた。


榛名「…ここが提督の…」

比叡「ほわー…立派な日本家屋…」

矢矧「…何だか雰囲気だけで落ち着く家ね…」

吹雪「…何だか空気が澄んで静かな良い場所ですよね…」


バタン…


提督「おーい、比叡」

比叡「…あ、はい!なんですか?」

提督「…あっち見てみ」

比叡「…?」


比叡は車から降りてきた提督に声をかけられて、提督が指差す方向に視線を移した。

…ちなみにここでは人家はまばらなので、名前は気にしないでいいとの提督のお達しだ。


比叡「…!…こんな近くに…!」

提督「…な?ど近所だろ?」


一行の振り向いたその先にそびえ立つのは、比叡山。

比叡の由来となった山が鎮座していた。


比叡「…ここで司令は育ったんですね…」

提督「あぁ、マイペースにのんびりとな…この休み中にみんなで、延暦寺にお参りに行こう」

比叡「…!ホントですかっ?!」

提督「あぁ、その為に連れてきたんだから」

比叡「楽しみです!」

榛名「ふふ…良かったですね…比叡お姉様」

矢矧「…ふふ…」

吹雪「…思ってた以上に高い山なんですね…」

提督「…さ、昼も遅いしサクッと声掛けしてから、昼飯食べに行こう。ウチの両親への詳しい話はそれからだ」

一行「「「「はいっ」」」」


ピーンポーン…


???『…はい?どちらさん?』

提督「…おう、〇〇や…帰ってきたわ〜」

???『っ!ちょ…!ちょっと待っとって!』


ドタドタバタバタッ!

ガシャン!オイ!ナニヤットンネン!ソウゾウシイ!


矢矧「…随分賑やかなのね…」

榛名「…まさか提督…里帰りすると知らせてなかったんですか?」

提督「…いや、言ってあったんだけど…」


…ガラガラッ!


提督母「…!!…〇〇っ!」

提督「…お袋、ただいま」

提督母「…アンタッ!今日とは聞いてたけど、昼とは聞いてへん…で…?」

嫁艦's「「「「は、初めまして…」」」」ペコリ

提督母「??????(゚ω゚)??????」(宇宙猫)


提督の顔を見て、噛みつこうとする提督の母の視線は後ろに控えている嫁艦達に向いた。

…大変困惑してらっしゃる模様である。


提督「…頭がこんがらがってるところ悪いんだけど、まだ昼食べてないねん…まだ△△んとこの喫茶店やってるかな?」

提督母「…」(嫁艦'sを凝視)

提督「…もーしもーし?」

提督母「…はっ?!な、なんや?!」

提督「…いや、△△んとこの喫茶店ってまだ営業してはるんか?」

提督母「あ、あぁあっ!してるよ…それよりアンタその娘達は…」

提督「…そりゃよかった…ありがとう…詳しい話は昼食べて帰ってきてから、ちゃんと話すわ…親父にもそう伝えといてくれへんか?」
 
提督母「…わかった…」(頭抱え)


…ま、無理ないわな…。

学生・社会人・自衛隊教育隊時代と女のおの字もなかったからな…。

いきなり複数人数の女の子連れて帰ったら、何事かってなるわな。

………
……


そう言って提督と嫁艦一行は近所の喫茶店へ向かって歩き出した。


矢矧「…もしかして提督…ご両親に私達を連れてくることを言ってないの?」ジトー

提督「…言ったんだけど…女の子連れてくって…『あーはいはい』みたいに軽く流されてたみたい…」


…電話越しでめっちゃテキトーな受け答えだったしな…。

ま、自業自得だしオッケオッケ(笑)


一行は車がほぼ通らない対面一車線の道路を、歩いて5分程の場所に小綺麗な店が佇んでいた。


???「…あっ!〇〇やんっ?!」

提督「…おっ?…おおぉっ!△△〜久しぶりやね〜元気にしとったん?」

△△「おー、元気にしとったで〜、ちょっと子供連れて帰ってきててな…ってうぉ…」


営業中の喫茶店に入ろうとした一行に対して、提督と同年代の男性が提督に声を掛けてきて、随分親しそうに喋っている。

その男性は、店の前の隅で自立させたバイクに小さな子供を跨がせて遊ばせていたが、提督の後ろに控えている嫁艦一行に視線が移ると、ぎょっとした表情を見せた。


嫁艦's「「「「…?(誰だろう?)」」」」

△△「…ところで〇〇さんや、お前さんはいつのまに石油王にでもなったんか?」

提督「…いやそういうんちゃうて…みんな悪い…先に入って好きな物頼んで食べといて。久々に同級生と会えたし、ちょっと話がしたい」

榛名「は、はい」

比叡「わかりました」

矢矧「…あまり遅くならないでね?」

吹雪「…」ペコリ


そう言うと嫁艦一行は喫茶店の中に入っていった。


△△「…あの美人集団何なん?顔面偏差値ヤバ過ぎやろ…」

提督「…それは否定できん…それより子供産まれてたんやな…今更やけどおめでとう」

△△「おう…てか〇〇って今何してるん?自衛官やんな?めっちゃ久し振りに会うし、どこ行ったんか心配しとってんで?」

提督「あー、悪い。仕事に忙殺されて全くそっちに気がいっとらんかったわ…4年前から異動で、大分に居る」

△△「大分ぁ?!…そら見かけへん訳や…」

提督「まあなぁ…それより△△は△△で、こんなちっこい子に今からバイクの英才教育かいな w」

△△「おう、たまにこっち帰ってきて、エンジン掛けるついでにちょっとなw」

提督「そっかぁ…お〜はじめまして〜w」(裏声)

△△の子供「…あ〜♪」ニコニコ

提督「…めっちゃご機嫌やんw」

△△「…せやろ?w」


そんな同級生同士の他愛のない会話を、影から見ている娘がいた。


榛名「…いいなぁ…」


………
……


榛名「…提督は…子供はお好きですか?」

提督「…ん?どうしたの?藪から棒に」


昼食後の実家への帰り道の道中、榛名が提督に問いかけた。


榛名「…先程のご友人の子供をあやされている時に、よく懐かれていたようにお見受けしたので」

提督「ん〜…どうだろ?嫌いではないけど、特別ベッタリも行ってないんだ…でも何か相手から気に入ってもらえることが多いんだよな」

榛名「左様ですか…何だか微笑ましかったです」

提督「…てか、裏声であやしてるところ見られてたのか…恥ずい…」

榛名「…ふふふ…また1つ提督のことが知れて嬉しいです」

矢矧「…(…提督の裏声…)」

比叡「…(…どんな声なんだろ?…)」

吹雪「…(…聞いてみたい…)」

提督「…あ〜こんにちは〜♪」(裏声)

矢矧・比叡・吹雪「「「…ンブフッ!www」」」


不意に裏声かましたら、ツボに入ったらしい。


提督「…なんだかなぁ」


………
……


実家に戻ると、提督の両親が待ち構えていた。

そして、そのまま家に上がり、居間の長テーブルの長い面に嫁艦達が、その反対側に提督の両親、そして提督本人は双方の顔が見える狭い面に腰掛けた。

………
……


提督父「…で、お前、石油王か何かなんか?」

提督「いや、断じて違う」

嫁艦's
「「「「…(提督が言ってた通りの下りだ…)」」」」

………
……


提督「…で、これからこの娘達に自己紹介して貰うんだけど、こっから先は俺の仕事の規律に関わるから、他言無用でよろしく頼む…」

提督父「…お、おう…」

提督母「…わかったわ」

提督「…それじゃあ皆挨拶して…まず榛名から」

榛名「はい!お初にお目にかかります、お父様、お母様。私は、金剛型 戦艦 3番艦 榛名と申します」ペコリ

比叡「お父様、お母様、はじめまして!私は榛名と同じく金剛型 戦艦の2番艦 比叡と申します!」ペコリ

矢矧「お初にお目にかかります。私は、阿賀野型 軽巡洋艦 その3番艦の矢矧と申します。提督には…いえ、〇〇さんには大変良くしていただいております」ペコリ

吹雪「…は、はじめまして!お父様、お母様!わ、私は特Ⅰ型 駆逐艦の1番艦 吹雪です!」カチコチ

両親「「…え?」」


戦艦だの軽巡だの駆逐艦だのと、その容姿からは不釣り合いな単語で、提督の両親は困惑する。

提督父「…なりきり?」

提督「至って大真面目です」シレッ


…ま、ちゃんと補足しておいたほうがいいな。


提督「…この娘達は紹介通り皆”艦娘”…先の大戦の魂を引き継いで戦ってる…彼女達の奮戦のお陰で今の制海権を維持できているんだ」

提督父「…噂には聞いとったけど…この娘達が…」

提督母「…はぁ〜…」(唖然)

提督「…一応言っておくけど、彼女達にも人と同じように感情があるから、心無い言葉を浴びせるなら、俺に浴びせてくれ」

提督父「…!…お前…」

提督「悪い、俺の仕事は彼女達が心置きなく闘って勝って全員生きて還って来てもらう為に、指揮するのが俺の仕事なんだ…」

提督父「…お前…随分遠いとこに行っちまったなぁ…」

提督「…まぁ昔の俺には想像できない経験を、毎日体感して過ごしてるよ…」

提督母「…ところで、なんで今日はこの娘達を里帰りに連れてきたん?…アンタのこっちゃ、考えなしに連れてこーへんやろ」

提督「…流石お袋やな…よく俺んことご存知で…じゃあ、1人1人言うわ…」


そう言うと提督は立ち上がり、嫁艦達の座っている後ろに回った

まずは吹雪の後ろに回る。

そして吹雪の後ろから両肩に両手をそっと置いた。


提督「…吹雪は俺に初めて仕えてくれた娘で…遠征を支えてくれる縁の下の力持ちで…黎明期に…一番しんどい時に寄り添ってくれた娘」

吹雪「…司令官」


吹雪の肩をキュッと握る。

続いては右隣の比叡の両肩に両手を置いた提督。


提督「…で、この比叡はいつも明るくて一生懸命で…側にいるのが自然な娘…まるで俺がここで生まれ育っていくのを見守ってくれた比叡山みたいに感じて…心安らぐ娘だ」

比叡「…司令///」


更にその右隣に座る榛名の両肩にも両手を添える。


提督「…榛名は…強く優しく…でも儚くて、ひと目見て目が離せなかった…ま、そんな心配も杞憂で、いつの間にか強い娘になって、今やウチの泊地で一番練度の高い娘…」

榛名「…ていとく///」


そして一気に左端に座る矢矧の後ろについて、同様に両肩に両手を添えた。


提督「…最後にこの娘…矢矧は…強いのに脆い…そんなところが放っとけなかったんだけど…今ではウチの軽巡で誰よりも練度が高い…そして今回の帰省でこの面々を連れてこようと思ったきっかけになった娘だ」

矢矧「…提督」


提督「…ちょっと皆、肩を寄せて貰っていい?そうそう…よいしょ」


提督はそう言うと端の左右に座る榛名と矢矧を両手を広げて2人の外側の肩に手を掛けて、真ん中に座る比叡と吹雪を座っているに位置に寄せる。

…4人をギュッとまとめて抱きしめるような格好だ。


提督「…ここに居る娘と…今回は連れてこれなかった、泊地に居る娘達も…俺の大事な…大切な娘達だよ」ギュゥ…

嫁艦's「「「「…///」」」」

提督父「…お、おい、ちょい待て…艦娘って何人居るんだ…?」

提督「…ウチの泊地は戦艦、空母、重巡、軽巡、駆逐、海防、特殊入れての全艦種で352人…その中でも上位練度の娘は47人…その内の4人がこの娘達」

提督母「…上位練度者っちゅうのは何なん?」

提督「ある特定の練度に達すると、そこが1つの能力の上限になるんだけど、それを開放してそれ以上の練度と能力を上乗せ出来るようにするシステムがあるんだ…それを付与しているのがその上位練度者の47人のこと」

提督母「…なるほど…」

嫁艦's「「「「…」」」」


…中々上手い説明だ。

必要最低限の情報で分かりやすい説明。

提督は指輪の事は両親に伏せて話した。

…嫁艦達が、そう思った矢先だった。


提督「…で、上限を開放する方法が、本営より指定された指輪を彼女達に贈与することなんだ」

嫁艦's「「「「っ?!」」」」



…提督は話した。

指輪の事を。

榛名「て、提督っ?!」

比叡「他言無用って言ってたんじゃ?!」

矢矧「…」ハラハラ…

吹雪「…」ビクビク…

提督両親「「…指輪?」」

提督「…うん”ケッコンカッコカリ”っていうシステムなんだけど、彼女達にその指輪を贈ると、先程の能力上限解放だけじゃなくて、深い絆で結ばれる…というものだ」

提督両親「「…」」

提督「…もちろん、こんな事を遊びでやってる訳じゃない…皆命懸けで闘ってる…俺だってそんな彼女達に答えられるように、作戦・装備・兵站・精神面…あらゆる事で彼女達をできる限りサポートしている」

提督父「…なんでお前がそこまでの事を…っ!」

提督「…」スッ…

提督両親「「っ?!」」ゾワッ


…提督は先の泊地の爆撃の際に負った怪我を見せた。

…まだ痣や切創の縫合痕が残っていた。


提督「…この前、北九州で空襲騒ぎがあったろ?その時、敵爆撃機の別動隊がウチの基地を通過して応戦したんだけど…少し撃ち漏らしてな…ちょっと怪我した」

提督両親「「…」」

提督「…俺の不注意で多くの人に迷惑も掛けたし、彼女達にも要らない心配もさせたし泣かせた…だから俺はわがまま言って、一旦離れた基地にその日に戻った…1つも失いたくない大切な物が壊れてしまう気がしたから…」

提督「…だから俺は…ケジメを2人に伝える為にここに帰ってきた」

提督両親「「……」」

提督「…俺は…彼女達と共に生きていきたい」

提督両親「「………」」

提督「…最後まで自分勝手な息子で申し訳ありません…」ペコリ

提督両親「「…………」」

嫁艦's「「「「…」」」」


提督は両親に向かって、両手を付いて頭を下げた。

…居間はシンと静まり返った。

嫁艦達は提督が覚悟と決意を公言してくれた事に対して嬉しい反面、別の複雑な心境が渦巻いた。

…彼女達にはその提督の言葉は両親との今生の別れのように聞こえた。

………
……


…長い長い沈黙の後。

提督の両親が口を開く。


提督父「…ったく…お前はとんだ親不孝もんだ…この大馬鹿野郎…その娘達を大事ににしねぇと承知しねぇぞ」グスッ…

提督母「…アンタがそこまで考えて決めたことなら…止めんよ…やっと…見付けたんやね…向き合ってくれる人等が…」グスッ

提督「…!…ありがとう…ありがとう…」ポロポロ

嫁艦's「「「「…」」」」


提督の両親は提督の覚悟を受け入れた。

…ここは流石の嫁艦達も、割って入ることができなかった。

血縁者故の深い意思疎通。

彼自身を見守り続けた人達の気持ち。

その短い言葉に全てが詰まっていた。


提督母「…で、泣いてるところ悪いねんけど…」

提督「…?」

提督母「…買い物行ってきて…」


…が、その雰囲気は、瞬時に掻き消された。


提督「…え”?」

提督母「こんなに人数増えるって知らんかったし、食材ないわ…数日分買ってきて」

提督「えー、ちょー…せっかくの雰囲気台無しやん…」

提督母「…さっさと行け♪」(真顔)

提督「…ア、ハイ」

榛名「あ、私達の中から誰かお手伝いを…」

提督母「あ、榛名ちゃん、比叡ちゃん、矢矧ちゃん、吹雪ちゃんは残りなさい」

嫁艦's「「「「…っ!」」」」

提督「…悪いな皆、ちょっと行ってくるわ」

嫁艦's「「「「…い、行ってらっしゃい(ませ)…」」」」

………
……


ガラガラ…カシャン

………
……


提督「…ありがとう…親父…お袋…」

………
……


ガチャ…バタンッ


提督「…さぁ…これが本当の意味のラストドライブやな…今まで放ったらかしでごめんな…」


キューキュキュキュ!ブォォォン…

………
……


提督が車で出ていったのを確認してから、提督の両親が嫁艦達を見る。


嫁艦's「「「「…」」」」


…心細い。

…気不味い。

これなら敵艦隊と対峙している時の方がよっぽどマシ。

提督が居ないとここまで空気が重く感じられるのか…。

…頼れる艤装も作戦もない…私達にとって、ここは完全にアウェーだ。


そんな事を思いながら提督の両親の口が開くのを、固唾を飲んで待つ嫁艦達…。


提督父「…さて…アイツの最後かもしれんワガママを聞き届けれたし、思い残すこともない…自衛官の職に付いた時点で諸々の覚悟もできてる…」

提督母「…後は貴方達の覚悟を見させてもらおかね…?」

榛名「…は、はいっ…」ビクッ

提督母「…あー、別に取って食う訳ちゃうから、構えんでええんよ?ただ…」

提督父「…共に生きる…と言うなら、アイツの事をちゃんと知っておいて欲しい…っつう親心や…堪忍な?お嬢ちゃん達」

比叡「…はいっ…」

提督母「…それに多分あの子、5時位まで帰ってこーへんよ?」

矢矧「…えっ?」

提督父「…せやな…あっちの方が今生の別れかもな…」

吹雪「…そ、それってどういう事ですか?」

提督父「…あの車は、アイツの人生の半身が詰まってるようなもんだ…」

吹雪・比叡「「…あっ…」」

………
……


比叡『…手放す?』

………
……


提督『…旧友との再会みたいなもんかな…』

………
……



京都駅から実家に向かう前、比叡は提督と年配の男性とのやり取りの断片を、吹雪は助手席に乗り込んだ時のやり取りが、ふと2人の頭をよぎった。

そんな比叡と吹雪を他所に提督の両親はゆっくり提督の過去を語りだした。


提督母「…あの子は物事に嵌まり込むと、一直線な子でね…幼少期から中高生辺りまで平たく言えば個性の塊だったの」

提督父「…だが強すぎる個性のお陰で、敵を作らない変わりにあまり友人も近寄らなかった…だからいっつも遊ぶ時は1人が大半でな…」

提督母「…まあ、そんなこともあって、あの子の遊びって言うと釣りばかりだった…毎週毎週バイトに釣りに明けても暮れても…そんで高校卒業の時にあの子は、釣りの世界で生きようとして決めて…釣具メーカーに勤めるか…それこそプロになるか…その世界に関わって生きたいって言ってた…」

矢矧「…」

………
……


提督『…学生時代は趣味に明け暮れる日々だったなぁ…』

………
……


そんな事を言っていた去年の盆休み彼の事を矢矧だけ思い浮かべていた。


提督父「…まあアイツの目指した舞台は、その世界としてはある程度、認められてるが、世間の目としては認められない世界でね…普通に就職して働きながら大会に出て、二十歳そこそこの頃までは頑張って続けていい成績を残してたんだが…」

提督母「…深海棲艦の出現で、それまで勤めてた会社をリストラされることが決まって…これ以上迷惑はかけられないって言って、それまで貯金して買って維持していた物を釣具以外すべて処分して…暫くはをバイトして生活費の足しにしながら、就職先を探してた…」

提督父「…で、その時処分した金で入れ替わるようにあいつの元にやってきたのが、あの車って訳だ」

提督母「…さっき貴方達がお昼を食べに行った喫茶店あったでしょ?…あそこの息子さんの△△君とは小学以来の同級生でね…中学高校も方角が一緒だったから、仲が良かったし、釣り以外の趣味で気がよく合ってたの…車とかバイクとか…エンジン物は昔からあの子も大好きだった」

提督父「…その影響で暇見つけては走ってたなぁ…アイツ…たまに△△とつるんで走ったりしてな…ははは…」

提督母「…そんな時かなぁ…あの子は舞鶴によく行くようになったのは…」

提督父「…そうだったなぁ…俺の趣味の影響で軍事物も好きだったからな…アイツにとっての舞鶴の距離感は丁度いい旅路だっつってたな」

榛名「…あの…お父様のご趣味は…?〇〇さんからは読書と伺ってましたが…」

提督父「おぅ、俺の趣味は読書と模型や…WWⅡ戦闘機専門やけどね…っと…あんまりお嬢さん達には気持ちのええ話しちゃうかもな…すまんね…」

榛名「…い、いえっ!…その気持ちは忘れてはいませんが、割り切れておりますので、お気になさらず…」

提督母「…あんまりこの人の模型の話を聞いたらアカンよ?すぐに熱弁しだすから…」

提督父「んぁっ?!なんやとーっ?!」

嫁艦's「「「「…クスクス…」」」」


…あぁ…やっぱり…。

やっぱりこの人達は、提督のの両親なんだ…。

話の言い回しや口調がよく似てる…。

嫁艦達は、不思議な安堵感を覚えた。

彼の面影を感じられたから…。

…ダメだ。

益々私達…。


提督父「…んんっ…話が逸れちまったな…で、舞鶴に行きだして暫くした頃に、帰ってきて
突然アイツは言ったんだ…”海自に自衛官として入る”ってな…まぁ〜最初は反対しまくったんだけどなぁ…アイツこうと決めたら頑固だからな…」

比叡「…あの…少しいいですか?」

提督父「…ん?なんだい?比叡ちゃん」

比叡「…その…〇〇さんは学歴の関係で海自を選んだとか、街で自衛隊の求人ポスターを見たとか仰ってませんでしたか?」

提督父「…はっはぁ〜ん…」ニヤリ

提督母「…照れ隠しやね」ニヤリ

比叡「え、えぇ?!」

提督父「…話を聞いた時点で海自1択やったよ…理屈もこねずに」

比叡「…///」

………
……


あぁ…もう…司令ってば…。

あんなこと言って…。

最初から海自に入る気満々だったんじゃないですかぁ…。

ホント素直じゃないなぁ…。

…惚れ直しちゃうじゃないですか…。


直接その話を聞いた比叡にとっては、この話を聞けた事は嬉しい誤算であったことは、間違いなかった。


提督母「…そういえば、その日、赤れんが倉庫の辺りをカメラ片手にぶらついていたら…丁度吹雪ちゃんくらいの娘に職質されて驚いたって言ってたねぇ…」

吹雪「…それって…?」

提督母「…今思えば、その職質した娘は艦娘ちゃんだったのかも…しれないわねぇ…」


…開戦当初は秘匿とされていた艦娘の存在。

今から年月を逆算すれば、提督が舞鶴に通いだしたのは、開戦から1年は経過した頃だ。

しかし、本土防衛の戦いが激しくなると当然人の目に触れる機会が増える訳で…。


提督母「…それでね、その時に写真を検閲されたらしいんだけど、その娘に言われた言葉があって…えぇっと…」

吹雪「…?」

提督母「…”私達をこんな風に撮ってくれる人を初めて見ました。…でも私はこの写真を没収しなくてはなりません…ですが、これは私達の生きた証として、私に頂けませんか?”…って言われて思わず涙が出たって…」

提督母「…あの子は何も言わずに写真のデータをその娘に渡したそうよ…その娘も泣いて喜んでたって…あの子ね…いい意味で欲張りな子だから…自分のしたことで誰かが幸せになって貰うのが好きなお人好しなのよ…」


嫁艦's「「「「…」」」」


…間違いない…その少女は…艦娘だ。

そして、もう1つわかったことがあった。

…彼が艦娘を指揮する提督に選ばれたのは偶然じゃなく…。

…必然だったのだと。

………
……


吹雪「…」


…私は司令官にとって初めての艦娘でした。

…私、叢雲ちゃん、電ちゃん、漣ちゃん、五月雨ちゃんの5人の中から初期艦として選ぶ時、私をひと目見た時、司令官は一瞬目を見開いていたのをこの目ではっきり見ました。

…ひょっとしたら…そうなのかもしれないですね…。

だったら…その娘に感謝しなきゃ…。

司令官に巡り合わせてくれたことを…。


吹雪は、小さな偶然が提督と自分たちを繋いでくれたことを、尊く、感謝の気持ちで一杯になった。


提督父「…アイツは立場は違えど世間的に認められない世界に一時期身を置いて、嫌と言う程心無い言葉にさらされ続けてきた…だから人一倍人の努力は認めるべきだって気持ちが強いんよ…犯罪以外の世界ならね」

矢矧「…すみません…あの…」

提督父「…ん?なんだい?矢矧ちゃん」

矢矧「…それから…〇〇さんは釣りの方は…?」

提督父「…してないな…うち等が見ていた限りは…車で出掛けてはいたけど…」

矢矧「…そう…ですか…」

提督父「…これは多分なんやけど…裏切ったって後ろめたさみたいなもんが、あると俺は見てる」

矢矧「…裏切った…ですか?」

提督父「…アイツにとって、一時期、人生を賭けてやろうと思った事を途中で投げ出してしまったこと…それがアイツにとって、釣りに対する裏切り行為としか思えなかったんだと思うんや…そんな自分が許せない…というのかな…」

矢矧「…はい」

提督父「…でも捨てられんかった…何でなら自分を作ってくれた物を捨てられる程アイツの心は器用にできとらんし、それを続けてきたことに対するプライドが…競技者としてのプライドが心の何処かにあるんやろうな…」

提督父「…そういうもんも引き継いで、車に移ってしもーたもんやから今の今まで車も手放せへんかったんやろうな…アイツ物持ちいいし…」

提督母「…物持ちがいいのは父親譲りやろ?」

提督父「…ちげぇねぇな…」

矢矧「…なんで〇〇さんは、私達に釣りのことをあまり口外しなかったんでしょうか…?」

提督母「…そりゃ単純よ…好きと思ってる人達に自分の大好きなものを否定されるって…物凄く堪えるでしょ?それなら押し殺してる方が気楽ってあの子は思うなぁ…。
…それに…貴方達が軍艦の時代に敵対した相手国の文化よ?釣りは好きでも、その事は言ってなかったでしょ?」

矢矧「…た、確かに…言ってませんが…」


…知らない内に勝手に気遣われていたんだ。

…でもその気遣いは私にとっては、とても腹立たしいものだった。

…見縊られたものね…。

そんな事で嫌う相手になるなら…相手にしてないし…ここまで彼の過去を聞きたいとも思わない。

…そもそも、それで嫌いになれたら苦労しないわよ…。

…今度ちゃんと話してみよう…。


最初は腹を立ててしまったが、既に提督への好意を知っている事もあって、穏やかな気持ちになった矢矧は、そう思った。


提督父「…話して正解やったな」

提督母「…最初は私達に何言われるかビクビクしてたのに…今はすっかり五月晴れみたいに、清々しくなっちゃって…まぁ〜若いって良いわねぇ〜♪」オホホホ…

榛名「ふぇっ?!///」

比叡「ひぇっ?!///」

矢矧「えぇっ?!///」

吹雪「はわっ?!///」

提督父「…どうかアイツと一緒に歩いてやって下さい…宜しくお願いします」ペコリ

提督母「…あの子と事で困ったことがあったら遠慮なく言ってね?あの子のこと…宜しくお願いします」ペコリ

榛名「そ、そそ、そんなっ!頭をお上げください!」オロオロ

提督母「…それはそうと…」スクッ…

嫁艦's「「「「???」」」」

提督母「…この中の娘で誰があの子の本命やと思う?」ニヤニヤ

提督父「…榛名ちゃんか矢矧ちゃんやろ」ニヤニヤ

提督母「…奇遇ね…私も同じこと考えてたわ…」オホホホ…

榛名・矢矧「「っ??!!///」」

比叡「あ、あぅ…私…駄目なんでしょうかぁ…」

提督母「…あぁ、あんまり気にしないでね比叡ちゃん、こっちの下世話な話だから〜♪」

提督父「…比叡ちゃん、君も全然アイツの守備範囲内だ、保証するわ」キリッ

比叡「///」

吹雪「わ、私は…」

提督両親「「………」」

吹雪「あ、あのぉ〜?」

提督父「…吹雪ちゃんに手を出したら…アイツ、しばいたる…」ゴゴゴゴ…

提督母「…張り倒す♪」ニゴニゴ

吹雪「え、えぇぇ?!」


…つくづく。

…つくづくこの2人は提督の両親なんだなと痛感し、最後まで振り回されっぱなしの嫁艦達なのであった。


提督父「…あー、そうそう、アイツの”アレ”…残ってるやろ?」

提督母「…あー、”アレ”?…捨てろ言われたけどフツー捨てへんわな(笑)」

榛名「…あ、あの…”アレ”…とは?」

提督父「ん?アイツの競技者としての現役時代の映像…アイツの青春時代の片鱗に興味ある?」

榛名「…!ぜ、是非見せて戴けませんか?!」

比叡「…青春時代の司令かぁ…」

矢矧「…とても興味があります…!」

吹雪「…どんな感じだったんだろう…9年以上前の司令官…」


二つ返事でその映像を見せて貰うことにした嫁艦達。

…映像は国内のとある湖での大会で、同船カメラマン視点の彼中心の映像だった。

9年数ヶ月前の提督が、画面一杯に躍動している。

嫁艦達は、その姿を目を離さず観ていた。

……………
…………
………
……


1715時

提督「…ただいま〜」

榛名「…提督、おかえりなさい!」

矢矧「買い出しお疲れ様、持っていくわよ?」

提督「…」

榛名・矢矧「「…?」」

提督「…なんか実家に艦娘がいて、出迎えてくれるってすっげぇ新鮮…」

榛名「…そ、そういえば…」

矢矧「…そうよね、言われてみれば不思議な感覚かも」

提督「…おっと、めっちゃ買い込んたんだった…どんどん持ってくるから、台所に持ってっちゃって〜」

榛名・矢矧「「了解!」」

提督「…あれ?比叡と吹雪は?」

榛名「あ、比叡お姉様はお父様の模型を拝見しにいって…」

矢矧「吹雪は、提督のお母さんについて行って夕飯の支度の手伝いをしに行ったわよ」

提督「…親父と比叡が?…うーん…」

榛名「…如何なさいましたか?」

提督「…うちの親父、加減知らずだから頭がこんがらがってなきゃいいが…」

………
……


…提督の予想は的中して、比叡は提督父の模型愛に圧倒されていた。
※提督の素早い救出でこっちに引き戻させた。

その後夕飯を作ることになった提督と嫁艦達が手分けをして、作業に取り掛かった。

………
……


提督母「…」ニヤニヤ

提督「…お袋、何ニヤニヤしとるんよ?」

提督母「…いやぁ〜みんな仲良く連携して料理してる姿が微笑ましくってねぇ〜♪」

提督「泊めてもらうし、このくらいはねぇ…俺のはともかく、比叡の料理は期待してくれてもいい」

比叡「…」(真剣料理モード)

榛名「…(うぅ…お料理となると提督と比叡お姉様の独壇場に…)」

比叡「…矢矧、これちょっと切り方雑、火が均一に通らないよ」

矢矧「…は、はいっ!(…うぅ…ちゃん誰かに教わって覚えようかな…)」

提督「…お、吹雪、具材切り終わったみたいだな…もってくよ〜」

吹雪「はいっ!次はどうしたらいいですか?司令官!」

提督「盛り付ける皿を出してくれるか?大皿がその棚の下にあった筈…あるよな?お袋?」

提督母「あるよー」

吹雪「わかりました!」

提督母「あらー♪健気やわぁ♪吹雪ちゃんしゅき〜♪」

榛名・矢矧「「(…あっちがよかったっ!!)」」

比叡「こらーっ!2人共ーっ!キリキリ働くーっ!」

榛名・矢矧「「は、はいーっ!」」

………
……


提督両親「「うまっ!」」

比叡「よ、よかったぁ〜」

提督母「…〇〇のチャーハンも腕は上がってるけど、比叡ちゃんのこの料理の前ではちょっと霞むわぁ〜」

提督「だろ〜」

比叡「い、いえいえ…でも、榛名と矢矧も手伝ってくれたので…///」テレテレ

榛名「んん〜っ♪頑張った甲斐がありました♪」

矢矧「…何気に提督の焼き飯って食べるの初めて…阿賀野姉のとタメを張れる位美味しい…」

吹雪「んん〜っ♪この煮物おいひぃぃ〜っ♪」

提督母「あら、良かったわぁ〜♪あとでレシピ教えてあげるわ」

嫁艦's「「「「…!是非っ!」」」」

提督父「…しかしみんなめっちゃ食うなぁ」

提督「皆、働き者だからね…ちなみにもっと食う人が泊地に居るけどな…赤いやつとか赤いやつとか…主に赤いやつ」

提督父「…赤い…?…○ャア?」

提督「いや、こっちの話や、気にせんとって」

嫁艦's
(;^ω^)(;^ω^)(;^ω^)(;^ω^)

………
……


同時刻 佐伯泊地

赤城「へ、へっくしゅーんっ!!」

加賀「…赤城さん?食事中にくしゃみとは珍しいですね…」

赤城「ぐす…また誰か大食らいの噂を…っ!まさか提督がご両親にっ?!」

加賀「…(言いかねないわね…)」

赤城「…あ、鳳翔さん!モツの味噌煮込みと軟骨唐揚げとご飯のおかわりを所望します!」

鳳翔「わかりました〜♪」

加賀「…はぁ…」(頭抱え)

………
……


所変わって 提督実家


提督「…さて、片付けもできたし、2人づつ風呂入ってきたらどう?俺は大淀に連絡しとかないといけないし」

榛名「はいっ…それじゃあ吹雪ちゃん、一緒に入る?」

吹雪「ご一緒します!」

比叡「…それじゃあ私達はそれまでゆっくりしてよっかぁ〜」

矢矧「はい、そうさせていただきましょう」

………
……


矢矧「…?」


客間で寝泊まりすることになって、先に荷物を整理していた矢矧と比叡。

その最中、背後から足音が聞こえた。


…あ、階段を上がる音か…。


鉄筋コンクリートの泊地の寮では、まず聞こえない音だ。


比叡「…ははは…なんか新鮮だよね〜…足音が聞こえる建物の中って」

矢矧「…ふふ…そうですよね…ついでに言えばこうして艦種関係なしに枕を並べて寝るのも、珍しいですね」

比叡「あはっ♪ホントだっ♪」

矢矧「…今の足音…提督…ですね」

比叡「んー…歩調的にそうだねぇ…」

矢矧・比叡「「…」」

比叡「…矢矧、今何考えたか当ててあげよっか?」

矢矧「な、何の話です…?」

比叡「…司令の部屋見てみたい…じゃない?」

矢矧「っ!///」

比叡「あはっ♪矢矧って分かりやすいよね〜♪」

矢矧「か、からかわないでくださいっ///」

比叡「ま、実際私も見てみたいなぁ…お邪魔する?2人で?」

矢矧「…迷惑じゃないでしょうか…?」

比叡「大淀の報告もあるだろうけど…まあ私達が聞いても問題ないでしょ。さ、行こ行こ♪」

矢矧「え、えぇっ?!」


…比叡に、引っ張られて矢矧も提督の部屋に行くことになった。

………
……


提督『…あぁ…大淀かい?俺だ、提督だ…ああ、こっちは大丈夫だよ』

矢矧・比叡「「…」」


この扉の向こうから、提督の声が聞こえる。

…きっとここだろう。

言っていた通り、提督は大淀と電話でやり取りをしているようだ。


提督『…あぁ、…ちゃんと両親にも説明したし、彼女らとウチの泊地の娘達のこともちゃんと話した…あぁ…そっちはどう?揉めたり問題事はなかった?…うん…あぁ〜やっぱりか…』

矢矧・比叡「「…」」


…何かを問題が発生しているんだろうか?

…気になる…。


提督『帰ったらフォローは任せておいてくれ…大丈夫…うん?…あぁ…両親にも受け入れられて、夕食はみんなで仲良く食べた…うん…ん?…あぁ…もしこの帰省中に彼女らが望むのなら…ん…わかってる…それは聞いた通りに…』

提督『…あぁ…また明日の1200時と2000時に連絡を入れる…わかった…ありがとう大淀…おやすみ…』

………
……


比叡「…終わったかな?」

矢矧「…そのようですね」

比叡「…15秒後に突入だよ」

矢矧「…り、了解です…」


普段しないことをすると、興が乗ってイタズラ心が擽られる比叡と、それに釣られる矢矧なのであった。

………
……


コンコンコン…

提督『…誰や〜?』

比叡「比叡です…矢矧も一緒ですけど、お邪魔してもいいですか?」

提督『…どうぞー』


ガラガラ…

比叡が引き戸の扉を開ける。

その先には座卓を前に部屋の床に座る提督がいた。


比叡「お邪魔しまーす」

矢矧「…お邪魔…します…」

提督「いらっしゃい、暇つぶしかい?」

比叡「えぇ、榛名は結構お風呂長いんで…」

提督「そっか…悪い、散らかってるけど適当にしておいてくれ」

矢矧「…あ…」

比叡「…うわ…」

提督「…?…あぁ…それ?別に好きに見てくれて構わないよ」


矢矧が見付けて、比叡が驚いた物は、大量の釣り竿とリールがセットになって専用のスタンドに並べられていた。

…40…いやもっとある。

リールには専用らしき布の袋で包まれていて、埃が被らないようになっているが、やはりずっと触っていない為か、釣り竿には埃が薄い層を作っていた。


比叡「…長い短い太い細いで、随分竿ありますね…」

提督「そだね…全部1種類の魚を釣る為だけに用途で使い分けるんだけど…まぁどんだけ釣りたいんだよって話だね」

矢矧「へぇ…どんなふうに使い分けるの?」

提督「ん〜…例えば…」


提督はすっと立ち上がり、数多ある竿を迷わず手に取った。


提督「…これは7g〜21gの重さのルアー…疑似餌を投げられるベイトロッドなんだけど、長さが6フィート5インチ…大体190センチ強かな…これがこの釣りにおける基準となる竿だね…」

矢矧「…基準?」

提督「この釣りにおいて、一番程良い長さ硬さで、手返しの良さと守備範囲の広いルアーを使える…言わば万能な一本で、持ち歩ける手数が限られる岸釣りでは、とても重宝する…実際一番良く使った竿だね」

矢矧「…その一本を基準として、そこから硬い柔らかい、長い短いを選んでいくってことね」

提督「そだね、本当にそれをする為だけの特化した竿を使う時は環境が限られてるから、そういう場面に出くわしたら投入する感じかな…全部ないと困る竿ばかりだよ」

矢矧「…こ、これ…全部持っていくの?」

提督「まさか…行く場所の事前情報と照らし合わせて、大体見繕って持っていくし、せいぜい15本前後だろうなぁ…で、現場を見て更に絞る感じかな…中々効率の悪い釣りだよね…で…」

矢矧「???」

提督「…比叡は何してんの?」


矢矧に解説していた提督だったが、比叡が話そっちのけで本棚の中を見ているのが気になって、話の腰が折れてしまった。


比叡「…えぇっとぉ〜…」

提督「…ないよ?…うん…期待ハズレで悪いけど」

比叡「ま、まだ何も言ってませんよ?!」

提督「どーせエロ本か薄い本探してんだろ?」

比叡「…ドキッ!」

矢矧「…薄い本?」

提督「…矢矧は知らなくてもいい物だ」

矢矧「は、はぁ…?」

比叡「えぇ〜っ、提督の性癖ってどんなのか気になります〜!」

提督「…うわ、開き直ったよこの人」シレッ

矢矧「…開き直りましたね…比叡さん…」シレッ

比叡「シレッと孤立無援にされたっ?!」

矢矧「…(…提督の性癖かぁ…)」


…よくよく考えてみれば…。

佐伯泊地の上位練度者って…体格が似通ってる…かも?

…上位の人で言うと、榛名さん、加賀さん、私、赤城さん、翔鶴さん、長門さん、瑞鶴…此処から先は結構バラけてるけど、割と似通ってる…。

身長は提督の口元位の背が多数。

…長門さんや陸奥さんで提督の目線くらいの背。

…ちなみに大和や武蔵は提督と背が同じ位か。

…あ、そういえば、大和は気にしてたなぁ…身長の高さ。


大和『提督のお胸の中にすっぽり納まる位が良いのだけれど…』


…なんて言ってたっけ?

…性格は…バラバラだからなんとも言えないか。

矢矧は泊地の面々の顔を思い浮かべながら、提督にぶつけたら誰が一番喜ぶだろうと、何気なく考えていた。


比叡「…矢矧ってば、また何か考えてる〜。このムッツリスケベーっ!」

矢矧「…えっ?!///」

比叡「司令もそう思いますよね?!」

提督「…ノーコメント」シレッ

矢矧「…いや、否定してよっ?!」


…矢矧ってちょっと天然っぽいとこあるもんな…。

…伊達に阿賀野の系譜を引き継いでないって気がする。

…そういうところが好きなんだけど…。

…まぁ、こればっかりは誰が一番ってなかなか決められないんだよねぇ…。


…と目の前でちーちーぱっぱを始める比叡と矢矧を見ながら、そんなことを考えている提督なのであった。

………
……
… 

提督実家 客間

その後何やかんやで提督の口から直接釣りの話を聞いて、いる内に小一時間ほど提督の部屋に滞在した2人は、榛名と吹雪と交代でお風呂に入る為に、客間に戻っていた。


比叡「いや〜司令の部屋…寝ることと釣りの事しかなかったよね〜あはは…なんだか司令らしかったね」

矢矧「ええ…何だか…話を聞いている内に益々、目の前で釣りをしている提督を見てみたい…って思いました」

比叡「…でもあれだけ竿持ってて、なんで泊地に持っていかないんだろう…?」

矢矧「あ、それは淡水用だからだそうです。あの道具の中には海水には適さない素材を使った物が割とあるみたいで」

比叡「ふぅん?」

矢矧「海は海用、淡水は淡水用で分けないと気が済まない性分なんだって、提督が言ってました」

比叡「…意外と繊細なんだね…司令って」

矢矧「…あと、こうも言ってました。『専用の道具はそれをする為に考え抜かれた、理想の形だから、それ以外を使って80%疲れるところが、専用なら40%や50%の疲労で済むし必然的に疲れない。だから集中力も続くし釣り続けられるし釣れる』…と」

比叡「はぇ〜…なんていうか…」

矢矧「…えぇ…物凄く合理的な考え方だと思います…」


ガラガラ…


榛名「…ふぅ…お風呂お先です〜…?何か真剣なお話ですか?」

吹雪「お先にお風呂頂きました!」

比叡「2人共おかえり〜、いや〜司令の釣りしてる姿見たいね〜って話を矢矧としてたの」

矢矧「部屋が道具で凄かったのと、釣りに対する考え方が想像していた以上だったので…」

榛名「そうなんですか…榛名もお邪魔してみようかな…」

比叡「もう、釣りと寝るしかなかったよ!それと残念なことに如何わしいものはなかったよ〜」

榛名「…如何わ…っ!///」

比叡「いやー、皆が気にしてる司令の性癖わかるかなぁ〜って思って」

吹雪「…やっぱり比叡さん…」

矢矧「…うん…実家にお邪魔させてもらってから、気分が変な感じになってる…かな?」

比叡「なっ?!失敬なっ!」

矢矧「せっかくお風呂が空いたので、行きましょう…それではお風呂に入ってきます」

比叡「ちょちょ!矢矧待ってよぉ〜」


ガラガラ…ガラガラ…ピシャ…

騒がしく入れ替わるようにして矢矧と比叡は、お風呂に向かった。


吹雪「…榛名さん」

榛名「…?どうしたの?吹雪ちゃん?」

吹雪「…が、頑張ってください!」

榛名「…???」キョトン

吹雪「…だって…今晩…されるんです…よね?」

榛名「……」

榛名「…」

榛名「っ!///」


何やら吹雪は気を回して、榛名だけ提督の部屋に行かせようと仕向けてきた。

最初はその心理が理解できなかった榛名だったが、言われてから徐々にその言葉の意味が分かってきた時、榛名は顔を真っ赤にした。


榛名「あ、や、でも…提督が求めてくれれば…の話ですから…そのぉ〜///」モジモジ

吹雪「(…榛名さんカワイイ…)」

吹雪「別に今日じゃなくてもチャンスはありますよ!…それに、早く伝えなきゃいけない事があるんじゃないんですか?」

榛名「…!…そうでした…そうでしたね…私ったら…」


…そうだ。

榛名は伝えなきゃいけなかったんだ。

泊地全員があの人の全てを受け入れると言うことを。

…その先はまずはやるべき事をしてからの話だ。


…榛名は吹雪に見送られて、単身提督の部屋に向かった。

………
……


提督「…よし、これで書類は全部揃ったな…来れで佐伯に帰る時に、おやっさんに渡せば…」


コンコンコン


提督「…?誰だい?」


…まぁ風呂上がったタイミングだし、榛名と吹雪だろうけど…。


榛名『…お寛ぎのところ申し訳ありません…榛名です。今よろしいでしょうか?』

提督「…ん、どうぞー」


…ガラガラ…

引き戸の向こうから湯上がり姿の榛名が顔を覗かせた。


…畜生…すっぴんでも可愛い…。


そんな事を考えた提督だが、そうとは露知らず、榛名は部屋に入ってきた。


榛名「比叡お姉様と矢矧に聞いて、提督のお部屋を見に来ちゃいました」

提督「おお、そっか…散らかってる部屋で悪いけど、まあ適当にしておいて〜」

榛名「はい…」ジー

提督「…?」


…む?榛名…また何か考えてるな…。

相変わらず、そういう事がさり気なくできない娘だな…。

…まあ、それが榛名の良いところだが。


提督「…じっと見ても何も出ないよ?」

榛名「…提督…その机の上の書類はなんですか?」


…いや、もはや隠す気もないって目をしてるな。

穏やかだが何処までも澄んだ目をしている。

いつもの凝視とは違うようだ。

…隠すのも変だと思ってひっくり返しておく程度で机の上に伏せておいた書類に、榛名の目線は釘付けになっていた。


榛名「…誤魔化さなくても大丈夫ですよ?そちらの物は、提督のお車の売却に必要な書類と証書の入ったファイルですよね?」

提督「…ん、良くわかったなぁ…」


…そこまで見抜かれているのなら、下手に隠すのも格好悪い話だ。

素直に認めることにした。


榛名「…どうしてですか?」

提督「…まあ立たせたまま話すのも何だし、視線を同じにして話そう。…座ってもらっていい?」

榛名「あ、はい…」ストン


榛名は提督の側に向かい合って正座で座った。


提督「…まぁ色々考えてあの車を手放すことを決めたんだけど、理由は幾つかある…聞いてもらってもいい?」

榛名「…もちろんです」

提督「まずは車検。もう時期に車検が切れて乗れなくなるし、再度更新するのには費用も必要で、乗りもしない車に対して無駄な出費は避けたいってこと」

榛名「…」

提督「それと、仮に車検を通して置いておいたとしても、乗ることがない…いや乗る時間がないって言ったほうが正確かもしれんし、泊地と実家を往復してまでするのは、現実的じゃない」

榛名「…」

提督「ま、それは理屈で、本心はこのまま放置して朽ちていくのは…本望じゃないってこと…出来ることならあの車がいいって言ってくれる人に乗ってもらいたい…置物じゃなくて壊れるまで走り続けていて欲しいんだよ」

榛名「…はい」

提督「…とまぁこんな感じかなぁ…手放す理由って言われると…」

榛名「…提督、本当にそれだけですか?」

提督「…うん?」

榛名「…そんな気持ちで…手放してしまうんですか?…貴方自身を…」

提督「…さては昼間の俺のいない間にウチの両親になんか言われた?」

榛名「そういう言い方は…よくないと思います…ただ、ご両親が提督を想うように、榛名達も提督を想ってます…比叡お姉様や吹雪ちゃんが提督から出たヒントを取りこぼしていませんでしたから…」

提督「…」

榛名「…提督が買い出しからお帰りになる少し前まで榛名達が話し合って…榛名達なりに考えた案を出します…聞いていただけますか?」

提督「…どうぞ」

榛名「ありがとうございます…では、榛名達が先程までの提督の手放す理由を伺った上でのその解決策は1つ…」

提督「…うん」

榛名「…泊地に持っていっちゃいましょう♪」

提督「………」

提督「……」

提督「…え?」

榛名「…ですから、あのお車を、泊地に持っていっちゃいませんか?」

提督「…え、えぇ…それって可能なの?部屋に持ち込めるものならまだしも、車って無理じゃない?」

榛名「細かい事は大淀さんと話を詰めますが、大まかに言うと、あの車を泊地の車にしちゃうんです」

提督「…あー…そういうことか…」


確かにそれなら公然と”施設の車です”で通るけど…。


提督「…でもそれって私的流用にならない?」

榛名「自衛官の方でも護衛艦勤務の隊員の方は、自分の車を所属基地に置くと聞きます。それと同じことです!」

提督「…弄ってるよ?施設の車にするにしたって、いかにもThe☆プライベート!って車だけど?」

榛名「使って良い時と悪い時を使い分ければ、何ら問題ないかと!」

提督「…あんまり新しくないよ?あの車…次車検通したら9年目だよ?」

榛名「でも提督はお好きですよね?あんなに綺麗に乗られているんですから」

提督「…うー…」

榛名「…」ニコニコ


…やっべぇ…もう打つ手ないぞ…。

まさか榛名に言い包められるとは…。

…もう…素直になったら良いのかな…。


提督「…いいのかな?」


…提督はまた半信半疑だった。

…すると榛名はすかさず提督に近寄った。


榛名「…いいんですよ…何度も言うように、提督が私達を大事にしてくれるように、榛名達も提督を大事にしたいんです」

提督「…」

榛名「今の提督があるのは故郷とご両親に育まれた日々があったからです…だから全てを受け入れたいんです…」

提督「…はは…」

榛名「…提督?」

提督「ははは…ホントに…いいんだ…」

榛名「…!///」


…ギュッ


朗らで何かから開放されたような表情の提督に心打たれた榛名は、咄嗟に抱きついた。


…初めてだったから。

いつも甘える立場だったから。

…とても嬉しい。

提督のその表情を初めて引き出せたことが。

堪らなく嬉しい。


………
……


提督「…榛名…ごめん…」

榛名「…えっ…」


…まさか…ここに来て拒絶された…?

…いきなり抱き着いたから?


榛名「…す、すみません!」

提督「あぁ!ちゃうねんちゃうねん!…嫌どころかメッチャクチャ嬉しいんやけど…」

榛名「…?」


…あぁ…提督のお顔が真っ赤です…良かった…。

それに焦られたり、本心になると関西弁なのですね…。

…いいことを知っていましました♪


提督「…俺は風呂に入ってないから…ちゃんと綺麗になってからじゃないと…榛名は折角汗を流したのに…失礼だし…」

榛名「…」


…あぁ…もう…。

提督は意地悪です。

素顔で私達を焦らす酷い人です。


榛名「…」


ガシッ…グググ…


提督「…へっ?」


ドサッ!


次の瞬間、榛名は提督の両肩を鷲掴みにして、そのまま床に提督を押し倒した。

…可憐な容姿だが、その本性は戦艦。

鷲掴みされて捕まった時点で、普通の人間である提督には抵抗など出来る筈もなかった。


榛名「…このような真似に及んだ榛名をお許しください…でも…榛名…もう我慢できません…」

提督「…ここまでされちゃあ…なぁ…」


ムニッ…


榛名「んむっ…へいほふっ?///」ムニムニ


そのままの体勢で、提督は榛名の両頬を両手で包んでムニムニと捏ね始めた。


提督「…はぁ…こんなにもちもちすべすべやったんやねぇ…はは…白い肌が赤くなってかわえぇなぁ…」

榛名「…!///」


…2人の理性が崩れ去るのは、もはや秒速の問題であった。

……………
…………
………
……


2022.4.23 0000時
提督実家 客間

スー…

客間の襖が静かに開けられる。


榛名「…」コソコソ


…む、夢中になりすぎて、提督のお部屋に長居しすぎました…。

朝に顔を合わせた時の言い訳をどうするか…考えておかないと…。

…と言ってももう、この提督の帰省に同行した娘達には隠す必要もないけれど…。

…ただ…恥ずかしい…。


矢矧『…榛名さん?』

榛名「…!」ドキッ


布団に入ろうとした榛名の脳内に声が飛び込んてくる。

直接通信だ。

声の持ち主の方を見ると、そこにはその当人である、矢矧が上体を起こして榛名を見ていた。


榛名『…っ!矢矧…あなたっ』

矢矧『す…すみません…声を掛けるつもりは無かったんですが…』


夜目の効く艦娘にとって、室内の暗闇程度なら、相手の表情はハッキリ見える。

榛名の目に写ったのは、矢矧は顔を赤くして明らかに具合のよくなさそうな矢矧の姿だった。


榛名『矢矧っ…どうしたんですか?!』

矢矧『あぅ…その…そのつもりは…無かったんですが…』

榛名『…?』

矢矧『すみません…30分前の…声…聴こえ…ちゃって…』

榛名『…あ///』

矢矧『…そ、それより…提督との…話し合いは…ど、どうでしたか?』

榛名『は、はい…私達の提案を受けてくれました…』

矢矧『…はぁぁ…よかったぁ…提督…思い止まってくれたんですね…安心しました…』


心底安心したような表情をした矢矧は、そのまま横になった。


榛名『矢矧っ?!貴方そのまま寝るつもり?!』

矢矧『…は、はい…提督に…明日…いや、今日か…何とかして…貰い…ます…』

榛名『…』

………
……



同時刻 提督実家 提督の部屋


提督「…」


…いかん…。

…寝れん…。

…後ってめっちゃ疲れて即寝落ちって聞いたんだけど…?

目が冴えて冴えて…なんじゃこりゃ…。


コンコンコン…


提督「…?」


…控えめなノック音が聞こえたような…?


…コンコンコン…


…気のせいじゃないな。

…榛名…何か忘れ物をしたか?


スー…

提督は起きて電気を付けて、顔半分見えるくらいに戸を開けた。


提督「…どちら様?」(小声)

榛名「…お疲れのところ申し訳ありません…」(小声)


先程部屋を出ていった榛名だった。


提督「…どうしたの?忘れ物?」(小声)

榛名「すみません…不測の事態でして…部屋に入れていただけないですか?」(小声)

提督「お、おぅ…へ?…矢矧も一緒?」(小声)

矢矧「ご…ごめんなさい…押し掛けてしまって…」(小声)


榛名に肩を貸してもらって、矢矧も一緒に来ていた。

そのまま部屋に招き入れて、ひとまず矢矧をベッドへ横にさせた。


矢矧「…」フゥ…フゥ…

提督「…どうして矢矧が具合悪そうなんだい?」

榛名「そ、それは…そのぉ…」


提督の耳元でゴニョゴニョ


提督「…えぇ…あれ聞こえちゃったの?」

榛名「も、申し訳ありません…」

提督「…いや、とどの詰まり、そこまで気が回せてなかった俺が悪いから、誰も悪くない…矢矧のことは任せておいて」

榛名「…でも提督…身体とお気持ちの方は大丈夫ですか?」

提督「…ん?…後は疲れて寝落ちするって聞いていたのに、何か目が冴えていたから大丈夫…気持ちは…まぁあの時に明石からその話を聞いていたから覚悟はしてた」

榛名「…わかりました…矢矧のことを頼みます…」

提督「ん…あ、榛名」

榛名「…?」

提督「…気遣いありがとう…」

榛名「…えへへ…また…愛してくださいね?///」


スー…トン…

そう言うと榛名は部屋を静かに出た。


提督「…さて…」

矢矧「…提督…?」

提督「…ごめんな?変な気にさせて…」

矢矧「…ううん…気にしないで…ただ…」

提督「…?」

矢矧「…提督って…意外と激しいのね…」

提督「…実際、自分でもビックリだわ…幻滅した?」

矢矧「…ふふ…仮にそれで幻滅してたら…ここに連れてきて貰ってないわよ…」


提督は矢矧が横になっているベッドの端に座った。


提督「…それなら良かった」

矢矧「…右のお尻…大丈夫?」

提督「…ん?」

矢矧「…ほら、私の撃った流れ弾が当たった場所…酷くなってない?」

提督「あぁ〜、すっかり腫れも引いてるし痣も殆どないよ?…それより」

矢矧「…?」

提督「…事故直後に矢矧にズボン引っ張っぱられて、『尻出せ』って言われた方が焦ったよ」

矢矧「…ぁあ///」

提督「危うく他の娘達の面前で汚いケツを晒すところだったよ…」

矢矧「か、患部を見るのは当たり前でしょっ?!///」

提督「しー」人差指立てて口に当て

矢矧「むぐっ…うぅー…」


感情が昂りやすい矢矧は、思わず声が出てしまい、それを提督に諭されて少し悔しそうにしている。


提督「あ、そうそう…車も釣具も泊地に持っていくことにしたんだ…一応報告」

矢矧「…そうなの?…それは…よかった」

提督「まあここに並べてるのは海では使わないけど、海用の道具もあるのはあるから」

矢矧「…どれだけ持ってるの?」

提督「…あとこれの半分位」

矢矧「…えぇ…」

提督「…自分で買ったのもなくはないけど、殆どは企画とか宣伝でもらった製品の試供品が海用も結構残っててね…」

矢矧「な、なるほど」

提督「だから…余った道具で興味のある娘に教えたりも出来て、それも楽しいかなって」

矢矧「…!良いじゃない…ふふ」

提督「…?どうしたの?」

矢矧「…図らずして釣りしてる提督が見れるなって思ったら、嬉しくて…ね?」

提督「…うーん…ただの釣り好きオジサン、って思うよ…きっと」

矢矧「…そうかしら?あの映像を観た私達からすれば、そうは見えないと思うけど」

提督「…やっぱりか…皆してアレ観たな?…皆物好きだなぁ…」


矢矧は提督の青年時代の映像の話をした。


矢矧「…ふふ…なんだかこうして話していると、気持ちが落ち着いてきちゃった…」

提督「…おおっと、本題はまだ終わってないよ?」

矢矧「…?」


矢矧が起き上がって客間に戻りそうな仕草を見せたので、提督は引き止めた。


提督「…ちゃんと一度落ち着いて話をしてからにしたがったんだ…焦らすつもりは毛頭なかった」

矢矧「…ええ…お陰様で今の私の心は穏やかよ…」

提督「…じゃあ単刀直入に言うよ。…俺は君に対して、同情でそういう関係になりたい訳じゃない…だからちゃんと俺が矢矧の好きなところを言うから、聞いてほしい」

矢矧「…ふぅん?」

提督「…ん?」

矢矧「…じゃあ…私の好きなところ…全部言ってみて?」

提督「…覚悟できてる?」

矢矧「…あら?誰に向かって言っているのかしら?」


矢矧は、受けて立つと言わんばかりに提督に向き合って、正座をして迎えうった。


矢矧「さ…どこからでもかかってきて頂戴」キリッ

提督「…今そうして凛とした表情のキミが好き」

矢矧「…他には?」

提督「…たまにおっちょこちょいなキミが好き」

矢矧「…それって好きになる点なの?」

提督「…いつも真っ直ぐなキミが好き」

矢矧「…」

提督「…艶々の長い黒髪をポニーテールにしてるキミが好き」

矢矧「…/」

提督「…その束になった長いもみ上げも好き」

矢矧「…//」

提督「…訓練も実戦も厳しいけど、後の気遣いを忘れてなくて、他の娘への愛情が隠しきれてないキミが好き」

矢矧「…///」

提督「ポニーテールにする時につけてた前の萩色のシュシュも良かったけど、今のその白の長いリボンも好き…あとうなじ最高」

矢矧「…も…///」

提督「…そうやって真っ赤っ赤になって照れてるキミが好き」

矢矧「…も……めて…///」

提督「…無自覚に行動して、気が付いて慌てふためくキミが好き」

矢矧「…もうやめて…顔から火が出そう…////」プルプル…

提督「…つまりそういうのを全部ひっくるめてキミが好き」

矢矧「…あぅ…/////」


矢矧は提督の1ミリもブレない視線と、好きなポイント列挙の波状攻撃に対して、堪り兼ねて顔を両手で覆って、完全に身体を提督から背を向けた。

…もう矢矧は耳どころか首筋まで真っ赤っ赤である。

これを見て提督は確信した。


提督「やったぜ」٩(・ω・)۶完全勝利S
(両拳を軽く突き上げて真顔でドヤ顔)

………
……


” ていとくは、けいじゅん やはぎ をたおした! ” テーテレッテッテレテッテー♪

………
……



提督「…伝わったかな…俺の気持ち」

矢矧「…私を、殺す気なの?///」ハァ…ハァ…

提督「…良い意味で悶えさせられるのなら本望だよ」

矢矧「…」スゥ…


…ババッ!

ガシッ!

ドサッ!


提督「…!おわっ!」

矢矧「…あはっ♪…私がその気になれば、提督1人くらい…主導権なんていくらでも取れるのよ?」


目にも留まらぬ速さで矢矧は、提督を押し倒して実力行使をしてきた。

その目は羞恥を通り越して、狩猟者の様な目だった。

…しかし提督は素の矢矧を知っているので、怯むことはしなかった。


提督「…ははは…なんか今日はこんな感じなんやなぁ…」

矢矧「…随分余裕じゃない?抵抗しても無駄よ?」

提督「…てやっ!」


ギュッ!


四つん這いで提督に覆い被さってマウントを取っていた矢矧に対して、提督は両肩に乗った矢矧の両手を内から両手で払って、両腕ごと抱き着いて引き寄せた。


矢矧「…えっ?!…なっ!///」ジタバタ

提督「んん、捕まえたー♪…イテッ!」


両手を塞がれても尚、暴れる矢矧。


…たまに脇腹に入る膝が痛いっす…矢矧さん…。


抵抗する矢矧に対して提督は、ひたすら抱き締め続けているうちに、矢矧は抵抗しなくなってきた。


矢矧「はっ!…放してっ……ぁ…」


ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…


動きを止めた矢矧は、自分と提督の鼓動がシンクロしていくのに気が付いた。


…。

…心地良い…。

…思考が溶ける。

…この心地良さに全て委ねたくなる。

あぁ…好き…。

やっぱり提督のことが大好きだ…私…。


提督「…すごく脈拍が心地良いなぁ…」

矢矧「…う、うん…恥ずかしいのを…有耶無耶にしようとして…あ、暴れてごめんなさい」…

提督「…うんにゃ…えぇよ…」

矢矧「…ねぇ?…抱き締めるの…一旦解いてくれない?」

提督「…やだ」( ー`ωー´)フンス

矢矧「…ふふ…”抱き返したい”…って言っても?」

提督「…ならオッケー」


提督は一度抱き着いているのを解くと、矢矧は提督の首に抱き着いた。


矢矧「…ふふ…やっと…両想いってわかったから…嬉しい…ねぇ提督…私も…可愛がって…もらえますか?」

提督「…ガンバリマス」


……………
…………
………
……


同日 0500時


…スクリ…


提督「…」スッキリ


…やべぇっ!

…習慣ってやべぇっ!!

いつも通りの時間に目覚まし無しで起きちゃったよっ!

…それにあれだけ遅い時間まで起きていたのに、あんまり疲れてない…。


矢矧「…」スヨスヨ…


…横で矢矧が寝てる。

…やばい!

…かわいい!

…眼の前の情報量が多すぎて、語彙力が追いつかねぇ!

…色々冷静になる必要がありそうだ。


提督「…とにかく起きて朝食の準備しよ…」スッ


…グイッ!


提督「…」

矢矧「…むー…」


離れていくことを察知した矢矧に引き留められてしまった。


…このあどけなさが俺を狂わせる!

…この天然小悪魔めっ!( ‘ H‘)


提督は内心、その尊さに悶え苦しんでいた。


矢矧「…ていとく…おはよう…」ポケ‐

提督「お、おおぉお、おう、おはようござりまする」

矢矧「………」ジー

矢矧「……」ジー

矢矧「…」

矢矧「///」ゴソゴソ…


…矢矧は恥ずかしさのあまり、提督のシャツの端を掴んでいた手を離して、布団で顔を隠してしまった。


…ちくしょう…。

…ちくしょう…っ!

…かわいいかよぉぉぉぉ↓ぉぉぉぉ↑っ!!!


内心が乱れまくっている提督は、少しでも早く矢矧のテリトリーからの離脱を試みた。

提督「わ、悪い…ちょっと朝食作ってくるから…」

矢矧「…ていとく…」

提督「…おぅ?」

矢矧「…私も…手伝う…」

提督「…そっか…身支度はゆっくりでもいいからね?」

矢矧「…うん♪」


頭から目元までを布団から出した矢矧が、くすぐったそうな表情で、返事を返してきた。


…なんだろう…このやり取り…良いな…。

………
……


そんなやり取りの後、提督は一足先に部屋を出て階段を降りて、台所に立った。


提督「…ホットサンドとサラダ…コーヒーも入れっか…」

榛名「…おはようございます、提督」

提督「…ん、おはよう…早かったね…もうちょっとゆっくりしてても…」

矢矧「…あうぅ…」(着替えているが榛名に捕まってる)

提督「( ‘ω‘)」(真顔)

榛名「…矢矧ばかり…ズルいです…」

榛名「こんな事なら…私も矢矧と一緒に…まとめて可愛がって貰えばよかったです…」

提督「…榛名?」

榛名「…提督の寝顔を…眺めたかったです…」

提督「…榛名さーん」

榛名「…こんなの不公平ですぅ…」

提督「…榛名落ち着こう、ここで喋ってたら色々不味い…」

榛名「…榛名も提督と朝○ュンしたかったですっ」

提督「ちょっ…朝○ュン言うな…後でグチは聞いてあげるからここでは…あ…」

榛名「…へ?」

提督両親「「………」」ニヤニヤ
(嬉々とした表情両手で頬杖しながら見学✕2)

榛名・矢矧「「( ‘ω‘)」」(真顔)

提督母「…いやー、まさか一晩で2人もごちそうさまとは…とんでもない息子やわ…」ニヤニヤ

提督父「…ホンマによ…とんだ暴れん坊将軍やでぇ…まぁ、それだけの事してるから、まーえーやん…あ、比叡ちゃん除け者にしたらあかんぞ〜…吹雪ちゃんに手を出したらコ○スゥ…」(真顔)

提督「…格好の弄りの的になるやんかぁ〜っ!」

提督母「…榛名ちゃん、矢矧ちゃん、子供は計画的に作らんとアカンよ?」ニマニマ

榛名・矢矧「「///」」

提督「…もぉ勝手にしてくれぇ…」(心の底からの諦め)

………
……



0730時 提督実家 居間


比叡「なんだかスッキリ寝れましたぁ〜、朝ごはんも美味しい〜♪淹れたてコーヒーの香りで目覚める朝って最高ですねぇ♪」

吹雪「んん〜♪このツナマヨオニオン入りのホットサンド美味しぃ〜♪司令官美味しいです♪」

提督「お、おう、そりゃ良かった…」


そんなコントの様な出来事のあった早朝。

皆揃って朝食を取っていた。

…何やかんやあったけど、もちろん榛名も矢矧も朝食作りを手伝っていた。


…なんか、朝から元気にしている2人見てたら…相当汚れてんな…俺。


榛名・矢矧「「……///」」モグモグ


…あとの2人は、黙々と食べてるし…。


比叡「…司令?今日のご予定はどうされるんですか?」

提督「…ん〜…いくつかプランは考えてるんだけど…皆もリクエストがあったら言ってくれ」

吹雪「…私はまず司令官のしたいことを伺いたいです!」

比叡「吹雪と同じく!」

提督「…榛名と矢矧はどう?」

榛名「…へっ?!…あぁ…榛名もまず提督がしたいことを聞きたいです」

矢矧「…私は…うん、阿賀野姉達と親しい娘達にお土産を買う時間以外は、皆に合わせるわ」

提督「…そっか…それじゃあプランをいくつか言う…まずは…ーー」


…こうして、提督の里帰りの日程は、2日目以降に突入する事となるのであった。

……………
…………
………
……


”提督の帰郷編♯1” 完

To Be Continue.

……………
…………
………
……


皆さん、毎度の長文お疲れさまでした!(_ _)

今回のお話は振り幅が大きくて、書く側としては楽しかった反面、どう折り合いつけようか…みたいな感じでしたが、終わってみればいつも通りの展開でした(笑)

こんな感じに今度は”提督の帰郷編♯2”を書いていきたいと思います。

作中の構成としては色々考えてますが、著者もよく行き、吹雪の故郷である舞鶴の事を書きたいと思ってます。
#舞鶴はいいぞ (笑)

それではしばしのお別れです。

またお会いしましょう!(_ _)
Posted at 2022/04/29 23:54:03 | コメント(0) | トラックバック(0)
2022年04月15日 イイね!

艦隊これくしょん -艦これ- 〜佐伯泊地の日々〜 提督の覚悟編

艦隊これくしょん -艦これ- 〜佐伯泊地の日々〜 提督の覚悟編皆さん、おはこんばんちは!
Σ∠(`・ω・´)

そして、同業の皆様、本日もお疲れ様です!

尚、過去作は下記のURLで開いていただければ、このみんカラ内のブログとして掲載されている物が閲覧できますので、もし宜しければどうぞ〜(_ _)


プロローグ ♯1 午前編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44104145/

♯梅雨の日編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44223073/

♯夏の黄昏編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44271814/

♯夏休暇 初夜編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44785551/

♯夏休暇 1日目♯1
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44889139/

♯夏休暇 1日目♯2
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45141124/

♯夏休暇 2日目
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45185889/

♯夏休暇 3日目
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45796679/

♯冬編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45826901/

♯提督の誕生日編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/46027975/

毎度ながらの超長文となりますが、気長にお付き合いくださいませ…。

今回は少しだけシリアスに行きます。
2022年冬〜初春に開催されたイベント
”発令!「捷三号作戦警戒」”
を元に描きますので、そこんとこよろしくお願いします(_ _)
※怪我っても死人は出ないよ!(ココ重要)

…ですが、少しグレーな表現も用いるので、無理そうなら読まないでください。
※グロ無し(ココ重要)

基本この泊地の艦娘は、提督好き好き設定でヨロシクです!

尚、この作品は 艦隊これくしょん - 艦これ - の二次創作であります。

キャラクターの人物像も公式を参考にして、著者が独自解釈したものです。

これらを踏まえた上で、お読みになってくださいませ…。


〜今回のメイン登場人物一覧〜

☆提督 
人間 男 20代後半 海上自衛隊出身
任官直前の適性テストの末 艦娘を指揮する提督に着任。(妖精判断なので、基準は不明)

機械弄りと工作が密かな趣味。
多少の事なら自分で治してしまう。

隠れオタク。たまにその片鱗の顔を覗かせる。

多趣味。
守備範囲の広さに驚かれる事もしばしばだが、本人曰く
「何事も興味からの実行の結果。本物から見ればただの器用貧乏」
と苦笑する。

ごく偶にキレると制止してくる艦娘すら引き摺る火事場の馬鹿力持ち。

初の嫁艦は榛名。


☆金剛型 戦艦 3番艦 榛名(改二)
艦娘 嫁艦(練度151) 提督補佐

出会って0.1秒で提督の好みにぶっ刺さった健気な強者。
※ちなみに練度も泊地最強。

普段は遠慮しまくりだが、実はそれが姉妹であっても、目の前で提督と仲良くされるのは面白くない、独占欲は強めな娘。
※だが反応が可愛いのがわかっているので、周りも程々で止めてくれる。

コソコソと料理の特訓を積んでいる(鳳翔談)

提督に対しては感情をさらけ出したら、誰にも手が付けられない程の溺愛。

漠然とだが、やがて提督とのケッコンカッコガチは自分だと思っていたが…?


☆阿賀野型 軽巡洋艦 3番艦 矢矧(改二乙)
艦娘 嫁艦(練度138) 連合艦隊 第2艦隊旗艦

能代同様改二に改装後、覚醒した重巡級スペック軽巡洋艦。
※色んな意味で。

…実はさり気なく提督の好みにぶっ刺さってた娘。

普段は礼儀正しくも強者感漂う風格を滲ませるが、いざ戦闘から離れると、意外とおっちょこちょいな1面を見せる。

今現在、提督が釣り好きなのを知っている泊地内唯一の艦娘である。

提督の事は憎からず想っているが、周りの嫁艦勢に少々気圧され気味。

今回のお話の展開に巻き込まれていく中心人物の1人。


☆長門型 戦艦 1番艦 長門(改二)
艦娘 嫁艦(練度136) 連合艦隊 第1艦隊旗艦

提督と艦娘との距離感の是正を嘆願した嫁艦の1人。

繊細さと豪快さが同居した可愛い麗人。

泊地内でもトップクラスの練度と実力で艦娘達を引っ張る。

その反面、甘い物に目がない。
※辛口・アルコールはNG
特にアルコールが入ると、抱き付き魔・泣き上戸・キュルルンボイスと普段の威厳からは想像出来ない1面が出る。
※尚、その反動で暫く立ち直れない。

提督の事は異性として想っている。


☆長門型 戦艦 2番艦 陸奥(改二)
艦娘 嫁艦(練度134) 連合艦隊 第1艦隊 2番艦

提督と艦娘との距離感の是正を嘆願した嫁艦の1人。

剛が長門なら柔は陸奥。
しかしその戦艦としての実力は、泊地随一の強者の1人。

飄々として提督をあしらっているが、本当は捕まえて欲しいという裏返しの天邪鬼。

ちょっと強引に迫られるとたじろぐ乙女。

長門程ではないが、アルコールを摂取するとデキる女が右肩下がりで乙女度が右肩上がりになる。
※尚、酔が覚めたらケロッとリセットされているクチ。

提督の良き相談相手であると同時に提督を落としたい乙女。


☆基地砲台組
大和型 戦艦 1番艦 大和(改) (練度117)
大和型 戦艦 2番艦 武蔵(改二) (練度105)


☆連合艦隊 決戦艦隊の面々
第1艦隊
伊勢型 航空戦艦 2番艦 日向(改二) (練度120)
翔鶴型 航空母艦 1番艦 翔鶴(改二甲)
(練度135)
秋津洲型 水上機母艦 1番艦 秋津洲(改)
(練度75)
陸軍特種船(R1) 揚陸艦 神州丸(改) (練度98)

第2艦隊
球磨型 4番艦 重雷装巡洋艦 大井(改二)
(練度111)
最上型 1番艦 特殊改装航空巡洋艦 最上(改二特)
(練度125)
特Ⅲ型 駆逐艦 2番艦 Верный(ベールヌイ) (練度98)
朝潮型 駆逐艦 10番艦 霞(改二乙) (練度121)
秋月型 防空駆逐艦 3番艦 涼月(改) (練度98)


☆出迎え組
金剛型 戦艦 1番艦 金剛(改二) (練度121)
阿賀野型 軽巡洋艦 2番艦 能代(改二)
(練度123)
川内型 軽巡洋艦 2番艦 神通(改二) (練度100)
特Ⅰ型 駆逐艦 1番艦 吹雪(改二) (練度107)


☆新着任艦
秋月型 防空駆逐艦 8番艦 冬月
Atlanta級 防空巡洋艦 1番艦 アトランタ


☆明石型工作艦 1番艦 明石
艦娘 未婚艦(練度75) 今回は医務員

泊地のなんでも屋。
時にはアイテム屋・またある時はメカニックのエキスパート。
大淀並みに泊地内を駆けずり回る忙しい娘。
※本人曰く、暇になったら即死する、と言うほどの提督に負けず劣らずの仕事ジャンキー。

戦闘艦ではないがジリジリと練度を上げて来ている。
※演習で護衛対象訓練として演習艦隊に入れられている為。

提督の事は好きだが、どちらかと言うと今はお友達感覚より少し進んだ程度の進捗状況で、周りの嫁艦と提督のやり取りをニマニマしながら見ている。


☆大淀型軽巡洋艦 1番艦 大淀
艦娘 未婚艦(練度91) 事務方の玄人

実質、影の秘書艦。
提督とは明石同様、泊地創設以来の付き合いで、提督の良き相談相手。
ジワジワと上がってきている練度の関係で、提督に心寄せている。

仕事ばかりしていると思われがちだが、自室でのプランター栽培から始まった、家庭菜園が今や複数の艦娘と管理するちょっとした農園を切り盛りしていたりする。

よく秋月型駆逐艦姉妹と農作業をしている風景を、複数人に目撃されている。


☆阿賀野型 軽巡洋艦 1番艦 阿賀野(改)
艦娘 未婚艦(練度95) 普段はだらける聡い子

矢矧の姉だが、普段は真面目な妹、矢矧に頭が上がらず、くどくどと説教される側の長女。

…だが意外と観察眼に長けており、普段は口にしないだけで必要とあればその場に合わせた口調で、はっきり物を言う二面性を持つ。

提督の事は好きだが、嫁艦である能代・矢矧を見ていたら少し気後れして、微妙に距離を置いている。
※だが隙あらば行く気がある。


大筋の登場キャラはこちらになります。


それでは始まります。
「艦隊これくしょん-艦これ- 〜佐伯泊地の日々〜 提督の覚悟編」

……………
…………
………
……



2022.3.18 pm2235
佐伯泊地


「大淀!早急に予備の屠龍で1個中隊編成して、迎撃に当てろ!連日の空襲で熟練度も改修も申し分なしだろ!」

「し、しかし決戦がいつ終わるかわからない最中に資源を大量に消耗してしまいます!」

「資源なんぞまた集めりゃいい!街とこの泊地を守んだよ!皆の帰ってくる家を!佐伯市にも空襲警報を出せ!」


………
……



「よしっ!全機飛び立った!街を…ここを守ってくれよ…!」

「対空電探に感あり!小規模編成ですが、高高度征く爆撃機編隊の機影あり!」

「…おいでなすった…裏をかいたつもりだろうがそうはさせんぞ!」

「…屠龍中隊、会敵!」

「提督よ!我々が砲台になる!弾幕を張るぞ!」

「頼むっ!大和!武蔵!やってくれ!ぶっ放せ!」

「…敵爆撃機、遠ざかって行きます!大和さん、武蔵さん!屠龍隊が弾幕に巻き込まれないようにタイミングを合わせて!」


………
……



「…殆ど追い払ったか?」

「…くっ!1機撃ち漏らしました!」

「どこ行きやがる!畜生が!」


ズドンっっ!ズドドンっっ!!


「うぉっ!!」

「きゃっ!!…は、泊地内に爆弾が着弾!!」

「被害を報告せよ!退避していた娘達は無事かっ!」

「こちら大和!私達は無事ですが、泊地内は爆弾の黒煙が深くて確認できません!」

「ちくしょう、外部カメラのリンクが切れた!通信もイカれた!どうなってる!…大淀、ここを頼む!」

「提督?!外は危険です!」

「提督!待ってください!」

「地べたの中じゃ外がどうなってるかわからん!じっとしていられるか!」


………
……



「ゲホッゲホッ…あぁ…こりゃひでぇ…窓という窓が割れてる…皆はどこだ?!」

「最後の1機に屠龍が張り付いた!頼むぞっ!」

「…こっちかっ!」

「提督!待って!まだ空襲が続いてます!」

………
……


「…くっ…撃てんっ!…くそっ!…ちょこまかと…っ!」

「大和!武蔵!状況はどうかっ!」

「…っ!提督、来ないでッッッ!!」


ズンッ…!バァァァァァァァンっっ!!!


「っ!提督っ!……あ、あぁ……い、いやぁぁぁぁぁっ!!」

……………
…………
………
……



2022.3.20 am 0735
佐伯泊地 連合艦隊
関門海峡を航行中。

北九州の近海まで迫っていた姫級の深海棲艦を退けた戦いに参加していた、佐伯泊地の決戦連合艦隊計12隻と艦隊の真ん中に2隻を挟んだ14隻…更に言えば他の鎮守府や泊地から出撃してきていた他艦隊が関門海峡を抜けてゆく。


長門「…長い戦いだったな…」

陸奥「ええ…本当に…ここまで攻め込まれたのも久々よね…」

翔鶴「…でも…倒せてよかったですね…本当に…」

日向「そして損害は多いが損失は無し…また提督のヤツの株が上がるな」

長門「…しかし泊地との無線交信が深夜以降できん…どうなってるんだ…?」

日向「…あまりにも寝なさすぎて安堵して寝落ち…ま、それはないか…提督と榛名と大淀なら」

翔鶴「でも変です…何かあったのかしら…?…あ、秋津洲ちゃん、神州丸さん、大丈夫ですか?」

秋津洲「ふえぇ…何とか大丈夫かも〜…やっと終わったかも〜…やっぱり戦闘は苦手かも〜…」

神州丸「本船も異常ありません。…対地攻撃が上手く相手方に効いて良かったのであります…」

長門「…そうだ…なんにせよ、皆で戦い生き残って守り抜いたんだ!早く提督にも安心してもらわねばならないな…矢矧、そちらの状況はどうか?」

矢矧「こちら第2艦隊旗艦 矢矧、損害は多いですが、航行に支障なし。解析した2隻の護送にも支障なしです」

長門「了解した…各艦、なにか不具合が出ればすぐに報告しろ!このまま強速を維持したまま佐伯泊地を目指す!対水上対空対潜警戒を怠るな!」

最上「了解!…はぁ…さっすがに疲れたなぁ〜…早く泊地に戻って、のんびりしたいよ〜」

大井「全く人使いの荒い男なんだから…ま、中々良い作戦指揮だったから許すけど…」

ベールヌイ「雷撃が相手方に上手く刺さってよかったよ…今回も良い仕事ができた」

霞「最後の夜戦で全員の魚雷一斉射は壮観だったわ…敵のヤツざまぁないっての」

涼月「…お冬さん、後3時間ほどで私達の所属する佐伯泊地に着きます。きっと提督が出迎えてくれますので、簡単でもいいので挨拶を考えておいてくださいね?」

???「あぁ…そうなのか…余程皆から信頼されている者が長を努めているのだな…早く会いたいな…」


セミロングの銀髪に指先まで覆う白インナーを着用し、秋月型制服の上から灰色のケープコートを1枚羽織っている、艦娘。

秋月型駆逐艦3番艦 涼月はよく容姿の似たもう1人の秋月型駆逐艦に声を掛けていた。

同じく銀髪で涼月よりも更に髪が長く、スラリと伸びた背、凛とした目。

秋月型駆逐艦8番艦 冬月。


先の激戦の果てに解析を果たした新しい仲間だ。

…そしてもう1人…。


???「……」

矢矧「…新天地に緊張してる?」

???「…ちょっとだけ…ねぇ、あなた達の提督さんってどんな人?」

矢矧「ん〜…変わった人だけど…優しくて…私達をいつも勇気づけてくれる人よ」

???「ふ、ふぅん…そう…なんだ」

矢矧「それに、泊地には貴方の同郷の艦娘も沢山いるから安心していいわよ、アトランタ」


茶髪のツインテールにテールの先に錨を模した髪飾りが付いていて服装は、薄手の白いブラウスに特徴的な黒のスカート身につけている艦娘。

アトランタ級 防空巡洋艦 1番艦 アトランタ。

これから訪れる新天地の前に、少し気怠そうな表情は、矢矧のその一言で少し明るいものになった。


アトランタ「そ、そうなんだ…楽しみ…色々ありがと…えっと…」

矢矧「阿賀野型軽巡洋艦 3番艦の矢矧よ、今後ともよろしくどうぞ」


矢矧は航行しながらアトランタに流れるように近寄り並走し、手を差し伸べ握手した。


アトランタ「おおっと…あ…ありがと…よろしくヤハギ…ん…?」


アトランタが右舷に目をやり空を見上げた。


矢矧「…どうしたの?」

アトランタ「Radar contact Aircraft approaching(電探に感あり 航空機接近中)…見慣れない回転翼機が…こっちに来る…」


南から海上自衛隊所属の多目的ヘリ、SH-60Kが重低音を響かせながらこちらに向かってくるのが、彼女達の目に映る。


矢矧「…大丈夫、あれは友軍よ。海上自衛隊のSH-60Kよ…教えてくれてありがとう」

アトランタ「…ん…なら…いいんだけど…」


海峡を通過中の連合艦隊に近付いたSH-60Kは、高度50mに降下し艦隊から直線距離200m程まで艦隊右舷に近づいてから、引き返し高度を上げ、そのまま北九州の街中に降りて行くのを横目に、彼女達はそのまま泊地への航路を辿った。


矢矧「…?」


あのSH-60K、随分変な機動をしていたな…。

…まるで私達を、見に来たような…?

…何で私達に近付いてきたんだろう?

………
……


『…あぁ…無事全員…戦い抜いて…くれたんだなぁ…』

『俺でもわかる…佐伯の…皆だ…』

『…ごめんな…凱旋の時に…居てやれなくて…』

………
……



同日 am 0932
佐伯泊地 連合艦隊
鶴御崎展望台 沖合 東へ1kmの地点を南下中。

鶴御崎を超えれば彼女たちの母港、佐伯泊地はもう目の前だ。


長門「…あぁ…佐伯の街が見えてきた…還ってきたな…」

陸奥「そうね…やっぱり私達にはここの風景が落ち着くわね……?…えっ?」


鶴御崎を越えて佐伯の街が見えて、安堵が広がったのも束の間、佐伯泊地 連合艦隊の面々の目に信じがたい光景が映った。


翔鶴「…泊地から…黒煙が…っ!」

日向「…高高度爆撃機は北九州が標的だったんだろう?…なのになぜ佐伯が燃えてるんだ…?」

長門「憶測を唱えている暇はない!全艦!この長門に続け!第三警戒航行序列(輪形陣)に移行!新たな仲間を囲んだまま、対水上対空対潜警戒を厳とし、第3戦速で泊地に向かう!」

連合艦隊一同「「「「「了解っ!」」」」」


疲労も残る中、再び集中力を高めた連合艦隊は、警戒しつつ泊地へと急行した。

………
……


同日 am 0955
佐伯泊地 連合艦隊
帰着予定時刻より12分早く佐伯泊地に帰還


長門「…なんてことだ…」

陸奥「どうなってるの…」

矢矧「…うそ…」

最上「み…みんな…どこ?」


兎に角最寄りのスロープに連合艦隊全艦が着岸・上陸。

彼女らの前には、地面に大穴が数多口開き、施設の窓ガラスという窓ガラスが吹き飛び、すっかり変わり果てた泊地が広がっていた。


大淀「あぁっ!皆さん!おかえりなさいっ!」


復旧作業中の大淀が帰還した連合艦隊を急いで出迎えた。


長門「大淀、これはどういうことだ!どうして連絡を入れなかったんだ!」

大淀「す、すみません…この爆撃で本部へのホットライン以外の通信設備がすべてダウンして…」

長門「くっ…す、すまない…」

陸奥「…泊地にいた娘達は?!全員無事なの?!」

大淀「は、はい!全員点呼が取れてます!
無事です!今、瓦礫の撤去や復旧に人員を割いてますので、凱旋のお迎えできず申し訳ありませんでした!」

陸奥「そ、そう…ふぅ……よかった…」

翔鶴「…あの…提督は…どちらに…?」

矢矧「…いつもなら出迎えてくれる筈だけど…」

日向「そうだな…いの一番に来るはずだが…」


姉妹や仲間の無事が確認できたのだが…。

…居ない。

いつもの出迎えてくれるあの人の姿が。


大淀「…」

矢矧「…大淀?」

大淀「…て…ていとくは…負傷…されました…」


大淀は詰まった声を振り出すように告げた。


長門「…んなっ?!」

矢矧「…えっ…?」

翔鶴「…あぅ…」クラッ

日向「お、おいっ!翔鶴!気をしっかり持て!」

長門「大淀!提督の容態はどうなんだ?!軽いのか重いのか?!」

大淀「い、命には別状はありません!こちらで容態が落ち着いたところで、早朝に設備の整った北九州の病院へ、復旧したホットラインで要請した海自のSH-60Kで移送されました…」

矢矧「…あ…」


………
……


矢矧『…どうしたの?』

アトランタ『Radar contact Aircraft approaching(電探に感あり 航空機接近中)…見慣れない回転翼機が…こっちに来る…』

矢矧『…大丈夫、あれは友軍よ。海上自衛隊のSH-60Kよ…教えてくれてありがとう』

アトランタ『…ん…なら…いいんだけど…』

………
……


…提督…あれに乗っていたの?

偶然過ぎる朝の関門海峡でのアトランタとのやり取りが、矢矧の頭の中で何度も再生されていた。

…わざわざ着地地点を通過して艦隊に近付いてくるなんて、変な飛び方をしてるなと思ってたのに…。


矢矧「な…なんで…提督だけ…?」

大淀「…それは…」

矢矧「…はっきり答えてっ!!」

大井「ちょっと!矢矧!ちょっとアンタ落ち着きなさいな!」

長門「おい!お前達!仲間割れしている場合じゃない!」

榛名「皆さん、おかえりなさい!…そのことですが、私からの説明させていただきます」


声を荒げる矢矧や大井、長門の声が耳に届いたのか、榛名が撤去作業の手を止めてその場に駆けつけた。

…その榛名の表情は酷く疲れていた。


榛名「大淀さん、ここは私に任せて撤去作業の指示をお願いします」

大淀「は、はい…よろしくお願い致します…」


大淀はそう言うと深々と頭を下げて、一堂のもとを駆け足で離れていった。

…その背中は榛名同様、疲れに満ちていた。


矢矧「榛名…さん」

榛名「…追って説明します。提督は、太平洋上を北上してきた敵爆撃機編隊の別働隊を発見の後、すぐさま屠龍による臨時中隊を編成、泊地に作っていた飛行場より発進させました」

榛名「大多数を屠龍隊が撃破、大和さん武蔵さんの牽制弾幕で近寄らせないようにしていたのですが、生き残りの1機が弾幕網を掻い潜ってきて、泊地を爆撃しました」

榛名「通信網が一時遮断され、地下の作戦指揮所には情報がほとんど入らなくなり、その確認の為に提督自ら地上へ向かいました」

榛名「…指揮を大淀さんに託して、榛名もすぐ提督を追いかけたんですが…そして提督が司令部棟を出た直後に提督の50m左に爆弾が着弾、礫が提督に…あた…って…」

榛名「…提督の側に居たのに…止めることができたのに…止めることができなかった榛名がいけないんです…皆さん…提督を護れなくて…本当に…ごめん…なさい…」


そう言うと榛名は連合艦隊の面々に向かって、深々と頭を下げた。


長門「…辛い事を、話させてしまった…すまん…榛名…時に提督の容態はどうなんだ…?」

榛名「…ぐす…はい…身体機能の欠損はありません…ただ左肋骨3本骨折、左肩脱臼、打撲と切創複数…全治約2ヶ月…とのことです」

陸奥「…それって…」

榛名「…当たりどころが、もし頭だったら…即死でした」

全員「………」ゾワッ…


”一歩間違えれば即死”

その1句が彼女たちの肝を縮み上がらせた。


陸奥「…提督は…ここを発つ前になにか言ってなかったの?」

榛名「…麻酔を射つことを明石さんが進言したんですが、『この痛みを忘れちゃいけないんだ』と言って麻酔を拒否されました…いいのかと問いただしたのですが、『もう泣きそうなくらい痛い』…といつもの調子で返されてしまいました」

長門「…まったく…人の心配も知らずに…あの大馬鹿者…」

翔鶴「よかった…生きてらして…うぅ…」

榛名「…それと『第1艦隊、第2艦隊の凱旋に立ち会えなかったことが自分が怪我した事より辛い』と仰ってました」

陸奥「…そう…少しは自分の心配をして欲しいものね…もう…バカ…」

日向「…これは提督にはもう1つ痛い目にあってもらう必要があるなぁ…帰ってくる時が楽しみだナァ…」

霞「…ったくっ!変な心配させんじゃないわよ!あのクズ司令官!帰ってきたら蹴り飛ばてやんだからっ!」

ヴェールヌイ「…怪我してるとはいえ…無事で…本当に良かった…」ウルッ…

大井「…うふふふ…作戦中に指輪渡しといてこの体たらくとは…よ〜く自分のやった事の重大さを分からせてやるいい機会だわ…」

秋津洲「はわわ…提督は痛い思いしてるんだから穏便にしてほしいかも〜」

神州丸「…早く…会いたい…であります」

最上「はぁぁ…無事って聞いて安心したら急にお腹空いちゃったよ…ん?怪我してるのに無事っていうのかな…これって…?」

矢矧「…アトランタ、冬月」

アトランタ「…?何?」

冬月「ど、どうしたんだ?矢矧…?」

矢矧「あなた達の着任式と歓迎会は提督が復帰した時になるわ…今は旧友との再会と泊地の復旧…あと演習にも出てもらうことになると思う…私はー」

大井「矢矧、アンタはその2人を連れてその娘達を姉妹や同郷に引き合わせてきなさい」

矢矧「…いや、でも…」

大井「…今のアンタ、まともな精神状態じゃないでしょ?少し頭を冷やしてきなさいな…一目見りゃ目がおかしいのがわかるわよ」

矢矧「…はい」

榛名「大井さん…私も手伝います」

大井「…大丈夫なんですか?榛名さん…」

榛名「ええ…それに…提督と約束しましたから…『俺も必ずここに還るから、それまで泊地を頼む』…と」

大井「…そう…ですか…それでは…手をお借りしますね」

長門「…全員、艤装を工廠へ運び、入渠が必要な者は、入渠…あぁ榛名、資源と修復材に余裕はあるか?」

榛名「大丈夫です!幸い貯蔵庫は無傷で修復材も余裕はありますから!」

長門「…そうか…各員、補給と入渠、修復材は遠慮なく使っていいと秘書艦榛名からの言葉だ!さっさと治して泊地の復旧作業に当たるぞ!」

連合艦隊一同
「「「「「了解っ!」」」」」

長門「…矢矧、お前は大井の言う通り泊地の案内も兼ねて、新しい娘達に仲間や姉妹の顔合わせをしてやれ。どうせドックはしばらく混む。艤装は工廠に預けて少し時間を置いてからドックに来るといい…あぁ、涼月、お前も冬月と一緒に居たいだろうから、矢矧と同行してくれるか?」

涼月「は、はいっ!矢矧さん、よろしくお願い致します」

矢矧「…うん、わかったわ涼月…長門さん、承りました」


その後、すぐに秋月型姉妹に遭遇した矢矧は涼月と冬月を任せて、アトランタと2人きりでアメリカ艦がいる場所へ向かった…。


アトランタ「…ねぇ、ヤハギ」

矢矧「…ん?どうかした?」

アトランタ「…艤装…預けてないけど…そのままでどうする気なの?」

矢矧「…あ…」


ぼんやりしていた矢矧は、艤装を工廠に預けるのを忘れていた。


矢矧「…ははは…どうかしてるわね…私…」

アトランタ「…皆、本当に好きなんだね…ここの提督さんのこと…」

矢矧「…」

アトランタ「…本当はそのまま提督さんの所に飛んていきたいんじゃない?」

矢矧「…行ったところでなんて言ってやろうか…心の整理がついてないけどね…」


アトランタの指摘に対して少し当たってるのが癪だった矢矧は、提督に対して無性に腹が立ったあまり、悪態を付いた。


アトランタ「…なんかゴメン…気に障ったなら謝る…」

矢矧「…あ…こちらこそごめんなさい…は、早く同郷の人達に会いたいわよね…こっちよ…」

アトランタ「…うん…(こんなに慕われる提督さんかぁ…早く会ってみたいな…)」


その後、アトランタを泊地に既に所属しているアメリカ艦達と引き合わせることができた矢矧は、その足で踵を返して工廠へ行き、身に付けていた艤装を明石に預けた。

………
……


長門の言っていた通り、ドックはまだ空きそうにない。

矢矧はそのままふらりとまた来た道を辿って歩いた。

…いつも歩いている泊地内の筈なのに、どこを歩いているかわからなかった。

そして気がついたらある場所で足を止めた。


…提督が負傷した正にその位置だ。

何気なしに司令部のある庁舎見上げたら、ガラスというガラスが片っ端から割れた窓と、建物中央の1段高くなっているところに掲げられた、これも蓋のガラスが砕け散った時計が目についた。

その時計は2303時を、指したまま止まっていた。

…私達が夜戦で相手の姫級に、トドメの魚雷を全門投射した頃だ。

その時の情景がつい先程の出来事であったかのように思われた。


矢矧「…?」


…そんな感傷に浸っていたら、何気なく足元に目をやった矢矧は、何かを見つけた。

…赤い…何かが付いた小石が複数個、足元に転がっていた。

そして無意識に膝を付いて”それ”を覗き込んで、手を差し伸べた。

矢矧は不意に”それ”に触れた。


…ドクンっ!!


矢矧「…っっっ?!」ゾクッ


触れた”それ”から嫌な鼓動と共に、矢矧の脳裏に、ある風景が流れ込んできた。

……………
…………
………
……


武蔵『…くっ…撃てんっ!…くそっ!…ちょこまかと…っ!』

提督『大和!武蔵!状況はどうかっ!』

大和『…っ!提督、来ないでッッッ!!』


ズンッ…!バァァァァァァァンっっ!!!


榛名『っ!提督っ!……あ、あぁ…ァ…い、いやぁぁぁぁぁっ!!』

武蔵『この…クソッタレ共がっ…』ギリッ…


ボボッ…バァァァァン…


大和『最後の1機を屠龍が落としました!…提督は…提督は大丈夫なんですかっ!』

榛名『…あ…あァぁ…そん…な…』ガクガク…

武蔵『おいっ!榛名っ!貴様が取り乱してどうっ…す…る……』

提督『』ジワ…

武蔵『…あ…あい…ぼう?』ゾワッ…

大和『…て、てい…と…く…?』ゾワッ…

提督『』ドクドク…


『 … し ん で … る …  ?』


………
……



矢矧「…!ん”ぅぶっ…!ん”ふっ…!ん”ん”っ…!」


唐突、頭の中に流れ込んてきた妙にリアルな映像の直後、矢矧の視界は現実に戻り、目の前がグニャリと歪んだと思ったら、胃の内容物を戻しそうになり、両膝をついて両手で口を覆い堪えようとした。


…提督に決戦艦隊の第2艦隊の旗艦を任されたんだ。

…今度の戦いの決着を付けるために。

…そんな私が。

こんなことで吐いてどうする?!

気をしっかり持て!矢矧っ!

提督は死んでないんだっ!

あの人にこんなみっともないところなんか見せなくないっ!


押し寄せる吐き気を堪えようと必死に両手で口元を抑え込んで蹲っていた矢矧の元に駆け寄る足音が、矢矧の耳に鈍く反響しながら迫ってきた。


???「矢矧!もういいの!吐いていいの!この袋に全部出しなさい!」


『吐いていい』

この言葉を皮切りに矢矧が堪えていたものが、一気に押し寄せた。

………
……



矢矧「ハァ…ハァ…ゲホッ…うぇ…」

???「よく頑張ったわ矢矧…ほら…一滴も残しちゃ駄目!…ふっ!」


グイッ!ミシミシ…


矢矧「んぶぅ…っ!!」


そしてその吐いていいと言ってきた人物に、更に矢矧の肋の溝落に両腕を回されて、強く腕がめり込んだ弾みで、また内容物がこみ上げる。

………
……


矢矧「ゲホッ!ゲホッ!…ハァ…ハァ…」

???「…どう?少しは楽になった?」

矢矧「ハァ…ハァ…も、もう…でない…」


矢矧を楽にした人物は、腰まで伸びた黒髪のロングヘアに肩出しのセーラー赤色のスカート、白い手袋に左足だけの片足ニーソックス。

…矢矧が改二になる前に身に着けていた制服と同じものを身に着けていた。

阿賀野型軽巡洋艦 1番艦 阿賀野

矢矧の2つ上の姉だ。


阿賀野「ほら、口拭いてあげる…口の中気持ち悪いでしょ?水でうがいしてこの袋に出して」

矢矧「…ありがと…」

………
……


阿賀野に肩を貸してもらってその場から少し離れ、司令部棟の窓の割れたガラス片の片付けが済んでいる場所に移り、棟を背面にして複数個置かれている長椅子に腰掛けさせられた。


阿賀野「…だいぶ落ち着いた?」

矢矧「…うん…1人ではまだ立てないけど…」


矢矧は先程、自分が蹲っていた地点をぼんやりと見ていた。


阿賀野「…やっぱり矢矧も例外じゃなかったのね…」

矢矧「…?どういうこと?」

阿賀野「あの場所で、泊地に居た高練度の人達が次々と具合を悪くしてるの」

矢矧「…そう…なんだ…?」

阿賀野「…でも矢矧程ひどい反応は初めて…」

矢矧「…私だけ?」

阿賀野「…今から言う事は私の憶測なんだけどね?…泊地に居た具合を悪くした人達が、気分が優れない程度で済んだのは、提督さんが命に別状なかったことを知ってるし、提督さんの姿も肉声も全部見て感じていたからなんだと思うの」

阿賀野「それに対して、矢矧は作戦から帰還したばかりで、しかも提督さんの姿を一度も見ていない…それに提督さんの生存確認は人伝いの言葉だけ…だから矢矧の中で提督さんが生きていることが、まだ信じられてないんだと思う」

矢矧「…」


阿賀野姉の憶測とはいえ、そう言われると合点がいった。

榛名さんや大淀、それにこの泊地に居た艦娘達は実際に提督が無事を確認してるし、言葉も交わしているし、姿も見てるし、触れた感触もある。

…私を含めた決戦艦隊の2艦隊は、提督の生存は口頭でしか伝えられてない。


阿賀野「それで…どんなものを視たの…?…いやなら無理には聞かないけど…」

矢矧「…榛名さんや…大和や武蔵の目の前で…提督が…血を流して……し…死んでる…映像が…」


…ズキッ!


矢矧「うっ…ぁっ…!」


矢矧の脳裏にネガ反転したその映像がフラッシュバックした直後、太い針が突き刺さるような痛みが頭に走る。

矢矧は頭を抱えて長椅子の上で頭を抱えてのたうち回った。


阿賀野「…!や、矢矧?!」

矢矧「あっ…がっ…あたま…われ…るっ…」

大和「阿賀野さん!矢矧!」

阿賀野「や、大和さん!…ど、どうしようっ?!矢矧がっ!」

大和「落ち着いてくださいっ!…少し手荒な真似ですが、これで落ち着かせます!」

阿賀野「…?!それってなんなんですかっ?!」

大和「大丈夫です!睡眠薬です!」


…プスッ


矢矧「っ!…えっ…ぁ…やま…と…?」


矢矧を襲っていた頭痛が首筋に打たれた薬によってスッと引いたと同時に、彼女の視界はふわふわと雲の上を歩くような、掴めない感覚に陥る。


大和「…矢矧、貴方は今、ひどく疲れてるの…だから…眠りなさい…ごめんね…こんな卑怯な眠らせ方…」

矢矧「あっ…ぅっ…」


何となく大和が言った言葉は聞き取れた矢矧だったが、体内を巡る睡眠薬の影響で意識が濁り、その言葉の意味を考えることを許さなかった。

…薄れゆく意識の中で、矢矧にとって最後に強く残った印象は、優しく…でもその顔には少し影のある大和の顔だった。

……………
…………
………
……


同日 pm 1835


矢矧「…」パチッ


…白い天井だ。

周囲はカーテンに囲まれてて、窓の外は暗い。

…あぁ…ここは…医務室だ。

…大抵の艦娘はそうだが、私は正直この部屋にはあまり厄介になりたくない。

周囲を見渡すと、薬剤のパックが吊るされ、自分の左腕に管を介して注射されて繋がれている。

…何で寝たんだろ…私…。

目はすっかり覚醒して、寝てしまった理由について思い当たる記憶の引き出しを探した。


大和『貴方は酷く疲れているの…だから…眠りなさい』


矢矧「(…思い出した…私…大和に睡眠薬を盛られたんだ…)」

???「…いつまでもそういう訳にはいかないですよね…矢矧も大切な仲間です…それで救われるのなら」

???「…でも…この方法だと榛名さん…」

榛名「…どちらにせよ、私達の中でもはっきりさせないといけないことだったので、それが早くなっただけです…」

???「…それって…本音…ですよね?」

矢矧「…?」


カーテンの向こう側から囁き声が聞こえる。

1人は榛名さん…もう1人は…明石さんかな?

声色はとても慎重で深刻そうな話をしているようだ…。

…私の名前が榛名さんの口から出たけど…私も関係あるの?

小声だからあまり聞かせたくない話なんだろうか…?

榛名「もちろんです。そうなったら提督に皆を愛してもらったらいいんです…私は泊地の嫁艦を集めて、今回の事をちゃんとお話した上で、提督に経過と結論を進言することを望みます」

???「…しかし、提督が首を縦に振ってくれるでしょうか…?…提督は…その…あんなふうに振る舞ってますが、貞操観念はかなり強そうな方ですし…」

榛名・明石「「………」」


…3人目が居た。

…声からして…大淀だろうか?


大淀「それはつまり、提督の人生をこの佐伯泊地に縛り付けることと同義になります…きちんと話せば受け入れてくれるとは思いますが…こればかりは…」

明石「…大淀ぉ…それ言っちゃ駄目だよぉ…話が振り出しになっちゃう…」

榛名「…私も正直なところ、提督が私達の申し出をすんなり受け入れてしまう方が心配です…私達のことになると、提督は苦しくても自分の心を揉み消してしまわれますから…」

明石「…はぁ…提督ならやりかねないなぁ…いつどんな時代でも、何事も変わらないものって無いんですねぇ…」


その言葉の着後に明石さんがギシっと椅子の背もたれにもたれ掛かる音がした。


『どんな時代でも、何事も変わらない物はない』


…少しだけ大きな明石の声で聞こえたこの言葉が、やけに耳に焼き付いて離れなかった。


大淀「…わかりました…では、その話も織り交ぜた上で提督に現状報告をしてまいります。榛名さん、そちらの取りまとめは宜しくお願いします」

榛名「はい、任せておいてください…また明日に執務室でお会いしましょう…では…明石さん、矢矧のこと、お願いしますね?…では私達はお暇します…」

明石「了解しました」


キィ…パタン…


矢矧「…」


…あまり詳しくは聴き取れなかったけれど…。

私に関係する話…よね?

起きてしまったし…気になって仕方がない。


矢矧「…明石さん」

明石「…!矢矧さん、お目覚めですか〜!」


私の声を聞いて、すぐに椅子から立ち上がり、カーテンをサッと開けて先程の潜めていた声から一転、明るい声色で接してきた。

…あぁ…強い人だな…この人も…。


明石「具合はどうですか?良く眠られていたので、幾分楽にはなってると思いますが…」

矢矧「…ついさっきまで榛名さんと、大淀が居ましたよね?」

明石「あっ…」


間が悪いなぁ…聞かれてしまった…どうしよう…。

そんな表情が明石の顔に一瞬見て取れた。


明石「…えぇ、少しお話をしてました」


明石は先程までの軽快さは一気にトーンダウンし、隠さずに先程までの来訪者とのやり取りを認めた。


矢矧「…隠さないんですね」

明石「…いずれわかる話なんで、今話しても大きくは変わりませんから」

矢矧「…じゃあ、変わらないついでに伺います…それは…私に関係する話ですね?」

明石「…あはは…結構聞かれてたんですね…」

矢矧「…こう見えて水雷戦隊旗艦を任されているので、耳にも自信があります…」

明石「…んと…ごめんなさい…少し整理してから伝えたいので、少しだけ時間をいただけませんか?…あまり待たせはしないので…」

矢矧「…は、はい…」


いつもズバッと物言う明石だが、今はとても言葉を選び、伝えることの順番を整理していた。

懸命にどう伝えたらいいか考えている明石を見ていたら、あまり苛ついたりはしなかった。


明石「えと…矢矧さん、貴方は今、心が相当弱ってます。…かなり良くない状態なんです。その事で解決策を講じていたんですが、私達が考えうる一番最善の策を榛名さんが嫁艦の皆さん、大淀が提督に説明する為に今さっき部屋を出たところです」

矢矧「…心が弱ってる?」

明石「…はい、提督を失うんじゃないかという恐怖…とか顔を見ないと不安に押し潰されそうになってる…という感じでしょうか」

矢矧「…私…このままだと…どうなるんですか?」

明石「…最悪、泊地内で矢矧さんは深海棲艦化する可能性があります」

矢矧「…私が…深海棲艦化…?」

明石「私達艦娘と深海棲艦は表裏一体、想いが浄化された者が艦娘で闇に沈んだ者が深海棲艦となる…というのが定説です」

明石「なので今現在、提督の生存を実感できていない矢矧さんは、提督の生死に対してのチグハグで魂が蝕まれ、闇が深まります」

明石「そして、何かの弾みでたまり溜まった心の闇でそのままこの地で…」

矢矧「い…嫌っ!それだけは絶対イヤッ!」


…ここにいる皆に砲口を向ける自分の姿が浮かんだ。

…そしてその砲口が提督にも向く描写か脳裏に浮かぶ。

…背筋が凍った。


矢矧「治す方法は…無いんですか?」

明石「…もちろんありますが1つではありません…まず安直に解体という選択肢が1つあります…もちろん艦娘としての記憶の消失、軽巡洋艦 矢矧とは全く無縁の赤の他人となります」

矢矧「…はい」

明石「2つ目に初期化という選択肢ですね…こちらは軽巡洋艦 矢矧としての魂はそのままですが、今までの提督や泊地での思い出が消失し、今の貴方ではない別の貴方になります…もちろん改二も解消されます」

矢矧「…」


…どっちも嫌だ…。

何か…他にも方法がないの?

藁にもすがる思いで、明石さんの次の選択肢を口にするのを待った。


明石「…そして最後の選択肢…解体も初期化もナシでの解消法がですね…」

矢矧「…」ゴクリ



明石「…提督と肉体関係を結ぶことです」


………
……



矢矧「…は?」


…今、明石さんはなんて言った?

…提督と肉体関係を結ぶ?

…余りにも予想してなかった突拍子もない解決策に呆気を取られたが、徐々にそれが怒りに変わってきた。

…ガシッ!


矢矧「…もしかして…フザケテル?」ユラァ…


自分でも怖い声が出ているのに気が付いた。

気が付いたら、いつの間に立ち上がって明石さんに詰め寄り、胸倉を右手で掴んで吊し上げていた。


明石「や、はぎ…さんっ!…っ!!…殴るならっ…!私の話をちゃんと聞いてからにしてくださいっ!」ギラッ

矢矧「っ!」ハッ


明石さんの目付きが変わった。

…全く情けない…。

私はこの人に八つ当たりして仕方がないんだ。

…最低だ…自分の余裕の無さに吐き気がする…。

…胃の中は空っぽだけど。



矢矧「…ごめんなさい…」

明石「ゲホッ…い、いえ…」

明石「(胸ぐら掴まれた時…矢矧さんの目が青い光で揺らぐのが見えた…ホント結構にマズイところまで来てるのかも…)」

………
……


私は気を取り直して、改めて明石さんの話の続きを聞くことになった。


明石「…先程も言った通り矢矧さんを含めた決戦艦隊12名は、今現在、提督の生存は人伝の口頭でしか知りません…」

明石「しかし泊地に残っていた艦娘達は、提督の姿も感触も声も無事である事を共有しています…そこが泊地にいた皆さんと出撃組と今の矢矧さんの決定的な大きな差です」

矢矧「…阿賀野姉が憶測だけどって言ってたけど、同じ事を言ってました…」

明石「…そういうことは聡いんですよね…阿賀野さんって…何だかんだで言ってても、よく妹を見てくれてるんですね」クスッ

矢矧「…えぇ…」クスッ

明石「…おっと…話が逸れましたね…、で、提督を五感で感じ取れた艦娘達は、心の闇の蓄積が軽減されてこちら側に…艦娘側のボーダーラインに踏み留まれた訳ですが…」

明石「矢矧さん…貴方は心の闇が蓄積したままで、提督を五感では感じてないわ、フラッシュバックは見るわで、精神がズタズタの状態…悪く言うと深海棲艦側のボーダーラインに片足を突っ込んでる状態なんです」

矢矧「…そ、そんなに…酷いんですか?」

明石「…現に私の胸倉を掴んだ時、矢矧さんの目は、薄く青く光ってました」

矢矧「…」サァ…


既に自分が爆弾のような存在であることを自覚した瞬間だった。


明石「…大丈夫です、今の段階では貴方は正常に艦娘です。心が弱っているだけなんです。その心を強くする方法が…」

矢矧「…提督と…するってこと?」

明石「はい…1つ聞きたいんですが、矢矧さんはフラッシュバックする直前に何かに無意識に触れませんでしたか?」

矢矧「…あの時…あ…赤くなった…小石を」

明石「…やっぱり…その赤いの、提督の血です」


…そうだったんだ…。

ぼんやりしてたのに…無意識にそれが提督の血と、わかっていたのかもしれない。

意識が散漫な動きだったけど迷うことなく触れに行ったから…。


明石「…それはつまり矢矧さんが、提督の血に惹かれている…つまり提督を異性として捉え、好意を持ってるという証拠なんです」

明石「…で、矢矧さんは踏みとどまった他の皆さんと違って、自力でボーダーラインの先に出た足を引っ込めることができません…偶然が重なって踏み込み過ぎたんです」

明石「…ですので、提督の血の生成物を矢矧さんの体内に直接入れて、矢矧さんを蝕む闇…不安を強く取り除いて、こちら側に引っ張らないといけないんです」

矢矧「…それって例えば、提督のものを採取だけして私の体に入れさえすれば大丈夫なんじゃ…?」

明石「何言ってんですか?!”提督に”してもらってるって過程をすっ飛ばしたら、なんの意味もないですよ?!」

矢矧「い、いやでも…」

明石「…じゃあ聞きますけど、仮に提督の血の生成物を採取して、飲むなりで体内に注入するなりだけで、それが何かを聞かされてなかったら提督を実感できますか?矢矧さんは満たされますか?」

矢矧「…それが提督のだって聞いていれば…」

明石「…仮に、例えですけど、それが偽りで、他の男性のものだったら?」

矢矧「…」ゾワッ


…ソレが他の男のものだったら…それが私の中に入ると考えただけでゾッとした。


明石「だからちゃんと目の前で提督にしてもらって、触れ合って、提督を矢矧さんの五感全てで感じる過程を経ていることが重要なんです!」

矢矧「…そ、それはわかったけどっ…!…他の嫁艦の皆との関係はどうなるの?!絶対に拗れるじゃないっ!」

矢矧「それに提督がその条件を飲んでくれるか、わからないじゃないっ!」


…あれ?

…何で私、言い訳してるんだろ?

…何で私、声を荒らげているの?

確かに提督から言葉と指輪を貰ったし、ここ最近練度だって更に急に伸びてるし、私は提督が好きだ…。

…でも片思いってこともあるし…。

…そもそも私が提督に好かれるタイプかなんてわからないし…。

…去年の夏に組み伏せて、痛い思いもさせちゃったし…。


明石「…そのことでしたら、もうみんな動き出してます。榛名さんは今回の事態を受けて、嫁艦全員に説明と同意を取り付ける為に、嫁艦を招集して話し合っている頃ですし、大淀は提督への状況報告も兼ねて、この矢矧さんの件も説明をしてもらってます」

矢矧「…う…」

明石「…あー、ちなみに容姿とか性格とかそういうのが提督のタイプか気にしてるなら、矢矧さんに耳寄り情報です。…提督の女性の好みって許容範囲が寛容で、一概にどうとは言えませんけど、矢矧さんって提督的には容姿と性格で言ったら、榛名さんに次いで…いや、ほぼ同格にどストライクですよ…間違いなく」

矢矧「…あの…何も言ってないんですけど…」

明石「…そう?顔に書いてあるよ?」ニヤニヤ

矢矧「…///」


…いつもの工廠でのやり取りのようなノリに戻ってる明石さんに、あっけらかんと言われてしまった。

…恥ずかしい…。

…顔から火が出そう…。


明石「…それと、矢矧さんに提示した救済処置の3択ですが、皆3つ目の線で動いてますから解体と初期化の線は皆に却下されるので、提督に何とかしてもらう案の実質1択でしたね♪あっはっはっ♪」


矢矧「…あぅぅ…///」


…格上練度の艦娘をやり込めたのが、余程痛快だったのか、愉快そうに笑う明石さん。

…悔しいけど明石さんの思考速度と口の達者さは、私では到底敵いそうにないや。


………
……



矢矧と明石が話し合っている同時刻

通信室


大淀「…ということなんです…」

提督『…そうか…皆に心労を掛けてしまって申し訳ない…』

大淀「そんな…お気になさらずに…それと矢矧さんなんですが…」

提督『…矢矧がどうかしたのかい?』

………
……


提督『…そんなことがあったのか…』

大淀「はい…それで救済策が…」

………
……


大淀「…ですので、嫁艦の皆さんの説得は榛名さんが、私はその旨を提督に伝えて決を取っていただこうと…」

提督『…そうか…』

大淀「…すみません…こんな形で決断を迫ることになってしまいました…」

提督『…いやいい…まだ細かい整理は要るけど、実はもう心は決まっててね…』

大淀「…えっ?」

提督『…嫁艦の皆が矢矧との事を許して、認めてくれるなら、俺の一生は最後のその時が来るまで、あの泊地と生きていく』

大淀「て…提督…」

提督『…今の発言、ちゃんと録音しとけよ?逃げ出しそうになったら、スマキにしてでも泊地に連れ戻してくれよ?』

大淀「…いえ、貴方を信じています」

提督『…その信頼には意地でも答えなきゃな…報告は以上かな?悪いけど、この後話をしたい人が居るんだが…』

大淀「は、はい!…あまりご無理はなさらないでくださいね…それではまた明日、同時刻に報告の電話をさせていただきます。…おやすみなさい…」

提督『あぁ…おやすみ…』


…ピッ…


大淀「…提督…ありがとう…ござい…ます…!」


…でも提督が今から話したい人って誰なんだろう?

…ご両親かしら?

………
……


同時刻 北九州市立医療センター


提督「…」

Trrrrrrrr…Trrrrrrrr…Trrプッ…

???『…私だ、どうかしたのかい?〇〇君』

提督「夜分に大変不躾に直接電話をしてしまい申し訳ありません、中将閣下。…少し通話のお時間をいただけないでしょうか?多くのお時間は取らせません」

中将『それは構わんよ…ところで本当に君の身体は大丈夫なのかね?負傷したと聞いているが…』

提督「はい…幸運にもこうして五体満足に現世に留まれております」

中将『今回の件で君は受勲をすることになる。よくあの局面で決断してくれたよ…私からも感謝の意を伝えたい』

提督「…形振り構わずにしたものですから、佐伯泊地の皆には、余計な心労を背負わせてしまいました…提督として失格です…折角のお話ですが、受勲は辞退したいと思っております」

中将『…そうか…そんなに自分を、卑下することはないよ…さて、君の要件を聞こうか』

提督「…はい、実は今、佐伯泊地内で…」

………
……


中将『なんと…そんなことがあったのか…』

提督「はい、なので何としても早急に佐伯泊地に戻りたいのです…いえ、戻らねばならないのです」

中将『…○○君、しかし君の身体は』

提督「当然こんな身体なのでしばらく執務なんてできません。…ですが、せめて彼女達の側に居てやりたいんです。寄り添ってあげたいんです。…幸い少々の治療の経過観察程度なら泊地の設備でことは足ります…どうかよろしくお願い致します…」

中将『…君の覚悟、よくわかった。早急に手配しよう…30分後、病院を発てるよう準備しておいてくれ』

提督「…!有難う御座います…!」

中将『…〇〇君』

提督「…はっ…」

中将『…死ぬなよ?…暫く泊地で安静にするんだぞ?後の事は私の方で体裁を整えておく』

提督「…肝に銘じます…お気遣いに感謝いたします…それではこれより、すぐに発つ準備に入ります。失礼致します…」

中将『うむ…健闘を祈る…では…』


………
……


ツー、ツー、ツー、ツー…


提督「…すまんなぁ…大淀…やっぱ俺は、無理しかできひんのや…堪忍な…」


通話履歴に残った大淀の名前に向かって、自嘲気味に提督は笑いかけるのであった。

……………
…………
………
……



同日 pm 2103
佐伯泊地 医務室


矢矧「…」

何となくぼんやりとベットに横たえながら、明石さんの背中を見ている。

…書類仕事を、しているようだ。

…誰かが側にいてくれるのは、本当に有り難い。


ヴゥーン…ヴゥーン…ヴゥーン…


矢矧「…?」


この泊地専用の端末が震える音が聞こえる…。

…明石さんのかな?

明石さんは書類から視線を外さずに、ものぐさそうに机に置いた端末を手探りで探している。

…惜しい…もうちょっと奥ですよ…そう…そこ…。

明石がやっとのこと端末を手にして、画面を見てから通話ボタンを押した。

…ピッ。


明石「もしもし?大淀?どうしたの?…うん…医務室で事務処理してるけど…」


…電話の相手は大淀か…。

夜も耽ってきたのに…要件はなんだろう?


明石「…はァぁっ?!」

矢矧「…!」ビクッ


突然、明石さんが声を荒らげた。

…一体何が…。


明石「ご、ごめっ!わ、わわわ、わかった!すぐ用意するから!」


…明石さんはあからさまに動揺していたが、悪い方向では無いらしい。

端末の通話機能を切ると、明石さんは今まで齧りついていた書類をほっぽりだして、バタバタと動き始めた。


矢矧「ど、どうしたんですか?!」

明石「矢矧さん?!ごご、ごめんなさい!起こしちゃいましたよねぇ?!」

矢矧「起きてましたから気にしないでください、それで一体何が?」

明石「…20分後…提督がここに帰ってきます」

矢矧「…えっ?」

明石「…提督が!佐伯泊地に!帰ってくるんですよっ!!」

矢矧「………ハァぁっ?!」


…提督が帰ってくる?!

それも20分後に到着って…。


矢矧「な、何でそんなことに…」

明石「大淀との通信の後に連絡したい相手が居たらしいんですけど、その相手が佐世保の中将閣下だったそうで、ヘリ1機を早急に寄越すよう打診したそうです」

矢矧「…っ!」


会える…。

提督に会える!


明石「…矢矧さん、点滴の管外しましょうか?お出迎え…行きたいですよね?」

矢矧「は、はい…お願いしても…」


………
……



「お前が弱いからアイツが無理して帰ってくるんだよ」

………
……



矢矧「…っ」ゾワッ


頭の中で、得体のしれない鈍い声が聞こえた。


明石「…?矢矧さん?」

矢矧「ごめんなさい…目眩がしたので…やっぱり辞めておきます…」

明石「そ、そうですか…ゆっくりしててください…どっちみちここに提督が来ますから」

矢矧「…え?」

明石「大怪我したにもかかわらず、無理やり帰ってくるんですから、しばらくはここで過ごしてもらうことが条件で、帰還が許されたんです」

矢矧「…そ、そうですか」

明石「と、とにかくあんまり時間がないんで、急いで受け入れの準備に取り掛かります。…バタつきますが、矢矧さんはゆっくりしていてくださいね!」

矢矧「…は、はい…」


私との受け答えもそこそこに、明石さんはバタバタとベットメイキングを始めた。

…私の隣のベットで。

…どうしよう…。

どんな顔をして提督に会えばいいの?

………
……


同日 pm 2119
佐伯泊地 屋外ヘリポート


バババ…バババ…ドコドコドコ…ドコドコ…


佐伯泊地から北西の暗闇の空から、軍用ヘリの鈍いローター音だけが、途切れ途切れに聞こえる。


長門「…本当なのか?大淀」

大淀「はい!あのヘリで間違いありません!」

陸奥「…まさか怪我をして、入院しておいてその日に退院なんて…いくら何でも…」

榛名「…皆で支えましょう…提督は覚悟の上で戻ってこられたんです」

金剛「当然ネっ!」

能代「提督…絶対痛い筈なのに…」

神通「…その想い…必ず応えてみせます…!」

吹雪「…うぅ…しれいかぁん…」

霞「……ホントに…バカ…」


ヘリポートには数名の艦娘達が、ヘリの到着を今か今かと待っていた。


バタバタバタバタバタバタバタバタっ!!


次第にローターの重低音は繋がった音となり、彼女らから300mほど離れた場所の空中にに停止した


『…こちら佐世保所属のSH-60K、コールサイン シースキャナー、佐伯泊地、応答せよ』

大淀「…!シースキャナー、こちら佐伯泊地、聞こえます!どうぞ!」

『…たった今、佐伯泊地上空の座標に到着した。…すまないがランディングポイントの指示を頼む』

大淀「わかりました!…皆さん!よろしくお願いします!」

長門「わかった!全艦!探照灯をへリポートに向けて照射せよ!…照射開始!」


バシャ…バシャ、バシャ、バシャン!


ヘリポートの周囲に円陣を組んでいた艦娘達が一斉に中央のヘリポート向けて、探照灯を照射すると、ヘリポートだけ、真っ昼間のように明るく照らし出された。


『…こちらシースキャナー、ヘリポートを視認した。協力に感謝。これよりランディングを開始する』


SH-60Kのホバリング地点から、少し離れた場所が照らし出されたヘリポートだったので、ヘリは捻りこむような機動で、降下と方向転換をして、ヘリポートに素早く近付いてきた。


長門「…相変わらず奇っ怪な動きをする乗り物だな…なのにここまで滑らかに動くとは…」


そのSH-60Kは、ランディング開始から20秒足らずで地上に降り立った。

その無理も無駄もない機動で、静かに降り立つ姿を見て長門は舌を巻いた。


………
……



ヘリパイ「…ランディング完了、300m座標のズレ、高度50m上空から所要時間18秒74で状況終了…地上に控えている佐伯泊地所属の艦娘ちゃん、君達のボスをお届けに来たぜ…悪いが誰か後部ハッチ開けて、このお喋りを引きずり下ろしてくれ」

提督「…はは、誰がお喋りだって?…相変わらずのすげぇ機動だな…」

ヘリパイ「事実だろ?…ま、時化の中でむらさめ型の甲板に着艦する事と比べたら、地べたの着陸なんて楽勝過ぎて欠伸が出ちまうよ…しっかし…」

提督「…ん?」

ヘリパイ「友軍と分かってるけどよ…完全武装した艦娘に取り囲まれるのって、存外怖いもんだな…艦娘が味方で良かったよ…」

提督「…俺にとってはこれが日常だからなぁ…俺には格好良く見えるよ…ありがとう…またお前の操縦するコイツに乗れて嬉しいよ」

ヘリパイ「…はは、あんまり乱用すんなよ?タクシーじゃねぇーんだからよ」

提督「ははは…お世話になりました!」ビシッ

ヘリパイ「あぁ!貴官の健闘を祈る!」ビシッ


ガラガラッ!ガタン!


榛名「提督っ!」

金剛「テートクぅっ!」

提督「出迎えありがとう…!話は後だ!この機は次の任務を控えてるから、ここに長居は無用だ!…すまんが手を貸してくれ!」

榛名「はいっ!金剛お姉様!」

金剛「オーケィ!ゆっくり行きますヨ!」

提督「……ぃぎっ!」ビキッ!

榛名「あぁっ!大丈夫ですか?!」

金剛「そ、ソーリー!」

提督「…悪い、変な声出ちゃったよ…気にしないで…」

他の艦娘達「………」ハラハラ

吹雪「提督、ヘリから離れました!ハッチ閉めます!お世話になりました!」ビシッ

ヘリパイ「いつでもどうぞ!」ビシッ


ガラガラガラッバタンッ!

ヒィィィィィィィン!バラララララララ!!


ハッチを閉めた吹雪もヘリから素早く離れると、ヘリはふわりと浮き上がり20m程上がったところで、今度は捻り上げるような機動で急上昇していき、佐伯泊地を後にした。

その後ろ姿を提督は動く右腕で、直立不動で敬礼をして見送った。


提督「…ふぅ…」

榛名「一堂!気を付けぇっ!」


ザザッ!

提督が敬礼をし終わって一息ついた時、榛名の号令でその場にいる艦娘は、提督に向き直して改めて姿勢を正した。


榛名「…提督が泊地に着任しました!…これより、艦隊の指揮に入ります!」

提督「みんな、出迎えありがとう…よろしく頼む」ビシッ


敬礼する提督の横に控える榛名と金剛、泊地の施設を背に横一列にならぶ艦娘達がピンと背筋を正して立つ。


提督「…すまんが、そのままの立ち位置で楽にしてくれ」

榛名「了解!全員!休め!」


…スッ


提督「…」スタ…スタ…

長門「…」


ヨタヨタと歩きながら真っ先に長門の元に歩み寄った

提督「長門…決戦艦隊、第1艦隊旗艦の大役を見事勤め上げてくれたよ…ありがとう…」


…すっ…


長門「…あ…」


提督は吊るしている左腕を使わずに、右手でそっと長門を抱き寄せた。


提督「過分な心配をかけてしまって申し訳ない…」

長門「…本当に…本当に…提督…なんだな?」

提督「はは…この前長門に貸し出した本の題名全部言おうか?」

長門「…!この…大馬鹿者っ…」


感極まって長門も抱き返した。


長門「あぁ…提督…提督っ…!」

提督「…」


…プルプルプルプル…


長門は抱きしめた提督が震えていることに気が付いた。


長門「…提督?どうした?」

提督「…いっ…たぁ〜ぃ…」プルプル…

長門「あ、あぁあっ!すっすまない提督!胸が熱くなって…つい…!」


つい思うままに普通に抱きしめてしまったので、今の提督には辛かったようだ。

咄嗟に長門は離れた。


提督「いや、誘い水を送ったのは俺だから気にしないで…」

………
……


提督「…陸奥」

陸奥「…」


すっ

陸奥は提督の両頬を両手で覆った。


陸奥「…本当に生きていてくれて良かった…」

提督「…心配をかけたね…」

陸奥「…ホントよ…お姉さんを心配させた埋め合わせはきっちりしてよね?」

提督「…頑張るよ」

陸奥「…」


すると陸奥は顔を提督の耳元まで近付けて、そこで囁いてきた。


陸奥「…体が治ったら、長門と一緒に可愛がってよね?」

提督「…え…」

陸奥「…大事な仲間は…助けたいじゃない?…皆…貴方と同じなんだから…ね?」

提督「…ありがとう」

陸奥「…あなたをうんと抱きしめるのは、その時に取っておくわ」

提督「…お手柔らかに頼みマス…」

………
……


神通「…提督…」

提督「いやぁ…指輪渡しといて、昨日と今日の朝は何も話せないまま、ここを離れてしまって…本当に申し訳ない…」


次に神通に近寄った提督は、頭を掻きながら申し訳無さそうに話しかけた。


神通「…本当に…ありがとう…ございます」


そんな提督を見た神通は深々と頭を下げた。


提督「…なんでお礼を?」

神通「…その怪我で死なないと言っても、お辛い筈です…それなのに無理にでも泊地に帰って来てくださった提督の決意…決して無駄には致しませんっ!」

提督「…俺は…そんな大それたことはしてないよ…ただ…子供みたいな理由だけど…ここが…この泊地とここにいる皆が大好きで…守りたいだけなんだ…でも…ありがとう、神通…」


そう言うと提督は右手を神通の左肩に乗せた。


神通「…えっ?」

提督「二水戦の後輩が危ないって聞いたしな…俺が居るだけで救われるなら、この痛みなんて安いもんさ…」

神通「…はいっ!…提督だけではなく、私達も支えます!…よろしくお願い致します!」

………
……


能代「…提督…!」

提督「…能代、諸々心配で還ってきちまった…って、えぇ…ちょっ…」


次に神通の隣に控えていた能代に歩み寄った能代が急に泣き出したので、提督は戸惑った。


提督「おいおいおい…能代いきなり泣かんとって…」

能代「…ぐすっ…変ですよね…嬉しいのに辛いのって…すみません提督…ぐすっ…」

提督「…能代も皆も気に病む事はないんだ…俺が選んだ事なんだから」

能代「…ですけど…そうなんですけどぉ…ぐすっ…」

提督「…矢矧の事は任しておいて欲しいけど…俺の目の届かないところに居る時は、支えてやって欲しい…できるかい?」

能代「…!…それはもちろんです…ですけど…やっぱり提督が無理されるのは…イヤです…」

提督「…すまんな…一応…俺、男なんでな…大事な人達の前ではカッコつけていたいんだ」

能代「…そんな提督が…嫌いです…ぐすっ…」

提督「…すまんな…こんな奴が上司で…」

能代「…ぐすっ…嫌いです…大嫌いです…ううっ…」


そう言って俯いて垂れた能代の頭を提督は、動く右手で優しく撫でた。

能代もそれを払い除けるようなことはしなかった。

………
……


提督「大淀…申し訳ない…無理するなって言ってくれたけど、無理してでも還ってきた…」

大淀「…いえ…この事をお伝えした時点で、こうなる事を予見できてなかった私の落ち度です…提督はそういう方ですから…」


泣き止まない能代を神通に任せて、次に大淀に歩み寄った提督。

数時間前の電話のやり取りで言われた事を反故にした事を謝るが、大淀はそれを咎めなかった。


大淀「…ですが提督、貴方がしていい無理は今はここまでです…ちゃんと怪我を治す為に養生してください…これは…佐伯泊地所属の艦娘全員の総意です…お願い…します…!」


そう言うと大淀は深々と頭を下げた。


提督「…その約束で中将閣下に無理言って還ってきたからな…必ず守る…当分の艦隊への指揮は秘書艦と随伴で任せたよ?」

大淀「…!…了解…致しましたっ!」


…ああ、つくづく、自分は部下に恵まれているな…。

涙目の大淀に提督は、静かに彼女の方に右手を置いた。

………
……


提督「…霞、今回の夜戦での活躍、聞いてるよ…ありがとう…」


大淀の次にその隣の霞に歩み寄り開口1番に、最後の夜戦の話をした提督だが、その話しかけた霞は、提督の顔を見るとそっぽを向いた。


霞「…ふ、ふん!私は私の仕事をしただけよ!…お、お礼なんか…要らないしっ!」

提督「…そして無事に還ってきてくれて、ありがとう…」


そっぽを向いて目を合わしてくれない霞の頭を提督は優しく撫でた。


霞「…っ!…き、気安く触んないでよ…この…クソ司令官…」


そう悪態を付く霞だが、拒むことはしなかった。


提督「…俺に蹴り入れるのは、怪我治ってからにしてくれよ?」

霞「…は、ハァっ?!死に損ないの怪我人蹴り飛ばす趣味ないわよっ!バッカじゃないの?!」


提督のその一言で感情剥き出しになった霞が提督の方に顔を向けて、まくし立てた。


提督「…ん、それでいい…それでこそ霞だ」

霞「…〜〜〜っ!あぁーっ!もうっ!やっぱりアンタと話すと調子狂うっ!お望み通り、怪我治ったら覚悟しときなさいっ!」

提督「…おう」

霞「(…こんな穏やかな顔したヤツ蹴れる訳ないでしょうがぁ〜っ!…それに…)」

神通「…」ニコニコ

霞「(…蹴ったら私の命がないわ…)」ビクビク


…背後に居る神通の無言の圧力を感じる霞なのであった。

………
……


吹雪「…ひっくッ…し”れ”い”か”ん”…」ダバダバ…

提督「…吹雪、ごめんな…」


霞と神通の無言の会話を見届け、整列した艦娘の最後尾に居た吹雪は、既に号泣しながら直立不動で提督を迎えた。


吹雪「…ひっくっ…ほんとに…戻ってきて…ひっくっ…くださって…良かったです…ひっくっ…」

提督「…吹雪」


提督は吹雪を右胸に抱き寄せた。


吹雪「っ?!し、しれいかっ?!」

提督「…悪い…ハンカチ持ってないから、俺の服で拭いとけ」

吹雪「…ひっく…で、でも…」

提督「…自分の為に泣いてくれる人の涙が、汚いもんか」

吹雪「…っっっ!!」ブワッ


堰を切ったように吹雪は泣き出した。

溜め込んでいたものを全て洗い流すように。

提督は吹雪が泣き止むまで、抱き寄せ続けた。

………
……


吹雪「…ぐすっ…すっきりしました…すみませんでした…司令官…ぐすっ…」

提督「…おぅ…明日からも泊地の復旧作業、頼んだよ?」

吹雪「…っ!はいっ!!」


目は赤く腫らしているが、いつもの元気が戻った吹雪に安堵を覚えた提督は、振り返り、後ろに控えていた金剛と榛名の元に歩み寄った。


金剛「…うぅー…テートクぅ…」

榛名「…ぐすっ…提督…」

提督「…ふぅ…ふぅ…悪いね…二人共…待たせちまって…」

榛名「…も…もう…提督は動かないでください…」

金剛「は、榛名?」

提督「…えっ?」

榛名「…ただでさえ歩くのだってお辛い筈なのに…立ち続けて…皆に声を掛けて…提督の顔色がみるみる悪くなって行くのを見ている事しかできないなんて…榛名…大丈夫じゃないです…」

提督「…榛名…」

榛名「…提督には…今日中にして頂かないといけない事が1つ残ってます…ですので、お姉様と一緒に担架で医務室までお運びします…」

提督「…そうだな…ありがとう…よろしく頼むよ…」


榛名に言われて素直に従った提督は、担架に寝転んでそのまま榛名と金剛に運ばれていった。


提督「…みんなー、明日からの泊地の復旧、頼んだーっ!」


担架で運ばれる提督から、声が聞こえた。


長門「…あぁ!了解した!…あぁ…提督の顔を見て触れただけで…ここまで心が落ち着くとは…」

陸奥「…うふふ…でも、相変わらず締まらないわねぇ…ホントに…ぐすっ…」

神通「…能代?大丈夫?」

能代「…ど…どうしましょう…」

神通「…?」

能代「…私…勢いに任せて…提督の事…大嫌いって言っちゃいましたぁ〜…」

神通「…提督もそれが能代の本心じゃないと、わかってると思うけど…」

大淀「…皆さん、今日はゆっくり寝て、明日からの復旧作業…頑張りましょう!」

霞「…はぁ〜…変に心配して損した…明日も早いんで、寮に帰ります…行きましょ吹雪…ぐす…」

吹雪「あわわっ、霞ちゃん待って!皆さん!明日からの作業、よろしくお願い致します!」


出迎え組の艦娘達は、それぞれの思いを胸に寮に戻っていったのであった。

………
……


同日 pm 2153
佐伯泊地 医務室


榛名「…提督、医務室に着きました」

提督「…おう」

金剛「…テートク、少し動けますカ?」

提督「ベットに移るくらいならどうってことはない…気合で我慢すりゃいいし…」


ガチャ…


明石「提督っ!…おかえりっ…なさいっ…!」


医務室の前までやってきた榛名と金剛と担がれた提督は、ドアを開けた明石に出迎えられる。


提督「…お疲れ様…明石…還ってきちゃった…」

明石「…っ!…ホンっっっっト…提督ってバカですよね…」

提督「…否定できないけど、曲げる気もない…」

明石「…ホントに…ありがとうございます…」

提督「…俺のわがままだよ…礼はいらない…」

明石「…さ、こちらです!」


明石に医務室へ招き入れられた一行は、カーテンで仕切られている隣のベットに向かった。


提督「…」


提督の目はそのカーテンで隠された先が気になった。

…きっと…いや、絶対ここに居る。


金剛「…?テートク?」

明石「早くベットに移ってもらえないですか?」

提督「…金剛、明石…ベットに移ったら、ちょい席外してくれるか?」

金剛「…う、ウン…わかりマシタ…」

明石「…なるべく無茶しないでくださいね?」

榛名「…私も外します」

提督「…いや、榛名は残れ」

榛名「…っ!…は、はい…」


…ガチャ…パタン…


金剛と明石は医務室から出て、提督と榛名…そしてカーテンの先にいるであろう矢矧が部屋に残った。


榛名「…何で私は残されたのですか?…提督…」

提督「…少しの間だけ、杖になってくれ…矢矧の顔を見ておきたい」

榛名「…畏まりました…」


シャッ…


榛名がカーテンの端を掴むと、そっと開けた。

その先には背を向いてベットに横たわっている矢矧の姿があった。


矢矧「…」

提督「…流石に寝ちゃってるかな…」

榛名「…」

提督「…仕方がないな…明日出直す…」

矢矧「…」

榛名「…矢矧…貴方…いつまで寝たふりをしているの…?」

提督「…!」


ガシッ!!グイッ!!


矢矧「…っ!あっ…!」


矢矧の胸倉に伸びた榛名の左腕が彼女の上体を吊し上げ、右手は平手で大きく振りかぶられた。


ガシッ!


「っんぎっ!!?!」

榛名「…え…」

矢矧「…あ…」


大きく振りかぶられた榛名の右手はそのまま振り切られることなく、宙に止まっていた。

榛名の背後から伸びた手によって、矢矧への張り手を阻止された。

その手は信じられないくらいの力で榛名の右手首を掴んでいた。

だが、止められる瞬間、声にならない声が聞こえた。

榛名は、自分の右手を止めた人物を見る為に恐る恐るその方向に顔を向ける。

榛名を止めるられるのは、彼しかいない。

榛名の後ろには彼しか居ないのだから。


提督「…ふぅーッ…!…ふぅーッ…!」ブルブル


脂汗を垂らし、強く息を吐いて痛みを堪えて目を見開いているが、既にその目は涙目になっていて、やせ我慢なのは目に見えていた。

矢矧の反応に対して頭に血が上った榛名は、それを見た途端、一気に血の気が引いた。


榛名「…あ…あぁ…」

提督「…榛名ちょっとこっち来い…矢矧っ!」

矢矧「…っ!は、はいっ!」

提督「…悪い…ちょっと待ってて…絶対起きててくれよ?」


シャッ!


提督はそう矢矧に必要最低限の事を伝えると、一旦カーテンを閉めて、榛名を引っ張ってベットに腰掛けた。


榛名「て、ていとく…」

提督「…悪い…今のは流石に…予測できてたから…そうさせたのは俺のエゴだ…」

榛名「…っ!」

提督「最悪…痛すぎても…泡吹いて気絶する…だけだし…死なないなら…するべきだって…」

榛名「…っ!…榛名はっ!…提督を…お護りできませんでしたっ!」

提督「…」

榛名「…あの時も…側に居たのに…提督の事は全部知ってる気になって…提督をこのような辛い思いをさせて…」

提督「…れ…」

榛名「…そして今も…矢矧の気持ちも考えないで…カッとなって手を上げて…提督を傷付けて…榛名は…榛名は…っ!」

提督「…黙れっ!!」

榛名「っ!」ビクッ


1人で思考の暴走を始める榛名の左肩を右手で強く揺すって、自分の方に意識を向けさせようとする提督


提督「お前の目の前にいる俺は何や?夢か幻かっ?!…ちゃうやろっ?!」

榛名「…うぅ…」

提督「皆のこと全部受け止める為にここに帰ってきたんや!ちゃんと俺を見いやっ!」

榛名「…あ…ぅ…」

提督「…俺の目ぇ見ろやっ!!」

榛名「っ!」ビクッ


目が虚ろだった榛名の目の焦点が、提督の一喝で焦点が合った。


榛名「…てい…と…く…」

提督「…おう…こっちに帰ってきてくれたなぁ…榛名…」


くしゃりと榛名の顔が歪む。


提督「…好きなだけ泣いたらいい…俺が全部受け止めるから…俺じゃ足りんか?」

榛名「うぅ…うぁ…ぁ…おかえり…なさい…」


少しでも彼女の心が癒やされますように。

この温もりが永く伝わり続けますように。

提督はそう願いながら、泣きじゃくる榛名の頭を優しく撫でた。

………
……


榛名「…ぐすっ…吹雪ちゃんの気持ちがよくわかりました…」

提督「…うん?」

榛名「…すごく…すっきりしました…」

提督「…そっか…」

榛名「…あ、で、でも…顔は見ないでくださいね?…今の榛名は…きっと酷い顔をして…あっ」

提督「…笑わへんよ?…この場面でふざけるとかありえへんやろ?」

榛名「…あ…ぅ…///」

………
……


は、榛名…提督の目から…目を逸らせられません…。

………
……


提督「…でも、涙まみれってベトベトでイヤだろう?…顔、洗ってきたらどう?」

榛名「…そ、そうさせていただきますっ!し、失礼しますっ!」

提督「それがいい…あ、榛名」

榛名「な、なんでしょうかっ?!」

提督「もし…良かったらなんだけど…今晩、添い寝してもらっていいかい?」

榛名「…ふぇっ?!///」

提督「…断じてやましい事はしないから…俺も…ここに還ってきたって実感が欲しい…駄目かな?」

榛名「は、はいっ!承りました!それでは榛名は顔を洗ってから部屋の表で控えておりますので、お呼びください!」


ガチャ…パタン…


提督「…今のはヤバかった…」


榛名の目…蕩けてた…。

………
……


…さぁ、気を取り直して…。

提督は痛む左腕脇を堪えながら、矢矧が居るベット周りのカーテンを開けた。


シャッ…


矢矧「…ぁ…」


カーテンを開けた先には、ベットの上で正座して待っている矢矧が居た。


提督「…ごめん、待たせた上に騒がしくしたな…ごめ…」

矢矧「う…ふっ…」ポロポロ

提督「…うぉ、ちょい…マジか…」


顔を見合わせた瞬間、矢矧は泣き出した。


提督「…おいで〜…矢矧」


提督はベットに座ると右手を広げて、矢矧を向かい入れる体制を取った。

矢矧は躊躇うことなく、滑り込むように提督に抱きついた。


矢矧「…提督…ていとくっ…うわ…あぁ…」

提督「…あーもーっ…ウチの精鋭達は皆泣き虫さんばっかりなんかいな〜」

矢矧「…ていとく…ひっく…ありがと…ごめんなさい…どうしたらいいのか…こわかった…の…」

提督「…しんどかったんやな…ごめんな心配させて…俺はここにおるよ…」

矢矧「…うん…うんっ…!」

………
……


子供みたいに提督にしがみついて泣いた。

でも私の心はそれだけで満たされていく。

心に纏わり付いた黒い霧が晴れていく。

今までの胸の苦しみが嘘みたいに晴れていく。

今ならはっきり言える。

私はこの人が だいすき なんだ。

……………
…………
………
……


提督「…あ、俺、さっき出迎えてくれた能代に大嫌いって言われた」

矢矧「…え?」


暫くの時間、泣く矢矧を宥めて落ち着いた時、不意に提督が思い出したかのように呟いた。


矢矧「…それたぶん能代姉の本心じゃないと思うけど…」

提督「…うぉぉぉぉ…出迎えた皆にめっちゃクサイセリフ吐きまくって麻痺ってて、今冷静になって思い出したぁぁぁ…恥ずいぃぃ〜…」

矢矧「…ぶふぅっ!!」

提督「…矢矧の顔見て思い出すとか最低やぁん…はぁ…」

矢矧「あはははっ!ちょっ!今思い出すことじゃないでしょっ?!はは、はっ!ひっ!ひひっ!…お腹痛いぃっ!」


静かな時間だったが、不意をついた呟きがツボに入った矢矧が、お腹を抱えて笑う。


提督「…やっぱり笑ってる顔が一番ええなぁ」

矢矧「はぁ…はぁ…またクサイセリフ…?」

提督「…でも本心やで?」

矢矧「…え…///」


…私は提督の目から目を逸らせられなかった。

…不意にやられた。

…でも提督の穏やかな顔は次第に苦痛の色へと変わっていった。


提督「…ふぅ…ふぅ…」

矢矧「…!提督?!」

提督「…ごめん…ちょい無理しすぎた…疲れた…」

矢矧「もう休んで?!…お願いっ!」

提督「…俺がのびる前に…榛名を外で待たせてるから…呼んでくれるかな…?」

矢矧「…!は、榛名さんっ!」


バタンッ!


榛名「矢矧っ!どうしました?!」

提督「…榛名ぁ…手筈…通り…頼む…ちょい…寝る…か…ら……」

矢矧「…ていとく?」

提督「…すぅ…すぅ…」

榛名「…大丈夫ですよ矢矧…」

矢矧「…あの…手筈…というのは?」

榛名「…矢矧も一緒に提督と添い寝しますか?」

矢矧「…そ!添いぃっ?!///」

榛名「…何か卑猥な事を考えてませんか?…提督は…今はここに還ってきたことを実感したいと仰ってましたから…」

矢矧「そ、そそ、そうですよねっ?!」

榛名「…それも”今は”ですよ?」

矢矧「…え?」

榛名「…提督の怪我が癒えてから…もし求められたら…榛名はお受けします…先程、見つめられたときに…覚悟が決まりました」

矢矧「…」

………
……


提督『…でも本心やで?』

………
……


矢矧「っ!!///」

榛名「…ふふ…脈アリですね…矢矧も女の子ですから当然です」

矢矧「…でもやっぱりそれって…こう…泊地的にはマズくないですか?」

榛名「…みっ!皆でやれば怖くないです!」

矢矧「…榛名さん…たまに言動が提督っぽいですよね…」

榛名「…はぅぅっ!///」

矢矧「い、いや…褒めてないです…」

……………
…………
………
……


2022.3.21 am0458
佐伯泊地 医務室


提督「…」パチッ


習慣とは恐ろしいものだ。

疲れていても勝手に起きてしまう。

…ジワジワと痛む左脇も相まって、寝起きの気分はよろしくない。


提督「…」


左肩を上にして横になっている提督に対して、ぴったり寄り添う人物のお陰で寝返りはおろか、動くことすら憚られた。

前には榛名、背後には矢矧。

………
……


…あれ?

榛名さん…今は手を繋ぐ程度のつもりだったんですが…。

…それに矢矧さんや、なんでベッドをくっつけてさり気なくこっち来てるのかしら…?

…しかしこの姿勢は大変宜しくない。

…ひじょーに宜しくない。

…こう…大人の事情的に…。

しかし前の榛名に右手を取られ、背後の矢矧は左手を腹部に回され、拘束されてる訳でもないのに動けない。

…なんとか脱出せねば…。

もぞもぞ…


榛名・矢矧「「…んっ…」」

提督「…(…チクショーっ!2人共可愛いかよぉぉぉぉぉっ!)」


形容し難い魅力に悶る提督。

しかしその悶絶の時間は突然終わりを告げる。


…ぐぅぅぅぅぅぅぅ…


…お腹鳴った?

…俺も減ってるけど、今のは俺のじゃないぞ?

そう思っていた提督とは他所に、前後で添い寝していた2人はのそりと上体が起き上がり、2人して顔を見合わせた。


榛名「…お腹…」

矢矧「…空きましたよね…」

提督「…(…助かった…)」


そっと離れていく2人に安堵した反面、少し寂しく思った提督だが、取り敢えず寝た振りをしてやり過ごす。


…なでなで


そんな提督を知ってか知らずか、榛名は左頬を、矢矧は左脇腹を撫でてきた。


榛名「…ふふ…何か手軽に食べれるものを持ってきますね…」

矢矧「…すぐ戻るから…ね?」


2人はそう言うと部屋を出ていった。

直接顔を見た訳じゃないが、2人が微笑んでくれていたのが、はっきりと提督の脳裏に浮かんだ。


提督「…」


提督は念願の寝返りを打って、仰向けになって天井を見上げた。

そして先程2人に撫でられた場所を撫でてみた。

………
……


提督「…やっぱりここに還ってきて…良かった…」ポロポロ

………
……


…人知れず静かに泣こうと決めていた提督だったが、思いの他に早く帰ってきた2人に見事にバレて、盛大に動揺されたのは完全に余談である。

……………
…………
………
……


皆様、長文お疲れ様でした!

今回は描きたいように描いたお話でした!
※イベント完走された提督の皆様、お疲れ様でした!

少し重めに書いたつもりでしたが、やっぱり終わりはいつもの調子です(笑)

こんな調子ですが、まだまだこのシリーズの構想があります。
※妄想はフリーダムだからネ!w

なので、もし空いた時間に暇つぶし程度でも構わないので、読んでいただければ幸いです。

それではまたどこかで!(_ _)
Posted at 2022/04/15 23:40:37 | コメント(0) | トラックバック(0)
2022年04月15日 イイね!

艦隊これくしょん -艦これ- 〜佐伯泊地の日々〜 今日の佐伯泊地 提督の誕生日編

艦隊これくしょん -艦これ- 〜佐伯泊地の日々〜 今日の佐伯泊地 提督の誕生日編皆さん、おはこんばんちは!
Σ∠(`・ω・´)

そして、同業の皆様、本日もお疲れ様です!

さてさて、今回のお話は冬の提督と艦娘のある1日を描きたいと思います。

尚、過去作は下記のURLで開いていただければ、このみんカラ内のブログとして掲載されている物が閲覧できますので、もし宜しければどうぞ〜(_ _)


プロローグ ♯1 午前編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44104145/

♯梅雨の日編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44223073/

♯夏の黄昏編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44271814/

♯夏休暇 初夜編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44785551/

♯夏休暇 1日目♯1
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44889139/

♯夏休暇 1日目♯2
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45141124/

♯夏休暇 2日目
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45185889/

♯夏休暇 3日目
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45796679/

♯冬編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45826901/


毎度ながらの超長文となりますが、気長にお付き合いくださいませ…。

流血・略奪等の暗い話は描かず…でもたまには真剣な表情を描いて行きますので、そこんとこよろしくお願いします(_ _)

基本この泊地の艦娘は、提督好き好き設定でヨロシクです(笑)

尚、この作品は 艦隊これくしょん - 艦これ - の二次創作であります。

キャラクターの人物像も公式を参考にして、著者が独自解釈したものです。

これらを踏まえた上で、お読みになってくださいませ…。


〜今回のメイン登場人物一覧〜

☆提督 
人間 男 20代後半 海上自衛隊出身
任官直前の適性テストの末 艦娘を指揮する提督に着任。(妖精判断なので、基準は不明)

機械弄りと工作が密かな趣味。
多少の事なら自分で治してしまう。

隠れオタク。たまにその片鱗の顔を覗かせる。

多趣味。
守備範囲の広さに驚かれる事もしばしばだが、本人曰く
「何事も興味からの実行の結果。本物から見ればただの器用貧乏」
と苦笑する。

ごく偶にキレると制止してくる艦娘すら引き摺る火事場の馬鹿力持ち。

初の嫁艦は榛名。


☆加賀型航空母艦 1番艦 加賀(改二)
艦娘 嫁艦(練度145) 今週の秘書艦

提督と艦娘との距離感の是正を嘆願した嫁艦の1人。

佐伯泊地の青鬼と赤鬼と揶揄されるが、本人は不満ありあり。

今週の秘書艦を水面下で提督の誕生日作戦遂行に必要な航空母艦の索敵能力と通信能力を生かすために、この日に合わせて秘書艦となった。
※尚、本来の秘書艦に代わるよう頼み込んだ上で、最後は間宮券で説き伏せた(笑)

提督が異性として好き。

だが普段の仏頂面が災いして、嫁艦嘆願以前程ではないものの、今だにお堅い印象があることが本人の悩み。

赤城同様、食べるのは大好き。
お酒は好きだが量は飲めない。
呑んだ時位しか提督に甘えられない。


☆第2艦隊 哨戒隊
龍鳳型 航空母艦 1番艦 龍鳳(改二)(練度96)
長良型 軽巡洋艦 5番艦 鬼怒(改二)(練度95)
陽炎型 駆逐艦 11番艦 浦風(丁改)(練度97)
陽炎型 駆逐艦 12番艦 磯風(乙改)(練度94)
陽炎型 駆逐艦 13番艦 浜風(乙改)(練度94)
陽炎型 駆逐艦 14番艦 谷風(丁改)(練度97)

哨戒から帰ってきた艦隊。

因みに全員未婚艦。

…が、皆練度では泊地内上位に位置する艦ばかり。
提督への好感度は第一次のカンスト間近。

軽空母の龍鳳(改二)は、改二改装を経ると一気に練度が上がり、速力が低速から高速になったことで、作戦によく組み込まれるようになり、洋上ではとても逞しくなった。

潜水母艦の時に生活を共にした潜水艦達とは今も交友がある。


軽巡の鬼怒は、普段は明るく振る舞う無邪気なお姉さんだが、ここぞという時にはやってくれるムードメーカー。

提督の前ではあっけらかんとしているが、それは好意の裏返し。


駆逐艦4人は同じ第十七駆逐隊所属で、よく編成にヨンコイチで組み込まれる、仲のいい4人組。
特に対空対潜能力のバランスがよく、各作戦・遠征・哨戒には提督も重宝している。


☆佐伯泊地広報担当
青葉型 重巡洋艦 1番艦 青葉
艦娘 未婚艦(練度92) 

障子に穴あり目あり耳あり。
泊地のミスパパラッチとは青葉の為にある異名(笑)

泊地では古参重巡の1人で、練度以上に物事に達観した一面を持つ。

一度狙った写真は外しません、プロですから。
※乱写はレリーズの無駄な消耗と嫌う。

提督の事は好きだが、茶化して誤魔化す。


青葉型 重巡洋艦 2番艦 衣笠
艦娘 未婚艦(練度92)

暴走気味の姉に対して冷静な妹衣笠は、まさに反面教師。

今回も青葉の監視役として、セットで呼ばれる苦労人。

ウインクの申し子、チャーミングなお姉さん。

泊地への着任も早い段階での加入もあって、よく新着任の娘の面倒も見る、面倒見の良い一面がある。

提督の事は好き。
※好意は割と素直にぶつける娘。


☆出迎え組
阿賀野型 軽巡洋艦 3番艦 矢矧(改二乙)
艦娘 嫁艦(練度125)

能代同様改二に改装後、覚醒した重巡級スペック軽巡洋艦。
※色んな意味で。

…実はさり気なく提督の好みにぶっ刺さってた娘。

普段は礼儀正しくも強者感漂う風格を滲ませるが、いざ戦闘から離れると、意外とおっちょこちょいな1面を見せる。

今現在、提督が釣り好きなのを知っている泊地内唯一の艦娘である。

提督の事は憎からず想っているが、周りの嫁艦勢に少々気圧され気味。


長門型 戦艦 1番艦 長門(改二)
艦娘 嫁艦(練度133)

提督と艦娘との距離感の是正を嘆願した嫁艦の1人。

繊細さと豪快さが同居した可愛い麗人。

泊地内でもトップクラスの練度と実力で艦娘達を引っ張る。

その反面、甘い物に目がない。
※辛口・アルコールはNG。
特にアルコールが入ると、抱き付き魔・泣き上戸・キュルルンボイスと普段の威厳からは想像出来ない1面が出る。
※尚、その反動で暫く立ち直れない。

提督の事は異性として想っているが、過去に突き飛ばした経緯もあってか、それが負い目で間合いが詰められないでいる。


古鷹型 重巡洋艦 1番艦 古鷹(改二)
艦娘 未婚艦(練度97)
提督の良き理解者の1人で泊地における最古参重巡。

慈愛に満ちたオーラで何でも包み込んでしまう大天使。

…故に天然なところもあるが、最早それがいい(笑)

提督の事は異性として好きで、練度以上に提督のことを考えて行動しているが、自制心が強い為、恋愛沙汰には少々ためらい気味。


白露型 駆逐艦 2番艦 時雨(改二)
艦娘 嫁艦(練度115) 
泊地における筆頭ボクっ娘。

作戦中は冷静さと心の熱さを併せ持つ。

…が、それ以外での提督の前での態度は、まさに子犬、めちゃくちゃ構って欲しい娘。

感情の表情の抑揚が小さいので、割と感情はよく見ていないと見落としがち。

他の白露型の娘達(主に前後の娘)は割とグイグイ行くのを傍観して、加わるのはためらう。
…提督との一対一でも遠慮が多い。

提督の事は異性としてみているが、上記の事から一歩が踏み出せないでいる。


☆金剛型 戦艦 3番艦 榛名(改二)
艦娘 嫁艦(練度150) 第一嫁艦

出会って0.1秒で提督の好みにぶっ刺さった健気な強者。
※ちなみに練度も泊地最強。

普段は遠慮しまくりだが、実はそれが姉妹であっても、目の前で提督と仲良くされるのは面白くない、独占欲は強めな娘。
※だが反応が可愛いのがわかっているので、周りも程々で止めてくれる。

コソコソと料理の特訓を積んでいる(鳳翔談)

提督に対しては感情をさらけ出したら、誰にも手が付けられない程の溺愛ぶり。


大まかな登場人物は以上となります。


それでは始まります。


艦隊これくしょん -艦これ- 
〜佐伯泊地の日々〜
「提督の誕生日編」

……………
…………
………
……


0900時 執務室

提督「…よし、この編成で変更で出撃の指示を出してくれ」

加賀「わかりました…第4艦隊に通達しておきます…では提督、次はこちらの書類の処理を宜しくお願いします」

提督「わかった…どれどれ…」


新年が明けてから数週間後の今日。

朝の泊地はいつも通り慌ただしい。

…天気は…曇天。

九州に位置するここ佐伯泊地では、珍しく午後には雪が降り出し積雪の予報が出ている。

底冷えのする朝となっていた。


提督「…お、0915…もうすぐ第2艦隊が哨戒から帰ってくるな…」


その作業の最中、提督は部屋の古時計を見て、帰ってくる哨戒艦隊の帰還予定時刻が頭を過ぎった。


提督「…よし、手元の書類はある程度は片付いた…出迎えに行ってくる…すぐ戻るよ」

加賀「わかりました…それと…これね?私が入れ替えますので」


そう言うと加賀は、部屋の片隅に置かれた灯油のアラジンヒーターの上に置かれた、お湯の張った鍋に入ったヤカンを引き上げ、魔法瓶のポットにヤカンの内容物を移し替えた。

濛々と立ち上がる湯気。

その内容物の正体は熱い焙じ茶だ。


加賀「…ふぅ…良い香り…少し加熱し過ぎているので、外で少し冷ましますね」


そう言って、提督が部屋を出る準備をし終えた加賀は、ストーブを切った。


加賀「…火元の鎮火ヨシ…提督、お供します」

提督「…いいのかい?」

加賀「ええ…凍えた娘達に温かいものを届けたいのは、私も同じですから」

提督「…ありがとう加賀」


外套を着込んだ2人は、執務室の火元と電気を落とし戸締りをしてから、執務室を一時退出した。

廊下は閑散として冷え冷えとしており、誰一人歩いていないので、2人の足音がやたらと反響して誰もいない世界に取り残されたかのような雰囲気を醸し出す。

その廊下を抜けて2人は、司令部棟正面口のドアを開けた。

…すると冷えた風が、一気に廊下内に押し寄せた。


提督「ふぉぉっ…落差で余計さっっっむっ!」

加賀「…冷えますね」


空は濃い灰色に一面覆われており、これから雪が降るんだという予感を容易にさせた。


提督「…こりゃ雪が降るの早まりそうだな…哨戒隊、降られてなきゃいいけど…」

加賀「…その可能性は高いわね…呉では既に雪が積もり始めているそうよ」

提督「そうかぁ…第2艦隊の娘達の顔見てから、報告書は風呂で温まってからにしてもらおうかな…」

加賀「…それだともし何かを急な事例を持ち帰っていたら…」

提督「だから”顔見てから”って言ったんだよ」

加賀「…あまり無理はしないで…貴方の気持ちは皆知っているのだから」

提督「…わかってもらっているからこそ、甘えたくないんだよ」

加賀「…意地っ張り…」

提督「…一応、男なんでね」


提督はそう言うとニカッと笑ってみせて、寒さに慣れてきた体を奮い立たせて、哨戒隊の帰ってくるスロープへと歩き出す。

…少し歩くペースが上がった提督の2歩後ろを歩く加賀は、その距離を保ちながら提督の背中を見ていた。


加賀「(…貴方はいつもそう…あれから随分打ち解けてはくれたけど、“自分から“甘えに来てくれる事はほぼないのよね…)」

加賀「(…提督…覚えていますか?今日は貴方の誕生日なのよ…?)」


…そう。

…今日は提督の誕生日。

…だがその当人はあまり関心がないのか、ここ数日の彼の言動や行動を見ていても、いつもと変わらない。


加賀「(…正直なところ…甘えてほしいのだけれど…)」


…前にそれとなく本人に誕生日について聞いたことがあった。

…すると提督は。


提督『この歳になって祝うでもないだろう…男一匹が1つ年を食うだけなんだから』


…と、言われた。


加賀「(…そのくせ、私達の進水日は外さずに何か贈るのよね…わざわざ艦歴を調べて…)」


…何でだろう?

加賀は自分が無性に腹が立ってきたことに気が付いた。


加賀「(…せめて今日の晩くらいは楽しんで欲しい…この泊地の艦娘全員でしてあげたいわね…)」


そう決意しつつ提督の背中を追う加賀なのであった。

………
……


0925時 佐伯泊地 2番スロープ


提督「…艦影見ゆ…軽空母1、軽巡1、駆逐4」


提督は岸壁に立って、双眼鏡を覗きながら水平線に姿を確認した。


提督「…龍鳳もだいぶ旗艦に慣れてきたな…改二になってから練度が上がるに連れて益々磨きがかかってきてる」

加賀「ええ…これならスロープまで4分30秒後に着岸ね」

提督「だね…加賀、お茶の準備しようか」

加賀「了解」

………
……


龍鳳「第2艦隊、及び空母龍鳳、欠員なく帰還いたしました!」

提督「ご苦労様。0930時きっかりに帰還だ。緊急の案件は発生してないかい?」

龍鳳「はい!緊急の案件はありません!瀬戸内海に水上の敵艦影は皆無で、敵潜の隻数も撃破数も報告通りです!」

提督「ん、お疲れ様…お?」

龍鳳「…?如何なさいましたか?」

提督「…雪に降られたのかい?」

龍鳳「…え?…は、はい…少しだけ…」

提督「…少し?…みんな、じっとして…加賀、俺の後で温かいお茶を渡して貰っていいかな」

加賀「承知しました」

第2艦隊の面々「???」


そう言うと提督はタオルを人数分片手に哨戒隊に歩み寄った。

まずは旗艦の龍鳳から。


龍鳳「て…提督?…わぷっ!///」

提督「どこか少しだよ。頭にこんなに雪に乗っけておいて…ったく…」


提督はそう言うとタオルを龍鳳の頭に被せて、ワシワシと拭き始めた。


提督「詳細報告は風呂で温まってからでいいから…お疲れ様」

龍鳳「わぷぷっ!///り、了解しましたぁ〜///」

加賀「龍鳳、お疲れ様…熱いお茶よ」

龍鳳「あ、加賀さん、お心遣いありがとうございます!」

加賀「いえ、これは提督の主示しよ。私はそれに付き合っているだけだから、気にしなくていいわ」

龍鳳「…提督って…今日…誕生日…ですよね?」

加賀「…ええ、当人は殆ど意識してないようだけれど…」

龍鳳「…やっぱりそうですか…」


そう加賀に言われた龍鳳は、少ししょんぼりとした。

哨戒隊の1人1人に手早くタオルを引っ被せては、労いの言葉をかけながら髪の毛をワシワシと拭いている提督を、加賀と一緒に見つめながら…。


龍鳳「…いつもしてもらってばかりですごく申し訳なくって…嫁艦の皆さんは何が考えてるんですか?」

加賀「ええ、抜かりはないわ…せめて一晩は提督に何も考えずに楽しんで貰う予定よ…もちろん…泊地のみんなにも協力はしてもらうのだけれど…」

龍鳳「も、もちろんです!」

鬼怒「…か、加賀さぁ〜ん…お茶いただけないっすか〜?」


龍鳳と話しているうちに提督は、最後の駆逐艦の娘にタオルを被せて、髪の毛をワシワシしている最中で、龍鳳の補佐を務めた鬼怒がお預けを食らった子供のような表情で、加賀に熱いお茶を渡すように催促した。


加賀「…ごめんなさい…お疲れ様、鬼怒。熱いお茶を飲んで」

鬼怒「はぁ〜有り難や有り難やぁ…ずずっ…んぁ〜っ沁みるぅ…パナイ〜…///」

加賀「…十七駆の皆も、飲んで頂戴」

浦風「ありがとー加賀さん…はぁ〜…ばり温まるわぁ…///」

磯風「あぁ…流石に手足が悴む寒さだったからな…この熱さは堪えられない…///」

浜風「ありがとうございます…ずずっ…ほぁ…美味しい…この後のお風呂も…楽しみね…///」

谷風「くぁ〜っ!こいつぁ〜ありがてぇ…五臓六腑に染み渡るねぇぃ…///」


青い髪を肩甲骨辺りまで伸ばし、左右にお団子結で頭の上には白の帽子を被り、その喋り口はほんわりとした広島弁。
陽炎型駆逐艦 11番艦 浦風。

黒々とした長髪を腰下まで伸ばし、顔の左右の髪の先端を縛り、口調は何処が無骨さを滲ませる艦娘。
陽炎型駆逐艦 12番艦 磯風

ショートヘアの銀髪で、前髪で右目は隠れているが、左目側の前髪は金色のヘアピンで留められ、礼儀正しくハキハキと喋る艦娘。
陽炎型駆逐艦 13番艦 浜風

黒髪におかっぱ頭で、その頭には白のカチューシャを付けて、江戸っ子のような気風のいい口調で話す艦娘。
陽炎型駆逐艦 14番艦 谷風

その十七駆逐隊の面々も両手でコップを持って、手を温めながらちびりちびりとお茶を飲んでいる。

彼女らの暖かさに対する感極まった溜息と一緒に、口から濛々と白い息が寒い外気へ放出される。


提督「…よし、皆にもお茶まで行き届いたな。改めて皆も寒い中お疲れ様。この後は皆はゆっくり風呂に浸かって体を休めてくれ」

第2艦隊の面々
「「「「「「了解っ!」」」」」」

………
……


鬼怒「…今日、提督の誕生日だよねぇ…」


風呂に向かう第2艦隊の道中、鬼怒が提督が近くに居ないことを確認の上で、みんなに話しかけてきた。

浦風「…そうじゃなぁ…提督さんは何して欲しいんじゃろうか?」

磯風「むぅ…なまじ料理が出来る故、ちょっとやそっとの事では、司令は喜ばないんじゃないだろうか…?」

浜風「…磯風、貴方は料理だけはやめておきなさいね。司令が体調を崩されてはいけないので…」

磯風「ぐっ…み、身の程はわかっているっ!」

谷風「…浜風ぇ…あんた露骨に言うようになったねぇぃ…そうだねぇ…提督ってあんまし私情の自己主張しないからねぇ…」

龍鳳「(あ、やっぱりみんな考えてることは同じなんだ…)」

浦風「鬼怒さん、他の人から何かきぃーとるん?」

鬼怒「由良姉の話だと今夜食堂で宴会をするみたい…もちろん未婚艦も参加自由!」

磯風「…?その割には普段と変わらない様に感じるが…?」

鬼怒「サプライズしたいんだろうね…だからあたし達には、出来るだけ普段通りに過すように言われてる」

浜風「…嫁艦の皆さんが何が動いていると?」

鬼怒「そーそー、加賀さんが秘書艦なのは、提督の行動を逐一他の嫁艦に知らせる為でもあるみたいだね…」

谷風「う”ぉっ…思った以上にガチなやつじゃねぇか…嫁艦増えたもんねぇ…提督一人を落とすのに皆本気過ぎやしねぇかい?」

浦風「そりゃ当然じゃ、ウチかて未婚やけんど、提督さんに何かしてあげたいもん」

谷風「…まぁ、その点は否定はできないねぇぃ…」

磯風「…私には…司令に何かをする事すら許されないのか…」

浜風「っ!ほ、他の事を考えましょう!まだ夜まで時間がありますから!一緒に考えましょう!ね!ね?!」

鬼怒「…まぁ、一昨年みたいなことにはならないと思うから、みんな安心していいと思うよ…うん…」

十七駆「「「「う”っ…」」」」

龍鳳「…あぁ…悪夢でしたね…アレ…」

鬼怒「…あ、龍鳳は知ってるんだ…」

龍鳳「はい…泊地の運用が軌道に乗りだして、皆さんの心のゆとりができ始めた頃の話ですから、人である提督に対してどこまでしていいか加減がわかってなかったので、暴走しましたからね…その時は私は外野でしたけどよく覚えてます…」

鬼怒「ま、去年は流行病の件もあったし、有耶無耶にされちゃった感があったしねぇ…とにかくお風呂で温まりながら考えようよ…お風呂なら提督に聞かれることもないし」


鬼怒の提案で哨戒隊は話しながらダラダラ歩いていたのが、目的が決まると足早に入渠・風呂場スペースに向かっていくのであった。

………
……


1100時 執務室

提督「はい、こちら佐伯泊地…教官!いえ、〇〇中将!ご無沙汰しております!…いえ、こちらは変わりなく…はい…」

加賀「…」

提督「…テレビ局の取材?…はい…うちの泊地で…ですか?」


…取材?

珍しいこともあるものだ。

提督の受け答えを聞いている限り、相手は階級の上の上官のようだ。

規模や名前だけで言うなら横須賀や舞鶴、呉、佐世保が妥当なのにこんな辺境の泊地に?

取材という名のスパイや偏向報道の類いではないかと、加賀は内心で警戒のレベルを上げた。


提督「…よく検討の上で返答させていただきます…はい…それでは、失礼致します」


…カチャ…

提督は静かに受話器を元の場所に戻した。


提督「…はぁ〜…なんでまたうちが取材なんだか…」

加賀「…電話主は上官ですか?」

提督「うん…俺が任官時に艦娘の指揮者研修の時にお世話になった上官だ…今は佐世保で実働部隊の指揮を執っておられる」

加賀「…そう…テレビの取材と聞こえたけれど?」

提督「そうだね、内地では相変わらず、深海棲艦と和解せよとか戦争反対とか喚いている人間が少なからず居るからな…」

加賀「…ふむ…」

提督「おまけにそういう連中が、何も知らない人間を焚き付けて”女を戦争に行かせるのか”とか”人権がー”とかそういうのを今だに吹聴してまわっているしなぁ」

加賀「…嘆かわしいわね」

提督「ぶっちゃけ、俺ら男が出て戦果上げられるんだったら、とっくに出とるわって話なんだがね…通常兵器は当たらん効かんでは…で、政府は大本営に打診して、艦娘は怖くない、皆を護る為に頑張ってるっていう事を伝える番組を企画したいと言う話だ」

加賀「…で、取材の内容はどういうものなの?」

提督「泊地に3日密着して、艦娘達の日常を撮るのと、数人艦種別でインタビューを撮りたいって話だったよ」

加賀「…そう…提督はどうするつもり?」

提督「正直迷ってる…一般人の方に理解を深めるって点ならやるべきだね。…でもなんかこういうことってどこまでの範囲を見せれば良いのか分からなくて、踏み出す足が上がらないって感じかな…機密事項も多いし…」

加賀「…そう」

提督「…加賀は意見あるかな?」

加賀「…私?…そうね…受けるべきじゃないかしら」

提督「…ふむ」

加賀「第一にそれで提督の仕事がやりやすくなるのなら、私達は喜んで貴方に協力するわ」

加賀「それと、私達も一般の人々がどんな反応を示すか観てみたい…いい結果も悪い結果も…もし何もしなかったら誤認識だけが先行して、あらぬ誤解も生みかねないから…」

提督「…踏み出すべき…と」

加賀「とは言っても、あまり俗世のことはよく知らないから…怖くもあるわ」

提督「そうか…まだ返答には時間があるから、皆にも話してみるか…」

加賀「そうね…視点の違う意見は大事よ…それに…」

提督「…?」

加賀「私達にとって…ここが…還る家だから…大切にしたいし、大切な場所が誤解されるのはもっと嫌…」

提督「…そっか…」

加賀「…なんですか?」

提督「いや、”私達の還る家”って聞いてすごく嬉しかったから…」

加賀「…そ、そう…」

提督「…それじゃあ大淀にも相談して、近日中にそういう話す場を作ろう」

加賀「それがいいわ。もちろん、私も同席させていただきます」

提督「ん、ありがとう、加賀」

加賀「秘書艦として…嫁艦としてあなたを支えられることは本望よ…他人行儀は辞めて頂戴」

提督「…そだね…気を付けます」

加賀「…」ポチポチ…

提督「…?加賀?」

加賀「嫁艦全員のコミュニティに書き込みをしておいたわ。1200時に昼食を摂りながら先程の話を詰めましょう」

提督「お、おう…」

加賀「…では私はお弁当と会議室の手配をしてまいりますので、提督は大淀に声を掛けてくれませんか?」

提督「わかった」

加賀「…では…後程…」


ぎぃぃ…バタン…

ひとしきり喋ると加賀は執務室を退出していった。

………
……


提督「…てか、嫁艦コミュニティってなにソレっ?!」


提督は得体のしれないコミュニティに、恐怖を覚えたのであった。

………
……


1230時 司令部棟 A会議室

………
……


榛名「私は、取材については反対しません」

陸奥「いきなりぶっつけ本番って訳ではなくて、ある程度事前に撮るものを決めてあるのなら、良いんじゃない?」

赤城「むぐむぐ…そこはやるとなった時点で綿密にテレビ局の人と要相談ですね」

提督「…」


非番の嫁艦が全員集合して、会議室に入り、難航するとの提督の想定とは裏腹に、話はサクサクと進んでいった。


提督「…それじゃあみんなの意見としては、取材を受けることは肯定するってことでいいかな?」

嫁艦複数「「「「「異議なし!」」」」」

提督「…わかった…それじゃあ今日中にも先方に要件まとめて受けることを連絡するよ…で、丁度嫁艦の皆がいるから、ここで聞いておこうと思う」

嫁艦's「「「「「???」」」」」

提督「取材を受けるとして、その当日から3日間、指輪は手から外した方がいいと思うんだが…」

金剛「…え”っ?!」

飛龍「な…なんでですかっ?!」

鈴谷「そこまで徹底するの?」

提督「まあまあ…話は今からちゃんとする」

提督「我々としては当たり前の事でも、一般人にとってはそれは普通じゃないことが多い。我々はこの指輪の効能を知っているから何とも思わないけど、指輪を付けている娘が複数居たら、余計な誤解を招きかねない」

長門「…何も知らない者からすれば、ただの悪趣味か重婚…不貞の行為に見えるということか」

提督「そう、そういう曲解をする人もいるだろうしな…もちろん、外すと言っても手から外して、ネックレスチェーンでぶら下げて服の中で肌見放さずというのは大丈夫だ」

陸奥「まあ、取材を受けるなら余計な揉め事の種になりそうなものは、排除すべきだからその判断は妥当ね…」

提督「あと、制服の状態で肌の露出度が多い娘には、出るのを控えてもらうか着替えてもらおう…線引はそうだなぁ…」

摩耶「…島風とか完全アウトじゃね?」

提督「もう100%アウト。その3日間だけ陽炎型か夕雲型の制服で過ごしてもらう方向で行こう…そしてそういう摩耶の服装も結構アウト寄りだと思う…あ、鳥海も同じだな」

摩耶「あー…やっぱそっかぁ…アタシらはどうしたら…」

提督「高雄か愛宕の予備の制服を借りてその場を凌ぐって方向でどうだ?」

摩耶「ん、それが妥当だな」

能代「…提督!質問よろしいですか!」

提督「ん、どうぞ」

能代「私と矢矧は、改二の制服で問題ないと思いますが、改二制服がない阿賀野姉と酒匂はどうすればよろしいでしょうか?」

提督「あぁ…阿賀野型も改まで結構露出多いもんな…それなら2人の改二の制服を貸したらどうだ?」

矢矧「…ちょっと待って提督…阿賀野姉はそれで大丈夫だけど、酒匂はその…」

提督「…この時期出撃の時にコート着てるだろ?グレーのアレ。あれ着せれば問題なさそう」


…言わんとすることはわかる故に黙っておこう。

…酒匂だけ、体の一部のサイズが…ねえ?

背丈も姉3人よりちょっと低いし、コート案が妥当だろう。


矢矧「そういえばそうね…そうするように言っておくわ」

提督「あとビジュアル的にヤバそうなヤツ…武蔵とか島風並みにヤバいんじゃないかな…」

大和「…言われると思ってました…」

提督「それは俺から謝らせてくれ…改二の制服のあのコート姿は堪らんかっこいいが改装設計図3枚は辛い…力及ばずで申し訳ない…」

大和「い、いえいえ!私の制服を着れるかちょっと試してみます!」

提督「頼むよ…それで長門と陸奥なんだけど…長門はセーフだと思うが陸奥は…うーん…」

陸奥「…え?私?」

提督「…ま、肩周りが丸見えな娘も居るわけだし、セーフだセーフ」

陸奥「…なんか釈然としないわねぇ…」

提督「…長門型はクリア…金剛型も大丈夫…」

長門「大体の可否の境界線が見えてきたな」

提督「あと、この場にはいないが、天城と葛城も相当ヤバい服だな…もう馴れたけどあれも危険な香りがする…」

蒼龍「あー…あれは確かに慣れてるから何とも思わないだけで、傍から見るからに相当ヤバい…普段の迷彩着物で過ごしてもらうとか?」

提督「それだな、3日間の辛抱だから」

蒼龍「わかった、取材が決まったら伝えおくね」

提督「頼むよ…あと引っ掛かりそうな服装の娘は…」

榛名「…コロラドさんとか腋と背中丸見えですよね…」

提督「…あぁ…まだ居た…いや…マント羽織ってるから…いや、気休め程度だしアウト候補か…コロラドは同型艦いないし、同郷で体格の合う娘…てかアメリカ艦の一部は着崩してるだけの娘が結構いるから、その時だけでいいから服装を正すように言っておいてくれないか?サラトガ、フレッチャー」

フレッチャー「承知いたしました。ジョンストンにも伝えておきますね」

サラトガ「マイティーとダコタにも伝えておきますね…提督…コロラドさんは如何なさいますか?」

提督「…うー…背格好的にカブールと似通ってるんだけど、アメリカとイタリアだしなぁ…デザインの方向性が壊滅的に合ってない…」

サラトガ「…ヒキコモリ確定でしょうか…?」

提督「…ちょっと待ってどこで覚えたの、そんな言葉…」

サラトガ「…え?…えーっと…ハツユキちゃん…」

提督「…ウチの古参グーダラ娘が厄介になっております…」

鈴谷「…あ、この前コロラドさんダサT着て彷徨いてるの見たよ〜」

提督「…因みにお題は?」

鈴谷「I♡コロラド〜」

提督「…もうそれでいこう…いや待て待て待て…」

サラトガ「(もうヤケッパチですね提督…)」

提督「体作りは基本皆ジャージだからそれは良いとして、最悪それ以外は自室待機にしてもらおう…あの娘の事だ、不満をタラタラ言われそうだが致し方ない、甘んじて俺がその矛先として受けるとする」

長門「(あぁ…不憫だな…コロラドよ…)」

提督「ふう…こんなもんか…取り敢えず取材を受ける方向で連絡入れてくるよ。…これにて解散!」

加賀「ええ、お疲れ様です。お供いたします」


ギィ…バタン…

………
……


…提督と加賀が執務室へ向けて会議室を出たを見計らって、嫁艦たちだけの別の話の会議が始まった。


榛名「…皆さん、本日の提督の誕生日の準備は如何でしょうか?」

吹雪「はいっ!皆で夜な夜な作った飾り付けも所定位置まで運んで、あとは間宮さんの食堂が1700時に閉まるのを見計らって一気に皆で飾り付けちゃいます!」

綾波「やりますよ〜♪」

時雨「…絶対成功させよう…!」

白露「にっししっ♪提督の人生でいっちばんの誕生日会にしようねっ!」

大和「私と比叡さんはこの後、間宮さんの食堂に急行して厨房に詰めます」

比叡「食材の方もバッチリだよ〜っ!」

榛名「後は提督があまり出歩かないように、足止めするのには…」

………
……


榛名『加賀さん…聞こえますか?』

加賀『!…聞こえているわ…』


提督について行った加賀の頭の中に榛名の声が入ってくる。

直進波形の無線交信だ。


榛名『1800時まで出来るだけ提督が執務室から出ないように、手筈通りよろしくお願いします!』

加賀『任せておいて頂戴』

提督「…?加賀?どうかしたかい?」

加賀「いえ、何でもないわ」

提督「…?そう?」

加賀「それより提督、先に目を通しておいていただきたい案件があります」

提督「うぉ…なんだい?」


提督と加賀は再び事務作業に戻り、他の嫁艦達は来る時間まで各々の持ち場に付くのであった。

………
……


1500時 工廠

………
……


工廠任務で提督と加賀は工廠に出向いてきていた。

3人で工場に置いてある安っぽいキャスターと背もたれの付いた椅子に座って、机を挟んで向かい合って、工廠作業の内容を確認しつつ雑談も兼ねて話していた。


明石「熟練零戦21型改修MAX機の機種変更ですね…在庫の52型を2機廃棄しますがよろしいですか?」

提督「よろしく頼むよ」

明石「…しかし、今月で一気に任務消化が進んで、航空戦力が一気に底上げされましたよねぇ」

提督「そうだねぇ…だいぶ資源を擦り減らしちまったけどなぁ」

明石「そうは言っても全体平均で4万程ですよね?もっと派手に溶けると思ってましたよ」

加賀「流星改(一航戦熟練)はとても良い仕事をしてくれます…お陰で助かってます」

提督「一航戦の流星改を赤城にも持たせられるようになったし、いい傾向だね…噴進機も無事受領できたし、翔鶴に持たせることもできたから、悔い無しって感じだね…コツコツ単発任務もこなさないと駄目だなぁ…」


加賀「ここに来てやっと全海域の開放出来ましたからね…放ったらかし過ぎです、提督」

提督「…面目ない」

加賀「す、すぐに謝らないで頂戴…」

提督「でも、昨年末まであえて手を付けてなかったのは事実だし…」

明石「えっと…中央海域の関係する任務で、八幡丸ちゃんを迎えるのに…でしたね」

提督「そうだね、上層部に見事に焚き付けられた形だったねぇ…それもそうだけど良い装備が受領出来るのなら、それに越したことがないしなぁ」

加賀「…まぁ、これだけ私達全体を鍛え上げられていたら、道中撤退も少なくて済みましたし、綿密に作戦と編成と装備の組み合わせの賜物ね」

提督「…初動が遅いのが俺の永遠の課題だ」

明石「まあ、そのお陰で私達は伸び伸びやれている面もありますから…あ、案件の達成を証明する書類が届きました。こちらにサインをお願いします」

提督「よし来い」

明石「…確かに確認しました!控えの2枚の内の1枚はこちらで保管して、残りは大淀に宜しくお願いしますね!」

提督「了解、ありがとう…それじゃあ執務室に戻ろうか…あぁ、そうそう明石、渡しそびれてた」

明石「…?」


提督が制服の外套のポケットをまさぐりだした。

加賀と明石の視線は自然とそちらに向けられる。


提督「…ほい、ちょい冷めたけど、ブラックの缶コーヒーとお菓子。休憩前に来ちゃったから、手の空いたときに飲んでね」

明石「あぁ〜助かります〜。私も気が回らなくて申し訳ありません…」

提督「作業中に別件を割り込ませたのはウチ等だから、気にしないでいいよ」


そう言うと、提督は左のポケットから缶コーヒーを、右のポケットからはウエハースにチョコレートを纏わせた個包装の菓子を出して明石に手渡した。


加賀「…(いつの間に…ドラ○もんのポケットなのかしら…)」

明石「わぁ♪新作の味ですね!」

提督「おう、結構イケると思うし、試してみて」

明石「はぁ〜い♪」

提督「…こうでもしないと明石は仕事ばっかりしてるからな」

明石「あはっ♪その言葉、そっくりそのまま提督に返しますねっ!」

提督「おいおい…まあ、ちげぇーねぇーな」

加賀「…(…いいわね…明石は…)」


なんの屈託もなくケタケタと笑いながら提督と話をしている明石が羨ましいと感じる加賀。

…もちろんそれは内心で、仏頂面でそれを見ていた。


加賀「…提督、早くこの書類をまとめて私達も休憩にしましょう…それでは明石…失礼するわね」

明石「はーい、装備の事も何かあれば遠慮なく聞いてくださいね〜」


工廠での任務を一通りと追加分を終わらせた、提督と加賀は席を外して書類を抱えて執務室に戻りだした。

………
……


加賀『…明石…聞こえてる?』

明石『…モッチロン、聞こえてますよ〜』


工廠から離れる最中。

工廠にいる明石と廊下を歩く加賀の間で、直進波形での無線交信が行われていた。


加賀『今日1800時、貴方も参加出来るように仕事量を調節しておいて』

明石『心得てますよ〜、今日は提督の誕生日ですもんねぇ』

加賀『…その当人があまり関心が無いのだけれど…』

明石『あちゃ〜…相変わらずですねぇ…』

加賀『…なので正直攻めあぐねています』

明石『おぉう…相変わらずガード硬いですなぁ…』

加賀『…でもせめて誕生日会くらいはやらないと…彼には私達の感謝が伝わらない…から…』

明石『わっかりました!』


…加賀は顔を合わせた艦娘に片っ端から直進波形での交信で、今日の提督の包囲網を狭めていった。

………
……


1600時 執務室


青葉「…青葉にその取材に関しての助言をして…」

衣笠「私がそのダブルチェック要員兼青葉の補佐をするのね」


重巡青葉と横一列で提督の机の前に立つ彼女は、薄紫の髪を肩甲骨の下程まで伸ばし、左側に小さくその髪をサイドテールを結い、服装は青葉共通の襟と袖の青いセーラー服を着用しているが、青いスカートを履いている艦娘は、

青葉型重巡洋艦 2番艦の衣笠。

執務室に青葉とその妹の衣笠が呼ばれていた。

そこで2人に佐世保の中将に打診された取材について受ける話をした。


提督「そうそう、そういういろはをよくわかってる青葉に色々聞いて、衣笠にその補佐をしてもらいたいんだ」

青葉「わかりました!では、報道なんかでする引っ掛けとかいけずな質問を数日で考えますので、一緒に想定問答をしましょうか。もちろん加賀さんもご一緒してもらって、きっちり記録に残して取材時の秘書艦に引き継げるようにしましょう」

加賀「わかったわ」

衣笠「…しかし取材かぁ…佐世保の中将さんは何でウチみたいな辺境の基地にそんな事をさせるんだろ?」

提督「本営は戦力と規模を秘匿しておきたいってことなのかも…もちろんウチも全部見せる訳ではないしな。それに艦娘の日々の生活を主に撮るのが目的だから、本営が出張らなくても伝わるだろって判断したようだ…中将殿もうちの内情は把握されている上での打診だし、答えたいんだ」

衣笠「提督がそこまで言うなら反対はしないわ」

提督「よろしく頼むよ」

青葉「お安い御用です!では!」

衣笠「お邪魔しました〜!」

キィ…バタンッ


提督「…ふぅ…」

加賀「…まさか青葉を呼ぶとは思ってなかったわ…」

提督「中将殿の助言でな、”知り合いに報道関係者が居ないなら、青葉に聞いてみるといい”という助言を貰ったんだ…実際、佐世保の広報部はあちらの青葉がほぼ取り仕切っているらしい…もちろん妹の衣笠の監視付きだが」

加賀「なるほど…で、ウチの青葉も漏れなくその適性があったので頼んだ…と」

提督「そう、ま、中将のやり方の丸パクリだけどな」

加賀「良い人選よ…自身を卑下する必要はないわ」

提督「ん、ありがとう…さて、次の書類は…」

加賀「っ!…これね」

提督「どれどれ…あれ?随分、提出期限が先の案件だねコレ…」

加賀「…目だけは通しておいて…忙しい時は確認が疎かになりがちな貴方の性格を把握の上よ」

提督「…善処します…さて、どれどれ…」

加賀「…(まずいわ…提督の執務室の滞在を引っ張る仕事が尽きそうだわ…)」

………
……


同時刻 司令部棟 2F-1F中央階段

衣笠「取材かぁ…艦娘にも数名インタビューするって言ってたけど、誰が受けるんだろ?」

青葉「その辺はこちらで艦種別で予め個性の違う人達を人選しておいて、個性の多様性を受け入れる寛容さを出しながら、艦娘として芯のブレない国防の姿勢を打ち出せれば、変に突っ込まれることはないと思う。それと身近さも出せればいいなぁ…」

衣笠「…身近さ?」

青葉「そうそう!私達の泊地で言ったら、佐伯市の漁協とか船会社とか海に関わる人達と洋上で、無線交信とか護衛とか救助とかしてるじゃない?青葉も何度もそういう場面のやり取りをしてきたから、そういう人々との繋がりや交友も取材の本編に挟めたらいいなぁ…って思ってる」

衣笠「そうよね…艦娘全体のイメージアップが目的なら、それは組込んでおきたいよね…それじゃあ佐伯市役所と漁協と民間船舶会社に問い合わせなきゃね」

青葉「…一番いいのは基地祭みたいな事が出来たらいいのになぁ…スケジュール組んで展示航海をしたりとか、出店とか」

衣笠「あぁ…良いかもね。もっと身近に感じてもらいやすい、いい機会よね…ま、今は…無理だろうけどね…」

青葉「早く無くなんないかなぁ…流行病…」

衣笠「ま、その時までしっかりこの案を温めておこうよ!」

青葉「…そうだよね!よ〜しっ!近日中に想定問答作って提督と秘書艦をいじめちゃうぞっ!」

衣笠「いやいや、提督いじめてどうすんのよ…」


いづれ訪れるであろう基地祭開催への想像を膨らませながら、2人は提督に出す想定問答の制作に入った。

………
……


〜ところ戻って、少し時間が経って執務室〜


提督「…んん、これやれそうだな…加賀、資料棚4-5の編成データを集計したファイルを取ってもらえないかな」

加賀「ええ…承知しました」

提督「えっと…用紙…用紙はっと…」


秘書艦席を立った加賀は、執務室の1面半分強を埋めている本棚の4段目の1番右の欄のから資料を取り出す。

その最中、加賀は内心冷や汗をかいていた。


加賀「…(この書類で今日の仕事が尽きてしまった…本当にどうしよう…)」


他の嫁艦の前で任せておけと言ったのに、提督の誕生日会まで、あと1時間と少々…。

…どう引っ張る?

手隙になったら提督は絶対に泊地内を彷徨き出す。

…もちろん、泊地のために動き回るのだから、悪い事をしてる訳ではないんだが、今日に限ってはそれはさせたくない。


提督「…おお、あったあった…?加賀、手が止まってるけど資料が見当たらない?」

加賀「あ…いえ…資料はここに…」


自分の手が止まっている事に提督に言われて気がついた加賀。

提督の指定した資料に手をかけて、取り出して提督の元に戻った。


加賀「…お待たせしました」

提督「ん、ありがと…ええっと…」

加賀「…(この書類が終わったら…)」

提督「…よし、ここだここだ…」

加賀「……(どうやって提督を引き留めよう…)」

提督「……」

加賀「………(と、とにかく食堂には近付かないようにしないと…)」

提督「…ん?…んん〜?」

加賀「…………(…しかし、その手立てが…)」

提督「…あ、そっか…こうだな…よし…」

加賀「……………(…後1時間…)」

提督「…できたっ!チェック頼めるかな、加賀…って、うぉっ!…突っ立ってどうしたの?」

加賀「あ、す、すみません…書類が出来たんですね。確認させていただきます」

提督「うん…よろしく…」

加賀「…」

提督「……」


…ものすんごく見られてる…。

提督が私の顔色を凝視してる。

…まさに提督の今を音で表すなら「じ〜〜〜っ」という効果音がぴったりである。

………
……


加賀「…提督、チェック完了しました。捺印を宜しくお願いします」

提督「ん、了解」

……


提督「…よし、これでこの書類は完了…次の書類はある?」

加賀「い、いえ…綺麗スッキリ片付きました」

提督「そっかぁ〜…いやぁ〜終わった」


席の上で背伸びした提督が立ち上がり、3人掛けの応接用のソファーに歩いて向かい、ドカッと腰掛けた。

すると提督はその席から加賀を手招きする。


加賀「…何でしょうか?」

提督「こっちおいで」

加賀「…え?」

提督「なんかさっきからボーッとしてるし疲れてるのかなって」

加賀「だ、大丈夫です…」

提督「寒いから、ちこぅ寄らんかー」

加賀「…」


…ずるい…。

この人は私がしてあげたいことを平気にしてくる。

私とは対の、異性である貴方が。


提督「…?おいで〜」


…もはや私には拒否権はないようだ。

優しい表情で側に来るように催促してくる。


加賀「…失礼します」


私は言われるまま、提督の側に肩を寄せ合うように座った。

安心するけど緊張もする。

この距離感も久し振りのような気がする。

…他の嫁艦と徒党を組むか、酒を飲まないと提督にこのくらいの事も出来ないのかと思うと、内心自分が情けなくなる。


加賀「…ふぅ…」

提督「…大丈夫?」

加賀「…大丈夫じゃないわ…」

提督「…そっか…少しのんびりする?」

加賀「…」


加賀はチラッと古時計に視線を送った。


古時計「1654時」

加賀「…(覚なる上は…)」


ギュッ…

加賀は意を決して、提督の左腕に抱きついた。


提督「…加賀?」

加賀「きょ、今日は寒いので…っ!///」


バクンッバクンッバクンッバクンッ

加賀の心臓は弾けそうなくらい弾んでいる。

顔も真っ赤。

加賀は自分の頭の中にまで、自分の心臓の音が鳴り響いている。


加賀「…///(…だ、だめ…クラクラしてきた…)」

提督「…本当に大丈夫?加賀?」

加賀「な…なにっ…?///」

提督「加賀の心臓の音…とんでもないことになってるから…」

加賀「…っ!だっ…誰の所為でこうなっていると思ってるんですか…っ!///」


加賀は思わず八つ当たりに近いような態度を取った。


提督「おおぅ…じゃあ今、加賀はどうしたいの?」


………
……


…えっ?

…どうしたいですって?

提督が私の顔を覗くようにして視線を合わせてくる。


加賀「…膝枕…」

提督「…ん?」

加賀「膝枕を提督にしてあげたいです…」

提督「…え?そっち?」

加賀「…なに?私がしてはいけないの?」


加賀はそう言うと、提督の座るソファーの端へと移動して、逆に提督を手招きをし始めた。

…平静を装っているが、相変わらず顔は赤いし、目尻は釣り上がってるし、脈拍が跳ね上がり、心臓の自己主張はかなり強い。


加賀「…さ、さぁ…どうぞ」

提督「…それじゃあお言葉に甘えて…」


…ポフッ…


隣に座る加賀の膝下に提督は、そっと頭を預けた。


加賀「…い、如何ですか?」

提督「…如何かって聞かれると…うん、安心するかな…」

加賀「…そ、そう…」


そう聞いて暫くすると少し落ち着いた加賀は、提督の髪の毛を触りだした。


加賀「…そろそろ切り時じゃないかしら?」

提督「ん?…あぁ…むさ苦しいかな?」

加賀「忙しさにかまけて、年末に切らなかったでしょう?」

提督「いつも鳳翔さんに切ってもらってるから、そうしようと思ったけど、忙しそうだったし、俺も何やかんや忙しかったから…」

加賀「…そう」

提督「…まだこの泊地が駆け出しの最初の頃にさ、鳳翔さんに俺の髪の毛が伸び放題だって指摘されたことがあったんだよ」

加賀「…えぇ」

提督「この泊地の長たるもの、身嗜みも大事です!…ってね。服はどうにかなってるけど、髪の毛はどうにもならなくて、ダメ元で頼んだら鳳翔さんが切ります!って」

加賀「ふむ」

提督「…そしたら失敗しちゃってさ…最初の頃は丸坊主になってたなァ」

加賀「…え?提督が丸坊主?」

提督「…あ、そうか…加賀がここに来た時には鳳翔さんの髪切り練度は最高練度の〈〈〈 だったからねぇ…駆逐艦の娘達の髪の面倒も見てもらってて覚えるのが早いのなんの…」

加賀「…」

提督「丸坊主になった時は他の娘の目線が、あー、鳳翔さん今回駄目だったかーって目で見られてたのが懐かしい……あれ?加賀?」


思い出を語る提督を他所に加賀は自分の思考の世界に入ってしまっていた。


加賀「…提督」

提督「ん?」

加賀「髪を整えて差し上げます」

提督「…え?」

加賀「自分でもやっていることなのでご安心ください」

提督「そ、そう?じゃあ…せっかくだから頼もうかな…」

提督「(…鳳翔さんに初めて切って貰った時と同じセリフ…)」


何がデジャブを感じながら提督は、加賀のしたいようにさせようと、加賀の太腿から頭を上げて、加賀と一緒に隣の仮眠室に移動した。

1人掛けの椅子とブルーシート、髪用のすきバサミとハサミとバリカンを用意して、1人掛けのを椅子に提督が腰掛けて、ゴミ袋を加工して即席で作った髪よけを被った。


加賀「…いつものように整えたらいいかしら?」

提督「そだね…横は刈り上げて、上は量と長さを鋤く感じでお願いします」

加賀「…では、参ります」


姿見の鏡を見ながら提督の髪の状態を見ながら、少しづつ整えていく加賀。


提督「(…おぉっ?お上手…)」


予想してなかった展開に少し驚く提督。

手際もいいので慣れているというのは、本当のようだと納得した。


提督「…意外だったなぁ…ここまで上手いとは…」

加賀「…そ、そうかしら?」

提督「これなら鳳翔さんが忙しかったらまた頼もうかな…」

加賀「…///」


…ショキン…パサッ…


提督・加賀「「…あ”」」

………
……


加賀「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいもう提督の髪には触りません許して下さい…」ブツブツ…

提督「いや、久々にこれもいいもんだ。羊の毛刈りみたいでこっちも楽しかったから」


無情なハサミの切断音の5分後、提督の髪の毛は更に情け容赦のない電動バリカンによって綺麗サッパリ刈り取られていた。

五分刈りというやつだ。

…因みに加賀は拒んだので提督自らの手で。

加賀は部屋の隅っこでどんよりした雰囲気を纏って体育座りして、床にのの字を書いてひどく落ち込んでいた。


提督「ほれほれ、気にしないで。髪なんてじき伸びるんだから〜」

加賀「ううぅ…」


中々立ち直ってくれない加賀の頭を提督は気にしてないと言うように撫でる。


加賀「(…この人の優しさがズルい…)」


そうされると罪悪感が次第に薄れていく。

でも、そんな事で慰められてしまえる自分に、無性に腹も立ったが、顔には出ないようにした。

…それが今の加賀にとっての、提督にできる唯一の気遣いだった。

…コンコンコン

そんなやり取りをしていると、執務室のドアからノック音が部屋に響く。


矢矧「矢矧です!入ります!」

提督「どうぞ〜」


…ガチャ


矢矧「お邪魔するわね提督、この後の予定なん…だ…け…って!ええぇぇぇぇぇぇぇえっっ!!」


嫁艦達の計画の手筈通りに定刻に迎えに来た矢矧は驚愕していた。

数刻前まで黒々と茂っていた提督の髪が、綺麗サッパリ刈り取られていたのだから。

初めての提督の坊主頭姿の衝撃が強すぎて、ドアを閉めることを忘れた矢矧は、次の言葉が出ず立ち尽くす。


矢矧「なっ…あ…えっ?へっ?」

提督「どう?矢矧、帝国軍人っぽいだろ?めっちゃ頭軽くなった〜♪」

矢矧「な…なん…でっ?!」

長門「どうした矢矧っ!何事かっ?!」

時雨「ん?…あ…」

古鷹「…提督、その髪型は…」


ドアを開け放ったままだったので、ただでさえよく通る矢矧の声で、他の艦娘まで執務室に来てしまった。


長門「…ど、どうしたんだ提督…その…頭は…」

提督「…え?スカッと爽やかに苅ったった(笑)帝国軍人っぽくて良くない?」

長門「あ、あぁ…存外似合って…いやいやいや!ちょっと待てっ!」

時雨「…(久々に見たなぁ…)」

古鷹「あ、あははは…」


提督の丸坊主姿に困惑する矢矧と長門。

対象的に何かを察した時雨と古鷹。


提督「…で、みんなどうしたんだい?」

古鷹「提督、この後のご予定はどうなってますか?」

提督「ん?この後は夕食を作って食べて明日の予定の確認やらがあるな」

古鷹「…ではまだ作ってないですね…もしよかったら皆で食堂で夕食をご一緒しませんか?」

提督「んー…そうだなぁ…」

時雨「…ダメかな?」

提督「…ふむ…加賀、どう?」


先程落ち込んでいたところから、何とか持ち直した加賀に提督は話しかけた。


加賀「…一緒しましょう」

提督「…よし、それなら一緒させてもらうよ」

時雨「やった♪それじゃあ今から早速食堂に行こっか」

古鷹「…ふふっ♪」

矢矧・長門「「…」」

………
……


矢矧「…あの…古鷹さん」

古鷹「ん?どうした?矢矧ちゃん」

矢矧「えっと…なんで…提督の坊主頭に驚かないんですか?」


執務室に居た全員で食堂へ向かう廊下の道中。

前方では時雨に引っ張られる提督とそれに付いていく加賀の後ろを、長門、古鷹、矢矧が少しゆっくりのペースで歩いている時、矢矧が感じた古鷹と時雨の反応の違和感を尋ねた。


古鷹「あぁ、あれね、提督の散髪が失敗した時の状態なんだよ」

矢矧「…え?…散髪の失敗?」

古鷹「そう、矢矧ちゃんも長門さんも来る前の話だから知らなくて当然なんだけど、泊地の駆け出しの頃…いや、今でもそうなんだけど、提督の髪の毛を整えてたのって鳳翔さんなの」

矢矧「ええ…それは知ってますけれど…」

古鷹「最初の時に鳳翔さんが提督の伸びた髪に苦言を言ったら、切ってくれって言われて鳳翔さんが切ったら失敗しちゃって、帳消しにするのに提督が、自分で丸坊主にしちゃった事が何回かあったんだ」

長門「…それは初耳だな…しかし…」

古鷹「…多分ですけど、加賀さんが間をもたせるのに髪を切ることを進言したんだと思います。そうでないと、提督はまず自分で髪を切りませんし」

長門「…道理で2人共あまり驚かないのも合点がいく」

古鷹「ふふっ♪それにしてもさっきの提督のセリフって、初めて丸坊主になった時と同じセリフ♪懐かしいなぁ…」

矢矧「…”帝国軍人っぽいだろ?”ってセリフですか?」

古鷹「あはっ♪そうそう。ああやって加賀さんを庇って何も言わなかったのも、駆け出しの頃とちっとも変わってない。あぁ、やっぱりあの人はあの人のままで居てくれてるんだなぁって思って安心しちゃった」

矢矧「そ、そうですか…」

長門「…全くあの人は…」

矢矧「(私は着任が長門さんより少し後だったからなぁ…知らないのも無理もない…けど…何だか…悔しい…?寂しい…?…なんだろう…このモヤモヤする感じは…)」

長門「仕えた頃から髪型を変えない人だと思っていたが…着任が少し後の私と矢矧は知る由もないな…また提督の事が1つ知れて嬉しい。古鷹、ありがとう」

古鷹「いえいえ!…ふふ、ちょっとした思い出話みたいなものですから…提督って優しくてズルいですよね♪」

長門「ふっ、全くだ」

矢矧「(そう…あの人は…本当にズルい人…)」


時雨に手を引っ張られている提督を3人は眺めながら、食堂へと向かった。

………
……


時雨「さ、提督」

加賀「中にお入りください」


加賀と時雨が両開きの食堂のドアの左右に付いてドアノブに、手を掛けた。


提督「…あー…」

一同「「「「「?」」」」」

提督「いや、それじゃあ…」


ガチャ…

スパパパーンッ!!


クラッカーの炸裂音が提督を出迎える。


艦娘達「「「提督、お誕生日おめでとうございま〜すっ!!」」」

提督「…あー…いやぁ…まいったなぁ」


何となく扉を潜ればそうなると思っていたのか、提督は頭に手を回して後頭部を掻いた。

…もちろんすべて刈り取られ、変わり果てた提督の毛髪を前に、艦娘達は全く異なった反応を見せた。

金剛「oh!テートクが久々にボーズ頭デースっ?!」

隼鷹「ぶっひゃっひゃっひゃっwww提督何その頭wwwひっさしぶりじゃーんっwww」

鳳翔「………///」
↑両手で顔隠し

サラトガ「what happened(何が起こったの)?!」

能代「えぇぇぇえええっ?!」

由良「…あぁー…(苦笑)」

阿武隈「ふぇぇっ?!何で提督が坊主頭にっ?!」

鬼怒「ンプププッ…www提督それなんかのバツゲーム〜www?」


…うん。

反応を見る限り、苦笑3割、驚愕7割ってとこか…おもしれーなコレ。


提督「頭はこんなんにしちゃったけど、何も問題無いからね〜。中身は俺のまんまだからそのつもりで〜」

長門「…提督、壇上に上がって挨拶を頼めないか?」

提督「ん?ああ、そうだな…」


提督は長門に頼まれて特設の壇上に上がる。


提督「…あー…皆、この度はこのような席を用意してくれて、ありがとう…お陰様でまた一つオッサンになりました(笑)」

艦娘達「「「ワハハハハッ!」」」

提督「こんな大勢に祝ってもらえるなんて事はあまり経験がないから、正直戸惑ってるけれど、それ以上にとても嬉しく思っている…みんな、本当にありがとう!」


パチパチパチパチ!


嫁艦だけでなく、任意とされていた未婚艦の娘達の全てが、この場に集まって来ていた。

提督には彼女らの顔ぶれを見渡して、内心安心していた。


提督「…それじゃあ、一部待ちきれなさそうなのがいるのでぇ〜…カンパーイっ!」

艦娘達「「「「「カンパーイっ♪」」」」」


提督が音頭と共に手元のグラスを突上げ、宴が始まった。

………
……


榛名「…ふふ、ひとまずは成功…でしょうか?」

金剛「そうですネー、2年前の時よりテートク良い顔してるネー♪」

比叡「…しかしこうやって改めて見渡すと、仲間が増えたねぇ…」

霧島「海防艦から駆逐艦・軽巡・重巡・空母・戦艦に特務艦…総勢300名以上ですからねぇ」


足早にお祝いの挨拶を済ませた金剛姉妹が、提督の席から少し離れたところで、あたりを見渡していた。

そして、今はアメリカ艦勢からのお祝いの挨拶を個々からの受け答えをしている提督に姉妹の視線が集まった。


榛名「…?」


…その中、榛名は別の方角から、何やら複雑な表情で提督を見ている艦娘がいることに気が付いた。

…矢矧だ。

…少し気になる。

榛名は他の姉妹に断りを入れてから矢矧の元に歩みを進めた。

………
……


矢矧「…」


…なんでだろう。

提督は挨拶をしてくる艦娘達に、にこやかに1人1人丁寧に言葉と表情で応対しているのを見ていても、とても良い関係を築けているのは、わかっているのに…。

…物足りない。

…もっとしてあげられる事があったんじゃないか?

…2年前の”あの騒動”は実際見ていたけれど、今こうして自分が嫁艦の立場でこの場に立ってみると、その当時からの嫁艦達の考えていることが、何となくそうなってしまった気持ちが、わかる気がする。

…でも彼は”それ”を望んでない。

…いつでも彼は私達に考える時間をくれる。

静かに…でもちゃんと見守っていてくれる。

…まるで…。


矢矧「…父親みたい…」

榛名「…矢矧?」

矢矧「…あ、榛名さん…どうしました?」

榛名「…隣…いいですか?」

矢矧「ええ、どうぞ」


榛名は矢矧に断りを入れてから隣の席に静かに腰を下ろした。


榛名「…どうしたの?提督のことを見てたみたいだけれど…」

矢矧「あぁ…いえ…何も…」

榛名「…”これで良かったのかなぁ” とか ”なんだか物足りないなぁ”…って思ってます?」

矢矧「…えっ…」


矢矧は榛名の指摘にドキリと胸が跳ね上がった。


榛名「…あ、気に触ったのならごめんなさい…でも…なんだか楽しくなさそうな顔で、提督のことを見ていたので…」

矢矧「…あはは…敵いませんね…榛名さんには…」

榛名「…訳を聞いてもいいですか?」


あの時の顔を見られていたのかと、矢矧は苦笑しながら、榛名に少しづつ内心を打ち明け始めた。


矢矧「…私は嫁艦になってあまり間もないですけど、提督の好きな事嫌いな事、年中私達と一緒にいてくれていて、全部分かっているつもりでした」

榛名「…はい…」

矢矧「…今日の丸坊主の事でもそうでした…私の着任の時期から考えても、どうしようもない事もわかってるのに、あの場にいた古鷹さんや時雨に対して嫉妬してしまいました」

榛名「…」

矢矧「…その時思ったんです…”あぁ、もっと提督のことを知りたいんだ”って」

榛名「…ええ…」

矢矧「…私達に沢山尽くしてくれる提督に何かしてあげられないのかなって…でも提督は望んでくれない…その立ち位置ってまるで…」

榛名「…父親と娘の関係みたい…?」

矢矧「…はい…」

榛名「…そうですね…私も同じ事を考えてますよ」

矢矧「…そう…なんですか?」

榛名「そうですよ…この泊地では誰よりも長く嫁艦をしていると…尚更…ね?」


榛名はそう言うと、少し寂しそうな顔をしながら提督のいる方向を眺めた。


矢矧「…すみません…出過ぎた発言でした…」

榛名「…あっ!矢矧がちゃんと思っていることを話してくれたから、別に変な意味じゃないんですよ?…ただ…その気持ちは凄くわかるなぁって…」

矢矧「…ありがとうございます…話を聞いて貰えただけで、何だか少し気持ちの整理が付きそうです」

榛名「いえいえ…でもね、これだけは覚えておいてね?」

矢矧「…?」

榛名「提督を幸せにしたいのなら、皆で共有して幸せにすること」

矢矧「…はい」

榛名「片時も離れずに提督を独り占めするのは、今はきっと出来ない。もしそうしたらきっとみんなの関係もギクシャクする。迂闊に事を起こせない提督の立場を、慮ってあげてほしいの…これが、私からの心からのお願いです…」

矢矧「…はいっ」


迷いが晴れたのか、矢矧の受け答えはいつものようなキレを取り戻していた。


榛名「…お祝いの席なのに、こんな話しちゃってごめんなさい」

矢矧「い、いえっ!気遣ってもらって、ありがとうございました!」

榛名「ふふふ…やっぱり貴方はそうでなくっちゃ♪」

矢矧「…えっ?」

榛名「自信に満ち満ちていて…私には無い魅力があって羨ましいって思っちゃう」

矢矧「や…やめてください…///」

榛名「ふふ、さ、矢矧、そんな事を考えていたくらいだから、まだ提督にお祝いの言葉を贈ってないでしょう?一緒にいきましょう」

矢矧「あ、ああっ!は、榛名さんっ!ひ、引っ張らないでくださいっ…」

榛名に手を引っ張られた矢矧は、慌てふためきながら榛名と一緒に提督のいる元に向かっていった。

………
……


提督「…楽しい時間はあっという間だよなぁ…」

加賀「…そうね…でも楽しんで貰えたのなら、皆も喜ぶわ」


時間もいい頃合いになり、ひとまず執務室に戻る事にした提督と加賀。

今は誕生日会の余韻に浸りながら、執務室へ向かう廊下だ。


加賀「…今日くらいはもっと甘えてくれても良いのだけれど…」

提督「いやぁ…あんなに祝って貰って片付けも皆任せをさせて貰ってるだけでも、俺にとっては甘えさせて貰ってるのと同義だからねぇ…」

加賀「……そう…」


…あれ?加賀がちょっと不機嫌…?

微妙に受け答えの間合いが空いたので、提督はその違和感に気が付いた。


提督「…どうしたの?」

加賀「…正直に言うわ…提督は私達に甘え足りないわ」

提督「…そう言われてもなぁ…」   


提督は、そう言うと頭をガシガシと手で掻く。


加賀「もっとこう…直接的な欲求はないのですか?」

提督「…直接的?」


その漠然とした加賀の問いかけに対して、提督は首を傾げた。


加賀「た…例えば…例えばですよ?何か欲しい…物欲とか、せ、性的な欲求とか…そういうものです」

提督「…うーん…」

加賀「…(…ストレート過ぎたわ…)」


だが後悔先立たず。

加賀は目線を頭の上に向けながら考える提督の答えを黙って待っていた。


提督「物欲は…みんなの新しくて強い装備が欲しいなぁ」

加賀「…それは貴方自身のものではないでしょう」

提督「…今の生活では事足りてるからなぁ…私物で欲しいって物が特にはないんだよねぇ…」

加賀「…じゃあ性欲は?」

提督「…性欲かぁ…」

加賀「…艦娘相手では…捗りませんか?」

提督「…やけにグイグイ来るね…可愛い娘が沢山いるから良いなって思う時は…男だからね」

加賀「…そう」

提督「…少なくとも今は、そういう対象にはしない…いや、したくないかな…」

加賀「…したくない理由を聞いても?」

提督「…俺自身が好きな子が多過ぎる事、そしてその娘達も憎からず想ってくれている事…」

加賀「…」

提督「仮にもし今のウチの状態で急に1人贔屓をしたらこの泊地の娘達の関係にヒビを入れる事になる…俺が皆の心に中途半端に深入りし過ぎてるから…」

加賀「…はい」

提督「ホントは最初から1人選んでたら、こうもならなかったんだと思う…でも皆の事を知れば知る程、贔屓に出来なくなってた…みんなを大事にしたいから…」

加賀「…」

提督「…ごめん…優柔不断で…」

加賀「…いえ、そこまで考えていたのならいいの…こちらこそごめんなさいね…」

提督「…うん…」

加賀「…」


…き…。

…気不味い…。

…わかっていたことだけれど…。

…でも伝えておかないと気が済まない事がある。


加賀「…ただ…これだけは覚えていて頂戴」

提督「…なんだろ?」

加賀「…”娘”と”父親”の関係では…もう満足出来ていない艦娘は多い事よ」

提督「…うん」

加賀「…私から言うことはそれだけよ…」

提督「ありがと…ちゃんともっと考えるよ…」

加賀「…」


その話の後は、提督も加賀も特に喋ることもなく執務室に戻り、明日に備えてスケジュール確認をしてから執務室を後にした。

執務室前で加賀とは別れたので、何となくぼんやり廊下を歩きながら考えていた。

外は雪が深々と降っている。

この調子ならそれなりに積もるだろうが、実家にいた頃に比べたら、こんなの降っているうちに入らないレベルの積雪量だ。


提督「…」


ぼんやりと街灯に照らされた舞い落ちる雪を見ながら考えたが、結局結論の行き着く場所は同じだった。


提督「…俺の…覚悟で決まる…んだよな…?」

???「…提督?」


誰かが薄暗くなった廊下の見えるか見えないかの距離で、話しかけてきた。

提督は考え事に耽っていたこともあって、割と近くまで近付かれないと気付かなかった。

…誰だろうか?

艦娘の夜目の良さには遠く及ばないので、誰に話しかけられたか、わからない。


提督「…誰だい?」

榛名「あ…榛名です…」


歩み寄ってきたその黒いシルエットは、オレンジ色の街灯に照らし出されて、装束と輪郭が鮮明に映る。


提督「…榛名…どうしたの?」

榛名「榛名は執務室に少し顔を出そうかと思ったんですが、もう閉まっていたので、何となく歩いていたんです…提督はどうして外を眺めていたんですか?」

提督「ん?…あぁ…雪それなりに積もってきたなぁってさ」

榛名「あ、そうですね…提督のご実家は滋賀でしたよね…積雪はどうだったんですか?」

提督「ん〜…普段は積もってないけど降る時はしっかり降って積もってたかなぁ…滋賀でもちょい南の方だったし」

榛名「そうでしたか…」

提督「…榛名、今日はありがとう」

榛名「…え?」 

提督「あそこまで盛大に祝ってもらったのは、人生で初めてだから…ちょっと今でも夢見心地なんだよ」

榛名「い、いえ…私だけではありません…泊地の皆の想いです…」


…何でだろう?

何だか榛名に腹の底を探られているような気がした。

…ちょっと居心地悪いな。

やたら目をジッと見てくるし…。


提督「…隠し事はしてないよ?」

榛名「…ふぇっ?!」


…やっぱりか…。

…あんまり榛名は隠し事に向いてないなぁ…。

提督の指摘に驚いた榛名は半歩後退り、構えの姿勢になる。


提督「…何か言いたいことがあったら言ってね…何かを考えてるのが分かっても、何を考えてるかまではわからないから…」

榛名「…う…うぅ…」


榛名は提督に思考で先制される事を考えてなかったのか、たじろいでわなないている。


榛名「な…なんで…わかってしまうんですか?」

提督「…いや、長い付き合いだし…割と榛名はわかり易いし…」

榛名「そ、そんなぁ…む〜〜…」


わかり易いと言われたのが余程悔しかったのか、分が悪くなった榛名は姿勢を正してから、顔を提督から逸した。


榛名「…提督は…ズルいです」

提督「…そう言われても、みんなを観るのが俺の仕事であり、日常だからなぁ…」

榛名「…榛名を…」ポツリ

提督「…?」

榛名「…最初から榛名だけを見てくれていたら…こんなに苦しくないのに…」ボソッ

提督「…え?」

榛名「…あっ…!」


榛名は咄嗟に口を両手で塞ぐ仕草を見せるが、時既に遅し。

心から漏れ出て放たれた言葉は、提督に届いてしまった。


榛名「す、すす、すみません!今のは無しですぅ〜っ!!」


ぴゅ〜〜〜〜〜…


そんな効果音が聞こえそうな勢いで、榛名は一目散に逃げ帰っていった。


提督「…やっぱり、そうなんやな…」

………
……


加賀『…”娘”と”父親”の関係では…もう満足出来ていない艦娘は多い事よ』

………
……


…その上、榛名は初めて指輪を渡した相手だ。

一入の想いを持っていて当然だろう。

…そのままにしておいて、適当な理由つけて誤魔化して不誠実なのは…やっぱり俺なんだな…。


提督「…考えよう…考えてシンプルな結論を…俺と皆の最良を…」


そして先程、榛名が走り去った方角を向いて呟いた。


提督「…ちょっと待っててな?」


保留にしていた思いを胸に、提督は自室に向かって歩き出した。

……………
…………
………
……


皆様、お疲れ様でした!

構想を練っているうちに冬イベント終わっちゃって春になっちゃいました!(爆)w

なので、立て続けに続編のアップをします!(^^)
※…後出しジャンケン最高だぜwww

お暇な時にでも読んでいただけたら幸いです。

次回もお楽しみに!(_ _)
Posted at 2022/04/15 22:50:37 | コメント(0) | トラックバック(0)
2022年03月05日 イイね!

イベント:GP7 舞鶴赤レンガパーク カレーオフ!


「イベント:GP7 舞鶴赤レンガパーク カレーオフ!」についての記事

※この記事はGP7 舞鶴赤レンガパーク カレーオフ! について書いています。

明日の開催となります舞鶴赤レンガパーク カレーオフ。

集まる予定場所は赤レンガパークの駐車場の端の○で囲ったこの辺りを想定しております。

参加の方はこちらにお越しくださいませ!


…何度も言いますが、まん延防止措置の施行中の開催です。

くれぐれも、ソーシャルディスタンス・消毒・咳エチケットを守り、楽しい集まりにしましょう!

…あと基本的な社交の場であることもお忘れなく!(^^)



…当人は既に舞鶴入りしてまーす!(笑)

Posted at 2022/03/05 21:22:00 | コメント(0) | トラックバック(0)
2022年03月04日 イイね!

イベント:GP7 舞鶴赤レンガパーク カレーオフ!


「イベント:GP7 舞鶴赤レンガパーク カレーオフ!」についての記事

※この記事はGP7 舞鶴赤レンガパーク カレーオフ! について書いています。

いよいよ、開催直前となりました!

予定通り決行します!

天気も可でも不可でもなくいい塩梅!
※多分w

何度も言いますが、参加の方はマスク・咳エチケット・ソシャディ・消毒は忘れなく!

開催10:00〜閉幕15:00時を予定しております!

事前に参加を希望された方も「やっぱ行ける!」のドタ参の方も会場までの道中は、気をつけてお越しくださいませ!(_ _)
Posted at 2022/03/04 22:26:40 | コメント(2) | トラックバック(0)

プロフィール

「~近況報告~
皆様大変ご無沙汰しております。

某ゲームにかこつけて(笑)すっかりX(旧Twitter)の民となってましたが、生存確認も兼ねて屋根家の車達に変化があったのでご報告です。

キャリ夫の乗り換え以外は据え置き運用です。」
何シテル?   04/13 11:16
皆様こんにちは、屋根野郎と申します。 ☆洗車、好きです♪(笑) ※軽トラでも洗っちゃうくらいw 汚して洗う…そしてまた汚して洗うが幸せのルーティーン…素晴ら...
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