
皆さん、おはこんばんちは!
Σ∠(`・ω・´)
そして、同業の皆様、本日もお疲れ様です!
尚、過去作は下記のURLで開いていただければ、このみんカラ内のブログとして掲載されている物が閲覧できますので、もし宜しければどうぞ〜(_ _)
プロローグ ♯1 午前編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44104145/
♯梅雨の日編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44223073/
♯夏の黄昏編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44271814/
♯夏休暇 初夜編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44785551/
♯夏休暇 1日目♯1
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44889139/
♯夏休暇 1日目♯2
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45141124/
♯夏休暇 2日目
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45185889/
♯夏休暇 3日目
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45796679/
♯冬編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45826901/
♯提督の誕生日編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/46027975/
♯提督の覚悟編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/46028128/
毎度ながらの超長文となりますが、気長にお付き合いくださいませ…。
今回のお話は
2022年冬〜初春に開催されたイベント
”発令!「捷三号作戦警戒」”
が終わり、怪我で入院した提督がその日に泊地に舞い戻り、暫くしてからのお話となります。
前回同様、グレー・連想させる表現を用いますので、ダメな方は読まないでね(笑)
基本この泊地の艦娘は、提督好き好き設定でヨロシクです!
尚、この作品は 艦隊これくしょん - 艦これ - の二次創作であります。
キャラクターの人物像も公式を参考にして、著者が独自解釈したものです。
これらを踏まえた上で、お読みになってくださいませ…。
〜今回のメイン登場人物一覧〜
☆提督
人間 男 20代後半 海上自衛隊出身
任官直前の適性テストの末 艦娘を指揮する提督に着任。(妖精判断なので、基準は不明)
機械弄りと工作が密かな趣味。
多少の事なら自分で治してしまう。
隠れオタク。たまにその片鱗の顔を覗かせる。
多趣味。
守備範囲の広さに驚かれる事もしばしばだが、本人曰く
「何事も興味からの実行の結果。本物から見ればただの器用貧乏」
と苦笑する。
ごく偶にキレると制止してくる艦娘すら引き摺る火事場の馬鹿力持ち。
初の嫁艦は榛名。
☆金剛型 戦艦 3番艦 榛名(改二)
艦娘 嫁艦(練度151) 帰郷に同行
出会って0.1秒で提督の好みにぶっ刺さった健気な強者。
※ちなみに練度も泊地最強。
普段は遠慮しまくりだが、実はそれが姉妹であっても、目の前で提督と仲良くされるのは面白くない、独占欲は強めな娘。
※だが反応が可愛いのがわかっているので、周りも程々で止めてくれる。
もう隠すことなく料理の修行を積んでいる(鳳翔談)
先の一件で、提督に対しての感情を隠すのを辞めた(2人きりの時限定)
誰にも手が付けられない程の溺愛具合。
☆阿賀野型 軽巡洋艦 矢矧(改二乙)
艦娘 嫁艦(練度141) 帰郷に同行
能代同様改二に改装後、覚醒した重巡級スペック軽巡洋艦。
※色んな意味で。
…実はさり気なく提督の好みにぶっ刺さってた娘。
普段は礼儀正しくも強者感漂う風格を滲ませるが、いざ戦闘から離れると、意外とおっちょこちょいな1面を見せる。
※最新鋭の姉成分は絶賛継承。
今現在、提督が釣り好きなのを知っている泊地内唯一の艦娘である。
提督の事を想っており、先の一件以降素直になり、公私がはっきりして、周囲からは優しくなったとよく言われる。
※ただし訓練時は鬼の二水戦仕込の厳しさ。
☆金剛型 戦艦 2番艦 比叡(改二)
艦娘 嫁艦(練度121) 帰郷に同行
初めて提督の元に着任した金剛型故に、付き合いも長い。
高速戦艦の手返し良さと高火力で他の姉妹同様に、各海域で活躍してくれる頼れる金剛型の元気っ娘枠。
本当は金剛型四姉妹の中で1番料理が得意な娘。
※だって御召艦だもの。
メシマズに傾倒したのは、応用の下手さ故。
相当提督に矯正された模様。
提督の事は金剛と同じ位、大好き。
提督も異性と認めているが、比叡からのアプローチが自然の和み系なので、実は提督の中ではオアシス的な存在。
☆特Ⅰ型(吹雪型)駆逐艦 1番艦 吹雪(改二)
艦娘 嫁艦(練度107) 帰郷に同行
提督の良き理解者の1人。
多くの駆逐艦だけに留まらず、持ち前の前向きな姿勢で、引っ張る精神的な土台となる娘。
駆逐艦勢で初めての指輪を贈られた。
真面目、常識人。
何かと提督の事を気に掛ける為、よく小ごとを引き受けたり、秘書艦代理をする割となんでも屋のような立ち位置だが、基本遠征や小型艦編成限定海域で旗艦かその補佐に回る。
最近夢中になってる事は、古鷹に分けてもらったメダカでメダカの飼育と繁殖。
提督の事は尊敬・敬愛の対象。
☆大和型 戦艦 2番艦 武蔵(改二)
艦娘 嫁艦(練度111) 今週の秘書艦
下縁角メガネ・褐色肌・銀髪・イケメン武人・高身長・ナイスバディ、1つの個体に属性てんこ盛りの最強戦艦の1人。
以前、執務中は筆書き派だったが「達筆過ぎるのも考えもの」と大和に言われて、妥協で万年筆を使っている。
※尚、ボールペンは書き心地が性に合わないらしい。
基本攻め達磨なので、その圧倒的な存在感で相手を組み伏せるが、優位だと思っていた相手に逆に攻められると、守りに慣れていない分すぐにボロが出てしまう。
提督の事は爆撃事件以前は弟のように思っていたが、先の一件で提督が覚悟を決めた時から異性として見るようになった。
その他の人物も登場しますが、大筋の登場キャラはこちらになります。
それでは始まります。
「艦隊これくしょん-艦これ- 〜佐伯泊地の日々〜 提督の帰郷編」
……………
…………
………
……
…
2022.4.12 佐伯泊地
爆撃被害からちょうど1ヶ月程経った佐伯泊地。
窓ガラスが片っ端から割れた建屋と、爆撃で開いた大穴はキレイに直され、あの時の風景とは見違えるようになっていた。
提督の怪我の治癒も順調で、本調子ではないものの、執務も少しづつこなすようになってきた。
…その中でも変化があった。
………
……
…
佐伯泊地 局地戦闘機練習飛行隊飛行場
提督「…」ジー
…さて、我、絶賛、暇ナリ。
執務室を有志の嫁艦達に追い出された(仕事を横取りされてさせてもらえない)提督は、怪我で動けなかったリハビリがてらに、泊地内を散策していた。
武蔵「…これより、高高度爆撃機に対する訓練を開始する、妖精の各員、後がないと死ぬ気でやってもらいたい!…総員!配置につけ!」
局地戦闘機付妖精パイロット
「「「「「応ッ!!!」」」」」
…提督が基地内に作った局地戦闘機用の滑走路の有効利用として、当分の間、ここを局地戦訓練飛行隊基地としての運用が決まったのだ。
今回の不意打ちに対して、大本営は重く受け止め、局地戦闘機付妖精パイロット達の育成を先行して進め、他の泊地に飛行隊を配備するべきだと言うことで、佐伯泊地の”自前飛行場”が取り上げられたのだ。
…が、提督曰く…。
提督『…え?基地設営隊が1個余ってたから、遊ばしてるくらいならって思って、基地内に作っただけなんですが…』
…とか
提督『…後ろには身近に応援してくれている佐伯市の皆さんも居ます…自分は泊地を護ると同時に佐伯市の皆さんを守る義務がありますので…』
…と言ったそうだが、それは後者の理由以外はオフレコードとなっているのは、完全な余談である。
………
……
…
武蔵「私が放った対空砲火が止んだ隙に、目標を撃破せよ!撃墜判定までの時間は早ければ早いほど良い!…撃墜までの時間が遅かった者は覚悟しておけ!…ん?」
提督「…お、バレた」
武蔵に見付かったので、手を上げた。
…すると武蔵は目線の高さまで右手を上げて会釈してくれた。
…まったく会釈1つとっても、いちいちイケメンな艦娘である。
…武蔵が対空砲火役を買って出てくれて助かるな…。
いつもの頭部艤装に変わってヘッドホンマイクを装着している。
…前の防空戦で屠龍との連携が取れなくて苛ついていたのもあるのかもな。
身の入れようが違う。
役を買ってくれた時に、武蔵に聞いたことがある。
提督『餅は餅屋、対空の得意な娘に任せてもいいんじゃないかい?』
武蔵『…確かに摩耶や秋月達程の防空の才能も技量も、今の私にはない。…だが手を拱いて居られる程我慢もできんタチでな。私には人の身体を得た故に、自らの力で練度を高められるし、貴様が整えてくれた環境もある。…やらない手はないだろう?』
…声を掛けたいところだが本人がやる気満々な上に、他所の飛行隊も訓練も来てるから、しゃしゃり出るのも気が引けるな…。
他も見て回るか…。
提督「…」スタスタ
武蔵「…ふふ…いらぬ気を遣いおって…また後で…な?」
………
……
…
佐伯泊地 A海岸 航空母艦艦載機離着艦訓練水域
加賀「秋月と照月は敵の攻撃に見立てて、五航戦の2人の発艦の妨害を…五航戦は妨害を受けながら、あのゲートにめがけて艦載機を射なさい…いいわね?」
秋月・照月「「了解!」」
翔鶴・瑞鶴「「了解!」」
加賀「制限時間は30秒…始め!」
秋月「撃ち方始めっ!」
ダンダンダンダンッ!
秋月型2人の長10cm連装高角砲から、早い連射レートで、訓練弾が放たれる。
翔鶴と瑞鶴は、水面を滑走しながらジグザクに躱す。
翔鶴「…フッ!!」ザザッ!
瑞鶴「派手にやってくれるじゃないっ!」キリキリ…
照月「させません!」
ダンダンダンッ!
ヒュン!ヒュン!ビスッ!
瑞鶴「いったっ!」
翔鶴「っ!瑞鶴!秋月ちゃんにも気を付け…きゃっ!」
ビスビスッ!
瑞鶴「いったぁーっ?!」
………
……
…
ピピーッ!
加賀「…30秒よ」
瑞鶴「ゼェゼェ…ちょっと!邪魔するだけじゃないじゃんっ!秋月達めっちゃ当ててくるんですけど!」
加賀「貴方はいつも装甲に甘えて回避が甘い…現に翔鶴は被弾してないじゃない…それに敵だって当てに来るのだから、撃つ側の秋月達も当てに来て当たり前よ」
瑞鶴「…うぎぎぎぎぃ〜!」
提督「…」ジー
…ま、普通の空母はダメージが中破相当になると、甲板が潰れて、攻撃出来なくなるしな。
運用上、基本回避が前提だから、加賀の方針が正論。
装甲至上主義による思考の雑化は命取りだ。
瑞鶴「〜っ!や、やりゃいいんでしょ!やりゃっ!」
加賀「…という訳だから、秋月、照月、容赦なく当てに行きなさい」
秋月・照月「「り、了解しました!」」
提督「…」ジー
…瑞鶴のヤツ…アザだらけにならなきゃいいけど…。
…秋月砲こと長10cm連装高角砲の改修☆MAXはめっちゃ当たるからな…。
正規空母時代の慎重さを思い出すのには、少し時間がかかりそうだな。
瑞鶴「痛ったぁーっ?!」
翔鶴「瑞鶴落ち着いっ!いたっ!」
加賀「…はぁ……あ」
提督「…おお、また見付かっちった」
今度は加賀に見付かったので、手を挙げる。
加賀はちゃんとこちらに身体を向けて、お辞儀をしてきた。
………
……
…
瑞鶴「…よしっ!今回は時間内にゲート通過!」
加賀「…被弾したからやり直し」
瑞鶴「えぇーっ?!」
加賀「そんな1、2回で終わるとは言ってないわ…応用と反復練習よ」
瑞鶴「…っ!…やってやるわよっ!」
翔鶴「瑞鶴、もっと連携を意識しましょう!」
提督「…」
2人共…頑張れよ。
提督「…」スタスタ
加賀「…(声を掛けてくれても良かったのに…)」ジー
瑞鶴「ほらっ!早く笛鳴らしてよ!」
………
……
…
佐伯泊地 B海岸 戦艦・重巡・軽巡・駆逐 射撃演習水域
提督「…」
…ドォォォォォン………
岸壁から結構距離は離れているが、砲声はここまで轟いている。
今は戦艦勢の射撃訓練中のようだ。
………
……
…
榛名「…右舷敵艦見ゆ!反行戦!合戦用意!」
比叡「こっちも視認!目標6!単縦陣で敵旗艦速力25ノット!」
長門『それでは10本目…これで最後だ。最大戦速でパイロンの7個目までに砲撃せよ!回避運動と同時照準訓練開始!』
訓練には戦艦達がペアになって、海上で待機しており、榛名と比叡の訓練の様子を見ていた。
その一団から少し離れた海上に長門が、大きめのタブレット端末を左手に持って、指示やリザルト報告をする審判役をしていた。
…もちろんこんな弾薬を湯水の如く使う訓練を毎日やってるわけではないが、保管期間の切れそうな弾薬の消化も兼ねているので、定期的にやっている。
…そんな事を考えていたら、榛名と比叡がパイロン群に突入していく。
榛名「…っ!」
ランダム配置のパイロン群「プカプカ…」
ザバッ!ザザッ!ザバッ!
比叡「敵艦より砲撃!回避しつつ最大戦速を維持!照準を続けます!」
ザババッ!ザバッ!ザバッ!
最大戦速で突き進む榛名と比叡の進路上に配置された等身大サイズのパイロンを、アルペンスキーのように躱しながら、照準を合わせていく。
…もちろんその躱すパイロンも定点じゃなく、微妙に動いているが、榛名も比叡も身体を目一杯倒して切り替えしてを繰り返し、接触ギリギリを交わしていく。
…7つ目のパイロンまであと3つ…。
榛名「…もう少し…!」ギラッ
比叡「…捉えた…!」ギラッ
…7つ目のパイロンまであと2つ…。
榛名「…主砲斉射よーいっ!」ガコン…
比叡「…っ!榛名、前っ!」
動くパイロン「スゥ~…」
榛名「…っ!」
ザバンッ!
…そのまま進めばパイロンと衝突コースだった榛名は、次の瞬間水面を蹴って飛んで、パイロンを飛び越えた。
比叡「ナイス榛名!」
…7つ目のパイロンまであと1つ…。
榛名・比叡「「…全門…斉射!!」」
ダダァァァァァンッ!!
榛名はそのまま空中で、比叡は榛名が飛んで躱したパイロンを高機動で躱しながら全門斉射。
榛名「…くっ!」ブンッ!
榛名は撃った反動で身体ごとふっ飛ばされる。
榛名「…ふっ!」シュパパッ!
…が、体操選手の床競技のように姿勢をコントロールして、手足を張り出して身体を側転やバク転を駆使して水面を跳ねながら、反動を相殺して体制を整えてから着水。
そのまま最大戦速を出しながら目一杯身体を倒して舵を切って規定のコースに榛名は戻って行く。
比叡「…弾着まで10秒…」
ザバッ!ザザッ!ザバッ!
着弾までひたすらパイロンを交わし続ける2人。
…パイロン群から抜けた…が、最大戦速は維持している。
榛名「…弾着まで5秒…4…3…2…1…」
榛名・比叡「「…弾着、今!」」
ドッパァァァァァァァン………ッ!
放たれた砲弾は、吸い込めれるように単縦陣で進む敵艦隊を模した的の周囲に大きな水柱を作り、その水しぶきは的の姿をかき消した。
………
……
…
長門「…目標6に対して、命中3!」
比叡「はぁぁぁ〜っ!このコース厳しーっ!」ハァ…ハァ…
榛名「はぁ…はぁ…ふぅ…」
長門『…命中率は通し10回の全体で65%だ』
榛名「…70は行きたいですね」
比叡「だねぇ〜…まだまだ修正がいるなぁ…」
長門『2人共お疲れ様、小休止にしてくれ…映像と詳細は後でそちらの端末に送るので、確認しておいてくれ…では次、サウスダコタとワシントンだ…配置に付いてくれ』
サウスダコタ「…ヒュー…普通あんなに当たんねぇって…コンゴークラスの命中率は皆イカれてやがるな…足引っ張んなよマイティー」
ワシントン「…誰に口を聞いているのかしら?貴方こそ足を引っ張らないでよね、ダコタ」
長門『…準備はいいな?これより10本連続で同様の訓練を行う!…状況開始!』
提督「…」ジー
…まさかここまで無茶苦茶な訓練に化けていたとは…。
…元々、俺が普通の砲撃訓練より、もうちょっと実戦寄りにしてみたらどうかとか、口を挟んだらいつの間にやらこうなり、あれが足りないこれが足りないで今の形になった。
…これだけ派手に動いてあれだけ当てられるって、相当すごいんじゃ…。
榛名「…あっ…提督!」ビシッ!
比叡「お疲れ様です!司令!」ビシッ!
提督「今日はよく見付かるなぁ…お疲れ様」ビシッ!
小休止に入っていた榛名と比叡が、いつの間にやら提督が立っている岸壁まで戻ってきていた。
比叡「…司令、こんなところで何やってるんですか?執務はどうされたんです?」
提督「…執務室を追い出される基地司令官ってどう思うよ…?」
比叡「あ、あはは…」
榛名「提督はすぐに無茶をなさるので、皆さんと話し合った結果です…当分は大人しく榛名達にお任せください」ペコリ
提督「…という訳で、もうちょいゆっくりさせて貰うよ…」
…まあ、それが約束だったしな…。
提督「…しかし、2人共、あんな高機動で動きながらよく当てられるなぁ…」
榛名「あぅ…お恥ずかしいです…全弾命中には程遠いので…」
…うむ、少し褒めてあげるといつもの調子。
謙遜して照れるのは榛名のデフォルトである。
…シレッと言ってることはすごいけど。
提督「…いや、普通に考えても全弾命中て無理だろ…」
比叡「でもこんなメチャクチャな設定の訓練のお陰で、実戦でも活きてますから、強ち間違った訓練じゃないですよ〜」
提督「…現場の君達が効果を実感しているなら良いんだけど…」
比叡「…?…あっ!この訓練に口出ししたのって司令だったんですかぁ?!」
提督「確かに最初は俺だけど、こんな変態仕様になってるなんて知らなかったよ…」
榛名「ふふ…変態…そういうことですね」
提督「…この頭おかしい難易度にした犯人は明石か夕張じゃね?」
比叡「…あぁー…(察し)」
…何故かそこに居る3人共が、同一人物の顔が頭に浮かんで、同じ方角の空にドヤ顔でサムズアップする、明石と夕張が見えたような気がした。
…取り敢えず2人して農家さんの『私が作りました』みたいな顔すんのヤメロ…。
………
……
…
同時刻 佐伯泊地 工廠
明石・夕張「「…ふぇっくしゅーんっっ!」」
………
……
…
佐伯泊地 C海岸 水雷戦隊訓練水域
提督「…」ジー
…ここは水雷戦隊専用の区画…主に僚艦との連携や陣形を確認や、もちろん射撃や雷撃も実施する。
主砲の射程もそこまで長くないので、他の区画よりは狭いが、軽巡や駆逐艦の機動性を確認するためには、十分過ぎる区画を設けていた。
矢矧「…そこっ!動きがまだ甘いっ!もっと反応を早めてっ!」
浜風「…っ!了解っ!」ザッ!
冬月「…くっ!…うわっ!」グラッ
矢矧「…違うっ!やり直しっ!」
磯風「はぁ…はぁ…まだ足りない…」
吹雪「は、はひぃ〜…」
神通「…矢矧」
矢矧「…!はいっ!何でしょうか?」
神通「…手本を見せてあげて」ニコッ
矢矧「…承知しました」スゥ…
浜風・磯風・吹雪・冬月「「「「ひ、ひぇ…」」」」
提督「…ふむ」
…あの一件以来、矢矧の容態も安定している。
今日も切磋琢磨を怠らず指導と自らの鍛錬も怠ってたない。
周りの仲間のお陰だな…この様子なら大丈夫だろう。
………
……
…
矢矧「…全員小休止!20分後また再開します!」
神通「…矢矧、小休止の間に1つ手合わせをお願いできる?」
矢矧「承りました…全力でいきます」
神通「…いい心構えよ…勝負は時間一杯でいい?」
矢矧「もちろんです」
神通「…楽しみましょう?」スゥ…
矢矧「…望むところです」スゥ…
提督「…!」ゾクッ
…凄いな…あの2人の放つ空気感。
まるで剣客の果たし合いを見ているようだ。
開始早々から動きも、走るわ飛ぶわ跳ねるわ体術と砲撃に雷撃を織り交ぜるわで、もはや動きが人間業ではない。
先程の戦艦の高機動とは、また違った変則的な動きだ。
お互いの放った訓練弾が、周囲に水柱を次々と作る。
神通・矢矧「「…ふふ…ふふふ…」」ニィ…
提督「…」ブルッ
…しかも手合わせ中、何か物騒な感じに顔がニヤけていて、怖い…。
…こりゃたぶん時間内に勝負つかんぞ…。
真剣勝負の邪魔しちゃ悪いし、退散するか…。
ダァンッ!!
神通「くっ!」ヒュッ!(至近距離 砲弾スレスレ回避)
矢矧「……あっ!」(撃った砲弾が神通の避けた先にいる提督めがけ一直線)
…ヒュゥゥゥゥ…
…ビスゥッ!!
提督「ア”イ”タァ”ーーーーーッ!!」
ア”ーッ!ァ”ーッ!…ァ”ーッ!…ッ!…!
神通・矢矧「「っ?!」」ビクッ!!
浜風・磯風・吹雪・冬月「「「「…っ!!」」」」ビクッ!
踵を返して立ち去ろうとした途端、提督のおしりの右寄りに、矢矧の放った訓練弾が吸い込まれるように命中した。
そして、提督は右手で被弾した右お尻を押さえ、左手を空にかざして、背中を仰け反らせ”撃たれましたポーズ”を取って両膝を地面に付いた。
………
……
…
ご…
ゴム弾…地味に…いてぇ…
…バタリ…
気が遠くなりそうな痛みを感じながら提督は、そのまま堤防に倒れ込むのであった。
提督「お”、お”ぉ”…お”か”ぁ”〜さ”ぁ”〜ん”…」ジンジン…
…何となしに痛みにビク付きながら、出た第一声が何故かそれな提督であった。
倒れる寸前に右お尻をチラ見したが、血は出てなさそうなので、せいぜい腫れてるくらいだろう…。
…あぁ…もう…絶対後で矢矧が気にするやつじゃん…。
…去年の盆休みの時と言い、俺と矢矧って相性悪いのかなぁ…。
………
……
…
神通・矢矧「「申し訳ありませんでしたっ!」」
提督「…こちらこそ、勝負の腰折っちゃってごめん」
提督が倒れ込んで10数秒後、バタバタと陸に上がってきた教官2人と駆逐艦達が駆け寄ってきたが、到達前に提督はスクっと立ち上がってみせた。
「いやー痛かったわー」と軽い感じで受け答えをして矢矧が気にしないようにするが、中々引き下がらない。
…しっかし距離あってかなり威力が減衰してて助かったぁ…。
…地味にまだひりひりする…。
訓練用のゴム弾とはいえ、砲は実戦で使う艤装だしな…。
矢矧「…ほ、本当にごめんなさいぃ…」
提督「穴開いてないからオッケーオッケー、蜂に刺されたようなもんだ」
矢矧「…うぅ…」
…やっぱりまだ「納得いかない」みたいな顔してるな…。
ホントに気にしなくていいんだけど…。
提督「…ていっ」
…ビスッ!
矢矧「あいたっ!」
…取り敢えずデコピン入れとくことにした。
提督「はい、これでおあいこ。…それでは引き続き訓練の方を宜しくお願いします」
矢矧「…は、はい」
神通「…ありがとうございます!」
浜風・磯風・吹雪・冬月
「「「「ありがとうございますっ!」」」」
矢矧「…」(おでこさすり)
神通「(流れ弾とはいえ、当ててしまった事がショックだったのね…フォローしてあげないと…)」
………
……
…
1250時 佐伯泊地 司令部棟 執務室
武蔵「はっはっはっ!それ災難だったなぁ!相棒よ!」
提督「…災難っちゃ災難だけど、皆あれを受けてるんだなって実感もあったし、あれはあれで経験としては良かったのかも…」
昼食後、執務室に戻っていた提督と今週の秘書艦を務めている武蔵に、午前中の出来事は運が悪かったと笑われてしまったところてある。
武蔵「まぁ、あの2人なら勝敗は紙一重だろう…相棒は蜂に刺されたようなものだ。…おお
そういえば提督よ…先程、便箋が届いたぞ、確認してくれ、佐世保からだ」
提督「…ん、来たか」
武蔵「…?何か打診していたのか?」
提督「…いや、色々決めたことが最近あったし、両親に報告がてら身辺整理も兼ねて、久し振りに里帰りの出来そうな期間はどこかを中将閣下に打診してたんだ」
武蔵「…なに?泊地を留守にするのか?」
提督「ん〜、そうなるね」
武蔵「…私は昨日から秘書艦なんだが…?」
提督「留守にする日から一週間分ずらす方向で調整してるよ」
武蔵「…つまり私は同行する者ではないということか…」
提督「…ごめん、もう里帰りを考えた時点で、誰を連れて行くかは決めてたんだ」
武蔵「…そうか、相棒がちゃんと考えていたのならいいさ…ここでゴネては大和型の沽券に関わるからな…ただし…」
提督「…?」
武蔵は提督に対して、両手で提督の両頬を包み込んで、キスでもするのかという距離まで顔を近付けた。
武蔵「…貴様が帰ってきた週…埋め合わせをしっかりしてもらうぞ…当然…相棒は私を可愛がってくれるんだろう?」
提督「…もちろん」
武蔵「…いい面構えだ…もっとも、私が貴様を可愛がってやるがな…くくく…」
提督「…武蔵…」
主導権を握るのは私だと言わんばかりの接し方をしてきた武蔵に対して、提督は武蔵の両頬を両手で包んだ。
武蔵「…む…?」
提督「埋め合わせ以上に武蔵を満足させてあげられるように頑張るよ」
武蔵「…んなっ!///」
…榛名や矢矧から噂は聞いていたが…。
相棒のこの目は…この私を持ってしても…抗えん…!
分が悪いと判断した武蔵は素早く提督から離れて顔を逸らした。
武蔵「…き、貴様も言うようになったな…期待しておくぞ…///」メガネクイッ
提督「…うん…期待してて。…で、本題に戻るけど、早速里帰りに連れて行く娘を招集を頼みたいんだけど、いいかな?」
武蔵「…あぁ、お安い御用だ…連れて行くのは誰だ?」
提督「同行するのはー…」
……………
…………
………
……
…
2022.4.22 am0900
JR博多駅
提督「里帰りは4年…いや、5年振りか…皆、これから新幹線に乗るけど、大丈夫?」
私服姿の提督が同行する艦娘達に声を掛ける。
…もちろん全員マスク装備だ。
榛名「はいっ!準備は万全です!」
比叡「久し振りの外出がまさかの〇〇さんの実家だなんて…」
矢矧「こっちも大丈夫よ」
吹雪「私も大丈夫です!トリプルチェック済みです!」
提督「…よし、じゃあ行くか」
プァーーーーン…
………
……
…
『次はー、岡山ー、岡山ー…』
車内の乗車率は思っていた以上に低かった。
なので指定席を取るのは安易だった。
3列席を前後2列確保して、皆で向い合せになって座った。
提督は進行方向向きの窓際で、1つ席を飛ばして榛名が通路側に座り、提督の反対側の正面に矢矧で中央席に吹雪、通路側に比叡といった感じだ。
…ちなみに外出時は提督も本名を予め同行する艦娘達に教えて、艦娘達にも偽名を使ってもらう。
…そして出来るだけ名前を出して喋らないようにした。
…このご時世ということもあって、皆、静かに席に座って、見慣れない新幹線の車内をまじまじと見たり、時速280km程で運行する新幹線の窓からの風景を見ていた。
しかし、彼女達は内心浮足立っていた。
…誰にも聞かれることのない直進波形での無線交信だ。
比叡『うっわ〜…すっごい早いなぁ〜これでえこのみー席?って安い席なんだよね?黙っててもそこまで行っちゃうなんて、快適すぎるぅ〜』
吹雪『うっわぁ…278km/h?!海の上では信じられない速度ですよね!景色の流れ方が違います!』
榛名『…矢矧どうしたの?』
矢矧『…あ、いや…』
榛名『…何か心配事?』
矢矧『…ねぇ皆…』
比叡『ん?なに?矢矧』
吹雪『何でしょうか?矢矧さん』
矢矧『…何で…提督…元気無いのかな…?』
提督「…」
彼女達の目線の先には、ぼんやりと右手で頬杖を付きながら、窓を見つめる提督の姿があったが。
その表情からは何を考えているか、彼女達には想像できない。
榛名「…」
…ちょんちょん
提督「…?」
榛名「…」トントン
榛名は提督の右肩を突っつくと顔を見合わせながら、右手で右耳を軽く叩く。
提督「(…直進波形無線か…)」
榛名からのそのサインを見た提督は、上着のポケットから小箱に入った、インカムを取り出し、それを右耳に装着した。
提督『…聞こえる?』
比叡『聞こえます!』
榛名『…提督どうしたんですか?考え事ですか?』
吹雪『…司令官、遠慮しないで私達に話してください!』
矢矧『…もし何か心配事があるのなら言っておいて欲しい…』
提督『…いやね、両親にみんなをどう紹介するのが一番いい形か考えてたんだ』
提督『…間違いなくどう言ってもオヤジは開口一番に”お前は石油王か!”みたいなことを言うだろうし、お袋はお袋で根掘り葉掘り皆のことを聞いてくるだろう…あ、そうそう、両親の前では偽名は使わなくていい…俺の方から他言無用で釘を刺しておくから』
吹雪『わかりました!』
比叡『…提督の御両親ってどんな方ですか?』
提督『”この親あってこの子あり”…すぐに打ち解けることができるよ』
榛名『…上手くお話できるといいですけれど…』
矢矧『…』
…わからない。
榛名さんは、泊地で一番に指輪を贈られた艦娘。
比叡さんは、帰る故郷に因んで選ばれた艦娘。
吹雪は提督に仕えた初めての艦娘。
…じゃあ私は?
なんで私は今回の同行のメンバーに選ばれたんだろう?
…わからない。
………
……
…
明石『提督的には矢矧さんは、性格容姿共にどストライクですよ!』ドヤァ
………
……
…
矢矧「っ!///」
…あの時の明石さんの発言が頭を過ぎった。
…あれから提督の好みについての本人からの確認はしてない。
…恥ずかしいから聞ける訳もないけど…。
榛名『…矢矧?』
比叡『ん〜?顔赤いぞ〜?どうしたの矢矧〜?』
吹雪『…まさか具合が悪いとかですかっ?!』
矢矧『だ、大丈夫!大丈夫だから落ち着いて、吹雪』
比叡『…さてはエッチな事でも考えてたとか?』
矢矧「んぐっ!ゲホッ!ゲホッ!」
比叡『…あ、そうだったんだ…』
矢矧『ひ、比叡さんっ?!』
吹雪「…(矢矧さん…少し雰囲気が変わったなぁ…凄く優しくなったと思う…お仕事時は神通さん譲りの鬼具合だけど…)」
提督「(…賑やかだな)」
プツ…
何となくこの乙女トークチックなやつは聞いちゃいけない気がして、提督は無線のモードを直通に切り替えて、拾う電波を最小限にした。
榛名『…?』
グループ無線に居た榛名は提督の反応が、繋がってないと思った。
プツ…
榛名『…提督?』
榛名は、気になって提督との直接交信に切り替えた。
提督『…ん?』
榛名『あ、あの…ご迷惑でしたか?騒がしくしてしまって』
提督『…あ、悪い…なんか俺はあんまり聞いちゃいけない気がして、そっと抜けてただけだよ』
榛名『そ、それはいいんです…ただ…少しお元気がないような気がして…心配しているんです』
榛名『…私達では…頼りになりませんか?』
提督『…頼りにさせてもらってると思うけど…違うの?』
榛名『その提督の言う”頼り”は艦娘としての頼りです。…榛名が言っているのは、嫁艦として…恋人や妻のような間柄の頼りです』
提督『…』
榛名『提督が榛名達にそうしてくれたように…榛名も…皆も貴方に寄り添いたいんです…駄目なんですか?』
提督『…ありがとう…本当にぼんやりしてるだけなんだ…気に掛けてくれてありがとう』
榛名『…はい』
…何でだろう?
…提督は地元に帰郷する目的は、御両親への報告と、身辺整理と言っていた。
…また彼は、自分の何かを捨てようとしているような気がしてならなかった。
…胸がざわつく。
…そんな事をもうさせたくない。
…これ以上、提督に自分を捨てて欲しくない。
…私はありのままの提督…いや…〇〇さんを受け入れたい。
…なのになんで…。
…心を開ききってくれないんですか?
………
……
…
またぼんやりと窓の外を見つめる提督に対して、その提督の姿を見つめる榛名は、複雑な心境だった。
………
……
…
同日 1200時 京都駅 七条口
比叡「ん〜っ!着いたぁ〜!」
吹雪「ここが…京都…」
提督「変わんねぇなぁ…ま、4・5年じゃ早々変わりようもないか」
矢矧「これからどうするの?丁度お昼時間だけど…」
提督「地元に帰ったら行きたい店があるからそこで食べようと思ってる。やってるといいけどな…それまでは皆、これで空きっ腹をなだめておいて」
つ 志津屋 ペッパーカルネ
比叡「わっ!〇〇さんいつの間にそんな物を…」
提督「こっちに来たら、これを食べておきたかったんだ……もう来ていると思うけど…」
榛名「???」
チカチカッ!
一行が駅前でペッパーカルネを食べている最中、提督は少し離れて何かを探していたら、1台の車がハイビームでウインクしてきた。
提督「…あぁ…居た居た…皆、ちょっと付いてきて」
比叡「むぐっ!いひまふー!」
吹雪「〇〇さん、今行きまーす!」
榛名「あっ、〇〇さんちょっと待って下さい〜」
矢矧「…あれ?」
…提督…やけに足取りが軽いな。
………
……
…
???「おう、〇〇。時間通りやな…元気そうで何よりやわ」
提督「おやっさん、お世話になってます。コイツの面倒見てもらって、ありがとうございます」
おやっさん「いーっていーって、維持走行を兼ねて定期的に乗っておいたし、消耗品も定期的に換えといたで」
提督「何から何まですみません」
おやっさん「…なぁ〇〇」
提督「?なんっスカ?」
おやっさん「…コイツ、ホンマに手放すんか?」
提督「…えぇ、勤め先が車持ちには適さない職場で…この際って思って」
おやっさん「…そっかぁ…お前さんがいいならいいけどよ…」
一行「…???」
提督と少し年配のつなぎを着た男性が、喋っているのを少し離れた距離で見ていた同行組一行。
少し騒がしい屋外ということもあって、会話は聞き取れなかった。
…が、1人だけ断片的に聞き取れていた娘が居た。
………
……
…
比叡「…手放す…?」
………
……
…
おやっさん「…おい、〇〇」
提督「…なんすか?」
おやっさん「…なんなんだよ、オメーな連れてきたこの美人集団…」
提督「何って…俺の職場の部下」
…まあ強ち間違ってないからオッケオッケ(笑)
嫁艦's「「「「お世話になっております」」」」ペコリ
おやっさん「…お、おぉ、こりゃまたご丁寧に…」ペコリ
提督「おやっさん、それじゃあぼちぼち行くわ…さ、皆後ろに荷物載っけてくれ。コイツで実家まで行くから」
比叡「了解です、ほい…ほいっと…」
吹雪「これもお願いします〜」
矢矧「…こうすれば…載ったわ」
榛名「助手席は誰が座りますか?」
ピタッ…
積み込み作業をしていた娘達が止まった。
比叡「…公平にジャンケン!」
吹雪「その勝負乗りましたぁ!」
矢矧「どうせやるなら…キッチリ決めないとね」
榛名「…勝手はっ!許しませんっ!」
じゃーんけーんぽんっ!
あーいこーでしょっ!
あーいこーでしょっ!
………
……
…
おやっさん「…おらぁあんまり深く考えないようしてるんだがな…」
提督「…」
おやっさん「…この娘等、ぜってぇただの部下じゃねぇだろ?」ジトー
提督「…部下っす」シレッ
………
……
…
キューキュキュキュ!ブォォォン…
…うん、久しぶりだな…。
エンジンも調子いいな。
休日の度にコイツに乗ってた頃の感覚が、蘇ってくる。
提督「…」
吹雪「隣、失礼します!…司令官?」
ジャンケンで勝った吹雪が、助手席に乗り込んできたところ、提督の表情を見て不思議がっていた。
吹雪「…凄く嬉しそうにされてるような…?」
提督「…ん?…あぁ…実際嬉しいな…前の仕事クビになる直前から、自衛官を目指してた頃の約5年の間、コイツに乗ってたからね…旧友との再会みたいなもんかな…」
吹雪「へぇ…そうだったんですね…」
提督「…あぁ…ほんと懐かしい…」シミジミ
吹雪「…?」
…その表情はとても穏やかで…大切な物を見つめるような表情だった。
…しかし吹雪には同時にそれは寂しそうな表情にも見えた。
………
……
…
1240時 提督の実家前
提督「さ、着いたよ〜」
峠道を走り、その合間に突如現れる住宅地に入って少々走った先で、車を止めた提督の一言で、一行はぞろぞろと車を降りた。
榛名「…ここが提督の…」
比叡「ほわー…立派な日本家屋…」
矢矧「…何だか雰囲気だけで落ち着く家ね…」
吹雪「…何だか空気が澄んで静かな良い場所ですよね…」
バタン…
提督「おーい、比叡」
比叡「…あ、はい!なんですか?」
提督「…あっち見てみ」
比叡「…?」
比叡は車から降りてきた提督に声をかけられて、提督が指差す方向に視線を移した。
…ちなみにここでは人家はまばらなので、名前は気にしないでいいとの提督のお達しだ。
比叡「…!…こんな近くに…!」
提督「…な?ど近所だろ?」
一行の振り向いたその先にそびえ立つのは、比叡山。
比叡の由来となった山が鎮座していた。
比叡「…ここで司令は育ったんですね…」
提督「あぁ、マイペースにのんびりとな…この休み中にみんなで、延暦寺にお参りに行こう」
比叡「…!ホントですかっ?!」
提督「あぁ、その為に連れてきたんだから」
比叡「楽しみです!」
榛名「ふふ…良かったですね…比叡お姉様」
矢矧「…ふふ…」
吹雪「…思ってた以上に高い山なんですね…」
提督「…さ、昼も遅いしサクッと声掛けしてから、昼飯食べに行こう。ウチの両親への詳しい話はそれからだ」
一行「「「「はいっ」」」」
ピーンポーン…
???『…はい?どちらさん?』
提督「…おう、〇〇や…帰ってきたわ〜」
???『っ!ちょ…!ちょっと待っとって!』
ドタドタバタバタッ!
ガシャン!オイ!ナニヤットンネン!ソウゾウシイ!
矢矧「…随分賑やかなのね…」
榛名「…まさか提督…里帰りすると知らせてなかったんですか?」
提督「…いや、言ってあったんだけど…」
…ガラガラッ!
提督母「…!!…〇〇っ!」
提督「…お袋、ただいま」
提督母「…アンタッ!今日とは聞いてたけど、昼とは聞いてへん…で…?」
嫁艦's「「「「は、初めまして…」」」」ペコリ
提督母「??????(゚ω゚)??????」(宇宙猫)
提督の顔を見て、噛みつこうとする提督の母の視線は後ろに控えている嫁艦達に向いた。
…大変困惑してらっしゃる模様である。
提督「…頭がこんがらがってるところ悪いんだけど、まだ昼食べてないねん…まだ△△んとこの喫茶店やってるかな?」
提督母「…」(嫁艦'sを凝視)
提督「…もーしもーし?」
提督母「…はっ?!な、なんや?!」
提督「…いや、△△んとこの喫茶店ってまだ営業してはるんか?」
提督母「あ、あぁあっ!してるよ…それよりアンタその娘達は…」
提督「…そりゃよかった…ありがとう…詳しい話は昼食べて帰ってきてから、ちゃんと話すわ…親父にもそう伝えといてくれへんか?」
提督母「…わかった…」(頭抱え)
…ま、無理ないわな…。
学生・社会人・自衛隊教育隊時代と女のおの字もなかったからな…。
いきなり複数人数の女の子連れて帰ったら、何事かってなるわな。
………
……
…
そう言って提督と嫁艦一行は近所の喫茶店へ向かって歩き出した。
矢矧「…もしかして提督…ご両親に私達を連れてくることを言ってないの?」ジトー
提督「…言ったんだけど…女の子連れてくって…『あーはいはい』みたいに軽く流されてたみたい…」
…電話越しでめっちゃテキトーな受け答えだったしな…。
ま、自業自得だしオッケオッケ(笑)
一行は車がほぼ通らない対面一車線の道路を、歩いて5分程の場所に小綺麗な店が佇んでいた。
???「…あっ!〇〇やんっ?!」
提督「…おっ?…おおぉっ!△△〜久しぶりやね〜元気にしとったん?」
△△「おー、元気にしとったで〜、ちょっと子供連れて帰ってきててな…ってうぉ…」
営業中の喫茶店に入ろうとした一行に対して、提督と同年代の男性が提督に声を掛けてきて、随分親しそうに喋っている。
その男性は、店の前の隅で自立させたバイクに小さな子供を跨がせて遊ばせていたが、提督の後ろに控えている嫁艦一行に視線が移ると、ぎょっとした表情を見せた。
嫁艦's「「「「…?(誰だろう?)」」」」
△△「…ところで〇〇さんや、お前さんはいつのまに石油王にでもなったんか?」
提督「…いやそういうんちゃうて…みんな悪い…先に入って好きな物頼んで食べといて。久々に同級生と会えたし、ちょっと話がしたい」
榛名「は、はい」
比叡「わかりました」
矢矧「…あまり遅くならないでね?」
吹雪「…」ペコリ
そう言うと嫁艦一行は喫茶店の中に入っていった。
△△「…あの美人集団何なん?顔面偏差値ヤバ過ぎやろ…」
提督「…それは否定できん…それより子供産まれてたんやな…今更やけどおめでとう」
△△「おう…てか〇〇って今何してるん?自衛官やんな?めっちゃ久し振りに会うし、どこ行ったんか心配しとってんで?」
提督「あー、悪い。仕事に忙殺されて全くそっちに気がいっとらんかったわ…4年前から異動で、大分に居る」
△△「大分ぁ?!…そら見かけへん訳や…」
提督「まあなぁ…それより△△は△△で、こんなちっこい子に今からバイクの英才教育かいな w」
△△「おう、たまにこっち帰ってきて、エンジン掛けるついでにちょっとなw」
提督「そっかぁ…お〜はじめまして〜w」(裏声)
△△の子供「…あ〜♪」ニコニコ
提督「…めっちゃご機嫌やんw」
△△「…せやろ?w」
そんな同級生同士の他愛のない会話を、影から見ている娘がいた。
榛名「…いいなぁ…」
………
……
…
榛名「…提督は…子供はお好きですか?」
提督「…ん?どうしたの?藪から棒に」
昼食後の実家への帰り道の道中、榛名が提督に問いかけた。
榛名「…先程のご友人の子供をあやされている時に、よく懐かれていたようにお見受けしたので」
提督「ん〜…どうだろ?嫌いではないけど、特別ベッタリも行ってないんだ…でも何か相手から気に入ってもらえることが多いんだよな」
榛名「左様ですか…何だか微笑ましかったです」
提督「…てか、裏声であやしてるところ見られてたのか…恥ずい…」
榛名「…ふふふ…また1つ提督のことが知れて嬉しいです」
矢矧「…(…提督の裏声…)」
比叡「…(…どんな声なんだろ?…)」
吹雪「…(…聞いてみたい…)」
提督「…あ〜こんにちは〜♪」(裏声)
矢矧・比叡・吹雪「「「…ンブフッ!www」」」
不意に裏声かましたら、ツボに入ったらしい。
提督「…なんだかなぁ」
………
……
…
実家に戻ると、提督の両親が待ち構えていた。
そして、そのまま家に上がり、居間の長テーブルの長い面に嫁艦達が、その反対側に提督の両親、そして提督本人は双方の顔が見える狭い面に腰掛けた。
………
……
…
提督父「…で、お前、石油王か何かなんか?」
提督「いや、断じて違う」
嫁艦's
「「「「…(提督が言ってた通りの下りだ…)」」」」
………
……
…
提督「…で、これからこの娘達に自己紹介して貰うんだけど、こっから先は俺の仕事の規律に関わるから、他言無用でよろしく頼む…」
提督父「…お、おう…」
提督母「…わかったわ」
提督「…それじゃあ皆挨拶して…まず榛名から」
榛名「はい!お初にお目にかかります、お父様、お母様。私は、金剛型 戦艦 3番艦 榛名と申します」ペコリ
比叡「お父様、お母様、はじめまして!私は榛名と同じく金剛型 戦艦の2番艦 比叡と申します!」ペコリ
矢矧「お初にお目にかかります。私は、阿賀野型 軽巡洋艦 その3番艦の矢矧と申します。提督には…いえ、〇〇さんには大変良くしていただいております」ペコリ
吹雪「…は、はじめまして!お父様、お母様!わ、私は特Ⅰ型 駆逐艦の1番艦 吹雪です!」カチコチ
両親「「…え?」」
戦艦だの軽巡だの駆逐艦だのと、その容姿からは不釣り合いな単語で、提督の両親は困惑する。
提督父「…なりきり?」
提督「至って大真面目です」シレッ
…ま、ちゃんと補足しておいたほうがいいな。
提督「…この娘達は紹介通り皆”艦娘”…先の大戦の魂を引き継いで戦ってる…彼女達の奮戦のお陰で今の制海権を維持できているんだ」
提督父「…噂には聞いとったけど…この娘達が…」
提督母「…はぁ〜…」(唖然)
提督「…一応言っておくけど、彼女達にも人と同じように感情があるから、心無い言葉を浴びせるなら、俺に浴びせてくれ」
提督父「…!…お前…」
提督「悪い、俺の仕事は彼女達が心置きなく闘って勝って全員生きて還って来てもらう為に、指揮するのが俺の仕事なんだ…」
提督父「…お前…随分遠いとこに行っちまったなぁ…」
提督「…まぁ昔の俺には想像できない経験を、毎日体感して過ごしてるよ…」
提督母「…ところで、なんで今日はこの娘達を里帰りに連れてきたん?…アンタのこっちゃ、考えなしに連れてこーへんやろ」
提督「…流石お袋やな…よく俺んことご存知で…じゃあ、1人1人言うわ…」
そう言うと提督は立ち上がり、嫁艦達の座っている後ろに回った
まずは吹雪の後ろに回る。
そして吹雪の後ろから両肩に両手をそっと置いた。
提督「…吹雪は俺に初めて仕えてくれた娘で…遠征を支えてくれる縁の下の力持ちで…黎明期に…一番しんどい時に寄り添ってくれた娘」
吹雪「…司令官」
吹雪の肩をキュッと握る。
続いては右隣の比叡の両肩に両手を置いた提督。
提督「…で、この比叡はいつも明るくて一生懸命で…側にいるのが自然な娘…まるで俺がここで生まれ育っていくのを見守ってくれた比叡山みたいに感じて…心安らぐ娘だ」
比叡「…司令///」
更にその右隣に座る榛名の両肩にも両手を添える。
提督「…榛名は…強く優しく…でも儚くて、ひと目見て目が離せなかった…ま、そんな心配も杞憂で、いつの間にか強い娘になって、今やウチの泊地で一番練度の高い娘…」
榛名「…ていとく///」
そして一気に左端に座る矢矧の後ろについて、同様に両肩に両手を添えた。
提督「…最後にこの娘…矢矧は…強いのに脆い…そんなところが放っとけなかったんだけど…今ではウチの軽巡で誰よりも練度が高い…そして今回の帰省でこの面々を連れてこようと思ったきっかけになった娘だ」
矢矧「…提督」
提督「…ちょっと皆、肩を寄せて貰っていい?そうそう…よいしょ」
提督はそう言うと端の左右に座る榛名と矢矧を両手を広げて2人の外側の肩に手を掛けて、真ん中に座る比叡と吹雪を座っているに位置に寄せる。
…4人をギュッとまとめて抱きしめるような格好だ。
提督「…ここに居る娘と…今回は連れてこれなかった、泊地に居る娘達も…俺の大事な…大切な娘達だよ」ギュゥ…
嫁艦's「「「「…///」」」」
提督父「…お、おい、ちょい待て…艦娘って何人居るんだ…?」
提督「…ウチの泊地は戦艦、空母、重巡、軽巡、駆逐、海防、特殊入れての全艦種で352人…その中でも上位練度の娘は47人…その内の4人がこの娘達」
提督母「…上位練度者っちゅうのは何なん?」
提督「ある特定の練度に達すると、そこが1つの能力の上限になるんだけど、それを開放してそれ以上の練度と能力を上乗せ出来るようにするシステムがあるんだ…それを付与しているのがその上位練度者の47人のこと」
提督母「…なるほど…」
嫁艦's「「「「…」」」」
…中々上手い説明だ。
必要最低限の情報で分かりやすい説明。
提督は指輪の事は両親に伏せて話した。
…嫁艦達が、そう思った矢先だった。
提督「…で、上限を開放する方法が、本営より指定された指輪を彼女達に贈与することなんだ」
嫁艦's「「「「っ?!」」」」
…提督は話した。
指輪の事を。
榛名「て、提督っ?!」
比叡「他言無用って言ってたんじゃ?!」
矢矧「…」ハラハラ…
吹雪「…」ビクビク…
提督両親「「…指輪?」」
提督「…うん”ケッコンカッコカリ”っていうシステムなんだけど、彼女達にその指輪を贈ると、先程の能力上限解放だけじゃなくて、深い絆で結ばれる…というものだ」
提督両親「「…」」
提督「…もちろん、こんな事を遊びでやってる訳じゃない…皆命懸けで闘ってる…俺だってそんな彼女達に答えられるように、作戦・装備・兵站・精神面…あらゆる事で彼女達をできる限りサポートしている」
提督父「…なんでお前がそこまでの事を…っ!」
提督「…」スッ…
提督両親「「っ?!」」ゾワッ
…提督は先の泊地の爆撃の際に負った怪我を見せた。
…まだ痣や切創の縫合痕が残っていた。
提督「…この前、北九州で空襲騒ぎがあったろ?その時、敵爆撃機の別動隊がウチの基地を通過して応戦したんだけど…少し撃ち漏らしてな…ちょっと怪我した」
提督両親「「…」」
提督「…俺の不注意で多くの人に迷惑も掛けたし、彼女達にも要らない心配もさせたし泣かせた…だから俺はわがまま言って、一旦離れた基地にその日に戻った…1つも失いたくない大切な物が壊れてしまう気がしたから…」
提督「…だから俺は…ケジメを2人に伝える為にここに帰ってきた」
提督両親「「……」」
提督「…俺は…彼女達と共に生きていきたい」
提督両親「「………」」
提督「…最後まで自分勝手な息子で申し訳ありません…」ペコリ
提督両親「「…………」」
嫁艦's「「「「…」」」」
提督は両親に向かって、両手を付いて頭を下げた。
…居間はシンと静まり返った。
嫁艦達は提督が覚悟と決意を公言してくれた事に対して嬉しい反面、別の複雑な心境が渦巻いた。
…彼女達にはその提督の言葉は両親との今生の別れのように聞こえた。
………
……
…
…長い長い沈黙の後。
提督の両親が口を開く。
提督父「…ったく…お前はとんだ親不孝もんだ…この大馬鹿野郎…その娘達を大事ににしねぇと承知しねぇぞ」グスッ…
提督母「…アンタがそこまで考えて決めたことなら…止めんよ…やっと…見付けたんやね…向き合ってくれる人等が…」グスッ
提督「…!…ありがとう…ありがとう…」ポロポロ
嫁艦's「「「「…」」」」
提督の両親は提督の覚悟を受け入れた。
…ここは流石の嫁艦達も、割って入ることができなかった。
血縁者故の深い意思疎通。
彼自身を見守り続けた人達の気持ち。
その短い言葉に全てが詰まっていた。
提督母「…で、泣いてるところ悪いねんけど…」
提督「…?」
提督母「…買い物行ってきて…」
…が、その雰囲気は、瞬時に掻き消された。
提督「…え”?」
提督母「こんなに人数増えるって知らんかったし、食材ないわ…数日分買ってきて」
提督「えー、ちょー…せっかくの雰囲気台無しやん…」
提督母「…さっさと行け♪」(真顔)
提督「…ア、ハイ」
榛名「あ、私達の中から誰かお手伝いを…」
提督母「あ、榛名ちゃん、比叡ちゃん、矢矧ちゃん、吹雪ちゃんは残りなさい」
嫁艦's「「「「…っ!」」」」
提督「…悪いな皆、ちょっと行ってくるわ」
嫁艦's「「「「…い、行ってらっしゃい(ませ)…」」」」
………
……
…
ガラガラ…カシャン
………
……
…
提督「…ありがとう…親父…お袋…」
………
……
…
ガチャ…バタンッ
提督「…さぁ…これが本当の意味のラストドライブやな…今まで放ったらかしでごめんな…」
キューキュキュキュ!ブォォォン…
………
……
…
提督が車で出ていったのを確認してから、提督の両親が嫁艦達を見る。
嫁艦's「「「「…」」」」
…心細い。
…気不味い。
これなら敵艦隊と対峙している時の方がよっぽどマシ。
提督が居ないとここまで空気が重く感じられるのか…。
…頼れる艤装も作戦もない…私達にとって、ここは完全にアウェーだ。
そんな事を思いながら提督の両親の口が開くのを、固唾を飲んで待つ嫁艦達…。
提督父「…さて…アイツの最後かもしれんワガママを聞き届けれたし、思い残すこともない…自衛官の職に付いた時点で諸々の覚悟もできてる…」
提督母「…後は貴方達の覚悟を見させてもらおかね…?」
榛名「…は、はいっ…」ビクッ
提督母「…あー、別に取って食う訳ちゃうから、構えんでええんよ?ただ…」
提督父「…共に生きる…と言うなら、アイツの事をちゃんと知っておいて欲しい…っつう親心や…堪忍な?お嬢ちゃん達」
比叡「…はいっ…」
提督母「…それに多分あの子、5時位まで帰ってこーへんよ?」
矢矧「…えっ?」
提督父「…せやな…あっちの方が今生の別れかもな…」
吹雪「…そ、それってどういう事ですか?」
提督父「…あの車は、アイツの人生の半身が詰まってるようなもんだ…」
吹雪・比叡「「…あっ…」」
………
……
…
比叡『…手放す?』
………
……
…
提督『…旧友との再会みたいなもんかな…』
………
……
…
京都駅から実家に向かう前、比叡は提督と年配の男性とのやり取りの断片を、吹雪は助手席に乗り込んだ時のやり取りが、ふと2人の頭をよぎった。
そんな比叡と吹雪を他所に提督の両親はゆっくり提督の過去を語りだした。
提督母「…あの子は物事に嵌まり込むと、一直線な子でね…幼少期から中高生辺りまで平たく言えば個性の塊だったの」
提督父「…だが強すぎる個性のお陰で、敵を作らない変わりにあまり友人も近寄らなかった…だからいっつも遊ぶ時は1人が大半でな…」
提督母「…まあ、そんなこともあって、あの子の遊びって言うと釣りばかりだった…毎週毎週バイトに釣りに明けても暮れても…そんで高校卒業の時にあの子は、釣りの世界で生きようとして決めて…釣具メーカーに勤めるか…それこそプロになるか…その世界に関わって生きたいって言ってた…」
矢矧「…」
………
……
…
提督『…学生時代は趣味に明け暮れる日々だったなぁ…』
………
……
…
そんな事を言っていた去年の盆休み彼の事を矢矧だけ思い浮かべていた。
提督父「…まあアイツの目指した舞台は、その世界としてはある程度、認められてるが、世間の目としては認められない世界でね…普通に就職して働きながら大会に出て、二十歳そこそこの頃までは頑張って続けていい成績を残してたんだが…」
提督母「…深海棲艦の出現で、それまで勤めてた会社をリストラされることが決まって…これ以上迷惑はかけられないって言って、それまで貯金して買って維持していた物を釣具以外すべて処分して…暫くはをバイトして生活費の足しにしながら、就職先を探してた…」
提督父「…で、その時処分した金で入れ替わるようにあいつの元にやってきたのが、あの車って訳だ」
提督母「…さっき貴方達がお昼を食べに行った喫茶店あったでしょ?…あそこの息子さんの△△君とは小学以来の同級生でね…中学高校も方角が一緒だったから、仲が良かったし、釣り以外の趣味で気がよく合ってたの…車とかバイクとか…エンジン物は昔からあの子も大好きだった」
提督父「…その影響で暇見つけては走ってたなぁ…アイツ…たまに△△とつるんで走ったりしてな…ははは…」
提督母「…そんな時かなぁ…あの子は舞鶴によく行くようになったのは…」
提督父「…そうだったなぁ…俺の趣味の影響で軍事物も好きだったからな…アイツにとっての舞鶴の距離感は丁度いい旅路だっつってたな」
榛名「…あの…お父様のご趣味は…?〇〇さんからは読書と伺ってましたが…」
提督父「おぅ、俺の趣味は読書と模型や…WWⅡ戦闘機専門やけどね…っと…あんまりお嬢さん達には気持ちのええ話しちゃうかもな…すまんね…」
榛名「…い、いえっ!…その気持ちは忘れてはいませんが、割り切れておりますので、お気になさらず…」
提督母「…あんまりこの人の模型の話を聞いたらアカンよ?すぐに熱弁しだすから…」
提督父「んぁっ?!なんやとーっ?!」
嫁艦's「「「「…クスクス…」」」」
…あぁ…やっぱり…。
やっぱりこの人達は、提督のの両親なんだ…。
話の言い回しや口調がよく似てる…。
嫁艦達は、不思議な安堵感を覚えた。
彼の面影を感じられたから…。
…ダメだ。
益々私達…。
提督父「…んんっ…話が逸れちまったな…で、舞鶴に行きだして暫くした頃に、帰ってきて
突然アイツは言ったんだ…”海自に自衛官として入る”ってな…まぁ〜最初は反対しまくったんだけどなぁ…アイツこうと決めたら頑固だからな…」
比叡「…あの…少しいいですか?」
提督父「…ん?なんだい?比叡ちゃん」
比叡「…その…〇〇さんは学歴の関係で海自を選んだとか、街で自衛隊の求人ポスターを見たとか仰ってませんでしたか?」
提督父「…はっはぁ〜ん…」ニヤリ
提督母「…照れ隠しやね」ニヤリ
比叡「え、えぇ?!」
提督父「…話を聞いた時点で海自1択やったよ…理屈もこねずに」
比叡「…///」
………
……
…
あぁ…もう…司令ってば…。
あんなこと言って…。
最初から海自に入る気満々だったんじゃないですかぁ…。
ホント素直じゃないなぁ…。
…惚れ直しちゃうじゃないですか…。
直接その話を聞いた比叡にとっては、この話を聞けた事は嬉しい誤算であったことは、間違いなかった。
提督母「…そういえば、その日、赤れんが倉庫の辺りをカメラ片手にぶらついていたら…丁度吹雪ちゃんくらいの娘に職質されて驚いたって言ってたねぇ…」
吹雪「…それって…?」
提督母「…今思えば、その職質した娘は艦娘ちゃんだったのかも…しれないわねぇ…」
…開戦当初は秘匿とされていた艦娘の存在。
今から年月を逆算すれば、提督が舞鶴に通いだしたのは、開戦から1年は経過した頃だ。
しかし、本土防衛の戦いが激しくなると当然人の目に触れる機会が増える訳で…。
提督母「…それでね、その時に写真を検閲されたらしいんだけど、その娘に言われた言葉があって…えぇっと…」
吹雪「…?」
提督母「…”私達をこんな風に撮ってくれる人を初めて見ました。…でも私はこの写真を没収しなくてはなりません…ですが、これは私達の生きた証として、私に頂けませんか?”…って言われて思わず涙が出たって…」
提督母「…あの子は何も言わずに写真のデータをその娘に渡したそうよ…その娘も泣いて喜んでたって…あの子ね…いい意味で欲張りな子だから…自分のしたことで誰かが幸せになって貰うのが好きなお人好しなのよ…」
嫁艦's「「「「…」」」」
…間違いない…その少女は…艦娘だ。
そして、もう1つわかったことがあった。
…彼が艦娘を指揮する提督に選ばれたのは偶然じゃなく…。
…必然だったのだと。
………
……
…
吹雪「…」
…私は司令官にとって初めての艦娘でした。
…私、叢雲ちゃん、電ちゃん、漣ちゃん、五月雨ちゃんの5人の中から初期艦として選ぶ時、私をひと目見た時、司令官は一瞬目を見開いていたのをこの目ではっきり見ました。
…ひょっとしたら…そうなのかもしれないですね…。
だったら…その娘に感謝しなきゃ…。
司令官に巡り合わせてくれたことを…。
吹雪は、小さな偶然が提督と自分たちを繋いでくれたことを、尊く、感謝の気持ちで一杯になった。
提督父「…アイツは立場は違えど世間的に認められない世界に一時期身を置いて、嫌と言う程心無い言葉にさらされ続けてきた…だから人一倍人の努力は認めるべきだって気持ちが強いんよ…犯罪以外の世界ならね」
矢矧「…すみません…あの…」
提督父「…ん?なんだい?矢矧ちゃん」
矢矧「…それから…〇〇さんは釣りの方は…?」
提督父「…してないな…うち等が見ていた限りは…車で出掛けてはいたけど…」
矢矧「…そう…ですか…」
提督父「…これは多分なんやけど…裏切ったって後ろめたさみたいなもんが、あると俺は見てる」
矢矧「…裏切った…ですか?」
提督父「…アイツにとって、一時期、人生を賭けてやろうと思った事を途中で投げ出してしまったこと…それがアイツにとって、釣りに対する裏切り行為としか思えなかったんだと思うんや…そんな自分が許せない…というのかな…」
矢矧「…はい」
提督父「…でも捨てられんかった…何でなら自分を作ってくれた物を捨てられる程アイツの心は器用にできとらんし、それを続けてきたことに対するプライドが…競技者としてのプライドが心の何処かにあるんやろうな…」
提督父「…そういうもんも引き継いで、車に移ってしもーたもんやから今の今まで車も手放せへんかったんやろうな…アイツ物持ちいいし…」
提督母「…物持ちがいいのは父親譲りやろ?」
提督父「…ちげぇねぇな…」
矢矧「…なんで〇〇さんは、私達に釣りのことをあまり口外しなかったんでしょうか…?」
提督母「…そりゃ単純よ…好きと思ってる人達に自分の大好きなものを否定されるって…物凄く堪えるでしょ?それなら押し殺してる方が気楽ってあの子は思うなぁ…。
…それに…貴方達が軍艦の時代に敵対した相手国の文化よ?釣りは好きでも、その事は言ってなかったでしょ?」
矢矧「…た、確かに…言ってませんが…」
…知らない内に勝手に気遣われていたんだ。
…でもその気遣いは私にとっては、とても腹立たしいものだった。
…見縊られたものね…。
そんな事で嫌う相手になるなら…相手にしてないし…ここまで彼の過去を聞きたいとも思わない。
…そもそも、それで嫌いになれたら苦労しないわよ…。
…今度ちゃんと話してみよう…。
最初は腹を立ててしまったが、既に提督への好意を知っている事もあって、穏やかな気持ちになった矢矧は、そう思った。
提督父「…話して正解やったな」
提督母「…最初は私達に何言われるかビクビクしてたのに…今はすっかり五月晴れみたいに、清々しくなっちゃって…まぁ〜若いって良いわねぇ〜♪」オホホホ…
榛名「ふぇっ?!///」
比叡「ひぇっ?!///」
矢矧「えぇっ?!///」
吹雪「はわっ?!///」
提督父「…どうかアイツと一緒に歩いてやって下さい…宜しくお願いします」ペコリ
提督母「…あの子と事で困ったことがあったら遠慮なく言ってね?あの子のこと…宜しくお願いします」ペコリ
榛名「そ、そそ、そんなっ!頭をお上げください!」オロオロ
提督母「…それはそうと…」スクッ…
嫁艦's「「「「???」」」」
提督母「…この中の娘で誰があの子の本命やと思う?」ニヤニヤ
提督父「…榛名ちゃんか矢矧ちゃんやろ」ニヤニヤ
提督母「…奇遇ね…私も同じこと考えてたわ…」オホホホ…
榛名・矢矧「「っ??!!///」」
比叡「あ、あぅ…私…駄目なんでしょうかぁ…」
提督母「…あぁ、あんまり気にしないでね比叡ちゃん、こっちの下世話な話だから〜♪」
提督父「…比叡ちゃん、君も全然アイツの守備範囲内だ、保証するわ」キリッ
比叡「///」
吹雪「わ、私は…」
提督両親「「………」」
吹雪「あ、あのぉ〜?」
提督父「…吹雪ちゃんに手を出したら…アイツ、しばいたる…」ゴゴゴゴ…
提督母「…張り倒す♪」ニゴニゴ
吹雪「え、えぇぇ?!」
…つくづく。
…つくづくこの2人は提督の両親なんだなと痛感し、最後まで振り回されっぱなしの嫁艦達なのであった。
提督父「…あー、そうそう、アイツの”アレ”…残ってるやろ?」
提督母「…あー、”アレ”?…捨てろ言われたけどフツー捨てへんわな(笑)」
榛名「…あ、あの…”アレ”…とは?」
提督父「ん?アイツの競技者としての現役時代の映像…アイツの青春時代の片鱗に興味ある?」
榛名「…!ぜ、是非見せて戴けませんか?!」
比叡「…青春時代の司令かぁ…」
矢矧「…とても興味があります…!」
吹雪「…どんな感じだったんだろう…9年以上前の司令官…」
二つ返事でその映像を見せて貰うことにした嫁艦達。
…映像は国内のとある湖での大会で、同船カメラマン視点の彼中心の映像だった。
9年数ヶ月前の提督が、画面一杯に躍動している。
嫁艦達は、その姿を目を離さず観ていた。
……………
…………
………
……
…
1715時
提督「…ただいま〜」
榛名「…提督、おかえりなさい!」
矢矧「買い出しお疲れ様、持っていくわよ?」
提督「…」
榛名・矢矧「「…?」」
提督「…なんか実家に艦娘がいて、出迎えてくれるってすっげぇ新鮮…」
榛名「…そ、そういえば…」
矢矧「…そうよね、言われてみれば不思議な感覚かも」
提督「…おっと、めっちゃ買い込んたんだった…どんどん持ってくるから、台所に持ってっちゃって〜」
榛名・矢矧「「了解!」」
提督「…あれ?比叡と吹雪は?」
榛名「あ、比叡お姉様はお父様の模型を拝見しにいって…」
矢矧「吹雪は、提督のお母さんについて行って夕飯の支度の手伝いをしに行ったわよ」
提督「…親父と比叡が?…うーん…」
榛名「…如何なさいましたか?」
提督「…うちの親父、加減知らずだから頭がこんがらがってなきゃいいが…」
………
……
…
…提督の予想は的中して、比叡は提督父の模型愛に圧倒されていた。
※提督の素早い救出でこっちに引き戻させた。
その後夕飯を作ることになった提督と嫁艦達が手分けをして、作業に取り掛かった。
………
……
…
提督母「…」ニヤニヤ
提督「…お袋、何ニヤニヤしとるんよ?」
提督母「…いやぁ〜みんな仲良く連携して料理してる姿が微笑ましくってねぇ〜♪」
提督「泊めてもらうし、このくらいはねぇ…俺のはともかく、比叡の料理は期待してくれてもいい」
比叡「…」(真剣料理モード)
榛名「…(うぅ…お料理となると提督と比叡お姉様の独壇場に…)」
比叡「…矢矧、これちょっと切り方雑、火が均一に通らないよ」
矢矧「…は、はいっ!(…うぅ…ちゃん誰かに教わって覚えようかな…)」
提督「…お、吹雪、具材切り終わったみたいだな…もってくよ〜」
吹雪「はいっ!次はどうしたらいいですか?司令官!」
提督「盛り付ける皿を出してくれるか?大皿がその棚の下にあった筈…あるよな?お袋?」
提督母「あるよー」
吹雪「わかりました!」
提督母「あらー♪健気やわぁ♪吹雪ちゃんしゅき〜♪」
榛名・矢矧「「(…あっちがよかったっ!!)」」
比叡「こらーっ!2人共ーっ!キリキリ働くーっ!」
榛名・矢矧「「は、はいーっ!」」
………
……
…
提督両親「「うまっ!」」
比叡「よ、よかったぁ〜」
提督母「…〇〇のチャーハンも腕は上がってるけど、比叡ちゃんのこの料理の前ではちょっと霞むわぁ〜」
提督「だろ〜」
比叡「い、いえいえ…でも、榛名と矢矧も手伝ってくれたので…///」テレテレ
榛名「んん〜っ♪頑張った甲斐がありました♪」
矢矧「…何気に提督の焼き飯って食べるの初めて…阿賀野姉のとタメを張れる位美味しい…」
吹雪「んん〜っ♪この煮物おいひぃぃ〜っ♪」
提督母「あら、良かったわぁ〜♪あとでレシピ教えてあげるわ」
嫁艦's「「「「…!是非っ!」」」」
提督父「…しかしみんなめっちゃ食うなぁ」
提督「皆、働き者だからね…ちなみにもっと食う人が泊地に居るけどな…赤いやつとか赤いやつとか…主に赤いやつ」
提督父「…赤い…?…○ャア?」
提督「いや、こっちの話や、気にせんとって」
嫁艦's
(;^ω^)(;^ω^)(;^ω^)(;^ω^)
………
……
…
同時刻 佐伯泊地
赤城「へ、へっくしゅーんっ!!」
加賀「…赤城さん?食事中にくしゃみとは珍しいですね…」
赤城「ぐす…また誰か大食らいの噂を…っ!まさか提督がご両親にっ?!」
加賀「…(言いかねないわね…)」
赤城「…あ、鳳翔さん!モツの味噌煮込みと軟骨唐揚げとご飯のおかわりを所望します!」
鳳翔「わかりました〜♪」
加賀「…はぁ…」(頭抱え)
………
……
…
所変わって 提督実家
提督「…さて、片付けもできたし、2人づつ風呂入ってきたらどう?俺は大淀に連絡しとかないといけないし」
榛名「はいっ…それじゃあ吹雪ちゃん、一緒に入る?」
吹雪「ご一緒します!」
比叡「…それじゃあ私達はそれまでゆっくりしてよっかぁ〜」
矢矧「はい、そうさせていただきましょう」
………
……
…
矢矧「…?」
客間で寝泊まりすることになって、先に荷物を整理していた矢矧と比叡。
その最中、背後から足音が聞こえた。
…あ、階段を上がる音か…。
鉄筋コンクリートの泊地の寮では、まず聞こえない音だ。
比叡「…ははは…なんか新鮮だよね〜…足音が聞こえる建物の中って」
矢矧「…ふふ…そうですよね…ついでに言えばこうして艦種関係なしに枕を並べて寝るのも、珍しいですね」
比叡「あはっ♪ホントだっ♪」
矢矧「…今の足音…提督…ですね」
比叡「んー…歩調的にそうだねぇ…」
矢矧・比叡「「…」」
比叡「…矢矧、今何考えたか当ててあげよっか?」
矢矧「な、何の話です…?」
比叡「…司令の部屋見てみたい…じゃない?」
矢矧「っ!///」
比叡「あはっ♪矢矧って分かりやすいよね〜♪」
矢矧「か、からかわないでくださいっ///」
比叡「ま、実際私も見てみたいなぁ…お邪魔する?2人で?」
矢矧「…迷惑じゃないでしょうか…?」
比叡「大淀の報告もあるだろうけど…まあ私達が聞いても問題ないでしょ。さ、行こ行こ♪」
矢矧「え、えぇっ?!」
…比叡に、引っ張られて矢矧も提督の部屋に行くことになった。
………
……
…
提督『…あぁ…大淀かい?俺だ、提督だ…ああ、こっちは大丈夫だよ』
矢矧・比叡「「…」」
この扉の向こうから、提督の声が聞こえる。
…きっとここだろう。
言っていた通り、提督は大淀と電話でやり取りをしているようだ。
提督『…あぁ、…ちゃんと両親にも説明したし、彼女らとウチの泊地の娘達のこともちゃんと話した…あぁ…そっちはどう?揉めたり問題事はなかった?…うん…あぁ〜やっぱりか…』
矢矧・比叡「「…」」
…何かを問題が発生しているんだろうか?
…気になる…。
提督『帰ったらフォローは任せておいてくれ…大丈夫…うん?…あぁ…両親にも受け入れられて、夕食はみんなで仲良く食べた…うん…ん?…あぁ…もしこの帰省中に彼女らが望むのなら…ん…わかってる…それは聞いた通りに…』
提督『…あぁ…また明日の1200時と2000時に連絡を入れる…わかった…ありがとう大淀…おやすみ…』
………
……
…
比叡「…終わったかな?」
矢矧「…そのようですね」
比叡「…15秒後に突入だよ」
矢矧「…り、了解です…」
普段しないことをすると、興が乗ってイタズラ心が擽られる比叡と、それに釣られる矢矧なのであった。
………
……
…
コンコンコン…
提督『…誰や〜?』
比叡「比叡です…矢矧も一緒ですけど、お邪魔してもいいですか?」
提督『…どうぞー』
ガラガラ…
比叡が引き戸の扉を開ける。
その先には座卓を前に部屋の床に座る提督がいた。
比叡「お邪魔しまーす」
矢矧「…お邪魔…します…」
提督「いらっしゃい、暇つぶしかい?」
比叡「えぇ、榛名は結構お風呂長いんで…」
提督「そっか…悪い、散らかってるけど適当にしておいてくれ」
矢矧「…あ…」
比叡「…うわ…」
提督「…?…あぁ…それ?別に好きに見てくれて構わないよ」
矢矧が見付けて、比叡が驚いた物は、大量の釣り竿とリールがセットになって専用のスタンドに並べられていた。
…40…いやもっとある。
リールには専用らしき布の袋で包まれていて、埃が被らないようになっているが、やはりずっと触っていない為か、釣り竿には埃が薄い層を作っていた。
比叡「…長い短い太い細いで、随分竿ありますね…」
提督「そだね…全部1種類の魚を釣る為だけに用途で使い分けるんだけど…まぁどんだけ釣りたいんだよって話だね」
矢矧「へぇ…どんなふうに使い分けるの?」
提督「ん〜…例えば…」
提督はすっと立ち上がり、数多ある竿を迷わず手に取った。
提督「…これは7g〜21gの重さのルアー…疑似餌を投げられるベイトロッドなんだけど、長さが6フィート5インチ…大体190センチ強かな…これがこの釣りにおける基準となる竿だね…」
矢矧「…基準?」
提督「この釣りにおいて、一番程良い長さ硬さで、手返しの良さと守備範囲の広いルアーを使える…言わば万能な一本で、持ち歩ける手数が限られる岸釣りでは、とても重宝する…実際一番良く使った竿だね」
矢矧「…その一本を基準として、そこから硬い柔らかい、長い短いを選んでいくってことね」
提督「そだね、本当にそれをする為だけの特化した竿を使う時は環境が限られてるから、そういう場面に出くわしたら投入する感じかな…全部ないと困る竿ばかりだよ」
矢矧「…こ、これ…全部持っていくの?」
提督「まさか…行く場所の事前情報と照らし合わせて、大体見繕って持っていくし、せいぜい15本前後だろうなぁ…で、現場を見て更に絞る感じかな…中々効率の悪い釣りだよね…で…」
矢矧「???」
提督「…比叡は何してんの?」
矢矧に解説していた提督だったが、比叡が話そっちのけで本棚の中を見ているのが気になって、話の腰が折れてしまった。
比叡「…えぇっとぉ〜…」
提督「…ないよ?…うん…期待ハズレで悪いけど」
比叡「ま、まだ何も言ってませんよ?!」
提督「どーせエロ本か薄い本探してんだろ?」
比叡「…ドキッ!」
矢矧「…薄い本?」
提督「…矢矧は知らなくてもいい物だ」
矢矧「は、はぁ…?」
比叡「えぇ〜っ、提督の性癖ってどんなのか気になります〜!」
提督「…うわ、開き直ったよこの人」シレッ
矢矧「…開き直りましたね…比叡さん…」シレッ
比叡「シレッと孤立無援にされたっ?!」
矢矧「…(…提督の性癖かぁ…)」
…よくよく考えてみれば…。
佐伯泊地の上位練度者って…体格が似通ってる…かも?
…上位の人で言うと、榛名さん、加賀さん、私、赤城さん、翔鶴さん、長門さん、瑞鶴…此処から先は結構バラけてるけど、割と似通ってる…。
身長は提督の口元位の背が多数。
…長門さんや陸奥さんで提督の目線くらいの背。
…ちなみに大和や武蔵は提督と背が同じ位か。
…あ、そういえば、大和は気にしてたなぁ…身長の高さ。
大和『提督のお胸の中にすっぽり納まる位が良いのだけれど…』
…なんて言ってたっけ?
…性格は…バラバラだからなんとも言えないか。
矢矧は泊地の面々の顔を思い浮かべながら、提督にぶつけたら誰が一番喜ぶだろうと、何気なく考えていた。
比叡「…矢矧ってば、また何か考えてる〜。このムッツリスケベーっ!」
矢矧「…えっ?!///」
比叡「司令もそう思いますよね?!」
提督「…ノーコメント」シレッ
矢矧「…いや、否定してよっ?!」
…矢矧ってちょっと天然っぽいとこあるもんな…。
…伊達に阿賀野の系譜を引き継いでないって気がする。
…そういうところが好きなんだけど…。
…まぁ、こればっかりは誰が一番ってなかなか決められないんだよねぇ…。
…と目の前でちーちーぱっぱを始める比叡と矢矧を見ながら、そんなことを考えている提督なのであった。
………
……
…
提督実家 客間
その後何やかんやで提督の口から直接釣りの話を聞いて、いる内に小一時間ほど提督の部屋に滞在した2人は、榛名と吹雪と交代でお風呂に入る為に、客間に戻っていた。
比叡「いや〜司令の部屋…寝ることと釣りの事しかなかったよね〜あはは…なんだか司令らしかったね」
矢矧「ええ…何だか…話を聞いている内に益々、目の前で釣りをしている提督を見てみたい…って思いました」
比叡「…でもあれだけ竿持ってて、なんで泊地に持っていかないんだろう…?」
矢矧「あ、それは淡水用だからだそうです。あの道具の中には海水には適さない素材を使った物が割とあるみたいで」
比叡「ふぅん?」
矢矧「海は海用、淡水は淡水用で分けないと気が済まない性分なんだって、提督が言ってました」
比叡「…意外と繊細なんだね…司令って」
矢矧「…あと、こうも言ってました。『専用の道具はそれをする為に考え抜かれた、理想の形だから、それ以外を使って80%疲れるところが、専用なら40%や50%の疲労で済むし必然的に疲れない。だから集中力も続くし釣り続けられるし釣れる』…と」
比叡「はぇ〜…なんていうか…」
矢矧「…えぇ…物凄く合理的な考え方だと思います…」
ガラガラ…
榛名「…ふぅ…お風呂お先です〜…?何か真剣なお話ですか?」
吹雪「お先にお風呂頂きました!」
比叡「2人共おかえり〜、いや〜司令の釣りしてる姿見たいね〜って話を矢矧としてたの」
矢矧「部屋が道具で凄かったのと、釣りに対する考え方が想像していた以上だったので…」
榛名「そうなんですか…榛名もお邪魔してみようかな…」
比叡「もう、釣りと寝るしかなかったよ!それと残念なことに如何わしいものはなかったよ〜」
榛名「…如何わ…っ!///」
比叡「いやー、皆が気にしてる司令の性癖わかるかなぁ〜って思って」
吹雪「…やっぱり比叡さん…」
矢矧「…うん…実家にお邪魔させてもらってから、気分が変な感じになってる…かな?」
比叡「なっ?!失敬なっ!」
矢矧「せっかくお風呂が空いたので、行きましょう…それではお風呂に入ってきます」
比叡「ちょちょ!矢矧待ってよぉ〜」
ガラガラ…ガラガラ…ピシャ…
騒がしく入れ替わるようにして矢矧と比叡は、お風呂に向かった。
吹雪「…榛名さん」
榛名「…?どうしたの?吹雪ちゃん?」
吹雪「…が、頑張ってください!」
榛名「…???」キョトン
吹雪「…だって…今晩…されるんです…よね?」
榛名「……」
榛名「…」
榛名「っ!///」
何やら吹雪は気を回して、榛名だけ提督の部屋に行かせようと仕向けてきた。
最初はその心理が理解できなかった榛名だったが、言われてから徐々にその言葉の意味が分かってきた時、榛名は顔を真っ赤にした。
榛名「あ、や、でも…提督が求めてくれれば…の話ですから…そのぉ〜///」モジモジ
吹雪「(…榛名さんカワイイ…)」
吹雪「別に今日じゃなくてもチャンスはありますよ!…それに、早く伝えなきゃいけない事があるんじゃないんですか?」
榛名「…!…そうでした…そうでしたね…私ったら…」
…そうだ。
榛名は伝えなきゃいけなかったんだ。
泊地全員があの人の全てを受け入れると言うことを。
…その先はまずはやるべき事をしてからの話だ。
…榛名は吹雪に見送られて、単身提督の部屋に向かった。
………
……
…
提督「…よし、これで書類は全部揃ったな…来れで佐伯に帰る時に、おやっさんに渡せば…」
コンコンコン
提督「…?誰だい?」
…まぁ風呂上がったタイミングだし、榛名と吹雪だろうけど…。
榛名『…お寛ぎのところ申し訳ありません…榛名です。今よろしいでしょうか?』
提督「…ん、どうぞー」
…ガラガラ…
引き戸の向こうから湯上がり姿の榛名が顔を覗かせた。
…畜生…すっぴんでも可愛い…。
そんな事を考えた提督だが、そうとは露知らず、榛名は部屋に入ってきた。
榛名「比叡お姉様と矢矧に聞いて、提督のお部屋を見に来ちゃいました」
提督「おお、そっか…散らかってる部屋で悪いけど、まあ適当にしておいて〜」
榛名「はい…」ジー
提督「…?」
…む?榛名…また何か考えてるな…。
相変わらず、そういう事がさり気なくできない娘だな…。
…まあ、それが榛名の良いところだが。
提督「…じっと見ても何も出ないよ?」
榛名「…提督…その机の上の書類はなんですか?」
…いや、もはや隠す気もないって目をしてるな。
穏やかだが何処までも澄んだ目をしている。
いつもの凝視とは違うようだ。
…隠すのも変だと思ってひっくり返しておく程度で机の上に伏せておいた書類に、榛名の目線は釘付けになっていた。
榛名「…誤魔化さなくても大丈夫ですよ?そちらの物は、提督のお車の売却に必要な書類と証書の入ったファイルですよね?」
提督「…ん、良くわかったなぁ…」
…そこまで見抜かれているのなら、下手に隠すのも格好悪い話だ。
素直に認めることにした。
榛名「…どうしてですか?」
提督「…まあ立たせたまま話すのも何だし、視線を同じにして話そう。…座ってもらっていい?」
榛名「あ、はい…」ストン
榛名は提督の側に向かい合って正座で座った。
提督「…まぁ色々考えてあの車を手放すことを決めたんだけど、理由は幾つかある…聞いてもらってもいい?」
榛名「…もちろんです」
提督「まずは車検。もう時期に車検が切れて乗れなくなるし、再度更新するのには費用も必要で、乗りもしない車に対して無駄な出費は避けたいってこと」
榛名「…」
提督「それと、仮に車検を通して置いておいたとしても、乗ることがない…いや乗る時間がないって言ったほうが正確かもしれんし、泊地と実家を往復してまでするのは、現実的じゃない」
榛名「…」
提督「ま、それは理屈で、本心はこのまま放置して朽ちていくのは…本望じゃないってこと…出来ることならあの車がいいって言ってくれる人に乗ってもらいたい…置物じゃなくて壊れるまで走り続けていて欲しいんだよ」
榛名「…はい」
提督「…とまぁこんな感じかなぁ…手放す理由って言われると…」
榛名「…提督、本当にそれだけですか?」
提督「…うん?」
榛名「…そんな気持ちで…手放してしまうんですか?…貴方自身を…」
提督「…さては昼間の俺のいない間にウチの両親になんか言われた?」
榛名「そういう言い方は…よくないと思います…ただ、ご両親が提督を想うように、榛名達も提督を想ってます…比叡お姉様や吹雪ちゃんが提督から出たヒントを取りこぼしていませんでしたから…」
提督「…」
榛名「…提督が買い出しからお帰りになる少し前まで榛名達が話し合って…榛名達なりに考えた案を出します…聞いていただけますか?」
提督「…どうぞ」
榛名「ありがとうございます…では、榛名達が先程までの提督の手放す理由を伺った上でのその解決策は1つ…」
提督「…うん」
榛名「…泊地に持っていっちゃいましょう♪」
提督「………」
提督「……」
提督「…え?」
榛名「…ですから、あのお車を、泊地に持っていっちゃいませんか?」
提督「…え、えぇ…それって可能なの?部屋に持ち込めるものならまだしも、車って無理じゃない?」
榛名「細かい事は大淀さんと話を詰めますが、大まかに言うと、あの車を泊地の車にしちゃうんです」
提督「…あー…そういうことか…」
確かにそれなら公然と”施設の車です”で通るけど…。
提督「…でもそれって私的流用にならない?」
榛名「自衛官の方でも護衛艦勤務の隊員の方は、自分の車を所属基地に置くと聞きます。それと同じことです!」
提督「…弄ってるよ?施設の車にするにしたって、いかにもThe☆プライベート!って車だけど?」
榛名「使って良い時と悪い時を使い分ければ、何ら問題ないかと!」
提督「…あんまり新しくないよ?あの車…次車検通したら9年目だよ?」
榛名「でも提督はお好きですよね?あんなに綺麗に乗られているんですから」
提督「…うー…」
榛名「…」ニコニコ
…やっべぇ…もう打つ手ないぞ…。
まさか榛名に言い包められるとは…。
…もう…素直になったら良いのかな…。
提督「…いいのかな?」
…提督はまた半信半疑だった。
…すると榛名はすかさず提督に近寄った。
榛名「…いいんですよ…何度も言うように、提督が私達を大事にしてくれるように、榛名達も提督を大事にしたいんです」
提督「…」
榛名「今の提督があるのは故郷とご両親に育まれた日々があったからです…だから全てを受け入れたいんです…」
提督「…はは…」
榛名「…提督?」
提督「ははは…ホントに…いいんだ…」
榛名「…!///」
…ギュッ
朗らで何かから開放されたような表情の提督に心打たれた榛名は、咄嗟に抱きついた。
…初めてだったから。
いつも甘える立場だったから。
…とても嬉しい。
提督のその表情を初めて引き出せたことが。
堪らなく嬉しい。
………
……
…
提督「…榛名…ごめん…」
榛名「…えっ…」
…まさか…ここに来て拒絶された…?
…いきなり抱き着いたから?
榛名「…す、すみません!」
提督「あぁ!ちゃうねんちゃうねん!…嫌どころかメッチャクチャ嬉しいんやけど…」
榛名「…?」
…あぁ…提督のお顔が真っ赤です…良かった…。
それに焦られたり、本心になると関西弁なのですね…。
…いいことを知っていましました♪
提督「…俺は風呂に入ってないから…ちゃんと綺麗になってからじゃないと…榛名は折角汗を流したのに…失礼だし…」
榛名「…」
…あぁ…もう…。
提督は意地悪です。
素顔で私達を焦らす酷い人です。
榛名「…」
ガシッ…グググ…
提督「…へっ?」
ドサッ!
次の瞬間、榛名は提督の両肩を鷲掴みにして、そのまま床に提督を押し倒した。
…可憐な容姿だが、その本性は戦艦。
鷲掴みされて捕まった時点で、普通の人間である提督には抵抗など出来る筈もなかった。
榛名「…このような真似に及んだ榛名をお許しください…でも…榛名…もう我慢できません…」
提督「…ここまでされちゃあ…なぁ…」
ムニッ…
榛名「んむっ…へいほふっ?///」ムニムニ
そのままの体勢で、提督は榛名の両頬を両手で包んでムニムニと捏ね始めた。
提督「…はぁ…こんなにもちもちすべすべやったんやねぇ…はは…白い肌が赤くなってかわえぇなぁ…」
榛名「…!///」
…2人の理性が崩れ去るのは、もはや秒速の問題であった。
……………
…………
………
……
…
2022.4.23 0000時
提督実家 客間
スー…
客間の襖が静かに開けられる。
榛名「…」コソコソ
…む、夢中になりすぎて、提督のお部屋に長居しすぎました…。
朝に顔を合わせた時の言い訳をどうするか…考えておかないと…。
…と言ってももう、この提督の帰省に同行した娘達には隠す必要もないけれど…。
…ただ…恥ずかしい…。
矢矧『…榛名さん?』
榛名「…!」ドキッ
布団に入ろうとした榛名の脳内に声が飛び込んてくる。
直接通信だ。
声の持ち主の方を見ると、そこにはその当人である、矢矧が上体を起こして榛名を見ていた。
榛名『…っ!矢矧…あなたっ』
矢矧『す…すみません…声を掛けるつもりは無かったんですが…』
夜目の効く艦娘にとって、室内の暗闇程度なら、相手の表情はハッキリ見える。
榛名の目に写ったのは、矢矧は顔を赤くして明らかに具合のよくなさそうな矢矧の姿だった。
榛名『矢矧っ…どうしたんですか?!』
矢矧『あぅ…その…そのつもりは…無かったんですが…』
榛名『…?』
矢矧『すみません…30分前の…声…聴こえ…ちゃって…』
榛名『…あ///』
矢矧『…そ、それより…提督との…話し合いは…ど、どうでしたか?』
榛名『は、はい…私達の提案を受けてくれました…』
矢矧『…はぁぁ…よかったぁ…提督…思い止まってくれたんですね…安心しました…』
心底安心したような表情をした矢矧は、そのまま横になった。
榛名『矢矧っ?!貴方そのまま寝るつもり?!』
矢矧『…は、はい…提督に…明日…いや、今日か…何とかして…貰い…ます…』
榛名『…』
………
……
…
同時刻 提督実家 提督の部屋
提督「…」
…いかん…。
…寝れん…。
…後ってめっちゃ疲れて即寝落ちって聞いたんだけど…?
目が冴えて冴えて…なんじゃこりゃ…。
コンコンコン…
提督「…?」
…控えめなノック音が聞こえたような…?
…コンコンコン…
…気のせいじゃないな。
…榛名…何か忘れ物をしたか?
スー…
提督は起きて電気を付けて、顔半分見えるくらいに戸を開けた。
提督「…どちら様?」(小声)
榛名「…お疲れのところ申し訳ありません…」(小声)
先程部屋を出ていった榛名だった。
提督「…どうしたの?忘れ物?」(小声)
榛名「すみません…不測の事態でして…部屋に入れていただけないですか?」(小声)
提督「お、おぅ…へ?…矢矧も一緒?」(小声)
矢矧「ご…ごめんなさい…押し掛けてしまって…」(小声)
榛名に肩を貸してもらって、矢矧も一緒に来ていた。
そのまま部屋に招き入れて、ひとまず矢矧をベッドへ横にさせた。
矢矧「…」フゥ…フゥ…
提督「…どうして矢矧が具合悪そうなんだい?」
榛名「そ、それは…そのぉ…」
提督の耳元でゴニョゴニョ
提督「…えぇ…あれ聞こえちゃったの?」
榛名「も、申し訳ありません…」
提督「…いや、とどの詰まり、そこまで気が回せてなかった俺が悪いから、誰も悪くない…矢矧のことは任せておいて」
榛名「…でも提督…身体とお気持ちの方は大丈夫ですか?」
提督「…ん?…後は疲れて寝落ちするって聞いていたのに、何か目が冴えていたから大丈夫…気持ちは…まぁあの時に明石からその話を聞いていたから覚悟はしてた」
榛名「…わかりました…矢矧のことを頼みます…」
提督「ん…あ、榛名」
榛名「…?」
提督「…気遣いありがとう…」
榛名「…えへへ…また…愛してくださいね?///」
スー…トン…
そう言うと榛名は部屋を静かに出た。
提督「…さて…」
矢矧「…提督…?」
提督「…ごめんな?変な気にさせて…」
矢矧「…ううん…気にしないで…ただ…」
提督「…?」
矢矧「…提督って…意外と激しいのね…」
提督「…実際、自分でもビックリだわ…幻滅した?」
矢矧「…ふふ…仮にそれで幻滅してたら…ここに連れてきて貰ってないわよ…」
提督は矢矧が横になっているベッドの端に座った。
提督「…それなら良かった」
矢矧「…右のお尻…大丈夫?」
提督「…ん?」
矢矧「…ほら、私の撃った流れ弾が当たった場所…酷くなってない?」
提督「あぁ〜、すっかり腫れも引いてるし痣も殆どないよ?…それより」
矢矧「…?」
提督「…事故直後に矢矧にズボン引っ張っぱられて、『尻出せ』って言われた方が焦ったよ」
矢矧「…ぁあ///」
提督「危うく他の娘達の面前で汚いケツを晒すところだったよ…」
矢矧「か、患部を見るのは当たり前でしょっ?!///」
提督「しー」人差指立てて口に当て
矢矧「むぐっ…うぅー…」
感情が昂りやすい矢矧は、思わず声が出てしまい、それを提督に諭されて少し悔しそうにしている。
提督「あ、そうそう…車も釣具も泊地に持っていくことにしたんだ…一応報告」
矢矧「…そうなの?…それは…よかった」
提督「まあここに並べてるのは海では使わないけど、海用の道具もあるのはあるから」
矢矧「…どれだけ持ってるの?」
提督「…あとこれの半分位」
矢矧「…えぇ…」
提督「…自分で買ったのもなくはないけど、殆どは企画とか宣伝でもらった製品の試供品が海用も結構残っててね…」
矢矧「な、なるほど」
提督「だから…余った道具で興味のある娘に教えたりも出来て、それも楽しいかなって」
矢矧「…!良いじゃない…ふふ」
提督「…?どうしたの?」
矢矧「…図らずして釣りしてる提督が見れるなって思ったら、嬉しくて…ね?」
提督「…うーん…ただの釣り好きオジサン、って思うよ…きっと」
矢矧「…そうかしら?あの映像を観た私達からすれば、そうは見えないと思うけど」
提督「…やっぱりか…皆してアレ観たな?…皆物好きだなぁ…」
矢矧は提督の青年時代の映像の話をした。
矢矧「…ふふ…なんだかこうして話していると、気持ちが落ち着いてきちゃった…」
提督「…おおっと、本題はまだ終わってないよ?」
矢矧「…?」
矢矧が起き上がって客間に戻りそうな仕草を見せたので、提督は引き止めた。
提督「…ちゃんと一度落ち着いて話をしてからにしたがったんだ…焦らすつもりは毛頭なかった」
矢矧「…ええ…お陰様で今の私の心は穏やかよ…」
提督「…じゃあ単刀直入に言うよ。…俺は君に対して、同情でそういう関係になりたい訳じゃない…だからちゃんと俺が矢矧の好きなところを言うから、聞いてほしい」
矢矧「…ふぅん?」
提督「…ん?」
矢矧「…じゃあ…私の好きなところ…全部言ってみて?」
提督「…覚悟できてる?」
矢矧「…あら?誰に向かって言っているのかしら?」
矢矧は、受けて立つと言わんばかりに提督に向き合って、正座をして迎えうった。
矢矧「さ…どこからでもかかってきて頂戴」キリッ
提督「…今そうして凛とした表情のキミが好き」
矢矧「…他には?」
提督「…たまにおっちょこちょいなキミが好き」
矢矧「…それって好きになる点なの?」
提督「…いつも真っ直ぐなキミが好き」
矢矧「…」
提督「…艶々の長い黒髪をポニーテールにしてるキミが好き」
矢矧「…/」
提督「…その束になった長いもみ上げも好き」
矢矧「…//」
提督「…訓練も実戦も厳しいけど、後の気遣いを忘れてなくて、他の娘への愛情が隠しきれてないキミが好き」
矢矧「…///」
提督「ポニーテールにする時につけてた前の萩色のシュシュも良かったけど、今のその白の長いリボンも好き…あとうなじ最高」
矢矧「…も…///」
提督「…そうやって真っ赤っ赤になって照れてるキミが好き」
矢矧「…も……めて…///」
提督「…無自覚に行動して、気が付いて慌てふためくキミが好き」
矢矧「…もうやめて…顔から火が出そう…////」プルプル…
提督「…つまりそういうのを全部ひっくるめてキミが好き」
矢矧「…あぅ…/////」
矢矧は提督の1ミリもブレない視線と、好きなポイント列挙の波状攻撃に対して、堪り兼ねて顔を両手で覆って、完全に身体を提督から背を向けた。
…もう矢矧は耳どころか首筋まで真っ赤っ赤である。
これを見て提督は確信した。
提督「やったぜ」٩(・ω・)۶完全勝利S
(両拳を軽く突き上げて真顔でドヤ顔)
………
……
…
” ていとくは、けいじゅん やはぎ をたおした! ” テーテレッテッテレテッテー♪
………
……
…
提督「…伝わったかな…俺の気持ち」
矢矧「…私を、殺す気なの?///」ハァ…ハァ…
提督「…良い意味で悶えさせられるのなら本望だよ」
矢矧「…」スゥ…
…ババッ!
ガシッ!
ドサッ!
提督「…!おわっ!」
矢矧「…あはっ♪…私がその気になれば、提督1人くらい…主導権なんていくらでも取れるのよ?」
目にも留まらぬ速さで矢矧は、提督を押し倒して実力行使をしてきた。
その目は羞恥を通り越して、狩猟者の様な目だった。
…しかし提督は素の矢矧を知っているので、怯むことはしなかった。
提督「…ははは…なんか今日はこんな感じなんやなぁ…」
矢矧「…随分余裕じゃない?抵抗しても無駄よ?」
提督「…てやっ!」
ギュッ!
四つん這いで提督に覆い被さってマウントを取っていた矢矧に対して、提督は両肩に乗った矢矧の両手を内から両手で払って、両腕ごと抱き着いて引き寄せた。
矢矧「…えっ?!…なっ!///」ジタバタ
提督「んん、捕まえたー♪…イテッ!」
両手を塞がれても尚、暴れる矢矧。
…たまに脇腹に入る膝が痛いっす…矢矧さん…。
抵抗する矢矧に対して提督は、ひたすら抱き締め続けているうちに、矢矧は抵抗しなくなってきた。
矢矧「はっ!…放してっ……ぁ…」
ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…
動きを止めた矢矧は、自分と提督の鼓動がシンクロしていくのに気が付いた。
…。
…心地良い…。
…思考が溶ける。
…この心地良さに全て委ねたくなる。
あぁ…好き…。
やっぱり提督のことが大好きだ…私…。
提督「…すごく脈拍が心地良いなぁ…」
矢矧「…う、うん…恥ずかしいのを…有耶無耶にしようとして…あ、暴れてごめんなさい」…
提督「…うんにゃ…えぇよ…」
矢矧「…ねぇ?…抱き締めるの…一旦解いてくれない?」
提督「…やだ」( ー`ωー´)フンス
矢矧「…ふふ…”抱き返したい”…って言っても?」
提督「…ならオッケー」
提督は一度抱き着いているのを解くと、矢矧は提督の首に抱き着いた。
矢矧「…ふふ…やっと…両想いってわかったから…嬉しい…ねぇ提督…私も…可愛がって…もらえますか?」
提督「…ガンバリマス」
……………
…………
………
……
…
同日 0500時
…スクリ…
提督「…」スッキリ
…やべぇっ!
…習慣ってやべぇっ!!
いつも通りの時間に目覚まし無しで起きちゃったよっ!
…それにあれだけ遅い時間まで起きていたのに、あんまり疲れてない…。
矢矧「…」スヨスヨ…
…横で矢矧が寝てる。
…やばい!
…かわいい!
…眼の前の情報量が多すぎて、語彙力が追いつかねぇ!
…色々冷静になる必要がありそうだ。
提督「…とにかく起きて朝食の準備しよ…」スッ
…グイッ!
提督「…」
矢矧「…むー…」
離れていくことを察知した矢矧に引き留められてしまった。
…このあどけなさが俺を狂わせる!
…この天然小悪魔めっ!( ‘ H‘)
提督は内心、その尊さに悶え苦しんでいた。
矢矧「…ていとく…おはよう…」ポケ‐
提督「お、おおぉお、おう、おはようござりまする」
矢矧「………」ジー
矢矧「……」ジー
矢矧「…」
矢矧「///」ゴソゴソ…
…矢矧は恥ずかしさのあまり、提督のシャツの端を掴んでいた手を離して、布団で顔を隠してしまった。
…ちくしょう…。
…ちくしょう…っ!
…かわいいかよぉぉぉぉ↓ぉぉぉぉ↑っ!!!
内心が乱れまくっている提督は、少しでも早く矢矧のテリトリーからの離脱を試みた。
提督「わ、悪い…ちょっと朝食作ってくるから…」
矢矧「…ていとく…」
提督「…おぅ?」
矢矧「…私も…手伝う…」
提督「…そっか…身支度はゆっくりでもいいからね?」
矢矧「…うん♪」
頭から目元までを布団から出した矢矧が、くすぐったそうな表情で、返事を返してきた。
…なんだろう…このやり取り…良いな…。
………
……
…
そんなやり取りの後、提督は一足先に部屋を出て階段を降りて、台所に立った。
提督「…ホットサンドとサラダ…コーヒーも入れっか…」
榛名「…おはようございます、提督」
提督「…ん、おはよう…早かったね…もうちょっとゆっくりしてても…」
矢矧「…あうぅ…」(着替えているが榛名に捕まってる)
提督「( ‘ω‘)」(真顔)
榛名「…矢矧ばかり…ズルいです…」
榛名「こんな事なら…私も矢矧と一緒に…まとめて可愛がって貰えばよかったです…」
提督「…榛名?」
榛名「…提督の寝顔を…眺めたかったです…」
提督「…榛名さーん」
榛名「…こんなの不公平ですぅ…」
提督「…榛名落ち着こう、ここで喋ってたら色々不味い…」
榛名「…榛名も提督と朝○ュンしたかったですっ」
提督「ちょっ…朝○ュン言うな…後でグチは聞いてあげるからここでは…あ…」
榛名「…へ?」
提督両親「「………」」ニヤニヤ
(嬉々とした表情両手で頬杖しながら見学✕2)
榛名・矢矧「「( ‘ω‘)」」(真顔)
提督母「…いやー、まさか一晩で2人もごちそうさまとは…とんでもない息子やわ…」ニヤニヤ
提督父「…ホンマによ…とんだ暴れん坊将軍やでぇ…まぁ、それだけの事してるから、まーえーやん…あ、比叡ちゃん除け者にしたらあかんぞ〜…吹雪ちゃんに手を出したらコ○スゥ…」(真顔)
提督「…格好の弄りの的になるやんかぁ〜っ!」
提督母「…榛名ちゃん、矢矧ちゃん、子供は計画的に作らんとアカンよ?」ニマニマ
榛名・矢矧「「///」」
提督「…もぉ勝手にしてくれぇ…」(心の底からの諦め)
………
……
…
0730時 提督実家 居間
比叡「なんだかスッキリ寝れましたぁ〜、朝ごはんも美味しい〜♪淹れたてコーヒーの香りで目覚める朝って最高ですねぇ♪」
吹雪「んん〜♪このツナマヨオニオン入りのホットサンド美味しぃ〜♪司令官美味しいです♪」
提督「お、おう、そりゃ良かった…」
そんなコントの様な出来事のあった早朝。
皆揃って朝食を取っていた。
…何やかんやあったけど、もちろん榛名も矢矧も朝食作りを手伝っていた。
…なんか、朝から元気にしている2人見てたら…相当汚れてんな…俺。
榛名・矢矧「「……///」」モグモグ
…あとの2人は、黙々と食べてるし…。
比叡「…司令?今日のご予定はどうされるんですか?」
提督「…ん〜…いくつかプランは考えてるんだけど…皆もリクエストがあったら言ってくれ」
吹雪「…私はまず司令官のしたいことを伺いたいです!」
比叡「吹雪と同じく!」
提督「…榛名と矢矧はどう?」
榛名「…へっ?!…あぁ…榛名もまず提督がしたいことを聞きたいです」
矢矧「…私は…うん、阿賀野姉達と親しい娘達にお土産を買う時間以外は、皆に合わせるわ」
提督「…そっか…それじゃあプランをいくつか言う…まずは…ーー」
…こうして、提督の里帰りの日程は、2日目以降に突入する事となるのであった。
……………
…………
………
……
…
”提督の帰郷編♯1” 完
To Be Continue.
……………
…………
………
……
…
皆さん、毎度の長文お疲れさまでした!(_ _)
今回のお話は振り幅が大きくて、書く側としては楽しかった反面、どう折り合いつけようか…みたいな感じでしたが、終わってみればいつも通りの展開でした(笑)
こんな感じに今度は”提督の帰郷編♯2”を書いていきたいと思います。
作中の構成としては色々考えてますが、著者もよく行き、吹雪の故郷である舞鶴の事を書きたいと思ってます。
#舞鶴はいいぞ (笑)
それではしばしのお別れです。
またお会いしましょう!(_ _)