• 車種別
  • パーツ
  • 整備手帳
  • ブログ
  • みんカラ+

屋根野郎のブログ一覧

2022年04月15日 イイね!

艦隊これくしょん -艦これ- 〜佐伯泊地の日々〜 提督の覚悟編

艦隊これくしょん -艦これ- 〜佐伯泊地の日々〜 提督の覚悟編皆さん、おはこんばんちは!
Σ∠(`・ω・´)

そして、同業の皆様、本日もお疲れ様です!

尚、過去作は下記のURLで開いていただければ、このみんカラ内のブログとして掲載されている物が閲覧できますので、もし宜しければどうぞ〜(_ _)


プロローグ ♯1 午前編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44104145/

♯梅雨の日編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44223073/

♯夏の黄昏編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44271814/

♯夏休暇 初夜編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44785551/

♯夏休暇 1日目♯1
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44889139/

♯夏休暇 1日目♯2
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45141124/

♯夏休暇 2日目
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45185889/

♯夏休暇 3日目
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45796679/

♯冬編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45826901/

♯提督の誕生日編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/46027975/

毎度ながらの超長文となりますが、気長にお付き合いくださいませ…。

今回は少しだけシリアスに行きます。
2022年冬〜初春に開催されたイベント
”発令!「捷三号作戦警戒」”
を元に描きますので、そこんとこよろしくお願いします(_ _)
※怪我っても死人は出ないよ!(ココ重要)

…ですが、少しグレーな表現も用いるので、無理そうなら読まないでください。
※グロ無し(ココ重要)

基本この泊地の艦娘は、提督好き好き設定でヨロシクです!

尚、この作品は 艦隊これくしょん - 艦これ - の二次創作であります。

キャラクターの人物像も公式を参考にして、著者が独自解釈したものです。

これらを踏まえた上で、お読みになってくださいませ…。


〜今回のメイン登場人物一覧〜

☆提督 
人間 男 20代後半 海上自衛隊出身
任官直前の適性テストの末 艦娘を指揮する提督に着任。(妖精判断なので、基準は不明)

機械弄りと工作が密かな趣味。
多少の事なら自分で治してしまう。

隠れオタク。たまにその片鱗の顔を覗かせる。

多趣味。
守備範囲の広さに驚かれる事もしばしばだが、本人曰く
「何事も興味からの実行の結果。本物から見ればただの器用貧乏」
と苦笑する。

ごく偶にキレると制止してくる艦娘すら引き摺る火事場の馬鹿力持ち。

初の嫁艦は榛名。


☆金剛型 戦艦 3番艦 榛名(改二)
艦娘 嫁艦(練度151) 提督補佐

出会って0.1秒で提督の好みにぶっ刺さった健気な強者。
※ちなみに練度も泊地最強。

普段は遠慮しまくりだが、実はそれが姉妹であっても、目の前で提督と仲良くされるのは面白くない、独占欲は強めな娘。
※だが反応が可愛いのがわかっているので、周りも程々で止めてくれる。

コソコソと料理の特訓を積んでいる(鳳翔談)

提督に対しては感情をさらけ出したら、誰にも手が付けられない程の溺愛。

漠然とだが、やがて提督とのケッコンカッコガチは自分だと思っていたが…?


☆阿賀野型 軽巡洋艦 3番艦 矢矧(改二乙)
艦娘 嫁艦(練度138) 連合艦隊 第2艦隊旗艦

能代同様改二に改装後、覚醒した重巡級スペック軽巡洋艦。
※色んな意味で。

…実はさり気なく提督の好みにぶっ刺さってた娘。

普段は礼儀正しくも強者感漂う風格を滲ませるが、いざ戦闘から離れると、意外とおっちょこちょいな1面を見せる。

今現在、提督が釣り好きなのを知っている泊地内唯一の艦娘である。

提督の事は憎からず想っているが、周りの嫁艦勢に少々気圧され気味。

今回のお話の展開に巻き込まれていく中心人物の1人。


☆長門型 戦艦 1番艦 長門(改二)
艦娘 嫁艦(練度136) 連合艦隊 第1艦隊旗艦

提督と艦娘との距離感の是正を嘆願した嫁艦の1人。

繊細さと豪快さが同居した可愛い麗人。

泊地内でもトップクラスの練度と実力で艦娘達を引っ張る。

その反面、甘い物に目がない。
※辛口・アルコールはNG
特にアルコールが入ると、抱き付き魔・泣き上戸・キュルルンボイスと普段の威厳からは想像出来ない1面が出る。
※尚、その反動で暫く立ち直れない。

提督の事は異性として想っている。


☆長門型 戦艦 2番艦 陸奥(改二)
艦娘 嫁艦(練度134) 連合艦隊 第1艦隊 2番艦

提督と艦娘との距離感の是正を嘆願した嫁艦の1人。

剛が長門なら柔は陸奥。
しかしその戦艦としての実力は、泊地随一の強者の1人。

飄々として提督をあしらっているが、本当は捕まえて欲しいという裏返しの天邪鬼。

ちょっと強引に迫られるとたじろぐ乙女。

長門程ではないが、アルコールを摂取するとデキる女が右肩下がりで乙女度が右肩上がりになる。
※尚、酔が覚めたらケロッとリセットされているクチ。

提督の良き相談相手であると同時に提督を落としたい乙女。


☆基地砲台組
大和型 戦艦 1番艦 大和(改) (練度117)
大和型 戦艦 2番艦 武蔵(改二) (練度105)


☆連合艦隊 決戦艦隊の面々
第1艦隊
伊勢型 航空戦艦 2番艦 日向(改二) (練度120)
翔鶴型 航空母艦 1番艦 翔鶴(改二甲)
(練度135)
秋津洲型 水上機母艦 1番艦 秋津洲(改)
(練度75)
陸軍特種船(R1) 揚陸艦 神州丸(改) (練度98)

第2艦隊
球磨型 4番艦 重雷装巡洋艦 大井(改二)
(練度111)
最上型 1番艦 特殊改装航空巡洋艦 最上(改二特)
(練度125)
特Ⅲ型 駆逐艦 2番艦 Верный(ベールヌイ) (練度98)
朝潮型 駆逐艦 10番艦 霞(改二乙) (練度121)
秋月型 防空駆逐艦 3番艦 涼月(改) (練度98)


☆出迎え組
金剛型 戦艦 1番艦 金剛(改二) (練度121)
阿賀野型 軽巡洋艦 2番艦 能代(改二)
(練度123)
川内型 軽巡洋艦 2番艦 神通(改二) (練度100)
特Ⅰ型 駆逐艦 1番艦 吹雪(改二) (練度107)


☆新着任艦
秋月型 防空駆逐艦 8番艦 冬月
Atlanta級 防空巡洋艦 1番艦 アトランタ


☆明石型工作艦 1番艦 明石
艦娘 未婚艦(練度75) 今回は医務員

泊地のなんでも屋。
時にはアイテム屋・またある時はメカニックのエキスパート。
大淀並みに泊地内を駆けずり回る忙しい娘。
※本人曰く、暇になったら即死する、と言うほどの提督に負けず劣らずの仕事ジャンキー。

戦闘艦ではないがジリジリと練度を上げて来ている。
※演習で護衛対象訓練として演習艦隊に入れられている為。

提督の事は好きだが、どちらかと言うと今はお友達感覚より少し進んだ程度の進捗状況で、周りの嫁艦と提督のやり取りをニマニマしながら見ている。


☆大淀型軽巡洋艦 1番艦 大淀
艦娘 未婚艦(練度91) 事務方の玄人

実質、影の秘書艦。
提督とは明石同様、泊地創設以来の付き合いで、提督の良き相談相手。
ジワジワと上がってきている練度の関係で、提督に心寄せている。

仕事ばかりしていると思われがちだが、自室でのプランター栽培から始まった、家庭菜園が今や複数の艦娘と管理するちょっとした農園を切り盛りしていたりする。

よく秋月型駆逐艦姉妹と農作業をしている風景を、複数人に目撃されている。


☆阿賀野型 軽巡洋艦 1番艦 阿賀野(改)
艦娘 未婚艦(練度95) 普段はだらける聡い子

矢矧の姉だが、普段は真面目な妹、矢矧に頭が上がらず、くどくどと説教される側の長女。

…だが意外と観察眼に長けており、普段は口にしないだけで必要とあればその場に合わせた口調で、はっきり物を言う二面性を持つ。

提督の事は好きだが、嫁艦である能代・矢矧を見ていたら少し気後れして、微妙に距離を置いている。
※だが隙あらば行く気がある。


大筋の登場キャラはこちらになります。


それでは始まります。
「艦隊これくしょん-艦これ- 〜佐伯泊地の日々〜 提督の覚悟編」

……………
…………
………
……



2022.3.18 pm2235
佐伯泊地


「大淀!早急に予備の屠龍で1個中隊編成して、迎撃に当てろ!連日の空襲で熟練度も改修も申し分なしだろ!」

「し、しかし決戦がいつ終わるかわからない最中に資源を大量に消耗してしまいます!」

「資源なんぞまた集めりゃいい!街とこの泊地を守んだよ!皆の帰ってくる家を!佐伯市にも空襲警報を出せ!」


………
……



「よしっ!全機飛び立った!街を…ここを守ってくれよ…!」

「対空電探に感あり!小規模編成ですが、高高度征く爆撃機編隊の機影あり!」

「…おいでなすった…裏をかいたつもりだろうがそうはさせんぞ!」

「…屠龍中隊、会敵!」

「提督よ!我々が砲台になる!弾幕を張るぞ!」

「頼むっ!大和!武蔵!やってくれ!ぶっ放せ!」

「…敵爆撃機、遠ざかって行きます!大和さん、武蔵さん!屠龍隊が弾幕に巻き込まれないようにタイミングを合わせて!」


………
……



「…殆ど追い払ったか?」

「…くっ!1機撃ち漏らしました!」

「どこ行きやがる!畜生が!」


ズドンっっ!ズドドンっっ!!


「うぉっ!!」

「きゃっ!!…は、泊地内に爆弾が着弾!!」

「被害を報告せよ!退避していた娘達は無事かっ!」

「こちら大和!私達は無事ですが、泊地内は爆弾の黒煙が深くて確認できません!」

「ちくしょう、外部カメラのリンクが切れた!通信もイカれた!どうなってる!…大淀、ここを頼む!」

「提督?!外は危険です!」

「提督!待ってください!」

「地べたの中じゃ外がどうなってるかわからん!じっとしていられるか!」


………
……



「ゲホッゲホッ…あぁ…こりゃひでぇ…窓という窓が割れてる…皆はどこだ?!」

「最後の1機に屠龍が張り付いた!頼むぞっ!」

「…こっちかっ!」

「提督!待って!まだ空襲が続いてます!」

………
……


「…くっ…撃てんっ!…くそっ!…ちょこまかと…っ!」

「大和!武蔵!状況はどうかっ!」

「…っ!提督、来ないでッッッ!!」


ズンッ…!バァァァァァァァンっっ!!!


「っ!提督っ!……あ、あぁ……い、いやぁぁぁぁぁっ!!」

……………
…………
………
……



2022.3.20 am 0735
佐伯泊地 連合艦隊
関門海峡を航行中。

北九州の近海まで迫っていた姫級の深海棲艦を退けた戦いに参加していた、佐伯泊地の決戦連合艦隊計12隻と艦隊の真ん中に2隻を挟んだ14隻…更に言えば他の鎮守府や泊地から出撃してきていた他艦隊が関門海峡を抜けてゆく。


長門「…長い戦いだったな…」

陸奥「ええ…本当に…ここまで攻め込まれたのも久々よね…」

翔鶴「…でも…倒せてよかったですね…本当に…」

日向「そして損害は多いが損失は無し…また提督のヤツの株が上がるな」

長門「…しかし泊地との無線交信が深夜以降できん…どうなってるんだ…?」

日向「…あまりにも寝なさすぎて安堵して寝落ち…ま、それはないか…提督と榛名と大淀なら」

翔鶴「でも変です…何かあったのかしら…?…あ、秋津洲ちゃん、神州丸さん、大丈夫ですか?」

秋津洲「ふえぇ…何とか大丈夫かも〜…やっと終わったかも〜…やっぱり戦闘は苦手かも〜…」

神州丸「本船も異常ありません。…対地攻撃が上手く相手方に効いて良かったのであります…」

長門「…そうだ…なんにせよ、皆で戦い生き残って守り抜いたんだ!早く提督にも安心してもらわねばならないな…矢矧、そちらの状況はどうか?」

矢矧「こちら第2艦隊旗艦 矢矧、損害は多いですが、航行に支障なし。解析した2隻の護送にも支障なしです」

長門「了解した…各艦、なにか不具合が出ればすぐに報告しろ!このまま強速を維持したまま佐伯泊地を目指す!対水上対空対潜警戒を怠るな!」

最上「了解!…はぁ…さっすがに疲れたなぁ〜…早く泊地に戻って、のんびりしたいよ〜」

大井「全く人使いの荒い男なんだから…ま、中々良い作戦指揮だったから許すけど…」

ベールヌイ「雷撃が相手方に上手く刺さってよかったよ…今回も良い仕事ができた」

霞「最後の夜戦で全員の魚雷一斉射は壮観だったわ…敵のヤツざまぁないっての」

涼月「…お冬さん、後3時間ほどで私達の所属する佐伯泊地に着きます。きっと提督が出迎えてくれますので、簡単でもいいので挨拶を考えておいてくださいね?」

???「あぁ…そうなのか…余程皆から信頼されている者が長を努めているのだな…早く会いたいな…」


セミロングの銀髪に指先まで覆う白インナーを着用し、秋月型制服の上から灰色のケープコートを1枚羽織っている、艦娘。

秋月型駆逐艦3番艦 涼月はよく容姿の似たもう1人の秋月型駆逐艦に声を掛けていた。

同じく銀髪で涼月よりも更に髪が長く、スラリと伸びた背、凛とした目。

秋月型駆逐艦8番艦 冬月。


先の激戦の果てに解析を果たした新しい仲間だ。

…そしてもう1人…。


???「……」

矢矧「…新天地に緊張してる?」

???「…ちょっとだけ…ねぇ、あなた達の提督さんってどんな人?」

矢矧「ん〜…変わった人だけど…優しくて…私達をいつも勇気づけてくれる人よ」

???「ふ、ふぅん…そう…なんだ」

矢矧「それに、泊地には貴方の同郷の艦娘も沢山いるから安心していいわよ、アトランタ」


茶髪のツインテールにテールの先に錨を模した髪飾りが付いていて服装は、薄手の白いブラウスに特徴的な黒のスカート身につけている艦娘。

アトランタ級 防空巡洋艦 1番艦 アトランタ。

これから訪れる新天地の前に、少し気怠そうな表情は、矢矧のその一言で少し明るいものになった。


アトランタ「そ、そうなんだ…楽しみ…色々ありがと…えっと…」

矢矧「阿賀野型軽巡洋艦 3番艦の矢矧よ、今後ともよろしくどうぞ」


矢矧は航行しながらアトランタに流れるように近寄り並走し、手を差し伸べ握手した。


アトランタ「おおっと…あ…ありがと…よろしくヤハギ…ん…?」


アトランタが右舷に目をやり空を見上げた。


矢矧「…どうしたの?」

アトランタ「Radar contact Aircraft approaching(電探に感あり 航空機接近中)…見慣れない回転翼機が…こっちに来る…」


南から海上自衛隊所属の多目的ヘリ、SH-60Kが重低音を響かせながらこちらに向かってくるのが、彼女達の目に映る。


矢矧「…大丈夫、あれは友軍よ。海上自衛隊のSH-60Kよ…教えてくれてありがとう」

アトランタ「…ん…なら…いいんだけど…」


海峡を通過中の連合艦隊に近付いたSH-60Kは、高度50mに降下し艦隊から直線距離200m程まで艦隊右舷に近づいてから、引き返し高度を上げ、そのまま北九州の街中に降りて行くのを横目に、彼女達はそのまま泊地への航路を辿った。


矢矧「…?」


あのSH-60K、随分変な機動をしていたな…。

…まるで私達を、見に来たような…?

…何で私達に近付いてきたんだろう?

………
……


『…あぁ…無事全員…戦い抜いて…くれたんだなぁ…』

『俺でもわかる…佐伯の…皆だ…』

『…ごめんな…凱旋の時に…居てやれなくて…』

………
……



同日 am 0932
佐伯泊地 連合艦隊
鶴御崎展望台 沖合 東へ1kmの地点を南下中。

鶴御崎を超えれば彼女たちの母港、佐伯泊地はもう目の前だ。


長門「…あぁ…佐伯の街が見えてきた…還ってきたな…」

陸奥「そうね…やっぱり私達にはここの風景が落ち着くわね……?…えっ?」


鶴御崎を越えて佐伯の街が見えて、安堵が広がったのも束の間、佐伯泊地 連合艦隊の面々の目に信じがたい光景が映った。


翔鶴「…泊地から…黒煙が…っ!」

日向「…高高度爆撃機は北九州が標的だったんだろう?…なのになぜ佐伯が燃えてるんだ…?」

長門「憶測を唱えている暇はない!全艦!この長門に続け!第三警戒航行序列(輪形陣)に移行!新たな仲間を囲んだまま、対水上対空対潜警戒を厳とし、第3戦速で泊地に向かう!」

連合艦隊一同「「「「「了解っ!」」」」」


疲労も残る中、再び集中力を高めた連合艦隊は、警戒しつつ泊地へと急行した。

………
……


同日 am 0955
佐伯泊地 連合艦隊
帰着予定時刻より12分早く佐伯泊地に帰還


長門「…なんてことだ…」

陸奥「どうなってるの…」

矢矧「…うそ…」

最上「み…みんな…どこ?」


兎に角最寄りのスロープに連合艦隊全艦が着岸・上陸。

彼女らの前には、地面に大穴が数多口開き、施設の窓ガラスという窓ガラスが吹き飛び、すっかり変わり果てた泊地が広がっていた。


大淀「あぁっ!皆さん!おかえりなさいっ!」


復旧作業中の大淀が帰還した連合艦隊を急いで出迎えた。


長門「大淀、これはどういうことだ!どうして連絡を入れなかったんだ!」

大淀「す、すみません…この爆撃で本部へのホットライン以外の通信設備がすべてダウンして…」

長門「くっ…す、すまない…」

陸奥「…泊地にいた娘達は?!全員無事なの?!」

大淀「は、はい!全員点呼が取れてます!
無事です!今、瓦礫の撤去や復旧に人員を割いてますので、凱旋のお迎えできず申し訳ありませんでした!」

陸奥「そ、そう…ふぅ……よかった…」

翔鶴「…あの…提督は…どちらに…?」

矢矧「…いつもなら出迎えてくれる筈だけど…」

日向「そうだな…いの一番に来るはずだが…」


姉妹や仲間の無事が確認できたのだが…。

…居ない。

いつもの出迎えてくれるあの人の姿が。


大淀「…」

矢矧「…大淀?」

大淀「…て…ていとくは…負傷…されました…」


大淀は詰まった声を振り出すように告げた。


長門「…んなっ?!」

矢矧「…えっ…?」

翔鶴「…あぅ…」クラッ

日向「お、おいっ!翔鶴!気をしっかり持て!」

長門「大淀!提督の容態はどうなんだ?!軽いのか重いのか?!」

大淀「い、命には別状はありません!こちらで容態が落ち着いたところで、早朝に設備の整った北九州の病院へ、復旧したホットラインで要請した海自のSH-60Kで移送されました…」

矢矧「…あ…」


………
……


矢矧『…どうしたの?』

アトランタ『Radar contact Aircraft approaching(電探に感あり 航空機接近中)…見慣れない回転翼機が…こっちに来る…』

矢矧『…大丈夫、あれは友軍よ。海上自衛隊のSH-60Kよ…教えてくれてありがとう』

アトランタ『…ん…なら…いいんだけど…』

………
……


…提督…あれに乗っていたの?

偶然過ぎる朝の関門海峡でのアトランタとのやり取りが、矢矧の頭の中で何度も再生されていた。

…わざわざ着地地点を通過して艦隊に近付いてくるなんて、変な飛び方をしてるなと思ってたのに…。


矢矧「な…なんで…提督だけ…?」

大淀「…それは…」

矢矧「…はっきり答えてっ!!」

大井「ちょっと!矢矧!ちょっとアンタ落ち着きなさいな!」

長門「おい!お前達!仲間割れしている場合じゃない!」

榛名「皆さん、おかえりなさい!…そのことですが、私からの説明させていただきます」


声を荒げる矢矧や大井、長門の声が耳に届いたのか、榛名が撤去作業の手を止めてその場に駆けつけた。

…その榛名の表情は酷く疲れていた。


榛名「大淀さん、ここは私に任せて撤去作業の指示をお願いします」

大淀「は、はい…よろしくお願い致します…」


大淀はそう言うと深々と頭を下げて、一堂のもとを駆け足で離れていった。

…その背中は榛名同様、疲れに満ちていた。


矢矧「榛名…さん」

榛名「…追って説明します。提督は、太平洋上を北上してきた敵爆撃機編隊の別働隊を発見の後、すぐさま屠龍による臨時中隊を編成、泊地に作っていた飛行場より発進させました」

榛名「大多数を屠龍隊が撃破、大和さん武蔵さんの牽制弾幕で近寄らせないようにしていたのですが、生き残りの1機が弾幕網を掻い潜ってきて、泊地を爆撃しました」

榛名「通信網が一時遮断され、地下の作戦指揮所には情報がほとんど入らなくなり、その確認の為に提督自ら地上へ向かいました」

榛名「…指揮を大淀さんに託して、榛名もすぐ提督を追いかけたんですが…そして提督が司令部棟を出た直後に提督の50m左に爆弾が着弾、礫が提督に…あた…って…」

榛名「…提督の側に居たのに…止めることができたのに…止めることができなかった榛名がいけないんです…皆さん…提督を護れなくて…本当に…ごめん…なさい…」


そう言うと榛名は連合艦隊の面々に向かって、深々と頭を下げた。


長門「…辛い事を、話させてしまった…すまん…榛名…時に提督の容態はどうなんだ…?」

榛名「…ぐす…はい…身体機能の欠損はありません…ただ左肋骨3本骨折、左肩脱臼、打撲と切創複数…全治約2ヶ月…とのことです」

陸奥「…それって…」

榛名「…当たりどころが、もし頭だったら…即死でした」

全員「………」ゾワッ…


”一歩間違えれば即死”

その1句が彼女たちの肝を縮み上がらせた。


陸奥「…提督は…ここを発つ前になにか言ってなかったの?」

榛名「…麻酔を射つことを明石さんが進言したんですが、『この痛みを忘れちゃいけないんだ』と言って麻酔を拒否されました…いいのかと問いただしたのですが、『もう泣きそうなくらい痛い』…といつもの調子で返されてしまいました」

長門「…まったく…人の心配も知らずに…あの大馬鹿者…」

翔鶴「よかった…生きてらして…うぅ…」

榛名「…それと『第1艦隊、第2艦隊の凱旋に立ち会えなかったことが自分が怪我した事より辛い』と仰ってました」

陸奥「…そう…少しは自分の心配をして欲しいものね…もう…バカ…」

日向「…これは提督にはもう1つ痛い目にあってもらう必要があるなぁ…帰ってくる時が楽しみだナァ…」

霞「…ったくっ!変な心配させんじゃないわよ!あのクズ司令官!帰ってきたら蹴り飛ばてやんだからっ!」

ヴェールヌイ「…怪我してるとはいえ…無事で…本当に良かった…」ウルッ…

大井「…うふふふ…作戦中に指輪渡しといてこの体たらくとは…よ〜く自分のやった事の重大さを分からせてやるいい機会だわ…」

秋津洲「はわわ…提督は痛い思いしてるんだから穏便にしてほしいかも〜」

神州丸「…早く…会いたい…であります」

最上「はぁぁ…無事って聞いて安心したら急にお腹空いちゃったよ…ん?怪我してるのに無事っていうのかな…これって…?」

矢矧「…アトランタ、冬月」

アトランタ「…?何?」

冬月「ど、どうしたんだ?矢矧…?」

矢矧「あなた達の着任式と歓迎会は提督が復帰した時になるわ…今は旧友との再会と泊地の復旧…あと演習にも出てもらうことになると思う…私はー」

大井「矢矧、アンタはその2人を連れてその娘達を姉妹や同郷に引き合わせてきなさい」

矢矧「…いや、でも…」

大井「…今のアンタ、まともな精神状態じゃないでしょ?少し頭を冷やしてきなさいな…一目見りゃ目がおかしいのがわかるわよ」

矢矧「…はい」

榛名「大井さん…私も手伝います」

大井「…大丈夫なんですか?榛名さん…」

榛名「ええ…それに…提督と約束しましたから…『俺も必ずここに還るから、それまで泊地を頼む』…と」

大井「…そう…ですか…それでは…手をお借りしますね」

長門「…全員、艤装を工廠へ運び、入渠が必要な者は、入渠…あぁ榛名、資源と修復材に余裕はあるか?」

榛名「大丈夫です!幸い貯蔵庫は無傷で修復材も余裕はありますから!」

長門「…そうか…各員、補給と入渠、修復材は遠慮なく使っていいと秘書艦榛名からの言葉だ!さっさと治して泊地の復旧作業に当たるぞ!」

連合艦隊一同
「「「「「了解っ!」」」」」

長門「…矢矧、お前は大井の言う通り泊地の案内も兼ねて、新しい娘達に仲間や姉妹の顔合わせをしてやれ。どうせドックはしばらく混む。艤装は工廠に預けて少し時間を置いてからドックに来るといい…あぁ、涼月、お前も冬月と一緒に居たいだろうから、矢矧と同行してくれるか?」

涼月「は、はいっ!矢矧さん、よろしくお願い致します」

矢矧「…うん、わかったわ涼月…長門さん、承りました」


その後、すぐに秋月型姉妹に遭遇した矢矧は涼月と冬月を任せて、アトランタと2人きりでアメリカ艦がいる場所へ向かった…。


アトランタ「…ねぇ、ヤハギ」

矢矧「…ん?どうかした?」

アトランタ「…艤装…預けてないけど…そのままでどうする気なの?」

矢矧「…あ…」


ぼんやりしていた矢矧は、艤装を工廠に預けるのを忘れていた。


矢矧「…ははは…どうかしてるわね…私…」

アトランタ「…皆、本当に好きなんだね…ここの提督さんのこと…」

矢矧「…」

アトランタ「…本当はそのまま提督さんの所に飛んていきたいんじゃない?」

矢矧「…行ったところでなんて言ってやろうか…心の整理がついてないけどね…」


アトランタの指摘に対して少し当たってるのが癪だった矢矧は、提督に対して無性に腹が立ったあまり、悪態を付いた。


アトランタ「…なんかゴメン…気に障ったなら謝る…」

矢矧「…あ…こちらこそごめんなさい…は、早く同郷の人達に会いたいわよね…こっちよ…」

アトランタ「…うん…(こんなに慕われる提督さんかぁ…早く会ってみたいな…)」


その後、アトランタを泊地に既に所属しているアメリカ艦達と引き合わせることができた矢矧は、その足で踵を返して工廠へ行き、身に付けていた艤装を明石に預けた。

………
……


長門の言っていた通り、ドックはまだ空きそうにない。

矢矧はそのままふらりとまた来た道を辿って歩いた。

…いつも歩いている泊地内の筈なのに、どこを歩いているかわからなかった。

そして気がついたらある場所で足を止めた。


…提督が負傷した正にその位置だ。

何気なしに司令部のある庁舎見上げたら、ガラスというガラスが片っ端から割れた窓と、建物中央の1段高くなっているところに掲げられた、これも蓋のガラスが砕け散った時計が目についた。

その時計は2303時を、指したまま止まっていた。

…私達が夜戦で相手の姫級に、トドメの魚雷を全門投射した頃だ。

その時の情景がつい先程の出来事であったかのように思われた。


矢矧「…?」


…そんな感傷に浸っていたら、何気なく足元に目をやった矢矧は、何かを見つけた。

…赤い…何かが付いた小石が複数個、足元に転がっていた。

そして無意識に膝を付いて”それ”を覗き込んで、手を差し伸べた。

矢矧は不意に”それ”に触れた。


…ドクンっ!!


矢矧「…っっっ?!」ゾクッ


触れた”それ”から嫌な鼓動と共に、矢矧の脳裏に、ある風景が流れ込んできた。

……………
…………
………
……


武蔵『…くっ…撃てんっ!…くそっ!…ちょこまかと…っ!』

提督『大和!武蔵!状況はどうかっ!』

大和『…っ!提督、来ないでッッッ!!』


ズンッ…!バァァァァァァァンっっ!!!


榛名『っ!提督っ!……あ、あぁ…ァ…い、いやぁぁぁぁぁっ!!』

武蔵『この…クソッタレ共がっ…』ギリッ…


ボボッ…バァァァァン…


大和『最後の1機を屠龍が落としました!…提督は…提督は大丈夫なんですかっ!』

榛名『…あ…あァぁ…そん…な…』ガクガク…

武蔵『おいっ!榛名っ!貴様が取り乱してどうっ…す…る……』

提督『』ジワ…

武蔵『…あ…あい…ぼう?』ゾワッ…

大和『…て、てい…と…く…?』ゾワッ…

提督『』ドクドク…


『 … し ん で … る …  ?』


………
……



矢矧「…!ん”ぅぶっ…!ん”ふっ…!ん”ん”っ…!」


唐突、頭の中に流れ込んてきた妙にリアルな映像の直後、矢矧の視界は現実に戻り、目の前がグニャリと歪んだと思ったら、胃の内容物を戻しそうになり、両膝をついて両手で口を覆い堪えようとした。


…提督に決戦艦隊の第2艦隊の旗艦を任されたんだ。

…今度の戦いの決着を付けるために。

…そんな私が。

こんなことで吐いてどうする?!

気をしっかり持て!矢矧っ!

提督は死んでないんだっ!

あの人にこんなみっともないところなんか見せなくないっ!


押し寄せる吐き気を堪えようと必死に両手で口元を抑え込んで蹲っていた矢矧の元に駆け寄る足音が、矢矧の耳に鈍く反響しながら迫ってきた。


???「矢矧!もういいの!吐いていいの!この袋に全部出しなさい!」


『吐いていい』

この言葉を皮切りに矢矧が堪えていたものが、一気に押し寄せた。

………
……



矢矧「ハァ…ハァ…ゲホッ…うぇ…」

???「よく頑張ったわ矢矧…ほら…一滴も残しちゃ駄目!…ふっ!」


グイッ!ミシミシ…


矢矧「んぶぅ…っ!!」


そしてその吐いていいと言ってきた人物に、更に矢矧の肋の溝落に両腕を回されて、強く腕がめり込んだ弾みで、また内容物がこみ上げる。

………
……


矢矧「ゲホッ!ゲホッ!…ハァ…ハァ…」

???「…どう?少しは楽になった?」

矢矧「ハァ…ハァ…も、もう…でない…」


矢矧を楽にした人物は、腰まで伸びた黒髪のロングヘアに肩出しのセーラー赤色のスカート、白い手袋に左足だけの片足ニーソックス。

…矢矧が改二になる前に身に着けていた制服と同じものを身に着けていた。

阿賀野型軽巡洋艦 1番艦 阿賀野

矢矧の2つ上の姉だ。


阿賀野「ほら、口拭いてあげる…口の中気持ち悪いでしょ?水でうがいしてこの袋に出して」

矢矧「…ありがと…」

………
……


阿賀野に肩を貸してもらってその場から少し離れ、司令部棟の窓の割れたガラス片の片付けが済んでいる場所に移り、棟を背面にして複数個置かれている長椅子に腰掛けさせられた。


阿賀野「…だいぶ落ち着いた?」

矢矧「…うん…1人ではまだ立てないけど…」


矢矧は先程、自分が蹲っていた地点をぼんやりと見ていた。


阿賀野「…やっぱり矢矧も例外じゃなかったのね…」

矢矧「…?どういうこと?」

阿賀野「あの場所で、泊地に居た高練度の人達が次々と具合を悪くしてるの」

矢矧「…そう…なんだ…?」

阿賀野「…でも矢矧程ひどい反応は初めて…」

矢矧「…私だけ?」

阿賀野「…今から言う事は私の憶測なんだけどね?…泊地に居た具合を悪くした人達が、気分が優れない程度で済んだのは、提督さんが命に別状なかったことを知ってるし、提督さんの姿も肉声も全部見て感じていたからなんだと思うの」

阿賀野「それに対して、矢矧は作戦から帰還したばかりで、しかも提督さんの姿を一度も見ていない…それに提督さんの生存確認は人伝いの言葉だけ…だから矢矧の中で提督さんが生きていることが、まだ信じられてないんだと思う」

矢矧「…」


阿賀野姉の憶測とはいえ、そう言われると合点がいった。

榛名さんや大淀、それにこの泊地に居た艦娘達は実際に提督が無事を確認してるし、言葉も交わしているし、姿も見てるし、触れた感触もある。

…私を含めた決戦艦隊の2艦隊は、提督の生存は口頭でしか伝えられてない。


阿賀野「それで…どんなものを視たの…?…いやなら無理には聞かないけど…」

矢矧「…榛名さんや…大和や武蔵の目の前で…提督が…血を流して……し…死んでる…映像が…」


…ズキッ!


矢矧「うっ…ぁっ…!」


矢矧の脳裏にネガ反転したその映像がフラッシュバックした直後、太い針が突き刺さるような痛みが頭に走る。

矢矧は頭を抱えて長椅子の上で頭を抱えてのたうち回った。


阿賀野「…!や、矢矧?!」

矢矧「あっ…がっ…あたま…われ…るっ…」

大和「阿賀野さん!矢矧!」

阿賀野「や、大和さん!…ど、どうしようっ?!矢矧がっ!」

大和「落ち着いてくださいっ!…少し手荒な真似ですが、これで落ち着かせます!」

阿賀野「…?!それってなんなんですかっ?!」

大和「大丈夫です!睡眠薬です!」


…プスッ


矢矧「っ!…えっ…ぁ…やま…と…?」


矢矧を襲っていた頭痛が首筋に打たれた薬によってスッと引いたと同時に、彼女の視界はふわふわと雲の上を歩くような、掴めない感覚に陥る。


大和「…矢矧、貴方は今、ひどく疲れてるの…だから…眠りなさい…ごめんね…こんな卑怯な眠らせ方…」

矢矧「あっ…ぅっ…」


何となく大和が言った言葉は聞き取れた矢矧だったが、体内を巡る睡眠薬の影響で意識が濁り、その言葉の意味を考えることを許さなかった。

…薄れゆく意識の中で、矢矧にとって最後に強く残った印象は、優しく…でもその顔には少し影のある大和の顔だった。

……………
…………
………
……


同日 pm 1835


矢矧「…」パチッ


…白い天井だ。

周囲はカーテンに囲まれてて、窓の外は暗い。

…あぁ…ここは…医務室だ。

…大抵の艦娘はそうだが、私は正直この部屋にはあまり厄介になりたくない。

周囲を見渡すと、薬剤のパックが吊るされ、自分の左腕に管を介して注射されて繋がれている。

…何で寝たんだろ…私…。

目はすっかり覚醒して、寝てしまった理由について思い当たる記憶の引き出しを探した。


大和『貴方は酷く疲れているの…だから…眠りなさい』


矢矧「(…思い出した…私…大和に睡眠薬を盛られたんだ…)」

???「…いつまでもそういう訳にはいかないですよね…矢矧も大切な仲間です…それで救われるのなら」

???「…でも…この方法だと榛名さん…」

榛名「…どちらにせよ、私達の中でもはっきりさせないといけないことだったので、それが早くなっただけです…」

???「…それって…本音…ですよね?」

矢矧「…?」


カーテンの向こう側から囁き声が聞こえる。

1人は榛名さん…もう1人は…明石さんかな?

声色はとても慎重で深刻そうな話をしているようだ…。

…私の名前が榛名さんの口から出たけど…私も関係あるの?

小声だからあまり聞かせたくない話なんだろうか…?

榛名「もちろんです。そうなったら提督に皆を愛してもらったらいいんです…私は泊地の嫁艦を集めて、今回の事をちゃんとお話した上で、提督に経過と結論を進言することを望みます」

???「…しかし、提督が首を縦に振ってくれるでしょうか…?…提督は…その…あんなふうに振る舞ってますが、貞操観念はかなり強そうな方ですし…」

榛名・明石「「………」」


…3人目が居た。

…声からして…大淀だろうか?


大淀「それはつまり、提督の人生をこの佐伯泊地に縛り付けることと同義になります…きちんと話せば受け入れてくれるとは思いますが…こればかりは…」

明石「…大淀ぉ…それ言っちゃ駄目だよぉ…話が振り出しになっちゃう…」

榛名「…私も正直なところ、提督が私達の申し出をすんなり受け入れてしまう方が心配です…私達のことになると、提督は苦しくても自分の心を揉み消してしまわれますから…」

明石「…はぁ…提督ならやりかねないなぁ…いつどんな時代でも、何事も変わらないものって無いんですねぇ…」


その言葉の着後に明石さんがギシっと椅子の背もたれにもたれ掛かる音がした。


『どんな時代でも、何事も変わらない物はない』


…少しだけ大きな明石の声で聞こえたこの言葉が、やけに耳に焼き付いて離れなかった。


大淀「…わかりました…では、その話も織り交ぜた上で提督に現状報告をしてまいります。榛名さん、そちらの取りまとめは宜しくお願いします」

榛名「はい、任せておいてください…また明日に執務室でお会いしましょう…では…明石さん、矢矧のこと、お願いしますね?…では私達はお暇します…」

明石「了解しました」


キィ…パタン…


矢矧「…」


…あまり詳しくは聴き取れなかったけれど…。

私に関係する話…よね?

起きてしまったし…気になって仕方がない。


矢矧「…明石さん」

明石「…!矢矧さん、お目覚めですか〜!」


私の声を聞いて、すぐに椅子から立ち上がり、カーテンをサッと開けて先程の潜めていた声から一転、明るい声色で接してきた。

…あぁ…強い人だな…この人も…。


明石「具合はどうですか?良く眠られていたので、幾分楽にはなってると思いますが…」

矢矧「…ついさっきまで榛名さんと、大淀が居ましたよね?」

明石「あっ…」


間が悪いなぁ…聞かれてしまった…どうしよう…。

そんな表情が明石の顔に一瞬見て取れた。


明石「…えぇ、少しお話をしてました」


明石は先程までの軽快さは一気にトーンダウンし、隠さずに先程までの来訪者とのやり取りを認めた。


矢矧「…隠さないんですね」

明石「…いずれわかる話なんで、今話しても大きくは変わりませんから」

矢矧「…じゃあ、変わらないついでに伺います…それは…私に関係する話ですね?」

明石「…あはは…結構聞かれてたんですね…」

矢矧「…こう見えて水雷戦隊旗艦を任されているので、耳にも自信があります…」

明石「…んと…ごめんなさい…少し整理してから伝えたいので、少しだけ時間をいただけませんか?…あまり待たせはしないので…」

矢矧「…は、はい…」


いつもズバッと物言う明石だが、今はとても言葉を選び、伝えることの順番を整理していた。

懸命にどう伝えたらいいか考えている明石を見ていたら、あまり苛ついたりはしなかった。


明石「えと…矢矧さん、貴方は今、心が相当弱ってます。…かなり良くない状態なんです。その事で解決策を講じていたんですが、私達が考えうる一番最善の策を榛名さんが嫁艦の皆さん、大淀が提督に説明する為に今さっき部屋を出たところです」

矢矧「…心が弱ってる?」

明石「…はい、提督を失うんじゃないかという恐怖…とか顔を見ないと不安に押し潰されそうになってる…という感じでしょうか」

矢矧「…私…このままだと…どうなるんですか?」

明石「…最悪、泊地内で矢矧さんは深海棲艦化する可能性があります」

矢矧「…私が…深海棲艦化…?」

明石「私達艦娘と深海棲艦は表裏一体、想いが浄化された者が艦娘で闇に沈んだ者が深海棲艦となる…というのが定説です」

明石「なので今現在、提督の生存を実感できていない矢矧さんは、提督の生死に対してのチグハグで魂が蝕まれ、闇が深まります」

明石「そして、何かの弾みでたまり溜まった心の闇でそのままこの地で…」

矢矧「い…嫌っ!それだけは絶対イヤッ!」


…ここにいる皆に砲口を向ける自分の姿が浮かんだ。

…そしてその砲口が提督にも向く描写か脳裏に浮かぶ。

…背筋が凍った。


矢矧「治す方法は…無いんですか?」

明石「…もちろんありますが1つではありません…まず安直に解体という選択肢が1つあります…もちろん艦娘としての記憶の消失、軽巡洋艦 矢矧とは全く無縁の赤の他人となります」

矢矧「…はい」

明石「2つ目に初期化という選択肢ですね…こちらは軽巡洋艦 矢矧としての魂はそのままですが、今までの提督や泊地での思い出が消失し、今の貴方ではない別の貴方になります…もちろん改二も解消されます」

矢矧「…」


…どっちも嫌だ…。

何か…他にも方法がないの?

藁にもすがる思いで、明石さんの次の選択肢を口にするのを待った。


明石「…そして最後の選択肢…解体も初期化もナシでの解消法がですね…」

矢矧「…」ゴクリ



明石「…提督と肉体関係を結ぶことです」


………
……



矢矧「…は?」


…今、明石さんはなんて言った?

…提督と肉体関係を結ぶ?

…余りにも予想してなかった突拍子もない解決策に呆気を取られたが、徐々にそれが怒りに変わってきた。

…ガシッ!


矢矧「…もしかして…フザケテル?」ユラァ…


自分でも怖い声が出ているのに気が付いた。

気が付いたら、いつの間に立ち上がって明石さんに詰め寄り、胸倉を右手で掴んで吊し上げていた。


明石「や、はぎ…さんっ!…っ!!…殴るならっ…!私の話をちゃんと聞いてからにしてくださいっ!」ギラッ

矢矧「っ!」ハッ


明石さんの目付きが変わった。

…全く情けない…。

私はこの人に八つ当たりして仕方がないんだ。

…最低だ…自分の余裕の無さに吐き気がする…。

…胃の中は空っぽだけど。



矢矧「…ごめんなさい…」

明石「ゲホッ…い、いえ…」

明石「(胸ぐら掴まれた時…矢矧さんの目が青い光で揺らぐのが見えた…ホント結構にマズイところまで来てるのかも…)」

………
……


私は気を取り直して、改めて明石さんの話の続きを聞くことになった。


明石「…先程も言った通り矢矧さんを含めた決戦艦隊12名は、今現在、提督の生存は人伝の口頭でしか知りません…」

明石「しかし泊地に残っていた艦娘達は、提督の姿も感触も声も無事である事を共有しています…そこが泊地にいた皆さんと出撃組と今の矢矧さんの決定的な大きな差です」

矢矧「…阿賀野姉が憶測だけどって言ってたけど、同じ事を言ってました…」

明石「…そういうことは聡いんですよね…阿賀野さんって…何だかんだで言ってても、よく妹を見てくれてるんですね」クスッ

矢矧「…えぇ…」クスッ

明石「…おっと…話が逸れましたね…、で、提督を五感で感じ取れた艦娘達は、心の闇の蓄積が軽減されてこちら側に…艦娘側のボーダーラインに踏み留まれた訳ですが…」

明石「矢矧さん…貴方は心の闇が蓄積したままで、提督を五感では感じてないわ、フラッシュバックは見るわで、精神がズタズタの状態…悪く言うと深海棲艦側のボーダーラインに片足を突っ込んでる状態なんです」

矢矧「…そ、そんなに…酷いんですか?」

明石「…現に私の胸倉を掴んだ時、矢矧さんの目は、薄く青く光ってました」

矢矧「…」サァ…


既に自分が爆弾のような存在であることを自覚した瞬間だった。


明石「…大丈夫です、今の段階では貴方は正常に艦娘です。心が弱っているだけなんです。その心を強くする方法が…」

矢矧「…提督と…するってこと?」

明石「はい…1つ聞きたいんですが、矢矧さんはフラッシュバックする直前に何かに無意識に触れませんでしたか?」

矢矧「…あの時…あ…赤くなった…小石を」

明石「…やっぱり…その赤いの、提督の血です」


…そうだったんだ…。

ぼんやりしてたのに…無意識にそれが提督の血と、わかっていたのかもしれない。

意識が散漫な動きだったけど迷うことなく触れに行ったから…。


明石「…それはつまり矢矧さんが、提督の血に惹かれている…つまり提督を異性として捉え、好意を持ってるという証拠なんです」

明石「…で、矢矧さんは踏みとどまった他の皆さんと違って、自力でボーダーラインの先に出た足を引っ込めることができません…偶然が重なって踏み込み過ぎたんです」

明石「…ですので、提督の血の生成物を矢矧さんの体内に直接入れて、矢矧さんを蝕む闇…不安を強く取り除いて、こちら側に引っ張らないといけないんです」

矢矧「…それって例えば、提督のものを採取だけして私の体に入れさえすれば大丈夫なんじゃ…?」

明石「何言ってんですか?!”提督に”してもらってるって過程をすっ飛ばしたら、なんの意味もないですよ?!」

矢矧「い、いやでも…」

明石「…じゃあ聞きますけど、仮に提督の血の生成物を採取して、飲むなりで体内に注入するなりだけで、それが何かを聞かされてなかったら提督を実感できますか?矢矧さんは満たされますか?」

矢矧「…それが提督のだって聞いていれば…」

明石「…仮に、例えですけど、それが偽りで、他の男性のものだったら?」

矢矧「…」ゾワッ


…ソレが他の男のものだったら…それが私の中に入ると考えただけでゾッとした。


明石「だからちゃんと目の前で提督にしてもらって、触れ合って、提督を矢矧さんの五感全てで感じる過程を経ていることが重要なんです!」

矢矧「…そ、それはわかったけどっ…!…他の嫁艦の皆との関係はどうなるの?!絶対に拗れるじゃないっ!」

矢矧「それに提督がその条件を飲んでくれるか、わからないじゃないっ!」


…あれ?

…何で私、言い訳してるんだろ?

…何で私、声を荒らげているの?

確かに提督から言葉と指輪を貰ったし、ここ最近練度だって更に急に伸びてるし、私は提督が好きだ…。

…でも片思いってこともあるし…。

…そもそも私が提督に好かれるタイプかなんてわからないし…。

…去年の夏に組み伏せて、痛い思いもさせちゃったし…。


明石「…そのことでしたら、もうみんな動き出してます。榛名さんは今回の事態を受けて、嫁艦全員に説明と同意を取り付ける為に、嫁艦を招集して話し合っている頃ですし、大淀は提督への状況報告も兼ねて、この矢矧さんの件も説明をしてもらってます」

矢矧「…う…」

明石「…あー、ちなみに容姿とか性格とかそういうのが提督のタイプか気にしてるなら、矢矧さんに耳寄り情報です。…提督の女性の好みって許容範囲が寛容で、一概にどうとは言えませんけど、矢矧さんって提督的には容姿と性格で言ったら、榛名さんに次いで…いや、ほぼ同格にどストライクですよ…間違いなく」

矢矧「…あの…何も言ってないんですけど…」

明石「…そう?顔に書いてあるよ?」ニヤニヤ

矢矧「…///」


…いつもの工廠でのやり取りのようなノリに戻ってる明石さんに、あっけらかんと言われてしまった。

…恥ずかしい…。

…顔から火が出そう…。


明石「…それと、矢矧さんに提示した救済処置の3択ですが、皆3つ目の線で動いてますから解体と初期化の線は皆に却下されるので、提督に何とかしてもらう案の実質1択でしたね♪あっはっはっ♪」


矢矧「…あぅぅ…///」


…格上練度の艦娘をやり込めたのが、余程痛快だったのか、愉快そうに笑う明石さん。

…悔しいけど明石さんの思考速度と口の達者さは、私では到底敵いそうにないや。


………
……



矢矧と明石が話し合っている同時刻

通信室


大淀「…ということなんです…」

提督『…そうか…皆に心労を掛けてしまって申し訳ない…』

大淀「そんな…お気になさらずに…それと矢矧さんなんですが…」

提督『…矢矧がどうかしたのかい?』

………
……


提督『…そんなことがあったのか…』

大淀「はい…それで救済策が…」

………
……


大淀「…ですので、嫁艦の皆さんの説得は榛名さんが、私はその旨を提督に伝えて決を取っていただこうと…」

提督『…そうか…』

大淀「…すみません…こんな形で決断を迫ることになってしまいました…」

提督『…いやいい…まだ細かい整理は要るけど、実はもう心は決まっててね…』

大淀「…えっ?」

提督『…嫁艦の皆が矢矧との事を許して、認めてくれるなら、俺の一生は最後のその時が来るまで、あの泊地と生きていく』

大淀「て…提督…」

提督『…今の発言、ちゃんと録音しとけよ?逃げ出しそうになったら、スマキにしてでも泊地に連れ戻してくれよ?』

大淀「…いえ、貴方を信じています」

提督『…その信頼には意地でも答えなきゃな…報告は以上かな?悪いけど、この後話をしたい人が居るんだが…』

大淀「は、はい!…あまりご無理はなさらないでくださいね…それではまた明日、同時刻に報告の電話をさせていただきます。…おやすみなさい…」

提督『あぁ…おやすみ…』


…ピッ…


大淀「…提督…ありがとう…ござい…ます…!」


…でも提督が今から話したい人って誰なんだろう?

…ご両親かしら?

………
……


同時刻 北九州市立医療センター


提督「…」

Trrrrrrrr…Trrrrrrrr…Trrプッ…

???『…私だ、どうかしたのかい?〇〇君』

提督「夜分に大変不躾に直接電話をしてしまい申し訳ありません、中将閣下。…少し通話のお時間をいただけないでしょうか?多くのお時間は取らせません」

中将『それは構わんよ…ところで本当に君の身体は大丈夫なのかね?負傷したと聞いているが…』

提督「はい…幸運にもこうして五体満足に現世に留まれております」

中将『今回の件で君は受勲をすることになる。よくあの局面で決断してくれたよ…私からも感謝の意を伝えたい』

提督「…形振り構わずにしたものですから、佐伯泊地の皆には、余計な心労を背負わせてしまいました…提督として失格です…折角のお話ですが、受勲は辞退したいと思っております」

中将『…そうか…そんなに自分を、卑下することはないよ…さて、君の要件を聞こうか』

提督「…はい、実は今、佐伯泊地内で…」

………
……


中将『なんと…そんなことがあったのか…』

提督「はい、なので何としても早急に佐伯泊地に戻りたいのです…いえ、戻らねばならないのです」

中将『…○○君、しかし君の身体は』

提督「当然こんな身体なのでしばらく執務なんてできません。…ですが、せめて彼女達の側に居てやりたいんです。寄り添ってあげたいんです。…幸い少々の治療の経過観察程度なら泊地の設備でことは足ります…どうかよろしくお願い致します…」

中将『…君の覚悟、よくわかった。早急に手配しよう…30分後、病院を発てるよう準備しておいてくれ』

提督「…!有難う御座います…!」

中将『…〇〇君』

提督「…はっ…」

中将『…死ぬなよ?…暫く泊地で安静にするんだぞ?後の事は私の方で体裁を整えておく』

提督「…肝に銘じます…お気遣いに感謝いたします…それではこれより、すぐに発つ準備に入ります。失礼致します…」

中将『うむ…健闘を祈る…では…』


………
……


ツー、ツー、ツー、ツー…


提督「…すまんなぁ…大淀…やっぱ俺は、無理しかできひんのや…堪忍な…」


通話履歴に残った大淀の名前に向かって、自嘲気味に提督は笑いかけるのであった。

……………
…………
………
……



同日 pm 2103
佐伯泊地 医務室


矢矧「…」

何となくぼんやりとベットに横たえながら、明石さんの背中を見ている。

…書類仕事を、しているようだ。

…誰かが側にいてくれるのは、本当に有り難い。


ヴゥーン…ヴゥーン…ヴゥーン…


矢矧「…?」


この泊地専用の端末が震える音が聞こえる…。

…明石さんのかな?

明石さんは書類から視線を外さずに、ものぐさそうに机に置いた端末を手探りで探している。

…惜しい…もうちょっと奥ですよ…そう…そこ…。

明石がやっとのこと端末を手にして、画面を見てから通話ボタンを押した。

…ピッ。


明石「もしもし?大淀?どうしたの?…うん…医務室で事務処理してるけど…」


…電話の相手は大淀か…。

夜も耽ってきたのに…要件はなんだろう?


明石「…はァぁっ?!」

矢矧「…!」ビクッ


突然、明石さんが声を荒らげた。

…一体何が…。


明石「ご、ごめっ!わ、わわわ、わかった!すぐ用意するから!」


…明石さんはあからさまに動揺していたが、悪い方向では無いらしい。

端末の通話機能を切ると、明石さんは今まで齧りついていた書類をほっぽりだして、バタバタと動き始めた。


矢矧「ど、どうしたんですか?!」

明石「矢矧さん?!ごご、ごめんなさい!起こしちゃいましたよねぇ?!」

矢矧「起きてましたから気にしないでください、それで一体何が?」

明石「…20分後…提督がここに帰ってきます」

矢矧「…えっ?」

明石「…提督が!佐伯泊地に!帰ってくるんですよっ!!」

矢矧「………ハァぁっ?!」


…提督が帰ってくる?!

それも20分後に到着って…。


矢矧「な、何でそんなことに…」

明石「大淀との通信の後に連絡したい相手が居たらしいんですけど、その相手が佐世保の中将閣下だったそうで、ヘリ1機を早急に寄越すよう打診したそうです」

矢矧「…っ!」


会える…。

提督に会える!


明石「…矢矧さん、点滴の管外しましょうか?お出迎え…行きたいですよね?」

矢矧「は、はい…お願いしても…」


………
……



「お前が弱いからアイツが無理して帰ってくるんだよ」

………
……



矢矧「…っ」ゾワッ


頭の中で、得体のしれない鈍い声が聞こえた。


明石「…?矢矧さん?」

矢矧「ごめんなさい…目眩がしたので…やっぱり辞めておきます…」

明石「そ、そうですか…ゆっくりしててください…どっちみちここに提督が来ますから」

矢矧「…え?」

明石「大怪我したにもかかわらず、無理やり帰ってくるんですから、しばらくはここで過ごしてもらうことが条件で、帰還が許されたんです」

矢矧「…そ、そうですか」

明石「と、とにかくあんまり時間がないんで、急いで受け入れの準備に取り掛かります。…バタつきますが、矢矧さんはゆっくりしていてくださいね!」

矢矧「…は、はい…」


私との受け答えもそこそこに、明石さんはバタバタとベットメイキングを始めた。

…私の隣のベットで。

…どうしよう…。

どんな顔をして提督に会えばいいの?

………
……


同日 pm 2119
佐伯泊地 屋外ヘリポート


バババ…バババ…ドコドコドコ…ドコドコ…


佐伯泊地から北西の暗闇の空から、軍用ヘリの鈍いローター音だけが、途切れ途切れに聞こえる。


長門「…本当なのか?大淀」

大淀「はい!あのヘリで間違いありません!」

陸奥「…まさか怪我をして、入院しておいてその日に退院なんて…いくら何でも…」

榛名「…皆で支えましょう…提督は覚悟の上で戻ってこられたんです」

金剛「当然ネっ!」

能代「提督…絶対痛い筈なのに…」

神通「…その想い…必ず応えてみせます…!」

吹雪「…うぅ…しれいかぁん…」

霞「……ホントに…バカ…」


ヘリポートには数名の艦娘達が、ヘリの到着を今か今かと待っていた。


バタバタバタバタバタバタバタバタっ!!


次第にローターの重低音は繋がった音となり、彼女らから300mほど離れた場所の空中にに停止した


『…こちら佐世保所属のSH-60K、コールサイン シースキャナー、佐伯泊地、応答せよ』

大淀「…!シースキャナー、こちら佐伯泊地、聞こえます!どうぞ!」

『…たった今、佐伯泊地上空の座標に到着した。…すまないがランディングポイントの指示を頼む』

大淀「わかりました!…皆さん!よろしくお願いします!」

長門「わかった!全艦!探照灯をへリポートに向けて照射せよ!…照射開始!」


バシャ…バシャ、バシャ、バシャン!


ヘリポートの周囲に円陣を組んでいた艦娘達が一斉に中央のヘリポート向けて、探照灯を照射すると、ヘリポートだけ、真っ昼間のように明るく照らし出された。


『…こちらシースキャナー、ヘリポートを視認した。協力に感謝。これよりランディングを開始する』


SH-60Kのホバリング地点から、少し離れた場所が照らし出されたヘリポートだったので、ヘリは捻りこむような機動で、降下と方向転換をして、ヘリポートに素早く近付いてきた。


長門「…相変わらず奇っ怪な動きをする乗り物だな…なのにここまで滑らかに動くとは…」


そのSH-60Kは、ランディング開始から20秒足らずで地上に降り立った。

その無理も無駄もない機動で、静かに降り立つ姿を見て長門は舌を巻いた。


………
……



ヘリパイ「…ランディング完了、300m座標のズレ、高度50m上空から所要時間18秒74で状況終了…地上に控えている佐伯泊地所属の艦娘ちゃん、君達のボスをお届けに来たぜ…悪いが誰か後部ハッチ開けて、このお喋りを引きずり下ろしてくれ」

提督「…はは、誰がお喋りだって?…相変わらずのすげぇ機動だな…」

ヘリパイ「事実だろ?…ま、時化の中でむらさめ型の甲板に着艦する事と比べたら、地べたの着陸なんて楽勝過ぎて欠伸が出ちまうよ…しっかし…」

提督「…ん?」

ヘリパイ「友軍と分かってるけどよ…完全武装した艦娘に取り囲まれるのって、存外怖いもんだな…艦娘が味方で良かったよ…」

提督「…俺にとってはこれが日常だからなぁ…俺には格好良く見えるよ…ありがとう…またお前の操縦するコイツに乗れて嬉しいよ」

ヘリパイ「…はは、あんまり乱用すんなよ?タクシーじゃねぇーんだからよ」

提督「ははは…お世話になりました!」ビシッ

ヘリパイ「あぁ!貴官の健闘を祈る!」ビシッ


ガラガラッ!ガタン!


榛名「提督っ!」

金剛「テートクぅっ!」

提督「出迎えありがとう…!話は後だ!この機は次の任務を控えてるから、ここに長居は無用だ!…すまんが手を貸してくれ!」

榛名「はいっ!金剛お姉様!」

金剛「オーケィ!ゆっくり行きますヨ!」

提督「……ぃぎっ!」ビキッ!

榛名「あぁっ!大丈夫ですか?!」

金剛「そ、ソーリー!」

提督「…悪い、変な声出ちゃったよ…気にしないで…」

他の艦娘達「………」ハラハラ

吹雪「提督、ヘリから離れました!ハッチ閉めます!お世話になりました!」ビシッ

ヘリパイ「いつでもどうぞ!」ビシッ


ガラガラガラッバタンッ!

ヒィィィィィィィン!バラララララララ!!


ハッチを閉めた吹雪もヘリから素早く離れると、ヘリはふわりと浮き上がり20m程上がったところで、今度は捻り上げるような機動で急上昇していき、佐伯泊地を後にした。

その後ろ姿を提督は動く右腕で、直立不動で敬礼をして見送った。


提督「…ふぅ…」

榛名「一堂!気を付けぇっ!」


ザザッ!

提督が敬礼をし終わって一息ついた時、榛名の号令でその場にいる艦娘は、提督に向き直して改めて姿勢を正した。


榛名「…提督が泊地に着任しました!…これより、艦隊の指揮に入ります!」

提督「みんな、出迎えありがとう…よろしく頼む」ビシッ


敬礼する提督の横に控える榛名と金剛、泊地の施設を背に横一列にならぶ艦娘達がピンと背筋を正して立つ。


提督「…すまんが、そのままの立ち位置で楽にしてくれ」

榛名「了解!全員!休め!」


…スッ


提督「…」スタ…スタ…

長門「…」


ヨタヨタと歩きながら真っ先に長門の元に歩み寄った

提督「長門…決戦艦隊、第1艦隊旗艦の大役を見事勤め上げてくれたよ…ありがとう…」


…すっ…


長門「…あ…」


提督は吊るしている左腕を使わずに、右手でそっと長門を抱き寄せた。


提督「過分な心配をかけてしまって申し訳ない…」

長門「…本当に…本当に…提督…なんだな?」

提督「はは…この前長門に貸し出した本の題名全部言おうか?」

長門「…!この…大馬鹿者っ…」


感極まって長門も抱き返した。


長門「あぁ…提督…提督っ…!」

提督「…」


…プルプルプルプル…


長門は抱きしめた提督が震えていることに気が付いた。


長門「…提督?どうした?」

提督「…いっ…たぁ〜ぃ…」プルプル…

長門「あ、あぁあっ!すっすまない提督!胸が熱くなって…つい…!」


つい思うままに普通に抱きしめてしまったので、今の提督には辛かったようだ。

咄嗟に長門は離れた。


提督「いや、誘い水を送ったのは俺だから気にしないで…」

………
……


提督「…陸奥」

陸奥「…」


すっ

陸奥は提督の両頬を両手で覆った。


陸奥「…本当に生きていてくれて良かった…」

提督「…心配をかけたね…」

陸奥「…ホントよ…お姉さんを心配させた埋め合わせはきっちりしてよね?」

提督「…頑張るよ」

陸奥「…」


すると陸奥は顔を提督の耳元まで近付けて、そこで囁いてきた。


陸奥「…体が治ったら、長門と一緒に可愛がってよね?」

提督「…え…」

陸奥「…大事な仲間は…助けたいじゃない?…皆…貴方と同じなんだから…ね?」

提督「…ありがとう」

陸奥「…あなたをうんと抱きしめるのは、その時に取っておくわ」

提督「…お手柔らかに頼みマス…」

………
……


神通「…提督…」

提督「いやぁ…指輪渡しといて、昨日と今日の朝は何も話せないまま、ここを離れてしまって…本当に申し訳ない…」


次に神通に近寄った提督は、頭を掻きながら申し訳無さそうに話しかけた。


神通「…本当に…ありがとう…ございます」


そんな提督を見た神通は深々と頭を下げた。


提督「…なんでお礼を?」

神通「…その怪我で死なないと言っても、お辛い筈です…それなのに無理にでも泊地に帰って来てくださった提督の決意…決して無駄には致しませんっ!」

提督「…俺は…そんな大それたことはしてないよ…ただ…子供みたいな理由だけど…ここが…この泊地とここにいる皆が大好きで…守りたいだけなんだ…でも…ありがとう、神通…」


そう言うと提督は右手を神通の左肩に乗せた。


神通「…えっ?」

提督「二水戦の後輩が危ないって聞いたしな…俺が居るだけで救われるなら、この痛みなんて安いもんさ…」

神通「…はいっ!…提督だけではなく、私達も支えます!…よろしくお願い致します!」

………
……


能代「…提督…!」

提督「…能代、諸々心配で還ってきちまった…って、えぇ…ちょっ…」


次に神通の隣に控えていた能代に歩み寄った能代が急に泣き出したので、提督は戸惑った。


提督「おいおいおい…能代いきなり泣かんとって…」

能代「…ぐすっ…変ですよね…嬉しいのに辛いのって…すみません提督…ぐすっ…」

提督「…能代も皆も気に病む事はないんだ…俺が選んだ事なんだから」

能代「…ですけど…そうなんですけどぉ…ぐすっ…」

提督「…矢矧の事は任しておいて欲しいけど…俺の目の届かないところに居る時は、支えてやって欲しい…できるかい?」

能代「…!…それはもちろんです…ですけど…やっぱり提督が無理されるのは…イヤです…」

提督「…すまんな…一応…俺、男なんでな…大事な人達の前ではカッコつけていたいんだ」

能代「…そんな提督が…嫌いです…ぐすっ…」

提督「…すまんな…こんな奴が上司で…」

能代「…ぐすっ…嫌いです…大嫌いです…ううっ…」


そう言って俯いて垂れた能代の頭を提督は、動く右手で優しく撫でた。

能代もそれを払い除けるようなことはしなかった。

………
……


提督「大淀…申し訳ない…無理するなって言ってくれたけど、無理してでも還ってきた…」

大淀「…いえ…この事をお伝えした時点で、こうなる事を予見できてなかった私の落ち度です…提督はそういう方ですから…」


泣き止まない能代を神通に任せて、次に大淀に歩み寄った提督。

数時間前の電話のやり取りで言われた事を反故にした事を謝るが、大淀はそれを咎めなかった。


大淀「…ですが提督、貴方がしていい無理は今はここまでです…ちゃんと怪我を治す為に養生してください…これは…佐伯泊地所属の艦娘全員の総意です…お願い…します…!」


そう言うと大淀は深々と頭を下げた。


提督「…その約束で中将閣下に無理言って還ってきたからな…必ず守る…当分の艦隊への指揮は秘書艦と随伴で任せたよ?」

大淀「…!…了解…致しましたっ!」


…ああ、つくづく、自分は部下に恵まれているな…。

涙目の大淀に提督は、静かに彼女の方に右手を置いた。

………
……


提督「…霞、今回の夜戦での活躍、聞いてるよ…ありがとう…」


大淀の次にその隣の霞に歩み寄り開口1番に、最後の夜戦の話をした提督だが、その話しかけた霞は、提督の顔を見るとそっぽを向いた。


霞「…ふ、ふん!私は私の仕事をしただけよ!…お、お礼なんか…要らないしっ!」

提督「…そして無事に還ってきてくれて、ありがとう…」


そっぽを向いて目を合わしてくれない霞の頭を提督は優しく撫でた。


霞「…っ!…き、気安く触んないでよ…この…クソ司令官…」


そう悪態を付く霞だが、拒むことはしなかった。


提督「…俺に蹴り入れるのは、怪我治ってからにしてくれよ?」

霞「…は、ハァっ?!死に損ないの怪我人蹴り飛ばす趣味ないわよっ!バッカじゃないの?!」


提督のその一言で感情剥き出しになった霞が提督の方に顔を向けて、まくし立てた。


提督「…ん、それでいい…それでこそ霞だ」

霞「…〜〜〜っ!あぁーっ!もうっ!やっぱりアンタと話すと調子狂うっ!お望み通り、怪我治ったら覚悟しときなさいっ!」

提督「…おう」

霞「(…こんな穏やかな顔したヤツ蹴れる訳ないでしょうがぁ〜っ!…それに…)」

神通「…」ニコニコ

霞「(…蹴ったら私の命がないわ…)」ビクビク


…背後に居る神通の無言の圧力を感じる霞なのであった。

………
……


吹雪「…ひっくッ…し”れ”い”か”ん”…」ダバダバ…

提督「…吹雪、ごめんな…」


霞と神通の無言の会話を見届け、整列した艦娘の最後尾に居た吹雪は、既に号泣しながら直立不動で提督を迎えた。


吹雪「…ひっくっ…ほんとに…戻ってきて…ひっくっ…くださって…良かったです…ひっくっ…」

提督「…吹雪」


提督は吹雪を右胸に抱き寄せた。


吹雪「っ?!し、しれいかっ?!」

提督「…悪い…ハンカチ持ってないから、俺の服で拭いとけ」

吹雪「…ひっく…で、でも…」

提督「…自分の為に泣いてくれる人の涙が、汚いもんか」

吹雪「…っっっ!!」ブワッ


堰を切ったように吹雪は泣き出した。

溜め込んでいたものを全て洗い流すように。

提督は吹雪が泣き止むまで、抱き寄せ続けた。

………
……


吹雪「…ぐすっ…すっきりしました…すみませんでした…司令官…ぐすっ…」

提督「…おぅ…明日からも泊地の復旧作業、頼んだよ?」

吹雪「…っ!はいっ!!」


目は赤く腫らしているが、いつもの元気が戻った吹雪に安堵を覚えた提督は、振り返り、後ろに控えていた金剛と榛名の元に歩み寄った。


金剛「…うぅー…テートクぅ…」

榛名「…ぐすっ…提督…」

提督「…ふぅ…ふぅ…悪いね…二人共…待たせちまって…」

榛名「…も…もう…提督は動かないでください…」

金剛「は、榛名?」

提督「…えっ?」

榛名「…ただでさえ歩くのだってお辛い筈なのに…立ち続けて…皆に声を掛けて…提督の顔色がみるみる悪くなって行くのを見ている事しかできないなんて…榛名…大丈夫じゃないです…」

提督「…榛名…」

榛名「…提督には…今日中にして頂かないといけない事が1つ残ってます…ですので、お姉様と一緒に担架で医務室までお運びします…」

提督「…そうだな…ありがとう…よろしく頼むよ…」


榛名に言われて素直に従った提督は、担架に寝転んでそのまま榛名と金剛に運ばれていった。


提督「…みんなー、明日からの泊地の復旧、頼んだーっ!」


担架で運ばれる提督から、声が聞こえた。


長門「…あぁ!了解した!…あぁ…提督の顔を見て触れただけで…ここまで心が落ち着くとは…」

陸奥「…うふふ…でも、相変わらず締まらないわねぇ…ホントに…ぐすっ…」

神通「…能代?大丈夫?」

能代「…ど…どうしましょう…」

神通「…?」

能代「…私…勢いに任せて…提督の事…大嫌いって言っちゃいましたぁ〜…」

神通「…提督もそれが能代の本心じゃないと、わかってると思うけど…」

大淀「…皆さん、今日はゆっくり寝て、明日からの復旧作業…頑張りましょう!」

霞「…はぁ〜…変に心配して損した…明日も早いんで、寮に帰ります…行きましょ吹雪…ぐす…」

吹雪「あわわっ、霞ちゃん待って!皆さん!明日からの作業、よろしくお願い致します!」


出迎え組の艦娘達は、それぞれの思いを胸に寮に戻っていったのであった。

………
……


同日 pm 2153
佐伯泊地 医務室


榛名「…提督、医務室に着きました」

提督「…おう」

金剛「…テートク、少し動けますカ?」

提督「ベットに移るくらいならどうってことはない…気合で我慢すりゃいいし…」


ガチャ…


明石「提督っ!…おかえりっ…なさいっ…!」


医務室の前までやってきた榛名と金剛と担がれた提督は、ドアを開けた明石に出迎えられる。


提督「…お疲れ様…明石…還ってきちゃった…」

明石「…っ!…ホンっっっっト…提督ってバカですよね…」

提督「…否定できないけど、曲げる気もない…」

明石「…ホントに…ありがとうございます…」

提督「…俺のわがままだよ…礼はいらない…」

明石「…さ、こちらです!」


明石に医務室へ招き入れられた一行は、カーテンで仕切られている隣のベットに向かった。


提督「…」


提督の目はそのカーテンで隠された先が気になった。

…きっと…いや、絶対ここに居る。


金剛「…?テートク?」

明石「早くベットに移ってもらえないですか?」

提督「…金剛、明石…ベットに移ったら、ちょい席外してくれるか?」

金剛「…う、ウン…わかりマシタ…」

明石「…なるべく無茶しないでくださいね?」

榛名「…私も外します」

提督「…いや、榛名は残れ」

榛名「…っ!…は、はい…」


…ガチャ…パタン…


金剛と明石は医務室から出て、提督と榛名…そしてカーテンの先にいるであろう矢矧が部屋に残った。


榛名「…何で私は残されたのですか?…提督…」

提督「…少しの間だけ、杖になってくれ…矢矧の顔を見ておきたい」

榛名「…畏まりました…」


シャッ…


榛名がカーテンの端を掴むと、そっと開けた。

その先には背を向いてベットに横たわっている矢矧の姿があった。


矢矧「…」

提督「…流石に寝ちゃってるかな…」

榛名「…」

提督「…仕方がないな…明日出直す…」

矢矧「…」

榛名「…矢矧…貴方…いつまで寝たふりをしているの…?」

提督「…!」


ガシッ!!グイッ!!


矢矧「…っ!あっ…!」


矢矧の胸倉に伸びた榛名の左腕が彼女の上体を吊し上げ、右手は平手で大きく振りかぶられた。


ガシッ!


「っんぎっ!!?!」

榛名「…え…」

矢矧「…あ…」


大きく振りかぶられた榛名の右手はそのまま振り切られることなく、宙に止まっていた。

榛名の背後から伸びた手によって、矢矧への張り手を阻止された。

その手は信じられないくらいの力で榛名の右手首を掴んでいた。

だが、止められる瞬間、声にならない声が聞こえた。

榛名は、自分の右手を止めた人物を見る為に恐る恐るその方向に顔を向ける。

榛名を止めるられるのは、彼しかいない。

榛名の後ろには彼しか居ないのだから。


提督「…ふぅーッ…!…ふぅーッ…!」ブルブル


脂汗を垂らし、強く息を吐いて痛みを堪えて目を見開いているが、既にその目は涙目になっていて、やせ我慢なのは目に見えていた。

矢矧の反応に対して頭に血が上った榛名は、それを見た途端、一気に血の気が引いた。


榛名「…あ…あぁ…」

提督「…榛名ちょっとこっち来い…矢矧っ!」

矢矧「…っ!は、はいっ!」

提督「…悪い…ちょっと待ってて…絶対起きててくれよ?」


シャッ!


提督はそう矢矧に必要最低限の事を伝えると、一旦カーテンを閉めて、榛名を引っ張ってベットに腰掛けた。


榛名「て、ていとく…」

提督「…悪い…今のは流石に…予測できてたから…そうさせたのは俺のエゴだ…」

榛名「…っ!」

提督「最悪…痛すぎても…泡吹いて気絶する…だけだし…死なないなら…するべきだって…」

榛名「…っ!…榛名はっ!…提督を…お護りできませんでしたっ!」

提督「…」

榛名「…あの時も…側に居たのに…提督の事は全部知ってる気になって…提督をこのような辛い思いをさせて…」

提督「…れ…」

榛名「…そして今も…矢矧の気持ちも考えないで…カッとなって手を上げて…提督を傷付けて…榛名は…榛名は…っ!」

提督「…黙れっ!!」

榛名「っ!」ビクッ


1人で思考の暴走を始める榛名の左肩を右手で強く揺すって、自分の方に意識を向けさせようとする提督


提督「お前の目の前にいる俺は何や?夢か幻かっ?!…ちゃうやろっ?!」

榛名「…うぅ…」

提督「皆のこと全部受け止める為にここに帰ってきたんや!ちゃんと俺を見いやっ!」

榛名「…あ…ぅ…」

提督「…俺の目ぇ見ろやっ!!」

榛名「っ!」ビクッ


目が虚ろだった榛名の目の焦点が、提督の一喝で焦点が合った。


榛名「…てい…と…く…」

提督「…おう…こっちに帰ってきてくれたなぁ…榛名…」


くしゃりと榛名の顔が歪む。


提督「…好きなだけ泣いたらいい…俺が全部受け止めるから…俺じゃ足りんか?」

榛名「うぅ…うぁ…ぁ…おかえり…なさい…」


少しでも彼女の心が癒やされますように。

この温もりが永く伝わり続けますように。

提督はそう願いながら、泣きじゃくる榛名の頭を優しく撫でた。

………
……


榛名「…ぐすっ…吹雪ちゃんの気持ちがよくわかりました…」

提督「…うん?」

榛名「…すごく…すっきりしました…」

提督「…そっか…」

榛名「…あ、で、でも…顔は見ないでくださいね?…今の榛名は…きっと酷い顔をして…あっ」

提督「…笑わへんよ?…この場面でふざけるとかありえへんやろ?」

榛名「…あ…ぅ…///」

………
……


は、榛名…提督の目から…目を逸らせられません…。

………
……


提督「…でも、涙まみれってベトベトでイヤだろう?…顔、洗ってきたらどう?」

榛名「…そ、そうさせていただきますっ!し、失礼しますっ!」

提督「それがいい…あ、榛名」

榛名「な、なんでしょうかっ?!」

提督「もし…良かったらなんだけど…今晩、添い寝してもらっていいかい?」

榛名「…ふぇっ?!///」

提督「…断じてやましい事はしないから…俺も…ここに還ってきたって実感が欲しい…駄目かな?」

榛名「は、はいっ!承りました!それでは榛名は顔を洗ってから部屋の表で控えておりますので、お呼びください!」


ガチャ…パタン…


提督「…今のはヤバかった…」


榛名の目…蕩けてた…。

………
……


…さぁ、気を取り直して…。

提督は痛む左腕脇を堪えながら、矢矧が居るベット周りのカーテンを開けた。


シャッ…


矢矧「…ぁ…」


カーテンを開けた先には、ベットの上で正座して待っている矢矧が居た。


提督「…ごめん、待たせた上に騒がしくしたな…ごめ…」

矢矧「う…ふっ…」ポロポロ

提督「…うぉ、ちょい…マジか…」


顔を見合わせた瞬間、矢矧は泣き出した。


提督「…おいで〜…矢矧」


提督はベットに座ると右手を広げて、矢矧を向かい入れる体制を取った。

矢矧は躊躇うことなく、滑り込むように提督に抱きついた。


矢矧「…提督…ていとくっ…うわ…あぁ…」

提督「…あーもーっ…ウチの精鋭達は皆泣き虫さんばっかりなんかいな〜」

矢矧「…ていとく…ひっく…ありがと…ごめんなさい…どうしたらいいのか…こわかった…の…」

提督「…しんどかったんやな…ごめんな心配させて…俺はここにおるよ…」

矢矧「…うん…うんっ…!」

………
……


子供みたいに提督にしがみついて泣いた。

でも私の心はそれだけで満たされていく。

心に纏わり付いた黒い霧が晴れていく。

今までの胸の苦しみが嘘みたいに晴れていく。

今ならはっきり言える。

私はこの人が だいすき なんだ。

……………
…………
………
……


提督「…あ、俺、さっき出迎えてくれた能代に大嫌いって言われた」

矢矧「…え?」


暫くの時間、泣く矢矧を宥めて落ち着いた時、不意に提督が思い出したかのように呟いた。


矢矧「…それたぶん能代姉の本心じゃないと思うけど…」

提督「…うぉぉぉぉ…出迎えた皆にめっちゃクサイセリフ吐きまくって麻痺ってて、今冷静になって思い出したぁぁぁ…恥ずいぃぃ〜…」

矢矧「…ぶふぅっ!!」

提督「…矢矧の顔見て思い出すとか最低やぁん…はぁ…」

矢矧「あはははっ!ちょっ!今思い出すことじゃないでしょっ?!はは、はっ!ひっ!ひひっ!…お腹痛いぃっ!」


静かな時間だったが、不意をついた呟きがツボに入った矢矧が、お腹を抱えて笑う。


提督「…やっぱり笑ってる顔が一番ええなぁ」

矢矧「はぁ…はぁ…またクサイセリフ…?」

提督「…でも本心やで?」

矢矧「…え…///」


…私は提督の目から目を逸らせられなかった。

…不意にやられた。

…でも提督の穏やかな顔は次第に苦痛の色へと変わっていった。


提督「…ふぅ…ふぅ…」

矢矧「…!提督?!」

提督「…ごめん…ちょい無理しすぎた…疲れた…」

矢矧「もう休んで?!…お願いっ!」

提督「…俺がのびる前に…榛名を外で待たせてるから…呼んでくれるかな…?」

矢矧「…!は、榛名さんっ!」


バタンッ!


榛名「矢矧っ!どうしました?!」

提督「…榛名ぁ…手筈…通り…頼む…ちょい…寝る…か…ら……」

矢矧「…ていとく?」

提督「…すぅ…すぅ…」

榛名「…大丈夫ですよ矢矧…」

矢矧「…あの…手筈…というのは?」

榛名「…矢矧も一緒に提督と添い寝しますか?」

矢矧「…そ!添いぃっ?!///」

榛名「…何か卑猥な事を考えてませんか?…提督は…今はここに還ってきたことを実感したいと仰ってましたから…」

矢矧「そ、そそ、そうですよねっ?!」

榛名「…それも”今は”ですよ?」

矢矧「…え?」

榛名「…提督の怪我が癒えてから…もし求められたら…榛名はお受けします…先程、見つめられたときに…覚悟が決まりました」

矢矧「…」

………
……


提督『…でも本心やで?』

………
……


矢矧「っ!!///」

榛名「…ふふ…脈アリですね…矢矧も女の子ですから当然です」

矢矧「…でもやっぱりそれって…こう…泊地的にはマズくないですか?」

榛名「…みっ!皆でやれば怖くないです!」

矢矧「…榛名さん…たまに言動が提督っぽいですよね…」

榛名「…はぅぅっ!///」

矢矧「い、いや…褒めてないです…」

……………
…………
………
……


2022.3.21 am0458
佐伯泊地 医務室


提督「…」パチッ


習慣とは恐ろしいものだ。

疲れていても勝手に起きてしまう。

…ジワジワと痛む左脇も相まって、寝起きの気分はよろしくない。


提督「…」


左肩を上にして横になっている提督に対して、ぴったり寄り添う人物のお陰で寝返りはおろか、動くことすら憚られた。

前には榛名、背後には矢矧。

………
……


…あれ?

榛名さん…今は手を繋ぐ程度のつもりだったんですが…。

…それに矢矧さんや、なんでベッドをくっつけてさり気なくこっち来てるのかしら…?

…しかしこの姿勢は大変宜しくない。

…ひじょーに宜しくない。

…こう…大人の事情的に…。

しかし前の榛名に右手を取られ、背後の矢矧は左手を腹部に回され、拘束されてる訳でもないのに動けない。

…なんとか脱出せねば…。

もぞもぞ…


榛名・矢矧「「…んっ…」」

提督「…(…チクショーっ!2人共可愛いかよぉぉぉぉぉっ!)」


形容し難い魅力に悶る提督。

しかしその悶絶の時間は突然終わりを告げる。


…ぐぅぅぅぅぅぅぅ…


…お腹鳴った?

…俺も減ってるけど、今のは俺のじゃないぞ?

そう思っていた提督とは他所に、前後で添い寝していた2人はのそりと上体が起き上がり、2人して顔を見合わせた。


榛名「…お腹…」

矢矧「…空きましたよね…」

提督「…(…助かった…)」


そっと離れていく2人に安堵した反面、少し寂しく思った提督だが、取り敢えず寝た振りをしてやり過ごす。


…なでなで


そんな提督を知ってか知らずか、榛名は左頬を、矢矧は左脇腹を撫でてきた。


榛名「…ふふ…何か手軽に食べれるものを持ってきますね…」

矢矧「…すぐ戻るから…ね?」


2人はそう言うと部屋を出ていった。

直接顔を見た訳じゃないが、2人が微笑んでくれていたのが、はっきりと提督の脳裏に浮かんだ。


提督「…」


提督は念願の寝返りを打って、仰向けになって天井を見上げた。

そして先程2人に撫でられた場所を撫でてみた。

………
……


提督「…やっぱりここに還ってきて…良かった…」ポロポロ

………
……


…人知れず静かに泣こうと決めていた提督だったが、思いの他に早く帰ってきた2人に見事にバレて、盛大に動揺されたのは完全に余談である。

……………
…………
………
……


皆様、長文お疲れ様でした!

今回は描きたいように描いたお話でした!
※イベント完走された提督の皆様、お疲れ様でした!

少し重めに書いたつもりでしたが、やっぱり終わりはいつもの調子です(笑)

こんな調子ですが、まだまだこのシリーズの構想があります。
※妄想はフリーダムだからネ!w

なので、もし空いた時間に暇つぶし程度でも構わないので、読んでいただければ幸いです。

それではまたどこかで!(_ _)
Posted at 2022/04/15 23:40:37 | コメント(0) | トラックバック(0)
2022年04月15日 イイね!

艦隊これくしょん -艦これ- 〜佐伯泊地の日々〜 今日の佐伯泊地 提督の誕生日編

艦隊これくしょん -艦これ- 〜佐伯泊地の日々〜 今日の佐伯泊地 提督の誕生日編皆さん、おはこんばんちは!
Σ∠(`・ω・´)

そして、同業の皆様、本日もお疲れ様です!

さてさて、今回のお話は冬の提督と艦娘のある1日を描きたいと思います。

尚、過去作は下記のURLで開いていただければ、このみんカラ内のブログとして掲載されている物が閲覧できますので、もし宜しければどうぞ〜(_ _)


プロローグ ♯1 午前編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44104145/

♯梅雨の日編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44223073/

♯夏の黄昏編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44271814/

♯夏休暇 初夜編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44785551/

♯夏休暇 1日目♯1
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44889139/

♯夏休暇 1日目♯2
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45141124/

♯夏休暇 2日目
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45185889/

♯夏休暇 3日目
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45796679/

♯冬編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45826901/


毎度ながらの超長文となりますが、気長にお付き合いくださいませ…。

流血・略奪等の暗い話は描かず…でもたまには真剣な表情を描いて行きますので、そこんとこよろしくお願いします(_ _)

基本この泊地の艦娘は、提督好き好き設定でヨロシクです(笑)

尚、この作品は 艦隊これくしょん - 艦これ - の二次創作であります。

キャラクターの人物像も公式を参考にして、著者が独自解釈したものです。

これらを踏まえた上で、お読みになってくださいませ…。


〜今回のメイン登場人物一覧〜

☆提督 
人間 男 20代後半 海上自衛隊出身
任官直前の適性テストの末 艦娘を指揮する提督に着任。(妖精判断なので、基準は不明)

機械弄りと工作が密かな趣味。
多少の事なら自分で治してしまう。

隠れオタク。たまにその片鱗の顔を覗かせる。

多趣味。
守備範囲の広さに驚かれる事もしばしばだが、本人曰く
「何事も興味からの実行の結果。本物から見ればただの器用貧乏」
と苦笑する。

ごく偶にキレると制止してくる艦娘すら引き摺る火事場の馬鹿力持ち。

初の嫁艦は榛名。


☆加賀型航空母艦 1番艦 加賀(改二)
艦娘 嫁艦(練度145) 今週の秘書艦

提督と艦娘との距離感の是正を嘆願した嫁艦の1人。

佐伯泊地の青鬼と赤鬼と揶揄されるが、本人は不満ありあり。

今週の秘書艦を水面下で提督の誕生日作戦遂行に必要な航空母艦の索敵能力と通信能力を生かすために、この日に合わせて秘書艦となった。
※尚、本来の秘書艦に代わるよう頼み込んだ上で、最後は間宮券で説き伏せた(笑)

提督が異性として好き。

だが普段の仏頂面が災いして、嫁艦嘆願以前程ではないものの、今だにお堅い印象があることが本人の悩み。

赤城同様、食べるのは大好き。
お酒は好きだが量は飲めない。
呑んだ時位しか提督に甘えられない。


☆第2艦隊 哨戒隊
龍鳳型 航空母艦 1番艦 龍鳳(改二)(練度96)
長良型 軽巡洋艦 5番艦 鬼怒(改二)(練度95)
陽炎型 駆逐艦 11番艦 浦風(丁改)(練度97)
陽炎型 駆逐艦 12番艦 磯風(乙改)(練度94)
陽炎型 駆逐艦 13番艦 浜風(乙改)(練度94)
陽炎型 駆逐艦 14番艦 谷風(丁改)(練度97)

哨戒から帰ってきた艦隊。

因みに全員未婚艦。

…が、皆練度では泊地内上位に位置する艦ばかり。
提督への好感度は第一次のカンスト間近。

軽空母の龍鳳(改二)は、改二改装を経ると一気に練度が上がり、速力が低速から高速になったことで、作戦によく組み込まれるようになり、洋上ではとても逞しくなった。

潜水母艦の時に生活を共にした潜水艦達とは今も交友がある。


軽巡の鬼怒は、普段は明るく振る舞う無邪気なお姉さんだが、ここぞという時にはやってくれるムードメーカー。

提督の前ではあっけらかんとしているが、それは好意の裏返し。


駆逐艦4人は同じ第十七駆逐隊所属で、よく編成にヨンコイチで組み込まれる、仲のいい4人組。
特に対空対潜能力のバランスがよく、各作戦・遠征・哨戒には提督も重宝している。


☆佐伯泊地広報担当
青葉型 重巡洋艦 1番艦 青葉
艦娘 未婚艦(練度92) 

障子に穴あり目あり耳あり。
泊地のミスパパラッチとは青葉の為にある異名(笑)

泊地では古参重巡の1人で、練度以上に物事に達観した一面を持つ。

一度狙った写真は外しません、プロですから。
※乱写はレリーズの無駄な消耗と嫌う。

提督の事は好きだが、茶化して誤魔化す。


青葉型 重巡洋艦 2番艦 衣笠
艦娘 未婚艦(練度92)

暴走気味の姉に対して冷静な妹衣笠は、まさに反面教師。

今回も青葉の監視役として、セットで呼ばれる苦労人。

ウインクの申し子、チャーミングなお姉さん。

泊地への着任も早い段階での加入もあって、よく新着任の娘の面倒も見る、面倒見の良い一面がある。

提督の事は好き。
※好意は割と素直にぶつける娘。


☆出迎え組
阿賀野型 軽巡洋艦 3番艦 矢矧(改二乙)
艦娘 嫁艦(練度125)

能代同様改二に改装後、覚醒した重巡級スペック軽巡洋艦。
※色んな意味で。

…実はさり気なく提督の好みにぶっ刺さってた娘。

普段は礼儀正しくも強者感漂う風格を滲ませるが、いざ戦闘から離れると、意外とおっちょこちょいな1面を見せる。

今現在、提督が釣り好きなのを知っている泊地内唯一の艦娘である。

提督の事は憎からず想っているが、周りの嫁艦勢に少々気圧され気味。


長門型 戦艦 1番艦 長門(改二)
艦娘 嫁艦(練度133)

提督と艦娘との距離感の是正を嘆願した嫁艦の1人。

繊細さと豪快さが同居した可愛い麗人。

泊地内でもトップクラスの練度と実力で艦娘達を引っ張る。

その反面、甘い物に目がない。
※辛口・アルコールはNG。
特にアルコールが入ると、抱き付き魔・泣き上戸・キュルルンボイスと普段の威厳からは想像出来ない1面が出る。
※尚、その反動で暫く立ち直れない。

提督の事は異性として想っているが、過去に突き飛ばした経緯もあってか、それが負い目で間合いが詰められないでいる。


古鷹型 重巡洋艦 1番艦 古鷹(改二)
艦娘 未婚艦(練度97)
提督の良き理解者の1人で泊地における最古参重巡。

慈愛に満ちたオーラで何でも包み込んでしまう大天使。

…故に天然なところもあるが、最早それがいい(笑)

提督の事は異性として好きで、練度以上に提督のことを考えて行動しているが、自制心が強い為、恋愛沙汰には少々ためらい気味。


白露型 駆逐艦 2番艦 時雨(改二)
艦娘 嫁艦(練度115) 
泊地における筆頭ボクっ娘。

作戦中は冷静さと心の熱さを併せ持つ。

…が、それ以外での提督の前での態度は、まさに子犬、めちゃくちゃ構って欲しい娘。

感情の表情の抑揚が小さいので、割と感情はよく見ていないと見落としがち。

他の白露型の娘達(主に前後の娘)は割とグイグイ行くのを傍観して、加わるのはためらう。
…提督との一対一でも遠慮が多い。

提督の事は異性としてみているが、上記の事から一歩が踏み出せないでいる。


☆金剛型 戦艦 3番艦 榛名(改二)
艦娘 嫁艦(練度150) 第一嫁艦

出会って0.1秒で提督の好みにぶっ刺さった健気な強者。
※ちなみに練度も泊地最強。

普段は遠慮しまくりだが、実はそれが姉妹であっても、目の前で提督と仲良くされるのは面白くない、独占欲は強めな娘。
※だが反応が可愛いのがわかっているので、周りも程々で止めてくれる。

コソコソと料理の特訓を積んでいる(鳳翔談)

提督に対しては感情をさらけ出したら、誰にも手が付けられない程の溺愛ぶり。


大まかな登場人物は以上となります。


それでは始まります。


艦隊これくしょん -艦これ- 
〜佐伯泊地の日々〜
「提督の誕生日編」

……………
…………
………
……


0900時 執務室

提督「…よし、この編成で変更で出撃の指示を出してくれ」

加賀「わかりました…第4艦隊に通達しておきます…では提督、次はこちらの書類の処理を宜しくお願いします」

提督「わかった…どれどれ…」


新年が明けてから数週間後の今日。

朝の泊地はいつも通り慌ただしい。

…天気は…曇天。

九州に位置するここ佐伯泊地では、珍しく午後には雪が降り出し積雪の予報が出ている。

底冷えのする朝となっていた。


提督「…お、0915…もうすぐ第2艦隊が哨戒から帰ってくるな…」


その作業の最中、提督は部屋の古時計を見て、帰ってくる哨戒艦隊の帰還予定時刻が頭を過ぎった。


提督「…よし、手元の書類はある程度は片付いた…出迎えに行ってくる…すぐ戻るよ」

加賀「わかりました…それと…これね?私が入れ替えますので」


そう言うと加賀は、部屋の片隅に置かれた灯油のアラジンヒーターの上に置かれた、お湯の張った鍋に入ったヤカンを引き上げ、魔法瓶のポットにヤカンの内容物を移し替えた。

濛々と立ち上がる湯気。

その内容物の正体は熱い焙じ茶だ。


加賀「…ふぅ…良い香り…少し加熱し過ぎているので、外で少し冷ましますね」


そう言って、提督が部屋を出る準備をし終えた加賀は、ストーブを切った。


加賀「…火元の鎮火ヨシ…提督、お供します」

提督「…いいのかい?」

加賀「ええ…凍えた娘達に温かいものを届けたいのは、私も同じですから」

提督「…ありがとう加賀」


外套を着込んだ2人は、執務室の火元と電気を落とし戸締りをしてから、執務室を一時退出した。

廊下は閑散として冷え冷えとしており、誰一人歩いていないので、2人の足音がやたらと反響して誰もいない世界に取り残されたかのような雰囲気を醸し出す。

その廊下を抜けて2人は、司令部棟正面口のドアを開けた。

…すると冷えた風が、一気に廊下内に押し寄せた。


提督「ふぉぉっ…落差で余計さっっっむっ!」

加賀「…冷えますね」


空は濃い灰色に一面覆われており、これから雪が降るんだという予感を容易にさせた。


提督「…こりゃ雪が降るの早まりそうだな…哨戒隊、降られてなきゃいいけど…」

加賀「…その可能性は高いわね…呉では既に雪が積もり始めているそうよ」

提督「そうかぁ…第2艦隊の娘達の顔見てから、報告書は風呂で温まってからにしてもらおうかな…」

加賀「…それだともし何かを急な事例を持ち帰っていたら…」

提督「だから”顔見てから”って言ったんだよ」

加賀「…あまり無理はしないで…貴方の気持ちは皆知っているのだから」

提督「…わかってもらっているからこそ、甘えたくないんだよ」

加賀「…意地っ張り…」

提督「…一応、男なんでね」


提督はそう言うとニカッと笑ってみせて、寒さに慣れてきた体を奮い立たせて、哨戒隊の帰ってくるスロープへと歩き出す。

…少し歩くペースが上がった提督の2歩後ろを歩く加賀は、その距離を保ちながら提督の背中を見ていた。


加賀「(…貴方はいつもそう…あれから随分打ち解けてはくれたけど、“自分から“甘えに来てくれる事はほぼないのよね…)」

加賀「(…提督…覚えていますか?今日は貴方の誕生日なのよ…?)」


…そう。

…今日は提督の誕生日。

…だがその当人はあまり関心がないのか、ここ数日の彼の言動や行動を見ていても、いつもと変わらない。


加賀「(…正直なところ…甘えてほしいのだけれど…)」


…前にそれとなく本人に誕生日について聞いたことがあった。

…すると提督は。


提督『この歳になって祝うでもないだろう…男一匹が1つ年を食うだけなんだから』


…と、言われた。


加賀「(…そのくせ、私達の進水日は外さずに何か贈るのよね…わざわざ艦歴を調べて…)」


…何でだろう?

加賀は自分が無性に腹が立ってきたことに気が付いた。


加賀「(…せめて今日の晩くらいは楽しんで欲しい…この泊地の艦娘全員でしてあげたいわね…)」


そう決意しつつ提督の背中を追う加賀なのであった。

………
……


0925時 佐伯泊地 2番スロープ


提督「…艦影見ゆ…軽空母1、軽巡1、駆逐4」


提督は岸壁に立って、双眼鏡を覗きながら水平線に姿を確認した。


提督「…龍鳳もだいぶ旗艦に慣れてきたな…改二になってから練度が上がるに連れて益々磨きがかかってきてる」

加賀「ええ…これならスロープまで4分30秒後に着岸ね」

提督「だね…加賀、お茶の準備しようか」

加賀「了解」

………
……


龍鳳「第2艦隊、及び空母龍鳳、欠員なく帰還いたしました!」

提督「ご苦労様。0930時きっかりに帰還だ。緊急の案件は発生してないかい?」

龍鳳「はい!緊急の案件はありません!瀬戸内海に水上の敵艦影は皆無で、敵潜の隻数も撃破数も報告通りです!」

提督「ん、お疲れ様…お?」

龍鳳「…?如何なさいましたか?」

提督「…雪に降られたのかい?」

龍鳳「…え?…は、はい…少しだけ…」

提督「…少し?…みんな、じっとして…加賀、俺の後で温かいお茶を渡して貰っていいかな」

加賀「承知しました」

第2艦隊の面々「???」


そう言うと提督はタオルを人数分片手に哨戒隊に歩み寄った。

まずは旗艦の龍鳳から。


龍鳳「て…提督?…わぷっ!///」

提督「どこか少しだよ。頭にこんなに雪に乗っけておいて…ったく…」


提督はそう言うとタオルを龍鳳の頭に被せて、ワシワシと拭き始めた。


提督「詳細報告は風呂で温まってからでいいから…お疲れ様」

龍鳳「わぷぷっ!///り、了解しましたぁ〜///」

加賀「龍鳳、お疲れ様…熱いお茶よ」

龍鳳「あ、加賀さん、お心遣いありがとうございます!」

加賀「いえ、これは提督の主示しよ。私はそれに付き合っているだけだから、気にしなくていいわ」

龍鳳「…提督って…今日…誕生日…ですよね?」

加賀「…ええ、当人は殆ど意識してないようだけれど…」

龍鳳「…やっぱりそうですか…」


そう加賀に言われた龍鳳は、少ししょんぼりとした。

哨戒隊の1人1人に手早くタオルを引っ被せては、労いの言葉をかけながら髪の毛をワシワシと拭いている提督を、加賀と一緒に見つめながら…。


龍鳳「…いつもしてもらってばかりですごく申し訳なくって…嫁艦の皆さんは何が考えてるんですか?」

加賀「ええ、抜かりはないわ…せめて一晩は提督に何も考えずに楽しんで貰う予定よ…もちろん…泊地のみんなにも協力はしてもらうのだけれど…」

龍鳳「も、もちろんです!」

鬼怒「…か、加賀さぁ〜ん…お茶いただけないっすか〜?」


龍鳳と話しているうちに提督は、最後の駆逐艦の娘にタオルを被せて、髪の毛をワシワシしている最中で、龍鳳の補佐を務めた鬼怒がお預けを食らった子供のような表情で、加賀に熱いお茶を渡すように催促した。


加賀「…ごめんなさい…お疲れ様、鬼怒。熱いお茶を飲んで」

鬼怒「はぁ〜有り難や有り難やぁ…ずずっ…んぁ〜っ沁みるぅ…パナイ〜…///」

加賀「…十七駆の皆も、飲んで頂戴」

浦風「ありがとー加賀さん…はぁ〜…ばり温まるわぁ…///」

磯風「あぁ…流石に手足が悴む寒さだったからな…この熱さは堪えられない…///」

浜風「ありがとうございます…ずずっ…ほぁ…美味しい…この後のお風呂も…楽しみね…///」

谷風「くぁ〜っ!こいつぁ〜ありがてぇ…五臓六腑に染み渡るねぇぃ…///」


青い髪を肩甲骨辺りまで伸ばし、左右にお団子結で頭の上には白の帽子を被り、その喋り口はほんわりとした広島弁。
陽炎型駆逐艦 11番艦 浦風。

黒々とした長髪を腰下まで伸ばし、顔の左右の髪の先端を縛り、口調は何処が無骨さを滲ませる艦娘。
陽炎型駆逐艦 12番艦 磯風

ショートヘアの銀髪で、前髪で右目は隠れているが、左目側の前髪は金色のヘアピンで留められ、礼儀正しくハキハキと喋る艦娘。
陽炎型駆逐艦 13番艦 浜風

黒髪におかっぱ頭で、その頭には白のカチューシャを付けて、江戸っ子のような気風のいい口調で話す艦娘。
陽炎型駆逐艦 14番艦 谷風

その十七駆逐隊の面々も両手でコップを持って、手を温めながらちびりちびりとお茶を飲んでいる。

彼女らの暖かさに対する感極まった溜息と一緒に、口から濛々と白い息が寒い外気へ放出される。


提督「…よし、皆にもお茶まで行き届いたな。改めて皆も寒い中お疲れ様。この後は皆はゆっくり風呂に浸かって体を休めてくれ」

第2艦隊の面々
「「「「「「了解っ!」」」」」」

………
……


鬼怒「…今日、提督の誕生日だよねぇ…」


風呂に向かう第2艦隊の道中、鬼怒が提督が近くに居ないことを確認の上で、みんなに話しかけてきた。

浦風「…そうじゃなぁ…提督さんは何して欲しいんじゃろうか?」

磯風「むぅ…なまじ料理が出来る故、ちょっとやそっとの事では、司令は喜ばないんじゃないだろうか…?」

浜風「…磯風、貴方は料理だけはやめておきなさいね。司令が体調を崩されてはいけないので…」

磯風「ぐっ…み、身の程はわかっているっ!」

谷風「…浜風ぇ…あんた露骨に言うようになったねぇぃ…そうだねぇ…提督ってあんまし私情の自己主張しないからねぇ…」

龍鳳「(あ、やっぱりみんな考えてることは同じなんだ…)」

浦風「鬼怒さん、他の人から何かきぃーとるん?」

鬼怒「由良姉の話だと今夜食堂で宴会をするみたい…もちろん未婚艦も参加自由!」

磯風「…?その割には普段と変わらない様に感じるが…?」

鬼怒「サプライズしたいんだろうね…だからあたし達には、出来るだけ普段通りに過すように言われてる」

浜風「…嫁艦の皆さんが何が動いていると?」

鬼怒「そーそー、加賀さんが秘書艦なのは、提督の行動を逐一他の嫁艦に知らせる為でもあるみたいだね…」

谷風「う”ぉっ…思った以上にガチなやつじゃねぇか…嫁艦増えたもんねぇ…提督一人を落とすのに皆本気過ぎやしねぇかい?」

浦風「そりゃ当然じゃ、ウチかて未婚やけんど、提督さんに何かしてあげたいもん」

谷風「…まぁ、その点は否定はできないねぇぃ…」

磯風「…私には…司令に何かをする事すら許されないのか…」

浜風「っ!ほ、他の事を考えましょう!まだ夜まで時間がありますから!一緒に考えましょう!ね!ね?!」

鬼怒「…まぁ、一昨年みたいなことにはならないと思うから、みんな安心していいと思うよ…うん…」

十七駆「「「「う”っ…」」」」

龍鳳「…あぁ…悪夢でしたね…アレ…」

鬼怒「…あ、龍鳳は知ってるんだ…」

龍鳳「はい…泊地の運用が軌道に乗りだして、皆さんの心のゆとりができ始めた頃の話ですから、人である提督に対してどこまでしていいか加減がわかってなかったので、暴走しましたからね…その時は私は外野でしたけどよく覚えてます…」

鬼怒「ま、去年は流行病の件もあったし、有耶無耶にされちゃった感があったしねぇ…とにかくお風呂で温まりながら考えようよ…お風呂なら提督に聞かれることもないし」


鬼怒の提案で哨戒隊は話しながらダラダラ歩いていたのが、目的が決まると足早に入渠・風呂場スペースに向かっていくのであった。

………
……


1100時 執務室

提督「はい、こちら佐伯泊地…教官!いえ、〇〇中将!ご無沙汰しております!…いえ、こちらは変わりなく…はい…」

加賀「…」

提督「…テレビ局の取材?…はい…うちの泊地で…ですか?」


…取材?

珍しいこともあるものだ。

提督の受け答えを聞いている限り、相手は階級の上の上官のようだ。

規模や名前だけで言うなら横須賀や舞鶴、呉、佐世保が妥当なのにこんな辺境の泊地に?

取材という名のスパイや偏向報道の類いではないかと、加賀は内心で警戒のレベルを上げた。


提督「…よく検討の上で返答させていただきます…はい…それでは、失礼致します」


…カチャ…

提督は静かに受話器を元の場所に戻した。


提督「…はぁ〜…なんでまたうちが取材なんだか…」

加賀「…電話主は上官ですか?」

提督「うん…俺が任官時に艦娘の指揮者研修の時にお世話になった上官だ…今は佐世保で実働部隊の指揮を執っておられる」

加賀「…そう…テレビの取材と聞こえたけれど?」

提督「そうだね、内地では相変わらず、深海棲艦と和解せよとか戦争反対とか喚いている人間が少なからず居るからな…」

加賀「…ふむ…」

提督「おまけにそういう連中が、何も知らない人間を焚き付けて”女を戦争に行かせるのか”とか”人権がー”とかそういうのを今だに吹聴してまわっているしなぁ」

加賀「…嘆かわしいわね」

提督「ぶっちゃけ、俺ら男が出て戦果上げられるんだったら、とっくに出とるわって話なんだがね…通常兵器は当たらん効かんでは…で、政府は大本営に打診して、艦娘は怖くない、皆を護る為に頑張ってるっていう事を伝える番組を企画したいと言う話だ」

加賀「…で、取材の内容はどういうものなの?」

提督「泊地に3日密着して、艦娘達の日常を撮るのと、数人艦種別でインタビューを撮りたいって話だったよ」

加賀「…そう…提督はどうするつもり?」

提督「正直迷ってる…一般人の方に理解を深めるって点ならやるべきだね。…でもなんかこういうことってどこまでの範囲を見せれば良いのか分からなくて、踏み出す足が上がらないって感じかな…機密事項も多いし…」

加賀「…そう」

提督「…加賀は意見あるかな?」

加賀「…私?…そうね…受けるべきじゃないかしら」

提督「…ふむ」

加賀「第一にそれで提督の仕事がやりやすくなるのなら、私達は喜んで貴方に協力するわ」

加賀「それと、私達も一般の人々がどんな反応を示すか観てみたい…いい結果も悪い結果も…もし何もしなかったら誤認識だけが先行して、あらぬ誤解も生みかねないから…」

提督「…踏み出すべき…と」

加賀「とは言っても、あまり俗世のことはよく知らないから…怖くもあるわ」

提督「そうか…まだ返答には時間があるから、皆にも話してみるか…」

加賀「そうね…視点の違う意見は大事よ…それに…」

提督「…?」

加賀「私達にとって…ここが…還る家だから…大切にしたいし、大切な場所が誤解されるのはもっと嫌…」

提督「…そっか…」

加賀「…なんですか?」

提督「いや、”私達の還る家”って聞いてすごく嬉しかったから…」

加賀「…そ、そう…」

提督「…それじゃあ大淀にも相談して、近日中にそういう話す場を作ろう」

加賀「それがいいわ。もちろん、私も同席させていただきます」

提督「ん、ありがとう、加賀」

加賀「秘書艦として…嫁艦としてあなたを支えられることは本望よ…他人行儀は辞めて頂戴」

提督「…そだね…気を付けます」

加賀「…」ポチポチ…

提督「…?加賀?」

加賀「嫁艦全員のコミュニティに書き込みをしておいたわ。1200時に昼食を摂りながら先程の話を詰めましょう」

提督「お、おう…」

加賀「…では私はお弁当と会議室の手配をしてまいりますので、提督は大淀に声を掛けてくれませんか?」

提督「わかった」

加賀「…では…後程…」


ぎぃぃ…バタン…

ひとしきり喋ると加賀は執務室を退出していった。

………
……


提督「…てか、嫁艦コミュニティってなにソレっ?!」


提督は得体のしれないコミュニティに、恐怖を覚えたのであった。

………
……


1230時 司令部棟 A会議室

………
……


榛名「私は、取材については反対しません」

陸奥「いきなりぶっつけ本番って訳ではなくて、ある程度事前に撮るものを決めてあるのなら、良いんじゃない?」

赤城「むぐむぐ…そこはやるとなった時点で綿密にテレビ局の人と要相談ですね」

提督「…」


非番の嫁艦が全員集合して、会議室に入り、難航するとの提督の想定とは裏腹に、話はサクサクと進んでいった。


提督「…それじゃあみんなの意見としては、取材を受けることは肯定するってことでいいかな?」

嫁艦複数「「「「「異議なし!」」」」」

提督「…わかった…それじゃあ今日中にも先方に要件まとめて受けることを連絡するよ…で、丁度嫁艦の皆がいるから、ここで聞いておこうと思う」

嫁艦's「「「「「???」」」」」

提督「取材を受けるとして、その当日から3日間、指輪は手から外した方がいいと思うんだが…」

金剛「…え”っ?!」

飛龍「な…なんでですかっ?!」

鈴谷「そこまで徹底するの?」

提督「まあまあ…話は今からちゃんとする」

提督「我々としては当たり前の事でも、一般人にとってはそれは普通じゃないことが多い。我々はこの指輪の効能を知っているから何とも思わないけど、指輪を付けている娘が複数居たら、余計な誤解を招きかねない」

長門「…何も知らない者からすれば、ただの悪趣味か重婚…不貞の行為に見えるということか」

提督「そう、そういう曲解をする人もいるだろうしな…もちろん、外すと言っても手から外して、ネックレスチェーンでぶら下げて服の中で肌見放さずというのは大丈夫だ」

陸奥「まあ、取材を受けるなら余計な揉め事の種になりそうなものは、排除すべきだからその判断は妥当ね…」

提督「あと、制服の状態で肌の露出度が多い娘には、出るのを控えてもらうか着替えてもらおう…線引はそうだなぁ…」

摩耶「…島風とか完全アウトじゃね?」

提督「もう100%アウト。その3日間だけ陽炎型か夕雲型の制服で過ごしてもらう方向で行こう…そしてそういう摩耶の服装も結構アウト寄りだと思う…あ、鳥海も同じだな」

摩耶「あー…やっぱそっかぁ…アタシらはどうしたら…」

提督「高雄か愛宕の予備の制服を借りてその場を凌ぐって方向でどうだ?」

摩耶「ん、それが妥当だな」

能代「…提督!質問よろしいですか!」

提督「ん、どうぞ」

能代「私と矢矧は、改二の制服で問題ないと思いますが、改二制服がない阿賀野姉と酒匂はどうすればよろしいでしょうか?」

提督「あぁ…阿賀野型も改まで結構露出多いもんな…それなら2人の改二の制服を貸したらどうだ?」

矢矧「…ちょっと待って提督…阿賀野姉はそれで大丈夫だけど、酒匂はその…」

提督「…この時期出撃の時にコート着てるだろ?グレーのアレ。あれ着せれば問題なさそう」


…言わんとすることはわかる故に黙っておこう。

…酒匂だけ、体の一部のサイズが…ねえ?

背丈も姉3人よりちょっと低いし、コート案が妥当だろう。


矢矧「そういえばそうね…そうするように言っておくわ」

提督「あとビジュアル的にヤバそうなヤツ…武蔵とか島風並みにヤバいんじゃないかな…」

大和「…言われると思ってました…」

提督「それは俺から謝らせてくれ…改二の制服のあのコート姿は堪らんかっこいいが改装設計図3枚は辛い…力及ばずで申し訳ない…」

大和「い、いえいえ!私の制服を着れるかちょっと試してみます!」

提督「頼むよ…それで長門と陸奥なんだけど…長門はセーフだと思うが陸奥は…うーん…」

陸奥「…え?私?」

提督「…ま、肩周りが丸見えな娘も居るわけだし、セーフだセーフ」

陸奥「…なんか釈然としないわねぇ…」

提督「…長門型はクリア…金剛型も大丈夫…」

長門「大体の可否の境界線が見えてきたな」

提督「あと、この場にはいないが、天城と葛城も相当ヤバい服だな…もう馴れたけどあれも危険な香りがする…」

蒼龍「あー…あれは確かに慣れてるから何とも思わないだけで、傍から見るからに相当ヤバい…普段の迷彩着物で過ごしてもらうとか?」

提督「それだな、3日間の辛抱だから」

蒼龍「わかった、取材が決まったら伝えおくね」

提督「頼むよ…あと引っ掛かりそうな服装の娘は…」

榛名「…コロラドさんとか腋と背中丸見えですよね…」

提督「…あぁ…まだ居た…いや…マント羽織ってるから…いや、気休め程度だしアウト候補か…コロラドは同型艦いないし、同郷で体格の合う娘…てかアメリカ艦の一部は着崩してるだけの娘が結構いるから、その時だけでいいから服装を正すように言っておいてくれないか?サラトガ、フレッチャー」

フレッチャー「承知いたしました。ジョンストンにも伝えておきますね」

サラトガ「マイティーとダコタにも伝えておきますね…提督…コロラドさんは如何なさいますか?」

提督「…うー…背格好的にカブールと似通ってるんだけど、アメリカとイタリアだしなぁ…デザインの方向性が壊滅的に合ってない…」

サラトガ「…ヒキコモリ確定でしょうか…?」

提督「…ちょっと待ってどこで覚えたの、そんな言葉…」

サラトガ「…え?…えーっと…ハツユキちゃん…」

提督「…ウチの古参グーダラ娘が厄介になっております…」

鈴谷「…あ、この前コロラドさんダサT着て彷徨いてるの見たよ〜」

提督「…因みにお題は?」

鈴谷「I♡コロラド〜」

提督「…もうそれでいこう…いや待て待て待て…」

サラトガ「(もうヤケッパチですね提督…)」

提督「体作りは基本皆ジャージだからそれは良いとして、最悪それ以外は自室待機にしてもらおう…あの娘の事だ、不満をタラタラ言われそうだが致し方ない、甘んじて俺がその矛先として受けるとする」

長門「(あぁ…不憫だな…コロラドよ…)」

提督「ふう…こんなもんか…取り敢えず取材を受ける方向で連絡入れてくるよ。…これにて解散!」

加賀「ええ、お疲れ様です。お供いたします」


ギィ…バタン…

………
……


…提督と加賀が執務室へ向けて会議室を出たを見計らって、嫁艦たちだけの別の話の会議が始まった。


榛名「…皆さん、本日の提督の誕生日の準備は如何でしょうか?」

吹雪「はいっ!皆で夜な夜な作った飾り付けも所定位置まで運んで、あとは間宮さんの食堂が1700時に閉まるのを見計らって一気に皆で飾り付けちゃいます!」

綾波「やりますよ〜♪」

時雨「…絶対成功させよう…!」

白露「にっししっ♪提督の人生でいっちばんの誕生日会にしようねっ!」

大和「私と比叡さんはこの後、間宮さんの食堂に急行して厨房に詰めます」

比叡「食材の方もバッチリだよ〜っ!」

榛名「後は提督があまり出歩かないように、足止めするのには…」

………
……


榛名『加賀さん…聞こえますか?』

加賀『!…聞こえているわ…』


提督について行った加賀の頭の中に榛名の声が入ってくる。

直進波形の無線交信だ。


榛名『1800時まで出来るだけ提督が執務室から出ないように、手筈通りよろしくお願いします!』

加賀『任せておいて頂戴』

提督「…?加賀?どうかしたかい?」

加賀「いえ、何でもないわ」

提督「…?そう?」

加賀「それより提督、先に目を通しておいていただきたい案件があります」

提督「うぉ…なんだい?」


提督と加賀は再び事務作業に戻り、他の嫁艦達は来る時間まで各々の持ち場に付くのであった。

………
……


1500時 工廠

………
……


工廠任務で提督と加賀は工廠に出向いてきていた。

3人で工場に置いてある安っぽいキャスターと背もたれの付いた椅子に座って、机を挟んで向かい合って、工廠作業の内容を確認しつつ雑談も兼ねて話していた。


明石「熟練零戦21型改修MAX機の機種変更ですね…在庫の52型を2機廃棄しますがよろしいですか?」

提督「よろしく頼むよ」

明石「…しかし、今月で一気に任務消化が進んで、航空戦力が一気に底上げされましたよねぇ」

提督「そうだねぇ…だいぶ資源を擦り減らしちまったけどなぁ」

明石「そうは言っても全体平均で4万程ですよね?もっと派手に溶けると思ってましたよ」

加賀「流星改(一航戦熟練)はとても良い仕事をしてくれます…お陰で助かってます」

提督「一航戦の流星改を赤城にも持たせられるようになったし、いい傾向だね…噴進機も無事受領できたし、翔鶴に持たせることもできたから、悔い無しって感じだね…コツコツ単発任務もこなさないと駄目だなぁ…」


加賀「ここに来てやっと全海域の開放出来ましたからね…放ったらかし過ぎです、提督」

提督「…面目ない」

加賀「す、すぐに謝らないで頂戴…」

提督「でも、昨年末まであえて手を付けてなかったのは事実だし…」

明石「えっと…中央海域の関係する任務で、八幡丸ちゃんを迎えるのに…でしたね」

提督「そうだね、上層部に見事に焚き付けられた形だったねぇ…それもそうだけど良い装備が受領出来るのなら、それに越したことがないしなぁ」

加賀「…まぁ、これだけ私達全体を鍛え上げられていたら、道中撤退も少なくて済みましたし、綿密に作戦と編成と装備の組み合わせの賜物ね」

提督「…初動が遅いのが俺の永遠の課題だ」

明石「まあ、そのお陰で私達は伸び伸びやれている面もありますから…あ、案件の達成を証明する書類が届きました。こちらにサインをお願いします」

提督「よし来い」

明石「…確かに確認しました!控えの2枚の内の1枚はこちらで保管して、残りは大淀に宜しくお願いしますね!」

提督「了解、ありがとう…それじゃあ執務室に戻ろうか…あぁ、そうそう明石、渡しそびれてた」

明石「…?」


提督が制服の外套のポケットをまさぐりだした。

加賀と明石の視線は自然とそちらに向けられる。


提督「…ほい、ちょい冷めたけど、ブラックの缶コーヒーとお菓子。休憩前に来ちゃったから、手の空いたときに飲んでね」

明石「あぁ〜助かります〜。私も気が回らなくて申し訳ありません…」

提督「作業中に別件を割り込ませたのはウチ等だから、気にしないでいいよ」


そう言うと、提督は左のポケットから缶コーヒーを、右のポケットからはウエハースにチョコレートを纏わせた個包装の菓子を出して明石に手渡した。


加賀「…(いつの間に…ドラ○もんのポケットなのかしら…)」

明石「わぁ♪新作の味ですね!」

提督「おう、結構イケると思うし、試してみて」

明石「はぁ〜い♪」

提督「…こうでもしないと明石は仕事ばっかりしてるからな」

明石「あはっ♪その言葉、そっくりそのまま提督に返しますねっ!」

提督「おいおい…まあ、ちげぇーねぇーな」

加賀「…(…いいわね…明石は…)」


なんの屈託もなくケタケタと笑いながら提督と話をしている明石が羨ましいと感じる加賀。

…もちろんそれは内心で、仏頂面でそれを見ていた。


加賀「…提督、早くこの書類をまとめて私達も休憩にしましょう…それでは明石…失礼するわね」

明石「はーい、装備の事も何かあれば遠慮なく聞いてくださいね〜」


工廠での任務を一通りと追加分を終わらせた、提督と加賀は席を外して書類を抱えて執務室に戻りだした。

………
……


加賀『…明石…聞こえてる?』

明石『…モッチロン、聞こえてますよ〜』


工廠から離れる最中。

工廠にいる明石と廊下を歩く加賀の間で、直進波形での無線交信が行われていた。


加賀『今日1800時、貴方も参加出来るように仕事量を調節しておいて』

明石『心得てますよ〜、今日は提督の誕生日ですもんねぇ』

加賀『…その当人があまり関心が無いのだけれど…』

明石『あちゃ〜…相変わらずですねぇ…』

加賀『…なので正直攻めあぐねています』

明石『おぉう…相変わらずガード硬いですなぁ…』

加賀『…でもせめて誕生日会くらいはやらないと…彼には私達の感謝が伝わらない…から…』

明石『わっかりました!』


…加賀は顔を合わせた艦娘に片っ端から直進波形での交信で、今日の提督の包囲網を狭めていった。

………
……


1600時 執務室


青葉「…青葉にその取材に関しての助言をして…」

衣笠「私がそのダブルチェック要員兼青葉の補佐をするのね」


重巡青葉と横一列で提督の机の前に立つ彼女は、薄紫の髪を肩甲骨の下程まで伸ばし、左側に小さくその髪をサイドテールを結い、服装は青葉共通の襟と袖の青いセーラー服を着用しているが、青いスカートを履いている艦娘は、

青葉型重巡洋艦 2番艦の衣笠。

執務室に青葉とその妹の衣笠が呼ばれていた。

そこで2人に佐世保の中将に打診された取材について受ける話をした。


提督「そうそう、そういういろはをよくわかってる青葉に色々聞いて、衣笠にその補佐をしてもらいたいんだ」

青葉「わかりました!では、報道なんかでする引っ掛けとかいけずな質問を数日で考えますので、一緒に想定問答をしましょうか。もちろん加賀さんもご一緒してもらって、きっちり記録に残して取材時の秘書艦に引き継げるようにしましょう」

加賀「わかったわ」

衣笠「…しかし取材かぁ…佐世保の中将さんは何でウチみたいな辺境の基地にそんな事をさせるんだろ?」

提督「本営は戦力と規模を秘匿しておきたいってことなのかも…もちろんウチも全部見せる訳ではないしな。それに艦娘の日々の生活を主に撮るのが目的だから、本営が出張らなくても伝わるだろって判断したようだ…中将殿もうちの内情は把握されている上での打診だし、答えたいんだ」

衣笠「提督がそこまで言うなら反対はしないわ」

提督「よろしく頼むよ」

青葉「お安い御用です!では!」

衣笠「お邪魔しました〜!」

キィ…バタンッ


提督「…ふぅ…」

加賀「…まさか青葉を呼ぶとは思ってなかったわ…」

提督「中将殿の助言でな、”知り合いに報道関係者が居ないなら、青葉に聞いてみるといい”という助言を貰ったんだ…実際、佐世保の広報部はあちらの青葉がほぼ取り仕切っているらしい…もちろん妹の衣笠の監視付きだが」

加賀「なるほど…で、ウチの青葉も漏れなくその適性があったので頼んだ…と」

提督「そう、ま、中将のやり方の丸パクリだけどな」

加賀「良い人選よ…自身を卑下する必要はないわ」

提督「ん、ありがとう…さて、次の書類は…」

加賀「っ!…これね」

提督「どれどれ…あれ?随分、提出期限が先の案件だねコレ…」

加賀「…目だけは通しておいて…忙しい時は確認が疎かになりがちな貴方の性格を把握の上よ」

提督「…善処します…さて、どれどれ…」

加賀「…(まずいわ…提督の執務室の滞在を引っ張る仕事が尽きそうだわ…)」

………
……


同時刻 司令部棟 2F-1F中央階段

衣笠「取材かぁ…艦娘にも数名インタビューするって言ってたけど、誰が受けるんだろ?」

青葉「その辺はこちらで艦種別で予め個性の違う人達を人選しておいて、個性の多様性を受け入れる寛容さを出しながら、艦娘として芯のブレない国防の姿勢を打ち出せれば、変に突っ込まれることはないと思う。それと身近さも出せればいいなぁ…」

衣笠「…身近さ?」

青葉「そうそう!私達の泊地で言ったら、佐伯市の漁協とか船会社とか海に関わる人達と洋上で、無線交信とか護衛とか救助とかしてるじゃない?青葉も何度もそういう場面のやり取りをしてきたから、そういう人々との繋がりや交友も取材の本編に挟めたらいいなぁ…って思ってる」

衣笠「そうよね…艦娘全体のイメージアップが目的なら、それは組込んでおきたいよね…それじゃあ佐伯市役所と漁協と民間船舶会社に問い合わせなきゃね」

青葉「…一番いいのは基地祭みたいな事が出来たらいいのになぁ…スケジュール組んで展示航海をしたりとか、出店とか」

衣笠「あぁ…良いかもね。もっと身近に感じてもらいやすい、いい機会よね…ま、今は…無理だろうけどね…」

青葉「早く無くなんないかなぁ…流行病…」

衣笠「ま、その時までしっかりこの案を温めておこうよ!」

青葉「…そうだよね!よ〜しっ!近日中に想定問答作って提督と秘書艦をいじめちゃうぞっ!」

衣笠「いやいや、提督いじめてどうすんのよ…」


いづれ訪れるであろう基地祭開催への想像を膨らませながら、2人は提督に出す想定問答の制作に入った。

………
……


〜ところ戻って、少し時間が経って執務室〜


提督「…んん、これやれそうだな…加賀、資料棚4-5の編成データを集計したファイルを取ってもらえないかな」

加賀「ええ…承知しました」

提督「えっと…用紙…用紙はっと…」


秘書艦席を立った加賀は、執務室の1面半分強を埋めている本棚の4段目の1番右の欄のから資料を取り出す。

その最中、加賀は内心冷や汗をかいていた。


加賀「…(この書類で今日の仕事が尽きてしまった…本当にどうしよう…)」


他の嫁艦の前で任せておけと言ったのに、提督の誕生日会まで、あと1時間と少々…。

…どう引っ張る?

手隙になったら提督は絶対に泊地内を彷徨き出す。

…もちろん、泊地のために動き回るのだから、悪い事をしてる訳ではないんだが、今日に限ってはそれはさせたくない。


提督「…おお、あったあった…?加賀、手が止まってるけど資料が見当たらない?」

加賀「あ…いえ…資料はここに…」


自分の手が止まっている事に提督に言われて気がついた加賀。

提督の指定した資料に手をかけて、取り出して提督の元に戻った。


加賀「…お待たせしました」

提督「ん、ありがと…ええっと…」

加賀「…(この書類が終わったら…)」

提督「…よし、ここだここだ…」

加賀「……(どうやって提督を引き留めよう…)」

提督「……」

加賀「………(と、とにかく食堂には近付かないようにしないと…)」

提督「…ん?…んん〜?」

加賀「…………(…しかし、その手立てが…)」

提督「…あ、そっか…こうだな…よし…」

加賀「……………(…後1時間…)」

提督「…できたっ!チェック頼めるかな、加賀…って、うぉっ!…突っ立ってどうしたの?」

加賀「あ、す、すみません…書類が出来たんですね。確認させていただきます」

提督「うん…よろしく…」

加賀「…」

提督「……」


…ものすんごく見られてる…。

提督が私の顔色を凝視してる。

…まさに提督の今を音で表すなら「じ〜〜〜っ」という効果音がぴったりである。

………
……


加賀「…提督、チェック完了しました。捺印を宜しくお願いします」

提督「ん、了解」

……


提督「…よし、これでこの書類は完了…次の書類はある?」

加賀「い、いえ…綺麗スッキリ片付きました」

提督「そっかぁ〜…いやぁ〜終わった」


席の上で背伸びした提督が立ち上がり、3人掛けの応接用のソファーに歩いて向かい、ドカッと腰掛けた。

すると提督はその席から加賀を手招きする。


加賀「…何でしょうか?」

提督「こっちおいで」

加賀「…え?」

提督「なんかさっきからボーッとしてるし疲れてるのかなって」

加賀「だ、大丈夫です…」

提督「寒いから、ちこぅ寄らんかー」

加賀「…」


…ずるい…。

この人は私がしてあげたいことを平気にしてくる。

私とは対の、異性である貴方が。


提督「…?おいで〜」


…もはや私には拒否権はないようだ。

優しい表情で側に来るように催促してくる。


加賀「…失礼します」


私は言われるまま、提督の側に肩を寄せ合うように座った。

安心するけど緊張もする。

この距離感も久し振りのような気がする。

…他の嫁艦と徒党を組むか、酒を飲まないと提督にこのくらいの事も出来ないのかと思うと、内心自分が情けなくなる。


加賀「…ふぅ…」

提督「…大丈夫?」

加賀「…大丈夫じゃないわ…」

提督「…そっか…少しのんびりする?」

加賀「…」


加賀はチラッと古時計に視線を送った。


古時計「1654時」

加賀「…(覚なる上は…)」


ギュッ…

加賀は意を決して、提督の左腕に抱きついた。


提督「…加賀?」

加賀「きょ、今日は寒いので…っ!///」


バクンッバクンッバクンッバクンッ

加賀の心臓は弾けそうなくらい弾んでいる。

顔も真っ赤。

加賀は自分の頭の中にまで、自分の心臓の音が鳴り響いている。


加賀「…///(…だ、だめ…クラクラしてきた…)」

提督「…本当に大丈夫?加賀?」

加賀「な…なにっ…?///」

提督「加賀の心臓の音…とんでもないことになってるから…」

加賀「…っ!だっ…誰の所為でこうなっていると思ってるんですか…っ!///」


加賀は思わず八つ当たりに近いような態度を取った。


提督「おおぅ…じゃあ今、加賀はどうしたいの?」


………
……


…えっ?

…どうしたいですって?

提督が私の顔を覗くようにして視線を合わせてくる。


加賀「…膝枕…」

提督「…ん?」

加賀「膝枕を提督にしてあげたいです…」

提督「…え?そっち?」

加賀「…なに?私がしてはいけないの?」


加賀はそう言うと、提督の座るソファーの端へと移動して、逆に提督を手招きをし始めた。

…平静を装っているが、相変わらず顔は赤いし、目尻は釣り上がってるし、脈拍が跳ね上がり、心臓の自己主張はかなり強い。


加賀「…さ、さぁ…どうぞ」

提督「…それじゃあお言葉に甘えて…」


…ポフッ…


隣に座る加賀の膝下に提督は、そっと頭を預けた。


加賀「…い、如何ですか?」

提督「…如何かって聞かれると…うん、安心するかな…」

加賀「…そ、そう…」


そう聞いて暫くすると少し落ち着いた加賀は、提督の髪の毛を触りだした。


加賀「…そろそろ切り時じゃないかしら?」

提督「ん?…あぁ…むさ苦しいかな?」

加賀「忙しさにかまけて、年末に切らなかったでしょう?」

提督「いつも鳳翔さんに切ってもらってるから、そうしようと思ったけど、忙しそうだったし、俺も何やかんや忙しかったから…」

加賀「…そう」

提督「…まだこの泊地が駆け出しの最初の頃にさ、鳳翔さんに俺の髪の毛が伸び放題だって指摘されたことがあったんだよ」

加賀「…えぇ」

提督「この泊地の長たるもの、身嗜みも大事です!…ってね。服はどうにかなってるけど、髪の毛はどうにもならなくて、ダメ元で頼んだら鳳翔さんが切ります!って」

加賀「ふむ」

提督「…そしたら失敗しちゃってさ…最初の頃は丸坊主になってたなァ」

加賀「…え?提督が丸坊主?」

提督「…あ、そうか…加賀がここに来た時には鳳翔さんの髪切り練度は最高練度の〈〈〈 だったからねぇ…駆逐艦の娘達の髪の面倒も見てもらってて覚えるのが早いのなんの…」

加賀「…」

提督「丸坊主になった時は他の娘の目線が、あー、鳳翔さん今回駄目だったかーって目で見られてたのが懐かしい……あれ?加賀?」


思い出を語る提督を他所に加賀は自分の思考の世界に入ってしまっていた。


加賀「…提督」

提督「ん?」

加賀「髪を整えて差し上げます」

提督「…え?」

加賀「自分でもやっていることなのでご安心ください」

提督「そ、そう?じゃあ…せっかくだから頼もうかな…」

提督「(…鳳翔さんに初めて切って貰った時と同じセリフ…)」


何がデジャブを感じながら提督は、加賀のしたいようにさせようと、加賀の太腿から頭を上げて、加賀と一緒に隣の仮眠室に移動した。

1人掛けの椅子とブルーシート、髪用のすきバサミとハサミとバリカンを用意して、1人掛けのを椅子に提督が腰掛けて、ゴミ袋を加工して即席で作った髪よけを被った。


加賀「…いつものように整えたらいいかしら?」

提督「そだね…横は刈り上げて、上は量と長さを鋤く感じでお願いします」

加賀「…では、参ります」


姿見の鏡を見ながら提督の髪の状態を見ながら、少しづつ整えていく加賀。


提督「(…おぉっ?お上手…)」


予想してなかった展開に少し驚く提督。

手際もいいので慣れているというのは、本当のようだと納得した。


提督「…意外だったなぁ…ここまで上手いとは…」

加賀「…そ、そうかしら?」

提督「これなら鳳翔さんが忙しかったらまた頼もうかな…」

加賀「…///」


…ショキン…パサッ…


提督・加賀「「…あ”」」

………
……


加賀「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいもう提督の髪には触りません許して下さい…」ブツブツ…

提督「いや、久々にこれもいいもんだ。羊の毛刈りみたいでこっちも楽しかったから」


無情なハサミの切断音の5分後、提督の髪の毛は更に情け容赦のない電動バリカンによって綺麗サッパリ刈り取られていた。

五分刈りというやつだ。

…因みに加賀は拒んだので提督自らの手で。

加賀は部屋の隅っこでどんよりした雰囲気を纏って体育座りして、床にのの字を書いてひどく落ち込んでいた。


提督「ほれほれ、気にしないで。髪なんてじき伸びるんだから〜」

加賀「ううぅ…」


中々立ち直ってくれない加賀の頭を提督は気にしてないと言うように撫でる。


加賀「(…この人の優しさがズルい…)」


そうされると罪悪感が次第に薄れていく。

でも、そんな事で慰められてしまえる自分に、無性に腹も立ったが、顔には出ないようにした。

…それが今の加賀にとっての、提督にできる唯一の気遣いだった。

…コンコンコン

そんなやり取りをしていると、執務室のドアからノック音が部屋に響く。


矢矧「矢矧です!入ります!」

提督「どうぞ〜」


…ガチャ


矢矧「お邪魔するわね提督、この後の予定なん…だ…け…って!ええぇぇぇぇぇぇぇえっっ!!」


嫁艦達の計画の手筈通りに定刻に迎えに来た矢矧は驚愕していた。

数刻前まで黒々と茂っていた提督の髪が、綺麗サッパリ刈り取られていたのだから。

初めての提督の坊主頭姿の衝撃が強すぎて、ドアを閉めることを忘れた矢矧は、次の言葉が出ず立ち尽くす。


矢矧「なっ…あ…えっ?へっ?」

提督「どう?矢矧、帝国軍人っぽいだろ?めっちゃ頭軽くなった〜♪」

矢矧「な…なん…でっ?!」

長門「どうした矢矧っ!何事かっ?!」

時雨「ん?…あ…」

古鷹「…提督、その髪型は…」


ドアを開け放ったままだったので、ただでさえよく通る矢矧の声で、他の艦娘まで執務室に来てしまった。


長門「…ど、どうしたんだ提督…その…頭は…」

提督「…え?スカッと爽やかに苅ったった(笑)帝国軍人っぽくて良くない?」

長門「あ、あぁ…存外似合って…いやいやいや!ちょっと待てっ!」

時雨「…(久々に見たなぁ…)」

古鷹「あ、あははは…」


提督の丸坊主姿に困惑する矢矧と長門。

対象的に何かを察した時雨と古鷹。


提督「…で、みんなどうしたんだい?」

古鷹「提督、この後のご予定はどうなってますか?」

提督「ん?この後は夕食を作って食べて明日の予定の確認やらがあるな」

古鷹「…ではまだ作ってないですね…もしよかったら皆で食堂で夕食をご一緒しませんか?」

提督「んー…そうだなぁ…」

時雨「…ダメかな?」

提督「…ふむ…加賀、どう?」


先程落ち込んでいたところから、何とか持ち直した加賀に提督は話しかけた。


加賀「…一緒しましょう」

提督「…よし、それなら一緒させてもらうよ」

時雨「やった♪それじゃあ今から早速食堂に行こっか」

古鷹「…ふふっ♪」

矢矧・長門「「…」」

………
……


矢矧「…あの…古鷹さん」

古鷹「ん?どうした?矢矧ちゃん」

矢矧「えっと…なんで…提督の坊主頭に驚かないんですか?」


執務室に居た全員で食堂へ向かう廊下の道中。

前方では時雨に引っ張られる提督とそれに付いていく加賀の後ろを、長門、古鷹、矢矧が少しゆっくりのペースで歩いている時、矢矧が感じた古鷹と時雨の反応の違和感を尋ねた。


古鷹「あぁ、あれね、提督の散髪が失敗した時の状態なんだよ」

矢矧「…え?…散髪の失敗?」

古鷹「そう、矢矧ちゃんも長門さんも来る前の話だから知らなくて当然なんだけど、泊地の駆け出しの頃…いや、今でもそうなんだけど、提督の髪の毛を整えてたのって鳳翔さんなの」

矢矧「ええ…それは知ってますけれど…」

古鷹「最初の時に鳳翔さんが提督の伸びた髪に苦言を言ったら、切ってくれって言われて鳳翔さんが切ったら失敗しちゃって、帳消しにするのに提督が、自分で丸坊主にしちゃった事が何回かあったんだ」

長門「…それは初耳だな…しかし…」

古鷹「…多分ですけど、加賀さんが間をもたせるのに髪を切ることを進言したんだと思います。そうでないと、提督はまず自分で髪を切りませんし」

長門「…道理で2人共あまり驚かないのも合点がいく」

古鷹「ふふっ♪それにしてもさっきの提督のセリフって、初めて丸坊主になった時と同じセリフ♪懐かしいなぁ…」

矢矧「…”帝国軍人っぽいだろ?”ってセリフですか?」

古鷹「あはっ♪そうそう。ああやって加賀さんを庇って何も言わなかったのも、駆け出しの頃とちっとも変わってない。あぁ、やっぱりあの人はあの人のままで居てくれてるんだなぁって思って安心しちゃった」

矢矧「そ、そうですか…」

長門「…全くあの人は…」

矢矧「(私は着任が長門さんより少し後だったからなぁ…知らないのも無理もない…けど…何だか…悔しい…?寂しい…?…なんだろう…このモヤモヤする感じは…)」

長門「仕えた頃から髪型を変えない人だと思っていたが…着任が少し後の私と矢矧は知る由もないな…また提督の事が1つ知れて嬉しい。古鷹、ありがとう」

古鷹「いえいえ!…ふふ、ちょっとした思い出話みたいなものですから…提督って優しくてズルいですよね♪」

長門「ふっ、全くだ」

矢矧「(そう…あの人は…本当にズルい人…)」


時雨に手を引っ張られている提督を3人は眺めながら、食堂へと向かった。

………
……


時雨「さ、提督」

加賀「中にお入りください」


加賀と時雨が両開きの食堂のドアの左右に付いてドアノブに、手を掛けた。


提督「…あー…」

一同「「「「「?」」」」」

提督「いや、それじゃあ…」


ガチャ…

スパパパーンッ!!


クラッカーの炸裂音が提督を出迎える。


艦娘達「「「提督、お誕生日おめでとうございま〜すっ!!」」」

提督「…あー…いやぁ…まいったなぁ」


何となく扉を潜ればそうなると思っていたのか、提督は頭に手を回して後頭部を掻いた。

…もちろんすべて刈り取られ、変わり果てた提督の毛髪を前に、艦娘達は全く異なった反応を見せた。

金剛「oh!テートクが久々にボーズ頭デースっ?!」

隼鷹「ぶっひゃっひゃっひゃっwww提督何その頭wwwひっさしぶりじゃーんっwww」

鳳翔「………///」
↑両手で顔隠し

サラトガ「what happened(何が起こったの)?!」

能代「えぇぇぇえええっ?!」

由良「…あぁー…(苦笑)」

阿武隈「ふぇぇっ?!何で提督が坊主頭にっ?!」

鬼怒「ンプププッ…www提督それなんかのバツゲーム〜www?」


…うん。

反応を見る限り、苦笑3割、驚愕7割ってとこか…おもしれーなコレ。


提督「頭はこんなんにしちゃったけど、何も問題無いからね〜。中身は俺のまんまだからそのつもりで〜」

長門「…提督、壇上に上がって挨拶を頼めないか?」

提督「ん?ああ、そうだな…」


提督は長門に頼まれて特設の壇上に上がる。


提督「…あー…皆、この度はこのような席を用意してくれて、ありがとう…お陰様でまた一つオッサンになりました(笑)」

艦娘達「「「ワハハハハッ!」」」

提督「こんな大勢に祝ってもらえるなんて事はあまり経験がないから、正直戸惑ってるけれど、それ以上にとても嬉しく思っている…みんな、本当にありがとう!」


パチパチパチパチ!


嫁艦だけでなく、任意とされていた未婚艦の娘達の全てが、この場に集まって来ていた。

提督には彼女らの顔ぶれを見渡して、内心安心していた。


提督「…それじゃあ、一部待ちきれなさそうなのがいるのでぇ〜…カンパーイっ!」

艦娘達「「「「「カンパーイっ♪」」」」」


提督が音頭と共に手元のグラスを突上げ、宴が始まった。

………
……


榛名「…ふふ、ひとまずは成功…でしょうか?」

金剛「そうですネー、2年前の時よりテートク良い顔してるネー♪」

比叡「…しかしこうやって改めて見渡すと、仲間が増えたねぇ…」

霧島「海防艦から駆逐艦・軽巡・重巡・空母・戦艦に特務艦…総勢300名以上ですからねぇ」


足早にお祝いの挨拶を済ませた金剛姉妹が、提督の席から少し離れたところで、あたりを見渡していた。

そして、今はアメリカ艦勢からのお祝いの挨拶を個々からの受け答えをしている提督に姉妹の視線が集まった。


榛名「…?」


…その中、榛名は別の方角から、何やら複雑な表情で提督を見ている艦娘がいることに気が付いた。

…矢矧だ。

…少し気になる。

榛名は他の姉妹に断りを入れてから矢矧の元に歩みを進めた。

………
……


矢矧「…」


…なんでだろう。

提督は挨拶をしてくる艦娘達に、にこやかに1人1人丁寧に言葉と表情で応対しているのを見ていても、とても良い関係を築けているのは、わかっているのに…。

…物足りない。

…もっとしてあげられる事があったんじゃないか?

…2年前の”あの騒動”は実際見ていたけれど、今こうして自分が嫁艦の立場でこの場に立ってみると、その当時からの嫁艦達の考えていることが、何となくそうなってしまった気持ちが、わかる気がする。

…でも彼は”それ”を望んでない。

…いつでも彼は私達に考える時間をくれる。

静かに…でもちゃんと見守っていてくれる。

…まるで…。


矢矧「…父親みたい…」

榛名「…矢矧?」

矢矧「…あ、榛名さん…どうしました?」

榛名「…隣…いいですか?」

矢矧「ええ、どうぞ」


榛名は矢矧に断りを入れてから隣の席に静かに腰を下ろした。


榛名「…どうしたの?提督のことを見てたみたいだけれど…」

矢矧「あぁ…いえ…何も…」

榛名「…”これで良かったのかなぁ” とか ”なんだか物足りないなぁ”…って思ってます?」

矢矧「…えっ…」


矢矧は榛名の指摘にドキリと胸が跳ね上がった。


榛名「…あ、気に触ったのならごめんなさい…でも…なんだか楽しくなさそうな顔で、提督のことを見ていたので…」

矢矧「…あはは…敵いませんね…榛名さんには…」

榛名「…訳を聞いてもいいですか?」


あの時の顔を見られていたのかと、矢矧は苦笑しながら、榛名に少しづつ内心を打ち明け始めた。


矢矧「…私は嫁艦になってあまり間もないですけど、提督の好きな事嫌いな事、年中私達と一緒にいてくれていて、全部分かっているつもりでした」

榛名「…はい…」

矢矧「…今日の丸坊主の事でもそうでした…私の着任の時期から考えても、どうしようもない事もわかってるのに、あの場にいた古鷹さんや時雨に対して嫉妬してしまいました」

榛名「…」

矢矧「…その時思ったんです…”あぁ、もっと提督のことを知りたいんだ”って」

榛名「…ええ…」

矢矧「…私達に沢山尽くしてくれる提督に何かしてあげられないのかなって…でも提督は望んでくれない…その立ち位置ってまるで…」

榛名「…父親と娘の関係みたい…?」

矢矧「…はい…」

榛名「…そうですね…私も同じ事を考えてますよ」

矢矧「…そう…なんですか?」

榛名「そうですよ…この泊地では誰よりも長く嫁艦をしていると…尚更…ね?」


榛名はそう言うと、少し寂しそうな顔をしながら提督のいる方向を眺めた。


矢矧「…すみません…出過ぎた発言でした…」

榛名「…あっ!矢矧がちゃんと思っていることを話してくれたから、別に変な意味じゃないんですよ?…ただ…その気持ちは凄くわかるなぁって…」

矢矧「…ありがとうございます…話を聞いて貰えただけで、何だか少し気持ちの整理が付きそうです」

榛名「いえいえ…でもね、これだけは覚えておいてね?」

矢矧「…?」

榛名「提督を幸せにしたいのなら、皆で共有して幸せにすること」

矢矧「…はい」

榛名「片時も離れずに提督を独り占めするのは、今はきっと出来ない。もしそうしたらきっとみんなの関係もギクシャクする。迂闊に事を起こせない提督の立場を、慮ってあげてほしいの…これが、私からの心からのお願いです…」

矢矧「…はいっ」


迷いが晴れたのか、矢矧の受け答えはいつものようなキレを取り戻していた。


榛名「…お祝いの席なのに、こんな話しちゃってごめんなさい」

矢矧「い、いえっ!気遣ってもらって、ありがとうございました!」

榛名「ふふふ…やっぱり貴方はそうでなくっちゃ♪」

矢矧「…えっ?」

榛名「自信に満ち満ちていて…私には無い魅力があって羨ましいって思っちゃう」

矢矧「や…やめてください…///」

榛名「ふふ、さ、矢矧、そんな事を考えていたくらいだから、まだ提督にお祝いの言葉を贈ってないでしょう?一緒にいきましょう」

矢矧「あ、ああっ!は、榛名さんっ!ひ、引っ張らないでくださいっ…」

榛名に手を引っ張られた矢矧は、慌てふためきながら榛名と一緒に提督のいる元に向かっていった。

………
……


提督「…楽しい時間はあっという間だよなぁ…」

加賀「…そうね…でも楽しんで貰えたのなら、皆も喜ぶわ」


時間もいい頃合いになり、ひとまず執務室に戻る事にした提督と加賀。

今は誕生日会の余韻に浸りながら、執務室へ向かう廊下だ。


加賀「…今日くらいはもっと甘えてくれても良いのだけれど…」

提督「いやぁ…あんなに祝って貰って片付けも皆任せをさせて貰ってるだけでも、俺にとっては甘えさせて貰ってるのと同義だからねぇ…」

加賀「……そう…」


…あれ?加賀がちょっと不機嫌…?

微妙に受け答えの間合いが空いたので、提督はその違和感に気が付いた。


提督「…どうしたの?」

加賀「…正直に言うわ…提督は私達に甘え足りないわ」

提督「…そう言われてもなぁ…」   


提督は、そう言うと頭をガシガシと手で掻く。


加賀「もっとこう…直接的な欲求はないのですか?」

提督「…直接的?」


その漠然とした加賀の問いかけに対して、提督は首を傾げた。


加賀「た…例えば…例えばですよ?何か欲しい…物欲とか、せ、性的な欲求とか…そういうものです」

提督「…うーん…」

加賀「…(…ストレート過ぎたわ…)」


だが後悔先立たず。

加賀は目線を頭の上に向けながら考える提督の答えを黙って待っていた。


提督「物欲は…みんなの新しくて強い装備が欲しいなぁ」

加賀「…それは貴方自身のものではないでしょう」

提督「…今の生活では事足りてるからなぁ…私物で欲しいって物が特にはないんだよねぇ…」

加賀「…じゃあ性欲は?」

提督「…性欲かぁ…」

加賀「…艦娘相手では…捗りませんか?」

提督「…やけにグイグイ来るね…可愛い娘が沢山いるから良いなって思う時は…男だからね」

加賀「…そう」

提督「…少なくとも今は、そういう対象にはしない…いや、したくないかな…」

加賀「…したくない理由を聞いても?」

提督「…俺自身が好きな子が多過ぎる事、そしてその娘達も憎からず想ってくれている事…」

加賀「…」

提督「仮にもし今のウチの状態で急に1人贔屓をしたらこの泊地の娘達の関係にヒビを入れる事になる…俺が皆の心に中途半端に深入りし過ぎてるから…」

加賀「…はい」

提督「ホントは最初から1人選んでたら、こうもならなかったんだと思う…でも皆の事を知れば知る程、贔屓に出来なくなってた…みんなを大事にしたいから…」

加賀「…」

提督「…ごめん…優柔不断で…」

加賀「…いえ、そこまで考えていたのならいいの…こちらこそごめんなさいね…」

提督「…うん…」

加賀「…」


…き…。

…気不味い…。

…わかっていたことだけれど…。

…でも伝えておかないと気が済まない事がある。


加賀「…ただ…これだけは覚えていて頂戴」

提督「…なんだろ?」

加賀「…”娘”と”父親”の関係では…もう満足出来ていない艦娘は多い事よ」

提督「…うん」

加賀「…私から言うことはそれだけよ…」

提督「ありがと…ちゃんともっと考えるよ…」

加賀「…」


その話の後は、提督も加賀も特に喋ることもなく執務室に戻り、明日に備えてスケジュール確認をしてから執務室を後にした。

執務室前で加賀とは別れたので、何となくぼんやり廊下を歩きながら考えていた。

外は雪が深々と降っている。

この調子ならそれなりに積もるだろうが、実家にいた頃に比べたら、こんなの降っているうちに入らないレベルの積雪量だ。


提督「…」


ぼんやりと街灯に照らされた舞い落ちる雪を見ながら考えたが、結局結論の行き着く場所は同じだった。


提督「…俺の…覚悟で決まる…んだよな…?」

???「…提督?」


誰かが薄暗くなった廊下の見えるか見えないかの距離で、話しかけてきた。

提督は考え事に耽っていたこともあって、割と近くまで近付かれないと気付かなかった。

…誰だろうか?

艦娘の夜目の良さには遠く及ばないので、誰に話しかけられたか、わからない。


提督「…誰だい?」

榛名「あ…榛名です…」


歩み寄ってきたその黒いシルエットは、オレンジ色の街灯に照らし出されて、装束と輪郭が鮮明に映る。


提督「…榛名…どうしたの?」

榛名「榛名は執務室に少し顔を出そうかと思ったんですが、もう閉まっていたので、何となく歩いていたんです…提督はどうして外を眺めていたんですか?」

提督「ん?…あぁ…雪それなりに積もってきたなぁってさ」

榛名「あ、そうですね…提督のご実家は滋賀でしたよね…積雪はどうだったんですか?」

提督「ん〜…普段は積もってないけど降る時はしっかり降って積もってたかなぁ…滋賀でもちょい南の方だったし」

榛名「そうでしたか…」

提督「…榛名、今日はありがとう」

榛名「…え?」 

提督「あそこまで盛大に祝ってもらったのは、人生で初めてだから…ちょっと今でも夢見心地なんだよ」

榛名「い、いえ…私だけではありません…泊地の皆の想いです…」


…何でだろう?

何だか榛名に腹の底を探られているような気がした。

…ちょっと居心地悪いな。

やたら目をジッと見てくるし…。


提督「…隠し事はしてないよ?」

榛名「…ふぇっ?!」


…やっぱりか…。

…あんまり榛名は隠し事に向いてないなぁ…。

提督の指摘に驚いた榛名は半歩後退り、構えの姿勢になる。


提督「…何か言いたいことがあったら言ってね…何かを考えてるのが分かっても、何を考えてるかまではわからないから…」

榛名「…う…うぅ…」


榛名は提督に思考で先制される事を考えてなかったのか、たじろいでわなないている。


榛名「な…なんで…わかってしまうんですか?」

提督「…いや、長い付き合いだし…割と榛名はわかり易いし…」

榛名「そ、そんなぁ…む〜〜…」


わかり易いと言われたのが余程悔しかったのか、分が悪くなった榛名は姿勢を正してから、顔を提督から逸した。


榛名「…提督は…ズルいです」

提督「…そう言われても、みんなを観るのが俺の仕事であり、日常だからなぁ…」

榛名「…榛名を…」ポツリ

提督「…?」

榛名「…最初から榛名だけを見てくれていたら…こんなに苦しくないのに…」ボソッ

提督「…え?」

榛名「…あっ…!」


榛名は咄嗟に口を両手で塞ぐ仕草を見せるが、時既に遅し。

心から漏れ出て放たれた言葉は、提督に届いてしまった。


榛名「す、すす、すみません!今のは無しですぅ〜っ!!」


ぴゅ〜〜〜〜〜…


そんな効果音が聞こえそうな勢いで、榛名は一目散に逃げ帰っていった。


提督「…やっぱり、そうなんやな…」

………
……


加賀『…”娘”と”父親”の関係では…もう満足出来ていない艦娘は多い事よ』

………
……


…その上、榛名は初めて指輪を渡した相手だ。

一入の想いを持っていて当然だろう。

…そのままにしておいて、適当な理由つけて誤魔化して不誠実なのは…やっぱり俺なんだな…。


提督「…考えよう…考えてシンプルな結論を…俺と皆の最良を…」


そして先程、榛名が走り去った方角を向いて呟いた。


提督「…ちょっと待っててな?」


保留にしていた思いを胸に、提督は自室に向かって歩き出した。

……………
…………
………
……


皆様、お疲れ様でした!

構想を練っているうちに冬イベント終わっちゃって春になっちゃいました!(爆)w

なので、立て続けに続編のアップをします!(^^)
※…後出しジャンケン最高だぜwww

お暇な時にでも読んでいただけたら幸いです。

次回もお楽しみに!(_ _)
Posted at 2022/04/15 22:50:37 | コメント(0) | トラックバック(0)

プロフィール

「~近況報告~
皆様大変ご無沙汰しております。

某ゲームにかこつけて(笑)すっかりX(旧Twitter)の民となってましたが、生存確認も兼ねて屋根家の車達に変化があったのでご報告です。

キャリ夫の乗り換え以外は据え置き運用です。」
何シテル?   04/13 11:16
皆様こんにちは、屋根野郎と申します。 ☆洗車、好きです♪(笑) ※軽トラでも洗っちゃうくらいw 汚して洗う…そしてまた汚して洗うが幸せのルーティーン…素晴ら...
みんカラ新規会員登録

ユーザー内検索

<< 2022/4 >>

     12
3456789
1011121314 1516
17181920212223
2425262728 2930

リンク・クリップ

艦隊これくしょん -艦これ- 〜佐伯泊地の日々〜 提督の帰郷編♯1 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2022/06/10 11:54:17
艦隊これくしょん -艦これ- 〜佐伯泊地の日々〜 束の間の夏休み編 2日目 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2021/08/15 22:05:16
CUSCO リヤ スタビバー 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2021/07/10 07:36:10

愛車一覧

スズキ キャリイ キャリ夫 (スズキ キャリイ)
13年間乗った前キャリ夫は、融雪剤による劣化が著しかった点と車検のタイミングをずらしたか ...
スバル インプレッサ スポーツ 屋根野郎号 (スバル インプレッサ スポーツ)
以前はインプレッサのGH型のGH7 20Sに乗っていました。 そして今現在、スバル ...
スズキ キャリイ キャリ夫 (スズキ キャリイ)
みんカラをやっているうちに、ブログにちらほら出していたので…しゃらくせぇ!載せちゃいます ...
スズキ エブリイワゴン エブリん (スズキ エブリイワゴン)
先代のDA64型のバンからの乗り換えです。 家族の車な上に仕事兼用なので大々的な改造はし ...
ヘルプ利用規約サイトマップ
© LY Corporation