
昨日の冬の読書が好評だったので、原人はすぐ調子にのり、またまた冬の読書をすることにした。
父親に無理強いされたスキー中の事故で脚に障害を負ったアリーチェ。知的障害のある双子の妹を行方不明にしたトラウマを負い、けた外れの数学の才能を持ちながら、孤独の殻に閉じこもるマッティア。この孤独な少女と少年は出会い、理由もわからず互いに惹かれあい、喧嘩をしつつも、寄り添いながら大人になってゆく。だが、ささいな行き違いからこのかけがえのない絆が壊れる、そして数年後、ふたりはまた再会する。。。

おかりしました(かっこいいでしょ)。
物理学を学び、素粒子物理学の博士号を取得した新進気鋭のイタリア人作家、パオロ・ジョルダーノの処女作(2008)であり、全世界で空前のヒットとなった小説である。
原題:
la solitudine dei numeri primi
邦訳: 素数たちの孤独
見栄っ張りでヤセガマンの原人ははじめ
イタリア語原書を買ったが、あまりにも難解なので、英訳本も買ってしまった。 しかし、残念ながらこの英訳には少し誤訳があるように思う。
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Aveva riflettuto a lungo se chiederglielo o no. Ma tanto l'avrebbe fatto comunque. Lo desiderava troppo.
”Vorrei farmi un tatuaggio sulla pancia" esordì.
Suo padre scostò dalle labbra il bicchiere da cui stava bevendo.
"Chiedo scusa?"
"Hai capito" fece Alice, sfidandolo subito con lo sguardo. "Voglio farmi un tatuaggio."
彼女はそのことを聞くべきか聞くまいか長い間考えていた。しかし、いずれそうしただろう。それほど強く望んでいたのだ。
「わたしね、お腹にタトゥーを入れたいの」彼女は切り出した。
彼女の父親はあわてて口からグラスをはずした。
「なんだって?」
「聞こえたでしょ」アリーチェは眼で父親をにらみつけながらいう。「タトゥーしたいのよ」
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I numeri primi sono divisibili soltanto per 1 e per se stessi. Se ne stanno al loro posto nell'infinita serie dei numeri naturali, schiacciati come tutti fra due, ma un passo in là rispetto agli altri. Sono numeri sospettosi e solitari e per questo Mattia li troava meravigliosi.
素数は1もしくは自分自身でしか割り切れない。素数は自然数の無限の列のなかにあり、2つの非素数にはさまれている。それは他の数と同様だが、他の数よりも離れて存在する。素数はミステリアスで、孤独である。それがマッティアが素数をすばらしいと考える理由だ。
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この物語は恋愛小説でも、人間成長の物語でもなく、ハッピーエンドもない。 心にトラウマを抱くふたりの少年・少女が大人になる過程のリアリティのある痛みがゆっくりとしたペースで語られる。
アリーチェは仲間にいれてもらうためにタトゥーまで入れようとするが、仲間になることはできない。そして拒食症に苦しむ。マッティアはトラウマから逃れるためにのめりこんだ数学に才能を認められるが、自分の殻に閉じこもり、自傷行為までする。この小説は人間の弱さと苦悩を描き続け、それは読者にも辟易するような痛みをもたらす。
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Perché lei e Mattia erano uniti da un filo elastico e invisibile, sepolto sotto un mucchio di cose di poca importanza, un filo che poteva esistere soltanto fra due come loro: due che avevano riconosciuto la propria solitudine l’uno nell’altra.
なぜならアリーチェとマッティアはささいな事柄の束の下に埋もれた、伸び縮みする見えない糸でつながっていた。その糸は彼らのようにお互いの孤独を認め合うような2人にのみありえるものだった。
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アリーチェとマッティアの間にあるのは本当の恋愛感情ではなく、お互いの孤独を埋め合う必要性だった。だが、それが彼らがもつ唯一の
絆だった。
若いひとにとって何よりも大切なことは「仲間」にいれてもらうこと、認めてもらうこと、そして願わくば愛されることだ。 そのためには、いじめすら我慢する。 「普通」の強い人間ばかりではない。この小説を読むことで弱さをもち、絆を渇望するひとびとを理解することが容易になるかもしれません。
Nobody is perfect, nobody is worthless.
(誰も完全ではなく、誰も無価値ではない)


原人のくせに失礼しました。
飯田 亮介訳の日本語版(ハヤカワepi文庫)もありますよ。
映画にもなってますが字幕は英語です。小説の雰囲気がわかる
YouTubeビデオはこちら。
追伸: このひとには苦悩などないように見える。

こなみかなた作、「ふくふくふにゃーん」よりおかりしました。
Posted at 2016/11/29 17:58:13 | |
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