
米国の頂点に君臨するスポーツカーレース・USCC。
2016年シーズンからエンジンをMZR-2.0Tへスイッチし、USCC最高峰のプロトタイプクラス挑戦3年目を迎えた北米マツダのLMP2マシン。
今シーズンは第4戦で初のポールポジションを獲得、続く第5戦では初表彰台となる3位入賞と、かつてないほどの上昇気流に乗って迎えた第6戦・ワトキンスグレン。
この6時間レースでは、マツダ787Bによるル・マン優勝25周年を記念して、#55のLMP2マシンがオレンジ&グリーンのCHARGEカラーに、僚友の#70も同じくアーガイル模様の塗り分けを施して登場し、週末の話題をさらいました。
注目のリザルトは、メモリアルカラーをまとった#55が、0.17秒差という僅差の予選2位からスタートし、決勝レースでも一時はトップを快走するシーンを演じ(たものの、リタイヤ)、一方の#70は予選5位のポジションを堅持したままフィニッシュと、それぞれに印象的な走りを見せてくれました。
・・・などと、このたび(久々に)私がマツダLMP2のチャレンジの様子を伝えておこうと思い立ったのも、今年のル・マン24時間レースでの
”信じ難いドラマ”を、リアルタイムで観てしまったからに他なりません。
そのドラマの中身といえば、皆さんもご存知の通りですよね。
「トヨタよ、敗者のままでいいのか。」
そんな挑発的なスローガンを掲げ、新開発のハイブリッドマシンで今年のル・マンに挑んだトヨタ。
ポルシェやアウディの本命マシンがトラブルで後退し、次々に片肺飛行に陥っていくのを尻目に、トヨタは2台揃って快調に走行し、レースの大半をリード。
そのまま総合1-3位という好ポジションで終盤に突入し、悲願の初優勝が目前に迫っていた#5・トヨタTS-050ハイブリッドに、残り5分でメカニカルトラブルが発生し、まさかの大失速。
これにより、同周回で追走していた#2・ポルシェ919ハイブリッドが、残り3分の時点でメインストレート脇に停車した#5をパスして大逆転、2年連続の総合優勝が転がり込むという、誰もが予想し得なかった結末を迎えたのです。その上、失意の#5は最終ラップの規定タイムを満足できず、2位相当の周回数を走破していながら完走扱いにならなかったという、まさに”悲劇”というべきドラマ。
「まだ何かが、足りない。」
現在はこのようにコピーを更新したトヨタですが、さすがに今回のル・マンに関しては・・・あと少し足りなかったのは「運」以外の何ものでもない、そう私は思います。
実は今回のル・マン24時間レース、私はゴール30分前からやっと生中継を見始めたクチなので、例年のようにスタートから一貫してレースの趨勢を追いかけていた訳ではありません。でも、外出先でGazoo Racingサイトの速報レポートを見る限り、トヨタは常にレースの主導権を握る“横綱相撲”を演じていたし、日曜の夜、家族と立ち寄ったトンカツ屋で覗いた17H経過時点のレポートに「1-2体制」の文字を見た私は、「今年は遂に勝つな・・・」と確信(観念)していたのです。
しかし、「せめてゴールシーンくらいは生で見届けなければ・・・」と観始めたCS放送で、解説・実況陣も思わず絶句した、凍り付くような展開が。
間違いなく現場サイドは最善を尽くしたと思うし、技術の粋と英知を結集したマシン開発も過去最高レベル。この上、望んでいた最高の結果が伴わなかったのは、まさに「運」。トヨタチームには全く非がないとさえ思えます。
(強いて言えば、最後まで1-2体制が維持できなかったことが悔やまれますが、タラレバはなしで・・・)
「レースに勝って、勝負に負けた」
このことは、最後の瞬間まで勝負を諦めない猛追を見せた結果、通算勝利数を「18」に伸ばすことに成功したポルシェでさえ、心から自分たちの勝利を祝う気にはなれず、アウディと共に、トヨタへ最大級の賛辞を送ることを忘れなかったという事実が雄弁に物語っています。
残り5分、「敗者」が「勝者」に変身する劇的瞬間を万感の思いでカウントダウンしていた中、突如天国から地獄へ突き落された関係者の方々の落胆や心労たるや想像を絶するものがあり、私は慰めのコトバが思い付きません。
今回は本当に稀なハードラック。来年こそはぜひ雪辱を!
最後まで初優勝を信じていたトヨタファンはもちろん、多くのレースファンも同じ思いだったでしょうし、結果的に”日本車唯一のル・マンウィナー”との肩書きが残ったマツダの大ファンである私も、さすがに今回は99%以上、同じ思いを抱きました。
「いくらなんでも、それはないんじゃない?!」
なんて、勝利の女神に大クレームを付けたい気分でしたしね。
でもね・・・
この美しくも儚い惜敗のドラマに少しだけケチをつけるようで申し訳ありませんが、私は「完全に100%」は同情し切れないのですよ。
何故って・・・そもそも、今年のレースが始まるまでの過程に関し、やはり文句を言っておきたいことがあるから。
それは、私のみんカラブログでは耳タコな話題で恐縮ですが、今年もトヨタがライバルと同等の3台体制を敷こうとしなかったことへの
失望。
その正確な時期は忘れてしまいましたが、昨年の秋頃だったか、トヨタが2016年のル・マンに2台体制で臨むという残念な情報に接したのです。
過去何年もの間、王者アウディや復活したポルシェが何れも3台体制でこの偉大な24時間レースに挑み、確実に栄光を勝ち取ってきた中で、頑ななまでに2台体制を維持してきたトヨタ。
(なんでも「不利な条件に自らを追い込んで戦う」などという公式な理由があるようですが・・・本気で?)
単純な数の大小以上に戦略面での自由度が制限され、劣勢を強いられやすいのが「マイナス1台」。
とくに、ル・マン24時間のような長丁場のレースでは、予期せぬアクシデントやトラブルは付き物。
もし仮に1台トラブルに見舞われた場合でも、3台体制なら依然、残った2台で戦略を分けて戦うことも可能なところが、2台体制だと僅か1台で、守勢に回りながら勝負せざるを得ません。現に、今年のレースでは、序盤からアウディやポルシェの本命マシンが後退してしまって劣勢を強いられていたし、最終的には盤石に見えたトヨタも大事な1台を失ったわけですからね・・・。
ここ数年、ル・マン必勝と毎年のように口にするわりに、一向に3対3の真っ向勝負を仕掛けようとしない姿勢に私はずっと苛立ちを感じ、挑戦する真意すら計り兼ねていたというのが正直なところ。
それゆえ「今年もそうだったか・・・」と、諦めにも似た落胆を感じていたのですね。
ところが、現実にはここで思わぬ神風が吹くことになります。
昨年9月に北米で巻き起こったアウディ車のディーゼルエンジン疑惑を発端にして、アウディが事業計画を大幅に見直す事態に陥り、その余波でアウディと同グループのポルシェのモータースポーツ計画にも影響が。長らく3台体制を維持してきたル・マン参戦も、遂に2台体制への縮小を余儀なくされてしまい、トヨタが負うはずだった「数のハンデ」が労せずして解消されたのです。
これは・・・トヨタにとっても全く望外なGoodニュースとなったはず。
自らがまたも背負い込む決断をしたはずのディスアドバンテージが、予期せぬ外的要因によって帳消しとなってくれたわけですから、なんてラッキーなんでしょう。
そう、昨秋の時点でこれほどの棚ぼた的な幸運に与ったわけですから・・・ラスト5分、誰もが信じて疑わなかったトヨタの初勝利、その歴史的瞬間を迎える直前にまさかの不運に見舞われても、完全に同情する気にはなれなかったというわけ。(え?料簡が狭いって?? すみません)
もし、来たる2017年もライバルと同じ体制で対等な勝負が実現するならば・・・マシンの素性は抜群に良さそうだったので、今度こそ、ベストを尽くしたその先に“風”が吹いてくれて、悲願のリザルトを手にできるかもしれませんね。
本番レースはまだ1年も先ですが、それまでのサーキット内外での展開や動向にも注目をしていきたいと思います。