
波乱の展開を次々に見せながら、アウディの5連覇で幕を閉じた今年のル・マン24時間レース。
家族そっちのけで・・・もとい、家族の全面協力を得て、昼も夜もスカパーの生中継放送を”集中して”視聴させてもらった私。
#2のアウディR18 e-tron quattroが栄光のチェッカーを受けた時、そこに残った”昨年と全く同じ疑問”とは・・・・
■なぜトヨタは2台体制なの?
でした。
2台の最新マシン・トヨタTS 040-HYBRIDで2014年のWECシリーズを席巻、今年のル・マンウィナーとして最も本命視されていたトヨタ。
今年も2台体制でル・マンに臨み、中嶋一貴選手が日本人初のPPを獲得して勢いに乗る#7のマシンが、24時間の折り返し地点まで堂々とレースをリードしたものの、夜中に突然の電気系トラブルでコース上で息絶え、無念のリタイア。僚友の#8のマシンもレース序盤のクラッシュで大きく後退していたために、悲願の総合優勝はまたも夢と消えました。
トヨタのマシンを応援していた大勢のファンやチーム関係者の皆さんにとっては、期待が大きかっただけにその悔しさは計り知れず、後方から猛追して3位表彰台を獲得した#8の活躍も大した慰めにならなかったかもしれません。
トヨタファンでも、ましてや関係者でもなく、いや逆に、かつてのGr.Cカテゴリーでは敵対していたマツダの大ファンである私にとっても、実はその結果・・・いや、それに至ったプロセスには、大変残念な思いが残ったのです。
(勿論「日本車唯一のル・マンウィナー」との肩書きがマツダに残ったことが嬉しくないといえば嘘になりますが・・・笑)
昨年も散々書いてしまったのですが・・・性懲りもなくまた書きます。
もし仮に、アウディとトヨタ、覇権を争う2メーカーのワークスマシンの実力が拮抗していたとしても、不確定要素の多い未踏の24時間レースに臨むにあたり、アウディの「3台」に対してトヨタが「2台」となれば、普通に考えたら、少数勢力の方が劣勢に映るのは至極当然だといえます。
しかも、王者2台に対して挑戦側が3台ならまだしも、全く逆の構図ときているのです・・・。
実際、今年のル・マンでは、レース序盤に突然のスコールに見舞われ、あろうことか#8のトヨタと#3のアウディが直接絡んでしまう最悪のアクシデントが発生。
両チームともに勝負権のあるマシンを1台ずつ失った結果、「3対2」の構図は「2対1」へと移行。もはや、トヨタはチームプレイを仕掛けるカードを取り上げられ、悲願の総合優勝をこの手で掴むには、首尾よくTOPを快走する一枚看板の#7のマシンが、そのまま無傷で最後まで走り切ることをひたすら願うしかなくなったのです。
これを圧倒的不利と言わずして何というのか・・・
そんな『数の優劣』をハッキリ実感させられたシーンが、レース終盤のポルシェ VS アウディの攻防でした。
次々にトラブルに見舞われて後退していくトヨタやアウディ勢、そして僚友の#14を尻目に、いつの間にかスルスルと首位に躍り出た、ポルシェ919 HYBRID。
1998年以来16年ぶりというルマン復活を(失礼ながら)望外の勝利で飾ろうとひた走る#20のポルシェを、ターボトラブルから復帰した2位のアウディ(#2)が猛烈に追い上げていったあのシーンです。
5スティント連続走行という信じ難いタフネスぶりを発揮して、一周5秒以上もポルシェとのGapを削り取っていったA.ロッテラー選手の鬼神の追い上げも、僚友の#1のアウディが総合3位のポジションでしっかり追走していたからこそ実現したドラマだった、と私は思うわけです。
次々に前方に出現する周回遅れのマシンを、ロッテラー選手がバッサバッサと短時間で処理していく息を飲むような車載カメラの様子は、長年トップランナーとしてル・マンを戦ってきた自信と経験に裏打ちされた、極めて完成度の高いドライビングだったとはいえ、もし彼の#2のマシンがアウディ勢の唯一の生き残りであったなら、あそこまでリスクを冒す激走は許されなかったと思うんですよね。
(結果はご承知の通り、#20ポルシェは残り1時間半でパワートレイン系トラブルにより無念のリタイヤ)
なのに、なぜトヨタは今年もアウディより1台少ない2台で王者に立ち向かったのか・・・。
言うまでもなくそれは、単に私が知らないだけであって、様々な事情や戦略があっての決断でしょう。
きっとトヨタは、シェイクダウンの瞬間からWECの序盤2戦までで既に十分な手応えを感じ、Newマシンの戦闘力には絶対的な自信を持っていたに違いありません。
また、そのマシンはといえば、3.7L自然吸気のV8エンジンにMGUの前後搭載で4輪回生・4輪力行を可能にした超ハイテクなハイブリッドマシンゆえ、3台目の新車を仕立てて、かつ、新車3台による万全な戦闘体制を構築するには、膨大な予算や時間が必要になることは、素人でも十分想像がつきます。
そういう意味でも「2台でも十分に勝算アリ」と考える戦略はわからないでもありません。
・・・でも、王者アウディはその3台体制を敷いてきていたわけですよねぇ。
「7号車のあのトラブルだけは全くの想定外。あれさえなければ・・・」
つい、そんな恨み節が聞こえてきそうですが、それはレースではタブーの「タラレバ」。
1-2フィニッシュを決めたアウディの2台がともに修復を余儀なくされたターボトラブルだって、昨年から今年にかけて一度も発生していなかったそうですから、それがル・マンに棲む魔物の仕業、ということなのでしょうね。
よって、今ここで嘆くべきは、7号車がよもやのトラブルに見舞われた「不運」ではなく、その瞬間、後方を固めるもう1台のマシンを用意できていなかった「戦略」だと思うのです。
“幻の”3台目のマシンが、せめて7号車の1LAP遅れくらいでヒタヒタと追従できていたら、手負いのアウディ勢を抑えてフィニッシュできた可能性はあったわけだし、そうなったら、このブログも存在しなかったことでしょう。
来年は、LMP1マシンの大掛かりな規定変更から2年目のシーズン。
となれば、新旧マシンをうまく併用した3台体制というのも、幾分は実現しやすくなるはず。
ぜひともトヨタには、チャレンジャーとして王者と対等な総力戦に持ち込んで、万全の態勢で総合優勝を目指してもらいたいところです。
個人的には、1991年にマツダが独自のロータリーエンジンで総合優勝を勝ち取った時と同じくらい、量産ハイブリッドのパイオニアであるトヨタがハイブリッドマシンで勝つことには大きな意義があると感じていますから(^^)。
それともうひとつ、2015年のル・マンでは、電力駆動レーシングカーでLMP1カテゴリーに挑戦するという独自の戦略を表明している日産の動向にも、大いに注目したいですね。
あれっ、そういえば・・・
SKYACTIV-DクリーンディーゼルでLMP2に打って出るというマツダの復活劇は一体どこへ?(汗)