こちらのブログで SKYACTIV について色々と考察されているのですが、下記の様な疑問を呈されていました。
点火時期を遅らせることも燃料をリッチにする(昔の燃費の悪いターボと同じように燃料を余計に噴射して温度を下げる)こともしていない。ならば、高負荷域で燃料消費率が上昇するのはおかしい
![](https://cdn.snsimg.carview.co.jp/minkara/userstorage/000/035/447/431/45ba7daeca.jpg?ct=8f05bf4798df)
(出典:
内燃機関の将来展望)
また、
こちらのブログでも、
全負荷までストイキ燃焼かつMBTで運転できるなら図示熱効率の悪化は無い筈で、これは上記PDF資料18ページのBSFCカーブ(BMEP>0.75MPaの領域でBSFCの増加がみられる。)と明らかに矛盾しています。
これについては誤解もある様なので、一通り説明したいと思います。
(理解しやすい様に説明するために、この話の本質ではない、いくつかの要素は無視します)
【ガソリンエンジンとは】
そんなこと言われなくても一通り知っているよ、馬鹿にするなと言われそうですが、できるだけ分かりやすく説明したいので、まずは「ガソリンエンジンとは」というところから説明したいと思います。
ガソリンエンジンの大きな特徴の1つは、スロットルと呼ばれる吸気弁でエンジンの出力をコントロールしているところです。
ガソリンエンジン:
◯出力を高めたいときはスロットルを開けてどんどん空気をエンジンに入れる
◯出力を抑えたいときはスロットルを絞って空気がエンジンに入りにくくにする(吸気抵抗)
つまり、ガソリンエンジンは、常に一定の速度で走るマラソンランナーみたいなものなのです。
そしてマラソンランナーの速度を落としたいときは、燃料を減らすのではなく、吸気抵抗という名前の重りをどんどん重くして速度を落としているのです。
原理的には、ガソリンエンジンは(同じ回転数であれば)フルスロットルの時が吸気抵抗が小さく、効率が良いということになります。
【現実のガソリンエンジンは】
しかし、車を運転する場合は、アクセルをいっぱいに踏む、つまりスロットルを全開にするシーンはごくわずかです。
つまり、ガソリンエンジン車は、燃料を使いながら常に「吸気抵抗」という名前の重りを引きずって走っているのです。
これはモッタイナイ。
だから、低負荷〜中負荷のときは、吸気抵抗という重りで出力を抑えるのではなく、燃料を減らして出力を抑えたい、ということになります。
これがミラーサイクルであり、希薄燃焼や成層燃焼であり、それを実現するための方策の1つがダイレクトインジェクションなのです。
こういった技術や機能を使って、低負荷〜中負荷では「まるで小排気量のエンジンのようになったり」、「燃料が薄くても燃焼する」という高効率な状態になります。
【では高負荷のときは?】
しかしこれがだんだん高負荷になっていくと、出力が得られるように理論空燃比という本来の燃料の濃さになり、エンジン本来の排気量を使うようになります。つまり、そのガソリンエンジン本来の姿に戻るということです。
数々の燃費向上の工夫がされた低負荷〜中負荷から、燃費よりもエンジン本来の出力を重視する高負荷状態になると、当然のことながら燃費が悪くなる、つまり燃料消費率が上昇するという訳です。
○燃料消費率が上昇した→燃料消費量が増えた、リッチ(燃料を本来よりも濃くしている)やリタード(点火時期を遅らせる)している
ではなく、
○燃料消費率が上昇→そのガソリンエンジン本来の燃料の濃さ(理論空燃比)と排気量になった
と理解すべきでしょう。
【従来エンジンとの比較】
もう一つ重要なのは、従来エンジンとの比較です。
従来エンジン(MZR 2.0 PFI と思われます)を見ると、中負荷から高負荷にかけて特に燃料消費率が悪化している様ではありません。(青の線)
つまりリッチやリタードをしていないと見るべきということです。
リッチやリタードしていない従来エンジンと比較して、
○従来エンジンとほぼ同等の燃料消費率でトルクが向上した(青い矢印)
もしくは
○同等トルクをより低い燃料消費率で実現した(赤い矢印)
ということですから、SKYACTIV-G もリッチやリタードをしていないとなります。
もちろん、トルクを従来エンジンと同等に抑えれば、「全域低燃費を実現した」ということなのでしょうけど、エンジン本来の出力を抑えるのもおかしな話。
さらに低負荷〜中負荷の領域では、ガソリンエンジンにもかかわらず、燃料の量で出力を調整するディーゼルエンジン並みの燃料消費率に抑えられています(グレーのゾーン)
結論としては「高負荷域で燃料消費率が上昇するのはおかしい」のではなく、「高負荷域で燃料消費率が従来エンジン並みに上昇するのは当然」なのです。
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Posted at
2017/02/04 11:28:55