
普段は車雑誌はあまり読まないのですが、たまたまコンビニで見かけたベストカーにこんな記事が。
フェルディナント・ヤマグチのザ・インタビュー
第5回 元日産GT-R開発者、現ラクスジェンU6開発責任者 水野和敏氏
【フェル】 ところで、マツダはどうでしょう?
【水野】 (略)商品としての車のバラツキが大きい。誰かの思い込みで突っ走っちゃったクルマ、パッケージングから何から何まで実物検証しながら皆で知恵を出し合いながら作ったクルマまで極端に差が出ているのがマツダの特徴だね。
この人、第6世代群と呼ばれる 2012年発売の CX-5 以降のマツダ車にはほとんど乗っていないんだろうと思う。
確かに、昔のマツダ車は、車ごとに性格が全然違っていた。例えば先代の DE デミオと、同じく先代の BL アクセラでは、エンジンも少し違うが乗り味が全く違った。
1.3L の DE デミオは少し踏んだだけで飛び出していく様な車だった。印象としては、軽くて元気な車。
ただ元々馬力がある車ではないから、そこから踏み込んでも加速しない。極端に言えばアクセルのオンオフだけで車を動かしているような、そんな印象の車でした。
対して、同じ CVT の 1.5L BL アクセラは軽くて元気な車という感じはなく、アクセルの踏み込みと加速が比較的リニアな車でした。(ただし、両車ともアイシン精機の CVT の出来がイマイチで…)
とはいえ、トヨタなど他社もプリウスとヴィッツは全然違うし、アコードとフィットも全く違うし、同じメーカーでも違う車だから乗り味が違うのは当然だろうと、当時は自分も全く疑問に思っていなかったのも事実です。
BM アクセラに乗り慣れた頃、1.3L DJ デミオに乗ると感じたのが、「トルクも馬力も全然違うけど、乗り味はとても似ている」という点。発進時に少し踏み込んだ時の車の加速の仕方、そこから踏み込んだ時のリニアな感じがとても似ている。
で、それは CX-5 や CX-8 の試乗車を借りても同じ印象なんです。
トルクも馬力も着座高さも違うけど、乗ってみると同じ車を運転しているかの様な統一感がある。
特段に優れた機能もなく、重さもエンジンやサスペンション全く違うのに、どうしてこんなに統一感があるのかと疑問に思っていたら、こんな記事を見つけました。
マツダ「目標を追わず理想をめざす」理由
藤原清志専務インタビュー(前編)
http://president.jp/articles/-/22346?page=2
【藤原】まずは日本の自動車会社の中で、優れた――それは乗り味や機能やデザインなどが優れたクルマを、小さいクルマから上のクルマまで格差のない状況にしたいんです。例えばデミオに乗っても「小さいクルマだから」と卑下することなく、お客さまが満足して「良いクルマに乗っている」と思える状態を作ることで、(ユーザーの)クルマを見る目を上げたい。品質やクルマの善しあしを感じるレベルを上げれば、それが結局クルマ文化を作るベースになると思うんですね。
つまり、第6世代群以降のマツダ車は、同クラスの競合他車と比べて近付こう、超えようとしているのではなく、マツダとしての理想があって、そこに近づけようと製品開発をしているということらしいです。
なるほど、そうであれば、デミオから CX-8 まで、とてもよく似た乗り味を持つのは当然ということになります。
それに気づいた後、「ではマツダの理想とする運転とは?」と興味を持つことになり、これまで長い間続けてきた運転姿勢や運転の仕方を見直すきっかけにもなったのですが、その話はまたの機会に。
さて、実はこちらが本題ですが、前述のベストカーの記事には、こんな下りもありました。
【フェル】 マツダ一連の「魂動デザイン」はいかがですか?
【水野】 あれはね・・・(苦笑)。確かに他社と同じいいものを作ってもダメ!だから独自にしますという企画の意図はわかる。しかし、私がインダストリーデザインで一番嫌いなのは「無駄なスペースを使って、いいデザイン」という言葉。これはエンジニアとして認められない。
【フェル】 といいますと?
【水野】 ベンツは限られた少ないスペースで空力と車格と存在感を放つのよ。(中略)意味のないスペースで作るデザイン、個人的には「恥ずかしさは?」と思えるくらい。
【フェル】 げげげ。これは手厳しい・・・。
【水野】 そりゃそうだよ。デザインをやっている人はアーティストぶっているかもしれないけど、エンジニアからしてみれば恥ではと言いたい。家でいえば「六畳一間づすばらしい部屋を作り、だけど六畳に一畳を足して部屋を大きくしていいデザインにしました」なんて言ったって誰も誉めないし、当たり前。
【フェル】 う〜む・・・。
【水野】 マツダのデザイナーには一度、マツダ車とベンツを並べて直接見てもらいたい。(略)ベンツはノーズがあんなに短くてもいびつじゃないワケ。マツダ車のデザインは、デミオを筆頭にフロントグリルの格好よさを優先して後席やトランクが狭い。エンジニアとしての良識から見て欲しい。前を伸ばしている分、タイヤに人が食い込んでいる。だから乗り降りもしにくい。要するにお客様を犠牲にして"いいデザイン"というのは、インダストリーデザインとしてはどうなんだろうと?(以下略)
つまり、この元日産GT-R開発者と称する水野和敏氏は、
「マツダ車はデザイン優先でノーズを長くしている、エンジニアとしての良識に反している、恥ずかしい」と言っているのです。
実際に、アクセラでも先代 BL アクセラと比べると、現行 BM アクセラはノーズが伸びています。
ただし、前を伸ばしてタイヤも前に出して座席を後ろに下げているので、後席やトランクが狭いのは事実ですが、タイヤに人は食い込んでいません。タイヤに食い込むほど座席を前に出したら、折角のオルガンペダルも採用できません。
では、本当にマツダは「デザインのためにノーズを伸ばしたのか」ですが、それデザインのためだけではないということは様々な形として情報として出ています。
なぜ SKYACTIV-G は低速トルクが向上したのか
https://minkara.carview.co.jp/userid/2738704/blog/39271243/
ここでも記事しましたが、
このクソ馬鹿デカイ排気管(4-2-1排気管)をエンジンルームに納めるためなワケです。
新型アクセラにはフルSKYACTIV を載せるのは必須、SKYACTIV-G は長い排気管が必須、よってそのスペースを確保しなければならないのも当然、というエンジニアリング的要件でノーズが長いのです。
デミオの SKYACTIV-G 1.3 はこのクソ馬鹿デカイ排気管は載せていませんが、同じ車体にクソ馬鹿デカイ排気管を持つ SKYACTIV-G 1.5 や、ターボなどの補機類を持つ SKYACTIV-D 1.5 を乗せられたのも、ノーズを長くしたからです。
この他にも、
マツダ「デミオ」、伸ばした80mmを3分野に生かす
http://tech.nikkeibp.co.jp/dm/article/NEWS/20140912/376320/
にある通り、
- 全長の短い右ハンドルのクルマはどうしても運転姿勢が左向きになる。デミオは前輪と座席の距離が80mm伸びたため、ペダルの位置はホイールハウスの都合でなく運転姿勢の都合だけで決められるようになった。
- ホイールハウスとペダルの場所の取り合いが解消したためにホイールハウスの幅を広くでき、前輪の切れ角を大きくした。このためホイールベ―スを伸ばし、ホイールを大きくしたにもかかわらず、最小回転半径を15インチ車で4.7m、16インチ車で4.9mと先代並みとした。
というメリットがあります。
また、他の記事では、
小さなデミオの大きな変身
http://www.webcg.net/articles/-/31060
「新型ではキャスター角を寝かせて(3.3度→5.0度)、直進性を向上させたという。」
衝撃の事実。デミオはGTカーだった!
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20141002/272027/?P=4
「デミオの大きさでキャスター角をより大きく取ろうとすると、8センチ前へ出す必要がどうしても有った訳です。今回のデミオは、高速を使ってより遠くまで快適にドライブできる価値を提供しようとしています。高速の安定性を重視しているのです。」
というエンジニアリング的な要求もあります。
この方が賛美しているベンツですが、日本国内やイギリスで売られている右ハンドル仕様車は、ハンドルがオフセットしていて気持ち悪いんですよね。私が乗ったことがある BMW も同じでしたが、こういう犠牲を無視するのはエンジニアとしてどうかと思いますよ。
「メルセデス・ベンツ Cクラス セダン」海外自動車レビューサイトによる評価は?(海外の反応)
https://kaikore.blogspot.com/2017/04/mercedes-c-class-saloon-2017-review.html
「イギリスの右ハンドル仕様ではステアリングホイールが少しドライビングポジションの中心からずれている。」
元日産GT-R開発者、現ラクスジェンU6開発責任者の水野和敏さん、ベンツやBMWの右ハンドル車のアクセルペダルやハンドルのオフセットを無視して賛美した挙句、自分がよく知らないだけなのに、マツダ車がデザイン優先でノーズを長くしたとか、乗り降りしにくくなったとか言い出すのは、エンジニアとして非常に恥ずかしいことですよ。
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Posted at
2018/06/24 17:07:28