少し前に、次世代 SKYACTIV-G では HCCI(予混合圧縮着火:Homogeneous Charge Compression Ignition)が採用されると新聞でも記事になりました。
(日本経済新聞 17年1月9日:
マツダの新エンジン 3割省燃費)
マツダの SKYACTIV エンジンの生みの親、人見光夫氏は、その記事よりずっと以前から HCCI について言及していて、研究開発をしていることは明言していました。問題はいつ製品化するか、という点なのですが、2015年の段階で「明確には言えないが2020年の欧州の燃費規制強化に役立たなければ会社としてやる意味がない」(日刊工業新聞:
次世代エンジン開発に賭けるマツダの意気込みとは)とまで言っていましたから、できれば2018年、遅くても2019年というのは予想通りですし、このタイミングでリークしたのは、開発が順調なのか、それとも開発部隊にハッパをかける意味でぶち上げたのか、期待と不安を感じます。
でも、私が注目しているのは、こんな実用化が難しい技術の実現ではなかったりします。
以前の記事「
インジェクターの燃料噴射量補正について」では、将来のSKYACTIV-Dで使われるであろう、デンソーの第4世代インジェクターについて簡単に解説しましたが、次世代 SKYACTIV で新たに採用されるであろう技術はまだあります。
まずは、人見光夫氏のプレゼンテーション
SKYACTIV 開発と今後の展望 から抜粋します。
人見氏が「世界の主流」というダウンサイジング(エンジン)と、SKYACTIV-G 2.0 を比較したのが次のページです。
縦軸が BSFC(出力あたりの燃料消費量)、横軸がトルクですが、「3気筒1Lや4気筒1.4Lダウンサイジングは、軽負荷のみ 2L SKYACTIV に勝る」ということがわかります。
「軽負荷での燃費」というのは、実燃費においても一定速の走行など負荷の軽い状況で燃費の向上となりますが、欧州ではカタログ上の燃費に大きく影響するので、非常に重要です。
この2つのグラフの左側は NEDC(欧州)、右側は FTP(米国)の燃費計測用の走行モードです。日本でいう JC08 と同様の、カタログ燃費を計測する時に使う、予め定められた「走り方」になります。
右側のFTP(米国の走行モード)は 1500回転を中心に、低負荷から高負荷までまんべんなく使われるのに対して、左側の NEDC(欧州の走行モード)は、2000-2500回転を中心に、ほとんどが低負荷での走行に偏っているのがわかるかと思います。
ですから、欧州で「カタログ燃費」を良くしたいなら、低負荷での燃費を向上させるのが手っ取り早いのです。
しかし、現実の燃費はどうかというと、
このグラフは縦軸が ADAC ECO test と呼ばれる、ADAC(全ドイツ自動車クラブ:ドイツのJAFみたいな組織)が、実際に走行して計測した燃費、つまり実燃費です。そして横軸は NEDC、つまり欧州のカタログ燃費です。
グラフを見れば、過給ダウンサイジング(エンジン)の多くは、カタログ燃費は良いが、実燃費は悪いという傾向が見て取れます。それに対してマツダ車は、カタログ燃費と実燃費に大きな乖離がないということもわかります。(赤い実線に近い)
さらに「軽負荷時は過給ダウンサイジングよりも燃費が悪い」という点の改善策として、マツダは気筒休止を導入する様です。
気筒休止とは、軽負荷時に一部もしくは全部の気筒の吸気バルブや排気バルブを開いたままにして、エンジンを空回りさせようというものです。詳細はホンダのホームページにわかりやすい説明があるので紹介します(
ゆとりある走りと低燃費を両立する Honda の VCM)
このホンダの資料が 2003年6月発表ということですから、気筒休止という技術自体は、大昔からあったというのがわかるかと思います。
赤い実線の SKYACTIV-G 2.0 に対して、赤い点線が気筒休止 w/ cyl. Deac. (with cylinder deactivation) です。
軽負荷時の燃料消費率が大幅に改善され、1.0L や 1.4L の過給ダウンサイジングと比較しても同等以上になっているのがわかるかと思います。
つまり「2L SKYACTIV で3気筒1Lや4気筒1.4L過給ダウンサイジングに全運転領域で勝てる」ということです。
さらに 2.5L SKYACTIV でもほぼ同様の効果を期待できるとのこと。
そしてマツダが過給器ではなく、排気量にこだわるのかには理由があります。
結局、小排気量エンジンに過給器(ターボ)を使うよりも、大排気量NAエンジンに気筒休止とリーンバーン(希薄燃焼)を組み合わせて使った方が燃費が良くなるということなんです。
希薄燃焼を使う低中負荷時の燃料消費率が、理論空燃比時よりも良くなるというのは、「
SKYACTIV-G は高負荷時に燃費が悪化するのか」という記事でも説明していますが、同じ馬力を得るにしても、小排気量エンジン(+過給器)を理論空燃比で動かすより、大排気量エンジン(+気筒休止)の希薄燃焼領域を使った方が燃費が良いということなのです。
それがなかなか普及しないのは、もはや時代にそぐわない「排気量別の税金」だということは、日本も欧州も同じです。
そして人見光夫氏の意気込みが次の2ページ。
実現できるかは未知数ですが、気筒休止自体は昔からある技術ですので、それほど難しいとは思いませんし、私としては「その意気込みはよし!」という感じです。
私が紹介した、この人見光夫氏のプレゼンですが、これ以外にも下記の事柄について言及しています。
①なぜ他社が高圧縮エンジンを開発しなかったのか
②なぜ規模の小さいマツダが高圧縮エンジンを開発できたのか
③電気自動車やハイブリッドが本当に環境に優しいのか
PHEVはどんなに電費(燃費)の悪いEV走行をしても、どんなに燃費の悪いハイブリッド走行をしても、カタログ値は電池をたくさん載せたもの勝ち
特に私が賛同するのは、次に挙げる3ページです。
これはカルフォルニアのZEV規制も同様で、「現実にはどんなに環境に悪くても、電池とモーターを積めば、環境に良いということにしてくれる」という法律が大問題です。
上記の欧州の例で言えば、ハイブリッドモードで CO2 排出量が 150g/km という車でも、モーターで 51km 走れるようにすれば、デミオ(100g/km)の2倍以上燃費の良い車ということにしてくれる、という悪法です。
フォルクスワーゲンの不正を、法律にして欧州全体で合法的に行うようなもの。
なぜそんな「フォルクスワーゲンの不正を法律化するようなことをやるのか」が明快に書かれています。
「モーターショーでもものすごいハイパワーの車をPHEVにして環境にも優しいと宣伝
でも本当に訴えているのは、モード運転のようなおとなしい走りなんかやめてぶっ飛ばせばエンジンも最初からかかってものすごい走りが体感できますよ。実はそのためにモーターとバッテリーを載せました。面倒?充電なんかしなくてもものすごく走りますよ。
環境問題? どんなにCO2を出してもモータとバッテリーを載せれば、例え充電なんか面倒くさいからしなくても、この車は環境にいいのだと政府のお墨付きです。どうせドイツでは充電しても大して節約にもならないし。。。。。」
つまりドイツ自動車メーカー保護のための非関税障壁なんです。
そして最後に。
役員とはいえ日本の弱小自動車メーカーではなく、トヨタの早川茂日本経団連副会長あたりが、これぐらいのことを言ってくれませんかね。
Posted at 2017/03/26 20:42:11 | |
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