
国産初のミッドシップという視点では、1966年、BrabhamのBT8(レーシングスポーツカー)のフレームをお手本としたプリンス自動車・R380プロトタイプレーシングカーが最初となるが、国産市販車初では1984年6月発売のToyota MR2(AW10系)がそれにあたる。
それ以前では「ミッドエンジン・リアドライブ」のレイアウトはレーシングカー、もしくは高級スポーツカー用としての意識が強く、一般市販車への応用は居住スペース・収納スペースなどの問題から採用されることは現実的ではなかった。
しかし、量産車で前輪駆動のパワーユニットが量産されると、FF車の前半分を後ろにもってくることでミッドシップのスポーツカーを造るという手法がFiat X1/9によって生まれた。これらの流れを組むモデルは基本的にエンジンは横置きとなり、AZ-1/CARAもSuzuki Alto Worksからの流用ということでその流れを組む。
■AZ-1が生まれるまでの国産ミッドシップ車
1984/06 | TOYOTA MR2(AW10) |
1989/10 | TOYOTA MR2(SW10) |
1990/01 | HONDA STREET(HH1) |
1990/09 | HONDA NSX(NA1) |
1991/09 | SUZUKI EVERY(DE51V) |
1991/05 | HONDA BEAT(PP1) |
1992/01 | TOYOTA ESTIMA(CXR10G) |
1992/10 | AUTOZAM AZ-1(PG6SA) |
※SUZUKI EVERYのOEMであるAUTOZAM SCRAM(1991/10)を除く |
※FFベースではAZ-1は5番目 |
エンジンの横置きミッドシップというと、Lamborgini Miuraが有名である。設計者であるジャン・パオロ・ダラーラは横置きミッドシップはMiura以外では採用していないことを考えると問題点も多いのかと想像してしまうが、ホイールベースを短くできるのは大きなメリットだと考える。Miuraとは無関係だがAZ-1/CARAでは整備性の悪さとエンジンの前後の揺れがとても気になることがある。個人的には人間の都合は後回し感いっぱいなのは惹かれる要素だが、何か手を入れようとその深部にアクセスする時には間違いなく呪詛の言葉をつぶやく。
AZ-1のカタログに透視図があるが、ミッドシップの定義である前輪車軸と後輪車軸の間にエンジンがあるとはいえ、ほとんど後輪車軸の上であることが見えることから、中央に重たいものを寄せるという発想は採用したものの、その本質からは少し遠いような印象を受ける。
例えば、もう1台のエンジン横置きミッドシップで、なんとなくAZ-1/CARAと似たようなパッケージのクルマにLancia Strato'sがある(ジャン・パオロ・ダラーラはStrato'sにも関わっているが、パッケージ決定後の参加で、シャーシ、サスペンション、ブレーキを担当した)が、これで比較するとわかりやすい。
※「似たような」と表現したが、比べてみるとあまり似ていないこともわかる。
Lancia Strato's
Autozam AZ-1/Suzuki CARA
明らかにAZ-1/CARAは車軸寄りである。ただし、Strato'sのエンジンは65度V型6気筒エンジンなので必然的にこの搭載位置になったとも取れる。実際、前後車軸の重量配分はAZ-1/CARAが44:56、Strato'sは37:63なのでAZ-1/CARAが極端にリア寄りなわけではない。なお、Strato'sは当初2400mmのホイールベースから検討が開始されたが、2350mm→2250mm→2180mmと切り詰められていった経緯を持つ。そこまでして中央にエンジンを載せたかったのだろう。
限られた空間に隙間無く詰め込んだStrato'sもすごいが、エンジンを横置きミッドに配置し、ホイールベース短縮に振るか、居住空間に振るかでAZ-1/CARAも大きな決断があったに違いない。結局、居住空間とメカを半々に振り分けたのは落し所としては絶妙ではないだろうか。その後にスペアタイアの空間としてさらにキャビンを明け渡たすことになるのだが。MiuraはV型12気筒エンジンのミッドシップだが横置きにすることで居住性の良さをアピールしていたことを考えると、小さなクルマには人間の大きさが変わらない限り、ハードウェアに明け渡さざる得ないということか。
■前後重量配分と前後車軸⇒Z軸距離と重心高
Name | WheelBase | WeightDistribution | F:Z Length | R:Z Length | CenterOfMass Height |
AZ-1 | 2235mm | 44% : 56% | 1251.6mm | 983.4mm | 426mm |
BEAT | 2280mm | 43% : 57% | 1299.6mm | 980.4mm | 440mm |
CAPPUCCINO | 2060mm | 51% : 49% | 1009.4mm | 1050.6mm | 450mm |
ミッドシップには、必ず添え物のように「Z軸周りのヨー慣性モーメント」という言葉がが漏れなく付いてくる。その物体を回転させようとした時に、回転しやすい、回転し難いを表しているが、物体の回転軸中心を重心とした場合、その中心に近ければ近いほど慣性モーメントは小さくなる為、クルマの構成物の中でもっとも重いエンジンが中央にあるミッドシップ形式車には必ず併設される言葉となる。
AZ-1/CARAでは前述の横面図でいうと人間の腰の辺りにある白と黒の丸いマークがZ軸上の重心点である。人間を中心にコーナリングすることを意図しての設計となる。Honda Beatも同じような位置で、Suzuki Cappuccinoは横から見るとちょうと人間のヒザの辺りに来る。3車の中ではAZ-1/CARAの重心高の低さが目立つ。これはあくまでも静止状態での重心位置で、加速すれば後方へ移動するし、減速すれば前方へ移動する。
AZ-1/CARAはノーマルのサスペンションだと前輪が浮いているような感覚がある為、スペアタイアを当初の設計通りにフロントフード内へ移設するオーナーが多い。この方法でずいぶんと不安感は消えるが、慣性モーメントから見ると不利になる。余談だが、スペアタイアを前に置くとタイヤが運転席に飛び込んでくると表現している人がいるが、正確には押されたタイヤがハンドルポストを押すのが正解。タイヤがバルクヘッドを突き破ってくるような衝撃は、スペアタイヤがどこにあろうとあの世行きだ。
またAZ550がリトラクタブルヘッドライトを採用していたが、市販化にあたって固定ライトとなったことを嘆く声も多いが、これよって衝突時にヘッドライトが破壊される可能性の低減、エンジンが660ccとなったことによるラジエーターの大容量化、フロントセクション剛性の確保など多くの恩恵を得ている。もちろん、Z軸から遠いところにあるヘッドランプの軽量化は慣性モーメントも小さくなり、車体中央部を大きく軽量化したことと同等となる。この「車体中央部を軽量化した」ことによる恩恵はあくまでコーナーリングなどのヨー・ピッチ、ロールの回転に対してであって、クルマの加速、減速ではない点に注意。(ホイールナットの軽量化もこれと同じ理由)
このように「カート感覚」を絶対の目標としてきたにも関わらず、なぜかバッテリーだけはリアオーバーハングのしかも高い位置への設置となったのは、設計者の苦労をが伺える。車体中央を考えた場合、運転席の後ろに空間があるが、ガソリンタンクの横であることや整備性の悪さ、設置環境の悪さ、左右重量バランスの悪さから候補から外れたと想像する。車体左エアインレット内にも空間があるが、エンジンルーム内の換気の阻害と整備性、ガソリンタンクに近いことなどからやはりここもダメだったのかもしれない。そもそも左スクープ内に設置した場合、バッテリーへのアクセスは、左インレットをリッド状にして開閉可能となる必要があるだろう。フロントフード内のタイヤが無くなった時点で前へ持ってこれたら開発者は大きな満足があったと思われるが、その空間が空いたのは開発も大詰めで、ただでさえ遅れていたAZ-1/CARAに、その変更を受け入れる余裕は限りなくゼロに近かったのだろう。
軽自動車という特殊なセグメントに、スポーツカーを名乗ることを許されなかったミッドシップ車。その向こう側には、メーカーだけでなくユーザー側にも大きな期待があったはずだ。しかしパーソナルカーというジャンルもシティコミューターだけが生き残った。必要とされないものは生き残れない。しかしモデルチェンジという進化を見てみたかったと思うのは私だけだろうか。
Posted at 2008/01/12 23:18:18 | |
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