クルマと過ごす時間が,ただの移動ではなくなる瞬間がある。
新入生のセブン480Rで湯河原へと向かい,箱根・椿ラインでヒルクライム。
今日は「慣らし運転」という目的があるが,峠道にそんな概念は通じない。
こちらが控えめに行こうとしているにも拘わらず,道のほうが執拗に挑発してくる。
「どうせ回りたいんだろ?さぁ回れよ」と。
椿ラインはカーブの見本市…いや,万博だ。
すべてのコーナーが「ほらほら,気合を入れて!」と,カツを入れてくるのだ。
こちらは,まだ入学まもない新入生なのに,1時限目から全開フルスロットル。
セブンも「おい,話が違うぞ」と,文句を言うかと思いきや,あっさりと挑発に乗るタイプ。
どこでABCペダルを踏むか?,どれだけステアリングを切り込むか?
私の挙動は,セブンに完璧に読まれている。
こちらの出方を見越しているかのように,路面をしっかり掴んで離さない。
ついつい道とマシンにせき立てられながら,夢中でコーナーに挑んでいた。
我を忘れて登り切った先は,猛者たちのオアシス大観山。
棺桶から抜け出し,空に向かって大きく伸びをする。
あのまま続けていたら,箱根駅伝・第5区のランナー並みに,こっちの心臓がオーバーヒートだった。
帰りは,某CGTVのセブンの回で,M任谷氏が強化クラッチに苦戦し,5回もエンストしていたターンパイクを下る。
だか,ヒルクライムを思えば,こちらは一転,ゆとり教育だ。
次のコーナーまでの十分な間隔は,心と体に余裕を与えてくれる。
まるで,さっきまでの椿ちゃんが「それでも好きって言ってくれる?」と,聞いてくるメンヘラ女子に思える。
ターンパイクを下り切ると,いつもの干物の工場直売店「山安」。
お目当ては,カマスの干物とイカのクチバシ(とんび)。
私は昔からこの一辺倒で,身体を流れる血液のあちこちに,カマスとイカが泳いでいる。
現在の店舗は,なんちゃって神殿のような佇まいだが,入口と出口が決められた「トコロテン方式」には閉口する。
だが,建替え前から変わらず守り続けているのが,店先で自分で焼いて食べられる試食。
誰かが焼いていると,その匂いで次の客がおびき寄せられ,気づけば店内で干物を手にしている。
あれは営業というより,漁法である。「セルフ香り撒き餌漁」だ。
干物の脂がはぜる音と,煙幕に包まれた罠のような空間が,昔から好きだ。
助手席には,こちらを見つめるカマスと,何か言いたそうなクチバシ。
「おい,今夜は酒あんだろうな?」
うるさい干物とクチバシの入った袋を結び直し,帰路を急ぐ。
さて,問題はここからだ。
買った干物は冷凍だったので,保冷剤も入れず助手席へ。
都心に近づき,恒例の渋滞に差し掛かったころ,干物が目を覚ました。
溶けた汁がシートに染み出し,納車早々,もはやセブンは事故物件車両である。
こんなことなら,エキマニに挟み,焼きながら帰るんだった(涙)
何はともあれ,熱を帯びたセブンと,焼かれるのを待つ干物。
どちらも,今日という新たな1ページを,しっかりと脳裏に焼きつけてくれた。
長嶋茂雄。その男は,昭和を…いや,日本を代表するヒーローだった。
幼いころの記憶に,MVP受賞だろうか?ミスターが,リボンのついた巨大なキーを,誇らしげに掲げていた姿がある。
光を受けてきらめくそのキーは,栄光の証。
選ばれし者だけが手にする勲章だった。
そんな象徴にさえされるクルマのキー。
それは,単なる備品のひとつに過ぎないが,不思議な力を持っている。
ディーラーでキーを手渡された瞬間,エンジンの音より先に,心の中でファンファーレが鳴る♪「俺のクルマになった」と。
家のカギを持つ者が,その家を自由にできるように…
クルマのキーはオーナーの証であり,新たな門出の号砲でもある。
さて,私が最初に手にしたキーは,ヘッド部分にニャロメのイラストが描いてある合カギだった。
中古のセリカで,純正のキーもなければ,プラスチックの被覆もされていなかった。
乾燥した日には静電気が火花を散らし,手荒い歓迎をしてくれる。
夜,そっとクルマに近づき,ビクビクしながらドアを開ける自分は,どう見ても車上荒らし。
クルマに乗るというより,職質一歩手前だった。
オーナーという響きにはほど遠いが,それでも凄く嬉しかった思いがある。
アルテッツァのときは,当時,珍しかった内溝キー。
たしかトヨタ車としては,クラウンと共に初の試みだったはずだ。
未来を感じ,あたかもタイムマシンに乗っているかのように,見せびらかした。
ワーゲンのジャックナイフキーでは,意味もなくブレードを飛び出させ,アウトバーンなんて行ったことなかったのに,ドイツの不良気取り。
メルセデスのスマートキーは,「キーレスゴー」とオリジナルネームまで付け,モデルチェンジのたびにデザインも変わる。
誇らしげに光るスリーポインテッドスター,でも型落ちになると,ポケットから出せないという,副作用つき。
他にも,ポルシェのミニカー型キーやアストンマーティンのクリスタルバー,アルピーヌのカードキーなど,各メーカーは一風変わったキーでオリジナリティを競っている。
そして,今回のケータハム・セブンのキー。
妙にギザギザである―――
とにかく,ギザギザ。
近くで見てもギザギザ,遠くで見てもギザギザ。
ノコギリみたいで「絶対,キャンプで重宝するっしょ」というレベル。
これまで様々なキー遍歴を持つ私にしてみれば…
「今どき,こんなのありかよ」と思わず口に出たが,同時にふっと笑ってしまった。
あの長嶋茂雄が掲げた巨大なキーに,一番近いのはこのギザギザかもしれない。
最新式のスマートキーよりも,よっぽどオーナーになった実感が湧くのだから…
あの,ビアダイニング『シュマッツ』が,近所にオープンしたので行ってみた。
2025年現在,首都圏を中心に34店舗を展開する,ドイツビール専門店である。
そのネーミングが,いかにもドイツ語っぽいような,オノマトペのような…
いや,正直,最初に聞いたときは,思わず「ウルトラマンですか?」とつぶやいてしまった。
そう,「シュマッツ」って,ウルトラマンの「シュワッチ」にどことなく似ている。
まるで怪獣退治を終えたウルトラマンが,ビール片手に,「今日もよく働いた」と,ほっと一息ついているような声だ。
でも,よくよく考えると…
ウルトラマンは,300万光年も離れたM78星雲から,相対性理論など物ともせずやって来て…
毎週日曜日の地球の危機には,休日出勤もいとわず,身支度3分以内で急行してくれる律儀な宇宙人。
クリスチャンなのか?十字に交わした手の甲から,謎の光線まで繰り出す。
私たちの想像を絶する,超文明を有した存在なのだ。
それなのに彼が発する言葉は「シュワッチ」だけである。
どう考えても,語彙が乏しい。
グーグル翻訳も真っ青の一言主義。
怪獣の攻略マニュアルを読めるくせに,地球に来たらいきなり単語ひとつ。
どうなっているんだ,M78星雲。
いや,待てよ?ウルトラマンは,地球では母国語でしゃべる相手がいない。
だから,彼は,生まれ故郷とテレパシーで会話しているのではないか?
そう,人類の科学では及ばない,脳波で意思を伝えるやつだ。
それならば,あの「シュワッチ!」は言語ではなく,ただの掛け声だ。
じゃんけんに勝って「イェー!」と叫んだり,タイミングを合わせるときの「せーのっ!」みたいな,あれだ。
それに気づいたら,目から鱗が落ちた。
シュマッツも,もしかしたらそうなのでは?
ドイツ人がビールを持って「シュマッツ!」と叫んだら,それは「お疲れさま!」の意味だったり,「このソーセージ最高!」っていうテンションの現れかもしれない。
ウルトラマンとドイツビール。
共通するのは,気合いと情熱,そして語感の良さだろう。
結局,人は大事なときに「言葉」より「ノリ」で,気持ちを伝えるものなのだ。
そんなことを思いながら,私はシュマッツのカウンターで,弾けんばかりのソーセージを前に,一杯目のビールをあおった。
「シュワッチ!」…じゃなかった(汗)
「シュマッツ!」と(笑)
Wikipedia「シュマッツ(Schmatz)」より―――
「シュマッツ」とは,「幸福の音」を意味する擬音語。おいしいときに思わず舌が鳴る音や大好きな人の頬にキスをするときの音を表している。
車検証に記載された車台番号が,実車と違う!?
ディーラーからそんな連絡を受け…
きっと他のセブンと書類を取り違えたのだろう。
そんな想像を巡らしながら,駆けつけてみると―――
実際は,英数字の羅列の中の「たった一文字」の違いだった。
車台番号は,メーカーごとに意味が込められていて…
ケータハムでは,途中の一文字がハンドル位置を示している。
日本に輸入されるセブンの99%以上は右ハンドルなので「R」。
しかし,私のセブンは左ハンドル。
だから,正しくは「L」なのに,セブンは「R」だと思い込まれ,そのまますり抜けていたのだ。
再度,メーカーから証明してもらい,車検証・車庫証明・保険などの訂正をすれば完了。
いろいろ想像した割には,あっけない結末となった。
とある男が―――
交際を開始して数ヶ月になる彼女と,初めての旅行を計画。しかもハワイ。
二人で意気揚々と旅行代理店に出かけ,予約の手続を進めた。
申込用紙に記入を済ませ,最後にパスポートを提出。
それを見ながら転記していたスタッフの手が,ピタリと止まった。
そして,そっと彼女を覗き込み,次に彼を見てニヤリとした。
書類の性別には二人とも「男」にチェックが入った。
え゛ーーー!
彼が,彼女のパスポートを確認すると,性別は「F」ではなく「M」。
な…何かの間違いだ!彼女も否定している。
たぶんパスポートを発行する際に,何かの手違いで,今日まで気づかなかったのだ。
たった一文字。
けれど,情報化社会に於いては,一文字違えばクルマも人も,別の存在になってしまう世の中なのだ。
2025年4月21日,東京地裁は,67年前に都立病院で発生した新生児の取り違えに関する訴訟で,東京都に対して,生みの親を特定するための調査を命じる判決を下した。
病院で,赤ちゃんが取り違えられるなんて,ドラマや小説の中の話だと思っていた。
しかしそれが,まさか自分の身に降り掛かるなんて―――
いや,正確には「自分のクルマに」だけど。
我が家にやって来るはずだったのは,ケータハム・セブン480。ナロー(細身)ボディのS3仕様。
見た目は小柄だが,(鉄パイプの)芯がある,(アライメントが整った)鼻筋の通っている子だ。
そう思って,名前まで考えていたのに…
納車を控えたある日,ディーラーから電話が入った。
「すみません,ちょっと問題が発生しまして…」
聞けば,ナンバープレート封印の儀式で,その子の車台番号と,車検証に記載されている車台番号が,違っていたとのこと。
―――まさかの他人の子?
真っ先にそれが頭に浮かんだ。
そういえば,初めて面会に行ったとき,隣で眠ていた子もセブン480だった。
セブンは,他の子たちより泣き声が大きく,検査も多岐にわたる。
もしやどこかの過程で,書類が入れ替わってしまったのでは?
隣の子はワイドボディのS5仕様。
顔は似ているが,少しぽっちゃりしている。
どうりで車検証の値が,カタログ値よりも育ち過ぎていたわけだ。
…とはいえ,クルマの「取り違え」くらいでは大事には至らない。
ナンバーはまだ封印前だったし,車検証は陸運局で訂正してもらえば済む話だ。
何よりも,肝心の本人は,ディーラーでお利口さんにして待っていた。
間違って引き取られたわけではないし,それが,せめてもの救いだったのかもしれない。
けれど,ふと…思う。
もしも,他の人のワイドボディのセブンが,そのまま私の元に来ていたら―――
「みにくいアヒルの子」のように,想像していた色と全然違う,なんかデカいと感じながらも,愛せたのだろうか?
おそらく,それでも愛情を注ぎ,手塩にかけて育てるだろう。
のちのち出生の秘密を知っても,それを記した「戸籍」だけは,そっと胸にしまったままで…
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