第六弾のお題目は
オーバーステア・ドリフト・スピンです。
移動の合間を使ってなんとか書き上げましたが...
今までで最もヘビーな投稿になってしまったかも(汗)
お好きな方だけお付き合いくださいm(._.)m
その前に、まだの方は
最低限これだけは読んで使われる図の意味を理解ください。
面倒だったらこの先は読まないほうが良いです(キッパリ)
地味なアンダーステアに比べ、オーバーステアのドリフトは格好良いイメージがありますよね。私はイニシャルDを読むずっと前からそう思っていましたし、某ハリウッド映画を見てもそういう価値観はいまや世界標準なんじゃないかと思います。
このカラリングは無いけどね(笑)
さて、
今回の投稿も前回と同様の理由で話の軸を決める必要があります。
車重・トルクといった条件は全く同じと仮定した上で、オーバーステアが出やすいクルマとそうでないクルマと比較し、乗りこなす為の留意点について考えたいと思います。ただ、それだけでは前回の投稿の正反対を淡々と説明するだけになりますから、加えて私が考える理想のドリフトとスピンのメカニズムについても触れたく思います。
アンダーステア編(第五弾)を読んで頂いた皆様は即座に想像ついたことでしょうが、私の理解では
オーバーステアが出やすいクルマとは何らかの理由(重量バランス・タイヤの前後バランス・アライメント等)で静止状態からリアタイヤの摩擦円がフロントタイヤのそれに比べ小さな状態のクルマです。図で比べるとこんな感じ。
オーバーステアが出やすいクルマはフロントタイヤの摩擦円がリアに比べ大きいため、特にリアの加重が抜けて横GがかかるB~C区間でフロントタイヤのキャパを余してしまいます。
そのままの状態でステアリングを切り足すと(若しくは十分減速せずにオーバースピードで旋回すると)リアタイヤだけがキャパを超え荷重方向(Gセンサーの赤い点の方向)に引きずられ、ステアリングの切り角以上のヨーが発生(最悪スピン)します。これがクルマの特性に基づくオーバーステアです。普通は後輪駆動でしか起こらない現象ですね。
このようなクルマが
例のコーナーを普通にグリップ走行するとこんな流れになる筈です。
アンダーステアのコーナリングと比べてみるとわかりやすいかも知れません。
これらの図を眺める限りオーバーステア傾向のクルマは
リアの摩擦円の小ささが際立ってしまう前加重の状態で挙動が不安定ですが、ニュートラルステアやアンダーステアには無い強みもありそうです。というのもフロントタイヤの摩擦円が大きいため後ろ加重の状態で摩擦円のバランスが良く、
加速しながらもステアリング操作でどんどん曲がっていくことができる筈です。ジムカーナやヒルクライムのコーナリングといった限られたシチュエーションでは他のバランスのクルマには無いハンドリングを見せるのではないでしょうか。
ちなみに上記以外にもフェイントモーション、パワードリフト、サイドブレーキドリフト、クラッチキック、シフトロック等、意図的に後輪のグリップを切って誘発するオーバーステアはあります。D1ドライバー達がやっていることですね。しかしそれらは普通にグリップするタイヤを履いてサーキットでタイムを狙う走りとは異なりますのでここでは取り上げません。やりたいことがダートやジムカーナなら別ですが(笑)
話を戻すと前回投稿で触れたように、クルマは基本的に速度域が下がればアンダー傾向が強くなり、上がればオーバー傾向が強くなります。
そのため低速コーナーですらオーバーが出てしまうようなクルマで高速コーナーを走ろうとすると、簡単にテールスライドを起こすため非常に危険です。また、そうしたロスで一旦失った速度を取り戻すためにクルマが必要とする加速時間は低速域より高速域の方がずっと長い為、ラップタイム(=平均速度)的にも致命的です。これらの理由から、サーキットを走るようなクルマは少なくともアップダウンの無いドライの高速コーナーを、オーバーを出すことなく走れるように設計されるべきだと思います。それと今回ドリフトもお題目に入っているので付け加えると、路面のミューが低い場合又は装着タイヤのグリップが低い場合は単純に全ての摩擦円が小さくなるので、同様の現象がより低いスピードで発生します。F1でソフトとハードのタイヤ交換でクルマの挙動が変わるのはそういうことなのかも知れません。
以上の考察が正しければ、
オーバーが強いクルマと言っても
実際は全ての速度域でオーバーが出るクルマはなさそうです。なので、
オーバーが出やすいコーナーはどう走るべきか?という視点で考えた方が自然かも知れません。グリップ走行を基本とした場合、私が考え付くのは...
ブレーキングでは可能な限り長く直線に近いラインを確保する
前加重でのステア切り込みや横加重が残った状態でのブレーキングはゆっくり穏やかに行う
一定速度で旋回する区間を極力短くする
加速しながら旋回する区間を極力長く取る
といった感じでしょうか。 合ってますでしょうか?
さて、ここまでグリップ走行を基本として話してきましたが、その先のテクニックが無いか考えてみました。オーバーステアの場合は摩擦円が小さなリアタイヤへの加重を増やすテクニックがポイントになる筈です。そうこう考えるうちに四輪全てを適度に滑らせる四輪ドリフトの有効性に気がつきました。
四輪ドリフトの話をする前にまず、タイヤが最大グリップを発生するスリップ率について少し触れたく思います。
4輪全てのタイヤが発生できる有効摩擦を使い切るコーナリングが最も速いコーナリングであることは言うまでもありません。私は
Puhimaruさんのブログを読むまで知らなかったのですが(笑)タイヤは10~30%のスリップ率で滑っている状態で最も大きなグリップを発生するそうです。グラフではこんな感じ。ちなみにスリップ率0%はタイヤが路面を転がっている状態です。 テールスライドの“おつり”が思ったより大きかったりするのはこのためかも知れませんね?細かく言うと縦方向と横方向で最大グリップを発生するスリップ率は違うのですがここでは省略します(笑)
要するに
ある程度タイヤを滑らせながら走った方が大きなグリップが得られる=速いコーナリングスピードが得られるということです。そう聞くと
「それじゃどんなスキール音が出ている時が適度なスリップ率?」なんて気になりだしますよね(笑)でも私は、スリップ率が何%とか、ドライバーが実際の走りの中で把握し得ない話を持ち出しても仕方ないと思っています。
運転していればタイヤが滑っているかいないかくらいは感じ取れますが、その際のスリップ率を知る術などありません。タイヤの種類によっても内圧によっても路面によっても違ってくるでしょう。だとすればアマチュアレベルが特定のスリップ率を狙って走ることなど不可能ですから、難しいことは考えずに自分の五感を頼りに最大Gを探れば良いと思うのです。実際、適正なスリップ率の範囲で走っている限り大きなGの変化は無い筈ですから、ドライバーが滑り出しとグリップの低下を感じたということはその前から既に結構滑っている状態なのだと思います。だからドライバーは
「少しくらい滑らせてもタイヤのグリップは落ちない」程度に理解していれば良いのではないでしょうか。
さて前置きが長くなりましたが
「少しくらい滑らせても良い」という前提、つまりドリフトを否定せずにオーバー傾向のクルマのコーナリングを考えれば世界は少し広がります。もっとも私はドリフトを練習したことが無いので、ここから先はタラレバの世界ですが(笑)
例のコーナーのB区間(減速・切り込み)→C区間(一定速度の旋回)→D区間(コーナー脱出)での比較です。上が通常のグリップ走行で、下がイメージした理想のドリフト。
B区間でフロントタイヤのキャパを使い切るブレーキングと切り込みをすれば自ずとリアタイヤは流れ出します。リアが流れクルマの向きが進行方向に対し斜めになると、駆動輪がエンジントルクを進行方向に伝える効率が落ちるので、そこから先のC区間で同じ速度を保つためには自然とアクセルを深く踏むことになります(但し過剰なホイルスピンはNG)。結果、同じ旋回スピードでグリップ走行しているクルマと比較して余計にアクセルを踏むことになり、その分リアタイヤに加重が乗る。ネックだったリアの摩擦円が大きくなることでより速いコーナリングスピードが得られるようになる。この際リアを滑らせ過ぎないことを考慮してフロントの切り角(すべり具合)を合わせる。コーナー脱出ではエンジントルクを進行方向にロス無く伝えたいのでアクセルとステアリングでオーバーステア状態を徐々に収束する。 といった感じです。
これが決まったら快感でしょうね(笑)
ただ、根本的にリアが流れる際の駆動力のロスに勝てるエンジントルクが無いと話が成り立ちません。いくら頭の中で理想のドリフトを想い描いても路面ミューの高いサーキットでスピードが乗った状態では、図のような角度をつけた四輪ドリフトを実践することはまず難しいでしょう。
でもここが大事です。
速い人はグリップを最大限引き出せる人なわけですから、
実はごく小さな角度の四輪ドリフトをしながら、実は適切なスリップ率で走っている人なのだと思います。じゃないとボトムスピードに差が出ないですから。
難しいことは置いておいて、それをやっているドライバーとやっていないドライバーでは決定的に違うことがあります。それは上の図のGセンサーに着目すれば明らか。C区間でドライバー自身が感じているGの方向です。両者とも一定速度で旋回しているにも関わらず四輪ドリフト(=最大のグリップ力)で走っている人は、 こういう状態な筈。
①真横でなく斜め後ろにGを感じている。
②ほんの少しだけクルマがイン方向を向いている。
だからきっちり乗りこなすためにはそういう状態をイメージして走れば良い!
というのが感覚派の私が出した最終結論です。
最後にスピンについてちょっとだけ。FFを除外して考えれば、大抵のスピンは一度発生したヨーを収束するために必要な摩擦力を軽視し、リアタイヤのキャパを他のことに使い切ってしまうから起こる筈です。最初は色んな種類のスピンを取り上げてきっちり説明しようと思っていたのですが、結局どのパターンでもスピンしない為のコツは変わりそうもないのでやめることにしました。スピンしたくなければクルマという重量物がコーナーでは回転していることを肝に銘じ、少しでもステアリングを切った状態でのペダルの踏みすぎ・抜きすぎに気をつけるしかありません。鉄則は
「無理そうだったらがんばり過ぎない」でしょうか(笑)
今日のポイント
☆全ての速度域でオーバーが出るクルマは無い
☆オーバーステアが出やすい場所では前加重時の挙動に注意
☆旋回中は真横でなく斜め後ろにGを感じ、ほんの少しだけクルマがイン方向を向いている状態をイメージ
☆無理そうだったらがんばり過ぎない
以上で第六弾(オーバーステア・ドリフト・スピン編)終了です。
長々とお付き合いいただきありがとうございました。
次回シリーズ投稿のお題目は「加速重視のライン・突っ込み重視のライン」を予定しています。
仕事が極限状態になりそうなので少し先になりそうです(汗)
参考:
第一弾(最大の正円を描くラインに対する疑問)
第二弾(トレールブレーキに対する疑問)
第三弾(タイヤが発揮できる運動性能)
第四弾(クルマが発生できる運動(Gとヨー))
第五弾(アンダーステアが強いクルマの乗りこなし方)
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サーキット | クルマ
Posted at
2010/10/31 10:36:10