![理詰で考えるブレーキの話 理詰で考えるブレーキの話](https://cdn.snsimg.carview.co.jp/minkara/blog/000/033/347/870/33347870/p1m.jpg?ct=5f3b43f7db9d)
久しぶりに、ウンチクネタのブログでも書いてみます。
自分、基本理系人間なので、自然現象は基本理論的に説明できて、
自動車の運転も、あくまで、物理現象の連続で、その物理限界を超え
た加速も減速も、コーナリングもできないと考えて、運転しております。
(実際には科学的に証明できない現象もあることも確かですけど)
で、今回はブレーキのお話。
自動車の場合、自分の体重の何十倍もある重量を、自分の足では出せない速度から、人間の脚力だけで、
停止することなど物理的には不可能なことは少し考えればわかりますよね。
でも実際には特に気にすることも無く自動車を止められます。
これは、人間がペダルを踏む力をいろんな手段で、増幅してブレーキに伝達してすることができるようになった
ためで、通常これを意識してブレーキを掛けている人はほとんどいないでしょうね。
そこで、この力の増幅をどのように行っているのかというと、基本は「仕事量保存の法則」の基づいた方式が
取られています。
100kgのモノを1m持ち上げるのと、50kgのモノを2m持ち上げるときの仕事量は同じというやつで、
小さな力の分、ストロークを増やして対応する方法。
一般的なのは、支点から力点、作用点までの長さの比(レーバー比)による力の増幅となる「てこの原理」と、
「パスカルの原理」を用いたピストン面積比による(流体てこ)。
パスカルの原理
「密閉容器中の流体は、その容器の形に関係なく、ある一点に受けた単位面積当りの圧力をそのままの強さで、
流体の他のすべての部分に伝える。」
簡単に云うと、密閉容器内の圧力は一定というモノ
大きい方のピストン側の面積:A 作動ストローク:S 力:Fとし、小さい方の面積:a 作動ストローク:s 力:fとすると
パスカルの原理に基づき、その容器内の圧力:Pは一定
P=F/A=f/a となりここから
F=f*A/a という式が導き出されます。
小さい方に掛けられた力:fを、ピストン面積比:A/a倍に増幅して、大きい方に力を伝えられるというモノです。
このとき容器内の流体が液体などの非圧縮性流体で、容器の変形が無視できるものとすると、小さい方の
押し下げた体積:Vと大きい方の押し上げられた体積:Vは同じ。
V=a*s=A*S
s=S*A/a
となり、面積比:A/a倍ストロークが長くなるわけです。
おまけで、巷で言うエア噛み状態の場合。
気体は圧縮性流体のため、圧力をかけると体積が減少します。
これは
ボイルの法則 「温度一定で、一定量の気体の体積Vは圧力Pに反比例する。」
PV=一定というモノで、算出できます。
(ボイル・シャルルの法則 P*V/T=一定の方が正確ですが、温度は除外した方が簡単ですので)
エア噛み体積V、圧縮後の体積vとすると圧縮前の圧力は1気圧なので、
1*V=P*v P=f/a
v=V/P=V*a/f
体積変化は V-v=V-V*a/f となり、ストローク:s'は
s'=s+V/a-V/f = S*A/a+V/a-V/f
ということでストロークは伸びますが、同じ圧力が掛かり、大きい方には同じ力を伝えられます。
(但し、小さいピストンのストローク限界を超えて底付きする場合を除く)
同様に、シリンダーをつなぐ配管が圧力で膨張しても、ストローク限界に達しない限り、伝わる力は変化しません。
続いて、増幅した力が伝わる方のブレーキキャリパーですが、
模式的に片押し式キャリパーと、対向式キャリパーを書いてみました。
ここで問題です、ピストン1つのサイズ同一の場合、ブレーキラインに同じ圧力がかかっている時、
どちらのキャリパーの方が大きな力でブレーキディスクを挟み付けることができるでしょうか?
(ヒントはタイトル画像です)
正解は、越後製…
実は、どちらも同じなんですね。
(正確に云うとピストンよりシリンダーの方が少しだけ面積が大きいので、片押しキャリパーの方です)
ピストン面積:A 圧力:P として押し付け力:Fは F=P/A で
対向キャリパーの場合左右からFの力で挟み込むので、2*Fの力でブレーキを挟み込みます。
一方片押しキャリパーではピストンはFの力で、ブレーキに押し付けられ、同様にシリンダーにも反対方向に
Fの力が掛かります。
対向キャリパーはシリンダーが固定されているので、力が掛かっても動きませんが、片押しキャリパーは
ピンスライド機構で、反対側のパッドを押しつけますので、結果的に2*Fの力でブレーキを挟み込む訳です。
NSXユーザーが純正で十分というのは感覚的なものだけでなくこういった理屈からも説明できるわけです。
自動車のブレーキの模式図です。
ブレーキペダルを力:fで踏み込むと、まずはペダルがてこの原理で、支点-力点長:L、支点-作用点長:lとすると、
ブレーキマスターには、 f*L/l の力がかかります。
実際の自動車では、マスターシリンダの間にマスターバックというインマニ負圧を利用した増幅装置が付いていて、
さらに力を増幅していますが、これは今回は話がが更にややこしくなるので除外します。
ちなみに現在の車は、HVやアイドリングストップなどで、インマニ負圧が利用できない車が増えたため、
モーターや油圧ポンプを用いて電気制御でブレーキ力をコントロールされてます。
この力をブレーキマスター/キャリパーピストン面積比:A/aで増幅してた力:Fでブレーキパッドを押しつけます。
F=L/l*A/a*f
ブレーキパッドの摩擦係数:μとすると、ブレーキの発揮する摩擦力は
2*μ*F=
2*μ*L/l*A/a*f
![](https://cdn.snsimg.carview.co.jp/minkara/userstorage/000/016/342/060/9e76fda2f3.jpg)
タイヤの部分を見ると、ブレーキに掛かるトルク:Tと、タイヤにかかるトルク:Tは同一なので、
タイヤにかかるブレーキ力:FBは
T=FB*R=2*μ*F*r
FB=2*μ*r/R*A/a*L/l*f となります。
つまり、ブレーキペダルに掛ける力
fを変えずにブレーキ力を強化する方法は、
1.ブレーキパッドを交換して
μを上げる、
2.タイヤ外径を小さくして、ブレーキローター径を上げる、
r/R
3.ビックキャリパーに交換して、マスタを小径化する、
A/a
4.ブレーキペダルのレバー比を上げる。
L/l
1.は一般的で、各社からいろんなパッドが出てますので、好みと用途に合わせればいいわけです。
2.大径ホイール低扁平タイヤ化が進んできたのは、タイヤの外径を上げずになるべく大径のブレーキディスクを
収めるためで、コスト・ライフ度外視で強力なブレーキを使えれば、F1の様に小径大扁平タイヤの方がいいのですけどね。
3.ローターの接触幅に制限があるので、ピストンの大径化には限界があるので、ピストンを並べて数を増やす方法
が取られますが、数が増えるごとにキャリパーが大きくなり、片押し式では2ポッドを超えると歪による作動不良の
危険が増えるため、ピストン以外の可動部がない対向式のキャリパーしか選択できなくなります。
4.はレーシングカーでも無ければまず用いられないでしょう。
というわけで、ブレーキホースや、ブレーキフルードなんて換えてもブレーキ力強化にはなりません。
と、ここまでは
理屈上の話、上記の中で一番抜けている要素が、
時間の概念。
いくらブレーキ力を強化しても、パッドとローター以外はてこの原理を応用しているので、ストロークが延びる弊害を
抱えますし、タイヤのグリップ力を超え過ぎた強化はロックの危険性を高めるだけです。
エア噛みや、柔らかいブレーキホース、ダッシュロアパネルの変形、レバー比アップなどでのストロークの増加、
当然その分移動時間が必要になりますので、踏み始めからの空走距離は延びます。
人間は感覚の生き物で、ペダルタッチや、キックバック等の感覚情報をフィードバックして、行動していますので、
あまり増幅率を上げると、タッチが曖昧になり、キックバックも弱くなり、操作に対する反応も大雑把になりがちです。
(ブレーキやアクセルをスイッチだと思っている方にはその方が過度に反応しなくていいのかもしれませんが?)
繊細な操作を要求されるレーシングマシーンなどは、敢えて、増幅率やアシスト量を減らして行く、セッティングに
しているモノが多いのはそういった訳です。
チャンと止まれない車は走らない車の何万倍も危険な存在になりますので、見た目重視や、バランスの取れない
ブレーキ改造は危険が危なすぎるので、止めましょうね。
無駄に長いブログにお付き合い戴き、有難うございます。